IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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───新武装完成から数日が経過した、クラス代表戦当日。

 

目が覚めると、灰色の空が見えた。

 

「───ここは?」

 

今宮流星は驚きを隠せず、身体を起こす。

 

(草……?土……外か……?)

 

同時に自身が寝転んでいた場所が草むらであると気付く。

 

昨夜は記憶が正しければ、寮の部屋で寝ていたはずだ。

楯無の仕業か?などと一瞬考えたが、空を再び見上げた所で流星はそれは無いと溜息をついた。

 

何処までも続く灰色の空。

雲に覆われているのもあるが、雲の隙間から見える空までも灰色一色だ。

──まるで色を失ったかのような。

 

 

それに、この草原もおかしい。

あたりを見渡しても何も無く、水平線まで同様の草原が続いているだけである。

 

さらに、草原も色を失ったかのうような灰色。

 

モノクロの風景。

 

「夢、か」

 

現実味のない空間を前に、そんな言葉を吐き出す。

ここまで意識が鮮明な夢も見たことがない。

だが、それ以外にこの場所を理解できなかった。

 

「これは、貴方の」

 

「!」

 

声に反応して、流星は咄嗟に振り返る。

 

そこに居たのは、白い髪に黒い服を着た少女。

 

年齢はわからないが、見た感じ流星より数歳下に見える。

艶やかな髪は首元まで。

黒いドレスともゴスロリとも取れる洋服は、スカート部分が対称的に足下までしっかり包んでいる。

しかし、煌びやかさは欠片もない。

まるで喪服かのような大人しさもあり、一言で言うならば異様に尽きる。

動きにくそう、とだけ流星は感じた。

 

そして、その緑の瞳は真っ直ぐ流星を見つめていた。

 

「俺の?何だ?」

 

「……風景」

 

「風景……?」

 

少女の呟きに、流星は今一度辺りを見回した。

一通り見終わった後、一人残念そうに心の内で呟く。

 

──これが夢だと言うのなら、

せめて■■を見たかったのに。

 

「ッ!?」

 

思考にノイズが入った気がした。

いや、思考だけではない。

この今いる空間自体にノイズが走ったように見えた。

 

割れるように頭が痛い。

夢だというのに痛みを感じて、目が覚めない。

酷い話だ。

頭を抑えながら、流星は目の前の少女に問いかけた。

 

「これは夢であってるのか」

 

「夢だけど夢じゃない」

 

「なぞなぞってやつか?得意じゃないんだやめてくれ」

 

「なぞなぞではなく、ここは今宮流星の風景」

 

まるで機械か何かのように、少女は淡々と答える。

流星もその様子に不自然さを感じながら、続けた。

 

「なら何故お前が居る」

 

「それは、私の風景でもあるから」

 

少女の言葉に流星は不満を露わにする。

有り得ない、と。

否定の言葉を告げながら、眉を顰める。

 

「そんな事あるもんか、俺の風景だっていうのも納得出来ない」

 

こんな、──と

流星が続けようとした所で、少女も口を開く。

まるでそれを知っているかのように、まるで己の事かのように言葉を合わせた。

 

「──色を失っていて今にも崩れてしまいそうな空なんて、ですか?」

 

流星は言葉を詰まらせた。

一歩後退する形で離れ、様子を見る。

 

「っ!?……」

 

理解出来ない、流星はそう言いたげな様子だ。

一方で、少女は流星を静かに見つめて居た。

ただただ観察する様に、機械的に。

そして少女は流星の様子を見て感じ取ると、口を開く。

 

「そう感じただけです。他意はありません」

 

「……なら、お前は誰だ?」

 

流星は眉を顰めながら、少女に問いかけた。

そんな流星の問いに、少女は少しだけ俯く。

 

「今宮流星は知っている名前……」

 

「俺が……?初めて見る顔だと思うが……」

 

「知っているはずです。前にも会いましたから」

 

「前、に……」

 

ポツリ、と降り出す雨。

次第にそれは強く、激しくなっていく。

冷たい雨が流星の身体に降り注ぐ。

どこか息苦しかった。

雨はさらに強くなっていく。

 

「だけど、───今回はここまで」

 

少女の声に、流星は唐突に膝から崩れ落ちた。

身体に力が入らない。

 

「待……てっ!」

 

次第に意識も薄れていく中、流星は背を向けて歩いていく少女の姿を見つめる。

声すらまともに発するのが難しくなった。

 

だが、流星は必死に少女に手を伸ばす。

 

何故かそうしなければいけない気がしたから。

 

倒れ伏せながら流星の口は、声を出そうと必死に動いていた。

待ってくれ。

 

1人にしてはいけない。

名前も、今になって思い出せそうな気がした。

 

──待ってくれ!お前の名前は

 

だがもう遅い、音も聞こえず声も発せず、目も見えない。

 

───待ってくれ!!

 

手だけ自然と伸ばしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────待っ!!!!」

 

バッ、と流星は布団から飛び起きた。

すぐにあたりを見回し、そこが自身の部屋である事に気が付く。

 

「…………」

 

我に返った流星は静かに頭に手をやった。

あの光景は鮮明に脳裏に焼き付くように残っている。

しかし、少女については薄ぼんやりとしか思い出せない。

先程まで鮮明になりかけていたものが、再び霧がかったような、そんな感覚。

 

「大丈夫?魘されてたけど」

 

「楯無……」

 

流星は、目の前に立っている楯無に視線を向けた。

既に楯無は制服姿であり、朝である事が流星にも理解出来た。

 

「あぁ、大丈夫だ。多分夢だろう」

 

「どんな夢だったの?」

 

「何かを思い出そうとしてた、しか覚えてないな。夢の話なんて面白くもないだろ」

 

「そう?それって案外大事なことだったりするかもよ?」

 

楯無は大切、と書かれた扇子を何処からか取り出し開くといつもの調子で部屋の椅子に腰をかける。

時刻はまだ5時過ぎ。

流星はそれを見てゆっくりと布団から出る。

 

 

「今日は随分早いんだな」

 

「ちょっと目が覚めちゃって。寝ようにも時間が時間だったから」

 

よく見ると、テーブルの上にティーセットが置かれていた。

一方で楯無は、洗面所に支度にいった流星を他所に紅茶を淹れる。

そのままティーカップを手に取り、ホッと一息つく。

 

 

「……考え事か。っと俺の分もあるのか」

 

暫くして戻ってきた流星は自身の紅茶が淹れられていることに気がついた。

楯無が流星が戻るタイミングを察して淹れてくれたのだろう。

流星も楯無の向かい側の椅子に腰をかける。

 

 

「ちょっと淹れてみたのよ。どう?お姉さん上手でしょう?」

 

「美味いな。俺も素人だから大して分からないけどな」

 

「それ言っちゃったら意味が無いわよ流星くん。元々茶葉がいいんだから」

 

「美味けりゃいいだろ」

 

「…セシリアちゃんに淹れ方褒められた人が言う言葉じゃないわね」

 

流星の言動に楯無は呆れた様子で溜息をついた。

その反応にも特に流星は反応せず静かに紅茶と置いてあった菓子を楽しむ。

楯無も菓子に手を伸ばす。

 

「今日の鈴ちゃんと一夏君、どっちが勝つと思う?」

 

「鈴だな」

 

即答する流星。

彼は菓子を食べながら続けた。

 

「鈴は代表候補生にして中~近距離が得意。技量ももちろん高い。一夏が本番は得意で、織斑先生に何かを仕込まれてたとはいえ、武器はあれ1本、勝ち目はほぼないだろ」

 

「初見殺しの衝撃砲があるからね〜。一夏君のことだから、いい試合にはなりそうだけどね。今日は用事があって学外に出るから、観れないのよね」

 

「そうか、楯無はそういや今日は学内に居ないのか」

 

「───そうよ、だから何かあった時は任せるわ」

 

急に真面目なトーンで話だし、扇子を開く楯無。

その扇子には信頼、と達筆な文字で書かれていた。

 

「そうだ」

 

楯無は思い出したように、そっと何かを流星の枕元に置いた。

丸く卵形にも近いような、楕円形の水色の小型の物体。

それを見た流星は目を細めた。

 

「これは…?」

 

「御守り、かな?…ちょっと容量はとっちゃうけど、威力は保証するわよ?」

 

「随分と…物騒、だな」

 

「まあこれを使う機会はないと思うから、引き出しの中に置いとくわね?」

 

楯無はそう言うと、その水色の小型の物体を流星の机の引き出しの中にしまう。

流星は顔を顰めながらため息をついた。

 

「あー、本当に何かあったら今度缶コーヒー1本だからな」

 

「ありがとう。じゃあ、お願いね」

 

そう言うと楯無は立ち上がり、部屋の外へ向けて歩いていく。

用事、とはおそらく良いものではないと流星は理解していた。

楯無の様子からしてそこまで大したことでは無いだろうが。

 

流星は部屋の扉を開けた楯無の背に向かって声を掛ける。

 

「気を付けてな」

 

「お互いにね」

 

どこか少しだけ嬉しそうに返事をしながら、楯無は部屋の扉を閉めて出ていった。

ポツンと残された流星は1人、残った菓子を食べつつもテーブルのティーカップを見て溜息をつく。

 

「……自分のティーカップくらい洗っていけ。バカ」

 

 

「それでね、それでねいまみー」

 

「わかった。わかったからその年間パス手に入れた後の話はやめろ本音」

 

時間は過ぎ、場所も変わって第3アリーナ。

その観客席に流星、本音、その他1組ほぼ全員が居た。

箒とセシリアは一夏と共にピットに居るようだ。

本音は年間パスを手に入れた後を想像しつつ、目を輝かせている。

それに呆れる流星。

本音は口を尖らせる。

 

「えー」

 

「皮算用は後で虚しくなるだけだって。勝てば上々くらいで見ようさ」

 

「それ、応援に来た人の言葉じゃないような……」

 

同じクラスメイトである鷹月静寐は、流星の言葉に困った様子で反応した。

彼女の言葉に流星は躊躇う事無く発言する。

 

「?現実だろ?俺達の応援なんて関係なく、アイツが勝つかはアイツ次第だと思うし」

 

「リアリストだね……」

 

「いまみーは戦ったんでしょ?どうだったのー?」

 

「決着はついてない。ただ強いのは知ってる」

 

多分あのまま戦っていれば負けていた、という言葉を飲み込む。

 

「本音はそれでも一夏が勝つと思うのか?」

 

「おりむーはね、きっと勝つよ。零落白夜でズババーンって」

 

「……だといいけどな」

 

と、流星は静かに空を見上げた。

アリーナを包む青空を見つめながら、流星はどこか心配そうな様子でいた。

 

「あっ!出てきたよ!」

 

食い入るように一夏が出てきた所を見つめている本音たちは、その様子に一切気付くことはない。

 

 

 

「ちゃんと逃げずに来たわね」

 

ピットからアリーナに出てきた一夏を前に、少し早くピットから出てきた鈴は笑みを浮かべながら告げた。

 

一夏はそんな鈴に対し、雪片弐型を構える。

 

「誰が逃げるかよ。こっちの台詞だぜ?」

 

「ふーん、威勢はいいじゃない」

 

双天牙月を構える鈴に、一夏も笑みを浮かべて告げる。

 

 

「先に言っておくぜ、鈴。白式の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)は、零落白夜は一撃必殺だからな」

 

「……それは、駆け引きのつもり?」

 

「さあな、だから気を付けた方がいいぜ」

 

不慣れな一夏の挑発を、鈴は静かに見抜く。

一夏の笑みはどこか緊張した様子であり、実力を勘違いした人間のそれではない。

かといって、自信満々のものでもなく、また嘘を付いている様子もなかった。

 

 

故に、これは駆け引きの一環だと鈴は冷静に判断する。

一夏と既知の仲だからこそ、それは確信を得る。

 

「一夏、慣れてないそれは誰に吹き込まれたか知らないけど……」

 

鈴の脳裏に浮かぶは、意地の悪い笑みを顔に貼り付けたオレンジ髪の少年。

鈴は二振りの双天牙月を構えると、試合開始のブザーと共に斬りかかった。

 

「舐めてたら痛い目見るわよ!」

 

「!」

 

一夏は鈴の一振り目を雪片弐型で防ぐ。

即座に来る二振り目を一振り目を弾き飛ばすようにして、離脱することでかわした。

 

「へぇ、やるじゃない」

 

「様子見してる場合じゃないぞ、鈴!」

 

攻撃に転じる一夏が雪片弐型を振るった。

零落白夜を発動して切りかかるが、鈴はそれを最小限の動きでかわす。

 

 

「それが今言ってたやつね。確かに食らうとやばそうね」

 

鈴はそのまま二振りの双天牙月を振るい、一夏に数撃叩き込む。

 

「なっ!?」

 

「でも!甘いわよ!」

 

「くっ」

 

鈴の二刀流の攻撃を一夏は必死に防ぐ。

 

「だけど、これなら!」

 

最初こそ、ほとんど防げなかったが次第に二刀流を相手にすることに慣れたのか、一夏の動きに落ち着きが戻る。

 

弾き、受け流し、一夏は反撃の一太刀を見舞おうとした。

 

 

「うおおおおおおお!」

 

「なら、これはどうかしら!」

 

そんな一夏を見つつ、鈴は得意気に少しだけ身体を後方へ逸らす。

瞬間、甲龍の両肩部の非固定ユニットの銃口が一夏に向けられた。

 

ロックオンされている、と一夏が気付いたと同時だった。

 

 

「ぐっ!!?」

 

 

瞬間、一夏の体は大きく吹き飛ばされる。

 

「なにがっ!?────!」

 

なにか来ると気配を察した一夏は、体勢を立て直しながら身を捻る。

同時に、後方の地面が炸裂した。

 

「───!」

 

一夏は頭を振り、衝撃で混乱していた頭に冷静さを取り戻す。

 

「今のはジャブだからね、まだまだ行くわね!」

 

「くっ!?」

 

鈴の言葉に顔を上げると同時に、衝撃が一夏の身体を揺さぶった。

アリーナの地面に叩き付けられるが、先程と違い覚悟はしていた為すぐに体勢を立て直す。

 

被ロックオンの警告───!

 

まるで見えない弾でもぶつけられたような、そんな感覚のまま一夏は次弾、さらに次弾を地面を動き回り回避した。

 

狙いはセシリアや流星のライフル程正確ではなく、口径は大口。

連射もそこまではきかない。

一夏は直感的にそれを見抜いていた。

 

 

「よく避けるわね」

 

「見えない、砲弾か!?」

 

「説明する気はないわよ!!」

 

さらに仕掛ける鈴に、一夏は回避に徹していた。

彼の場合、遠距離武器もなくブレード一本のみ。

撃ち返すことも出来ない。

逃げ回っても追撃の手が緩まることは無い。

 

「やるしか、ない!」

 

このままだと埒が明かないと踏んだ一夏は、静かに逃げながらだが、腰を落とした。

 

───零落白夜を解除し、まるで居合のように雪片弐型を腰に構える。

 

 

「……何をする気?」

 

必殺と謳ったものを仕舞う一夏を見て、鈴は警戒する。

しかし、この状況でやる事は変わらない。

 

「まあいいわ、隙ありよ!」

 

構える一夏に衝撃砲を放つ。

 

「行くぞ鈴!」

 

一夏は鈴の衝撃砲を放とうとする微かな動作を見逃さなかった。

 

一歩踏み込み、加速する。

衝撃砲は、入れ違うように一夏がいた場所を吹き飛ばした。

 

一夏はそのまま構えを解かずに、鈴に直進する。

 

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)!」

 

 

それも、白式の性能を叩き付けるような推進力だ。

十全の性能を引き出せていないとはいえ、驚異である事には変わらない。

 

 

衝撃砲発射までの間隔、そこに一夏は身をねじ込む。

 

 

一気に距離を詰めた一夏は、居合のように雪片弐型を引き抜くようにして鈴に斬りかかった。

 

 

「なっ!?」

 

斬りかかる寸前、零落白夜が目前で発動したのを確認した鈴は慌ててそれを受け流して防ぐ。

 

一夏が攻勢に出た瞬間だった。

 

 

「まだまだ!」

 

一夏は連続で雪片を振るい、鈴を押していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おりむーが押してる!」

 

「ここで最初の宣言が活きてきた、か」

 

目を輝かせて一夏の活躍を見守る本音に、流星も少し驚いた様子で声を発した。

観客席から見守る他の一組の生徒は、固唾を飲んで見守っている状態だ。

 

 

実は一夏の最初の挑発は、流星は関与していない。

 

下手に武装を知らせる真似をすると、一夏の一撃必殺足り得る零落白夜による不意打ち──こと初見殺しでの勝利が無くなってしまうからだ。

 

だが、今はあの宣言が活きてきた。

急な接近からの零落白夜。

アレを振るわれる瞬間、鈴の脳裏に危機意識が大きく芽生えた事だろう。

それによる一夏攻勢の流れ。

一夏のあの居合のような構えからの急接近と加速は、IS稼働時間から見ても目を見張るものがあった。

 

 

「入れ知恵したのは、織斑千冬か」

 

 

静かに呟く流星。

彼の脳裏には少し愉しそうな千冬の顔が浮かぶ。

 

少しだけ溜息をついた後、流星は何度も切りかかる一夏を見て眉をひそめた。

 

「ここで決めないとキツイぞ、一夏」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおお!」

 

一夏は雪片弐型を振るい、防御に徹している鈴を押していく。

一夏自身も此処が勝負所と理解していた。

二振りによる鈴の捌き方は見事と言うしかない。

不意打ちに近い一刀から、立て続けに防ぎ続けている。

 

 

「流石だぜ!鈴!」

 

「当然!(あたし)は代表候補生なんだから、こんな所で負けてられないのよ!」

 

「けど、勝つのは俺だぜ!!」

 

 

「それはっ!どうかしら!!」

 

「なっ!?」

 

鈴は一夏の雪片弐型を受け流すと、二振りの青龍刀である双天牙月を連結させ、1本の武器にする。

 

すると、鈴は一夏の一太刀を冷静にかわし、逆に身体を回転させその遠心力を乗せた強烈な一振りを一夏に浴びせた。

 

 

「ぐっ!?」

 

「驚いたでしょ!(あたし)も近接は得意なの。その程度でやられないわよ!」

 

「まだだ!」

 

距離を今度離されれば勝ち目はなくなる。

二度も同じ手が通じる相手ではない。

一夏は鈴に対し、攻撃を仕掛ける。

 

だが、鈴はもう体勢を立て直しており、そのまま応じる。

最初の数撃を受け流し、鈴が徐々に一夏のシールドエネルギーを減らして行った。

技術で完全に負けている。

 

 

(このままじゃやられる!)

 

 

一瞬、焦りが頭を支配しようとする。

 

しかしそこで、千冬に教えられた太刀筋が脳裏に浮かんだ。

 

 

 

「そこだ!」

 

 

鈴の猛攻の中、雪片弐型を振るい華麗に受け流して見せた。

 

織斑一夏の実力では完全な再現は出来ない。

 

だが、その一端の再現なら、誰よりも千冬の太刀筋を知っているからこそ可能だった。

 

 

「なっ!?」

 

 

突然、双天牙月による猛攻を凌がれるだけでなく受け流された鈴の体勢が崩れる。

 

 

「っ──」

 

「───取った!」

 

「甘い!!」

 

 

姿勢を崩しながら鈴は冷静に龍咆を放つ。

 

 

 

「うおっ!?」

 

 

それを受けた一夏は大きく吹き飛ばされ、距離を離されることになった。

 

体勢を立て直し、一夏は鈴と向かい合う。

鈴は少しだけ一夏の姿を観察した後、一夏に話しかけた。

 

 

「まさかここまで粘るとは思わなかったわよ、一夏」

 

「もう勝ったつもりかよ?」

 

「あんたの力量もわかったからねー。ここからはさらにギア上げていくわよ!」

 

「なら俺も!もっと全力で行くぞ!!」

 

鈴と一夏が武器を構える。

──決着は近い。

観客が固唾を呑んで見守る中、2人は同時に動き出し────────

 

 

─────────刹那、アリーナの上空に貼られていたシールドごと、アリーナの中央が紫の閃光と共に撃ち抜かれた。

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