fate/銀時も行くオーダー   作:ひとりのリク

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仙望郷へ誘い込め

 

 

ローマ帝国に残った立香とマシュの2人は、お岩から手渡されたローマ帝国の地図を広げて最後の確認を行なっていた。

 

「ここら辺にある浴場は4つ。場所の下見もこれで終わったね」

「はい。思ったよりも住宅と近接していますが、あからさまではない分、誘導し易いと思います」

 

今しがた2人が確認し終えたのは、アルテラがやってくる南西側の帝国内に建設された浴場の場所だ。勿論、仕事終わりに寄ることを目的としたものではない。

 

発端は伊東たちが出発する直前に戻る。

 

───

 

──

 

 

「ローマを守るにしても、持久戦となればアルテラに軍配があがる。だから2人には、アルテラを仙望郷へと誘導してもらう」

「仙望郷って、ここに!?建物壊れちゃいますよ」

「言い方が悪かった。お岩殿、説明を任せます」

「皇帝専用の大浴場は仙望郷の一部なんだよ。宝具として使うには、表舞台じゃちょいと燃費が悪い。

だからね、本拠地は裏側に居を構えてんのさ。

コンビ○で立ち読み出来るジャン○と、書店で封をしてある○ャンプくらいの違いだけどね」

「その例え大丈夫ですか?コロナ的にも、ローマ的にも」

「ローマ帝国には無数の浴場があるのは見ただろう。その全てが仙望郷に繋がっている。

アルテラが踏み込めば、仙望郷に転送される仕組みだ。あとはタゴサク殿と協力して一気に叩く寸法さ」

 

仙望郷に転送って、そんな簡単に言うけど…。

 

「それに、茂茂公を守りながらでは…」

「心配は無用だ。これでも立場は弁えている。

其方たちは存分に戦ってくれ」

 

茂茂公は記憶が無いけど、銀さんやローマ兵が信頼を置いている。嘘はつかない人だ、そこまで言われたら頷くしかないよ。

 

「あぁ、それと。辰五郎については考えなくていい」

「何故でしょうか。彼が1番の難敵に思います」

「連合帝国から出てこない。そういう未来が視えた」

 

そう言う伊東の瞳は少しだけ下を向いていた。

 

 

──

 

───

 

コンビニくらい気軽に浴場が建っているけど、ここに誘導しなければアルテラを倒すのは難しいのも事実だ。

茂茂公は戦えないから、戦力は俺とマシュ、お岩さんとロムルスの4人になる。

昨日もアルテラ相手に4人で相手をした。あの時はお岩さんじゃなくてジークだったけど、重圧だけはなにも変わらない。

 

銀さんたちを守れるか、否か。

ローマ帝国を背負えるか、否か。

 

これは重さとか、優劣をつける問題じゃない。

思考を止めれば…進むことを諦めたら取り零すものだ。全員が諦めずに戦ったから、銀さんはネロ皇帝を連れ戻してこれた。今回も同じだ、破壊神という圧力に屈したら最後、もうカルデアに戻ることは出来ない。

 

「来ました────!」

 

マシュの気迫が出した声に反応して視線を向ける。

ローマ帝国と荒野の境界線から確認したのは、砂煙を起こして爆走する三色の破壊衝動。荒地を戦場跡に変える暴挙は、まさに破壊神というべき所業だろう。

 

あと数秒で接敵だ。

気合いを入れろ…!

思考を止めるのは、なしだ。

 

「マシュ、宝具で止めよう」

「了解です!」

 

作戦を立てるのは簡単だ。

先ずは宝具で止める。隙を見て俺がガンドを撃ち込んで、マシュに浴場まで吹き飛ばしてもらう。

問題は……簡単にガンドを当てさせてくれないことか。

 

「ロード────」

 

マシュの宝具が展開準備に入る。

 

軍神の剣(フォトン・レイ)の到着まで二秒。

軌道が変わる気配はない。背後のローマ帝国を守るように立つ俺たち2人を見て、先に片付けたほうが自由が利くという判断だろう。

 

マシュの盾が地面に突き立ち、そして。

 

「「えっ」」

 

アルテラの破壊衝動は目の前で霧散し、地面に降り立ったアルテラは千鳥足のままフラフラと彷徨い、

 

「ーーーーーーーー!」

 

四肢を地面に投げ出して、轟音とともにゲロを吐き出し始めたではないか。

 

「「えぇーーー!?」」

 

なんだこれ、何してんのこの破壊神。

 

「ドクター!ダ・ヴィンチちゃん!」

 

………呼び掛けても反応なし。

おかしいな、銀さんたちと俺たち、モニターは半々で使い分けるから通信出来る手筈なのに。

 

「あの、大丈夫ですか?これ、酔い止め薬です」

「ありがとう…これはいい文明だな…」

「マシュ、それどこから出したの?」

「盾の収納スペースです」

 

少しだけ頬を赤くしながら、盾の裏側の小窓を開ける。そこには日用品や化粧水、それにフォウが眠っていた。

 

「えぇ…すごいね」

「えへへ、すごく便利です!」

 

なんで照れてるんだろう。

というか、アルテラが目の前にいるんだけど。

 

一通りゲロったアルテラは、

 

「………湯浴みさせてくれ」

「えっ、あはい」

 

この人、何しに来たか分からないけど…。

悩みの浴場への誘導はあっさりと完了したからヨシ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルテラの申し出を断れるほどの非情さはなく、立香とマシュは求められるがままに近場の浴場へと案内をした。

ローマ帝国にも関わらず浴場の入り口には”ゆ”の暖簾。少しばかり躊躇った手で暖簾を触れ上げて、視界に入ったのは和風な受け付けだ。人は…いない。さっきまで通りにいた大勢のローマ市民が嘘のようだったが、ここが仙望郷だと理解するには十分な合図だった。

 

女風呂に入るわけにもいかない立香と別れた、マシュ引率のもと女子脱衣所へ。

 

「何故、ローマ帝国を襲撃するのですか」

 

脱衣所を通る際、マシュは躊躇いやく武装を解除する。

ここに来る間に、外で待つべきか悩んだ。解除して、直ぐに剣を取られたら自分は抵抗もできずに血塗れだ。それは立香たちを裏切る行為なのに…アルテラと会話をしてみたいと、そう思ってしまった。だから、迷うこともしてはいけなかった。

 

浴場の入り口に置かれたタオルを手に取り、木造の扉を引く。迷いは敵意……死に直結すると肌で感じる。

 

「私の目的は破壊だ。だが、定々だけはいまの私では殺しようがない。だから先にローマ帝国を破壊する」

 

湯気の向こうに消えるマシュを不思議そうに見ること2秒、アルテラも倣うように服を解いて浴場に入った。

 

「そんなサーヴァントが実在するとは思えないのですが」

 

アルテラの言葉は相変わらず無茶苦茶だ。優先順位を決めているだけで、最後に救いの1つもない。始めから残すものを設定しない姿勢は破壊神に相応しいだろうが、マシュは許容できない。

 

シャワーに手を伸ばし、お湯を出す。

アルテラが真似してシャワーを浴びながら、

 

「……なんだお前たち、知らないのか。定々は身代わりを用意している。影丸という宝具を使ってな」

「えっ…」

 

許容どころではない事実を突きつけられ、桶に伸ばした手が止まる。

 

「私には何故か、定々の影丸が埋め込まれていた。アレを殺しても、私が定々に飲み込まれるそうだ」

辰五郎がそう言っていた。私もそう思う」

「なん、で…」

 

石鹸で身体を洗っていくアルテラに、掠れた声で問う。言葉は足りないが、アルテラは意を汲んで答えた。

 

「定々を殺そうとして、自分の危機を察した」

 

細い四肢から汚れを落として、濡れる髪の水気を落としながら自らの胸に視線を落とす。そこに影丸がいて、どれだけ洗っても落ちないと嘆いているようにマシュには見えた。

 

「辰五郎も定々を狙っていた。だから協力することにした」

 

アルテラはマシュの視線を気にもせず、髪を纏め上げると水風呂に身体を浸していく。

湯浴みする姿も、水風呂で肩まで浸かるさまも画になっている。女性として、アルテラのスタイルは美の頂点に位置すると思わせるほどに恵まれている。この四肢であの破壊を行えることが現実から離れていて、己の目的を忘れそうになる。

 

「あと1つの、定々の影丸を探し出して、全てを破壊するために」

「それは、どういう────」

「全ては語らない。分からないのは私もだからな」

 

湯に浸ることを忘れて見惚れていた意識が、嫌な予感とともに現実に戻ってきた。

 

影丸という分身がいること。

定々は影丸に成り代われること。

 

きっと、特異点を攻略するための最大の鍵になる。

早く知らせなければと、カルデアに呼び掛ける。

 

「ドクター!ダ・ヴィンチちゃん!」

 

だが、返事はない。

 

モニターの故障?違うと断定する。

こんな時は、敵勢力による妨害が最有力候補だ。

アルテラ?

違う、彼女には器用な真似が出来るはずがない。

ならば、定々と接敵した銀時たちのほうに異常があったということ。

 

「ぐっ!?」

 

そこでマシュの思考は中断する。

水風呂から立ち上がり、振り払った軍神の剣によってマシュを攻撃した。

 

「私を一度倒したお前たちなら…とも考えて口を滑らせたが、通信を遮断されていては魔術師の知恵も期待出来ない」

 

アルテラからは敵意と落胆の視線が向けられる。彼女もまた、定々の呪縛に悩む1人だということだが…。

 

「盾を構えろ、カルデアのサーヴァント。

でなければ、国を差し出せ。文明の全てを破壊する」

 

会話は通じない。分かり合えない。

敵は同じなのに、彼女の在り方が最終的にこちらに牙を向けてしまう。彼女の思考に寄り添える隙は与えられないまま、マシュは武装を装着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルテラの剣が起動する音を聞いて、慌てて壁際から距離を取る。既に待機していたお岩さん、そしてロムルスが戦闘体制に入ったとき、女湯で三色の光が爆ぜた。

 

「下がりな、立香」

 

二度、三度と発光し、古風な浴場を破壊して、四度目の発光で男湯と女湯を隔てる壁は破壊された。

 

「マシュ!?」

 

壁を砕いて転がり込んできたのはマシュ。武装を済ませて、大盾でその身体を支えながら立ち上がる。

 

「先輩、会話もままなりませんでした!」

「いいや、上出来だよ!ありがとう!」

 

会話は全部聞こえている。

あんなに強大な敵を前にして、マシュは武装を解いてまでアルテラにひと時でも歩み寄ってくれた。それだけで賞賛が尽きないというのに、

 

「はい!今から破壊神アルテラを止めます!

援護をお願いします、皆さん!!」

 

彼女は人理の盾として、絶対に最前線から離れようとはしなかった。

 

一瞬だけマシュと視線が交差する。

俺だけに向けた瞳は、俺だけに伝えたいメッセージがあるからだ。この場で肉体的に最も役に立たない俺に求められるもの。

 

”影丸の摘出方法を考える”

 

カルデアとの通信が妨害されて、借りられる知識はここにはない。おまけに連携も取れないから、仮にも銀さんたちが定々を倒してしまえば、アルテラがどう変貌するのか想像もつかない。それに、アルテラを倒したとき、影丸も倒せるのかが分からない。

 

────任された。

 

決して、アルテラの破壊活動を止めたいわけじゃない。影丸をアルテラから取り出したところで、アルテラの本質が変わることはないんだ。

 

(あれ、なんでこんな事を心配するんだろう)

 

なにか気の迷いを起こしなような疑問が浮かび、夢を見た時の記憶くらい軽々と消失する。

 

「案ずるな。ローマは彼女の盾を支えてみせよう」

 

ロムルスに頭を撫でられる。

向けてくる言葉と、手触りと力の加減が破壊の音から少しだけ遠ざけてくれる。

 

目の前に集中しろ…。

俺は頭を働かせるんだ。

 

「湯浴みさせてくれたことには感謝する。この文明は良い…だが私に残された時間も少ない。

お前たちを破壊して、余力があるときはこの場所を遺してやろう」

 

優しさを感じない配慮に乾いた笑いで答える。

出来れば会話での和解が最高なんだけど。

そんな日が来ることを祈りながら、戦闘に移るマシュたちに目を向けて方法を模索し始めた。

 

 

 

 

 

 

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