fate/銀時も行くオーダー   作:ひとりのリク

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人理焼却<キミのとなり

赤い世界。

壁に広がる紅、空気を焦がす緋、地面を塗り潰す(あか)

 

なにもかもが燃え上がり、建物と世界が瓦解する不協和音で聴覚は役目を果たさない。

 

部屋に入って先ず、一面の景色を目撃して言葉を失う。

次に、鼻腔に突き刺さる臭いの正体を知って吐いた。

 

「───、───」

 

自分の吐く音すら聞こえない。

しかし立香は、吐くことでようやく正気を取り戻す。

正気を保つための手段を身体が本能的に実行した。

赤い世界を受け入れてはならない。人として出来る恐怖の拒絶を終えて、名前も知らない部屋で、ただ一人を探すために立ち上がる。

 

正体不明の、とにかく沢山並んでいる2メートルを超えるカプセルのなかに人がいる。生死は分からない、考えたくもない。

ガラスは割れ、血が付着している。

理解したくはないが、見る限り生存は絶望的だ。そんな人たちが軽く三十人は超えていて、その一つ一つを確認しても目的の一人はいない。

 

幾つかのカプセルは空洞だった。

もしかすれば、この血溜まりのどこかに…。

 

「あ、あ…」

 

身体が熱い。

蒸すほどに温度が上がっているのだろう。

呼吸をすることが辛い。だが動かなければ死ぬ。

肉体的、精神的に終わる。

 

時の不運を呪った。なにもかもが怖くなって、意味も分からずに涙が垂れる。

理不尽な出来事から目を逸らして、これまで生きてきた自由も捨てて眠ってしまえば、楽になれるだろう。

 

「そう、しようかな」

 

背中に小さな衝撃が走る。

 

「フォウッ!!!!!」

「ぐッ!?」

 

背中への衝撃によろめくも膝を折るまではなく。テテテと背中を伝い肩に到達した小柄な白い犬、フォウの姿を見てここに来た決意を思い出す。

 

『藤丸くん、急いで外に逃げるんだ。いまなら間に合うかもしれない、きみだけでも逃げてくれ!』

『待って、ください…。マシュが、あっちには彼女がいる!』

『あっ、藤丸くん待つんだ!ちょ、足速っ!』

 

この釜茹で地獄のような場所には自らの足で飛び込んだじゃないか。

不安に駆られて、真っ直ぐに走ってきたんだ。どうしても、彼女のことが気にかかってしまった。もう御託は並べられない、行くしかないぞ。

 

(諦めるな、探せ…!)

 

チラつく少女の姿を炎の向こうに願い走る。

 

「マシュ……どこだ、マシュ!!!」

 

ほんの少しだけの面識しかない、希薄な少女の名前を呼ぶ。名の知れぬ恐怖を誤魔化すため、いまできる一歩を踏む。

 

「いたら返事をしてくれ、どこだ。頼む、頼むよ…!」

 

とにかく駆け回り、道と呼べるか怪しい場所すら踏んで行く。靴の裏から伝わる熱に怯えながら、これ以上に怖い思いをしているからと足を動かす。

咳き込みながら走って、拾える情報全てに意識を向けて。

 

「せん、ぱい…」

 

身体が勝手に動いていた。

フォウが肩から降りるよりも先に、小さな声を耳で聞いて走った。不思議だ、あんなに遠くで、大声も上げていない人の声を聞くなんて。幻聴かもしれない、だがそれでよかった。

 

「!」

 

事実、探していた人は目の前にいる。

 

「……ぁ……」

 

喜びも束の間、言葉を失う。

マシュの下半身が見当たらない。瓦礫は地面と密着していて、探し人の上半身は死に絶えつつあった。

素人目に分かる。分からなければならない。

マシュは死ぬこと、この事態は最悪だということを。

 

なら、彼女になんて声をかければいい。

 

…そんはもの、決まっている。

 

「ッ……………や。また、会ったね」

 

しゃがみ込んで、マシュの視界に映り込む。

マシュと視線が合った瞬間、答えは出た。

 

「どう、して…」

「助けにきたよ」

 

とっ散らかった不安を全て放り投げた。

現実は自分に解決できる許容範囲を超えている。

マシュの下半身を押し潰した瓦礫を退かす知恵も力もない。そして、辺り一面の火事を消化する機械も持っていない。

 

「逃げ…て。私は…助かり、ません」

 

『警告、カルデアスの状態が変化しました。近未来観測データを上書きします』

 

マシュが悲壮な声を漏らす。

アナウンスがなにか言っている。

 

それがどうした。

こんな終わりが迫るときもウジウジしていられるかってんだ。

 

『上書き、完了。近未来、百年先の地球において、人類の痕跡は発見できません』

 

軽薄そうな少女が、意外にも感情豊かなことを知れた。

 

『人類の生存は確認できません。人類の未来は保証できません』

 

下手すれば自分よりも力持ちだし、行動が早い。

 

「そ、んな…!逃げる、どころか…。もう、人類は…」

「終わらない。人類は終わらないよ。俺も、マシュも生きるんだ。コンピューターがなんだよ…未来が視れるからって、勝手に俺たちを終わらせて良いわけないだろ…!」

 

マシュの言葉を遮る。

直感が訴えた。

マシュに絶望を与えるな、と。だから否定する。

 

炎が迫る。

絶望が視界から歩いてくる。

視覚が憎い。格好つけているのに、決意が裏返りそうになる。

 

『特異点を抽出…発見。西暦2004年、日本冬木市と断定。これよりマスターは霊子転移レイシフト、これの調査にあたってください』

 

死ぬ間際っていうのは、こんなにも心が曲がるのか。

痺れを通り越して、身体が脱力し始めた。

受け入れたくないのに…。

 

「大丈夫、だから…」

 

視界が赤く染まり始めた。

恐怖で塗り潰されていく。

俺は、それが視覚からなのだ。

夢を見ることすら叶わずに、絶望に叩き落とされる…。

 

マシュがいる前で、藤丸の声はどんどん擦れ、震える。

堪え続けている恐怖がいまにも爆発しそうなとき。

 

「よ〜。隣、失礼するぜ」

 

藤丸の頭に大きな手が乗り、ワシャワシャと撫で回す。

それだけで、心が救われる。

 

「銀時、さん…!」

「よく頑張ったな立香」

「フォウ!」

 

藤丸の横には、銀時が立っていた。

足元を駆けるフォウが、銀時を案内してくれたのだと知る。

 

彼は打開策を持ち出すわけでもなく、どかっとその場に座る。この絶望が変わるわけではないのに、押し潰される恐怖が取り除かれていく。

 

「そのバカでけえ宣言、俺も加えさせてくれ。

こんなときこそバカやってないと落ち着かねーからよ」

「…はは、すげえ良い笑顔ですね」

 

にんまりと笑う銀時につられて藤丸が笑う。

その二人をマシュは不思議そうに見る。遠のいていた意識が戻るほどに、二人の行動が分からないからだ。もうすぐ死ぬのに、なぜ笑っていられるのか。

 

『コフィン内マスターのバイタルは基準値に達していません。レイシフト適性マスターを再検索……。発見しました』

 

「マシュ、次に目ぇ覚めたらなにがしたい。

立香が叶えてくれるってよ」

 

そんな疑問のなか、銀時の質問が飛んでくる。

 

「えっ、あ、あぁうん!言ってごらんマシュ!」

 

突然の話に藤丸は慌てながら、その意図を察して合わせていく。

答えても、答えなくても結末は変わらない。そう思いながらマシュは口を開ける。

 

「…なら、私は…空が、見たいです」

 

答えないと明日が来ない気がした。

答えなかったら二度と彼らと会えない気がした。

なによりも、二人の話の輪に入りたかった。

 

「空か…。確かに、ここの外は吹雪がすごいもんね」

「決まりだな。ならやることはピクニックだ。

山なり海なり行って、ゴロっと寝転んで一日過ごす」

「贅沢な一日になりそうです」

 

ワイワイと盛り上がり始める銀時と藤丸。

 

なぜ笑えるのか。

その疑問に過ぎった声は、先ほどの藤丸の言葉だった。

 

”未来が視れるからって、勝手に俺たちを終わらせていいわけないだろ…!”

 

その言葉に銀時は同調した。

たぶん、そんな大したことのない理由だ。

そして、答えとして大雑把なはずが、納得してしまった。

 

『適応番号47、坂田 銀時。適応番号48、藤丸 立香をマスターとして再設定。アンサモンプログラムスタート、ファースト・オーダーの実証を開始します』

 

マシュ・キリエライトは笑いながら目蓋を閉じる。

 

次に目を開ければ、二人が隣にいることを信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 







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きちんと見ています。とても嬉しいです!


次の投稿について。
執筆時間が中々ないため、最短でも8/9になります。

少し間が空くので、予告をしておきます。





序章 炎上汚染都市冬木 冠位指定開始!

未完結の聖杯戦争が続く冬木市。
終末を迎えた世界が迫り来る。

異例の参戦となる坂田 銀時。
その身を守るため、サーヴァント召喚が行われる。

「召喚に応じ参上した。
いまの俺がどこまで役に立てるかは分からないが、自分に出来ることは任せてほしい。
どうかよろしくお願いする、マスター」

異例のマスターには異例のサーヴァント。
先行きの見えない侍たちの人理定礎、ここに開幕。

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