そして今度の目標である■■という場所はどういう場所だったのでしょうか。一度でいいので行ってみたかったです。
大赦支部記録 須田彩葉 記
大赦書史部・巫女様 検閲済
4月下旬となれば気温もあがりそろそろ袖を短くしようかと思いはじめる。加えてゴールデンウィーク目前、教室の空気はお祭り騒ぎで授業中ですら休日の予定を相談する声がどこからともなく聞こえてくる。そんな中目の前には相変わらず絶賛居眠り中の八木伊雪…。
私たちが勇者になって1か月ほどが過ぎただろうか。世界は壁の外の地獄を知らぬがまま平穏な時を刻んでいた。
「うわ、さっむい…。」
「これなら上着を持ってきてたほうがよかったかも…。」
ゴールデンウィークの休日初日、私たち3人の勇者は来島海峡大橋記念館に集められていた。まだ4月であるにも関わらずの夏日、私と伊雪は夏服を着てきていたのだが館内は入り口から空調が行き届いており半袖の私達は身を縮めていた。
「なあ彩葉…、その上着私に貸してくれよぉ。」
「だから言ったんですよ。上着をもってくるべきだって。」
「こんなに冷房が効いてるなんて聞いてないぞ!」
「伊雪、彩葉さんの助言を聞かなかった私たちが悪いんだから我慢しないと…。」
「むぅ…。」
少し大げさに落ち込んで見せる伊雪を横目に私たちはいつもミーティングを行っている場所へと向かっていた。そこには青野先生がいて、いつもと変わらない雰囲気をまとっている。
(先生の周りだけ5度ぐらい気温が低そうね…。)
「八木さん。これから壁の外に赴くというのに気が緩んでいませんか。」
先生は伊雪の様子を見るなり鋭い声で咎めた。一瞬私の心を見透かされたのかと思い肝が冷える。
「勇者3名、揃いました。」
「ありがとうございます須田さん。それではミーティングを始めます。今回の目的は来島大橋海峡に連なる本州の対岸。尾道への調査とサンプルの回収です。この調査は今後の足がかりにもなる重要なものです。心してかかるように。」
「サンプル、つまり土を回収するということは
「その通りです松尾さん。前回の壁の外の調査の時に回収した羅摩を改良したものを今回は使用します。」
「バーテックスは襲ってくるのでしょうか。」
「壁の外に出る以上は当然あるものと考えてください。」
「…わかりました。須田以下2名、尾道調査に行きます!」
「3人とも無事で帰ってきなさい。」
私たちは新しい羅摩を受け取り、来島海峡大橋に臨んでいた。スマホで勇者システムを起動し、祝詞を読み上げる。もはや画面を見らずとも読み上げることができる。それだけ勇者になったということだろうか。身体は光に包まれ、数秒経ってそれが解けると制服は勇者装束へと変化していた。大地を蹴りだし、結界の外に出る。
「来たんだ…。」
壁の内側の青い海と空の跡形はなく、赤くただれた大地と漆黒の空だけが永遠と続いている。熱気が吹き付ける。まるで蒸されているような感覚だ。
「バーテックスに襲われる前にできるだけ進みましょう!」
彩葉はそういうと先頭に立って大地を蹴った。私たちもそれに続く。
前回は壁のすぐそばでさえバーテックスに襲われた。今回は壁から少し離れるのだ。戦闘をするにしてもできるだけ進んでおきたい。
「あーもう!あいつらこっちに気が付きやがった!」
少し進んだところで白い球体がこちらに進路を向けた。彩葉はすぐさまボウガンを呼び出し迎撃する。
「目的地までは直進で止まらずに行きます。飛んでくる敵はよけるなり撃ち落とすなりで対処して!」
「ったく無茶なことをいうよ彩葉は、私あんましボウガンは得意じゃないんだって。」
「伊雪、やるしかないのよ。文句言わない。」
「今度は群れが来ます。進路方向右から!」
星屑と呼ばれる白く丸い巨大な生物が砲弾のように降り注いだ。神樹様の加護のおかげで矢が切れることはないがリロードは手動、それも星屑をよけながらとなると一苦労だ。
「なんで銃じゃなくてボウガンなんだよ!」
「せめて弓がよかった…引き絞る動作は同じじゃん…。」
「彩葉さんまで何言ってるんです!私は刀に持ち替えますよ。」
「あ、じゃあ私はいつも使ってる鎌で行きますか!」
弱音こそ吐いてはいるが誰一人手を抜くことなく星屑を迎撃していた。
「彩葉危ない!」
装弾が間に合わずに数体の星屑が彩葉に迫った。彼女はすぐさま手甲を呼び出し星屑を殴りつけた。いくつもの球体がひしゃげ、へこみ、そして消滅した。
「「おお…。」」
「やっぱり近距離ならこっちのほうが楽ですね。」
そういうと彩葉は星屑を蹴りつけ、踏み台にし、瞬く間に星屑の数を減らしていった。
「なあ、琴美…。彩葉を怒らせないようにしとこうな…。」
「何です?八木さん。」
「いやいや、何でもないですよ彩葉さん!」
「伊雪が珍しくさん付け…これは明日は雨ね…。」
彩葉の意外な活躍もあって私たちは順調に尾道へと向かっていた。
「なんだあれ?」
一番初めに気が付いたのは伊雪だった。赤い大地が陥没し、白い何かで埋め尽くされていた。レーダーを確認するとこの陥没地が尾道を示している。3人は陥没地の淵で中の様子をうかがっていた。次の瞬間、白い何かが分裂して星屑に変化した。
「ねぇ…ここが尾道…。なんだよね?」
「ここが尾道であっているはずです。」
「システムのバグ…じゃないよな?」
「勇者システムの本体は神樹様です。神樹様が間違うはずがないです。」
「ここが尾道だとしてどう土をとるのさ、あの白いの全部バーテックスだよ?」
「剥がすしかないんじゃないかな。」
「でも、剥がすとなると大量のバーテックスを相手にするんだよ?採取なんてできないよぉ…。」
「でも、サンプル回収が今回の目標です。」
「2人で1人を守ればなんとかならない?」
「なるほど…。その案で行きますか。」
「じゃあ彩葉が採取、伊雪と私が防衛。これでいいわね。」
「はい。」「よし。」
3人の羅摩を彩葉に預ける。そして陥没地に向かって大地を蹴った。彩葉は手甲を呼び出して落下に合わせて地面を殴りつけた。衝撃波が付近の地面を引き剥がし、大地を露出させた。
「よし、行くよ!」
「まかせなさいって!」
白い大地だったものは急速に分裂し変化、大量の星屑が陥没地全体を覆った。
旋刃盤を呼び出して放り投げた。いくつかの個体を切り裂いたもののまったく数が減ったように思えない。面が迫ってくるような突撃が繰り返された。刀に持ち替えて何度も斬ってはいるが、数は減らない。
「あーもう!こんな無限沸きゲームでもやったことないって!」
「彩葉さん!土は!」
「今二本目!」
「これ倒すよりも盾で耐えたほうがいいよぉ!」
「ないものはねだらない!今あるもので戦うのよ!」
まだ囲まれて数分と経っていないのにじりじりと押されてきている。伊雪も私も武器を次々と切り替えて戦っているものの迎撃できる数には限りがある。
「彩葉!まだ!?」
「最後…よし!」
「で!これどうやって逃げるの!?」
「一点突破!」
「もう無茶苦茶だよぉ!」
彩葉が真上に向かって跳び、手甲で包囲を殴った。すかさず伊雪と私が旋刃盤を投げ込んだ。包囲に若干の空白が生まれる。私たち3人はその空白に身を通し、陥没地の外へ出た。次々と星屑が吹きあがり、逃がさないばかりに後ろから迫ってきた。
「無限沸きも嫌だけど、こんな鬼ごっこも嫌だよぉ!」
「いいから!早く逃げるの!」
「だめです、追いつかれます!」
足は星屑のほうが早く、私たちを追い越した個体が引き返して突撃してくる。
「まずいって!」
「足を止めないで!止めると囲まれます!」
何度も星屑とぶつかった。それでも生きて帰るために歯を食いしばって進み続けた。
「橋だ!」
遠くに植物の根のようなものが見えた。
3人はかろうじて結界の中に飛び込み、そのまま地面に倒れこむ。
「はぁ…はぁ。なんとか、帰ってこれましたね…。」
「やった…。死ぬかと思った…。」
「死なないわ…伊雪も彩葉もいるんだもの…。」
装束の変身が解け、2人の顔が見えた。それと同時に全身が軋むような痛みを感じた。相当な負担を身体にかけたからだろう。
「ねぇ…動ける?」
「いやぁ…こりゃ無理だな、体が言うこときいてくれねぇや…。」
「青野先生が来てくれますよ…。」
先生は駆けて来てくれた。
「あなたたち大丈夫!?」
「ああ、先生。おかげさまでなんとか。ただ体に無理させてるみたい。」
身体をゆっくりと起こした。
「無理しないで、すぐに病院で治療を受けてもらうから。」
「先生、サンプルはちゃんととってきました。」
「ありがとう。」
彩葉が3つの羅摩を渡し、3人は到着した救急車へ乗り込んだ。
先生は羅摩を持ったまま橋に残っている。車内から見えた彼女は結界のその先を見つめていた。
以下に大赦支部記録原本を記す。 大赦支部職員 記
また壁の外に出ます。アップデートされた勇者システムは心強いものですが前回バーテックスは脅威的なものだと身体をもって痛感しました。やはり3人というのは壁の外の調査に適した人数ではないかもしれないと思います。
そして今度の目標である尾道という場所はどういう場所だったのでしょうか。一度でいいので行ってみたかったです。
大赦支部記録 須田彩葉 記