永続狂気帝国。
この特異点において敵地の中心部にあるセプテムはいま。
「
空を疾る3色の流星、破壊の大王の進撃によって壊滅の危機に瀕していた。
「これは予想外だ────!」
空から地上へ。帝国内を風で切り払うように彼の宝具が唸る。一瞬の出来事は大地を砕く神の怒りの如く、天災はセイバー、カエサルを諸共消し飛ばした。
「無駄だ。どれだけ足掻こうと全て破壊する」
「………………」
月面のように荒れた帝国を見渡して、今しがた致命傷を手当てしたサーヴァントが破壊神の前に現れる。
その真名はロムルス・クィリヌス。セプテムの最強のサーヴァントは風前の灯となった霊気を引きずり、この特異点の過ちを正すために己が宝具を────
「お待ちなさい」
解放する直前、両者の刃が静止する。
足下の小石が自転するような不可思議さに首を傾げる。
破壊神と建国王の戦いに介入するには見栄えがなさすぎる、中背の老サーヴァント。彼は戦闘において間違いなく最下位争いをする、実に敗北し甲斐のある異物だ。
「お前は、なんだ」
魔力放出の一撃で消える霊気、この場の静寂を保てるのもあと数秒。
破壊神が言葉を投げたのはただの気まぐれだ。
次に発する言葉で判断が決まる。不可思議が他人事に変わるか、耳を傾ける価値を見出すかを。
「破壊とは刹那的なものだけにあらず」
「なんだ、意味が分からない」
「破壊とはなんだ。
世界を更地にすることか。それとも、自分の行い全てか」
問いに対する返答は剣を握ること。
即ち、老人の価値はなし。
高々と掲げた軍神の剣は容易く振り下ろされる。
「────満たされたくはないか、
「…………………………」
豪速の剣を、老人はたったの一声で止めた。
交差する視線。
1秒後、破壊神は結論を改めた。
「良いだろう。場を整えておけ」
「無論だ。………そちらは外だが?」
「破壊は止められない。これは私の
露払い程度でいまは済ましてやろう」
踵を返した破壊神は次の目標を見定めた。
既に老人の破壊は後回しになった。
利害の一致が真であるか確認するまで、落ちかけた帝国は彼女の眼中から消える。
「ふむ。おおかた、外をうろつくローマの敵将を狩り尽くすつもりだろう」
「………あの剣を御するというのか、
定々という、現実世界には存在しない英霊へ。
破壊の跡地、悠然と佇む老人に建国王は問う。
「いいえ。私はひと時だけの時間を稼いだに過ぎません。ロムルス王もご存知でしょう、彼女とローマの関係を」
「……………………アッティラ・ザ・フン」
アッティラの歴史を振り返る。調べる。
「なぜお前はあの剣を止められた?」
「簡単な話です。私は連合帝国の宰相。元より幕府の裏方で頭を捻っておりましたゆえ、他者の感情を宥めるのが得手なのです」
朗らかに、臆面に語る言葉を嘘だとロムルスは理解していた。
「…………赦す。ローマを手に入れるのだ、定々」
「お任せください」
然し、霊気に刻まれる狂気がそれを見逃す。
本来ならば即座に処断する場面だ。己が槍が1ミリも動かないほど壊れた想いを再認識して、途方に暮れる姿を押し殺して玉座へと戻る。
「…………
帝国連合の宰相、徳川 定々。
繁栄を促し城を護る。
彼ほどに帝国連合の意向を理解した宰相はいない。
歴史に名を残す皇帝は9割が退去した。
半分以上はアッティラとの戦闘によるもの。
「………否。それは道理ではない」
ロムルスは自らの愚痴を断じる。
玉座に座るだけの王になにが見えよう、と。
もう消える身体の首丈を掴み、空に消えゆく愚かな魂の結末を先送るように口を閉じた。
▼
煙る帝国の間を歩きながら、定々は散々たる様相を懐かしそうに見て回っていた。
壁面に張り付いた血液、地面に残る剣戟の痕。
ここは江戸とは違う異国なれど、戦禍を辿れば2つの国に違いなどまるでない。己の欲望のまま、手にした力を振り回す獣たちの群れがいる。
「首を狙う族も、美しい貌まで同じとはな」
「ハ…………ぁ。き、さま……皇帝じゃないな」
破壊の痕から這いずり出てきたサーヴァント。
白い装束は泥水と血液で着色され、使い古された雑巾のようにくたびれている。
彼女の真名は荊軻。
始皇帝暗殺を果たせず、その不死性を奪ったのちに死した者。連合帝国セプテムと敵対するローマ帝国の客将、アサシンのサーヴァントだ。
つい数刻前まで、セプテムの勢力を削るために遠征していたとき、破壊神の徒歩圏内に踏み入ったことで全ては終わってしまった。退くよりも早く軍神の剣が隊列をなぎ払い、圧倒的な火力を前にして。同行している別部隊の呂布、スパルタクスが足止めに入り、荊軻に最後の暗殺を託して退去した。
「どうだった、アッティラの剣は。太陽よりも神々しく、月よりも艶やかだったろう?」
託された使命を握ったとき、その身は満身創痍だった。
ローマに帰還できる者は1人いるか分からない。散らばった斥候たちの身を案じるまま、最後の魔力を振り絞り、暗殺も叶わない暗殺者は、真っ向から暗殺を仕掛けた。
「
距離十歩。
血切る想いを身体に乗せて進む。
生前、幾多もの障害に阻まれた暗殺を脳裏に過らせる。あの時といま、同じ距離でも致命傷だけを抱えた方が成功率は遥かに高い。
何故かと問われれば、サーヴァントだからと答えよう。この身が歴史を震え上がらせた証明だ。独りの苦痛など軽く洗い流してくれる。
距離二歩。
それは現れた。
赤眼と交差する。
あとは早業の独壇場。
疾る刃が暗殺者を断つ。
「ご───────!?」
再び、目の前の首を獲ること叶わず。
「ご苦労だったな、
これでローマ軍の暗殺者は全て殺した。
ロムルス王も安心して治療に専念できるだろう」
労いの言葉に無言を貫く。
荊軻の暗殺を阻止したアサシンは刃を仕舞う。彼の様子を見ながら、定々はまた歩き始めた。
徳川幕府第十三代征夷大将軍、徳川 定々。
空想の物語の悪党が特異点に乱入した。
本来立つべき宮廷魔術師の後釜として。
「だが…”狂気を失った”連合帝国では長く保たない。第5代ローマ皇帝を使うことになるだろう」
「────」
「分かっている。掛け違えた過去は清算しよう。
例え、ソラに刃を向けようとも……な」
ゆえに、変貌の影が落ちてくる。
破壊と陰謀が混ざり、正規を逸した。
徐々に…原点からのズレが浮かび上がる。
レフ・ライノールの離脱より、愛を込めて。