fate/銀時も行くオーダー   作:ひとりのリク

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乱入者の軌跡

 

 

立香たちカルデアの目的はローマ帝国に発生した特異点の原因を解明し、これの修復にある。

連合帝国などという歴史にない帝国が誕生し、ローマ帝国を侵攻している。更には帝国でありながら首魁は徳川家の前々代将軍、徳川 定々だ。疑う余地もなく、このサーヴァントを打倒し、ローマ帝国を守ることがカルデアの目標となった特異点で、異常事態が続出する。

 

徳川定々の君臨。

破壊神のサーヴァント粛清。

徳川 茂茂の記憶喪失。

第5代ローマ皇帝ネロ・クラウディウスの失踪。

そして────。

 

「なんのつもりだ」

「そりゃおめぇ、将軍を()るためさ」

 

江戸の守護者、寺田 辰五郎の将軍暗殺未遂。

岡っ引き、それは悪人を逮捕する立場の人間であり、決して悪戯に命を狙う者に務まらない役目である。

 

『寺田 辰五郎と言いましたね。なぜ裁定者(ルーラー)が人理焼却に加担しているんですか?』

 

「カルデアの連中か?俺は人理焼却にゃ反対よ?

俺たち()()()()()が手ェ出すのは悪いヤツだけさ」

「なにが正義の味方だ、答えになってねぇよ。ここで将軍暗殺して何が解決するってんだ。説明しろよ、3行で」

 

銀時は純度満点の殺意を込めて言葉を促す。

自身の木刀は既に限界まで引き絞っている。

返答、一挙手で次の行動を見破り、心臓を貫く準備を整えた。

 

「第5代皇帝も目覚めてないか」

 

辰五郎の返答はまるで銀時を意に介さないもの。無視に等しい態度を取った最初の言葉で、銀時の木刀は辰五郎の心臓に突き出していた。

 

「一気に2…いや、3人の首を獲るのも悪くねぇな」

「マスタ………」

 

この場で最も先頭経験のある侍の先制を、辰五郎は道端の小石に向ける感情で避ける。

ジークが駆け始めるが1秒遅い。

2人が交えるのは一瞬の差し合い。意識の隅で捉えられたところで、着いてくることは不可能。ジークが不幸なことはこれに加えて、辰五郎の十手が銀時の腹に刺さるのを見ているしかないことだった。

 

「…………………お岩!?」

 

辰五郎のセリフが宙空の風に変わる。

銀時が立っていた場所を横取りし、躾をするように笑顔で拳を振り抜いた女が1人。

電光石火の間に入り込む人外の業に、銀時ですら喉を鳴らすほど壮大な景色であった。吹き飛んだ辰五郎は大理石に減り込んでいる。

 

「ここが風呂屋と知っての狼藉とは、岡っ引きも廃れたもんだ。うちの客に手、出すなら俺が黙ってねぇぜ」

「お前はタゴサクか!?」

 

宿屋を営むのに適した番頭の姿で、サーヴァント1人を吹き飛ばす破壊力を持つ女将…いや、大将。

バーサーカー、タゴサク。お岩のスタンドにして、サーヴァントとして独立も可能な仙望郷の主。サーヴァントとなり現界したことで、お岩と身体を入れ替えての行動も出来るようになっている。

 

「あの時は世話になったな、ギン。

狂化を抑えるために引っ込んでたが…ちと面倒なことになった。ギン、ちょいとネロ皇帝を頼むわ」

「おい、話が見えねえって………あれ」

 

あらゆる無念を受け入れてきた者らしく、朗らかな笑顔を向けるタゴサク。彼に託された言葉とともに、銀時の側でしなだれていた茂茂の身体が起き上がる。

銀時が気づいたとき、茂茂の両腕が銀時の魂を掴んでネロの身体に引きこもってしまった。

 

「銀さん!?え、なんか今、将軍起きてなかった!?」

「あぁ、俺にもそう見えた。マスターの脈がない……」

 

『本当だ…こっちも銀時君の心拍数が0になってる。

ど、どうする!?あっ、こんな時こそ心臓マッサージを』

 

「落ち着け、ドクター。マスターが本当に死んでいたら俺の方で分かる。まだマスターとの繋がりは切れていない。

これは…仮死状態じゃないか?」

「その通りだ。ギンはネロ皇帝の中に入って信長たちを成仏させている。それが終わるまで、私たちは2人を守らなきゃならない」

 

『銀時君の不意打ちが通じなかったのは驚いたが…。相手はサーヴァント、人と英霊じゃ仕方ない。

落ち着いて、皆んな。現状、こちらは3騎。

敵はダメージを負ったルーラー1騎。防衛はそう難しいことじゃないよ』

 

盾を構えてダ・ヴィンチの言葉にマシュは頷く。然し、内面では慰め程度の意味だと理解していた。辰五郎が銀時の不意打ちを躱したとき、マシュとジークは反応が二手以上遅れている。

タゴサクの桁外れた反射神経が無ければ……。

 

(その先は考えても始まらない。

頭は戦闘に切り替えました。言い訳はなしです)

 

意識を浴場全体に向ける。

大理石から抜け出した辰五郎にタゴサクは追撃しない。油断している姿勢に見えて、彼の視線はずっとタゴサクを捉えている。

 

「まあ待てよ、いがみ合ったのは生前だろ。

いまは大切な仕事中なんだ、場所は弁えようぜ」

「どこのルールに則ってるかは聞きゃせん。

だから俺は、お岩が信じるヤツらを守るだけさ」

 

マシュとジークに意識がいかずとも、2人の奇襲は成功しない。何故かと聞かれれば、出力の差とでも答えるだろう。タゴサクの一撃は立香の強化を受けたマシュよりも強い。それを受けて立ち上がれる時点で不利。

奇襲に成功しても、一撃で霊気を砕けなければ反撃を受けて敗北する。やはり、守りに専念するしか手はない。

 

「くっそー。生前から俺に厳しすぎるだろ。

ちっ、下手こいちまったな。

時間制限を設けやがるから焦っちまった」

「なんの話だ?」

 

ぐるりと現状の最適解を整理したマシュは、辰五郎が陽気に外を眺めるさまを見て逡巡する。

 

(なにかを待っている?……それも、すぐ)

 

『気を付けて!物凄い勢いで宝具級の魔力が飛んでくる!

方角は────』

 

ロマンの声よりも先に、マシュは大盾を握りしめていた。なにかが近づいてくるのを知れたのは、辰五郎が嘆いたおかげだ。

 

「3時の方向だ!」

「はいっ!!!」

 

そして、視線を向けた方向だと伝える立香と同意見のもと。見えない敵に向かって魔力を大盾に集中させて飛び出した。

 

『向かって右から…って早っ!?』

 

大盾が立香の前に聳え立った瞬間、大浴場の外壁がポップコーンのように弾け飛ぶ。味付けは3色に塗られた破壊衝動。不躾な謁見によって呑み込まれるはずの者たちは、未来を生きる大盾を支える理由となった。

大盾を穿たんと奔る空腹の唄。呼吸と同じ行動理由で大口を開ける衝動に、大盾が一歩後退する。宝具が間に合わなかった自分の落ち度だ、嘆く暇が惜しいと歯を食いしばって二歩後退してしまい────

 

「ぐ、ぅ……」

「マシュ!!」

 

負けそうな温度に手を伸ばし、すぐに決意を温める手のひら。立香がマシュの背中を支えて、消し飛びかけた思考が急発進した。

 

(真正面でダメなら…!)

 

大盾に真正面から衝突する衝動には付き合いきれない。手荒で無礼な挨拶に、大盾の下から蹴り上げて応えた。

 

『勢いを斜め後ろに逸らした!上手いぞマシュ!』

 

軌道を大きく逸れた3色の路。

そのまま離れてくれれば助かるが、無論それはあり得ない。やがてその軌道は上空に反れて、反れて………大袈裟なカーブを描いて1秒、この大浴場にいる辰五郎の真横に着陸した。

 

「時間だ。どうやら暗殺は失敗のようだな」

 

石造りの浴場を踏み荒らして、砂煙と蒸気を退ける。

生命なきモノたちを慄かせ、破壊神は畏怖を体現した。

 

「ああ、まだ2人とも生きてる。

ちょいと予定はズレるが…付き合ってくれ」

「お前の事情に付き合うつもりはない。

私はただ、全てをこの剣に(あずけ)るだけだ」

 

この浴場において、最も肌を露出させ、最も礼節を弁えたように振る舞う女性。マシュよりも細い肢体、太陽よりも煌めく顔立ちでありながら、立香は欠片の情も湧かなかった。

 

「か、彼女は……」

「アッティラ・ザ・フン。よく会話に出る破壊神だ」

 

誰もが理解している答え。

敢えて口にして、答えてくれたのはロムルス。彼が答えてくれなければ、理解できずに動いていたかもしれない。

破壊神の真名、アッティラ。彼女はいま、辰五郎を殺すかどうかで逡巡した。瞳が辰五郎を捉えたとき、少なくとも立香は死んだと錯覚したのだ。

 

『なっ………!3度目の襲撃!?

あまりにも脈絡が無さすぎる!気まぐれか!?』

 

(気まぐれ……?

そうか、彼女の意思は気まぐれなんだ)

 

分からないこと尽くめの立香でも、彼女が退屈していることを感じ取った。いま辰五郎を殺さないのは少しだけ興味を思い出したから……その程度の情で動いている。

 

「その名は好かない。私の名はアルテラ」

 

いま、彼女に勝つのは不可能に近い。圧倒的に火力が足りず、守ることに注力しなければならない今、狙うべきは撤退だ。

もし、アルテラと名乗った彼女を少しでも満足させることができれば…。破壊意欲を煽ってやればヒートアップする。そこに冷や水を頭からぶっ掛けて、気まぐれが後ろに向くことに賭けるしかない。

 

(本当にそんな無茶、出来るのか…?)

 

確証がない論理に喉が詰まる。

 

「先輩、どうしましたか」

「…………っ」

 

逆鱗に触れでもしたら取り返しがつかなくなる。急遽組み上げたものを伝えて、場を混乱させたら…。

 

「カルデアよ。即ちローマよ。

安心せよ、ローマ()がいる限り未来は続く」

「────ありがとう」

 

立香の背中を押す、太陽の匂いがする手のひら。

後ろを見上げれば、眠る2人を抱えるロムルスが微笑みかけていた。いま立香を肯定するのはローマの歴史。建国王の言葉により、自分を見失うこともなくなった。

 

「マシュ、ジークと一緒にアルテラを抑えるよ」

「はいっ!」

「了解した」

 

また1つ強くなれた気がする。

もちろん、ここで生きなきゃ証明もできない。

 

「お前たちの文明を破壊する」

 

会話が終わり、静寂の始まりが合図となる。

動き出す破壊神と対峙して、絶対に壊れない礎は輝き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よォ信長。お前、”ぐだぐだ本能寺”で主役なんだって?あっちでp○koがお前のこと描きたそうにしてたよ」

「うっそまじで!!??

あらやだ、還って支度しなくちゃ!!」

 

銀時のリソースなき言葉で舞い上がる最後のブリーフ3、織田信長は意気揚々と成仏した。

無論、イラスト化など夢のまた夢である。

だが、ブリーフに手間を取るわけにはいかなかった。

 

「やっとこさ話が出来るな、将軍様」

 

ここは泡沫の空想世界。

立てば徐々に自意識と結合していく場所。

夢を騙るには思い込みやすい黒々とした空、雲のように揺蕩う赤い芸術たち、そして持ち主の情景を慈しむ男1人。

 

「彼らには悪いことをしたな。あとで謝らねば…。

然し、いまは時間がない。

先ずは外の状況を教えてはくれないか」

 

徳川 茂茂は懐かしんだ声で訪問者を迎え入れた。

 

 

───

 

──

 

 

 

「別世界の我々がなぜ居るのかは検討もつかない」

「だよなぁ。全員そんな返事だ、気にすんな」

 

茂茂にことのあらましを説明し終えて、一先ず知りたかった疑問に対する応えは空振りで終わる。

 

「気になるのは、オルレアンとローマでは我々の世界のサーヴァントの数が違いすぎるところか…。

ローマでは少なくとも7騎だ。オルレアンが1騎だけとは偏りが過ぎる」

「………確かに。いや、そもそもアンタらが呼ばれたのって自分の意思なの?」

「それも分からぬ。気づけば召喚されていた。少なくとも伊東や平賀源外たちはそうだ」

「なんだ、自分の意思で来れるやつもいるのかよ」

「確証はないが、叔父上はそれに近い」

 

茂茂の返事には理由もなく銀時は納得していた。

人に化けた獣物。アレが人類側とそうでない側、どちらに立つかなど明白だ。超法規的組織があるのなら、定々はその組織に属し、自分色に染めていっても不思議ではない。

 

定々とは正反対の男…地雷亜を思い出す。

”巢”にかかるものはなかった。

地雷亜は最期にそう言い残した。

最初から目的があってオルレアンに来たように……。

 

「地雷亜のやつ、なにを待っていやがった…」

「或いは()()()()姿()()()()()()()()可能性もある」

 

疑問に茂茂は付け加える。

まるで答えを知っているように。然し、核心に触れることを避けた言葉選び。追求したい気持ちに駆られる銀時を見て、逸らすように茂茂は話を戻した。

 

「余は元々、叔父上の駒として持ち出された。サーヴァントという性質上、江戸城を造るのは叔父上では遠く及ばなかったからだろう。

この霊気ならば江戸の政を再現できる。そう勘違いをしているんだ」

「江戸を再現?それがヤツの目的だっていうのかよ」

「あぁ、間違いない。連合帝国を裏で操り、瓦解したローマ帝国に江戸を咲かせる。徳川茂茂の霊気を種子に変え、特異点に新たな江戸を建築することが定々の目的なのだ」

「諦めが悪いにも程があんだろ。よく逃げてこれたな」

「叔父上の目的を見抜いた皇帝のおかげだ。定々の目を盗み、余を逃してくれた。

ローマを任せる……その言葉を余に託して、いまも連合帝国に残っている」

「一緒に逃げなかったのか?」

()()()()が残ると言ったのだ。無粋な真似は出来なかった。()()()()()()彼に託して、そしてローマへとたどり着いた。

あとは知っての通り、破壊神が立ち去った跡のネロ皇帝を見つけた。傷口は酷く、手当てでは間に合わんほどだ…そこで余の霊気を半分ほど埋め込んだ」

「…………はあ!?」

 

会話を中断する叫声。

茂茂はサーヴァントだ。ブリーフ3の件でサーヴァントの霊気を人間が取り込むことの危険性は知っている。

 

「ネロ皇帝を助けるにはこれしか方法がなかった…。

胸の刺し傷を塞げたが、ネロ皇帝は暴走し始めた。止めるため、余の意識をネロ皇帝の内側に移すことで暴走を止めた代わりに、余の身体は記憶を失っている」

「それでブリーフ一丁で駆け回る将軍の誕生ってわけか。

……やっぱり影武者じゃないのね、アレ」

「あぁ、()()()()()()()()

あの身体はただ記憶を無くしただけの余だ。

仙望郷で湯治を受け、今日に至る。お岩のお陰でネロ皇帝の身体は万全となった。これでローマ市民に胸を張って姿を見せられる」

「…………戻らないのか」

「あぁ。力を使い果たしてしまった。

生命を繋げる大役を成し遂げて、余は満足だ」

 

瞳を真っ直ぐに笑う茂茂。

霊気を再び身体へ移そうとする負荷は計り知れない。そんな理由を語らずとも、茂茂の決意を見て口を挟むのは野暮なことを理解していた。

茂茂の言葉を聞いて、彼の意思が残っていることも知ったのだ。あとは流れに身を任せ、変えたい時に気に食わないところを壊すだけ。

 

「んじゃ、もう行くわ。あいつら待ってるから」

「待て。言い忘れていたことがある」

 

立ち上がり、背伸びをする侍の背中を呼び止めて。

 

「其方たちの敵は1つだけではない」

「……………そりゃどういうことだ」

 

特大の爆弾を伝えてきた。

 

「人理焼却に加担する者がいる。彼女たちは先手を打ち、其方らの往く道を塞いでこよう。この特異点もそうだったように、7つの特異点で凡ゆる妨害に遭うだろう。

常に詰めを狙って動いてくる。どうか心してほしい。

いま伝えられるのは…余に許されるのはここまでだ」

 

問い詰めようとした口を閉じる。

茂茂の瞳がやめてほしいと願っていたから。

その意味に触れることを銀時は躊躇ってしまった。

 

「ネロ皇帝。どうか未来を宜しく頼む」

 

そして、真打ちの覚醒を促した茂茂。

いつから居たのか、それは暗がりの向こうから燦然と輝く足音を鳴らして現れた。

 

「────うむ、余に任せるがよい!」

 

ネロ・クラウディウス、ここに帰還を果たす。

 

 

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