皆城椿は虚無の申し子である 作:仙儒
拝啓、お母さんズへ。
いかがお過ごしでしょうか? 私目は鬱で発狂しそうです。
多分、アニメ蒼穹のファフナーEXODUS始まったばかりの頃の真壁一騎ヨロシク余命3年在るか無いか位ではないでしょうか。
神世紀14年からいきなり神世紀298年に飛ばされて、訳がわからないまま後進育成しつつ戦場で極めてテクニカルな無双をしておりました。
いやー、あの頃は俺も若かった。今も若いんだけどさ。
訳も分からんまま転生してみれば醜い人間同士の暗躍に絶望とデスポエム溢れるくそったれな世界で皆城総士として生きていた。
しかも、言動も思考も俺の意思とは別に存在しているようで自分の意思での行動はできない…ただただ絶望を体験するだけでした。
で、成人式やって三日後の第四次蒼穹作戦でアニメヨロシク「ニヒト、怖いん? 俺も俺も」と言って消えた。次はザ☆beyondで総士君になるのかな? 何て思っていて、意識が戻ったらどう見ても未成年の母を名乗る少女が6人。姉を名乗る者が4人、よくわからない海を名乗るお姉さんが1人……海って何?
全員が大赦と名乗る秘密結社shi☆n☆zyu☆に所属しているお偉いさんの家系だ。
……神世紀14年においてこの家格は名ばかり銘家だったけど、街を歩けば注目されるくらいには名声を得ていたと思う。まぁ、13年という時間の殆どを過ごした乃木邸と上里邸は桁外れの金持ちだったけど。乃木の曾祖母ちゃんに男子たるやとかなり扱かれて、大変だった。剣道然り、居合道然り、合気道然り。
大変だったな、と過去へ思いを馳せながら何となく、気まぐれで買った缶珈琲を口に運ぶ。
結局、帰る方法は判らず仕舞い。大赦系列の病院からの余命宣告……本当に色々だ。
今日、この讃州中学では卒業式が執り行われ、眼下では保護者や生徒で賑わいを見せ、少し騒がしい。
三度目になる中学卒業に何とも言えない感覚を覚えなくもない。
それにしても、結局二十歳を迎えることなく終わるのは呪いか何かだろうか?
スマホを取り出して時間を確認して、屋上を後にする。
鞄は既に回収済み。風を始めとした勇者部のメンバーから恐ろしい量のメッセージがチャットアプリ「なるこ」を通して来ているが、無視を決め込む。
皆がうるさいだろうが、プランCの急用が入って気が付かなかったで押し通すつもりだが、ご機嫌取りで、きっとかめやで奢らされるだろうから、財布に少し余裕を持たせたい。銀行にもよらなければ。
他の皆に見つからないように学校から出て、近場のコンビニへよる。
「…………」
英霊の碑に足を踏み入れて目的の墓の前に、コンビニでコピーした卒業証書を供える。名前のみが刻まれた共同墓地に近い形をしているこの霊園では墓石にお供えをすることはできない。
あくまでも慰霊碑であって、母さんズの墓はまた別に存在する。
そちらには、約300年後の時空に来てからは行っていない。どうしても俺の中で最後の一歩が踏み出せずにいる。
そんなつまらない意地を張り続けて、遂には帰る方法も見つからず、存在すらほぼ使い切ってしまい、いつ居なくなってもおかしくない。
「帰りたい……、けど」
涙が零れる。
「ごめんなさい、母さんたち。あなたたちの息子で幸せでした」
本当にそう思う。ファフナーの世界では自分の存在を否定され、機械的である事を強く求められてきた。
この世界でも人々は相変わらず醜く恐ろしかったが、ファフナーの世界のような身も心も凍てつくようなさみしさと孤独と虚無感を味わうことは無かった。
友達こそ少なかったが、皆城総士になってから感じたことのないぬくもりを味わえた。少し親バカが過ぎるところとか煩わしい思いもなくは無かったが、総じて温かい思い出であった。
元の時代に帰りたい。けど……、戻ったところで俺に残された時間はあまりにも少ない。
俺一人の我儘と、母さんたちの思い。どちらを優先すべきか何て、考えるまでもない。
それに、ちょうど良かった、そうだろう? ニヒト。
―――他の勇者たちと違い、アプリではなくインフィニットなストラトスのようなパワードスーツに近いような形で待機状態は風のチョーカーと同じだ。他にも待機状態は指輪にもできる。―――それを、手で撫でる。
―――死に場所を探そう。
「ッ!!」
言葉にできない激痛に一瞬目の前が暗転しかかる。
「…………俺の生存限界、か」
さり気にクロッシングして嫌がらせをしてくるニヒトにイラつきながら拒否する。
痛覚遮断している筈なのに痛みで訴えてくる。ついでと言わんばかりに同化しようともしてくるし。
天の神から取り戻した外の世界。その太平洋のド真ん中に沈めてフェンリル起動してやろうかと思うが、解体行動とその命令だけは何が何でも拒み続けているニヒト。こいつ本当にファフナーか? いや、まぁ、実質ファフナーの皮被ったフェストゥムだったわ。
「ぅぅっ……、ぐぅぅぅーーー!!!」
時間を置くことなく、今度は激しい頭痛に襲われる。
体の自由が利かない。
遠のく意識の中で、誰かが駆け寄ってくるのが見えた。
今日、めでたく、風先輩と椿先輩の卒業式が終了した。友奈ちゃんは号泣して、風先輩もそれにつられて涙を流していた。
風先輩と椿先輩が中学生として集まることはもうない勇者部の部室に集まり、思い出話に花を咲かせる。
楽しかったこと、辛かったこと。本当に、特にこの一年間は激動の中を休むことなく走り続けた時間だった。
椿先輩曰く、「時間にするとそんな物なのか。もっと何年も一緒に時を刻んだと思っていたが……、そうか。俺も年をとる訳だ。……引退だな、お互い」
と、今一理解しずらい冗談を口にして風先輩の肩に右手を置き、風先輩もそれに乗るような形の台詞を言おうとして、その真意に気が付き「あたしはまだピッチピチよ!」と言って椿先輩をド突いていた。
自然と、話は椿先輩の話になっていく。その中で、最近感じていた違和感を口にした。
椿先輩の様子が最近おかしい気がする、と。本当に話のタネ程度の感覚で口にした言葉だったけど、その違和感は勇者部全員が思っていたが、口には出していない共通の認識だった。
本当に気が付かない小さな小さな違和感。
最初は気のせいだろうと片付けていたが、勇者部の面々はそれぞれ違った違和感や現象を感じたり見たりしていることがわかった。
稽古等をよく一緒にする銀と夏凛ちゃんは最近、椿先輩の動きが鈍い、と。
風先輩は椿先輩が左側に対する反応が鈍い、距離感を掴み損ねている感じがする、と。散華により片目を捧げていて、よく物の距離感を測りかねていた風先輩が言うのだから思い過ごしと跳ね除けることはできない。
樹ちゃんは転びそうになって手を差し出されて助けられた際に、椿先輩の手が異様に冷たかった事が気になっているらしい。
そう言えば、友奈ちゃんと私は椿先輩が杖を突いて大赦の病院に行くのを確認してる。その事について問いただしたけど、成果は得られず。結局、その後に杖を突いていた椿先輩を見なかったため、見間違いだったのだろうと友奈ちゃんと二人で納得していた。確か、風先輩が言うように左側に杖を付いていたような気がする。
そのっちに関しては抱きついたりしているため体温の低さと、左側に対する異常なまでの警戒心を感じたらしい。
友奈ちゃんの様子がおかしくなる少し前あたりから、椿先輩は目が悪いわけではないのに眼鏡をかけ始めた。それこそ、人目がある場合はどんなことがあろうと眼鏡を外さない位には注意していた気がする。
精霊がまだ居た時、青坊主に椿先輩の家の鍵を開けてもらい部屋にお邪魔した時に眼鏡をかけてみたが、ただの伊達眼鏡だった。
後は、そこそこの数の薬が置かれていた以外、生活感の欠片もない囚人みたいな部屋だと少し薄気味悪く思ってしまった。
小さな冷蔵庫の中には水の入ったペットボトルに流動食のゼリー、
「東郷が椿の家にご飯作りに行くようになったのはそう言う理由だったのね」
「ええ、酷かったですから」
皆で情報を共有する為に、気付いたことはどんなに小さなことでも話し合う。椿先輩がそれを徹底させていた。最も、天の神との最終決戦前には、話し合う余裕もなく怒涛の展開であったが。
一応、精霊を使って侵入したことはぼかして、それっぽいことを言ってごまかす。
それを振り返る中で、風先輩の言葉に苦笑いでそう返す。
「あいつ、普通に料理できんのに余りやろうとしないのよね~」と言う言葉に頷く。椿先輩は料理は愛情ではなく科学と豪語する。そして、それに恥じぬ調理法を取る。
教えられたり、調べたレシピは、それに乗っている以外のことは絶対にしない。塩や胡椒、果ては煮込み時間に炒め時間。量は0.1g単位でもオーバーすると最初から測り直す徹底ぶり。その為レシピに分量が明記されていないとその料理を作るのを諦めたりする。目分量を絶対に信じないその料理工程に風先輩が激怒したのは確か2年くらい前の勇者部ができたばっかりの頃だったかしら? と振り返り、懐かしい気持ちになる。
半面、分量や焼き時間等を明記されていることの多いお菓子作りにおいてはお店で出せるんじゃないかと勇者部内では周知のことだ。
時折、差し入れとして何処かに作って持っていくのも確認している。
報告と言う名の半ば思い出話に花を咲かせていると、そのっちが深刻そうな顔をしているのに気が付く。
いつもならば小説のネタになるとメモを取ったりしているのだけれど……。
「そのっち、何か他に気になることがあるの?」
「……ねぇ、ツッキーおにーさんの目の色って赤色だったっけ?」
「? 何言ってるんだ? 園子。椿先輩の目は赤く何てないだろう」
銀のその言葉にそのっちの目がスゥーと細められる。
そのっちは普段、ほわほわのほほんとした態度とは裏腹に勘の良さや観察眼は目を見張るものがある。それはバーテックス戦でも遺憾なく発揮されていた。
「見間違い、ということは?」
そのっちはその言葉に答えることなく、自分の鞄の中から眼鏡ケースを取り出す。
そのっちはパソコンを使う際に
ケースが開けられた中には片側のレンズが嵌められていない壊れた眼鏡。
「椿先輩と同じ…?」
樹ちゃんが言う通り、椿先輩がかけている眼鏡と同じデザインだ。
「そう、天の神と戦いの後に屋上に戻った時に回収したんだ~」
確か、その戦い中に眼鏡が壊れてしまったと言っていた。その際に左目を少し傷つけてしまったと左目を閉じていたのを思い出す。
皆してかなり心配したことだ。それによって左目の視力が少し落ちたと言っていたが、それは日常生活に支障は無いし、治療で元に戻ると言われたはずだ。
「ちょっと待ちなさい。何でそれをあんたが持ってんのよ、園子」
夏凛ちゃんが問いかけるが、それに答えずにそのっちが眼鏡をかけた。
「……え?」
レンズが無い方とレンズのある方でそのっちの
そこからの行動は速かった。
風先輩はスマホのチャットアプリで椿先輩を呼びかける。樹ちゃんもスマホでメールを送信していた。
夏凛ちゃんと銀は学校内を探してくると言って部室を飛び出していった。
私と友奈ちゃんは椿先輩の家に向かって走り出す。
椿先輩の家に向かう途中、駅の方へ向かう椿先輩を見つけた。
友奈ちゃんはが声をかけようとしたので口を塞ぐ。
友奈ちゃんには悪いけど、椿先輩の様子が明らかにおかしい。
人の機敏に一番敏感な友奈ちゃんが椿先輩の元へと駆け寄ろうとするのを何とか押さえ込みつつ尾行する。
ついたのは英霊の碑がある霊園。
天の神との最終決戦に於いて樹海が傷ついてしまい、現実には災害としてこの場所にも深い爪痕を残していた。
これまでに人々を護るために人知れず尊い命を散らした勇者や巫女を慰める場所。幸い、私達には縁が無い場所だ。
椿先輩は立ち入り禁止のロープをくぐり、中へ入っていってしまう。
友奈ちゃんは首を傾げているが、私には幾つか心当たりがある。
椿先輩は出自不明だが、乃木家に上里家、高嶋家、郡家、伊予島家、白鳥家、土居家、古波蔵家、秋原家、藤森家、安芸家と言った大赦の中でも強い影響力や発言権を持つ銘家から異様な程バックアップを受けていた。
そして、私の養子先である鷲尾家も椿先輩を異様に気にかけていた。銀の家もそうらしい。
椿先輩との縁談話も私に
椿先輩はその事について、「男の身で戦えるのが珍しいんだろう」とそれっぽいことを言ってはぐらかす事を続けている。
恐らく、それも本当のことだろうけどそれだけではないだろう。
銘家が挙って椿先輩を繋ぎ止めるために銘家の実子、或いは縁者の娘、酷いときには孤児院から顔のいい娘を引き取り、椿先輩にすり寄らせていたのがその証拠。
まぁ、縁談話やすり寄ってくる奴らはそのっちが一つ一つ牽制したり潰していたけど。
椿先輩は幾つか家名が刻まれた碑の前に何やら紙を置いている。
紙の置かれた碑には椿先輩を異様にバックアップしていた家名が刻まれている。
そんなことを観察していると椿先輩が独り言を呟き始める。
その背中は、今までに見たことがないほど小さく泣いているように私の瞳に写る。
椿先輩が急にふらつき、大きくたたらを踏みそうになるのを友奈ちゃんと一緒に支えようと、物陰から出て駆け寄ろうとして、
―――俺の生存限界、か。
「「え?」」
その小さな呟きが聞こえて友奈ちゃん共々足が止まる。
頭が真っ白になって手足が震える。
背筋が凍りつき、冷や汗が一瞬で溢れ出る。
「ぅぅっ……、ぐぅぅぅーーー!!!」
唸るような声が聞こえて真っ白だった頭が現実に引き戻される。
胸を抑え、倒れる椿先輩。
「っ! 椿先輩!」
友奈ちゃんが椿先輩に駆け寄り揺すり声をかける。
「どうしよう、東郷さん! 椿先輩が起きないよ! どうして! 椿先輩!」
友奈ちゃんが半ば錯乱状態で泣き叫ぶ。
私も混乱しているけど、友奈ちゃんが錯乱しているのを見ているからか、幾分か冷静になれた。
「何で? どうして? 天の神は倒したのに!」
私の悲鳴に近い声に反応してか、それとも樹海に勇者として呼ばれたからか。或いは両方か。友奈ちゃんも錯乱状態が幾分か落ち着いたようだ。
「……多分だけど、皆も来てると思うから探して合流しよう、東郷さん。椿先輩、もう少し我慢してください」
そう言って椿先輩を背負う。
その問いかけに答える人物の声は無い。
樹海の中に居ると言うことは敵が居る。それを倒すか追い返すかしないと椿先輩を病院に連れていくことは叶わない。
比較的安全地帯を探して椿先輩を置いておくことが最善の選択だが、その安全が絶対では無いし、そうしている間に椿先輩が死んでしまうかもと言う恐怖が最善の選択肢を拒む。
移動中に何体か小型のバーテックスを倒しながら皆を探す。
不意に―――、樹海の中に女性の声が響く。
声の主はこの状況がわかるらしい。
敵を倒したら詳しく話をする旨だけを伝えると声は聞こえなくなってしまう。
樹海での戦闘を終え、話をしてくれると言う勇者部へと向かうことなく救急車を呼ぶ。
途中で合流した面々と大赦系列の病院の緊急手術室に運び込まれて行くのを確認して、樹ちゃんがヘタリと地べたに座り込んでしまう。
そんな妹を見て、無理矢理引きつった笑みを浮かべて樹ちゃんに肩を貸す風先輩とは反対側を銀が肩を貸す。
近くの腰掛けに樹ちゃんを座らせると、重苦しい雰囲気を察した友奈ちゃんが空元気で飲み物を買いに行った。
戻って来て、買った飲み物を皆に配るが空気が変わることは無い。
誰も、何も話さない中で大赦の仮面をつけた二組の人物が来て軽い現状説明をする。
風先輩が今にも殴りかかろうとしたけど、そのっちが羽交い締めして抑える。普段、こう言った暴走を止める側の夏凛ちゃんは珍しく行動も口も挟まないで静かに二組の人物を能面のような感情の消えた顔で見ているだけだ。
「……私達も急に呼び出されてここに来たの。状況を教えてくれないかしら? 鷲尾さん達」
「安芸…先生?」
仮面を外して素顔をさらしたのは、何かと私達先代勇者のフォローをしてくれた人物であった。
大赦の面々は信用できないが、安芸先生は別だ。
上里家や藤森家には劣るが、大赦の代々巫女を多く輩出して来た由緒ある銘家の為に、ある程度の大赦の秘密主義に沿う形を取りはするが、勇者や巫女に対して重きを置く傾向にあり、嘘や誤魔化しと言った腹芸の類は私達にはすることはしない。
―――ただ、言えないことは言えないとはっきり言うのでこちらは歯がゆい思いや攻撃的な感情を向けてしまうこともあるが、他の大赦の者よりも心は置ける人物である。
それに、安芸先生が言えないと言うことは、闇に私達の予想通りと言うことだと椿先輩も言っていた。
まぁ、腹芸の類は椿先輩の方が上であることは今回のことで明るみに出てしまったわけだが。
「そう…、わかったわ。辛いのにありがとうね」
私は安芸先生なら何か知っていることはないだろうかと話を聞こうとしたところ、予想以上に速く手術室から医師たちが出てくることで聞くことは叶わない。
安芸先生と大赦の仮面を付けた人物だけが呼ばれ、連れて行かれそうになる前に友奈ちゃんと風先輩が医師に向かって椿先輩の安否を聞いてこの場から離れることを拒もうとする。
私達を見て視線を投げかけた医師に安芸先生は「構いません」と言うと椿先輩の今の状態を説明してくれる。
「現状、何とも言えない状態です。バイタル等は安定しているので数日間検査してみないと何とも」
そう言って、病室に移されていく椿先輩を見送ることしか出来なかった。
椿先輩が倒れて一月。
友奈ちゃんが抜け殻のように何に対しても反応しなかった時を思い出す。
椿先輩は目を覚ますことは無い。
検査の結果も原因不明。
椿先輩が倒れて3ヶ月が過ぎた。
時折、来る敵に怒りをぶつける日が続く。
勇者部の面々は学校には余り行けていない。
幸い、この不思議な世界は時は経過して季節は巡るけど、学年が上がったりすることは無いしそれについてこの世界の人達は疑問に思うことは無い……らしい。
西暦時代の勇者を支え続けた巫女である上里ひなたさんがそう言っていた。
その上里さんが色々良くしてくれているが、正直どうでもいい。
椿先輩は死んだように眠り続けている。
椿先輩が倒れて半年。
夏凛ちゃんと銀が体を酷使しすぎる鍛錬を続けている。
先日、銀が倒れて入院した。
安芸先生が色々と融通してくれたらしく、銀は椿先輩と一緒の病室に入ることになった。
人数こそ少ないものの、常に2人ならば手続き無しで泊まれるようにもしてくれた。
銀を除いた勇者部6人でローテーションを決めた。
椿先輩が倒れて10ヶ月。
寒さが身にしみる冬。
後2ヶ月すればこの世界に来て1年経つことになる。
相変わらず目覚めない椿先輩。
握った手の冷たさに言葉にできない恐怖を感じて、頭を振るう。
遂に空元気でも、無理にでも笑っていた友奈ちゃんでさえ、笑みを浮かべることは無くなった。
湯たんぽと、カイロを張れるだけ貼って椿先輩の寝ているベッドに入り込む。
抱きついた体からは、人の温かさを一切感じない。
それが、辛かった。悲しかった。怖かった。まるで■んでしまっているみたいで。
自分が冷えるのを気にしないで抱きつくのは、その恐怖を否定する為。
冷たく、身も心も凍えてしまいそうだけど、強く抱きつけば椿先輩の鼓動を感じられる。
それだけが救いだった。
とある理由で「郡家」、「古波蔵家」、「秋原家」、「藤森家」、「安芸家」が銘家として残っている。
無論、作中で名誉銘家として石碑だけ残っていた「白鳥家」も銘家として存在している。
・安芸先生
言わずと知れた大赦の人。この作品では安芸家は代々巫女を多く輩出して来た家計なのに自身に巫女の能力が無いことをとても気にしている。
今は勇者のサポートと防人の教官を受け持っている。
・三好春信
大赦の仮面その2
シスコン。