マシュ・キリエライトはカルデアに数あるプライベートルーム、そのうち一室を選び開け放つ。
「ドクタアアアアアア!!!」
「いやあああああああ!?!」
マシュの声に驚き叫び飛び跳ねひっくり返る男性。
手に持っているイチゴのショートケーキは決して落とさず、自ら先んじて床に背中から落ちた。
「急患です、診てください!」
「マママ、マシュ!?
急患って、その子かい!?見ない顔だけど…」
そんな彼への心配を後回しに、マシュは診察を急かす。
動揺しながらもケーキをテーブルに置き、楽しみを壊すことなく状況把握に努める。マシュが急かすほどの事態がよほど珍しくあったからだ。
「私はお母さんではありません!
この人は48番目のレイシフト適性者、藤丸 立香です!
つい先ほど、47番目のレイシフト適性者、坂田 銀時と入館しました!」
マシュは簡潔にことを伝えながら、藤丸を男性が座っていたベッドへと降ろす。
「それで、藤丸くんになにが起きたんだい?」
「はい。所長の逆鱗に触れて、魔術回路で強化された脚で顔面を轢かれました」
「うへぇ…想像できちゃうなぁ…。
まあ顔の形が変わってないから温情はあるか」
軽口を叩きながらテキパキと触診を行う。
慣れた手つきで数十秒。
「うん、症状がわかったよ。ただ寝てるだけだ」
「そ、そんな…。だって先輩は所長の飛び蹴りを受けて、そして…そして…先輩の先輩も踏まれていました」
右と左の人差し指を突かせ合い、やや赤面しながらマシュは状況を伝える。後出しではあるが、それはドクターと呼ばれる男の診察に不服があるからだ。
「えぇ!?そんなハードなプレ…っと、いけない」
ドクターは慌てて口を閉じる。
マシュ・キリエライトに不純な知識は極力与えないようにする。
「分かった、そこら辺も含めて見ておくから。マシュは今から特異点修復に行くんだろう?Aチームの君がいないと始まらないだろうからね」
「は、はい!それではドクター、先輩をよろしくお願いします!」
マシュは丁寧にお辞儀をして、慌ただしく去っていく。
見送ったドクターはドアが閉まるのを確認しておかしげに声を出す。
「……だ、そうだ。入館早々、とてつもない不運が重なったね、藤丸くん」
「たはは……。さっきまで眠くて眠くて。
その、白髪の女性は偉い人なんですか?」
「名前はオルガマリー・アニムスフィア。藤丸くんに分かりやすく彼女の評価を伝えるなら、社長令嬢かな」
「それは…とても厄介そうです」
「あははは!その反応分かる、分かりすぎて怖いよ!」
上半身を起こしながら藤丸はドクターの容姿を見る。
白衣を纏うポニーテールの優男。それが第一印象で、さらにマシュとの会話を聞いて人間性を読むと、誰とでも仲良く付き合える人間だった。
人懐っこい笑顔は警戒の類を不要とするほどで、カツアゲされる絵が似合いそうだ。
ボーッとそんなことを考えていると、ドクターの腕輪から音が鳴る。
「はい、ロマニです」
『私だ。マシュが到着次第、レイシフトを開始する。念のためにキミもこちらにきてくれたまえ。
医務室からなら2分もかからないだろう?』
「あ、あぁ…。分かったよ、レフ」
どうやら通信機器のようで、技術の発達が自分の知る一歩先を行っていた。
レフとは、先ほどのシルクハットの男性だろう。彼の言葉通りならここは医務室ということになってしまう。
「えっと、ここは医務室…には見えないです」
「ここは僕のサボり場なんだ。まあ、藤丸くんが来たから今日からキミの部屋になるんだけどね」
あっはは〜、と笑うドクター。
テーブルからコーヒーを手に取り優雅に飲み始める。
「いや、そうじゃなくて。早く行かないと間に合いませんよ?」
「大丈夫。ここからだとどう足掻いても5分はかかる!
だから敢えて自分を落ち着かせるために、いまこうしてコーヒーを飲んでいるのさ」
「手、震えてるじゃないですか…」
やや情けなく手を震わしながら、なおもドクターは笑顔を崩さない。目元は暗くなっているが、彼なりの強がりか。
そんな表情もすぐに元に戻り、ドクターはこちらへと向き直る。
「さて、行かないと。だけど自己紹介も無しなんて味気ないし、それくらい許されるさ。
僕はロマニ・アーキマン。カルデアの医療に携わっている。ロマニも、アーキマンも言いにくいのか、皆んなは僕のことをロマンと呼んでくれるよ」
「藤丸 立香です。えっと、高校生です…気づいたらここにいました。マシュは俺のことを先輩って呼ぶんですけど、会ったのは今日が初めてで…」
ずっと引っかかっていたことがある。
マシュ・キリエライトが自分を呼ぶときの呼称、先輩。
その言葉は指導を施される立場や、当人の実力を認めた者が慕うときに呼ぶもの。それなのに、マシュとは今日が初対面なのに先輩と呼ばれる。簡単に受け入れていいものなのか、気になっていたのだ。
「ふふ、先輩か。キミ、短期間でマシュと仲良くなれるなんて凄いことだぞ?」
「そ、そうなんですか?」
「あぁ。理由はあとで話そう。それじゃあ僕は───」
そのときだった。
照明が途切れ、大きな揺れを伴い異常を報せる。
「な、なんだ!?」
「揺れ…爆発音…!?」
人類を絶望に叩き落とす鐘がカルデアに轟いた。
▼
刻は数分遡る。
「くそ、あんな肌寒い廊下で寝たせいだ…。つか、いつからあそこで寝てたんだっけ?俺、直前までなにしてたんだ…」
銀時は相変わらず腹を鳴らしながら、トイレを探してヨタヨタと彷徨っていた。
活動限界にはまだ程遠い。だが、右手で腹部に触れて鎮めておかなければ、アレの脅威がいつ迫るか分からない。いたって真剣に、歩幅は小さく、等速直線運動を心がけて移動する。
「まじトイレどこだよ…。似たような扉ばっかで見つかんねーよ」
ふと、廊下の窓に視線を向ける。
3メートルはあろう大きな窓。汚れ一つない綺麗さから、手入れのこまめさがうかがえる。
坂田 銀時は大きな窓、高い天井に違和感を感じない。
それは本人が、そのくらいの高さなら必要な場所もあるだろう、と。天人を前提にした思考がどこかにあるからだ。
ただ、銀時はこの世界がなにか違う気がすると思っている。
自分の知る、天人が跋扈する江戸とはズレがあると。
そんなことを思慮の片隅に、次のドアを開ける。
「おいお前、ここでなにしてる!?」
この部屋は様々な機器が並び、グラフや数値でなにかを監視している。廊下にいない人間が多くいることを見て、この部屋は言ってしまえば心臓部だと知る。
「あれ、ここって指令室かなんかです?すいまっせん、トイレってどこですか。ナビお願いできます?」
「ここ中央管制室だから!トイレは反対側!」
「ご丁寧にどうも〜、お仕事頑張ってくださいね」
「アンタ邪魔しかしてないからな!?」
奥に浮かぶ球体に目もくれず、銀時は管制室にいるオルガマリーをチラリと見てそそくさと退散する。
ついさっき揉めたばかりだ、忙しいところを邪魔するわけにはいかない。
そんな銀時の判断は、管制室を訪れた時点で無意味だった。
「あんのクソ適性者め……」
ブチリ。
魔術回路の一本を焼き切る勢いで青筋を立てる。
彼女の苛立ちは留まるところを知らない。
坂田 銀時、藤丸 立香。二人の一般候補生に舐められたことが、アニムスフィア家当主としての誇りに傷をつけた。自分よりも劣る人種の反骨を魔術師として許せないのだ。
「一度泣かせてやろうかし、あうっ?!?」
しかし、それもまた唐突に訪れる。
オルガマリーの腸内で、アレが凄まじい勢いで稼働。まるで銀時の雷鳴に呼応するように、オルガマリーの腸内を襲った。
それとは、便意。
苛立ちとともに、数日ぶりの便意発生。
「あれ、所長どちらへ?」
「………新人指導よ」
じきにレイシフトしようという最中、責任者でもある彼女が現場を離れるなど…それもトイレになど威厳がない。そういった思考が彼女のなかにあるため、新人研修を装いドアへと向かう。
なお、腹部を右手で押さえながら。
「え、けどなんだか姿勢が低いですよ。
もしかして、うん──」
「も、元からよ。ぐっ……いいですかアナタたち!あのクソ天パをシバいて戻ってきたら……」
だが悲しき。
オルガマリーに便意を堪える忍耐力はない。
魔術師として修羅場を見てこようと、肉体を伴う修羅場など極少数。
「直ぐレイシフト出来るようしておきなしゃいっ!」
即座に駆け出し、ドアの向こうへと消えた。
「いやそこ
それも、中央管制室に勤務する職員のためのトイレに。
次の瞬間、中央管制室、そして目下のレイシフト適性者が入るコフィンは爆発とともに、赤く黒く変色していった。
カルデア爆発という名の音姫。
余計なことを書きまくるスタイル。
所々、場面を省いてます。
読者の皆さんは二次創作で沢山読んでるもんね?(オイ)
原作分岐点イベント
・坂田 銀時が管制室を訪れる。
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特異点が先だ!
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(両方)かまわん、やれ