それは一瞬の虚が生んだ産物だった。
ネロから一度は撤退したこと。致命傷も見当たらず、宝具を止められたこと。
この2つによってアルテラの意識を拐ったことが、マシュの突撃成功の要因であった。
『えええっ!?ちょ、ネロ皇帝復活!?銀時君さすが!
それにマシュもアルテラを沈めるなんて凄いぞ!!
………えっ、本当に?』
『目まぐるしく状況変わるからってバグるな。
破壊神アルテラ、沈黙を確認。残すは寺田 辰五郎だ』
マシュの容赦なき一撃で破壊神を撃破したことにロマニの脳みそはパンクしている。
対照的に銀時は押し殺した笑みを浮かべた。突貫してきたラスボス風の敵を返り討ちにして喜ぶ立香とマシュを見て、懐かしい思い出が過ぎったからだ。
「おいおい、アンタの連れ大物ぶって出てきたクセにやられてん…ぞ?」
目の前にいるはずよ辰五郎の姿がない。たったいま話しかけたはずが、スタンドの如く消えたことで驚愕に目を開く。
「あ〜らら、派手にやられたな。
お宅ら強いわ。俺が見誤っちまったよ」
表情が曇る2人の後方、倒れたアルテラのもとに辰五郎はいた。立香たちの緊張感も元に戻っている。
「いつの間に移動しやがった?」
「分からない。辰五郎の動きじゃねえよ。
なにか別のサーヴァントを取り込んでやがる」
「合体ってことか?おいおい、序盤からインフレとか打ち切り臭しかしないんだけど」
軽口を叩くが余裕はない。
さっきまで2人がかりで辰五郎を圧していたのは、手を抜かれていたと知ったのだ。あの速さ……いや、跳躍と言うべき能力。似たことをする人物を銀時は知っている。
恩師の姿をした彼を。
(………違う。あれは、ヤツとは別物だ)
脳髄に走る痛みを抑える。
気づけば辰五郎はアルテラを抱えていた。
考え事をしているうちに逃がしては、せっかく倒した破壊神が復活してしまう。
「ま、良い経験だろ。たまには負けねーと今みたいに驕り高ぶるからな。ケンカは勝つだけじゃつまんねえ。
つーわけで、今回は俺たちの負けだ」
踏み込めず様子見に徹していた立香たちに言い放つ。
するとダ・ヴィンチが耳元にモニターを映す。
『銀時君、ここは抑えてくれ。彼は撤退する気だ。
あの動き、全員で取り囲んでも捕まえる保証がない』
「…………分かった」
頷いた。頷くしかなかった。
いま背中を向けて立ち去ろうとしている男から、やっと殺気が溢れている。明確に追うなと伝えているのだ。そうまでして、ヤツはアルテラになにを教えようとしたのか。
「アンタ、またお登勢を残して行くつもりかい」
1つの疑問を考えるために口を閉じたとき。
タゴサクと霊気を入れ替えたお岩が、辰五郎の表情を歪める言葉を投げかけた。
「……お前のそういう所が嫌いなんだよ」
「そうか?俺は好きだぜ。どんな想いでお岩が言葉掛けたか、手に取るように分かる。
ヒーローごっこでせっかくの機会、ぶっ潰すつもりか」
吐き捨てる言葉に反応したのはタゴサク。
スタンドよりも素早く身体を容赦ごと入れ替えて、辰五郎に厳しく答えた。
「はっ。今は無いだけだ。いずれ手にしてやるさ」
笑って言い返す。無いという理由も、手に入れる手段も全く想像がつかない。だが、なにか方法はあるらしい。
匂わせる言葉選びをする辰五郎に一歩踏み込んで、ネロ皇帝は愛剣を向けて目を見開いた。
「お登勢とは貴様の愛する者か。ならば余は……たわけ!と貴様を罵ろう。会うのが怖いようにしか見えぬぞ。
未来の男はこうも性根が不甲斐ないとは、嫁も愛想を尽かそうて」
「…………」
そして、剣を振り抜く。
感情のままに円弧を描くと、薔薇と炎の魔力を放って2人に迫る。辰五郎はあっさり避けると、
「1つだけ忠告しといてやる。茂茂公はローマ帝国から出すな。次、定々に捕まったら負けるぜ」
崩れた大浴場の壁際、敗者の義務と言わんばかりの助言を残して立ち去った。
ロマニとダ・ヴィンチが2人の逃亡を確認して、漸く大浴場の防衛戦は幕を閉じるのだった。
「皆の者、大義であった。余の不在中、よくぞローマ帝国を守ってくれたな。盛大に歓迎するぞ!!」
ブリーフにローマ帝国を乗っ取られたことにネロが気付くのは、もう少しあとのことだったりする。
〜前半終了〜
▼
そうして本来の目的を果たせないまま、辰五郎はアルテラを抱えて帰路に着いた。
向かう先は宵闇の帝国、未完成の江戸牢城。
「………なわけにもいかねーや」
連合帝国壊滅のいま、あそこを支配する男の元に滞在するのはネギを背負った鴨と同じ行い。打つ手を誤れば即詰みの特異点がここ、ローマなのだと辰五郎は知っている。
辰五郎の所属は置いておくとして、快復したアルテラでなければ定々の元には帰せない。残念だが、いまの辰五郎にその手段はない。
「はぁ…。いっそ、殺るか────」
逡巡一瞬、腰に手を伸ばして。
「その必要はないぞ、辰五郎」
平原のど真ん中で、下劣な言葉は降された。
辰五郎が振り向くと、城に籠もっているはずのサーヴァント、徳川 定々が佇んでいる。
「おおっと、将軍様が自らお出迎えとは何事で?」
「なに、私の大事な兵が不躾な男に拐かされたと聞いてな。こうして取り戻さんと立ち上がったのだ」
定々の朗らかな微笑みを見て、吐き気を催すが内側で押し殺す。生粋の悪から逃げることだけしか考えられない現状に嫌気が差したせいだ。
だが、仕方がない。定々さえ殺せば、あとのことは後続がどうにかしてくれるから。
「アッティラに貸した霊気分の働きをして貰わねばならん。それを拒むというのなら、貴様が立て替えるのが筋だ」
「へぇ、おいくらだ?
QP稼いでくっから、値段を教えてくれよ」
「なに、そう高いものじゃない」
滲み出る殺意から飛び退く。
「その霊気、城に捧げろとは言わん。死ね」
刹那、世界に零れ落ちたのは城下町の風景。
心臓が鳴り止む。己が護るべき場所を見せられて、身体が錯覚したのだ。本来の使命を成し遂げた、と。
きっと、この道を真っ直ぐに歩けば…馴染んだ店が見えてくる。あの暖簾を潜って、ふざけた世界から先に降りよう────。
(大馬鹿者が)
無力になる直前、内側の霊気が暴れた。
主に、辰五郎の頬を殴り、脛を蹴った。
「────っぶねぇ!」
定まらない意識ではあるが、偽りの町から帰還する。
そして悲報を受け止めた。定々の宝具は完成間近にあり、本人は不死に限りなく近づいてしまった。
「くそっ!仕方ねえ、ここで
このままでは倒すことが不可能になる。
明日の世紀末を想像して…否、実現すると確信したがために真名解放に乗り出した。
それを見て嗤う定々が手を挙げようとしたとき。
「邪魔だ」
「があっ」
辰五郎は血に塗れて、3色の破壊衝動に潰されていた。
「………見事だ、アッティラ」
暗転する視界が脳と接続したのは、トドメを刺しに来た名前を知ったせいだ。
声を出そうとして、喉が鳴らしたのは血液を含んだ泣き声。辰五郎は恨み言も、感謝も伝える手段はもう壊されてしまった。
”会うのが怖いようにしか見えぬ”
「なん……で…?」
掠れる視界が閉じると、耳元にネロ皇帝の言葉が聞こえてきた。人の事情も知らずに、ずけずけと言ってくれると腹を立てたが、もう言い返す相手もいない。
「致命…的、に………噛み合、え…ない………」
そういう運命なのだと、独り自虐して意識は霧散した。
───
──
─
「ローマ帝国の外にいる客将は全て潰した」
それだけを言い残し、辰五郎を始末したアルテラは何事もなかったように連合帝国へ歩いていく。
止める理由のない定々は笑顔で見送った。
遠ざかったアルテラから視線を移して、ローマ帝国に眼を向ける。
「…………ふむ。ローマ帝国の中を遠見することは不可能か。なにか細工をしているな。まあよい、茂茂さんが居ることは知れた。器さえあればどうとでもなる。
それに…ネロ皇帝も出てきた。敵ながら辰五郎は上手く転がしてくれたじゃないか。準備は整ったに等しい」
嗤いを殺しもせず、定々はソラを仰ぐ。
そして、側に控えている暗殺者に幾度目かの殺意を渡す。
「然し、賊がいる。
白夜叉………ヤツは殺せ。私に近づけるな」
「…………」
「理由が知りたいと?良い、かつての仲間を斬るには理由が必要だろう。
あれは鬼。獣を喰らう者。私を殺す悪だ」
地面を踏み荒らさんほどの苛立ちに、暗殺者は黙して応えた。
自らを殺せないと知りながら、その入念な警戒には見上げ果てるしかない。
「明日にも決着がつく。ヤツは疾風の如く国を陥れた前科がある。先を越されるわけにはいかない。
育ちきる前に根絶してくれる。
芽吹くのは我が城、我が国だけでよい」
暗殺者はそれでもこうべを垂れる。
己の信じる
後半戦12月予定
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ぐだぐだ本能寺
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封鎖終局四海オケアノス