IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

12 / 97
-10-

「──それで、一夏と鈴は『クラス代表戦で勝った方が負けた方の言うことを聞く』って約束を取り付けたわけか」

 

時間は過ぎ、放課後の教室。

終礼を終え、皆が荷物を纏めている中、流星は一夏に向かって確認するようにそう尋ねた。

箒とセシリアは先にアリーナに向かっている。

 

 

「ああ、だからしばらくの間は練習は別々になったんだ」

 

「とりあえず、仲直りは出来たんだな?」

 

「完全かは分からないけどな。その決着を代表戦でつける感じだし」

 

対して一夏も深刻そうな感じではない。

怒っている訳でもない様子からして、鈴も上手い落とし所に持っていけたのだろう。

一夏は『勝てば約束の意味を教えてもらう』ことが出来、鈴はそれこそ『一夏と付き合う』ことが出来るかもしれない、

どちらにせよ、鈴は損しないと流星は内心感心する。

 

ただ、鈴が二の足を踏む事態にさえならなければいいが。

 

「しかし流星、もう鈴と仲良くなったのか。飯を昨日奢ったと思ったら今日も奢ってもらってたし。鈴のやつはハッキリ言い過ぎるとこあるから心配してたんだけど、良かったぜ」

 

ほっとした様子で話す一夏の表情を見て、流星は苦笑いを浮かべた。

どうもこの男は良い奴だが、やはり好意にはとことん疎いらしい。

ここまで保護者や友人視点で語られているとは、本人も夢には思うまい。

 

 

「お前、保護者か」

 

「いや、1人の友人としてだな!」

 

「はいはい」

 

最も、流星も一夏の事をあまり言えないのだが本人には自覚がない。

荷物を鞄に入れ終えた流星が席から立ち上がる。

一夏もそれにつられ、置いていた鞄を持ち上げる。

二人は一組の教室から廊下へ出た。

 

「特訓の話なんだが、すまない。今日は俺は参加出来ない」

 

「昼間言ってた武装云々のやつか?」

 

「ああ、とりあえず今日は練習はあの二人とやってくれ」

 

「わかった。──じゃあまた明日な!」

 

流星にそう言うと、一夏は彼に背を向け廊下を歩いていく。

アリーナに少し急いで向かっているのか、その足はどことなく早足だった。

流星はそれを見送った後、真横へ視線を向けた。

 

すると、横の二組の教室の扉に向かって呟くように告げる。

 

 

「行ったぞ」

 

「……誰も教えてくれなんて言ってないわよ……」

 

こそこそと2組の教室から鈴がでてきた。

何処と無く不満そうに呟く鈴に、流星は溜息をつく。

 

「一応、仲直りはしたんだろ?」

 

「で、でも完全じゃないから何となく顔合わせ辛いのよ」

 

「そんなものなのか……?」

 

「そんなものなのよ!」

 

「そうかい」

 

勢いよく流星の前に立つ鈴。

流星は呆れた様子でその横を通り過ぎる。

 

「ちょっと何処行くのよ?」

 

「整備室。とりあえず武装の図面は形になって来たから打ち合わせだな」

 

「面白そうね。(あたし)もついて行っていい?」

 

「……練習はいいのか?」

 

「後でするから良いわよ。それにあんたを練習相手にしようと思ってたからね」

 

鈴の言葉に流星は少し悩んだ。

別に流星自体は気にしないが、今は簪に協力して貰っている状態だ。

 

二つ返事で了承することも出来なかった。

鈴は言葉を選ぼうとしている流星を見て、察する。

 

「なによ、(あたし)が居たらいけない感じ?」

 

「協力者の、開発中の機体もそこにあってな。御遠慮願いたいんだが」

 

「大丈夫よ、(あたし)も代表候補生だからそれくらいの心得はあるわ。後、見に行くのはあんたのISの武装だからね。あんたがいいならそれでいいのよ」

 

「……」

 

めんどくさい、と流星は渋い顔をした。

ここで変に意見すると色々拗れる予感がした流星は、簪の露骨に嫌そうな表情を思い浮かべ────、

 

(まあ、……何とかなるか……)

 

────とりあえず、諦める事にした。

 

 

 

 

◽︎

 

 

朝に始まった武装開発。

それは簪にとってささやかな楽しみの始まりであった。

が、それも一瞬で打ち壊されることとなった。

 

 

 

「────ってわけで、私は凰鈴音。よろしくね」

 

「よ、よろしく……」

 

突然の来訪者。

確か転校してきたばかりの中国の代表候補生だったような、と自身の記憶を引っ張り出す。

そもそも、何故ここに部外者を呼んだのだろうか。

簪はどこか申し訳なさそうな顔をしている流星を恨めしそうに睨み付ける。

 

「すまない簪、あまりにも暇で着いてくるって聞かなかったんだ」

 

「むぅ……」

 

不満タラタラの簪を前に、流星は謝り倒す。

それを前に、鈴はやれやれと言った様子でため息をついた。

 

「あんたが4組にいるっていう日本代表候補生よね」

 

「うん」

 

「同じ国家代表候補生として会っておきたかったのよ。気を悪くしたなら謝るわ」

 

「そんな、そういう訳じゃ……」

 

「そう。ならお言葉に甘えるわね。大丈夫、邪魔しに来たわけじゃないし」

 

「うっ」

 

────ダメだ、簪が完全に押し負けている。

流星は図面を空中ディスプレイに映しつつ、その様子を見守っていた。

ひょっとしたら、2人は仲良くなるかもしれないと一瞬でも思ったのが間違いだったのかもしれない。

 

いや、あまり関わろうとしない簪にはこれくらいのタイプの方が相性が良いのか?

 

流星は少しだけ考えた後、考えるだけ無駄と判断した。

設計図を眺める流星の横から、とりあえず作業に取り掛かろうと決めた簪もそれを覗き込む。

 

 

「今宮君、設計図の残りは出来たの?」

 

「ああ。これくらいの規模なら勉強してた甲斐もあってすぐだった。撃ち出す機構も簡易的なものだしな」

 

「……そこの部品は違う規格を使った方がいい」

 

「ん?ここか?でもここは小型化していた方が良いんじゃないのか?」

 

流星は簪の指摘した箇所を見ながら、意見を述べる。

だが、簪はいつになくキッパリと迷いなく答える。

 

「駄目、ここは負荷が掛かりやすいから少し大きめの規格にして」

 

「射出用を少し大きい規格にするのか?」

 

「うん、修正もほんの少しだけ変わるだけだから、これなら───」

 

と、そこで簪は近くの端末からディスプレイとキーボードを空中に投影する。

そのまま空中ディスプレイに触れつつ、キーボードを高速で叩き始めた。

 

 

「───できた」

 

瞬く間に設計図を修正してみせた。

ついでに耐久性の計算も再計算している。

その早業に流星だけでなく、後方で静観していた鈴も目を丸めていた。

 

「流石だな、簪」

 

「?何が?」

 

「いや、簡単な武装だとしても、修正の為の計算や処理はもう少し手間暇かけるものだと思うんだが……」

 

「これくらい、普通」

 

「───いや、あんたの普通おかしくない?」

 

簪の言葉に思わず静観に徹しようとしていた鈴がツッコミを入れる。

その言葉に、簪の顔がほんの少しだけ曇った。

 

 

「お姉ちゃんなら、もっと上手くやるから……」

 

 

複雑な感情が籠った呟きに、流星と鈴は迷わず口を開いていた。

 

「関係ないだろ」

「関係ないでしょ」

 

「──え?」

 

あまりにも早い2人の反応に簪は反応が遅れた。

流星は少々ハモった鈴を気にせず続ける。

鈴も自由に言うことにしたのか、気にした素振りは見せなかった。

 

「簪が自分のことをどう評価しているか知らないが、俺が凄いと感じたんだから、お前は俺にとって凄いやつなのは変わらないだろ」

 

「そうよ。あんたのお姉さんのこと私は知らないし、もっと堂々としてなさいよ。あんただって代表候補生なんでしょ」

 

2人の言葉に簪は呆気に取られていた。

どう答えていいか、どんな顔をしていいかわからない。

2人が簪を簪として見てるが故の言葉。

 

自分の評価を押し通す流星に、真っ直ぐ簪を肯定する鈴。

二人の意見を尊重するなら、否定してはいけない。

そんなことはわかっているが、簪は心の中にいる大きな姉の存在に劣等感を持たざるを得なかった。

自己評価の低さ、姉への羨望。

肯定してくれる他人。

あらゆるものが混じり、複雑な何とも言えない状態になる。

 

「そう、だけど……」

 

俯く簪。

そんな簪に対し、流星は落ち着いた様子で見ていた。

簪の葛藤がその一瞬には、込められていた。

 

様子を見ていた鈴は、ジッと簪を見た後に呟いた。

 

「あんた、暗くない?」

 

「!……」

 

「オイ、鈴……言い方ってものが……」

 

「真実でしょ?」

 

「うぅ……」

 

鈴の言葉を前に、完全に沈み込む簪。

完膚なきまでに叩きのめすかのような強烈な一撃。

 

だが、それにより複雑な感情から簪は強制的に解放された。

流星は鈴に軽く心の中で悪態をつく。

軽く、なのは結果として話を出来る状態に持っていけたからだ。

 

「簪。俺はその気持ちは間違ってないと思う」

 

「……え?」

 

振り向く簪に流星は気まずそうに頭に手をやる。

柄では無い、と内心呟きつつ簪に向かって告げる。

 

「目標が他者か理想か、──どっちにせよ自分への物足りなさから来るものだ。それが原動力になる。何も間違っちゃいない筈なんだ」

 

「……今宮君は、そういうの、あるの?」

 

簪の言葉に、流星は少しだけ目を伏せた。

そこは鈴も気になったのか、静かに流星の方を見る。

 

「あるどころか、そればっかりだ」

 

意外、と簪は目を丸めて驚く。

一方で鈴はその様子はない。

 

「それは理想が目標で……?」

 

「──だったんだが、理想って奴はどうにも具体的じゃない。そうなると他者がやはり目標になりやすいんだよ。簪と同じだ」

 

「私は、目標って程良いものじゃ……」

 

流星を見つつ簪は自身を振り返り、言葉を詰まらせた。

そうだ、自身を動かすのは目標と言えるほど芯の通ったものでは無い。

流星はそんな簪を見て、何言ってるんだと呆れたような表情になった。

 

「比較相手が居て、そこに劣等感や嫉妬が出てくるのは当然だ。

───結局、今自分が出来ることをやるしかない」

 

「──!」

 

その言葉に、簪は衝撃を受けた。

あれだけそういう事に無縁に見えた流星ですら、そういうものを他者へ持っている。

 

その現実で、流星の言葉で、特別簪の意識が変わることもない。

だが、少しだけ考え方を変えてみようと簪は少しだけ感じていた。

 

「長くなったな。作業の続きといこう」

 

流星は言い終わると、目の前にある端末を操作し、近くの棚から何個か材料を引き出す。

少し恥ずかしかったのかそそくさと動く。

それらをテーブルに並べた。

 

「この規模の物ならここの設備でいけるんだっけ?」

 

「うん、そっちの端末を操作したら加工用の装置を起動出来る。後、その装置に入れてから操作するといい……」

 

「そうなのか」

 

流星は簪の言葉に従い、材料をそれぞれ加工し始める。

使い方はある程度知っており、横にいる簪の補足もあって万全だった。

装置に設計図を読み込ませ、各部品の加工を始める。

今回はある程度工程を打ち込むと、後は装置任せで良いらしい。

 

 

「よし」

 

流星はそれを確認すると、自身のISを目の前の置き場に無人で展開し、左腕の装甲を一部分だけ取り外す作業を開始する。

ロックは既に解除してあるため、後は物理的に取り外すだけだ。

 

「鈴、暇ならあっちからこの工具とあの棚の治具持ってきてくれー」

 

鈴は不満を零しつつ工具を取りに行く。

 

「なんで(あたし)が」

 

その台詞に流星は鈴の方を見ることも無く即答した。

 

「そりゃ暇だからだろ」

 

「……ふふっ」

 

その言葉に思わず笑ってしまう簪。

鈴は簪を指差すと口をとんがらせる。

 

「そこ、笑わない」

 

「ごめん…」

 

「本気で謝られても困るんだけど……今宮あんた、やっぱり手際良いわね」

 

鈴は工具を手渡し、流星の様子を見て呟いた。

流星は装甲部の解体作業を進めながら対応する。

簪は設定を弄っているのか、空中に投影されたディスプレイとキーボードで何か入力していた。

 

「そうだな、ちょっとだけこういう心得くらいはあってだな」

 

「そんな気はしてたけどね」

 

「……そうなの?」

 

「とは言っても本当に大したことないレベルだ。簪のようにはいかないからな?」

 

「ふーん。あ、その配線は後での方が楽よ?手前の配線が多分細かいだろうし」

 

「……わかるのか?」

 

「整備科じゃないけど代表候補生だもの、それなりにはわかるわよ」

 

「へぇ、流石だな」

 

ふふん、と鼻を鳴らす鈴に流星は感心しながら作業を続ける。

 

鈴は黙々と作業を続ける二人を見つつ、ある事に気付いて口を開く。

 

「今宮と簪さん?──あんた達って結構仲良さそうだけど、入学してからすぐ知り合った感じ?」

 

「えっ」

 

「?」

 

「何よその意外そうな顔は。さっきから見てるけど、自然体で互いにあんまり気を使ってない気がしたんだけど、違ったの?」

 

鈴の指摘を前に、流星と簪は互いに目配せする。

瞬時に少し困ったような顔をした。

 

「あー、割と早めに知り合ったのは知り合ったんだが……」

 

「何よ?」

 

怪訝そんな顔で尋ねる鈴に答えたのは簪だった。

 

「……会話量は今日で今までの合計を超えてる……と思う」

 

「どうなってるのよ……」

 

げんなりとする鈴を前に、流星は作業に戻る。

作業に戻りながらも流星は口を開く。

 

「まあお互いやる事が多いからな。こんな感じで黙々と作業してた」

 

「不思議なものね。しかしあんた、フックショット?なんてよく思いついたわね」

 

「ヒントは簪からなんだが、自分でもよく思いついたと思ったよ」

 

「なーんか既視感強いのよねー。ちっちゃい頃どこかで見たような」

 

「多分それ……昔のゲーム……」

 

「あー多分それよそれ!毎日じゃないけどちょこちょこやってたような気がする」

 

鈴は思い出したとばかりにスッキリした様子で近くの椅子に腰をかける。

所謂、テレビゲームの事なのだか、流星は知ってはいるもののあまり詳しくはない。

最近、1回だけ偶然観たことがある程度である。

流星は意外そうな顔で簪へ視線をやった。

 

「簪は知ってるのか?」

 

「やってたから……」

 

「そうなのか。最近最新作も出てたり?」

 

「うん、少し前に新しいシリーズが出たかな?」

 

流星はそう言いつつ、左腕装甲部の解体を終える。

同時に音を鳴らしている装置の中から、加工された部品を取り出した。

 

「架空の武器が豊富そうだな。インスピレーション?が湧きそうな気がするから興味はある」

 

流星の言葉に、簪も意外そうに顔を上げた。

どこか目を輝かせ同士を見るような目で流星を見ていた。

 

「実家にはあるよ?今度の休み取ってくる…」

 

「……また今度それ見に遊びに行ってもいいのか?」

 

「うん。昔のも持ってるから……興味が出ればそれらも……」

 

どこか嬉しそうに頷く簪。

それを受け、流星は笑みを浮かべた。

 

なんだかんだこの手のモノに男子は惹かれるのだろうか、などと鈴はその様子を見て考える。

 

そうこうして、作業は進んだ。

加工された部品を、左腕の装甲部に取り付けていく。

配線とプログラミングに関しては簪が教える形で、進んでいく。

 

「あ、鈴。そこの測定器具取ってくれ」

 

「人使い荒いわね」

 

もちろん、鈴も手伝う形だ。

淡々と作業は続いていく。

 

そうこうして2時間程経過する。

 

流星の新武装が完成。

『時雨』の武装は万全なものになった。

 




鈴と簪というレアな組み合せ。
何だかんだ相性良さそうに見えるんだけど、どうだろう…。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。