明けましておめでとうございます!
投稿遅れました。理由は簡単。
私、年末に車に轢かれました。
軽傷ですが、色々と手続きや通院が面倒でした。
報告以上!本編をどうぞお楽しみください!
剣が暴風を撒き散らし、大盾が僅かに浮き上がる。
アルテラの手にある剣は現代ですら目にしないほど未来的で、その脅威は科学では説明がつかない古代の力強さで造られていた。
「はっ────」
一息で剣を一閃する。
ただし、女湯の真ん中から男湯の真ん中まで、10メートルは離れている距離から、という剣にしてはあり得ない射程距離を伴って。
アルテラの剣は射程距離3メートルがせいぜいで、投げなければ当てようがない。そんな常識を打ち破るが如く、マシュの大盾に鞭を打つような一撃を見舞った。
「ぐぅ…伸びるんですか…!?」
軍神の剣はアルテラの一凪ぎによって、その特性を剛から柔へと変質させたのだ。
手元に戻るとき、柔軟に富んだ三色は剣へと戻っている。そこから立て続けに剣を振り回すと鞭となり、着弾点であるマシュを中心にして軌道上に走る一本の線が浴場を粉砕していく。
「前進します!」
距離を置けば一方的に体力が削られる。経験不足のせいで分が悪くとも、黙っているよりはマシだと突っ込んだ。
アルテラはその場から動かない。正しくは、剣を振り上げて、一撃のもとに勝負を決める心構えだ。そしてマシュは真っ直ぐに進むことを止めない。
受けて立つつもりだ…!
失敗すれば人理修復の旅は直ちに終わる。
手を貸したいけど、俺が手を伸ばせばマシュの気が逸れる。だから、いまは信じて待つんだ。
「シールド展開」
「破壊し尽くす」
矛と盾、剛と音を響かせて剣と盾が激突する。
それに合わせて、マシュの無事を信じるお岩……ではなく、身体を入れ替えたタゴサクが俺の横から飛び出していった。
舞う飛沫の向こう、マシュは浴場の基盤を割るほどに踏ん張り、眼光を絶えず両腕に注いで耐えてみせた。
無闇に続けたら徒労で終わる防御も、
「テメェが壊した浴場は弁償させっからなぁ!」
仙望郷最強の戦士、タゴサクの攻撃の機会を生み出すことができる。
剣を握る右腕の外から踏み込んで、タゴサク自慢の右拳をリバーへと振り抜いた。
重心がまだ盾から離れていない。確実に入った!
「働く必要などない。私には不要なものだ」
素人目に興奮する俺の期待は、あっさりと裏切られた。
着弾するレバーに割り込んだアルテラの左手のひら。手の甲を自らに向け、力が出ないように見える姿勢で、衝撃波をも生むタゴサクの一撃は止められた。
そして、アルテラの足が剣の代わりに大盾を蹴り飛ばし、その勢いを授かった剣でタゴサクに襲い掛かる。バランスが崩された2人に、互いをカバーする余裕なんてない。
「マズい…反撃が!」
「まだだ」
ロムルスが断言する視線の先で、アルテラの剣がタゴサクに振り下ろされようとしたとき。
薄らとタゴサクの中から現れた半透明の人間……いや、お岩が、アルテラの身体に左右の拳を打ちつけたではないか。
「お岩は嫌だってよ、嬢ちゃん?」
「があ!?………いまのは、なんだ!?」
そのまま剣の軌道はタゴサクから逸れて、アルテラの身体は硬直した。
無防備な身体に、今度はタゴサクの拳が二度、三度と打ち込まれる。雷鳴のような音をアルテラの身体から響かせる様子は、破壊神よりも破壊が似合っていると褒めなければならないだろう。
痛みを堪えて、アルテラは限界まで引き絞った筋肉を反撃に回す。全快と変わらない動きで剣を振り下ろし、
「どこ見てんだィ」
氷上を滑るような足捌きを魅せるタゴサクによって、その剣圧も届かぬうちに躱されていた。
空いた距離は三歩。
タゴサクにとって、ひと息で潰せる距離と理解したうえで、アルテラは鞭にした剣を構えた。身体を捻り、右足を軸にした姿勢。360度、全ての敵を薙ぎ払う攻撃をタゴサクが許すはずもない。
立ち直ったマシュが立香の前方に駆け寄る。これでタゴサクは後ろを気にする必要はなくなった。
「────」
ひと息のうちに踏み込んで、攻撃が繰り出される前に決着をつける拳を打ち下ろした。
酸素が吐き出される瞬間、タゴサクの拳に重なったのは剣の柄だった。鞭はそのままに振るうことなく、1センチ程の大きさの柄で止める感情と判断力にアルテラ以外が舌を巻いた。
不利な戦況を覆すのは、アルテラの空いた左拳。捻っている身体をついに解放して、タゴサクの顎に目がけて左拳を打ち上げる。
「アンタ…!」
タゴサクの背後から現れたスタンド……お岩の両腕が左拳を止めんと立ちはだかるが、事も無げに殴り飛ばす。そして、タゴサクの顎を勢いそのままに打ち抜いた。
「!?」
仰け反った身体に剣を振り下ろす。
地面を馴らすように叩きつけたアルテラの剣は、走り寄ったマシュの大盾の一振りと拮抗した。
そして再び、タゴサクが踏み込んで隙を探して拳を放つ。
2対1、いや…お岩のスタンドを含めば3対1の状況で、アルテラの優勢が崩せない。戦況はアルテラがやや押している、このままじゃ時間の問題だ。
「強い…!」
「あぁ、強すぎる。尚のこと、外には出せないね」
思わず溢した言葉に返してきた方を見ると、半透明のスタンド……レイが眉間にシワを寄せていた。
「なんでですか?」
「ここは外部から遮断されてる。魔力源が外にあるなら、サーヴァントへの魔力供給はストップするんだ」
仙望郷に誘い込もうとしていたのはそれが理由だったのか。
「魔力供給が止まると普通はどうなりますか」
「出力が落ちる。単独行動持ちのサーヴァントなら兎も角、セイバーやバーサーカーが魔力供給を断たれたら数時間で退去さ。
そうでなくとも、仙望郷は死者の国。サーヴァントならステータスは下がり、タゴサクとお岩との戦闘はままならない…はずなのに」
レイが戦闘に視線を向ける。
マシュとタゴサク、2人の息が合ってきている。アルテラの攻撃をマシュが流して、タゴサクの一撃が右頬に直撃した!
「やった────」
「……やっぱりね」
前回、マシュが決めた一撃よりも威力のある拳を受けて、アルテラは軽々と起き上がった。耐えるように工夫してきたか、それとも受け身を取ったのか。疑問が浮かんだまま、観察だけは止めないと右頬を見て思わず声を上げた。
「治ってる!?」
「自分の力じゃないね。
定々はあの娘を死んでも使い倒すつもりなんだよ」
レイの言葉に怒りが込み上げる。
分かってる、今やる事じゃない。
影丸というのがアルテラの中に居ることはこれで証明されたようなものだ。なにか、先に影丸を潰す方法を見つけなくては…。
「────アルテラはあの場から動いていない」
「た、確かに」
横で2人を見守っていたロムルスが呟いた。
破壊されて悲惨な姿になっていく大浴場にばかり目が向いていたけど、軽快だったステップワークは活かされていない。
「待てよ………………。
ステータスが下がっているのが、影丸だとしたら?」
無関係なはずがない。
足を使っていたし、タゴサクとお岩のラッシュにも反応しているから敏捷が下がったとは考えにくい。
「待っている、のか?」
昨日、仙望郷の一端である皇帝専用の大浴場での戦闘を思い返す。俺がガンドを打ち込んだとき、アルテラは”再接続”と口にして、直ぐに動き始めた。あれで影丸に繋げたのは言うまでもない。
じゃあ、繋げるためのパスがあるはずだ。これを断てば、影丸を先に潰せる。その方法は…。
「レイさん…その手で掴めないものはありますか」
「そうさね…。私は温度の影響を受けずに触れられる。閻魔様くらい濃い魔力は触るのに苦労するかな。
……あぁ、惚れた男の背中はまだ流せてない」
「────それは、叶えなきゃいけませんね」
方法は決まった。
レイさんにやる事を耳打ちして、頷いたのを見るや。
「マシュ、タゴサクさん!退がってください!」
「っ!はいっ!」
一瞬の勝負の幕を、乱雑に捲り上げた。
「どうした、立香。レイに変なこと吹き込まれたか」
「ふざけてる暇はないよ、タゴサク」
タゴサクの背中に手を置くと、それだけで意思伝達が出来るのだろう。タゴサクがレイと俺を見て無言で頷いた。
「先輩、何かありましたか?」
「うん。マシュには構えていてほしいんだ」
「えぇと…分かりました!マシュ・キリエライト、先輩の盾として不動の構えです!」
「はっ!そやっ!」と言いながら立香の前に仁王立ちするマシュ。若干、意味合いが違う気がするも、やる事に変わりはないので良しとした。
なによりも、待ち構える姿勢が大事だ。予想が当たれば、アルテラは乗ってくる。
「覚悟は決まったようだな」
「最初から決めてるよ。勝つってね」
だって、彼女は全てを破壊したいのだ。
己を操ろうと画策する、定々をも。例え、自分の手で破壊出来ずとも、破壊する自分に繋げるためなら相手を乗せてくる。
俺たちが見過ごせないことを逆手に取ってね。
「見せてみろ。でなければ、破壊する」
鞭の状態を一振りで剣に戻し、10メートルの間合いから剣先をこちらに突きつける。
回転する三色の剣。先端から空気を捻り、床に散らばった大浴場の破片を吹き飛ばす。破片だからと呑気に笑うことは出来ない。気を緩めれば、破片のように吹き飛んでいくのは俺たちだから。
「
相変わらずの無表情で、さらりと宝具を解放していく。
荒野を駆け抜ける様子を遠目から見ていたが、あれほどの迫力は2つの特異点でも見てきた。アーサー王の剣、ファヴニールの息吹と同等に、一撃で町を破壊し尽くせる。
あれは、影丸による補助も加わっていた。
影丸の影響を抑えられている…はずの今なら、絶対に防いでくれる。
「マシュ、宝具だ!」
いや…そんなもの無くたって、俺はマシュなら防げると信じている。
「────
「
三色の光が一条となり、この特異点で最も強い破壊を伴ってカルデア最強の盾に放たれる。
人類の希望を背負い、未来を繋げるための盾が展開した。相手が破壊に特化した英霊ならば、彼女は破壊を受け入れる盾だろう。
これは深い話ではない。
破壊も、繁栄も許さない未来をマシュは受け入れない。ときには破壊も必要だ、人生に不必要な要素はきっと無いに等しい。
「先輩……お願いします!!」
ただ、破壊だけじゃ俺たちの望む未来には届かない。
だからマシュは盾を握りしめて、破壊に合わせる手段を俺に託してくれるんだ。
「任せて!タゴサクさん!」
「おうさ────」
撒き散らす破壊の衝撃を横切って、タゴサクに抱えられながらアルテラの真横に飛び出していく。タゴサクによる加護がなければ、この衝撃で俺は樽に入れたブドウを踏み潰すように飛び散っていた。
そして、戦闘のセンスに長けたアルテラを相手に、
「ガンド!」
呪いの架け橋が二度も届くことはなかっただろう。
盾にひと時の拮抗を許した破壊衝動は、仙望郷によって威力と効果を増幅させた特性ガンドによって硬直を余儀なくされた。
「…………!再、接続────」
それも一瞬の話だ。
身体は動かなくなった。しかし、ガンドは思考まで止めるほど万能の呪いではない。アルテラが言葉にした瞬間、立香たちには見えないものへと繋ぎ直した。
「いまだ!」
千載一遇の機会に、タゴサクたちと入れ替わりで疾り寄る影。
「そこっ!!」
硬直から解かれる直前、レイの右手がアルテラの身体の中へと入り込む。そして、確信を持って引き抜いた右手の中には、光り輝く黒い影。
「こいつだね、影丸ってのは」
「や、ヤメ────ー」
「えいっ」
野太い命乞いが霊気から響いてくるが、レイは無視してビー玉サイズのソレを握りつぶした。
大浴場に空いた穴から吹いた風に乗って、仙望郷のスタンドたちに食われ尽くされていく定々の影丸。ここでは砕けた霊気からの修復も望めない。定々にとって、最悪に近い相性の世界ゆえに、影丸は捕まるほどに弱くなっていた。
「────よっしゃ!」
全部を見届けて、倒れたアルテラが影丸の消失を物語り、立香たちは一先ずの目標達成に喜んだ。