fate/銀時も行くオーダー   作:ひとりのリク

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牢城災建帝国セプテムⅡ

 

青い柱が唸りを繰り返す。

 

十を超える柱が同時に進撃し、銀時たちを呑み込まんと奔る。速度に違いこそあれど、建物の奥まで横薙ぎにする手段があれば横並びと同じ。

 

「下がってくれ」

 

射程距離、威力ともに融通が効くジークほどの適材はここにはいない。剣を携える両腕が竜殺しの鎧を纏う。

どしりと構えた両足。剣から溢れ出した魔力を寝かせて、右足を軸にして竜殺しの名を背負った一撃を振り放つ。

 

「やったか!!」

「ネロ皇帝、それはフラグと言って迂闊に発言するものではありません」

 

銀の光が到達する瞬間、肉壁は面積を真横に広げて竜殺しの一撃を受け止める。

一柱目、直ぐに消滅。二柱目、防御にリソースを追加。三柱目、四柱目が魔力を喰らい、五柱目が押し潰した。

 

『五柱が壁になって後ろを生かした!?』

 

振り抜いたジークに向けて、六柱目が肉壁を突き伸ばしていく。僅かな隙を狙った侵攻だが、舞い上がる赤薔薇の剣が柱ごと切り落とした。

 

「やあぁーーーー!!」

 

続けざまに七柱目の腹下へ飛び込み、炎を纏うステップから斬撃を繰り出す。

 

「余の発言が原因なら、華麗に片付けてみせよう!

ローマ皇帝の名に賭けて、余の前で客将は死なせぬ!」

 

高らかな宣言を終えるや、最後の抵抗を見せる七柱目の押し潰しを躱してトドメを差した。

 

「視界の隅で見てはいたが……本当に人なのか」

「こちらで多少の補強は行なっているが、ネロ皇帝の実力は並のサーヴァントと渡り合えるものだ」

 

肉壁は学ぶ。一本の柱では敵わぬと知り、その身を無数の血管の如く散らして全方位から獲物を仕留めに行った。

 

「いやはや、皇帝というものは末恐ろしい。

トップ自らが敵将を討ちに行く。まるで、僕たちの組織を見ているみたいだよ」

 

だが、通じない。細く別れた肉壁は、細切れとなって地面に転がる。伊東は先の手を読み、刀を数度振りかざすだけ。生まれ落とされた肉壁に、真選組の知恵を越すことは出来ない。

 

「それに比べて、我らが国の元代表は呆れた男だ。我が身可愛さで魂を売ったとはね。

かの名君がこれ程の大馬鹿者とは、伍丸博士も見抜けなかったな」

 

江戸城に赴いて、真選組の活動を説いていた伊東。定々にも言葉を並べたからこそ、裁くべき人間だと知りながら頭を下げていた事実に苛立つ。

同時に、定々を引きずり落とした関係者に真選組がいたと知ったときは、土方に少しばかりの賞賛を送った。

 

矛盾する我に腹を立てながら、残る肉柱に居合い斬りを終える。

 

「皇帝を排し、城を穢して、貴様は民になにを与えるつもりだ。連合帝国を自分の傀儡と言うのではあるまいな」

 

ネロが最後の肉柱を斬り伏せ、定々が呼称した”ブネ”十柱は魔力の粒子となって消えた。

 

「ネロ皇帝、其方は想像よりも言葉が通じるようだ。

暴君と蔑まれる政に少しは親近感があったのだぞ」

 

醜悪な部下が消えても、定々は狼狽えない。

 

「過去は我々、死者のもの。法を敷き、秩序を生んで悪を成す。

現在(いま)は君たちのものだ。敷かれたレールの意図を解き、若しくは足元のレールを疑いもせずに進む愚か者よ」

 

どう見ても手札が尽きていない。

誰が見ても分かる。あの肉壁は、一端に過ぎないのだ。

 

「ならば未来は?誰のものでもない。死者と現在(いま)、混ざり合えるからこそ未来は”奪い合う”ものだ‼︎

過去と現在、手と手を落とし合ってな」

 

全員の確信を後押しするように、定々は何処からとも無く取り出した黄金の器を手にして、内側に取り込んだ。

 

『聖杯を吸収したアアアア!?』

『定々の魔力が急激に増幅している!

皆んな下がれ!そいつ大きく広がるぞ!』

 

ダ・ヴィンチの声に反応して、全員が後ろに飛び退く。

 

後ろ目に定々を見ながら、銀時が目撃した光景は身の毛が逆立つような変身だった。

定々の身体を卵の殻のように破り、奥から覗くのは赤黒い結晶。あれを受け入れたら、どんな人間でも元に戻ることは出来ないと、そう思うのに十分なほど定々の魂は喰われていた。

 

定々の全てが地面に落ちて、砂粒のように崩れた皮をすり潰す存在。瞬く間に江戸城の天井を穿ち、比類なき悪が世界へと降り立った。

 

「なんつー大きさだよ…!」

「愚かなことを、定々!」

 

皮膚表面からさざめく稼働音が畏怖を与える。

等間隔に、螺旋のように配置される濁色した瞳が銀時を見つけた。

 

「────死ね、白夜叉」

 

合図はそれだけ。

 

人間が日々、無意識に行なっている仕草1つですら、肉柱にとっては格別の呪いに昇華される。少しでも殺意を抱いた視線は、熱線となって対象を焼き焦がす。

 

「なっ……に……!」

 

視線で釘付けにされた銀時は、迫り来る物理的な視線を避けることが出来ない。喉を締め付けられる苦しみで動けず、足先どころか心臓すら麻痺したところに、赤い熱線(のろい)が無遠慮に通過した。

 

「ぐっーーーーーー!?」

 

真横に吹き飛んだ銀時。

その肩を押して、竜の鎧を纏ったジークが熱線を一身に浴びてしまう。

江戸城の壁を突き破り、圧倒的な物量によってジークは遠くへと流されていった。

 

「ジイイイイク!!」

 

硬直が解けた銀時がジークを目で追うも、その姿は目視できる場所にはない。無事を確認したいところだが、銀時の直感が急発進を両脚に叩き込む。二転、三転して自分のいた場所を見ると、焼き焦げた床が広がっていた。

 

「くそっ…」

 

『大丈夫、霊気は壊されていない。すぐに戦線復帰できる。それよりも、目の前に集中するんだ!』

 

ダ・ヴィンチの言葉を信じて前を向く。

聞こえていなかっただけで、既に伊東とネロが一太刀浴びせようとブネへの接近を試み、そして失敗に終わっていた。

 

「おい伊東!伍丸のやつに聞いてなかったのか!?」

「知らん!博士の未来視は不完全だった。本当の詰みに絞って視ていたそうだ。ここからは博士の眼は頼れん!」

 

銀時も刀の届く範囲まで迫ろうと伊東たちに続き、3人で少しずつ距離を詰めていく。

 

「そうかよ!じゃあいつも通りってこった!!」

「いつも通り!?其方ら、こんな化け物相手に物怖じせぬとは思ったが…!ぐぬぬ、余とてローマ皇帝。サーヴァントに負けておれぬわ!」

 

『皆んな!ブネ……いや、定々の呪いも一度に打てる数には限りがあるみたいだ。眼のような部分を酷使すれば焼き付くと解析した。

このまま行けば、直ぐに攻撃が届くぞ!』

 

熱線を避けようと駆けるたび、壮麗な床は藁も同然に散り散りになる。少しでも隙を見つけては弧を描いて接近する。

あと少し、残り一歩で刀が届く場所に来たとき。

 

『む、外から十数人の人影が接近している。

恐らく連合帝国の兵士だ。援護射撃してくるかもしれない、注意してくれ』

 

ダ・ヴィンチの警告の直後、騒ぎを聞きつけた連合ローマ兵たちが遅れてやってきた。

弓屋や槍を携えた兵士たち。前後で挟まれたら厄介な状況で、

 

「貴様たちローマ帝国の者か!

連合帝国に堂々と立ち入るとは……」

「うるさい、役立たずどもが」

 

定々は味方である彼らを罵倒し、その眼に呪いを込めたのだ。

 

「ちっ、呑気に来るやつがあるか!」

 

入ってきた十名弱の連合ローマ兵の命を諦め、この間にブネへ接近しようと試みた伊東。

 

「させぬ────」

「ネロ皇帝!?」

 

視界の隅っこで、ネロが彼らへと駆け出していくのを見て、更なる最悪の結末を想像する。

どう見ても罠だ。銀時か、ネロならばするかもしれない行動(かばい)を誘うために、援軍を殺すのだから。

 

『そんな無茶な!?』

 

「守ると思ったぞ、民想いの皇帝よ」

 

銀時も、伊東も間に合わない距離から、ブネの呪いはネロを見定めた。

 

「ネロ────────!」

 

ネロは薔薇の剣を構えて、伊東の回避の声に笑って応えた。

 

赤黒い結晶から、平和を汚濁する物量が迸る。

逸らすこと、不可。連合ローマ兵が1人は巻き込まれる。これ以外の選択肢は人手が足りない。故に、真正面から呪いを迎え撃った。

 

物量を伴う呪いだ。必然的に斬ることも加納なはず。避けながら見定めたタイミングで、炎を纏う剣を振り抜いて、

 

「あ────っ…………」

 

衝突と同時に爆発して、赤い粒子が舞い落ちる。

 

血が混じり、闇が笑う。

一度の直撃で人なら瀕死する呪いを浴びて、

 

「余でなければ……死んでいた!」

 

皇帝は尚も立っていた。

額から滴る血がドレスを染めて、呪いが肌を焦がしても、膝を着けずに敵兵を庇っている。

そして、何ともない訳がない身体を背後に向けて、呆然とする男たちに告げた。

 

「見たか、連合ローマ兵よ。貴様たちが支えていた男は、悪魔に魂を売った愚か者だ」

「な、なぜだ……………貴様は……」

「さっさと民を逃せ。皇帝の勅命だ!」

「……………………………っ」

 

敵でありながら、身を焦がして口にした言葉は民の安全。連合ローマ兵たちは己のプライドを噛み殺し、無言で頷いて立ち去っていく。

 

「貴様はずっと勘違いしているぞ、定々」

 

視線は少しもブレない。皇帝たる意思わ剣に込めて、その切先を定々に向ける。

 

「過去はローマのもの。現在(いま)がローマそのもの。

そして、未来こそローマが栄えた象徴である。

人に化けた悪魔になんぞ、ローマは一片たりとも明け渡したことはない!そうだろう、伊東、ギントキ!」

 

謳う言葉は徹頭徹尾ローマのこと。

ローマから始まりローマで締める。

 

「民を導く者として、大きく差が開いたな」

「あぁ、百ゼロでネロだ」

 

暴君の名に相応しく、誰よりも先導者たる背中を示してみせた。

 

「あんた、皇帝の座を追われちゃいないよ。

連合ローマ兵はあんな態度だったが、心はガッツリ掴んだと思うぜ?」

「ふ…………当然で、あろう」

 

仲間を傷つけられて、銀時は不甲斐ない自分に腹を立てる。

 

ネロを頼んだと伊東に目で伝えて、銀時は刀を……”最後の王”の刀身を抜く。

動作を確認した定々は、呪いの的を再び銀時へと向けて────。

 

「貴様、その刀をどうして持っている!?」

 

刀の正体に気づいたとき、驚愕に見開いた眼のうち地面から最も近いものに刀が突き立っていた。

 

「ば、バカなアアアアアアアアア!?」

「お前は肝心な時になにも見えてねえんだよ」

 

守るものが増えて、同時に獲物を狙う狩人は1人となった。ここからは鬼の戦場。江戸の法を犯し、侍の国に唾を吐いた畜生を斬る時間だ。

 

銀時は無我になって走る。呪いを目で見ることが誤りだと漸く気づいた。殺気と要領は同じだ。来るべきところに、有るべき殺気が込められる。

 

ならば、駆け抜けるのは容易い。

 

「なぜ避けられる!?」

 

戦闘において素人の定々が、眠れる獅子を泡沫から微睡みにさせた時点で、視線で捉えることは不可能となった。

 

「俺は目の前だぜ、くそ狸」

 

突き立てた刀に手を掛けたとき、後方の床が呪いで弾け飛ぶ。定々が銀時をやっと見つけたとき、横一直線に点在する眼は全て斬っていた。

 

「あああぁーーあぁああぁー!!!!!」

 

断末魔が城を揺らす。定々の生き汚い人生を表す声を黙らせるように、2メートル上方にある眼も壁を掛けて斬り伏せていく。

 

『すごい、その眼を斬っていったらネロ皇帝に付着した呪いが薄くなっていくぞ!サーヴァントでいうところの霊格はまだ見えないけど、このまま眼を斬っていれば出てくるはずだ!』

 

肉柱を登り、斬って、走っては斬る。

頂点まで血を浴びながら猛る侍に怯えた定々は、悲鳴のような声を上げて自らを倒して床に叩きつけた。

 

「離れろオオオオオオオ!!」

「ぐっ!?」

 

受け身を取って起き上がる。

背後にはくたびれたネロを抱える伊東。息はあるが、呪いは徐々に身体を蝕んでいるのが見てわかる。時間がないというのに、定々は残った4つの眼に呪いを込め終えていた。

 

『まずいぞ、避けるんだ銀時君!』

『無理だ!あれ全方位に呪いを撒き散らす気だ!

早く下へ逃げ────』

 

自分一人なら間に合うかもしれない。

だが、後ろにいるネロの視線が言っているのだ。この城ですら、捨て置く気はない、と。

強欲な皇帝の眼差しに当てられて、銀時は特段の笑みを表に溢して、高々と叫んだ。

 

「見てろ……これが江戸の侍だアアアアアア‼︎‼︎‼︎」

 

撒き散らされる呪いを、”最後の王”で真正面から迎え撃つ。

 

無謀な挑戦だ。先程のネロが真正面から挑んでどうなったか、全員がしっかりと覚えている。それでも、銀時には確信があった。

 

この刀は、定々の呪いを斬ることが出来る。

そのために託された刀なのだ。

 

「────────あっぱれだ!」

 

地面すれすれで静止する”最後の王”。

銀時から後ろに扇状に避けて通った呪い。降りかかる死を斬り伏せて、銀時は後ろを振り向いて笑ってみせた。

 

『の、呪いを斬ったーーーーー!?

銀時君、人間辞めすぎじゃないか!?』

『本当に人かい!?オルレアンでも串刺し公を倒したり、灼熱の中で戦闘したり人外じみていたけど、まさか呪いまで斬っちゃうなんてね!

惚れたよ銀時君!帰ったら実験に付き合って♡』

 

「うっせえ!帰りたくなくなるから黙ってろ!」

 

モニター越しのやり取りの間に、ロマニがブネの解析を終えた。

 

『今ので全部の眼が砕けたぞ!

霊格は……あった、天辺だ!

そこを斬り落とせば定々は消滅する!』

 

「やらせるものか!

王に賜りし魔力で貴様たちだけ死ね!」

「往生際が悪ィんだよ。

章ボスごときが尺取っても嫌われるだけだっつーの」

 

『や、ヤバいヤバイやばい!!』

 

「今度はなに!?」

 

『3人とも、今度こそ退却するんだ!

定々の身体から魔力が溢れまくってる。霊格を壊しても、暴走させて道連れにする気だ!』

 

留めを刺そうと踏み出した足を止める。

ここまで来ておいて、最悪の選択を定々は強制してきた。

 

死or死。殺して死ぬか、爆発を起こされて死ぬ。

どちらも似た結末を、定々という畜生は迫ってくる。

 

『強制退去急げ‼︎逃げても間に合わない‼︎』

 

物語の土台を覆す仕業に、誰もが血相を変えて足掻く。

 

「万事屋、来い!僕の霊気に変えても────」

 

だが、間に合わない。

誰の努力も、名君と呼ばれた男の一手には届かない。この男は、最高の土台を最低の場所に落とす方法を知っている。それだけで成り上がった畜生なのだ。

 

「牢城災建 ブネ」

「やっちまえ」

 

だから、届いた声に銀時は佇んで応えた。

 

次の瞬間、天空から現れた影が肉柱へと手を伸ばし、

 

「やめな…いか!」

「スレッt───」

 

江戸城を突き破って災いの上から巨影が降り立つ。

 

邪竜ファヴニール。ジークの転身した姿に目を向く伊東とネロ、ついでにモニター越しのカルデア一同。

続けざま、定々の発動した爆発はファヴニールの前足に押し潰されて、江戸城の天辺から真下へと駆け抜ける。突き抜ける赤い炎は定々の断末魔となり、水星の如く死に果てた。

 

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