大赦愛媛支部記録 記録
時間がない、今回の記録は手短に行う。すでに私が記録を付けている机には書類の山が積みあがっているし、廊下では職員が頻繁に行き来しているためだ。
結論から書くとバーテックスによる侵攻が始まる。そこで大赦本庁、支部ともに問答無用で前回述べたバーテックス封印計画を実行しなくてはならなくなった。
当然作戦実行は勇者3名、作戦本部は愛媛支部である。干渉体を打ち込むには完成体バーテックスに接近する必要があり、勇者以外の実行は不可能。さらに干渉体、
もはや本庁が先に状況を握っていたかどうかはどうでもよく、万一の防衛計画がなければ今回はどうしようもなかったと思う。そうなればまだ解明の進んでいない西暦の精霊システムを無理にでも使用するか、奉火祭を決行することとなっていた可能性が高い。しかし奉火祭を行ったところでバーテックスの襲来が止まる確証もないし、精霊システムを採用したところで撃破できるかどうかも不明である。
神託を基にした予測では明後日かその次の日に先方の襲来があるはずだ。それまでになんとしてでも間に合わせなければ。
──以下襲来当日の記録
「来島海峡大橋改修計画、現在完成率80%…まだ動くかどうか…」
「樹海化確認装置、作動確認まだです!」
「天戸転送プロセス構築、勇者側での受信可能です」
ここは愛媛支部の大部屋である。雑に配置された机には書類の山がそびえ立ち、その合間を縫ってケーブルが張り巡らされている。十数名の神官がパソコン相手に数値やプログラムを入力し、合間に声をあげている。
「8割完成していれば稼働する。安全装置類を省略、安全装置を見ていて世界が護れるか!樹海化確認はテストを省略、以下の項目へ!天戸転送は間に合ったか…これで一応の準備はできたな……」
私は作戦本部長として各部署からの報告をまとめていた。あとは結界直上でバーテックスの動向を観る観測班からの通報によって決戦が始まる。
「観測班からの通達入りました!完成体バーテックス視認。画像来ました。照合中…これは…!」
観測班からの画像を照合させていた神官の言葉が詰まった。
「どうした!どのバーテックスが来たのか!?」
「レオ……バーテックスです。確認されたのはレオ・バーテックスです!」
(よりにもよってレオか……)
作戦本部に動揺が奔った。しかし来てしまった物は仕方がない。
「現在時刻をもって作戦開始、各種システム稼働。勇者3名に樹海化の通達を」
私の一声で決戦の火蓋が切られた。
「樹海化確認!カウント……10……9……」
「来島海峡大橋、一部システムがシステムエラー!」
「今動く部分からシステムの再稼働の通信を送れ!」
「8……7……6……5……」
「システム稼働成功、しかし遅れで樹海化数秒後に稼働です!」
「数秒なら大丈夫だ間に合う!」
「4……3……2……1……」
作戦本部が光に包まれていく。やることはやった。あとは3人の勇者に世界の命運を委ねよう。