IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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クラス代表戦
-8-


あれから時間は経過し、SHR前。

皆がそれぞれ登校し、座席付近でクラスメイトと会話し時間を潰しており、教室はざわついていた。

そんな中、いつもの様に参考書を読もうとした流星はそこで気付く。

 

 

「参考書が……ないっ!?」

 

思い当たる節はある。

鈴を案内して職員室前で千冬にアイアンクローされた時、あの時に落としたとしか考えられない。

しかし、今から探しにいったところでおそらく落し物として誰かが保管している可能性が高く、取りに行く時間もなかった。

 

「いまみーどうしたの?」

 

未だ眠そうに目を擦りながら、本音は流星の手元を見る。

すると、少し驚いた様子で声を発した。

 

「いまみーが参考書を読んでない!?」

 

「え!?ほ、ほんとだ!流星どうしたんだよ!?」

 

本音の言葉を聞き、流星の手元を見た一夏も驚きを隠せず声に出す。

一夏がこちらに来た事により、箒やセシリアもつられて流星の方へやってくる。

その2人も表情に驚きを出していた。

 

 

「俺をどういう目で見てるんだお前ら。今朝にちょいとあってな、参考書を落っことした」

 

「いまみーが参考書を落っことす状況?」

 

「それは、想像が付かないな……」

 

本音の言葉を引き継ぐようにして箒も首を傾げていた。

流星の全員のイメージといえば、片手にいつも参考書か何か分厚いものを持っているイメージが根強くついていた。

生半可なことで落とすとは思えなかった。

何かよほどのことがあったに違いない、と一同は考える。

 

 

それらをよそに、一昨夜の出来事が一夏の頭をよぎった。

 

 

「まさかと思うけど、千冬姉関係してたりしないよな?」

 

 

おそるおそる尋ねる一夏に、流星はその察しの良さに呆れ返る。

それをもう少し周りの箒などに向けていれば色々状況は変わるだろうに、と溜息が混ざった。

 

 

「……アイアンクローされた。その時に恐らく手放したんだろう」

 

「いまみー、よく無事だったね……」

 

流星の頭を撫でつつ無事を確認する本音。

こそばゆいと不満げな流星を前に、一夏はその話に疑問を持つ。

 

 

「なんでそんなことになったんだよ?」

 

 

「言う訳ないだろ。またこのタイプの話掘り返して痛い目に合うのはゴメンだ」

 

「──と、言うことはその調子で怒られたのですわね?流星さんってもう少しクールな感じだと思ってましたが、そうでもなさそうですわね」

 

意外、そう言いたげなセシリア。

その意図を理解してか、流星も応じる。

 

「問題児キャラはセシリアと被ってるから、確かに差別化しないとな。俺は隠れた天才系キャラで行くから安心してくれ」

 

「なっ!?それってどういうことですの!?」

 

異議を申し立てるセシリア。

その様子を見ながら一夏は呆れた声を発する。

 

「おいおい、天才系キャラはそれこそセシリアだろ?問題児は流星だけだって」

 

「お前にだけは言われたくないな問題児筆頭」

 

「俺の何処が問題児だよ?」

 

「問題児だな」

 

「問題児ですわね」

 

一夏の言葉を否定するように箒とセシリアは頷く。

一同のリアクションにショックを受ける一夏は、頷いてはいなかった本音に助けを求める。

 

「のほほんさん、俺は問題児じゃないよな!?」

 

「でもおりむーが1番、織斑先生に出席簿で叩かれてるよー」

 

「なっ!?」

 

だが、証拠といわんばかりの現実を知らされ大きく項垂れた。

 

「元気出せよ一夏」

 

「流星……」

 

ポンと肩を叩く流星。

一夏は顔を上げて彼の方を見る。

すると、流星はいい笑顔で箒とセシリアを指さした。

 

 

「────問題児しかいないじゃないか」

 

「そう言えばそうだな!!」

 

流星の言葉に即賛同する一夏。

先程までは良かったが、やはり箒やセシリア達も恋する乙女。

想い人の一夏に問題児と刷り込まれるのは、回避したかったのだろう。

 

「ちょっと待て今宮!」

「ちょっと待って下さる?流星さん!」

 

抗議しようとする彼女達を無視して、流星は本音と一夏の方に向き直る。

完全無視を決め込む気だ、と一夏は他人事のように感心していた。

 

 

「──そう言えば転校生なんだが、今朝会ったぞ」

 

「中国の代表候補生の人でしょ?」

 

「ああ」

 

「転校生?」

 

一夏が再び首を傾げる。

それを見て流星は眉を顰める。

 

「知らないのか?2組に今日、転校生が来るんだ。しかも中国代表候補生のな」

 

内心、思い浮かべるは先程会った活発そうなツインテールの少女。

恐らく、一夏はわかっていないだろうと察しつつ流星は鈴である事を伝えるのを辞めておくことにした。

流星も先程知り合ったばかりであるため、特に話すことも無いと判断したからだ。

 

「それでどんな奴だったんだ?」

 

「元気そうな奴だったよ。からかいがいがある面白い奴だ」

 

「いまみーまた悪い顔してる……」

 

 

「本音。お前も会ったらわかる。───アイツはそうだな、俺の好きなタイプだ」

 

「───え?」

 

 

───流星の言葉にクラス中が凍りついた。

 

 

一瞬にして静まり返り、クラスメイト全員が流星の方へ視線を向けていた。

大半が困惑、一部が好奇の目であった。

流星本人を除けば織斑一夏のみ、状況が理解出来ず首を傾げている。

 

「ん?俺何か変なこと言ったか?」

 

「ねぇいまみー?それってどういうこと?」

 

 

 

流星の言葉に困惑する本音。

クラスが固唾を飲んで見守る中、流星は本音の発言にあっけらかんとしたまま答えようとする。

 

 

「どういう事ってそのままの意───っ!?」

 

 

しかし、流星の言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 

 

───何故なら高速で参考書が彼の顔目掛けて飛んできたからだ。

 

 

「うおっ!?俺の参考書!?」

 

流星は額に直撃する手前でそれをキャッチした。

間一髪、と流星は参考書をそのまま手に取り、参考書の飛んできた方向へ視線を移す。

 

方向は教室の入口、前側の扉。

そこには、顔を真っ赤にしたまま腕を振り切った状態の鈴が立っていた。

 

「い、今宮、ああああんたね!今のってどういう意味よ!?」

 

「どういうってだからそのままの───」

 

「〜〜〜〜っ!」

 

その言葉と周囲からの視線を前に、鈴の顔はさらに真っ赤になる。

そこで初めて、流星のすぐ側にいた一夏が笑顔で歩み寄った。

 

 

「鈴!?転校生って鈴だったのか!?久しぶりだな!元気にしてたのかよ!?」

 

嬉しそうな顔で鈴に駆け寄る一夏に、鈴は状況が状況だけに困惑している。

一方、一夏が嬉しそうな顔で女子に駆け寄る姿を見せられることになった箒とセシリアは、口をあんぐりと開けて呆然としていた。

 

「え、えぇ!そっちこそ怪我しなさいよ!?」

 

「滅茶苦茶言ってないかそれ?でも良かった!弾にも連絡入れてないよな?一緒に顔出したらアイツも驚くぞ!」

 

今までにないくらいフレンドリーな一夏の姿は、ある意味クラスメイトにとっても箒とセシリアにとっても衝撃的だった。

流星の先程の発言と一夏の今の発言を受け、再びクラスはザワつく。

 

一夏との関係。

一夏、流星、鈴の三角関係!?

セシリア達の一夏争奪戦の勃発!?

などと、噂好きな年頃の女子達の間で盛り上がっていた。

 

また、クラスの様相はそれだけには留まらない。

主に好奇心を向けているは殆どのクラスメイト。

嫉妬の炎を燃やすのは箒とセシリア。

どこか不安そうで不機嫌そうな本音。

 

そして、この直後の事を察して参考書を再び読み耽ることで我関せずな流星。

朝から、1組は混沌としていた。

だがそれも、流星の予想通りの幕引きを迎える事となる。

 

唐突に鈴の頭が何かで軽くだが叩かれた。

 

「痛っ!?──な、何よ!?」

 

再開を喜んでいる最中の邪魔に、鈴は文句を言おうと勢いよく振り返った。

しかし、鈴は相手を見て固まってしまった。

 

 

「ち、千冬さ……織斑先生……」

 

 

「おい、もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

鬼神、織斑千冬の登場によってクラス全体が一気に静まり返る。

HRこそはまだ始まっていないが、一気に空気が引き締まるのを感じた。

全員が席へ戻る。

一夏もそそくさと席へ戻っていく。

誰も出席簿をくらいたく無かったのだろう。

 

鈴は納得しない様子で教室に背を向けながらも、教室の中の方へ視線だけを向ける。

 

「また昼休みに来るから!逃げないでよね!一夏───あと今宮も!!」

 

捨て台詞をそのまま残すようにして駆け足で隣の2組に戻っていく鈴。

その後ろ姿をクラスの全員が見送る形となった。

 

 

「それではSHRを始める」

 

 

千冬の一声で日直が号令をかける。

こうして、一日の幕が開けた。

 

 

 

「───そんなわけで、鈴は幼馴染なんだ」

 

昼休みの食堂。

一夏は、周りを囲むように座っていた流星、本音、箒、セシリアに対しそう説明した。

一夏の隣に座っている鈴は、その話を聞きつつどこか得意気な顔をする。

箒が転校してから中学時代の途中まで共に過ごした仲らしく、一夏が喜んでいた理由もやっと理解出来た、と流星と本音は納得する。

 

一夏曰く、ファースト幼馴染が箒、セカンド幼馴染が鈴、のようだ。

 

「ファースト幼馴染だのセカンド幼馴染だの、幼馴染ってそういうもんだったっけ……?」

 

「おりむーは普通みたいな顔してたよねー」

 

「……よくわからん」

 

そう呟きつつ、流星は自身の目の前にある拉麺を啜る。

一夏、鈴、流星が拉麺定食、箒は焼き魚定食、セシリアはサンドイッチを食べている。

 

どこか半分納得した流星や本音と違い、納得できていないのは箒とセシリア。

箒とセシリアは仲良くテーブルを叩き、一夏と鈴に詰め寄った。

 

「2人はどういう関係なのだ!?」

 

「ま、まさか恋人!?」

 

薮をつつく気はない流星は、静観に徹することにした。

脳裏に浮かぶは、先程まで授業に集中出来ずにいた箒とセシリアの姿だ。

授業に集中出来ずにいたため、出席簿で叩かれたりもしていた。

 

「ちちがうわよ!?」

 

顔を赤くして否定する鈴。

真横の一夏も真っ赤になっていれば可愛らしかったのだが、やはりそんな男ではなかった。

 

「そうだぞ、ただの幼馴染だ」

 

「……」

 

全く異性として意識してないとも取れる平然とした答え方に、箒とセシリアは安堵の息を漏らす。

同時に、流星も2人が落ち着いたのを見て安堵する。

 

一方で鈴は不機嫌そうな視線を一夏に向けていた。

 

 

「ところで流星と鈴って今朝知り合ったって言ってたけど、どういう感じで会ったんだ?──というか、今鈴が食べている拉麺も流星の奢りだけど……」

 

一夏はそんな鈴に気が付くこともなく、流星と鈴2人に疑問を投げかける。

流星は食事を終えて暇が出来たため、一夏の疑問に答える。

 

「出会ったのは廊下でだ。奢りの件はお前のお姉さんにアイアンクローされた時に一応助けて貰ったからだ」

 

「ああ、さっきの話と繋がってたんだな!だから鈴が参考書を拾ってたのか」

 

「……とんでもなく危険な渡し方だったけどな」

 

「あ、あんたが変な事言うからでしょ!?」

 

流星が渋い顔で参考書の件について言及すると、鈴が発端となった流星の発言を思い出しつつも否定する。

よく見ると顔が少し赤くなっているが、男子二人が気付くことは無い。

と、今朝の事から思考を切り替えたい鈴は一夏の方を向いて尋ねる。

 

「そう言えばあんた、クラス代表になったんだって?」

 

「ああ。流星やセシリアに負けたけどな」

 

「じゃあが(あたし)練習見てあげよっか?クラス代表戦までもう少しでしょ?一夏も知ってる人の方が気楽だろうし」

 

自然な流れにして、完璧な誘い。

朴念仁な一夏でも、意図に気付かず自然に受け入れるであろうその提案に鈴は自画自賛しつつ相手の出方を見る。

じゃあ───などと笑顔で口を開いた一夏が言葉を発する、その前に箒とセシリアが強引に割って入った。

 

「一夏は既に私が教えている!」

 

「貴女はそもそも2組でしょう!?敵の施しは受けませんわ!」

 

(あたし)は一夏に聞いてるのよ」

 

1歩も譲る気はない鈴と止めにかかる2人。

元から教えている箒と先日から教えることになったセシリアからすればたまったものではないため、必死である。

 

しかし、勝ち気な性格である鈴は、2人の意見ではなく一夏の意見を求めているとばっさり切り捨てた。

 

こうなってしまっては、箒とセシリアも一夏の意見を待つしかない。

視線が一夏に集中した。

 

「どう?良い提案だと思うけど?」

 

鈴の言葉を前に、一夏にかかるは箒とセシリアからの無言の圧力。

とりあえず皆自分が教えたいのか?と疑問を抱く一夏。

どちらの選択肢を取っても理不尽に怒られることは目に見えていた。

 

 

「流星。午後の練習、俺に教えてくれないか……?」

 

 

真剣な表情でそう言う一夏に、流星は眉を顰める。

本音を除く女性陣からの鋭い視線が流星に突き刺さる。

 

「さらりと俺を巻き込むんじゃねぇ」

 

「なんだよ、冷たい事言うなよ。助けると思ってさ!」

 

「助けるも何も…」

 

「この通りだ!お願いだ!!」

 

両手を合わせて懇願する一夏。

少しばかり可哀想に思えてきた流星は仕方ない、と軽く呟いた。

瞬間、さらに鋭くなった視線が流星に突き刺さる。

流星もそれを予想していたため、多少冷や汗はかいていたが平然としていた。

逆に視線をそちらに向ける。

 

「とりあえず、今日は俺も同席する。練習は皆でだ。俺が参加出来ない日も多々あるだろうからそれを見越してな。──後、そこの女子3人組、文句はナシだからな」

 

ぐぬぬ、と女子3人組はその妥協案に不満を隠せずにいた。

しかし誰か他の女子と一夏が二人きりという、最悪の状況は回避出来た為完全に反対も出来ずにいた。

 

「し、仕方ないわね……」

 

「仕方ない……」

 

「仕方ないですわね……」

 

渋々提案を受け入れる3人。

その様子に一夏はほっと胸をなで下ろす。

流星はそんな一夏に鋭い視線を向ける。

 

「貸しだからな」

 

「ああ、また今度返すさ」

 

「早めに返さないと、利子付けるからな?」

 

流星はそういい、参考書を開いた。

 

 

 

 

「──違うぞ!こうドカッ!バキッ!とだな!」

 

「──このパターンは後方斜め45度へ!頭の角度は──脚の膝の───」

 

「はぁ?ここは感覚よ感覚!わかんない?どうしてわかんないのよ──!」

 

 

 

「───全然わからん!!!」

 

時間はかわり、放課後。

場所は第4アリーナ。

箒、セシリア、鈴の説明を前に一夏はそう叫ぶ。

それを見ていた流星は呆れかえり、言葉を失っていた。

ちなみに、箒は打鉄を借りており、他は専用機を身にまとっていた。

本音は、一夏に教える話にそもそも入っておらず、生徒会のお仕事があるため同席していない。

 

各々の教え方をわからないと告げた一夏に、各々が何故わからないのかと抗議している。

 

そんな中、流星は自身に稽古を付けてくれていた楯無の有能さを改めて思い知ることになった。

ロシアの国家代表たる彼女が代表候補生と違うだけなのか、更識楯無として優れているのかはわからない。

 

「いや、分からなくて当たり前だろ」

 

流星の言葉に、3人組がピクリと反応する。

逆に抗議されていた一夏は、助かったといわんばかりの表情で流星を見た。

 

「何よ!?(あたし)達が教えた事をどれも理解出来ない一夏が悪いんじゃない!」

 

「そうだ!」

「そうですわ!」

流星にそういい、鈴は食いかかる。

その言葉に箒やセシリアも賛同していた。

 

「擬音多用したり、数値で教えたり、感覚で分かれと言ったり……どう見ても教え方が悪くないか?」

 

「ならあんたは教えられるの?」

 

鈴の指摘に流星は困ったといった表情になる。

確かに流星は特訓をたくさんしたり、知識もたくさん付けているが指導する側となると自信が無い。

ただ、鈴達のようにはならないだろうという自信だけはあった。

 

 

「俺から教えられること自体が少ないが……そうだな、一夏。振り返る時、いやターンする時、何か意識していたりするか?」

 

「意識?してないな。でもターン出来てるから必要なくないか?」

 

首を傾げる一夏。

流星は一夏の手元の雪片弐型を指さした。

 

「特に一夏の場合、基礎的な動きも全部最適化してエネルギーを攻撃に回すべきだと思うんだ。だから無駄は減らした方がいい。一夏が振り返る時にしても、かなり機体にブレが見られるからな」

 

「確かに言われてみればそうかも。それでどうすれば良くなるとかあるのか?」

 

「軸足を意識するといいぞ。平常時と同じようにな」

 

「どっちでもいいのか?」

 

「振り返る時に自然と重心が偏る方だな」

 

流星の話を聞き、空中へ移動してから実践する一夏。

とりあえず構えはなしで反転、反転、反転。

言われたことを意識し、淡々とこなす。

すると、かなり数回試しただけでコツを掴んだのか、あっさりと出来るようになってしまっていた。

 

「おお!出来たぞ流星!」

 

「……飲み込み早くないか」

 

自身はもう少し苦労したような、と困惑する流星。

その横では鈴が納得のいかない様子で流星を見ていた。

一方で、セシリアは素直に感心した様子で流星に話しかける。

 

「お上手ですわね。人に教えた事があるのですか?」

 

「いや、生まれてこの方初めてだ。機動周りにしろ一夏のようにすんなりいかず、常にグダグダしっぱなしだったから、ビックリしてる」

 

「なるほど、だからこそわかりやすかったのですわね」

 

「複雑な気分だ」

 

「──でしたら、あの射撃の精度もひたすら努力をされたのですわね」

 

「……まともに撃ち合ったらセシリアには勝てないけどな」

 

セシリアの言葉に、一瞬だが微かにだが流星の顔が強ばった。

流石、射撃能力の高いセシリアだと内心感心しつつ、流星はそれを周りに悟らせないように努めた。

ただ1人、鈴だけはそこを見過ごさなかった。

 

 

「──イギリスの代表候補生にそこまで言わせるなら今宮、(あたし)と模擬戦しない?」

 

「鈴?」

 

「そういや、模擬戦やるって約束してたでしょ?今日は他のアリーナ空いてるっぽいし、模擬戦やるわよ?」

 

流星の有無を言わさずにISを解除し、外へ向かう鈴。

確かにそう約束したが、と唐突な鈴の提案に流星は戸惑いつつも彼女たちに同行する。

 

「ここで行いませんの?」

 

「そうね。ここでやってもいいけど、一夏の練習を邪魔したくはないし……とりあえず1戦したら戻ってくるわよ。移動するなら(あたし)か今宮のISに連絡頂戴」

 

「わかりましたわ」

 

セシリアはそう頷き、箒と一夏のもとへ駆け寄っていく。

鈴と流星はそのまま第4アリーナを後にする。

 

 

「良かったのか?一夏との練習放り出して」

 

「いいのよ。どうせあの調子じゃグダグダするだけってわかったし」

 

それに、とだけ付け加えて鈴は続ける。

 

「あんたと模擬戦するって話だったでしょ?」

 

一切気を使った様子を見せない鈴に対し、流星は溜息をついた。

こう見えて世話焼きでお人好しな鈴に少しだけ感謝の意を示す。

 

「参考書投げ付けた件は無かったことにするよ。ありがとう」

 

「な、なによ?(あたし)は模擬戦がしたかっただけで…」

 

「そういう事にしとくさ。それで鈴はクラス代表代わってもらったんだっけ」

 

隣の第3アリーナに入り、通路を進む。

通路もしっかり手入れされているあたり、流石IS学園といった異様な綺麗さだった。

 

「そうよ、もう2組代表の子がいたけど代わってもらったの。そういや、優勝したクラスに食堂のデザート年間パスが渡されるんだったっけ?それ目当てなのか凄い勢いで譲渡されたわよ」

 

「デザートの年間パスか、一夏には優勝して貰わなきゃな」

 

流星も食堂のデザートが好きな方であるため、年間パスとなると是が非でも欲しくなる。

あれもいい、これもいい、と皮算用といわんばかりにデザートの事を思い浮かべている流星を前に鈴は意地の悪そうな顔で笑みを浮かべた。

 

 

「残念、優勝するのは(あたし)だから年間パスは手に入らないわよ?」

 

「一夏が勝たないとも限らない」

 

「あんたに負けたんでしょ?槍で圧倒されてたって話聞いたけど」

 

「俺が強すぎた可能性もあるだろ?」

 

「あんた、思ったより自信家?」

 

「鈴だけには言われたくない」

 

と、2人は第3アリーナのグラウンドにたどり着いた。

人もおらず、空いていた。

 

 

「じゃあ始めましょう。その実力、確かめてあげる!」

 

 

すぐに迷わずIS──甲龍(シェンロン)を展開する鈴。

マゼンタと黒をメインカラーとしたIS、両肩には丸い砲門らしきものが浮いてある。

非固定式の武装だろう。

流星も釣られて時雨を展開した。

 

 

 

「行くぞ」

 

 

 

「来なさい!」

 

 

先に動いたのは流星だった。

グレネードランチャーを即座に展開し、鈴に向かって1発放つ。

その早撃ちとも取れる滑らかな撃ち方に、鈴は感心する。

 

「いい狙いね、でも!」

 

鈴は横にターンし、すぐに躱すと青龍刀である双天牙月を二振り展開し流星の方へ突っ込む。

 

「二刀流だと?だけど!」

 

「!」

 

流星は地面にグレネードランチャーを1発放ち、速攻を仕掛けてくる鈴に牽制する。

 

「目くらまし!でもね、効かないわよ!」

 

迷わず砂埃を突っ切ってくる鈴。

流星に向かい、青龍刀の一振りを繰り出す。

 

「ちっ」

 

流星はそれを反撃することもなく、飛び上がり空中に離脱することで避けた。

鈴はそれを追うように飛び上がる。

瞬間、ポロリと流星が何か落とすようにし何か投擲していることに鈴は気付いた。

 

「手榴弾!」

 

鈴の反応は早かった。

すぐに自身の軌道を変え、躱す。

爆発が起きるが、鈴が巻き込まれることは無かった。

 

「!」

 

流星はサブマシンガンを既に展開し、引き金を引いていた。

鈴はそれをほんの少しだけ被弾したが、すぐに攻勢に回る。

さらに加速し、流星と同じ高度に昇る。

 

「これはちょっとビックリするわよ!」

 

「なッ!?」

 

直後、流星の身体は大きく吹き飛ばされた。

何か爆発が叩きつけられたような衝撃を感じつつ、流星は地面に叩きつけられる前に何とか持ち直す。

 

ISが流星にロックオンされていると警告を出すが、弾は見えず二発目に被弾する。

 

 

「ぐっ!?」

 

「ほらほら、行くわよ!」

 

何が起きているかわからない流星だが、鈴が青龍刀以外手に持っていないことを確認すると、再度グレネードランチャーを展開した。

 

狙いは肩の砲門。

あれが見えない砲弾をどうにかして撃ち出しているのは、明らかだった。

 

「そこだ!」

 

回避しつつ、流星はグレネードランチャーの弾を放つ。

 

「甘い!」

 

鈴はそれを見えない砲弾で撃ち落とした。

流星はそれを見つつ、体勢を立て直す。

確信に満ちた様子で告げた。

 

 

「その両肩の砲門、衝撃砲ってやつだな。空間に圧力をかけて空気を撃ち出す仕組みのもの。それに射角の制限はほぼ無いと見た」

 

「へぇ、よくわかったわね。でもわかってもどうにも出来ないわよ!」

 

「いいや、そいつはどうかな?」

 

ニヤリと笑う流星は再びグレネードランチャーを構えた。

 

「もっと訳が分からない武装に覚えがあってな。攻略させてもらうさ」

 

流星の脳裏に浮かぶは更識楯無の霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)の武装。

あれよりは武装としてわかりやすく、対策が取りやすい。

 

 

「ふーん、なら遠慮なく行くわよ!」

 

今度こそ、鈴が切りかかってくる。

流星は黒い槍を展開し、切り合いに応じた。

 

二振りの青龍刀、双天牙月を前に槍の長さを利用し弾くようにして対応する。

潜り込もうと鈴が踏み込むも、流星は逆に突きも利用し相手を弾き飛ばす。

自在に振るわれる鈴の二刀を流星は難なく凌いでいた。

 

 

「槍の腕、噂通りね!」

 

「そいつはどうも」

 

「なら、もう少し本気出して行くわよ!」

 

と、鈴は二刀の青龍刀を連結させる。

それを今度は回転させ、遠心力を利用し重い一撃を繰り出した。

 

「これが双天牙月の真の姿よ!喰らいなさい!」

 

「ッ」

 

先程までよりも、鈴の攻撃のペースが上がっていた。

流星は受け流すように初撃を防いだが、鈴の猛攻は続く。

先端と末端が刃である為、流星の槍よりも重量も威力も上だ。

それを難なく使いこなして見せる鈴に、流星は感心する。

 

「だが──!」

 

流星は近接戦闘の特訓で、楯無の槍とよく戦闘を行っている。

───単刀直入に言って、流星は長物同士のISの近接戦闘に慣れていた。

 

「!」

 

鈴の一撃を前に、流星は鈴の反対側の刃に向けて槍を振るった。

反対側の刃に流星の槍が当たり、鈴の双天牙月の軌道が大きく逸れる。

 

「なっ!?」

 

「生憎、長物相手は慣れてるんでな!」

 

流星が攻勢に回る。

流星は空ぶった鈴の双天牙月を蹴りつけ、隙を作り出し槍を一気に振るった。

数撃切り付けた所で、鈴は体勢を強引に立て直し切り合いに応じる。

 

 

「っ!思った以上にやるわね!?」

 

「いや、こっちも今のから持ち直すとは思わなかったさ!」

 

「舐めんじゃないわよ!(あたし)は中国の代表候補生なんだから!」

 

「っ」

 

回転しながらの切り付けが流星を襲った。

今度ばかりは受け流しきれなかったらしく、勢いよく切り付けられる。

 

「貰い!」

 

鈴はそのまま流れを持っていこうと、両肩の龍咆の砲門から衝撃砲を流星に放つ。

 

「ッ!!」

 

流星は再び衝撃砲に直撃する。

 

「えっ!?」

 

そこで、鈴は手榴弾が懐に投げ付けられていた事に気が付いた。

 

炸裂する手榴弾。

煙の先にいる流星を龍咆で追撃しようと、鈴はすぐに煙の中から出る。

 

 

「やってくれたわ────きゃあッ!?」

 

 

──瞬間、銃声と共に右肩の砲門が爆発した。

 

 

「───スナイパーライフルッ!?」

 

狙撃されたと鈴は気付き、銃声のした方を見た。

 

 

そこには、ライフルを構えた流星の姿があった。

 

 

(あの一瞬でこんな正確に砲門を撃ち抜くなんて…………っ!)

 

鈴は双天牙月を回転させ、残る左肩の龍咆への次弾を防御する。

 

鈴は内心してやられた、と舌打ちした。

 

思えば、あの先程の近接戦闘は、流星の近接のイメージを植え付けるものだった。

 

最初、近接戦闘を拒否していたのは、龍咆を警戒していたのと遠距離のイメージを与えてから近接戦闘でのギャップを与えるため。

 

 

(なるほど、この瞬間的な狙撃精度と咄嗟にやってのける胆力が少年兵や傭兵時代から来るものってやつね……)

 

 

遠近両方を巧みに使い分ける、いやらしい戦法。

得意なのは一瞬の狙撃と槍による近接。

 

手榴弾やグレネードランチャーの爆発物は、その切り替え用でもある。

 

 

 

流星の戦い方を分析しつつ、鈴は流星の出方を伺う。

 

 

 

「あんた、性格悪いでしょ」

 

「何だ、負け惜しみか?俺が勝ったら、鈴が優勝した時の年間パス貰うつもりなんだが」

 

「訂正、あんた絶対性格悪いわ!」

 

鈴は龍咆で牽制した後、一気に加速して流星に切り掛る。

流星は再び槍を展開して、それを受け止める。

 

金属音が周囲に鳴り響いた。

そこで鈴がニヤリと笑みを浮かべる。

 

鍔迫り合い状態の流星に、鈴の左肩の龍咆による狙いが定まる。

 

「ゼロ距離射撃!」

 

「その通り!」

 

「くっ!?」

 

何らかの武装を展開しようとする流星に、鈴はその隙を与えなかった。

 

「遅いっ!」

 

流星は三度衝撃砲に撃ち抜かれ、アリーナの地面に叩きつけられた。

 

「がっ!」

 

「まだまだ!」

 

と、鈴が追撃を加えようとしたところで左肩の砲門に衝撃が走る。

そこには、流星の黒い槍が刺さっていた。

 

 

「最悪っ!」

 

 

これで、流星は近接の武器を。

鈴は遠距離の武器を失った事になる。

 

左肩の龍咆の爆発を避け、鈴は流星のいる地上に視線を向けた。

流星はサブマシンガンを展開し、銃口を鈴に向けていた。

 

両者が同時に動き出そうとする。

 

だが、その瞬間に2人を止める声が聞こえた。

 

 

 

 

「───そこまでだ!!」

 

 

ビクッと2人の身体がその声に反応した。

声の主の方へ2人が振り向くと、そこには千冬の姿があった。

 

「本日のアリーナの貸出時間は、整備や点検の為短いという事を忘れたか?」

 

「……はーい、織斑先生……」

 

「……」

 

鈴は即座に地上に降り、ISを解除した。

どこか名残り惜しそうな鈴を前に、不完全燃焼な流星も不満ありげにISを解除する。

 

「何だ?不満か今宮?」

 

「そりゃそうですよ。これからだってとこだったんですから」

 

「そうだな。しかし、ああなるとお前は甲龍から逃げられるだけの機動性も技術もない状態だ。お前が不利になるのは避けられん。槍をあのようにも使うなら、もう少し武装を増やす事だな。拡張領域(バススロット)は余っているのだろう?」

 

「全くもってその通りですよ……。そうさせてもらいます」

 

千冬の助言に、流星は敵わないという様子で溜息をつく。

千冬は視線を流星から鈴に移した。

 

「凰は遠近の切り替えにもう少し気を払え。狙撃はともかく、最後の槍は避けれたはずだ。いいな」

 

「は、はいっ!」

 

鈴は千冬の言葉に対し、緊張した様子で返事した。

流星はその様子を横目で見つつ、鈴が千冬に苦手意識を持っていることに気が付く。

 

 

「以上だ!解散!」

 

 

 

千冬の言葉に、流星と鈴は第3アリーナを後にする。

 

 

 

 

「……覗き見とは感心しないな」

 

千冬はその2人に視線を向けたまま、呟くようにそう言った。

すると、アリーナの流星達が向かった方と逆側の入り口から楯無が姿を現す。

 

 

「バレちゃってました?」

 

 

おどけてみせる楯無に、千冬は振り返った。

 

「当然だ。──そこまで教え子のことが気になったか?」

 

「そりゃあそうですよー。そういう織斑先生こそ、様子を見に来てからしばらく観戦してたじゃないですか?」

 

「なに、私とて教師だ。生徒の健闘ぶりを見るのも楽しみの一つだからな」

 

ふっ、と笑う千冬。

それを前に楯無は質問する。

 

「そんな織斑先生から見て、流星君はどうですか?」

 

 

「──なんだ?私の意見が必要か?更識」

 

「ブリュンヒルデとしての意見を是非」

 

 

「そうだな、ざっくり言ってしまえばIS操縦技術の才能は無いな」

 

千冬の残酷な言葉を前に、楯無は驚いた様子は見せなかった。

むしろ、わかっているといった様子だ。

 

「だが、粗削りながら必要な技術は努力で習得している。何より戦い方で補っているな」

 

「そうですか。織斑先生からもその意見が聞けたから十分です」

 

「心配するのもいいが、うかうかしていると足元掬われるかも知れんぞ?生徒会長様」

 

にやりと笑う千冬に対し、楯無は扇子を開き自信に満ちた顔で応じる。

その扇子には『学園最強』と達筆な文字で書かれていた。

 

 

「学園最強の称号は、まだまだ譲る気ありませんから」

 

 

 

 




「アイツはそうだな、俺も好きなタイプだ」
友人的な意味か。
人間的な意味か。
女性的な意味か。
真相は不明。


模擬戦について
戦闘方法はこれが本来の流星のもの。
あのまま続けていれば敗色濃厚だった。
セシリア相手はメタっていたというのが大きい。




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