皆城椿は虚無の申し子である 作:仙儒
12月27日。
皆城総士の誕生日。
ボクの誕生日でもある。
幼少期はクリスマスに一緒に済まされていたので、24日が誕生日だと勘違いしていたが27日に必ず母さん達に姉さんズが揃って誰がボクを抱き枕にして寝るかで揉めるのを不思議に思い、思い切って聞いてみたことで発覚した事実だった。
全員が何とも言えない表情をしていたのが印象的だった。尚、次の年からは誕生会は相変わらず24日に済ませてしまうが、27日に再度「誕生日おめでとう」と言われるようになった。
そんな母親達と姉達、友を裏切って敵に回ったのだ(正確には敵ではないが)。
もう、誕生を祝ってくれる人は誰一人としておらず、ただ嘗て特別な意味を持っていた日がただの経過するだけ……消費するだけの何もない日に戻っただけ。
今頃、風達は年越しの為の準備に忙しなく動いている事だろう。彼女達はイベントごとが大好きだからな。
それに、人数も多い。きっと……楽しいのだろうな。
縁側に座りながらそんなことをボーっと思う。
造反神側の赤嶺が根城にしている場所は赤嶺一人が住むには広すぎる、美森と須美が目を輝かせて喜びそうな武家屋敷仕様となっている。
ひなた母さんから逃げ出したボクは、その勢いのまま生まれて初めての家出と言うものを遂行し、何故か赤嶺に拾われた。
行き場が無かったのと、自棄になっていたからその勢いで寝返ってしまったが、だからと言って赤嶺は重要な情報をポンポンとしゃべりすぎなような気がする。
造反神側の真の目的と言うべき、見事なマッチポンプ作戦を早々にばらすとか情報管理に問題しかないんだが……。
等の赤嶺自身に、その情報を持って勇者部に帰るとは考えないのかと聞き返したら「その時はその時だよ」と軽く返された。
確かに、ボクがこの情報を持って勇者部に戻ったところで、神樹様の中の立ち位置を決めかねている神が決意をするまでこのマッチポンプは続くだろう。
そう考えると、どう転ぼうが貧乏くじしか引けない赤嶺に同情を禁じ得ない。しかも、赤嶺陣営は赤嶺一人だけだ。
その寂しさは相当なものだろう。幾ら勇者だ何だと言ったところで十代の少女に変わりないのだから。
段々と感覚が遠のいていく。
同化現象の進行を直に感じる。
造反神側の指令ポジションに付いたボクは、作戦を立て、それを赤嶺に実行させている。
普通は逆じゃないか? と思いながらも、結構ノリで作戦を立案してそれを赤嶺が引きつった顔で了承するのがテンプレになっている。
敵陣営に危機感を煽るのと、結束を強めるのに極めて効率の良い作戦プランだ。まぁ、そこにボク自身の嫌がらせも含まれていることは否定しないが。
ボク自身も何度か前線に立ち、造反神側の刺客であると皆には嘘を吐いた。
何故か赤嶺にヘイトが集まってしまったが、ボクが倒すべき側の人物であることを認識させるのが目的であるため、気にしないことにした。
「終わりに近づいている、か。ボクの皆城椿としての御役目も、乃木椿としての役割も」
―――そして、ボクの
良く晴れた青空を眺めながら呟く。
「あの、椿さん」
「わかってる、………行って来る」
赤嶺は最初、ボクを様付で呼んでいた。その様付をやめるようにするのに結構な時間を費やした。今でも気を抜いたり、テンパったりすると様付に戻るし。
その赤嶺は何というか、過保護だ。
何かと一緒にいたがる彼女が、今回の戦いをボクだけに任せるのは非常に珍しい。と言うか初めてだ。
星屑に命令を下す。
今まで様々な作戦で風達に危機感を煽ってきた。
こちらが数では圧倒的に有利なのを利用しない手は無い。
数で押しつつ、罠を張る。流石に圧倒してしまうことが無いようにギリギリを見極めて命令を出さないといけないのが何とも言えない。
と言うか、赤嶺には悪いが、良くこの絶妙な匙加減を彼女ができていたものだと感心する。
赤嶺はミステリアスを思わせる言動をとっているが、実際はポンコツだし、ガチガチの体躯会系の思考をしている。
夏凛のポンコツと銀の根性論、友奈の何処か抜けている所を足しただけで割らずに終わった感じが今の彼女にボクが抱いている印象だ。後、筋肉があれば何でもできるを豪語する生粋の筋肉信仰者だ。ボクの腹筋がお気に入りらしく、良く見せて欲しいや触らせてくれと言ってくる。赤嶺の誕生日のさい、何が欲しいかわからなかったため、直接聞く愚行を犯した過去のボクを思いっきりぶん殴りたい。その日一日上半身裸過ごすことを強要され、事あるごとに彼女に触られたり、何なら頬ずりまでされて過ごした。秋の深まる10月の出来事である。
北極ミール攻略戦において、総士がフェストゥムに教えた消耗戦。
総士は痛みに耐えて戦う戦法と痛みに対する特別視が強調された戦いだった。
思えば、遠くまで来たものだな。
時間的にも、物理的距離でも。
「皆城! 覚悟!」
「なっ、しまっ!!」
まさか、ここまで速く合流して来るとは思わなかった。
ボクの高次元防壁は精霊バリアのように自動で発動し、攻撃を防いでくれることは無い。
それでも反射的に後ろに下がったのと、中途半端ではあるが超次元防壁が張れたことが運命を分けた。
視界が急に狭まる。熱が左目から頬までに走る。
若葉母さんの生太刀の切っ先がボクの左目から頬まで切り裂かれたと理解した。
涙とは違う生温かいものが滴り落ちる。
左目が焼けるように熱い。
吐き気を含む軽いパニック障害を起こしかける。
それも一瞬のこと。
視界がぼやける。鋭い痛みが襲う。
左目を押さえて嗚咽を零す。
そこからは、余り憶えていない。ただ、心が凍てつくような寒さと孤独を感じていたような気がする。
病院のベッドの上で目を覚ます。
右手と腹部に温かみを感じて顔を動かしてみると赤嶺がボクの右手を握りしめ、腹に突っ伏している。
視界は……、狭いままだ。
自由に動く左手で顔を触ってみると布が巻かれている。
そうわかると、急に左目がジクジクと痛むような気がする。
「んっ……ん? っ! 椿様!」
「目覚めて直ぐで悪いが、状況を教えてくれ」
「ダメです! 左目が大変なことになってるんですよ!」
ボクのことなのに涙を流しながらボクの胸に縋り付き、嗚咽を漏らし始める。
不謹慎だが、気分のいいものだな。まだ、ボクもここにいていいような気分になる。
―――ボクの居場所等、もう無いのに。
「赤嶺」
「ダメ゛です゛」
「赤嶺」
「ダメ゛です゛」
同じ事を繰り返し問いかけながら、彼女の頭を撫でる。サラサラとした感触が心地よい。昔は妹たちが順番を決めてボクに髪をすいてもらいに来たものだ。
母さん達とは思わぬ再開を果たしたが、妹たちとは今生の別れになってしまったな。
「………ゆうな」
「!! い゛や゛っ゛!」
「遂に断るのではなく、拒絶か。………幾らボクとて落ち込むことはあるんだが。そんなに嫌だったか? 名前呼び」
「ぢ、ぢが……ぅぅぅ」
「すまない…、今のはボクが悪かった」
ボクなりの場を和ませるジョークのつもりだったんだが、想像以上の彼女のメンタル面でのダメージの大きさに認識の修正が必要だな、とガバッ! と顔を上げてボクの顔を見つめながら涙の勢いが心なしか増したような気がする彼女に謝罪の言葉を口にする。
そう遠くない未来にボクの
正直言ってしまうと、ショックであるのは事実だ。今まで当たり前にあった体の機能が消失するのだ。それも視界と言う人間の情報収集能力の約9割を占める場所の片方が無くなったのだ。
だが、それでもいいと思っている自分も居る。左目は段々と見えなくなっていたし。自棄になってるのも否めないが。
―――ああ、でも。心が痛いな。
普通にその場の弾みと成り行き、加えて戦場でボーっとしていたボクが間違いなく悪いのだが。それでも思ってしまうのだ。
そんなに憎かったのだろうか。邪魔だったのだろうか、と。
左目を潰したのが母親だったこと。そして、運悪くその傷を与えられたのが誕生日だった不幸が被害妄想を加速させる。
―――そんなに憎いなら、何でボクなんかを育てたのか。赤ん坊の時に
今まで奇跡的に。噛み合わずとも何とか機能していた歯車は、今度こそ完全に空回りをし始めた。
椿さんが敵に回ったことに多大なショックを隠し切れないアタシ達神世紀メンバー達。
西暦からやって来た勇者達との意見の食い違いが小さな亀裂を生んでいたが、造反者側の勇者である赤嶺が精神攻撃に特化した精霊を使役したことで、椿さんは操られている……或いは洗脳されてる可能性が大きいと結論がでた。
皆で赤嶺を捕まえるために集中攻撃を仕掛けるが、何時もいい所、或いは捕まえることには成功するが突風が吹き赤嶺が姿を消すことから須美と園子がワープのような移動系の能力を持つ精霊を使役している可能性が高いと赤嶺を捕まえる案は没になり、取り敢えず赤嶺を集中的に攻撃する作戦になる。
アタシたちがこの世界に呼ばれた理由は理解しているつもりだ。
敵は倒す。神樹様を護る。けど、西暦組の勇者と防人達と言うメンバーの多さと強さを考えた結果、アタシ達は(小さいアタシたちを除く)星屑を倒すのよりも赤嶺を叩くのを最優先に行動をしている。
敵の頭を叩くのは戦いの定積? だと須美が言っていたし赤嶺を倒せば戦いが終わる。
悪いとは思ってるけど、
勿論助け出すが、先ずは星屑とバーテックスを倒すのに集中してくれと言う若葉さんとひなたさん達西暦の勇者達と、敵は倒しはするし、神樹様も護るけど椿さん救出を最優先に行動するアタシたち神世紀の勇者と防人達の衝突が目立つ。
それに、西暦勇者達の椿さんに対する態度と、椿さんが
「なぁ、園子」
「なぁに? ミノさん」
「椿さん、ちゃんと楽しく過ごしてるかな?」
「ん~、どうだろうねぇ。私にはわかんないや」
「そっか、そうだよな………」
園子が全力で調べているとはいえ、椿さんの病状に関することは何一つ掴めていない。ただ、カルテには余命3年と記されていただけ。しかも、椿さんが倒れる前に書かれた記録。詰まり、実際は後2年もない。
椿さんが敵に回ってから通院している形跡も無い。もしも、急激に病状が悪化したら。アタシ達の預かり知らぬ所でで死んでしまったらどうしよう。
そんな恐怖と焦燥感が頭の中をグルグルと回り続ける。こういうのをドツボにはまるって言うんだろうな。
寒さとは違う理由で体が震える。
隣で寝ている園子がそっとアタシの手を握ってくる。温かい。
「椿さん……と、一緒に過ごしたかったな。クリスマス」
椿さんが死んだらどうしようと、不安を口にしそうになったのを何とか飲み込み、別の言葉を紡ぐ。こちらも本心ではあるんだけど……。
どちらも勇者部初期メンバー全員が抱いてる恐怖。気に食わないけど、たぶん防人達も共通してる思い。園子も例外じゃない。
掛け布団を被り、深呼吸する。
布団は定期的に干したり布団乾燥機をかけているけど、椿さんの使ってた布団だと思うと震えが少し落ち着く。
「ツッキーお兄さんの臭いがするような気がするんよ~」
どうやら園子も同じ事をしてるらしい。
いつのころからか椿さんが居る前では椿さんの事を先輩と呼ぶようになった園子。
………あの時の事、気にしてるんだよな。
無理もないか。
園子のように当たりはしなかったけど、園子の言動を止めようとはしなかった。
椿さんの代償が何なのかはわからない。体の機能を捧げているわけではないみたいだけど、それ以外はカルテに書かれていた。
人間の平均体温の半分以下の体温。アタシの三分の一位の体重。
左半身の麻痺と、それに伴う内臓機能の低下。医者でないアタシにはこの病状カルテに書かれていたことは殆ど把握できないけど、素人目に見てもただ事ではないのは理解できた。
………椿さんには、命を護ってくれる精霊が付いていない。
人間が生命活動を維持するのに必要な体温よりもずーっと低い体温。最早、風邪をひくだけで簡単に死んでしまう状況だと園子が言っていた。
そして、少なからずあった西暦勇者達とアタシ達神世紀の勇者に決定的な亀裂が走る。
それも最悪な形で……。
「うぅ゛、あぁぁぁぁぁ゛あ゛あ゛!!」
顔の左半分を押さえて唸る椿さんとその前に驚愕した顔で立ち尽くす若葉さん。
椿さんが押さえている指の間から夥しい血が滴り落ち、紅い水たまりを作っている。
「…おm「ワァカァバァーーー!!! あんた、あんたねぇ!!!」風さん! くそっ!」
思わずに攻撃しそうになったのが、横から風さんが大剣を更に巨大化させて振り下ろしたので我に返り、手に持っている斧剣をぶん投げて大剣にぶつけて若葉に向けられた斬撃を逸らす。
「夏凛!」
「わかってるわよっ! バカ風、気持はわかるけど今はそれよりも椿さんのことが最優先よ!」
夏凛が短刀を投げつけ牽制しながら風さんに接近して思いっ切りボディーブローかまして、倒れた風さんを羽交い締めにする。
「離しなさい、夏凛! あいつは、若葉は!」
「わかってる、わたしも後で加減なしでぶん殴るから! でも、今は、椿さんが!」
激しく抵抗している風さんを抑え込みながら言葉を紡ぐ夏凛の悲痛な叫びが響く。
「っ、わっしー! それはツッキー先輩の痛みでわっしーの痛みじゃない!」
後方から園子の叫びが聞こえる。
振り向くと、後方は後方で、園子が須美を思いっ切りビンタしている。
状況がカオスなまま、取り敢えず椿さんを助けようと行動しようとした瞬間。
―――ゾクリッ!
息ができなくなったと錯覚する程の濃密な殺気。
「ボクを憎め、そして、ボクの憎しみを想いしれぇーーー!!!」
椿さんが攻撃を仕掛けてる。
動ける勇者達は全力で回避行動を取る。
敵も味方も関係なく子供が癇癪を起す要領で放たれた攻撃。
ただ、その一撃でかなりの数いた星屑にバーテックスモドキが消し飛び、樹海にも深い傷跡がクッキリ残り攻撃の威力の凄まじさを見て、背筋に氷を入れられたような冷たさを感じる。
嫌でも今までアタシたちに手加減、いや、手抜きをしていたかがわかる攻撃だった。
相変わらず左半分顔を押さえている椿さんが空中に浮遊し、涙を流しながら凄い顔でこちらを睨みつけていた。
けど、それも一瞬のこと。
「ぁ、まっ!!」
誰かが言いかけた静止の言葉も届くことは無く、凄いスピードで樹海を飛んで行ってしまう。
カランッ。と音がして、そちらを振り向くと
実に、どうでもいい。
ただ、彼女達西暦の勇者達を仲間と思うことはことはもう無いだろう。叫び続ける
今日は12月27日。椿さんの誕生日。
「和」が命のあの須美がこの日だけは心情を曲げて
それは、敵対している今も例外じゃない。
話は通じていたから、説得は無理だったとしてもせめて、ケーキを渡して「誕生日おめでとうございます」と伝えたかったんだけど、それも無理だ。
「あの、おっきいアタシ……」
袖を引っ張られるような感覚にそちらを向くと、小さいアタシが不安で押しつぶされそうな泣きそうな顔でオロオロしながら助けを求めてきた。
悪いけど、小さいアタシのそれに答える余裕はない。行き場のないこの心を染めるドロリとした粘着質な感情が暴れだそうとするのに待ったをかけるので手いっぱいだ。その感情を飲み込むために、一言だけ呟く。
「はぁ。さいっっっ悪だな、本当」
アタシが思ったよりもずっと低い声に、小さいアタシはビクッ! と肩を震わせ、引っ張っていた手を引っ込めた。
流石に悪いとは思ったので、少し雑に小さいアタシの頭を撫でる。
それにしても、何もこの日にこんな事を起こさなくてもいいじゃないか。
恨みますよ、神樹様。
若葉「総士はどこだ! 何でお前は総士じゃない!」
椿「………」
本当は12月27日に間に合わせるために書いていたため、いつも以上に端折ってます。もしかしたら書き加えるかも?
さぁ、どうするの椿。せっかくの誕生日にプレゼントされたのは左目に傷。これじゃ今後の展開に愉悦部の人たちがワインと麻婆豆腐を用意して心を躍らせてしまうじゃない。
次回、番外編。
「皆城椿ちゃんの憂鬱」、デュエルスタンバイ! 断ち切りたい、その愉悦。
シリアス展開だけとか(作者が)いやー、きついっす。