皆城椿は虚無の申し子である 作:仙儒
目を覚ましたらドアップで美森の顔がある。
……どういう状況?
周りを見渡してここが病室である事が確認できた。
そう言えば、卒業した報告を母さんたちの石碑にしに行った所で記憶が途切れている。多分、倒れたんだと思うけど。
一応、春信さんと安芸先生に許可を貰っていたとは言え立ち入り禁止エリアに入っていたのだが良く見つかったな。
スマホの電源は切っていたと思うのだけれどと考えながらナースコールを押す。
どの位眠っていたかを把握する必要がある。
目を覚ました美森や勇者部のメンバーに何処まで真実を混ぜた噓を報告するかを考えねばいけない。
検査を終えたら皆が勢ぞろいで出迎えてくれる。
驚くことに俺は約1年間眠っていたらしい。北極から帰ってきた一騎が同じ位昏睡状態だったよな? 確か。
ただでさえ、限られた時間の中で1年間も寝ることだけに使ってしまうのもなんだかなぁ。同化現象の治療手段が確立してない以上、本当にただ無駄に消費したの一言に尽きる。
できれば、独りになって色々思いをゲロって悲観したいのだが……。
「「「「「「「…………」」」」」」」
重苦しいを通り越して空気が死んでいる。心なしか勇者部メンバーのハイライトがいなくなっている気がする。
今すぐ何か理由を付けて逃げ出したいが、夏凛と銀がさり気なく逃げ道を探す俺の視線の先に割り込んでくる辺り、流石のコンビネーションだ。
はぁ、とため息をついて口を開く。
「さて、話をしよう」
もう少し気の利いた言葉は出ないかな~と自分のことながら呆れる。
皆は一回視線を各々と合わせた後
「「「「「「「…………」」」」」」」
再び無言でこちらを見るだけだ。何回か同じ問答を繰り返しているのだが、一向に答えが返ってこない。
「そのように無言で居られると、どうしようもないのだが…」
あちらが何処まで知っているか、感づいているかがわからない以上、此方から言葉を発することは避けたい。
必然的に相手からの質問に答えるくらいしか選択肢がない。
「
思わず漏れ出た一人称。自分は皆城総士じゃないと言う自己暗示の為に、態々変えたものだ。変えてからもう何年も経つが、中々変わらないものだな。
「ボクに何か聞きたいんだろう? このままでは話し合いにすらならない。説明の二度手間を避けるためにも可及的速やかに互いの情報共有が必要だ。銀、そちらの現状を教えてくれ」
「……え? ええt「「「「「「銀(ミノ(さん)ちゃん)!!」」」」」」…」
「……勘弁してくれ」
思わず頭を抱える。
恐らくは相手側はある程度情報共有してるだろうし、それならばこの中で一番誘導がらk…比較的話が通じる銀にそれらしい事を言って情報を引き出そうとしたら他のメンバーに止められた。
ある程度予想はしていたが、まさかここまで信用無いとは。
その判断が正しすぎるだけに何とも言えない。
ここまで細心の注意をしてくるってことは、皆、特に美森は俺のことをかなり疑っているだろう。
美森は普段の国防思想に基づく可笑しな言動や価値観が突出しているが、勇者部のメンバーの中で園子とは違ったベクトルで洞察力が凄まじい人物だ。
園子が直感による最善手を取るのならば、美森はありとあらゆるトラップを仕掛けて逃げ道を全部潰して答えへと導く探偵と言う他無い。
どちらも相手にしたくないが、園子の場合は本人が納得しなくとも、「思い過ごしだ」「勘違いじゃないか?」で煙に巻ける。巻けなくともそれらしい言い訳を出したりする時間を稼ぐことができるし、物理的な時の流れを挟むことで有耶無耶にできる確率はグーンと上がる。
しかし、美森はそうはいかない。
彼女は普段の何気ない会話で情報を逐一集め、確信が持ててから行動に移る。
つまり、美森が行動に出た時はもう詰みの状態だ。
ストーカー心理に近い洞察力に、彼女が犯罪に手を出さない事を祈りつつ、勇者部メンバーの状況を把握するのに彼女からもたらされる情報がどれだけ役に立ったか数え知れない。
それが今、俺を苦しめているんだけど。
美森から仕掛けてこない以上、確証がない状況なのだろう。
どこだ。何処までこちらの事情を知っている?
安芸先生に春信さんは、この件に付いてはこの二人は外されてた筈。こんなんでも今の俺、大赦の派閥争いだか何かに巻き込まれて銘家側の発言権を強めないために、行動を制限されていたりする。
安芸先生に春信さんから俺だけ外された背景がふざけすぎてる。人の敵はやっぱり人なのだ。
でも、安芸先生と春信さん。こちらが引く位優秀だから自力で俺の状況位辿り着いてそうなんだよな~。
勇者たちのバックアップの為の専用の医療機関と勇者システムの研究を中心に取り組む特別独立機関の重席は伊達じゃない。
まだまだ改良の余地があるとはいえ、満開しても代償を支払わなくて済むようにした功績は無視できるものではない。
正確には俺が提案したのを全部銘家側が全面支援してくれた結果なんだけど。大赦の巫女や勇者、防人達に頼るしかない状況なのに、彼女たちに対する姿勢がお世辞にもいいとは言えない状況だったから。
その特殊霊位医療機関『スクナ』を立ち上げて銘家側からかなりの出資出費を惜しみ無く与えられ、安芸先生と春信さん両名と銘家側の発言権強化に繋がった。
安芸先生と春信さんがどこまで俺の情報を掴んでいて、どこまで皆に流れてるかわからないからうかつなことを言えない。
まぁ、同化の”ど”の字も知らない世界だから詳しくは知られていないだろうけど、寿命についてはボソッと呟いてしまったことがあるし、俺の遺伝子情報を使って色々人道的・非人道的問わず様々な研究もされてると聞く。クローン技術やゲノム編集技術がそれ程進歩していなくて良かったとマジで思う。
何度目かわからないため息をつく。
情報整理と言う名の現実逃避をし、どこまでのカードを切るかに思考を割く。
美森がいる以上、下手にカードを切ると、その場はやり過ごせても後で必ず芋ずる式にばれる。
ついでにここは現実世界とは少し違う世界であることは説明されている。造反神とやらが現れたためらしい。既に何度も造反神側との戦いが起こっている状況なので、必然的に俺も戦いに出なければならない。
俺は戦えば戦うほど寿命と何かしらを差し出している。体温も人間の平均体温の半分に届きそうだし、体重も30kgを切った。日常生活に支障はないが左半身に痺れのようなものが出てるし、左目は視力を失いつつある。不幸中の幸いは、外部からわかる同化現象はおこっていないことだ。
と言うか、本来俺は
流石はザルヴァートルモデル。さすザルだ。
特に、ニヒトの開発コンセプトは敵を一体でも多く道連れにすること。そして、その名に恥じない圧倒的な力を発揮する。更に味方になっても弱体化しないというとんでも仕様(尚、寿命ry)。
まぁ、それに加えて本来俺が使えないSDP現象も扱えているのが大きいだろう。便利な反面、寿命がマッハだ。
「わかった。話そう。だが、僕もこの現象については良く分かっていないんだ。それを念頭に置いてくれ」
このままでは埒が明かない。
居心地も悪いし。それに、同化現象の症状は本当に千差万別。共通点と言えば指に付いている指輪跡と瞳が赤くなること以外はマジで共通点は無い。後、末期になると結晶になって砕け消えるいがいは。
それに、俺の知る限り同化現象については遠見先生と剣司以外あんまり腕のいい医師はいない。それらを総合すればマジでわかんないことの方が大きいので嘘にはならない。
「……じゃぁアタシから。椿さん。体の動きがおかしかったみたいだけど、何時からですか?」
銀が挙手して口を開く。
やはり、左半身については言い訳できないか。
「半年前からだ。予め言っておくが僕には満開のようなシステムは無い。大赦の方からも原因は不明と告げられている」
くどいようだが噓は言っていない。大赦からは本当に原因不明と告げられている。
そのことについてはどんなに皆が何をしてもそれ以上を確認のしようがない。
ただ、大赦上層部側も素直に事実を言ってくれているとも思えないが、少なくとも大赦の上層部にとって俺と言う存在はかなり特別であるらしい。
俺に対するごますりが乃木家当主や上里家当主よりも態度があからさまだ。
美人を揃えて俺にあてがおうとしたり、とにかくご機嫌取りと(俺に気づかれないようにしているつもりの)監視が付いている辺り何とも言えないよな。
銘家側もこれに対抗して縁談話が絶えないことからも俺と言う存在の重要性が伺える。
何人か怪しい奴らは同化して消したが、何か控えめに言ってアウトなブラックすぎる案件しか出てこないし、相手側が慎重すぎて重要な情報までたどり着けなかった。
……予測の域を出ないが、大赦は信用できないが、大赦の神樹様に対する言動だけは信用できる。
だから、神樹様がある程度俺に対して特別視するような神託が下りていると考えるのが自然だろう。
少なくとも、ポッと出の正体不明の俺の不興を買わないように動く程度には。
それ程のことをして、俺を取り込もうとしている以上、ここで大赦側が俺に本当のことを告げていないとしても、俺をどうにかし治療しようと本腰を入れているのは確かだ。治療が成功すれば恩が俺に売れる。
大赦上層部側が俺に自分達側につくように交渉する手札にするにはこれ以上ない程効率的だ。
個人的にはその行動力と手間を厭わない情熱を少しでも勇者たちに回していればもう少しいい状況や戦力が整っていたと思うのだが。
暫く話し合いは続いたが、此方から話せる情報はハッキリ言って全くない。殆どの内容も似たり寄ったりだった。
皆が不満顔であったが、こちらも余り情報は知れなかった。ただ、美森がボソッと「……傷が無い」と言っていたが、何のことだ?
椿先輩と寝ていた時に、徐に首に付けっぱなしのチョーカーに触れる。
風先輩と同色のチョーカー。余りそう言った物を付けようとは思わなかったけど、お揃いということに密かに憧れと羨ましさがあった。
「………あったかい」
椿先輩の体は熱を感じさせない冷たさなのに、チョーカーだけは熱を感じる。
「っ!!」
不思議に思ってチョーカーを触れて、外そうとしたとき、私の手に小さな緑色の鉱石の結晶が生える。
鋭い痛みと、異物が入って来る不快感と恐怖で手を離す。
結晶は綺麗に砕け散る。
―――君の名を僕は知らない。
椿先輩の声に、意識が戻ったのかと顔を見るが、相変わらず死んだように眠っている。
―――もし、この声を聴くならば。それが、君の運命となる。
「記録音声……、このチョーカーから?」
目の前の椿先輩が話していない以上、それ以外に考えられない。
―――僕の名は皆城総士。君がこの声を聞く時、もう僕はこの世にいないだろう。
目の前に椿先輩にそっくりな人が居る。
違いがあるとすれば、左目に大きな傷があることくらいだろう。
その人の体に、綺麗な結晶が生えて、どんどんとその面積を広げていく。
あれは椿先輩が武器を使う際に時々出てきたり、背中の羽のような物から伸びる棘のような装甲が刺さった相手を消したり、損傷した場所を瞬時に治したりするので出てきていた光景だ。
なのにどうして、こうも不安に駆られるのだろうか。
胸が締め付けられるのだろうか。
恐怖がこみ上げて来るのだろうか。
―――これが辿り着いた未来。
その答えは、椿先輩にそっくりな人が口にした。
―――存在が消える恐怖。痛みの後継か。怖いか? ニヒト。……僕もだ。
微かに震える声音で告げられる言葉。
その言葉を最後に、結晶が全身を覆い、パリーンと砕け散る。
その光景は悲しいほど幻想的で………。
砕け散った場所には、もう何も存在しない。
「っ!! ……夢?」
ハッとして目の前を見る。
さっきの光景はいったい?
夢とは思えないあの感覚。椿先輩にそっくりだったあの人物の諦めが、後悔が、痛みが、そして、恐怖を我がことのように感じた。
取り敢えず、椿先輩の体に結晶が生えていないかを急いで確認した。
夢の中のように結晶が生えていないのを確認して、いつの間にか眠っていたらしいと結論づけた。
安堵のため息をつくと同時に、椿先輩の安否確認の為とは言え、身にまとう患者服を脱がせる事をしでかした自分の行動に、今更ながらに羞恥心が芽生えた。
「幾ら椿先輩に勇者部皆で将来を誓ったからと言えど、段階と言うものがあるはずよ! それなのにこんな、夜這いのような行動までするなんて、わ、私ったらなんて破廉恥な!」
一通り羞恥心に悶えた後、自分が夢見が悪くて冷や汗で全身が濡れていることに気が付いた。
このままでは風邪をひいてしまうので、着替えることにした。
それにしても、椿先輩の体は相変わらず
ベッドから降りた際、美森の寝間着として使っている和服から
ニヒト「ニヤリ」
ニヒトが無言でアップを始めた。