IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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番外編です。



番外話
-ハロウィン・ロマンス?-


 

 

──ハロウィン。

それは本来古代ケルト人達の収穫祭であり、現代においては宗教要素も薄まり、(アメリカ)の民間行事と化したものである。

 

───そして現代日本においてハロウィンは、仮装パーティと称する方が無難だった。

大人子供関係なく仮装し、その1日を楽しむ。

賛否は別れるだろうが、それもまた1つの文化には違いなかった。

 

 

『というわけで!待ちに待った10月31日(ハロウィン)!──半月前からの告知通り───IS学園ハロウィンパーティーの開催を宣言するわ!』

 

 

歓声があがる。

生徒会長の声が、学園&寮全体に放送として届いていた。

 

『改めて概要を説明するわね?──対処区域は学園や寮全部。主なルールは3つ!生徒は皆何かしらの仮装を行うこと。お菓子を要求してお菓子が貰えなかった場合、相手に悪戯出来ること。そしてお菓子の要求を同じ相手に何度も行うことは原則禁止──だけど別の仮装でなら(・・・・・・・)別カウントとするわ!』

 

アナウンスを耳にしつつ、男子二人は顔を合わせる。

楽しいイベント──の筈なのだが、主催が楯無という事もあり嫌な予感しかしない。

 

時刻は17時半。

食堂にはパーティというだけあって、豪華な食事が並び賑わっている。

裏口は解放され、出た先の中庭にはテーブルまで設けられていた。

 

 

「すっげぇ盛り上がりだな…」

「そうだな。ハロウィンってこんなものなのか?」

「うーん。俺もあんまり馴染みが無かったからなぁ」

 

腕を組んで考える一夏。

黒く長い襟のコートに、高そうな中世風の衣装に身をまとった吸血鬼(ドラキュラ)の格好をしていた。

吸血鬼(ドラキュラ)らしさたる威厳こそ足りないが、そこそこ様になっている。

 

対して流星はカボチャの被り物を被っている。

服装はローブに黒い服であった。

ジャック・オー・ランタンの衣装だろう。

新鮮だと被り物を触る流星、釣られて一夏もカボチャ頭を確認していた。

 

 

「最後に1つ。悪戯についてだけど────」

 

「「……」」

 

嫌な予感は最高潮に。

流星はその場からいつでも逃げ出せるように周囲を確認。

一夏も同様に息を飲んだ。

 

 

「男子二人に限っては、どんな要求をする事も───生徒会権限で可能とするわ!」

 

「────」

「やっぱりかぁー!?」

 

再度湧き上がる食堂。

話を聞いていた専用機持ち達の目の色が変わった────。

 

「流星!」

「ああ、逃げるぞ!」

 

聞き終わるより先に同時に少年二人は動き出した。

ピロン、と各モニターに表示される詳細なルール。

それらを少年達は脳に叩き込みながら、人と人の間を走り抜けていく。

 

彼らが通り過ぎた事に気が付いた少女達も、彼らを追う。

要は学園祭の劇以上の報酬なのだ。

最低でもあの時にエントリーした───野良シンデレラ達は乗り気だ。

 

仮装した女生徒達は鬼気迫る様子で彼らを追う。

カボチャの被り物をした少年は振り返りつつ、真面目な声色で呟いた。

 

 

「これが───ハロウィン……っ!」

 

 

「絶対に違う───!!」

 

 

すんでのところで二人は食堂を出る。

あの人数に囲まれれば逃げられない。

二人は全力で寮の庭へ。

 

 

───背後にいた人混みからは一旦身を隠すことに成功した。

 

庭の草陰から顔を出し、周囲を確認。

二人はホッと安堵の息を漏らす。

 

「一夏、手持ちのお菓子は何個ある?…俺は大体10個飴があるだけだ」

 

「俺は30個位はあったけど、さっき逃げる時に落としたから同じくらいだ……」

 

項垂れる一夏を前に流星は端末を取り出す。

 

「さっき告知されていたルールの詳細だ。ひとまず触れられなければ要求はされないみたいだけど───」

「あの人数が追ってくるのか……。あ、『器物破損は失格』って書いてるぞ。こ、こうなったら俺の部屋のボロボロの扉を───」

「千冬さんに殺されるだろ。そもそも『ただし男子二人は除く』ってあるぞ」

 

──読まれている。

流星と一夏は大きく溜息をつく。

二人が思い浮かべるは扇子を開き高笑いする楯無の姿。

想像内の扇子には最強と書かれていた。

 

「誰かあの魔王を止めてくれ」

「…頑張ってくれ勇者一夏よ。ほら飴をやるよ」

「くそぅ……美味しいなこれ」

「む、本当だ──美味い。─────だが、これで残り8個だ」

「もっと大事にしろよ!?」

 

俺も食べたけどさ!と叫ぶ一夏。

流星は落ち着いた様子で周囲へと視線を移した。

 

「来たみたいだぞ。とりあえず頭を下げろ」

「またかよ!?」

 

流星が言い終わるよりも先に一夏は頭を下げる。

彼がいた場所を弾丸が通過し、後方の地面へと着弾する。

学園祭の時とは違い、もはや慣れたものであった。

 

「あら、反応が素晴らしいですわね。一夏さん」

「セシリア……その服───」

 

姿を現したのはライフルを持ったセシリア。

彼女が着ているのはシスター服であった。

とはいえコスプレ用とも違う本場のもの。

それも生地は高級品を使用した特注であった。

 

仮装という催しであっても、想い人に似合っていると言われたい一心が見て取れる。

対して一夏の答えはいつも通りであった。

 

「その服───高そうだな」

 

「……」

 

「一夏……お前……」

 

「ちょ───!?」

 

即座にライフル銃を構えるセシリア。

的確に銃弾が彼の額を狙う。

一夏は腕部を部分展開し、それを掴み取る。

 

「死ぬかと思った───」

「ご安心下さいまし、一夏さん。当然ゴム弾ですわ」

 

だとしても、まともに喰らえばタダじゃ済まないだろう。

どうしてこんな事をするのだろうか、なんて疑問が一夏の頭に浮かんだあたりでセシリアは口を開く。

 

 

「簡単ですわ。悪戯の権利を得たいなら、お菓子を渡せない状況を作れば宜しくてよ」

 

ニッコリと微笑むセシリアに一夏は悪寒を感じる。

ジリ、と一夏は逃げ出す機を窺う。

睨み合いの状況で流星はニタリと笑った。

 

「成程。ただ狙撃手が態々表に出てくるって事は、焦ってるなセシリア───やはりライバルが多い(ケーキを分けあえない)と見た──!」

 

「!」

 

流星が携帯端末を手にしていたことにセシリアは気が付く。

不味い──と引き金を引くよりも先に背後から足音が聞こえた。

 

「抜け駆けは許さないよ!セシリア!」

「ッ、シャルロットさん!邪魔をするなら容赦しませんわよ!?」

 

駆け付けて来たのは魔女の仮装をしたシャルロット。

魔女帽子とローブは似合っているが、杖に模した猟銃は物騒である。

 

「今の内に!」

 

脱兎の如く二人はその場から離脱する。

学園祭との違いは広さと見知った地形である点だ。

そして何より器物破損は失格──────。

 

「部屋に逃げ込んで鍵を掛ければ勝ちだ!」

 

──と簡単にいかないのが世の常。

箒やラウラの襲撃を掻い潜り、部屋前の廊下に辿り着いた一夏達。

彼らの眼前には大量の女子生徒達が居た。

 

「待ち伏せなんてありかよ」

「不味い、気付かれるぞ」

 

『見付けた!こっちよ!』

 

二人は見付かるより先に駆け出していた。

しかし、人が人を呼ぶ形で廊下は女生徒達が押し寄せてくる。

逃げようとした角から、次の角から───更には正面からも軍団の姿が見えた。

 

 

二人は通路の窓を開け、そこから飛び降りる。

一瞬だけISを部分展開し、華麗に着地して見せた。

 

「取り敢えず校舎に向かおう!」

 

「それしかなさそうだな!」

 

ドラキュラとジャック・オー・ランタンは校舎の方へと走る。

途中迫り来る仮装集団を避けながら彼らは校舎へと辿り着いた。

 

隠れる場所として選んだのは整備室。

職員室で真耶から鍵を受け取る。

───カボチャの帽子にミニスカ装備であったが、彼等は触れないことにする。

実に目のやりどころに困る格好だ。

 

 

他にも簡単な仮装をしている教員が結構見られた。

気分だけでも──というものであろう。

 

オレンジ髪の少年はその中でもいつも通りである千冬へと視線を移す。

──こういう時位はっちゃけても問題ないだろうに───。

 

千冬は溜息を付きながら流星をギロリと睨んだ。

 

「余計な事を考えたら分かっているな?」

 

思うくらい許して欲しい。

流星は口を尖らせながらそっぽを向くのであった。

 

 

 

 

 

 

そうして何事もなく整備室へ。

カチャリと鍵をかけ、二人は椅子に腰を下ろした。

今度こそひと息つけると安心する中、ゴソゴソと物陰で何かが動いた。

 

「「──!」」

 

勢いよく立ち上がり、距離をとる男子二人。

普段の訓練もあり俊敏な動きであった。

 

「なんだ、簪と箒か」

 

物陰から現れたのは簪と箒。

簪は天使、箒は悪魔をイメージした仮装だ。

双方共胸元が開いており、スカートは短くヒラヒラしたもの。

それが恥ずかしいのか、箒はスカートを上から押さえ付けていた。

 

「あ、あまり見るな!」

 

「いや、見るなって言われても───」

 

「いいから見るな!」

 

「はい……」

 

理不尽だと呟きつつ一夏は視線を逸らす。

そんなに恥ずかしいのなら着なければいいのに、とは流石に言えない。

 

「簪達はどうしてここに?」

 

「此処に居れば、流星達が来ると思った……からかな?」

 

「なあ、簪さんと箒は襲っては来ない、よな?お菓子を渡せない状況なら〜って考えでさ」

 

恐る恐る一夏は簪に問いかける。

先程まで追われていた事があって、彼も不安が滲み出ていた。

簪は顎に手を当てる。

 

「…考え無かった訳じゃないけど───」

 

((考えなかった訳じゃないんだ…))

 

「どうせ流星達に逃げられるし、正攻法で行こうかなって」

 

簪は数歩進み、流星の肩に触れる。

その後に半歩下がりお決まりの言葉を口にした。

 

「と、トリックオアトリート」

 

「トリート。はい飴」

 

流星はその言葉に反応し、懐から飴を取り出す。

包装紙に包まれたそれを簪に手渡した。

 

「おお、やっとハロウィンらしくなってきた」

 

一夏は喜びの声を漏らす。

 

箒もまた一夏へと近付き簪と同じ台詞を口にした。

一夏も同様に菓子を渡す。

箒と簪は目配せをし、互いに貰っていないもう1人の男子にもお菓子を要求するのであった。

 

あくまで流星達が逃げていたのは、女生徒の軍団の圧が凄かったからだ。

こうやって普通にイベントに参加している分には特に逃げる理由もない。

 

 

「1つの仮装につき、同じ人に要求出来るのは1回……つまり」

 

飴を舐め終わった簪が何やら呟く。

目の端がキラリと光ったような気がした。

 

「沢山仮装を用意していれば何度も挑戦できる─────」

 

得意気な簪の片手にはいつの間にか衣装が握られていた。

大方ISの拡張領域にしまっていたのだろう。

 

「く、やるしか無いのか」

 

箒は羞恥に震えながら覚悟を決める。

物陰に移動し、それぞれナース服とメイド服に着替える。

 

簪の作戦は至ってシンプル。

流星達のお菓子が無くなるまで要求し続ければ良いというもの。

 

整備室に逃げ込んでくる予想も的中。

彼らは態々危険な外へは逃げないだろう。

箒と手を組んだのも効率化の為である。

 

開催される箒と簪の仮装大会。

一夏は何とも言えない表情であった。

着替えの度に少し聞こえる布の擦れる音に居た堪れない気持ちになる。

流星の方は呑気なものであった。

『簪は何を着ても似合うな』と絶妙に女心を理解していないコメントを零している。

 

減っていくお菓子。

 

今更だが箒と簪は衣装を交換しながらである。

偶に一部の部分がブカブカの服を着て、ムスッとする簪が居たとか居なかったとか。

 

「…どうしたらそんなに大きくなるの……?」

「な、何を言っている!?こんなもの邪魔なだけで───」

「……やっぱり敵……」

 

 

「「……」」

 

恨みの籠った声色。

室温が数度下がった気がした。

 

 

そうして少年達の所持していたお菓子はついに尽きた。

 

流星と一夏は顔を見合わせる。

結構な時間をここで消費出来たが、これはピンチだ。

 

いよいよ何を要求されるのだろうかと二人が不安になる中、一夏はふと思い出したように呟くのだった。

 

「あれ?そもそもお菓子を補助すれば大丈夫なんじゃないか?」

 

「…すっかり忘れていたな」

 

少年達は簪と箒が着替えている内に整備室を後にする。

彼女達の作戦のひとつの欠点────それは着替えている最中に逃げられる事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、売店は開いているかな」

 

カボチャ頭がそう呟く。

現在彼が立っている場所は寮の屋上。

女生徒達に見付からないように回り込む為、ISを用いて登ったのだった。

 

一夏とは別行動。

お菓子を補充する為にそれぞれ別の売店を見に行く判断である。

 

 

(ん?)

 

遠くから聞こえた悲鳴に微妙な表情を浮かべる。

聞きなれた声。

校舎側から聞こえたが──と彼は身を乗り出してそちらを確認する。

ナイフと拳銃を持ったバニーガールに追われる一夏と、彼を追うラウラの姿が窓越しに視認できた。

 

 

(一夏にラウラ────、見なかったことにしよう)

 

 

流星は溜息をつきながら売店側へと足を────。

屋上の扉が勢いよく開かれた。

 

「見付けたわよ!」

 

「───」

 

鉄の扉を蹴り開けて現れたのは鈴である。

思わず身構える流星であったが、彼女の姿を見て目を丸める。

 

鈴が着ていたものはラウラと同じバニースーツ。

うさ耳の被り物にハイヒールと網タイツ、ラウラとの違いはスーツ部分の色がピンクと言う点のみである。

 

肩から掛けている小さなポーチはお菓子入れであろう。

 

「じ、ジロジロ見ないでよ」

 

「そんな格好しておいて言う事かよ。……どうしてここが分かった?」

 

「ここは校舎に比べて狭いし、座るような場所も無いから人気がないのよ。だから寮に戻る時に中継すると踏んで、この付近を待ち伏せしてたってワケ!」

 

ふふんと胸を張り得意げな鈴。

簪といい、常に見張られているのではないかと思う程の先読みっぷりである。

 

 

「覚悟しなさい!」

 

 

どこからか三節棍を取り出し、バニーガールは彼の方へ飛び込む。

 

───ただし鈴は現在ハイヒール姿。

加えて床に凸凹が多いこの場所では、躓くなという方が難しかった。

 

「あ」

 

「!」

 

小柄な少女の身体が勢いよく傾く。

ハイヒールの踵部分が床の隙間にハマったようであった。

 

逃げようとしていた少年は瞬時にそれに反応する。

切り返すように床を蹴り、少女と床の間に滑りこむ。

カボチャの被り物はその勢いで転げ落ちた。

 

身体に衝撃。

息を吐く少年であるが、その腕はしっかりと鈴を抱き抱えていた。

 

 

「怪我はないか」

 

「あ、ありがとう。大丈────」

 

状況が飲み込めず目をぱちくりとさせる鈴。

服越しに伝わる少年の体温。

微かにする少年の汗の匂い。

力強い腕の感触。

 

「っ〜〜〜〜〜?!」

 

かつてないほどに密着している事実を自覚し、三節棍を手放してしまっている事すら遠い彼方。

これがハロウィンだとか。

今ならお菓子を要求できるだとか。

それで同室にさせようだとか───そんな考えは吹き飛んでいた。

 

顔は真っ赤になり、目をぐるぐると回す。

少年は様子がおかしい鈴に対し、何処か打ったのかと心配を露わにする。

 

だが、改めて見て怪我をした様子が無さそうだと判断した流星は安堵の息を漏らした。

 

(ひょっとしてチャンス!?)

 

鈴もその数瞬の内に思考力を取り戻す。

罪悪感はあるが、今こそ要求出来るのではないだろうか。

少年も今ならお菓子を取り出す余裕は無いはず。

それに、取り出す前に腕だけ抑えてしまえばこちらの物である。

 

お決まりの台詞を言おうとしたあたりで───少年が先に口を開いていた。

 

 

「────トリックオアトリート。さあ選べ鈴」

 

「へ?」

 

流星はニタリと意地の悪い笑み。

呆気に取られている内に少女はポーチからお菓子を奪われるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が寝静まり、間もなく日付けも変わろうかという頃。

何やら違和感を覚え、オレンジ髪の少年は目を覚ました。

ゆっくりと瞼が開き、朧気な視界に何かが映る。

天井ではなく、覗き込むような人の顔───水色の髪に赤い瞳の少女だ。

少年は漸く状況を飲み込む。

 

のそりと半身を起こし、半目で少女を見る。

彼女は流星のベッドの上で四つん這いで覗き込んでいたようだった。

 

「あら?起きたの?」

 

何食わぬ顔で反応を示す楯無。

眠い中目蓋をこすり、流星は改めて彼女を見据える。

 

「………、」

 

その格好を前に思わず流星は言葉を失う。

寝起きは気にすらならなかったが、今の楯無───刀奈の格好はひと言で表せば『小悪魔』であった。

 

胸元と腹部が大きく開けられたフレンチスリーブの黒い服。

その裏からは悪魔を思わせる翼が生えていた。

また、カチューシャをしているのか──頭から小さな翼が見えている。

顔にはハートのタトゥーシール。

袖口には青いライン走っている。

胸元のリボンも同様の色。

──尻尾まできっちり生えていた。

 

目の前の少女らしからぬ──可愛いさをチョイスした格好なのは言うまでもない。

 

問題があるとすれば、ミスマッチなまでに胸元や腹部──そして太腿と肌色が多い事だ。

織斑一夏ならば赤面し、動揺を隠せずにいたであろう。

 

 

「どうやって入った」

「そりゃあ合鍵があるからね」

「そうだった…」

 

流星は頭を抑える。

同室ではなくなった時点で、寮長に返却してると思い込んでいたのだ。

つまり目の前の少女はいつでも流星の部屋に出入り可能。

プライバシーなんて言葉はやはり存在しなかった。

 

一方で刀奈は不満げな表情。

少し引いて自身の胸に手を当てる。

 

「この格好については何もないのかしら。せっかく気合い入れたんだから、感想くらい聞かせてくれてもいいんじゃない?」

 

「小悪魔の格好だろ?似合ってるよ。これ以上無いくらいしっくりくる」

 

「え、それだけ?もっとあってもいいんじゃない?可愛いとかドキドキする…!とかとかー、おねーさんの魅力を褒めてくれてもいいのに」

 

「勘弁してくれ。寝起きに何を求めてるんだよ」

 

「男の甲斐性かしら?」

 

「今日は売り切れだよ」

 

そう返すと、流星は布団を被って横になろうとする。

 

 

「まだ寝ちゃダメよ。本題はここからなんだから」

 

それを阻止するように刀奈は彼の手を持ち、彼の上に跨っていた。

得意げに舌なめずりし、彼女はある言葉を告げる。

 

 

「──お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ(トリック・オア・トリート)♪」

 

 

流石に予想外だったのか、少年はキョトンとした表情になった。

してすぐに彼女の意図に気が付いた流星は、視線を逸らし台所の方を見る。

時刻は23時50分───日は跨いでいない。

 

 

「確か菓子ならまだ戸棚に────」

「Trick or Treat?」

 

ヤケに圧を感じると少年は苦々しい表情。

 

当然、寝る際に菓子など持ち込むはずも無い。

取りに行こうにも彼の体には刀奈がのしかかっている。

となれば──選択肢は1つしかない。

彼は諦めたように深く溜息をついた。

 

「これが狙いか」

「答えを聞こうかしら?」

悪戯(トリック)。───けど、どうして今なんだ?俺がお菓子を持っていないタイミングなんて、お前は把握して───」

 

怪訝そうに尋ねる流星。

刀奈は人差し指を彼の唇に当てた。

───ガラリと楯無の雰囲気が変わる。

 

 

「──知りたい?」

 

静かに彼女はそう尋ねる。

落ち着きながらも微かに熱の篭った声。

優しく──そして甘く囁くような声色だった。

 

部屋に射し込む月明かり。

それに照らされる白い肌に水色の髪。

恍惚とした笑みは見る者の心を捉えて離さないだろう。

 

格好と時間帯も相まって現実感がない。

────気付けば、彼女は流星に寄りかかっていた。

 

 

「ねぇ、知りたい?」

 

 

そこから更に流星の体を這うようにして、ジリジリと詰め寄ってくる。

 

「───」

 

特に反応を返すこともなく、少年は見入ったまま。

突き飛ばすなんて──今はそんな発想が浮かんでこなかった。

脳の奥が麻痺しているのかとすら錯覚する。

柔らかな感触がそれを加速させる。

 

体重が預けられる感覚が妙に落ち着いた。

触れた状態で伝わる心音は──少し早い。

 

少女が顔をあげる。

彼女の瞳は流星を捉えていた。

 

「っ」

 

──互いの鼻先が微かに触れる。

ドクンと心臓が一際大きく脈を打つ。

 

触れそうになる唇。

少女の頬が紅く染まっていることに少年は気が付かない。

どちらかが顔をほんの少しでも動かせば触れてしまう───そんな距離だ。

 

 

「「───」」

 

 

互いを見つめて時が止まっていた。

二人ともピクリとすら動かず、瞳に見惚れているようにもとれる。

皆が寝静まった夜。

静けさが二人を包んでいた。

布と肌の擦れる音、吐息の音が聞こえてくる程である。

 

 

いつの間にか自由になっていた少年の手。

それはゆっくりとしかし迷いなく少女の方へと────。

 

 

 

 

「────えい♪」

 

「痛っ─────!?」

 

 

───ガブリと、刀奈が流星の首筋に噛み付いた。

痛覚により流星も現実に帰還する。

包んでいた空気も全て彼方に。

 

首筋を抑えて悶える少年の姿が出来上がった。

 

刀奈はそそくさと身を起こすと、ピースサイン。

まるで照れ隠しのように(・・・・・・・・)、してやったりと笑った。

 

 

「ふふ、引っかかったわね!」

「っ、思いっきり噛むやつがあるか馬鹿。やるなら普通の悪戯にしてくれ」

「隙を見せた流星くんが悪いのよ。それに普通の悪戯なら散々して貰ったでしょう────女の子に」

 

半目で睨む刀奈に流星は困った表情。

 

「噛む理由にはならないだろ。───ったく簪とかにはするなよ?嫌われても知らないからな」

「簪ちゃんにするわけないでしょう。というか誰にもしないわよ?勿論、一夏くんにもね」

「俺はいいのかよ…」

「うん」

 

楽しそうに頷く少女。

コロコロと変わる少女の表情。

色々と文句を言いたいところではあったが──『一夏にもしない』と聞いて、どこか安心している自分がいることに彼は気が付く。

その事実がちょっと癪で───流星は不満げに口を尖らせていた。

 

 

 

「じゃあね。おやすみなさい」

 

日付けも変わり、少女も颯爽とその場を去る。

騒がしいハロウィンも終わり。

仮装やなんやで盛り上がった学園も、朝からいつも通りだ。

 

「───疲れた」

 

思い返すと疲れがぶり返したのか、少年はさっさと寝るべく布団を被る。

驚くほどあっという間に少年の意識は微睡みの中に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────翌日。

想定通りハロウィンの余韻なども許さず、いつも通りの朝が訪れる。

HR前──皆が雑談に花を咲かせる中、流星は自席へと座る。

大きな欠伸。昨夜の事を思い出し、彼はしかめっ面になった。

 

「?」

 

不機嫌そうな彼に本音は小首を傾げた。

疲れているようにも見えるが、と本音は心配になって彼に尋ねる。

本音が話しかけた瞬間いつもの調子に戻る流星。

 

曰く、慣れないハロウィンで疲れただけとの事。

軽く雑談を交わしていると予鈴が鳴った。

千冬と真耶が教室へと現れ、一日が始まりを告げる。

 

そして、二限目。

1組と2組の合同でのIS授業で場は騒然とする事になった。

完全にフリーズした鈴と本音。唖然とする代表候補生達。

涙目の清香。盛り上がるクラスメイト達。

真耶は顔を赤くして狼狽え、千冬は苦虫を噛み潰したようである。

 

話題の中心にいる少年はハッとなり、首筋に手をやった。

───どうして気付かなかったのか。

固まる少年を置いて、邪推と言う言葉を知らない一夏は呑気に声をかける。

 

「そういや流星。さっきから気になってたんだけど──」

 

一夏の視線が少年の首筋へと向けられる。

そこには──ハッキリと歯型が残っていた────。

 

 

 

 

 

一方で、黛薫子と布仏虚は後にこう語る。

その日は───いつになく更識楯無がご機嫌な様子であった、と。

 

 

 

 

 

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