松尾琴美は勇者である   作:時 司

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■■■■■■■■■■■■■は本当に怖かった。■■■■■■■■■■■。さらに■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。まったく■■■■■はどうやって■■■■を倒していたんだろうか。

大赦支部記録  八木伊雪 記
大赦書史部・巫女様 検閲済



7話 曙

梅雨も明け、夏本番の7月下旬。3人の少女が来島海峡大橋の入り口に立っていた。

数回の結界近辺の調査などで長距離遠征が可能であると大赦が判断、出雲への遠征実施を決定したためだった。橋へと続くアスファルトには陽炎が見え隠れしその熱さを物語っている。それでも結界の外に比べれば何の問題もない環境なのかもしれない。

「天地にきゆらかすはさゆらかす——。」

もはや幾度となく口にした祝詞、今では身体が憶えている。目前が光に包まれ、身体の内から力が沸き、漲っていく…。数秒の後に光は解け、身体は勇者装束に包まれた。

「いきましょうか。琴美さん。彩葉さん。」

「はい!」「おう!」

3人の勇者は赤い大地へと足を踏み入れた。その瞬間凄まじい熱風が吹き付ける。

「何これ、今日は格段と熱くないか?」

彩葉が不満を口にした。結界の外の気温はその日によって変化しているようだ。それでも今日は今まですべての中でも1位2位を争うレベルで熱い。この大地にも夏が来た…いや、さすがにそういうわけでもないだろう。

それと気になることがもう一つ。星屑と一度しか遭遇していないことだ。結界のすぐそばで少数の星屑と遭遇戦をした以降姿さえ見ていないのだ。運がいい…と言えばそれまでなのだが、出雲まで半分を切った時点でこの状況は経験上異例である。結界外は未知数の世界だ。3人はいつも以上に緊張を奔らせていた。

「なあ、あれから2人は星屑の奴らを見た?」

「いいえ…。」「私も見てないよ。」

伊雪はこの状況に不安を募らせている。あの彩葉でさえ何度も方向を間違えてないかを確認した。それほどまでに異様なのだ。

「出雲までもう少しになっているのですが、この付近に星屑はいませんね…。」

「何かが起こっているのでしょうか。」

「またあの不気味な大地が形成されているのかも…。」

「それはいやだなぁ、またサジタリウスの砲弾を弾くのは骨が折れるっての。」

出雲へあと数分という時だった。大地が裂け落ちたのだ。裂け目からは大量の星屑が出現し、その奥に星屑ではない何かの姿が見えた。

「…まずい!」

突如として突き出された角のようなものが私をかすめ空を切り裂く、一瞬でも判断が遅ければ今頃あれで串刺しだっただろう。明らかに星屑とは違う攻撃…完成体のバーテックスである。

「…カプリコーン・バーテックス。」

4つの角を多彩に操る超大型の化け物。4つを一つにまとめることもでき、その威力は絶大である。

「こいつは倒せないぞ…。特別な装備がないと倒せないタイプの敵じゃん…。」

「伊雪、そんなのないから私たちにできることは全力で逃げることよ!」

前回のサジタリウスの例から現在の勇者の武器では完成体に傷一つつけることができないことは明らかであり、完成体が出現した場合はいかなる場合でもお役目を中止し直ちに退避するようにとは言われていた。しかし…。

「何!?」

カプリコーン・バーテックスは4つの角を地面に突き刺し、大地を震撼させた。とてつもない揺れ、まともに立っていることもできず地面に倒れる。すぐさま1本の角がそれぞれを狙って飛翔した。あるいはは盾を呼び出し防ぎ、またあるいは地面を殴りつけ反動で回避する。3つの角を地面から離したことにより揺れは収まった。

「撤退します。二人ともカプリコーンの動向に気をつけてください。」

彩葉の合図で3人は大地を蹴り、一気に距離を取ろうと試みた。

(ありがたいことに空中には星屑がいる。空中ならあいつの地震も効かない!)

海の上に浮かんだ舟を次々と渡った八艘跳びのように星屑を踏み台に宙を駆けた。

カプリコーンの角は次々と繰り出され、数秒前に蹴った星屑を貫いていく。

「あいつ、同じバーテックスなんて関係無しね。」

「私達を殺せさえすればいい。そんな殺気を感じます。」

「どうすんのさ!あいつ連れて結界まで帰るの?!」

「そんなことしたら結界が、神樹様がどうなるかわかったもんじゃないじゃない!」

「策はあります。」

「彩葉、何だそれ?」

「カプリコーンの繰る角、あれは相当強力ですがそれにつながる組織がまだ細いです。そこならば私達でも切れるはず。」

回避、防御を繰り返しながら角の向こう側に眼をやる。柔軟に伸び縮みする組織は確かに細い。あれを切り落とすことができればカプリコーンの戦力を大幅に削れるだろう。

「でもどうすんの?」

「一番初めの攻撃を誘発させて一気に叩き切ります!」

「なるほど、彩葉さん!誘発させるのは伊雪とやるから彩葉さんが斬って!」

「私はもう確定なの琴美!?」

「いいからやるの!2人の盾でカプリコーンの攻撃を受け止める!」

「あーもうわかったよ!」

私と伊雪は撤退の足を止め、2人並んで大地に踏み込み盾を合わせて構えた。カプリコーンは足を止めた2人を確実に仕留めようと4つの角を組み合わせた。

「来る!」

合わさった角はドリルのように回転しながら構えた盾に衝突した。相当な轟音が響き渡り、盾の表面からは火花が散った。身体を支える足は地面に沈み込んでいく。持って30秒だろうか。表面の層や端の部分の細切れが後方へ吹き飛ばされていくのが見える。

「彩葉!」「彩葉さん!」

私たちが受け止めた瞬間には彼女の姿はすでにはるか上空にあり、銃剣を構えて一直線に落下していた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

一直線に降り降ろされた一撃は角と本体の間にあった組織を割いた。受け止めている角の回転速度が落ち、やがて止まって地面に落ちる。

「狙い通りやったのね。」

「今なら逃げられます。全力で!」

3人は駆けた。宙を舞い、追手の星屑さえも振り切って結界に飛び込んだ。

 

「はぁ…帰ってこれた。」

「でも出雲まではいけなかったね。」

「しょうがないよ、アイツが出てくるのが想定外だよ。」

変身を解き来島海峡大橋記念館に入る。そこには青野先生ともう一人神官の姿があった。体型から見るに、前日私たちの前に現れた速水という神官だろう。

「どうやら完成体と遭遇したようですね。」

「はい…。」

少しうつむく私たちに少し間を開けて先生が言った。

「残念ですが、結界外への調査は今回が最後です。」

「なぜですか!?」

反射的に聞き返した。完成体が出現し始めた中で対外の調査を打ち切るということなのか。私の質問に今度は青野先生がうつむく。もう一人の神官が先生の様子を見かねて口を開いた。

 

「バーテックスが侵攻してきます。」

 

何を言われたのかがわからなかった。バーテックスが侵攻してくる?何かの冗談ではないかとさえ願った。しかし神官は続ける。

「大赦本庁はバーテックスが出現し始めた以上いつかは来るべき時、つまり侵攻が始まると考えていました。あなたたちが比婆山で見た光景、まさにあれが侵攻準備のさなかの状態でした。」

「ということはサジタリウスやカプリコーンのような…。」

私は話の途中で思わず割って入ってしまったことに気が付き口を閉じる。

「…今日遭遇したのはカプリコーンでしたか。…ともかくあなた方には完成体バーテックスの迎撃を行ってもらいます。」

「迎撃?冗談じゃないですよ!私たちの武器ではあいつらに傷一つ入れられないじゃないですか!」

伊雪が神官に喰ってかかる。私は彼女を制止した。

「確かに現状の装備では到底撃破にかないません。そこでこれを使います。」

神官が荷物から取り出したタブレットには500mlペットボトルほどの太い筒に引き金がついたものとそれに込めるであろうが映っていた。

「何なんですか?これは…。」

彩葉が質問をした。

「こちらの筒は天戸(あまのと)完成体バーテックスを封印するための武器です。」

「封印?倒す…じゃないのですか?」

「はい。天戸は神樹様の結界である樹海の中で完成体へと打ち込むことで核に作用、ある程度の期間神樹様のお力を干渉させることで完成体すべてを封印できるはずです。」

「ある程度の期間というのは…。」

「持って30年程でしょうか。」

神官は他人事のようにつぶやいた。

「それって、30年後はまた襲撃が始まるということじゃないですか!」

私は口調を荒くして神官を睨みつける。

「美琴さん、今の私たちにできるのはそこまでです。」

黙っていた青野先生までそう口にする。

「先生まで…。」

「30年あれば勇者システムの完成度も高くできます。とにかく人類には時間が必要なのです。」

「来島海峡大橋で迎撃するのはいつなのですか。」

「3日から5日後としか、あと3日でこちらの準備は整いますがあなた方勇者も準備を備えておいてください。」

私たちに世界の命運を乗せて神官は来島海峡記念館を後にした。残された先生と勇者3人は重いその荷にただ立ち尽くしていた。

「身勝手ですよね…。」

先生がぽつりとつぶやいた。

「たとえ身勝手に私たちが巻き込まれているとしても抜け出す方法はないんですよね。」

彼女は首を縦に振った。

 

夏休み、私たち3人は先日の記憶が片時も離れずに過ごしていた。夏休みの宿題に手をつけようにもそれ以上の重荷を思い出して手がつかない。ちょうどあの日から4日たった日のことだ。3人のスマホに大赦からのメールが送られてきた。来るべき時が来たというのだろう。遠くで風鈴の鳴る音が聞こえる。チリン…チリンと鳴る音からは涼しさではなく不気味さを感じた。

壁のほうから世界が光に包まれていき、私の下をそれが通ると景色は一変していた。赤い大地でも、暑い住宅地でもない色とりどりの植物の根に囲まれた空間…これが神樹様の樹海なのだろう。

「いた、」「琴美さん!」

彩葉、伊雪と合流した。他の人はどこにも見えない。どうやら私たち以外はこの空間に誰もいないようだ。

「見て!」

伊雪が指さした先には樹海から伸びる一本の橋が見えた。その辺りには数十本の柱が立っている。そして全長100メートルはある巨大な物体が樹海の外に浮かんでいた。

「レオ…バーテックス…。」

彩葉がつぶやいた。どうやら私たちは大当たりを引いたらしい。

恐怖で足がすくみながらも私たちは祝詞を唱えた。

 

私たち神世紀270年の勇者にとって最期の戦いが始まった。

 

 

 

 

 




以下に大赦支部記録原本を記す。  大赦支部職員 記

サジタリウス・バーテックスは本当に怖かった。あいつの攻撃は多種多様。さらに私たちの攻撃はまともに効かない。記録だとああいうのがいっぱいいたらしい。まったく過去の勇者はどうやってあいつらを倒していたんだろうか。

大赦支部記録  八木伊雪 記
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