松尾琴美は勇者である   作:時 司

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--------全文検閲対象のため本項は不掲載とします。--------






大赦書史部・巫女様 検閲済


8話 彼誰時(かれはたれとき)

レオ・バーテックス…完成体の中でも随一を誇る巨体と力を持つと言われる。一説には壁の外を焼き払ったのはレオであるとするものもありおそらく最強のバーテックスである。

天戸(あまのと)を打ち込むのはどの完成体でもよかったのではあるが、よりにもよって侵攻してきたのがレオ・バーテックスとは…大当たりもいいところだ。天戸は中に1発だけ()と呼ばれる先端が円錐になった大きな弾丸が込められている。急造のために一人1発しか弾はない。

「行くよ!」

私を先頭に3人の勇者は大橋に飛び込んだ。橋の対岸にその巨体をとらえた。天戸が有効なのはこの橋の上だけ、もし橋を突破されたとすれば封印は不可能。加えて梭を打ち込めなくても神樹様は殺され、それと同時にこの世界も崩壊する。まさに背水の陣と言ったところだ。

突如としてレオ周辺に光が収束しいくつかの球が浮かび上がる。それは私たちに向かって3人へと飛翔した。間一髪盾を呼び出し防いだものの火は盾を焼き灰へと変化させる。

「この距離でなんて狙撃なの!?」

「あいつ、あの盾を一瞬で焼きやがった…。」

「この距離だと一方的にやられるだけです。琴美さん、伊雪さん、距離を詰めますよ!」

「はい!」「おう!」

間髪入れずに再び火球が飛来する。一方的に攻撃できる距離で決着を付けようというのか。

「撃ち落とします!」

彩葉は素早く銃剣の引き金を引き火球を撃ち落とす。弾丸が火球と衝突するたびに宙に小爆発が起きる。それでも火球はひっきりなしに降り注ぐ。

「まずい!」

「間に合って!」

伊雪が撃ち漏らした火球に向かって私は銃剣を投げた。すんでのところで火球は爆発する。

しかし今度は私が火球に晒された。

「これだからっ!」

伊雪は私の前に割って入り自分の銃剣で火球を防いだ。

「これであいこだな。」

「でも伊雪、武器が…。」

「それはそっちもだろ。」

まだレオとの距離は遠い。向こうもゆっくりと侵攻してきてるとはいえこのままでは接近するころには私たちが灰になってしまう。彩葉の銃剣も火球に飲まれ、3人の手元には切り札の天戸しかなく丸腰の状態だった。

 

その時、バイザーに文字が表示された。

「神花…解放?」

それに連続して5つの武器が表示された。

神屋楯比売(かむやたてひめ)金弓箭(きんきゅうせん)天ノ逆手(あまのさかて)大葉刈(おおばかり)、そして生太刀(いくたち)…!?」

「これなんだ!?」

「武器…なのは確かですが…。」

戸惑っているうちは火球が降りやむなどということはない。私はとっさに神屋楯比売、つまり旋刃盤を呼び出し火球群に向かって投げる。旋刃盤は飛来する火球を切り裂き手元に戻った。

「すごい…。」

「なんだそれ、私たちが前に使ってたやつとは別物じゃない?」

「もしかして、西暦の勇者様達が使ってたオリジナルなんじゃ…?」

「これなら…いけるよ!」

「仕切り直しだね!」

私は生太刀、つまり刀。伊雪は大葉刈、つまり鎌。彩葉は金弓箭、つまりボウガンをそれぞれ呼び出した。バイザーの表示から呼び出した武器が消える。やはりオリジナル故に1つづつしかないようだ。

「すごい力ですね…。」

刀を振れば火球は爆発することなく消滅し、鎌を振れば周囲の空ごと火球を切り裂いてみせる。ボウガンは確実に火球を爆発させていた。しばしの後、レオが橋の半分をわたりきったところでようやく接近することができた。

「私が仕掛けます!」

彩葉は武器を天ノ逆手に持ち替え地面を蹴った。迎撃する火球を殴りつけ突き抜ける。レオの正面で天戸を呼び出し引き金を引いた。しかし放たれた梭をレオの火球が飲み込んだ。

「くっ!失敗…ですか。」

彩葉は再びボウガンを呼び出し追撃の火球を撃ち落とした。

「ならば!」

次は伊雪がレオの背面へと飛び出した。大葉刈を振り回して火球を切り裂き、天戸を放つ。梭はレオの表皮をとらえたものの突き刺さっただけで貫通しなかった。

「あーもう、貫通しないのかよ!」

あと1発しかない、それも私がラスト…背筋に焦りと緊張が奔る。レオ・バーテックスはすでに橋の3分の2を渡り切っていた。もはや時間もない。

 

「ねぇ…伊雪、彩葉。」

「何?」「何です?」

降りしきる火球に対処しながらも覚悟を決めた。

「あいつにゼロ距離まで突撃する。」

自分で言ってることが無謀に感じられ苦笑交じりにつぶやいた。

「はぁ?琴美、どうなるかわからないんじゃないの?」

「そうです、ゼロ距離まで寄ったら逃げることは…。」

そうだ、理解はできている。現実離れしすぎているからか、緊張や焦りで可笑しくなっているのか妙に落ち着いていられる。

外す、被貫通、消失。これらすべてが意味するのは神樹様の死、世界の崩壊じゃないか。仮に失敗して返り討ちにされても死ぬのが少し早まるだけだ。ならば一番成功の可能性が高い方法を取るまでだ。

「逃げて…どうするの?神樹様が殺されるのを黙って見るしかないじゃない。」

「っ…。」

「そうだけれども!琴美さん!」

「援護は任せた。もし無事に封印できたらその時は私を思いっきり殴って。」

「琴美!」「琴美さん!」

2人の制止を無視してレオへと大橋を蹴った。生太刀は降り注ぐ火球を切り裂く。しかし数が多すぎる、やはり無謀だったのか。

それでも、無謀だったとしても、たとえ片道だとしてもこの弾丸は届けて見せる。

「一人で抱え込むな!琴美!」

伊雪の叫びとともにワイヤーの斬られた旋刃盤が目の前の火球をすべて切り裂き、上空への道を切り開いた。私はその道をたどって空に舞い上がる。身を翻してレオ・バーテックスを捉えた。新たに放たれた火球も私に届くことはない。彩葉の狙撃のお陰である。

「よし、とりついた!」

レオの正面の球体上になった部分にとりつき、天戸を表皮に突き立て引き金を引いた。

その直後火球が私を直撃し宙へと吹き飛ばされた。

(どうだ!?)

結果から言えばゼロ距離からの射撃は失敗していた。私のバイザーに映し出された天戸内部には弾丸が残っていた。急造品だったからなのか、無理にゼロ距離から射撃に使用したからなのかはわからないが射出に失敗していた。そして爆風によって巻き上げられた私の天戸は目の前で焼失した。

「嘘…。」

レオはもう30メートルもすれば橋を渡り切る。絶望が私を支配した。神樹様は殺され、この世界は崩壊する。伊雪と彩葉が爆炎に包まれた。私にも火球は迫っている。もはや抵抗もするまい。

(何が思いっきり殴ってだ。格好だけつけて何もできなかったじゃないか。)

後悔、無念、怒り…私のすべてを負の感情が支配しようとしていた。

 

「生きろ、ただ生きてくれ。」

 

声が聞こえた気がした。誰の声かはわからない。ただ…とても心強い声だった。

(…まだ、できることがある。)

根拠はない、ただの直感だ。そして迫る火球の隙間に何か光るものを見つけた。

(あれは伊雪が打ち込んだものの貫通しなかった梭か!?)

まだ希望は残っていた。最期の力をふり絞って生太刀を握りしめ、迫る火球を薙ぎ払う。落下しながら眼で梭を捉え、すぐ近くの表皮に生太刀を突き立てた。右手で突き刺した生太刀を握り、天ノ逆手を左手にのみ呼び出す。そして拳で突き刺さった梭を打ち込んだ。

 

レオ・バーテックスは足を止めた。

「やった…。」

空から光がさしてレオへと降り注ぐ。少しづつ砂のような粒子へと変化していっている。橋の終わりまで5メートル程だろうか。本当に間一髪であった。

ところがそれで終わりではなかった。突如橋を創っていた植物の根のようなものが一気に灰となり、焼失し始めた。

力が抜けて生太刀を握っていた手は離れ、身体は落下していく。どうやら逃れることはできなさそうだ。

(生きろ…か。)

諦めて身を投げていたが、ふと自分の身体が落下していないことに気がついた。

「ったく、無茶しやがって。こんなんになられちゃ殴ろうにも殴れないじゃないか。」

私は伊雪に受け止められていた。彩葉の姿も見える。

樹海化が解け、私たちは来島海峡大橋に通じていた道に3人は立っていた。大橋は崩落し、その跡にはがれきの山ができている。

「もしかして、樹海で壊れたからなのか?」

「そうじゃないかな…。」

青野先生が駆け寄ってきた。

「あなたたちがここにいるということは成功したのね…。」

「「「はい!!」」」

3人は誇らしげにそう答えた。

 

私たちはすぐに病院へと搬送された。火球を浴びていたわけなので当然火傷後が全身に見られた、さらに疲労骨折、打撲、脱臼…どれも軽い物ではあったが複数個所に傷が見られたため回復、経過観察のために入院が必要だと判断された。

「あなた方を大赦本庁所属の教育機関へと移すこととなりました。」

入院して数日たってから速水神官が訪れ、こう告げた。

さすがにこの地にいる必要が無くなった勇者を野放しにするほど大赦の手回しは緩くないということか。

「勇者としての役目はまだあるのですか?」

彩葉が恐る恐る質問した。

「調査任務や対バーテックスの任務はありません。ただ、次の世代へのバトンをつないでほしいのです。貴重な勇者として。」

「バトンを…つなぐ?」

「はい。実際に勇者として戦ったあなたたちならば再び襲来が始まるまでに勇者システムをより良いものにできる。そう本庁は判断しました。」

「なるほど…。」

「それと、いい先生を持ったものですね。」

速水は感心したような様子で呟いた。

「青野先生…ですか?」

「ええ、彼女は本庁を恐れることなくあなたたちの記録を守ったのです。原本を本庁書史部に送ったものと別に保存していたぐらいですからね。」

「そうなんですね…。」

 

 

生きろ、ただ生きてくれ…か。

あの時、あの声がなければ今頃この世界は無くなっていたのかもしれない。

日は空高く登った。次は、次は花笑むだろう。

 




以下に大赦支部記録原本を記す。  青野支部職員 記

私たちの最期の戦いで発生した「神花解放」とはなんだったのか。あの5つの武器は本当に西暦の勇者たちのものだったのであろうか。そしてあの声は誰だったのか…。
生きろ、ただ生きてくれ。
あの言葉は私を救った一つの言葉だった。もし声の本人に会うことができるならばお礼を言いたい。
私たちの戦闘データは次の世代に活かされることとなった。
少しでも役に立てばいいなと思う。

神世紀270年 勇者 松尾琴美 須田彩葉 八木伊雪 記 終巻。

-----以下あとがき------
私の展開している結城友奈は勇者である二次創作小説2作品目「松尾琴美は勇者である」いかがでしたか。ここまで読んでいただきありがとうございました。すでに3作品目の計画もありますので是非その際はよろしくお願いします。
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