松尾琴美は勇者である   作:時 司

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■■■■に出るのは慣れました。確かに■■■■も■■■は今でも夢であってほしいとは思っています。でもこれが現実だからこそ私たちは■■■■■■と戦わなくちゃいけない。そう思います。

大赦支部記録  須田彩葉 記
大赦書史部・巫女様 検閲済


6話 東雲

雨は降り続いていた。激しく盾を叩きつける轟音、板一枚の外に広がるのは死ただ一つ。

サジタリウス・バーテックスは出現したその場から動くことなく私たち3人の退路を断っていた。盾自体も何度も穿たれ、端の薄い部分はすでにその原形をとどめていなかった。

「どうにかならないの!?あいつ。」

「このまま攻撃の合間を縫って少しづつ逃げるしかないです!」

「今度は針のほうが来るぞ!」

サジタリウスは2つあるうちの1つの口のような器官を大きく開け、針のようなものを生成していた。

「回避が間に合わない!」

「私が何とかします!」

彩葉は銃剣を呼び出し構えた。その刹那、サジタリウスの矢が放たれる。一直線に私たちめがけて飛来する巨大な針。その音速の砲弾に向かって彩葉は引き金を引き、空中で撃墜した。

「…よし。」

「今だ、このタイミングにできるだけ逃げるぞ!」

「待って!」

伊雪は地面を蹴り空中へと舞い上がる。しかしそれを待っていたかのように彼女めがけてもう一本の針が放たれた。

 

サジタリウスの矢は勇者の盾を貫いた。

 

「伊雪!」「伊雪さん!」

まっすぐ地面に落ちる影。私と彩葉が駆け寄ると左腕を押さえる伊雪の姿があった。左腕の装束は裂け、その周りが赤く染まっている。

「大丈夫なの!?」

「大丈夫。盾は貫通したけど私への直撃は免れたから…。それよりあいつは?」

サジタリウスはイレギュラーに巨大な針を2連射したためか沈黙している。まだ完成体になって数分、エネルギーの制御がうまくいっていないのだろうか。

「今なら逃げられるんじゃないか?」

「でも伊雪、けがしてるんじゃないの?」

「それよりもまず逃げよう、3人で生きて帰れるなら腕の1本や2本どうってことないよ。」

「…わかりました。今は逃げることを最優先しましょう。」

比婆山からとにかく離れることだけを考えて走った。

ようやく壁が見え、結界に飛び込んだ。青い空の下で私たちは倒れこんだ。私の意識はそこで途切れている。

 

次に気が付いた時まず眼に入ったのは天井だった。ピッ…ピッ…という電子音だけが部屋の中に響いている。

(…私…生きてる…?)

意識が戻るにつれ体のいたるところから痛みを感じた。

「うっ…うわっ…くっ…。」

身体を少し動かしただけでもこの有様である。それでも痛みに耐えながら身体を起こした。辺りを見回してみる。部屋は小さく、私のほかに誰もいない。私のいるベットの側にある窓の外には光がともった街並みが映っていた。

(ここは病院か…。そうだ、伊雪と彩葉は!?)

ベットから出ようとしたとき、機器がけたたましい警告音を上げる。すぐに看護師の女性が2人、血相を変えて部屋に駆け込んできた。

「松尾さん!…ああ、意識が戻った…のですか、はぁ…。」

どうやら私から計測用の機器が取れていて異常があったと間違えられたらしい。私の様子を見ると胸をなでおろしていた。

「私は大丈夫です。それより、伊雪と彩葉はどこですか?」

「八木さんと須田さんも命に別条はありません。ただ、どちらともまだ意識は戻っていませんが…。」

「私、行きます。どこにいるか教えてください。」

「だめです松尾さん。あなただって意識が戻ったばかりなんですから。」

看護師の制止を振り切ってでも2人を探しに行こうと思った。しかし立ち上がった瞬間にバランスを崩し、地面に倒れる。全身の痛みが一層増し、力を入れることさえできなくなった。

その後、皮肉にも看護師の介助あってベッドの上に戻った。そこで私の意識は再び途切れる。

次に気が付いた時には身体の痛みはすでに引いており、自力で立つこともできる。そっと扉を開けて病室を出た…ところで看護師に見つかった。

「松尾さん…、まあいいでしょう。その様子だとだいぶん回復してるようですし、病室を移ることができますよね。」

「…はい。なぜですか。」

「須田さんと八木さんも意識が戻り、ある程度の回復が見受けられたからです。」

「よかった…。」

「では、こちらへ。」

案内された病室には見覚えがあった。前に入院した時と同じ部屋である。開いた扉からは八木と須田、それと青野先生が見えた。今日も先生は神官服である。

「松尾さんも大丈夫みたいですね。」

「はい。」

「では私はこれで、」

「もう行くのですか?」

「ええ、私もいろいろな合間を縫ってきてますので。」

「そう…ですか。」

先生は小走りに病室を後にしていった。

「琴美、生きてたか?」

先生が行ったほうを見ていると背後から伊雪の声がした。

「何、私を勝手に殺さないでくれる?」

私は振り向いて伊雪のほうを睨んだ。しかし彼女と彩葉は笑ってこちらを見ていた。二人とも、特に伊雪は腕に包帯を巻かれていたがその顔はいつも通りだった。私は照れくさくなって思わず目線をそらす。

「な、何よ。」

「いやぁ、やっぱ琴美だなって。」

「やっぱり琴美さんですね。」

「…むぅ…。」

私は顔から火が出る思いだったが、いつまでも廊下に立ってるわけにも行かずに自分用のベッドに座った。

 

今度の入院期間は短かった。とはいえ教室に戻ればクラスメイトからの質問攻めだ。確かに2人同時に入院したのだ。当然興味持たれるだろう。私と伊雪は壁の外に出た日に伊雪と彩葉とともに交通事故に巻き込まれた。とされているようだ。秘匿主義…か、私たちが天の神を相手取って戦ってる間も結界の中では日常が流れている。私たちの努力を知ってもらいたいとも思うが、今はこの日常が流れているだけで満足するしかないのだろう。

再び結界の外での観測調査の日々が続いた。どこまでも赤い大地、漆黒の空、遠方に浮かぶ白い影…。どれも見慣れた景色になってしまった。西暦の時代、神樹の外にも内と同じような世界が広がっていたという。熱い地域や寒い地域など多種多様な環境の中で人類は生きていたらしい。この神樹の中に追いやられた人類もその環境に適応したのだろうか。

「いつ見ても変わらない景色ですね。」

「まったく…四季ぐらいあってもいいと思うんだけどなぁ。」

「…この大地でどう四季を表すのよ。」

私はため息交じりにそう答える。確かに毎回同じ景色を見て回るだけ、さすがに飽きが来るというものだ。それに加えて結界のすぐそばでバーテックスもよりついては来ない。灼熱の壁の上をただ歩いて回るだけ、戦闘よりはよっぽどマシではあるが…。

一通り指示されたポイントの観測を行い、結界の中へと戻る。数メートル歩いただけで景色はがらりと変わり、梅雨の蒸し暑さが私たちを襲った。ちょうど雨上がりの夕方、空気中の湿気が一番多い状態である。拠点の来島海峡記念館に入って変身を解く。室内は空調が行き届いており、快適だった。

「お疲れ様です、勇者の方々。」

3人がタオルで汗を拭っていた時、背後から聞いたことのない男の声がした。振り返ると大赦の仮面を付けた神官が1人立っていた。

「…どちら様ですか?」

「ああ、これは失礼。私は速水、あなた方勇者の記録統率官を任命された…まあ事実上の現場責任者と思っていただければよろしいでしょうか。」

「そのような方がどうしてここにいらっしゃったのですか?」

彩葉が一歩前に出て質問した。

「いえ、特別急ぎの用ではないのですが現場責任者たる私が勇者様にお会いしたことがないというのは如何せん不都合が生じますことを危惧した次第です。」

「…なるほど。」

「ああ、それと一つ。今後の方針についてなのですが、近々出雲への調査が決定しましたのでご報告をと。」

また聞いたことがない地名である。尾道、比婆山と同じ本州の地名なのだろうか。

「…そう、ですか。」

「では、私はこれで失礼させていただきます。今後ともよろしくお願いします。」

そう言って彼はこの場を後にした。

 

数分の出来事であったがとても長く感じた。速水という神官の持つ空気感だったのだろうか。

 




以下に大赦支部記録原本を記す。  大赦支部職員 記

結界の外に出るのは慣れました。確かに赤い大地も黒い空は今でも夢であってほしいとは思っています。でもこれが現実だからこそ私たちはバーテックスと戦わなくちゃいけない。そう思います。

大赦支部記録  須田彩葉 記
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