松尾琴美は勇者である   作:時 司

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学校に■■にと日々は忙しい。
でも、■■どうこうの話より毎日だいたい2時限に1回は居眠りする八木伊雪はどうにかならないもんですかね。
毎回つつく私の身にもなってほしいです。

大赦支部記録  松尾琴美 記
大赦書史部・巫女様 検閲済


5話 黎明

「ねぇ…伊雪、それ飽きないの?」

「そんなことないよ、彩葉だってずっと本読んでるわけだし。」

昨日壁外調査に行った後私たちは救急車で搬送され検査を受けた。意識ははっきりとしているものの全身にあざや打ち身が見られたために経過観察の意味も含めて3人まとめて数日の入院となった。端末は回収されたがもともと渡されていた代替機を使って伊雪はゲームをしていた。一方の私はすでに暇を持て余しており、そろそろ病院を抜け出したい気分だった。

「ねぇ彩葉さん。検査もすんだんだし、ゴールデンウィークぐらいのびのびとさせてほしいものですよね。」

「確かにそうですね。でも、お医者さんがいうことには逆らえませんから。」

「身体に影響自体はないんでしょ?だったらもう退院でいいじゃない。」

「だめですよ、自分の身体を動かしてみてくださいよ。そう言うことを聞いてくれるものじゃないはずです。」

「むぅ…。」

実のところ図星だ。勇者になってからずっとあわただしかった。今回の入院はゆっくりしろという命令でもあるのだろうか。

「いっつも私に口出ししてる琴美がこうだとなんか面白いな!」

「何よ伊雪。」

ゲームをしているのかと思ったらしっかりと話を聞かれていた。私は伊雪を睨む。

「はは、冗談だって。琴美も何か本でもゲームでもすればいいじゃないか。」

「それがねぇ、今まであまり触れてこなかったというか。自分のじっとしている時間がなかったのよね。」

「そういえば、2人はどこの出身でしたっけ。多分聞いたことないですよね?私は愛媛出身なのですが。」

「私は香川。」「高地だ。カツオがうまいぞ!」

「琴美さんが香川、伊雪さんが高地か…なるほど。」

「ダブってないんだな。まあダブりがないことはなんとなくわかってたけど。」

 

そんな他愛もない話をしていた時、ふいに病室の扉が開いた。

「楽しそうでなによりです。体調もすぐれているようですし。」

そういって病室に入ってきたのは青野先生だった。

「先生、どうかされたのですか?」

先生の服装は神官服だった。そうか、私たちの担当である先生も当然大赦の人間であるのか。

「今日伝えることは1つだけです。あとはあなたたちの容体を確認しに来ただけですね。」

「先生、実は私たちの事を心配してるんですか?」

「伊雪さん、私を茶化すのもいい加減にしなさい。」

そうは言うものの先生の頬は少し赤くなっていた。

「先生、八木のことは放っておいていいので、その伝えることを教えてください。」

「ええ、そうでしたね。あなたたちの武器についての事です。」

「…武器?」

「はい。今回の結界外調査の時、武器の切り替えや対応できる範囲などに不都合が生じたはずです。そこで武器を今までの5種から銃剣と盾の2種類に変更することが決定しました。おそらく今使いこなしている武器がすべて使いこなせるあなたたちならば2種ぐらい使いこなせるはずです。」

確かに不都合が生じたのは確かだ。そこで銃剣と盾か…。ずいぶん思い切った決定をしたものだ。

「銃剣と盾…ですか。」

「担当の報告によればこの武器の選定理由は遠近問わず対応できる武器であること。それと採取の際にバーテックスから身を守る装備の必要性が認められたため。だそうです。一応5種の武器も使用できますが、データを取るためにこの銃剣と盾をメインに使用してもらいます。」

「わかりました。」

そのあと先生はそれぞれの顔を1回づつ見るとどこか安心したように病室を出て扉を閉めた。

 

ゴールデンウィークの後、私たちは壁の外に駆り出されることが増えていった。そのほとんどは結界壁の上から周辺の状況を記録するというもの、大橋をわたっての調査ほど苦ではないがやはり暑さは身に応える。頻度としては週に1回程度、結界のすぐそばではあるが、万が一のために盾を構えての記録だった。

「あなたたちには次の調査で本州の比婆山に行ってもらいます。」

4,5回の記録の後、青野先生が口にしたのはまた聞いたことがない地名だった。

「それはどこにあるのですか?」

「前回の尾道よりも遠いですがかつての広島県と島根県の境にある場所です。」

「また、あいつらと戦うのですか…。」

「バーテックスとの遭遇はあるでしょう。ただ、前回よりも戦いやすいはずです。」

「わかりました。」

とは言ったものの、私たちが遠方に出て無傷で帰ってこれたためしがないのを大赦はわかっているのだろうか。それでも神樹様のため…なのか。

 

「まったく、あの白いのは暑さなんて感じないのかよぉ。」

いつもの通りの伊雪の悪態が赤い大地に響き渡る。運の悪いことに大橋から少し離れたところで星屑数体と遭遇、小規模の戦闘が発生し体力が持っていかれた。まだ遠方に白い影が見える。私たちにできるのは見つからないことを祈るだけだ。

「来ます!」

残念ながらお祈りは失敗だったようだ。先頭の彩葉が戦闘開始の引き金を引いた。数百メートル離れた星屑を彩葉の狙撃が貫く。

「ひゅー、彩葉やるぅ!」

「冷やかしはいいから伊雪さんも構えて!」

「わかってるわかってるって、」

3人の勇者は降りかかる火の粉を払い、比婆山に向かっていた。

「ねぇ、なんか暑さ増してない?」

「気のせい…にしたいけれども気のせいじゃなさそうね。」

「システムも温度上昇を記録してるみたいです。熱風が凄いです…。」

「また尾道みたいに巣窟になってるのかな。」

「その可能性は高いですね。」

「いやだよまたあんなのに飛び込むのは。」

「ただ、その時が来たら腹はくくってくださいね。」

比婆山に近づけば近づくほど熱風が強くなっている。尾道とはまた違う何かがあるのだろうか。

「遠くに何かが…、何!?」

「何か見えたの?彩葉さん。」

「真正面…あれは空に裂け目?」

「まさか…あれが比婆山か?彩葉。」

「そう…ですね。」

目前に広がるのは起伏の少ない赤い大地が異様にねじれ、吸い上げられるように空に伸びているまるで巨塔のような不気味な大地と暗黒が切り裂かれて白い光が差している空だった。かなり離れていてもわかる巨大さ…異質なものではあるがどこか神々しさがある。それに加えて不気味な大地にはここからでもわかるほど大きな白いシミがいくつもついていた。おそらくあのシミひとつひとつがバーテックスの集合体なのだろう。

「どうするんだよ、なんなら尾道よりもやばくないか?」

「あんな景色見たのは初めて…。でも採取をしなければなりません。」

「やることは単純、二人で一人を守ってあとは撤退、でしょ?」

「結局かよぉ…。あーもう、わかったわかった。腹はくくりますよっと。」

暑さはますます増している。

「よし、目的地についた。まだ気が付かれてないなら2人で採集しましょう。松尾さん、見張りはお願いできますか?」

「わかりました。」

羅摩を渡して銃剣を呼び出して警戒する。不気味な大地のふもと、光の当たる大地、上を見上げれば眼がくらみそうだ。その光が陰った。

「まずい、来ます!」

とっさに盾に持ち替え陰を受け止めた。星屑、旋刃盤で受け止めていたならば身が持たなかっただろう。

「ちぃっ、」

伊雪の剣先が受け止めた星屑を切り裂いた。

「大丈夫か、琴美。」

「ええ、おかげさまでね。それより誘いこまれたわね…。」

ねじれあがった大地から大量の星屑が沸きだしてきた。

「採取量は基準量を超えました!撤退できます!」

彩葉は急いで3つの羅摩に土をつめたもののすでに遅かった。大量の星屑が私たちを取り囲んでいる。加えて星屑の様子がおかしい。一点にくっつき、もがき、結合していた。

(何…まさか融合体になってる!?)

融合体…いや、完成体と言われていただろうか。西暦の時代に勇者を苦しめ、そのうちの数体は勇者を屠ったとされる悪魔。

「裂け目から何か出てきたぞ!」

伊雪の見上げる先の裂け目から逆向きになった四角錐が振ってきた。それは融合しているバーテックスの中に飲み込まれる。すると不確定にもがいていた白い巨体が形を整え、変化していく。二つの顔のようなものがこちらを覗き、輪のような形状。

「これはサジタリウス!?」

サジタリウスバーテックス。西暦の時代に現れた完成型の1体。資料だけは見たことがあるが、実際に眼にすることになるとは思ってもいなかった。

はるか上空から大地を見下ろすサジタリウスは大きく一つの口をあけ、1本の針を生成した。

「琴美さん!伊雪さん!全力で逃げて!」

彩葉が叫んだその瞬間、針が放たれた。針はねじれあがった大地の頂点に突き刺さり、それを砕いた。巨塔が崩れ落ち、あたりに落ちるがれきは周辺の星屑さえも巻き込んだ。

「彩葉さん!伊雪!」

私はかろうじて宙に跳び、がれきの直撃は免れた。しかし他の2人の状況がわからない。装束のレーダー機能が今の一撃で麻痺を起こしている。

「こっちは大丈夫。」「2人とも無事ですか!」

降り積もった瓦礫に人影が2つ、どうやら回避できたらしい。サジタリウスは先程針を放ったほうとは別の口を開いた。

「盾を!」

次は大量の矢が降り注いだ。私達は盾を身体に被せ、腕で支え凌いだ。それでも何本かは盾を貫通し皮膚を掠め、切り裂いた。運良く刺さりはしなかったものの痛みが身体に奔る。

「ちくしょぉぉぉぉ!」

伊雪は銃剣を呼び出し、サジタリウスに向かって乱射した。しかし傷一つつくことがない。

「これならどう!」

私は思いっきり地面を蹴り、上空のサジタリウスへと銃剣を突き立てた。ところが刃は表皮に刺さるどころか根元から折れた。

「何よこいつ!」

「琴美さん!倒すのは無理です、早く逃げますよ!」

気がつくと周りにいた星屑は数を減らしていた。先の針と矢の雨によって殲滅されたのだろうか。

全力で駆けた。サジタリウスは再び針のようなものを生成している。

「一番はじめのやつが来る!」

「私が防ぐ!」

伊雪が敵の方へと身体を向け、盾を構えた。

「無茶よ!さっきの矢でさえ貫通したのに!」

「弾丸ってのはこうふせぐんだよっ!!」

放たれた針は伊雪の構えた盾にぶつかり、貫通しなかった。おおよそ水平に構えられた盾によって針はその軌道を空へと向け、はるか彼方へ飛んでいった。

「あんた、どうやったの!?」

「跳弾ってやつだよ。ゲームでやってんだよこっちは!」

「それを化け物相手によくやるわね。」

「次、来ます!」

「盾を斜めに構えるんだ!そうすればある程度はマシになる!」

再び矢の雨が降った。端を貫く矢はあったものの中央部の貫通弾はない。それでも台風の時の土砂降り雨のような衝撃だ。

 

絶対的な力を振るう完成体、まだ壁は遠い。

 

 




以下に大赦支部記録原本を記す。  大赦支部職員 記

学校に勇者にと日々は忙しい。
でも、勇者どうこうの話より毎日だいたい2時限に1回は居眠りする八木伊雪はどうにかならないもんですかね。
毎回つつく私の身にもなってほしいです。

大赦支部記録  松尾琴美 記
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