fate/銀時も行くオーダー   作:ひとりのリク

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風呂で洗えるのは心と身体、それと思い出-後半-

 

まぶたの裏に白い手が浮かんでいる。

目を閉じているのに見える。避けようがないのに、銀時は必死に走って逃げ出した。耐えられるものならやっている。だが、本能が砕けてしまうのだ。生命にとって例外なく、これに勝つことは困難である。

 

「来るな………!」

 

侍の勇気を一瞬で押し潰す存在。

その名を────。

 

「起きな、ギン」

「ギャアアア!スタンド!」

 

気絶状態から起き上がり、一気に後ろへ飛び退く。

視界に映り込んだ白装束の女を”スタンド”と呼び、すぐさま逃げようとベソをかいて1秒。白装束の女の顔に心当たりがあると立ち止まった。

 

「…あれ、お前はレイか!?」

「良かった。忘れてたら思い出すまでおどかしてやったところさ」

 

ちびりかけた蛇口をやっと閉められる。上の方はダダ漏れだったが、レイと呼ばれた少女は黙っておくことにした。

 

「アンタだけなら兎も角、全員に気絶されると流石に申し訳なくなっちゃうね。アタシ、そんなに怖い?」

「こここ、怖くないよ?皆んな疲れてたからね。銀さん、レイシフト直後は眠くなるから、多分それかなあ」

「ああ、うん。まあそういうことにしとくさ」

「じゃなくて。なんでレイが……って、理由は1つか」

「そ。サーヴァントってやつ。元々は幽…スタンドだったけど、なんの因果かサーヴァントにクラスチェンジしちまった。

ギン、なにか知ってるかい?」

「いや、知らねえ」

 

銀時の返事に肩でため息を吐く。

 

改めて部屋を見回す。

元々、茂茂によってあてがわれた客室だった。立香たちも寝かされているから、レイが運んだことは容易に想像できた。

ふと、当然の疑問が湧いてくる。温泉があって、レイがいる。なら、当然居るであろうスタンド使いのことを。

 

「なあ、召喚されたのはお前だけか?」

「ふふ。私がいるのに、お岩も欲しいのかい?」

「誰がいるかってんだ。こちとら顔見るのも懲り懲…」

「若いくせにババアの陰口叩くなんざ、物好きなこった。そんなに暇なら手伝ってもらおうかね、仙望郷を」

「レイが居るんだから、そりゃお勤めですわな…お岩」

 

ベッドの傍らに現れた声に、糸に吊られるように肩を震わせる。視線を向けば、霊体化を解除したサーヴァント、お岩が銀時の反応に笑いながら手を叩いていた。

 

「あっははは、そう警戒しなさんな。

アンタと似たようなもんさ、寝て起きたら自分がスタンドになっちまってたよ」

「おお、お前たちと一緒にすんなよ!俺はちゃんと生きてるよ?世界が一巡しても銀さんのままだから!」

「誰がジョジ○の話って言った。スタンドになってようが別に些事さ。いま、ネロ皇帝の身に降りかかっている問題に比べたらね」

「ネロ?それって、いま行方不明になってる?」

 

レイとお岩が頷く。

 

「ここから先は全員に聞いてもらわないとね。

さあレイ、ギン。先ずは全員を起こすんだ!」

 

訳も分からないまま、銀時は朝焼けを後ろにして立香たちを起こし始めた。

 

 

───

 

──

 

 

 

場所は変わって皇帝用の大浴場。

玉座から徒歩3分の場所にあるのだから、ローマ皇帝たちが生粋の風呂好きと理解できる。

 

「銀さん。スタンドってなに。いきなり○ョジョっぽい作風になっても困るよ」

「スタンド。それは使用者の側に立つことから名付けられた生命エネルギー。もう1人の自分だ!」

「もう1人の自分……成る程、ジークフリートの力みたいなものか」

 

『止めて!このままだと多重クロスオーバーになっちゃうから!タイトルを”fate/銀時も行く奇妙な冒険”にしなきゃならない!』

『そういう問題で済むわけないだろ』

 

「それは後にしな。ちと困ったことになってね。さっき見ただろ、あの部屋に封じていたものを」

「………え。封じてた?ほわっつ、なにを?」

「皇帝さ。ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウス」

「「ええええええええ!?」」

「お岩さん、あの恐ろしい方がネロさんというのは……確かに暴君ネロという名は後世に残っていますけど。あれは人ではないものに見えました」

「そりゃ、サーヴァントを3騎も取り込んじゃってるもの。

ちょっとだけ人外に見えちまうさ」

「人外すぎません!?マジモンじゃないですか」

「3騎って、まさか…」

「そう、ブリーフ3さ」

「成る程、俺が英雄ジークフリートの心臓を移植してもらった時と似ている。それが3騎ともなれば暴走するのもおかしくはない」

「いや全然違うと思うよ?世界樹の葉と汚いブリーフを一緒にしたら流石のすまないさんも怒るって」

 

立香はしっかりとネロの全体を見ている。

爛れるように赤い瞳。背筋に滲み込む声音。なぜか身近に感じる雰囲気。事情はどうであれ、ベースが人間だとは思えなかった。

 

「破壊神の話は聞いたね。あいつが現れたのは1週間ほど前さ。まだ伊東先生が召喚される前、ヤツはローマ帝国に侵攻してきた。

その時戦ったのが元いたサーヴァント10騎とネロ皇帝。最初は皇帝も玉座にいたんだが、アタシらが押されてねぇ…堪らず応援に来なさった」

 

『えぇ!?その話は初耳だよ』

 

「茂茂公が代役になっちゃいるが、いまのローマ帝国を回しているのは半分以上が伊東先生さ。アタシが説明するからって黙っててもらったのよ。オバさん喋りたがりなの、ごめんね〜?」

「んで、ネロが返り討ちにあったわけか。

けどアレはどういう経緯で…」

「早とちりしちゃいけないよ。ネロ皇帝のお陰で1度目の破壊神襲撃は防いだんだからね」

「はあ!?皇帝つっても10代のガキだろ!?」

「本当だよ。ただ、その手段がまずかった。破壊神に対抗するには生身じゃ勝てない。そこでネロ皇帝はブリーフ3を取り込んだのさ」

あのバカども(ブリーフ3)ここで何してんの!?

つかネロ皇帝もスタンドなんで使いこなしてんだ!!」

 

背後に浮かび上がる、ネロの額に『3』の数字。

ついでに白化粧とくればイメージしやすいあの顔。

 

「ちょ、顔!皇帝というより閣下だこれーー!!

fateのヒロインにあるまじき閣下っぷりだよ!?」

「アタシも驚いたさ。ちょいと説明したスタンドを、当たり前のように使い熟すんだからね」

「やってることは格好良いのに絵面は最悪だ…」

「ネロ皇帝が取り込んだのは英霊化したブリーフ3だ。その負荷、影響力は常軌を逸している。破壊神を退けたあと、暴走し始めたところを茂茂公が落ち着かせたんだよ」

「そんなことが…」

 

爽やかに現れる茂茂だが、やはりブリーフであることに変わりはないようだ。もうそこは飽きたと銀時が結論を急かした。

 

「ブリーフ3を引きずり出せばいいのか?」

「試したけど分離は無理だった。どういう訳か、ネロ皇帝のナニかと癒着しちまってる。ブリーフ3を成仏させるしか方法はない。

英霊化したとはいえ、倒し方は一緒さ。この浴場はアタシたちの宝具で顕現させた仙望郷でね。

癒やしてあげればサーヴァントは例外なく成仏する」

「成仏ならお岩の専売特許だろ。なんでやらねーんだ」

「ヤツらを表に出す必要があるけど、そのためのマッサージに私とレイ2人がかりになる。

成仏まで手が回らないんだ」

「仙望郷で培った技術をローマ式に改良した。

これでネロ皇帝からブリーフ3を一時的に引き出す。成仏はギンたちに任せるよ」

 

そう言ってレイが布を被せた椅子を持ってきた。

ふぅ、と息を吐いて、勢いよく布を取り払うと。

 

「これもローマである」

「パドルパドル〜……」

 

自らを椅子と思い込んだロムルスが現れたではないか。

しかもネロ皇帝(闇落ち)を抱きかかえるサービス付きだ。

 

『これただの建国王ロムルスでしょうがアアアア!』

 

「ローマ皇帝なら、きっと感動ものの施しですね!」

「なんで当たり前のように建国の父を土台にしてんの。

なに、銀さんがおかしい?ジークどう思う??」

「早く終わ……本人が幸せならOKだ」

「よーし分かった、もう突っ込むのやーめた」

「細かいことは良いの。

ロムルス様だって納得してくれてるんだから」

 

やや眠たそうなジークに便乗して胡座をかく銀時。

どうせロクなことにならないとツッコミは諦めた。

 

「いいかい、ブリーフ3が出てきたら速攻で成仏させるんだ。やり方はアニメを観た通りさ。各々、気ィ引き締めな!」

「では、僭越ながら失礼します」

 

ネロの両腕をロムルス、両脚をお岩が抑える。

一同、意味不明の行動に首を傾げていると、レイの半透明な手がネロの身体をすり抜ける光景に唖然とした。

手の甲まですり抜けた次の瞬間、

 

「よっ」

「あぐおぁあっ!?」

 

レイの掛け声とともに、スヤスヤと寝ていたネロが言語化できない声で苦痛を訴え始めた。

 

「皇帝の身体すり抜けて心臓マッサージしてる!?

完全に○IO戦の息止め承太○じゃん!」

「天にも昇る気分だと評判なんだよ」

「天に召しかけてるだけだろうがっ!」

 

マッサージはマッサージでも、心臓マッサージ(止)。

そして、ネロは父の胸元で天寿を全うした。

 

『ま、まずい!ネロ皇帝の心拍数がゼロになった‼︎

このままじゃ僕らのせいで人理焼却されちゃう‼︎』

 

「急げ、心臓マッサージだ!まだ間に合う!」

「銀さん、私にお任せください!

こんなこともあろうかと、自動車教習所で心臓マッサージをマスターしておきましたから!」

「えっ、マシュ自動車免許持ってんの!?」

 

両手でマッサージの準備を整えて、マシュは宝具を展開せんとする気合いを両肩に込めた。

 

「ちょ、その気迫なんか違…」

「MT!!!」

「うごおっ!」

 

立香の問いに返事をしながらネロの心臓へ一撃。

その衝撃波で数メートル先の温泉が煽られて波を打った。

 

「マシュくん力加減って知ってる!?!?」

「ネロ皇帝から鈍い音がしたぞ……」

 

善意100%から繰り出される無数の心臓マッサージ。

可愛い顔してこの時代の皇帝に殺人級の無礼は止むことがない。慌てて止めに入ろうと銀時と立香が腕を伸ばしたとき。

 

「ちょ、苦しい!アンタら俺を殺す気か!?」

 

ネロの口から半透明の武人が飛び出してきた。

上半身裸、下半身ブリーフのみの彼は明智光秀。

ブリーフが綺麗な明智光秀だ。

 

「あっ!出てきた!光秀出てきた!どゆこと!?」

「良くやった!人間に憑いたサーヴァントを出すなら、本体を死に近づけた状態が最も剥がしやすいのさ。

剥がす手段が心臓マッサージなんだが…まさかこうも上手くやるとは。マシュ、アンタやるね!」

「そ、そうですか?…えへへ、ありがとうございます」

 

褒められて照れるマシュ。然し立香たちは絶対に受けたくないと心の中で思うのだった。

 

「よし、やれジーク!!」

「俺か!?分かった。癒せばいいんだったか。

光秀、すまない…!!」

「えっ、ちょなに!?裏切り!?」

 

銀時の号令で飛び出したジーク。

両腕を後ろポケットに回して、ある物を取り出した。

 

「あの…サインください」

「……えっ、俺のなんかで良いの?」

「あぁ、勿論だ。その名、確かに俺の心に刻み込まれている。貴方だから良いんだ」

「………こんな俺でも、こんな裏切り者の俺でも憧れになれたんだ────」

「良い名だ、バルムンク・フェザリオン」

「それ声優被りなだけエエエエエーー!」

 

『ええええええ!?有頂天から谷底に突き落としたよこのドラゴン!!人違いの羨望に光秀耐えられなかった!

これ、成仏っていうか…除霊の間違いでしょ!?!』

 

「すまない。バルムンクという響きが頭から離れなくて」

 

『光秀って呼んで思いっきり謝ってたよね!?

三日天下を濃縮再現してたよねェ!?』

 

電光石火の如き速さで明智光秀が成仏した。

生半可に銀時から知識を入れられたことが災いした。

 

「なんという手際の良さ……!

アンタ、うちに来ないかい」

「て、照れるな……だが俺には使命がある。すまない」

 

断られて肩を落とすお岩。

 

「よし、もう一回だマシュ」

「怒っ!」

 

『ねえ!?さっきから女の子が出しちゃいけない声出してるよ!ていうか威力もっと抑えて!?』

 

マシュの追撃により、次のブリーフが飛び出してきた。

○ン筋の付いたブリーフ、豊臣秀吉である。

 

「よし来た、次は秀吉だ」

「銀さん、次は俺が行く」

 

右腕をぐるぐる回しながら立香が出陣する。

秀吉はネロの顔に座って猛抗議に出た。

 

「あーっ!ワシ見てたからな!どうせマヨリーンとか言うんだろ?声優違いで成仏させられると思うでないぞ!」

「そのパンツ綺麗ですね!」

「ほああああああああああああああ!!!」

 

『1発で逝ったアアアア!?どんだけ嬉しかったんだ、パンツ綺麗ってよっぽど褒めるところ無かったときにしか出てこないよね!?』

『あれネロ皇帝のパンツ褒めただけで、秀吉のブリーフは○ン筋ついてたけどね…』

 

「流石だな」

「いぇ〜い」

 

ハイタッチするジークと立香。

そして、残すは織田信長となった。

 

「ラスト!行けマシュ!」

「阿ッ!!」

 

『だから掛け声ェ!!』

 

マシュが最後の心臓マッサージを開始する。

あとひと息、ネロの復活も目前で安心している銀時の背中に声がかけられた。

 

「次で最後か。なら俺にも手伝わせてくれよ」

「おう、いいぜ。頼むわ」

 

軽く返事をしたとき、ネロの口からまげが出てくるのを確認した。そこで漸く、耳が違和感に追いつく。ジークも、立香も前にいて、マシュとお岩、レイは心臓マッサージに専念している。

 

「……つかお前、誰?」

 

振り向いて、視線が合ったのは全く見知らぬ男。

ひと目見て理解したのは、この男が日本のサーヴァントだということくらいなものだ。

 

「えええええええ!?」

「なんだ、どうした!」

 

立香の叫び声で視線を戻す。

ネロの口から飛び出しているのは織田信長ではなく…。

 

「なんかネロ皇帝から将軍出てきた!

これ将軍の失われた記憶じゃない!?」

 

白目を剥いて、半透明のスタンドと化した茂茂だった。

記憶が失われた理由にしても、なぜネロのなかに入っているのか。皆目見当も付かないが、成仏だけはダメだと分かる。

 

「銀さん、これどうしよ───」

「おっし、俺に任せとけ!!!」

 

戻すことを選んだ銀時の声をかき消して、男が十手を片手に飛び出していた。

瞳に灯る殺意を見て、銀時の身体は勝手に反応していた。

 

「!?!?」

 

茂茂に躊躇いなく直進する十手。一手遅れてマシュは立香を庇い、男の侵攻を止めに入った。

盾は間に合わない。徒手で対峙することになるが、盾のない接近戦は銀時によって師事されている。

 

「はっ、甘いぜ」

「そんなっ!?」

 

一瞬だった。十手を落とそうと腕を掴んだ瞬間、マシュの身体は地面に転がっていた。そのまま、男の十手は茂茂に突き刺さり────。

 

「てめぇ、なにしやがんだ!」

 

銀時の木刀によって阻まれる。

全力で踏ん張る銀時を押し込みながら、男は十手を突き出して笑う。

 

「ここは銭湯。身体と心を癒す水の都よォ。

水場に霊が居たとあっちゃ休めやしねぇ。

おら、退きな兄いちゃん?怪我じゃ済まねえぞ」

「退くのはお前だ」

 

魔力を纏った竜の剣が振り抜かれる。剣の軌道に熱量を加えたジークの攻撃だが、大袈裟に躱して距離を置く。

いきなり現れて中央突破の立ち回り。

ただ肝が据わっただけでは出来ない芸当。

 

「なんのつもりだい、辰五郎」

「辰五郎だと?」

 

ネロから離れたお岩が、ふざけた男の真名を口にする。

銀時の記憶は一瞬でその名前に該当する人物を呼び出した。

 

「お岩、ばらすの早いって。たく、しょうがねえ。

俺は寺田 辰五郎。ただの口煩い裁定者(おかっぴき)さ」

 

銀時が住処にしている万事屋の家主にして、命の恩人。

お登勢の旦那、その人である。

 

 

 

 

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