松尾琴美は勇者である   作:時 司

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私は初めて■■■に出たときに腰を抜かしてしまって友達に迷惑をかけた。
信じられなかった。すごく怖かった。でも友達は、琴美と彩葉は戦っていた。
私も■■である以上この運命からは逃げられない。正直■■■■■■は怖いけれど友達となら大丈夫。
…なんか堅苦しい感じになったけれど私らしくなかったかな?

大赦支部記録  八木伊雪 記
大赦書史部・巫女様 検閲済


3話 明け方

検査が終わったころには窓の外は暗くなり始めていた。あの空の先に、あの壁の向こうに赤い大地が広がっていて化け物…バーテックスと戦っていたなんてまるで夢のような話だ。

しかし身体がそれを否定した。私はバーテックスの突撃をかわしきれずに傷を負った。その時地面に打ち付けた肩が特に痛む。

「打撲こそしていますが軽症で、今は炎症を起こしている程度ですね。あとは全身のいたるところにも軽度の火傷があります。おそらく大地と身体が擦れたときに装束で保護しきれなかったということだと思います。青野先生にも報告しておきますね。」

私を診た医者はそんなことを言っていたか。それと私の端末はシステムの改良のために一度回収されることとなった。今ポケットに入っているのは代替機だ。

診療室を出たところのベンチに八木と須田が座っていた。二人ともところどころにガーゼが充てられている。加えて八木のほうはふくれている…のか?

「八木、どうしたの。不機嫌そうだけど。」

「松尾も端末回収された?」

「ええ、まあ。でも代替機があるし。どうしたの?」

「端末にもう少しでクリアできそうだったゲームが入ってたんだよぉ!」

「は?」

「八木さん、ゲームが趣味でやっと攻略できるというところで端末を回収されたので怒ってるんです。」

「ああ…そういうことなのね。」

「二人とも大丈夫なの?データ移行さえさせてもらえなかったんだよ!」

「私は…ゲーム自体あまりしないし。」

「私もです。スマホで小説を読んだりはしてますが端末内に保存していたわけではないので。」

「須田さん読書が好きなんですか?」

「そうです。…そういえば私たち、一緒に戦ったのにまったく仲間のことを知らなかったんですね。」

「そういわれてみれば…。」

「この際ですし、友達になってくれませんか?」

「友達に?」

「だって一緒に戦わなきゃならないって理由でこの1週間かかわってきたと思うんです。だからお互いのことを気にかけたこともなかった。だから…その…、友達になってほしいなって。」

「…私もなりたいです。須田さん。」

「私もだよ、須田!」

ふくれていた八木も急に顔をこちらに向けた。

「彩葉でいいですよ。二人とも。」

「じゃあじゃあ、私も下の名前でいいよ!」

「なら…私も琴美で、いいかな。」

 

少しだけ、3人の心の距離が縮まった。そんな1日だった。

 

翌日からの訓練はもちろん苦しかった。勇者システムを使わない訓練だ。長距離ランニング、筋トレ…、とにかく基礎体力をつける訓練だ。それでも友達となら、伊雪と彩葉となら平気だった。

加えて4月になれば当然新学期が始まる。私たちは勇者であることを除けば普通の中学2年生なのだ。当然義務教育を受ける権利と義務がある。同学年の私と伊雪は同じクラスだった。今は伊雪の後ろの席で、授業中の仕事は彼女が居眠りをしたときに後ろからペンでつつくこと。この仕事は2時間に一度は回ってくる。まったく、どうすればここまで居眠りができるのか…。

勇者システムや壁の外のことは強く口止めされていた。私たちが突然壁の外のことを話したところで誰も信じないとは思うのだが。

そんな訓練と学校生活の日常がしばらく続いた4月中旬の休日、3人の勇者は来島大橋記念館に集められていた。

「本日、大赦本部からアップデートされた端末が届きました。」

青野先生は私たちにスマホを渡した。

「前回の戦闘の記録を元に改良を施しています。改善点としては耐熱性の向上とそれぞれの特性に合わせたシステムの最適化です。」

「最適化…ですか?」

「はい。大赦の初期の想定では西暦のシステムを改良した勇者システムでは神樹様が捻出なさらなくてはいけないエネルギーを少しでも減らすために勇者システムの規格統一化、つまり武器の統一化や装束の統一化を目指していました。しかし前回の戦闘データを解析するとそれぞれの戦い方に大きな差があり、システムで想定されていた統一範囲から大きく外れていることが明らかになりました。そこで基礎設計はそのままでそれぞれに合わせて装束の調節を行いました。加えて防御性能についても強化を行っており、耐熱性は格段に上昇しています。」

「システムがアップデートされて返ってきたということはまた壁の外に出るということですか?」

彩葉が恐る恐る質問した。またあの地獄に飛び込むことにはやはり抵抗がある。

「そうです。あなたたち勇者の役目は壁外の調査と勇者システムのデータ収集。神樹様はあなたたちを必要としているのですよ。」

先生は冷たく言い放った。勇者になってから何度この言葉を聞いたのだろうか。

「時期は…いつですか。」

「ゴールデンウイークの休日初日です。」

「あと1週間しかないじゃないですか!」

「大赦の決定です。これも神樹様のためなのですよ。」

選択肢などなかった。神樹様を守るためという役割に組み込まれ、その役割に縛り付けられる。ならばせめて生きてこの役目を果たすしかない。

 

場所を移してアクティはしはま、改良された勇者システムが正常に作動するかの試験を行うためだ。

変身手順は変更なし、表示された祝詞を読み上げる。スマホの画面が変化し身体が光に包まれた。力が漲ってくる。数秒で光が解け、視界が戻ってきた。

(重くなってる…。)

装束を見てみると裾野が長くなっていたり、プロテクターのような部品が取り付けられていた。頭のバイザーにはアンテナのようなものが取り付けられていて視界の中にレーダー表示が追加されているのを確認した。

「へぇ、レーダー機能か。」

「壁の外はほぼ同じ景色ですから遭難しないようにということではないでしょうか。」

「ってことはやっぱ遠くに行く予定があるってことだよな…。」

「大丈夫、伊雪と彩葉さんとなら大丈夫。」

自分に言い聞かせるようにつぶやいた。二人のほうを見ると少し自分の装束と違うことに気が付いた。プロテクター部品のサイズが違ったり、彩葉のアンテナは私たちより多い2本のアンテナが装備されていた。リーダータイプといったところか。

「試験を始めます。課題は指定された目標をすべて破壊すること。それと須田さんは遠距離を強化してるのでその試験のため支援位置からは移動できません。」

笛の音が響き渡る。試験開始だ。

「いくよ、伊雪!」

「よしきたっ、後ろは任せたよ彩葉!」

「わかった。」

私と伊雪は縦になって飛び出した。その瞬間ボールが設置されたピッチングマシンから打ち出される。装束の性能だけでなく私たち3人の連携も試すらしい。

「伊雪!散開して二つ一気に壊すよ!」

「よし、タイミングは任せた!」

「…今っ!」

1本の線が2本に別れた。刀を呼び出して降り注ぐボールを斬りながら走った。目標を一つ撃破。

「琴美!こっちも1つ壊したよ!」

「あとは…。」

レーダーに目をやる。残りの目標はあと4つ、一番離れている物は50メートルほどだろうか。しかしその一番離れた目標が破壊された。

(彩葉がやったの!?私たちからでも50メートルあるのよ…。)

「2人とも、的はあと3つ。ここからは射線が通らない位置におかれてます。お願いします。」

「わかった、こっちで何とかする、伊雪!」

「ぎゃーぎゃー言われなくてもわかってますよ琴美さん!」

「減らず口を…。」

武器をボウガンに持ち替えた。彩葉程ではないが私だって練習しているんだ。ボールを避けながら体勢を整え、矢をつがえる。

(今だ!)

私のボウガンから放たれた矢はまっすぐに飛翔し目標を貫いた。

(伊雪のほうは?)

「よし、こっちもやった!」

どうやら心配には及ばなかったようだ。残りの目標は頑丈な鉄の籠に入れられており、刀や鎌での破壊はできそうにない。加えてピッチングマシンも固められていて容易に近づくことさえできない。

「伊雪、ひとまず接近する。私が旋刃盤でボールを受け止めるから、後ろに入って。」

「わかった。頼むよ。」

私は旋刃盤を構えて前へと歩みを進めた。射線に入ったピッチングマシンから次々とボールが飛んでくる。まるで土砂降り雨の中で傘をさして歩いているような感覚だ。

(このまま受け続けても目標の破壊ができない。…ならば一か八か賭けてみるしか!)

「伊雪!一瞬この土砂降り雨に切れ目を作るから、あなたは飛んで!」

「面白いねぇ、その話乗った!」

威勢のいい返事が後ろから聞こえた。私は旋刃盤を上に放り投げ、そのまま仰向けで地面に倒れる。旋刃盤はいくつものボールを切り裂き、若干の空白を作り上げた。伊雪はその空白に体を通す。彼女は空中に身を浮かべ、手甲を呼び出し身体を翻した。

(よし!そのまま行って!)

その瞬間地面からボールが打ちあがった。上向きの機械があったのだ。

 

「…やっぱり来ましたね。」

 

彩葉のつぶやき声が聞こえた。それと同時に伊雪に迫るボールが破裂、彼女を妨げる物はなくなった。

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

彼女は叫び声とともに拳を目標に叩きつけた。衝突は土を巻き上げ、視界を奪う。

「伊雪!大丈夫!?」

吹きかかる土埃を払いながら彼女の姿を探す。

「はぁ、手が痛い…。」

土埃が収まり彼女の姿が見えた。仰向けで地面に倒れている。それとすぐそばに籠ごとひしゃげた目標もあった。

「勇者がそう地面で伸びてるんじゃないの、さあ立って。」

「はは、まったく。人を飛ばさせといてよくいうよ。」

私は手を差し出して伊雪を引き上げた。

「ありがとうございます。琴美さん。伊雪さん。」

援護位置にいた彩葉が駆け寄ってきた。

「お礼をいうのはこっちのほうだよ。彩葉の援護がなかったら絶対攻略できなかった。」

「これには私も同意、やっぱり彩葉さんの射撃精度は桁違いね。」

3人は喜びを分かち合っていた。

「あなたたち3人の試験を見させてもらいました。よくやっていますね。」

珍しく青野先生の声に柔らかさを感じた。表情も少し緩んでいる。

「これなら壁の外でも大丈夫そうね。今度の目的地が決まりました。かつてこの四国と本州をつないでいた道の反対側、尾道です。」

「オノミチ…?」

聞いたことがない地名だった。歴史の授業では細かい地名までは習わないのだ。

「本州の広島県にある土地の名前です。西暦の時代には本州と四国の架け橋として栄えていたそうです。」

「その、オノミチの土を持ち帰ることが今回の調査の目的ですか。」

「その通りです。体調を万全にしておきなさい。」

そういうと先生は私たちに背を向けて歩いて行った。

 

私たちは再び赤い大地に身を放ることになる。これが運命というならば、生きて役目を終えることこそが使命だ。そう…心に決めた。

 

今日も空は青い。

 




以下に大赦支部記録原本を記す。  大赦支部職員 記


私は初めて壁の外に出たときに腰を抜かしてしまって友達に迷惑をかけた。
信じられなかった。すごく怖かった。でも友達は、琴美と彩葉は戦っていった。
私も勇者である以上この運命からは逃げられない。正直バーテックスは怖いけれど友達となら大丈夫。
…なんか堅苦しい感じになったけれど私らしくなかったかな?

大赦支部記録  八木伊雪 記
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