皆城椿は虚無の申し子である   作:仙儒

5 / 7
 何時だか、銘家の”銘”は「名」の方じゃね? と言う意見が来たけど


 大社が大赦に名前を変えたように名家も銘家に変わったんだよ、きっと。

 っというのは流石に冗談で、

 大赦が、初代勇者達が組織の中枢に入って来たのが気に食わなくって勇者をその家産の銘柄(商品)に例えた皮肉から銘家になりました。この小説では。なので、(間違いでは)ないです。


悪役

 皆城椿………彼には悪いが私は、私達は彼が苦手だ。

 

 総士さんに瓜二つと言うだけではなく、彼とほとんど変わらない仕草をする。

 

 その仕草の中にひなたと同じ癖を見た時の言葉にできない複雑な気持ち。

 

 思わずにひなたを睨んでしまったのはなぜだろうか? 自分のことなのに未だに理解しえないことである。

 

 この世界の事と風さん達未来のメンバーと仲がいいことから未来から来たことはわかるんだが、彼らとのやり取りを見ていると胸の辺りがムカムカして、口の中が甘くなるような気がする。

 

 それとは別に、総士さんにそっくりすぎて他の女性と仲良くしてるのを見てると胸が締め付けられるような苦しさと、ズキリとした鈍い痛みと切なさがこみ上げてくる。

 

 皆城と言う姓からわかるように彼は総士さんの子孫なのだろう。

 

 彼は誰と結ばれたのだろうか? 等々、色々理由がある。

 

 中でも一番大きな理由は単純に彼と接しずらい、というのも大きくはある。まぁ、それは彼が悪いわけではなく、完全に私達側に原因があるわけだが。

 

 左目の傷の有無以外総士さんと同じすぎて、彼と接しているのではなく、総士さんと接している気持ちになってしまう。彼を彼として見ていないと言う罪悪感と後ろめたさに駆られてしまうのだ。

 

 他にも様々な理由があるが平成から来たメンバーは雪花と棗以外は概ね彼を避け続けていた。

 

 こういう時、雪花の割り切りの良さと、棗独特の価値観が羨ましいと感じると同時に見習わねばならぬと思うのだが、現実はそう簡単に行かないものだな。

 

 所で、棗は彼のことを「ここに集ったメンバーの中で最も私達に近しい存在だと海が言っている」と言う意味深な台詞が気掛かりだ。

 

 そんななあなあで煮え切らない態度を貫く中で方向性の違いで意見が割れ、彼と対立してしまった。

 

 総士さんと同じでちゃんと客観的に見ても筋が通っている。神樹様の神託としてひなたから予め話されていなかったら彼の意見に賛同していた位だ。

 

 そんな中、ひなたの発した言葉に彼が過剰反応し、激昂した。

 

 あれは、「死」と言う単語に反応した。踏み込んではいけない彼の中に土足で踏み込み、見事地雷を踏み抜いてしまったのだ。

 

 その折、彼はひなただけではなく………私も睨んでいた。親の仇を見るような顔で見る、と言うのはああ言う顔を言うのだろう。

 

 ひなたのおやつを食べてしまった時とは別ベクトルでの恐怖を感じた。ある意味、敵に立ち向かうよりも恐怖を感じたかもしれない。

 

 彼の何に私とひなたは触れてしまったのだろう。それを知るには余りにも彼を知らなさ過ぎた。

 

 交流を持とうとすらしなかった代償だ。

 

「彼は……、何時もああなのか?」

 

 今更ながら、彼を知ろうと問いかける。

 

 問いかけておいてなんだが、それは彼とは事務的なやり取りしかしなかったがそれは無いと断言できる。

 

 勇者部の中心には彼の存在があった。それだけ皆の中の精神的支柱を務めるような人物がただの癇癪をおこすことは無いだろう。

 

 何処か千景と雰囲気が似ている東郷が否定の言葉を返してくる。

 

 尚更、いたたまれない気持ちに駆られる。

 

 彼にあんな顔で睨まれたのが、そして総士さんと同じ声で言われたからなのだろうか。

 

 彼だけではなく、総士さんにも責められているような気がして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛び出して、フェストゥムの力を使いワープする。

 

 やってしまった、と頭を抱えるが結果としてこれはこれで良かったのかもしれない。怪我の功名とも言うべきか。

 

 ひなた母さんに強く当たってしまったが……まぁ、いい機会だったのだろう。

 

 こういう時でないと本音を零すことは無かったと思うし。

 

 部屋の荷物をまとめる。

 

 ボクの家に私物は少ない。

 

 着替えを3、4着だけしか詰めていないと言え、スポーツバッグに収まりきる荷物量は流石にどうなんだろうか?

 

 薬類は別の小さめのバッグに詰め込んでいる。

 

 部屋を見渡す。

 

 もう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いや、たぶん死んでも戻っては来れないんだけどさ。結晶になって砕け散るからせめてもの存在した証である死体が残らないし。

 

 後はベッドの写真と日記を持てば終わりだ。

 

 

 ベッドにある小物入れスペースを開けようとして、びくともしないことに首を傾げる。

 

 答えはすぐにわかった。………敵襲か。

 

 皆の前に戻るのは少し気まずい。

 

 ニヒトを起動しようとしたら、昼間に会った人物が目の前に現れて手を握り顔を左右に振るっている。

 

 赤と黒を基調とした勇者服、美森には負けるがスタイルが良い。どことは言わないが大きくそして、揺れている。

 

 体のラインがハッキリ表に現れているので目のやり場に困るのだが。幾ら転生者だからといってDTを舐めないで欲しい。……何故か目の前が霞んできたような気がするが気のせいだろう。

 

 にしても、新たにこの世界に召喚された勇者だろうか?

 

 過去で彼女に会った事は無い。そうなると、あり得ないことだが未来で彼女に会っているのか? もう、タイムリミッドが秒読みで来てるボクが。

 

「椿様……」

 

「待て、待ってくれ。ボクは様付される程の者ではない」

 

 大赦からの縁談か、銘家側からの縁談でもしかしていただろうか?

 

 いや、それは無い。それならばボクにとって何かと縁があるこの顔を忘れる訳がない。

 

 少し泣きそうな顔をして、ボクの手を握る力が強くなる。

 

 美森の散華で記憶が無くなったのを見た時の園子のような悲痛に歪んだ顔をしている。

 

「……初めまして。私の名前は赤嶺友奈と言います。以後、貴方様の身の回りのお世話等を申し付けられています。よろしくしてくださいますか?」

 

「………後で、説明をしてくれるのであればな」

 

「わk……心得ています」

 

 友奈顔の中では、だいぶ落ち着いた物静かな言葉が発せられる。

 

 しかし、赤嶺と来たか。

 

 大赦の中では真ん中よりも少し上あたりの、余り良い噂を聞かない銘家だ。

 

 まぁ、一部の権限において乃木家や上里家ですら口出しできないことから来るやっかみが7割位を占めているが。

 

 ボクに縁談を持って来た鷲尾家現当主(美森の義父)と赤嶺家の当主が鉢合わせて嫌味と皮肉の舌戦始めた時は自分でもビックリするほど低い声が出て両家当主が土下座しながら謝罪してきたのが印象的だったりする。

 因みに、土下座して謝罪しながらも嫌味や皮肉の罵倒の言葉が途切れなかったのでボクは面子も気にせず家に帰った。あのままだと胃に穴が開きそうだったし。

 

 後日、両家から謝罪の品がこれでもかと送られて来た。

 

 その殆どが園子と銀と美森(須美)の胃の中に消えた。謝罪の品は原則として形として残る品はNGだからな。高級和菓子の山を眺めながら、洋菓子が一つもないなと疑問を口にしたところ、ケーキのような皿を汚す物は謝罪先の手を煩わせるからダメ。と、めんどくさいしきたりの暗黙のルールや取り決めがあることを美森(須美)が怒りながら説明してくれた。どうやら養子先の義父を説教したらしい。

 

 ボクとしては、和菓子よりも洋菓子の方が好きなので皿が汚れても良いからモンブランやチーズケーキやチョコケーキが良かったのだが、と呟いたら美森(須美)のハイライトが消えたのはいい思い出。

 

 後日、美森(須美)の手作りのチョコケーキが振る舞われた。ハイライトの消えた素敵な笑顔で。

 

 それから、美森(須美)による調教と洗脳じみたことをされ始めたがそれは置いておこう。

 

 ただ、真夜中にボクの枕元で行燈を持ちながら「あなたは和菓子が好き、あなたは和菓子が好き」と壊れたラジオのように繰り返し続けたり、通りゃんせを小さな声で歌うのはやめてくれ。本気で呪いに来てると身の危険を感じた。

 

 

 話がそれた。

 

 治安維持などの統括においてほぼ全てを任されてるのが赤嶺家だ。

 

 何かと面子を気にする銘家は、どちらかと言うと成り上がりの野蛮な家と言うイメージが赤嶺家にあるらしく、面白くないのだ。銘家とは、優雅で華やかであるべき……みたいな。ここら辺の確執はわからない。何せ江戸幕府よりも長く続いているのだ。神世紀は。

 

 一応、この世界に来てからも大赦上層部はボクに必要以上に媚びを売ってくるし、銘家側はボクへの点数稼ぎが続いている。

 

 正直、失礼を承知で言えば他の銘家に煙たがられている赤嶺家が(頼んでもいない)ボクの傍付きを申し付けられるとは思えないのだが……。

 今までは銀と園子がボクの傍付きモドキをしていたのだが。ボクの方が彼女達の御守をしていたようなきもするがこの際置いておこう。

 

 

 まぁ、この際どうでもいいか。

 

 彼女の真意はどうであれ、悪いようにはされないだろうし、もしもの場合に抵抗する力は幸い持っている。

 それに、実のところ悲観している所も確かにあるが、前世も全前世でも家出と言うものを経験したことがないので不謹慎だが少しドキドキしている。

 

 自棄になっているのももちろんあるが、消えるまでにできるだけ多くのことを経験したい。

 

「後のことは、私が引き継ぎますから。わたしが」

 

 握られてる手に力が籠り、微かに震えてもいる。

 

 ゆーな母さんと友奈と同じ顔をしているが、何処か健康的に焼けている彼女の顔を覗き込む。

 

 潤んだ紅い瞳がこちらを見ている。

 

「ッヅ!!」

 

「椿様!!」

 

 生理現象である涙が流れる。

 

 この痛みは……、ファフナーに神経を繋ぐ針をぶっ刺された時の痛みに似ている。

 

 あれ、パイロットスーツ有でも普通に痛いのに、それ無しだと形容しがたい痛みになるんだよな。いや、本当に勘弁してくれ。

 

「大丈夫だ、赤嶺。……いや、本当に大丈夫だから止めてくれるとありがたい」

 

「………」

 

 涙目になりながら、必死に体に触れたりして怪我等が無いかを確認している。

 

 こいつ、本当にゆーな母さんか友奈じゃないだろうな。

 

 とる行動が全て一致すると言うミラクルを起こしている。

 

 その行動を見て、胸の奥がじんわりと温かくなる。それと同時に、郷愁を誘うような切なさを孕んだ矛盾した感情が胸に去来する。

 

 久しぶりの胸の熱に、まだ自分が存在していると実感する。

 

「椿様、大丈夫ですか?」

 

「………」

 

 すり減り続けた心の脆弱を埋めるために、思わず赤嶺に抱き着いてしまう。

 

 最初こそ驚いたような反応をしたが、彼女はボクの安否を気に掛ける声をかけた後、優しく抱きしめ返してくれる。

 

 同化現象を察知させないために、他者との物理的接触には人一倍気を使ってきた。その弊害だ。

 

 

 

 ああ、温かい。命の温かさだ。

 

 

 

 とめどなく流れる涙を堪えることが出来なかった。

 

「ああ、……ああ」

 

 曖昧な返事だけを彼女に返す。

 

 この熱だけは、覚えておこう。ボクが人であるために、ボクが人として終わりを迎えるために。

 

 そして、理由も聞かず抱きしめてくれている彼女の好意に感謝しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は敵役として、神樹様の世界に呼び出された勇者。

 

 まさか、この世界で初めて勇者の戦闘衣になれるとはね。

 

 取り敢えず、カミサマの言いつけで私の存在を打ち明けるのは彼方にゲストたちがそろってから。

 

 それまでは偵察用の人口精霊でコッソリと覗き見をする毎日。正直、気乗りしないんだけどな~、こういうの。

 でも、御役目だから仕方ない。

 

 何回かの威力偵察で、相手側が相当いらだってるのがわかった。

 

 カミサマから渡された記憶……この場合は記録って言う方が正しいのかな? とは反対の印象を受けるのに疑問を持って、攻めるのを止めて情報を集めるのに集中する。

 

 こういうのはれんちの役割なんだけどな~、と何事にも自信を持ち、完璧主義者でプロマイドにサインを書いて配っている親友のことを思い浮かべる。

 

 どこか庶民的だけどお嬢様っぽい印象を受ける親友の作るうどんが食べたくなった。

 

 

 それは偶々、本当に偶然だった。

 

 相手側の勇者達のが現状よろしくない状態になり、勇者システムに完全な歪みが生じて勇者に変身できない状況になってしまったみたいで、私の御役目遂行ができなくなってカミサマからどうにかしろと丸投げされて原因を探っていた。

 

 勇者に変身する勇者システムは変身する少女たちの心の状態が直結している為、今の彼女達の状況では神樹様との間に霊的回路を生成できないのだ。

 

「正直、心の問題はこれをしたから解決! って簡単にいくものじゃないからな~」

 

 頭を悩ませながら、三ノ輪銀ちゃんが運び込まれた病室にコッソリと様子を見に行く。

 

 薄暗い廊下に、微かにすすり泣く声が聞こえた。

 

 どうやら三ノ輪銀ちゃんが泣いているらしい。

 

 鳴き声が聞こえなくなるまで、暫く待つ。

 

「御役目柄こう言った行動を要求されることが多かったけど、どれだけやっても慣れないな~」

 

 細心の注意を払いながら音を立てないように個室に入り込む。

 

「え? ……噓、だよね」

 

 呼吸が止まる。

 

「噓、噓、何で…」

 

 ドキドキと破裂しそうになる心臓、指先が震える。

 

「っ!」

 

 何とか触れたその指先からは、人の熱を感じない。

 

 取り付けられている機械の規則的な音で、生きているのがわかる。

 

 理由は……、多分”同化現象”。

 

 現実世界で右手が結晶となって砕け散った光景が頭をよぎる。

 

 何が原因とか、詳しくは教えてもらえなかったけど、目星は付いてる。

 

 この椿様が何処の時間軸の椿様かはわからないけど、これ以上茶番劇に巻き込むわけにはいかないかな。

 

 カミサマに確認してみても、何故ここにいるかは不明。ただ、丁重にもてなせ、絶対に粗相をするなと釘を刺される。

 

 そんなのはわかっている。椿様のこれを治せないのか聞いてみると、できないと返ってくる。カミサマでもできることとできないことがあるらしい。

 

 

 

 それから、花を一輪椿様の病室の花瓶に挿す日々が続く。

 

 相手側の皆が2、3日おきに泊まり込みで椿様の所にいるせいで、皆が寝静まった真夜中に数分しか病室内にいれない。

 

 昼間は精霊を通して皆を観察する。皆、献身的に意識のない椿様の介護をしている。

 

 本当なら私が一人ですることなんだけど、今回だけは彼女たちに譲ってあげる。

 

 そもそも、彼女たちのメンタルが落ち着いてくれないと本来の御役目ができない。

 

 

 

 椿様が目覚めてからは、椿様の家の掃除と洗濯、料理を作るルーティーンが繰り返されている。とは言っても半月位で両隣に園子ちゃんと銀ちゃんが引っ越してきて続けることができなくなっちゃったけど。

 

 やっぱり、料理のレパートリーは増やさなきゃ駄目だよね。助けてれんち……はいないんだった。

 

 幸いなのは、椿様を料理で喜ばせたいと料理の練習始めたら、料理に詳しいカミサマ達? が積極的にアドバイスやコツを教えてくれ始めたことだ。

 料理の腕はメキメキと上がっている。最初は焦がしていた肉じゃがが普通に食べられるようになったんだからこれはかなりの上達だよね?

 

 季節が一つ過ぎる頃。

 

 当初よりもだいぶ時間がかかっちゃったけど、いよいよ本格的な戦いになるからその挨拶に行ったら椿様とひなた様が意見の対立で言い合っていたら椿様が激昂した。

 

 ビックリした。椿様でもここまで感情的になるんだと少し安心もした。だけど、普段理知的で温厚な椿様をここまで怒らせるなんて、ひなた様何を言ったんだろう?

 

 結局、入るタイミングを逃した私は椿様の方を優先することにするのだった




 12月27日に皆城椿誕生祭書こうと思ったけど間に合わなかったよorz
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。