fate/銀時も行くオーダー   作:ひとりのリク

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牢城災建帝国セプテムⅠ

 

 

 

連合帝国に造られた偽りの江戸城。

 

目的地であり、標敵のいる階まで苦難を覚悟して来た銀時たち。彼らが今いる場所は目的地の江戸城、遠侍の間。壁に空いた大穴は3つ。1つは元から空いており、1つは源外の用意したカラクリ装甲車に搭載された『定々絶殺砲』による砲撃痕。そして最後の1つはたった今、キャタピラが地面から跳んで突っ込んだせいだ。

難しい話ではない。ネロが操縦席に用意された『最短距離』というボタンを押したら、キャタピラがジェットに早替わりし、江戸城に突撃しただけのこと。

 

「君たちに良い知らせが2つある」

「普通、良い報せと悪い報せ1個ずつじゃねーの」

「作者が轢かれたからな。それと交換だ」

 

そんな珍突撃をした直後の騒ぎも収まり、作者も筆を取り始めた頃。

定々を消しとばした遠侍の間で、伊東が会話を切り出した。

 

「斉藤が退去した」

「は?」

 

『さっきの砲撃で定々諸共吹き飛んだってこと?

こちらからは確認出来なかったけど…』

 

「当然だろう。僕の宝具で感知した話だからな」

「まじかよ。いいなぁ、どんな必殺技?」

「真選組隊士の霊気を感知出来る。

おい万事屋、顔に失礼極まりない表情が浮かんでいるぞ。僕の宝具はこれだけじゃない……こほん。

隊士の気配遮断は僕には通用しない。遠くからの狙撃でも、狙う場所まで分かる。だから、彼が自ら退去したことも分かるんだ」

 

真選組に限られた掌握力で断言する。

 

「そこで2つ目だ。確実に定々を殺せた。聖杯さえ見つかれば、この特異点は修復する…………はずなんだがね」

 

斉藤の退去の裏を返せばマスターが死亡したことになる。定々も退去していることが確定するのだが、伊東は歯切れが悪い。辺りを見回して、なにかを探すように落ち着かないのだ。

 

「どうしましたか、ネロ皇帝」

「余は、最初に江戸城を見たときは感動した。大木で城を建て、趣向を凝らすという日本人の腕前に脱帽せざるを得なかった。

だが………中は違う。これは偽りの城ではないか」

 

次に胸騒ぎを訴えたのはネロ。

失望の眼差しを城の全方位に向けて、そう言い始めた。何をもって偽りと呼称するのか。これは江戸城であって、定々が造り上げた魔力による城だとは知っている。

意味が違う。銀時たちが思っている理由以外で、ネロはそう批判した。その理由を問おうとしたとき。

 

『不味いぞ!マシュたちの方と通信が繋がらない!

仙望郷に入っても通信出来るように調整してくれる算段なんだけど……明らかに妨害されてる!』

 

こちらが後手に回っていることに気づいた。

ロマニの慌てる声がモニターから聞こえたのを確認して、偽りの城が蠢き始める。

 

「地震か!?」

「違う……!魔力が城から滲み出ている」

 

城が嗤う、無機物が嬉ぶ、訪問者を拒絶せよと。

 

「見事な手腕だ、ネロ・クラウディウス」

「なにやつ!?」

 

悪は讃える、訪問者が脅威であると自覚するために。

 

声のする方向を見る。

銀時は天井を、ジークは穴の空いた壁を、伊東は床を、そしてネロは銀時を見て、全員が声の主を見つけた。

 

「…………どういうことだ」

 

4つの身体、4つの重なる声。

増えることなどあり得ない。生前にそんな逸話はあるはずもなく、全員の危機察知能力が最大値を叩き出す。

 

「其方ら皇帝は実に厄介だ。手中に収まったフリをして私を欺き、私の活動を制限させた。

これでは千里眼も思うようには使えなんだ」

 

天井から溢れ落ちる影の滴。

拳大の滴が一滴、二滴と続く。

おかしい、影に感触がある音を鳴らすことに、脳が混乱しそうだ。

なによりも、滴が積み重なり、何十滴と落ちて人型を形成し始めた。見ていて寒気が走る光景に、冷静な伊東の喉が震えた。

 

「貴様…ネロ皇帝の砲撃でバラバラになったはず」

「あれには驚いた。まさか砲撃するとは思わなかったよ。少しばかり痛かったが、この通りだ」

 

4つの影が1つに集まり、徳川 定々の身体となる。

人の形を成した、なにかの生き物が現れた。

 

『ひえぇ……!皆んな気をつけてくれ!そこにいる定々、得体の知れない霊気をしている。

これ本当にサーヴァントか疑わしいぞ!』

 

「あぁ、見れば分かるよ。

雰囲気だけでも不愉快だ。……ジーク君!」

 

伊東の掛け声に合わせて、ジークが前に出る。

剣に纏う魔力は一瞬で宝具級となり、

 

「はっ────!」

 

ローマ帝国を出発する前の打ち合わせ通り、バルムンクによる強襲を決行した。

定々が生前に握った剣はペンと飾りの脇差し程度のもの。即射可能なジークの宝具は、達人ならいざ知らず、戦いを見てきただけの定々に躱せるものではない。

 

事実、ジークの剣は距離20mは離れた定々の身体を真横に真っ二つに斬り裂いた。避ける反応すら取れず、その身体は焼け落ちていく。

 

「…………うそ、だろう」

 

焼けた肉の表面が溶けていき、二つの肉塊が生物の域を声で混ざり合う。互いを捕食するかのように、自分の中で頂点を獲り合うが如く潰して、

 

「私とて人だ。下手人に何度も殺される失態を、死後まで繰り返そうとは思わんよ」

 

再び、定々は嗤いながら立っていた。

全員が確信する。彼はサーヴァントではない。正体不明の敵であり、人理焼却における重要人物にあたる、と。

 

「あやつだけではない。

ジークが斬った壁も、なにやら再生しておらぬか!?」

 

ネロの声に振り向けば、焦げた支柱や襖絵がバルムンクの痕を侵食している。舌を出して熱を確かめるように、ゆっくりと焦げ跡に覆いかぶさって舐めていた。舐めて、取り込んでいるように見える。

 

『その部屋をスキャン出来た。江戸城と似た造りだが骨子がまるで違う。城の至るところに魔力が通っている。

まるで人間の毛細血管みたいだ……』

 

「なんと!ではカラクリのように動くのか!?」

 

『そこまでじゃないですね。異常なほど魔力は行き届いているが、まだ量が少ない。どうやら魔力源にするためのアテが足りないらしい。

どうですか、定々公?』

 

「────は。そこまでは分かるか、遠見の魔術師」

 

ロマニの指摘に定々は頷く。

含みを持たせたところに混じる味は、血と涙。

身内で殺し合うような、心が裂ける現実だ。

 

「だが私の全容は見えまい。身体を巡る血肉の色も、城を組み上げた民草の顔も…影に潜んだ正義の刃すらな」

 

定々の微笑みは一騎を討ち取る自信から現れる。非戦闘員である男から溢れた笑みこそ、暗殺で地位を築いた地盤を見る目と同じ。踏み台になる者に送る勝利宣言に全員が周囲へと警戒して、

 

『な、なにも起きない………?』

 

五秒経過。

来ると思っていた斉藤の刃が現れず、定々は訝しむように眉を上げた。

 

「なぁ、もしかしてだけど」

 

欺かれたとは知らない狸に向かって、最悪の怨敵を前にここまで黙っていた銀時は一枚の紙を見せた。

 

『サーヴァント契約が切れたので厠を借りて還るƵ』

 

ここに踏み込んだとき、銀時の懐に入れてあった紙だ。もしも本気で殺しに来れば達成出来たという警告。

千里眼持ちの定々に通じるか定かではない騙し打ちだったが、どんな眼を持とうとも性分は変わらないらしい。

差し出された紙を全員が見て、驚きに目を見開く。

 

「あれ本当だ切れてるーーー!?」

「お前の縁は所詮そんなもんだ」

 

男と女が月夜に交わした誓いを髪の毛一本と侮った化生に、渾身の力を込めて木刀を振り下ろす。

この一振りは銀時の私怨ではない。

江戸の法で裁けなかった罪をいま、暗殺で終えた幸せな人生に上塗りせんとしたのだ。

 

「………は、ははっ」

 

罪人、これを否定す。

 

銀時の木刀は定々の前に現れた壁によって阻まれた。

 

「喋らぬと思ったら、それを隠すのに必死だったのか。全く、無駄なことよ」

 

壁は暖かく、脈を打ち、人間の皮のようなシワが見受けられる。中で踊る液体は血のように見えるものの、木刀越しの感触がソレよりも最悪だと告げていた。

 

「斉藤にはどうせ殺せぬと思っていた。私が殺すしかないと…いや、私が殺すと決めていたのだ」

 

城の床から生えた壁は生きている。意志を持ち、定々の身を守ったこれは、鬼には受け入れがたい肉片だ。

 

『これは……悪魔!?

なんで伝説上の悪魔がここにいるんだ!?』

『離れるんだ銀時!』

 

ダ・ヴィンチの警告を聞いて、木刀を舐めずる肉壁が舌を絡める。獲物へと続く道を確保したとき、木刀にかかる圧力は少しすら無い。

木刀に肉壁を絡まれた時、既に銀時は木刀を手放して後退していた。

 

『早っ!?』

『いやまだだ!』

 

武器を手放せる判断力に感嘆するロマニだったが、肉壁はその面積を銀時へと突き伸ばす。

先端に鋭さは見られない。それでも抉ってくるのは目に見えて分かる。あれは威力じゃなく、もっと別の……咀嚼するような粘りがある。

 

理道/開通(シュトラセ/ゲーエン)

 

銀時に近づく肉壁を横から鷲掴みにして、ジークの変身した右腕が解析と破壊を開始する。銀の光に触れた矢先から、肉壁は魔力を吐き出して肉片を辺りに散らして果てていく。

そして、左腕に握る剣で肉壁を貫き、再び理道/開通を叩き込む。肉壁に行き渡る破壊が地面に達する直前、しっぽ切りでもするように根本から折れて弾け散った。

 

「大丈夫か、マスター」

「助かった。それよりも────」

 

銀時たちの前に立ちはだかる汚濁の壁。

大黒柱のような太さの肉壁が二柱、三柱と増えていく。定々を取り囲み、徐々に銀時たちを壁際に追いやるうちに数は十を超えていた。

 

『気をつけて!それら一柱一柱がサーヴァント級の魔力反応を示している!』

 

肉壁と呼ぶにはそれぞれに自律心があるように見える。誰の意思か、問うことはしない。

 

「我が真名、徳川 定々。我らの王の意志により、セプテムを手中に収めに来た。

新たな世界を敷き、私が法に返り咲く」

 

定々の足元から溶けていく。

それが肉柱の一柱と繋がることで、他よりも巨大な柱を構築し始めた。

 

「”ブネ”の力をもって、()()()()我が国を完成させる。

暗殺でしか殺せなかった貴様らに、私を殺す術はない」

 

生前の姿から生える肉の蠢き。

定々は最悪の方法で死後を捧げた。

 

ローマを飲み込むために、次第に肥大化する悪魔としてセプテムに降臨する。

 

 

 

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