IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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すいません。


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アリーナを貫く衝撃は、爆音と共に観客席を大きく揺るがした。

突然の出来事に生徒の殆どが困惑する中、流星は立ち上がりISを部分展開して警戒態勢に入った。

 

 

「…当たって欲しくない予感だったんだけどな」

 

本音達の前に出て腕部分と盾だけ展開───センサーを用いて襲撃者を確認しようとする。

だがすぐに緊急警報が鳴り響き、隔壁が観客席を覆った。

改めて襲撃されたと認識し、生徒達は半分混乱しながら避難に移る。

 

 

「無事だな、皆」

 

「う、うん」

 

「何が起きたかわかんないけど…」

 

「あの威力、ここも安心出来ない。もし襲撃者の狙いが観客席ならひとたまりもない程にはな」

 

 

流星はそう答えながら視線を出口に移す。

 

 

───観客席の入り口まで閉じていた。

生徒達がさらにパニックになっているのがわかる。

 

システム自体が正常に動作仕切っていない?

理由はわからないが、ここはIS学園だ。

誤作動ではなく、あの敵機が何かしたと見るのが妥当か。

 

 

「狙いは一夏か…?」

 

だとすれば納得はいく。

外部への連絡網を潰す。

一年生の対抗戦が行われているこのアリーナの総戦力を考えれば、当然だ。

この様子ではセシリアもすぐには動けないだろう。

 

 

──ならば、俺がすべき事は決まっている。

 

 

流星は考えを巡らせた後、振り返り近くにいた一組の生徒の様子を見た。

困惑と恐怖が見て取れるが、専用機持ちが近くに居た事もありパニックにはなっていない。

 

 

 

「いまみー、皆は私が避難させるよ」

 

流星の意図を見抜いてか、本音は真剣な表情でそう告げた。

流星も本音の考えを汲み取る。

 

 

「わかった。本音、アリーナに出れる最短の通路は?」

 

「1番下のピット側の通路。そこの突き当たりならスグ下に更衣室があるよ」

 

「床をぶち抜けばいいんだな。わかった。とりあえず皆の避難用に出口だけ機能するようにする」

 

「いまみー、気を付けてね」

 

「ああ」

 

そうして出口に向かおうとした流星に通信が入った。

 

 

 

『──…きこえるかっ!今宮!』

 

 

「織斑先生?」

 

 

突然のコアネットワークを介した通信に、流星は部分展開している腕を上げ空中にディスプレイを投影する。

そこに映ったのは織斑千冬。

その表情を見て、流星は緊急だと即座に理解した。

 

 

 

『───すぐに避けろ!』

 

 

 

何時になく焦りを感じさせる声に、即座に思考が切り替わる。

 

 

近くに居た本音達を首根っこ掴む勢いで抱え──その場から上の観客席へ飛び込む。

 

 

同時に観客席の上部の隔壁が一部吹き飛ぶ。

衝撃の凄まじさを物語るように轟音が響き渡る。

──先程流星達がいた場所に凄まじい衝撃が叩き込まれていた。

 

 

 

鋭利な爪。

観客席は跡形もなく貫かれている。

 

 

 

あと回避が1秒遅れていたら──?

語るまでもない。

 

 

ゾッとする本音達の前に、ゆっくりとその爪の持ち主は立ち上がる。

──それは流星と同様に灰色のISだった。

 

フルフェイス型のISであり、スラスターも小型──何より異様な程細身のISだ。

ただ、腕にはそれと矛盾するかのように大型の爪がある。

先の攻撃に用いられた特徴的な爪。

 

 

無機質な動きをするソレは、1歩だけ流星の方へ踏み出した。

肩には『ゴーレム:S』とだけ、彫られているのが見られる。

 

 

『今宮!無事だな!?』

 

「まあ何とかお陰様で……。敵機はもしかして2機ですか?」

 

『そうだ。いいか今宮!取り敢えずそいつを観客席から外へ出す事だけを考えろ!いいな?くれぐれも無茶は───』

 

そこで通信は切断された。

流星はコアネットワークが切断されたことに違和感を覚えつつ、本音達に声をかける。

視線は敵機に向けたまま、彼は少し前に出る。

 

 

「…本音。俺が合図したら、皆を連れて一斉に反対側の観客席へ走れ」

 

「いまみー、でもこんな狭い所でなんて」

 

「見ろ。出口に固まってる奴らも幸い呆気に取られて、今はパニックから解放されてる。今なら指示し易い」

 

「……うん」

 

少し納得行かなさそうに頷く本音を前に、流星は続ける。

 

「何より、狙いは恐らく俺だろう。男性操縦者とそのIS目当てなら一夏だけでなく俺も狙われるのが道理だ」

 

ゆっくりと、敵機が動き始める。

 

 

「行け、本音」

 

 

流星はISを展開し、近接ブレードを展開して敵機に突っ込む。

 

細身の敵機はそれを正面から爪で受け止めた。

金属音が鳴り響く。

流星は全力で突っ込んだのに対し、敵機はビクともしない。

 

 

 

「目的は男性操縦者か?」

 

鍔迫り合いの状態で流星は呟くようにして敵機に話し掛ける。

───反応は一切なかった。

フルフェイスで中身が見えないせいかどうかはわからないが、流星は妙な違和感を覚える。

 

 

「くっ!?」

 

敵機のもう片手の爪による横なぎを、流星は身を1歩引かせて避ける。

 

そのまま近接ブレードを下から切り上げるように振るった。

金属音と共に、相手の胴体を斬り付けた。

 

 

「硬いっ!」

 

しかし、結果は傷1つ付けられていない。

驚愕する流星に対し、敵機はもう片方の手の爪で切りつけた。

咄嗟にブレードを身体に対し縦に構え、ブレードの背で受け止めようとする。

 

 

「がっ!?」

 

しかしそれは叶わない。

その細身からは想像出来ない出力だった。

流星は観客席の上側の席に軽々と吹き飛ばされる。

 

 

「っ…何て馬鹿力だよ…」

 

即座に起き上がる流星。

そこで肩部にざっくりとした切り傷が出来ていることに気が付いた。

 

──防いだはずの爪でそのまま切りつけられ、しかも絶体防御を貫通して傷を負わされている。

 

掠っただけでこれだ──マトモに受ければひとたまりもない。

少し先で見守っていた本音も息をのむ。

 

 

「不味いな…」

 

静かに戦況を分析し、流星は予想以上に状況が良くない事を改めて把握した。

 

まず、観客席から皆が避難できないことが致命的だ。

下手に銃火器を使えない。

相手が銃火器を持っていない保証もないため、接近戦をなるべく仕掛けるしかない。

 

 

次に狭い場所であり、相手は小回りがきくこと。

槍を使うにしても、余りにこの空間は不向きだ。

ナイフで戦うにも離脱の手段が乏しい今は好ましくない。

 

故に、流星は相手を強引にでも観客席の外へと連れて行くことが得策だ。

しかし、相手の出力は予想を遥かに上回るもの。

その上あの危険な爪と怪力、そして装甲の硬さではどうしようもなかった。

 

 

(──まるで、この状況を想定した敵だな)

 

外で一夏と鈴が相手にしているであろうISのことはわからないが、正面の敵機はそういうものだと流星は直感する。

 

 

「!!」

 

 

今度は敵機が凄まじい跳躍力をもって流星に飛び掛った。

流星は何とかそれを受け流す。

流星の真下の床が一撃でクレーターのようになった。

 

(ここだ)

 

流星は姿勢を崩しそうになりながらも、強引にブレードを振るう。

カウンター気味の絶好の一撃。

狙いは硬い装甲の隙間。

 

 

「関節なら──!」

 

だがそれも空振りに終わる。

敵機の俊敏な動きを前に、今の状況下まともに狙いを捉えることは不可能に近かった。

 

真上から振るわれる爪。

それをブレードで受け止め、流星は左手にナイフを展開した。

 

 

(動きは単調だな──)

 

流星は関節に目掛けて、ナイフを投げつける。

 

だが敵機の動きは機敏だ。

───ナイフは敵機の肘関節を掠めて行くだけに留まった。

 

予想通り関節部はそんなに硬くないらしい。

明確に切り傷が出来ていた。

 

(───?)

 

さらなる違和感。

流星は敵機の攻撃を受け流し、敵の後方へ滑り込む。

 

 

 

その切口を見て、流星は目を見開いた。

 

「…機械…?」

 

見えたのは幾つものコードや金属の部品。

明らかに切り傷のスグ下に人の腕が見えても、おかしくないはずの細身のISの筈なのに、だ。

 

つまり、この敵機は─────。

 

 

「────無人機?」

 

 

呟きと共に、敵機の動きがさらに一段階速くなる。

避けきれない。

 

そう判断した流星は、防御姿勢を取らずに攻撃に走る。

ブレードを先程傷付けた───左腕の肘関節に強引に突き立てた。

 

 

「っっっ!」

 

 

相討ち気味に切り飛ばされた流星は、背後の観客席出口に叩き込まれる。

幸い、戦闘している流星の近くの出口だった為、付近には誰もいなかった。

出口の隔壁が壊れ、避難経路が出来上がる。

 

 

 

 

「いまみー!!」

 

 

本音の声が観客席に響き渡る。

 

 

 

「ごほっ…はっ!…かっ…」

 

息を大きく乱し、ISを装備したまま横たわる流星。

その姿を見て慌てて駆け寄った本音は、身体を起こそうとした所で気付く。

ドロリと赤い血が流星の左上腕と腹部から流れ出ていた。

 

「い、まみー?」

 

「っ、ははは…流石に、不味いな…」

 

「今すぐ止血しないと!」

 

本音は自身のハンカチと髪留めを駆使し、流星の左腕に巻き付け止血する。

だが、腹部はどうにもならないらしくそのダボダボの制服の上着を脱ぎ捨て、巻き付けて止血を図ろうとする。

 

 

しかし、敵機は腕からブレードを引っこ抜き立ち上がってくる。

 

 

それを見た流星は身体を強引に起こす。

敵機は流星の様子を観察している様だ。

 

──本音は、流星の周りに微かに赤い電撃が走ったように見えた。

 

 

「…ありがとな、本音。少し楽になった」

 

「すぐ後ろの出口が壊れて開いたよ?今ならいまみーだけでも…」

 

「バカ。逃げるのはお前らだ。……ここからどうにかしてコイツを引き離すから…その隙にここから逃げろ」

 

今にも飛びかかってきそうな敵機に警戒しつつ、足下をふらつかせる流星。

その瞳は何処か遠くを見ている。

そんな流星の姿を見て本音は疑問を口にする。

 

 

「怖く、ないの?」

 

自身の力量への理解と、状況への理解は流星が誰よりも優れていたはずだ。

だからこそ、出た言葉。

 

 

「……どうだろうな……」

 

「……死んじゃやだよ…?」

 

「善処するよ」

 

本音の言葉に、力なく笑う流星。

 

同時に敵機が動きを見せた。

 

流星も迎撃に踏み出し、敵機攻撃に咄嗟に出現させた黒い槍で応戦する。

最初の一撃を受け流し、そのまま石突部分で敵機の勢いを利用して投げ返す。

 

 

敵機は投げ飛ばされながら、何かを流星の首に巻き付けた。

 

「尻尾!?───っっ!?!」

 

敵機につられ、流星の身体も宙に浮かぶ。

避難口から離れることには成功した。

流星は尻尾を解こうとしたが、振り解けないと悟ると槍を強く握り直す。

 

敵機も流星の攻撃に反応して、尻尾を大きく振るった。

 

 

「磔にでも、なっとけっ…!」

 

 

流星は敵機の左肘に黒い槍を投擲した。

黒い槍は敵機の左肘を完全に貫き、出口と反対側の壁に敵機を磔にした。

 

 

 

「────っ!?」

 

瞬間、流星は観客席の中腹に凄まじい勢いで叩き付けられる。

 

 

 

──────轟音、それと共に流星は意識を失った。

 

 

 

 

 

時間は少し遡り、アリーナ。

 

 

「くそっ!?観客席にもISがっ!!」

 

 

一夏は最初の襲撃者──『ゴーレム』と彫られた敵機のレーザーを躱しつつ、観客席の方を見た。

ゴーレムが襲来した直後、さらに細身のもう一機が観客席に飛来したのを見ているだけしか出来なかったのだ。

観客席の人間の安否を心配する一夏に、鈴は声を大きくしてよびかける。

龍砲をゴーレムに放つが、それは避けられる。

 

 

「一夏!(あたし)が時間を稼ぐからあんたも逃げんのよ!」

 

「逃げるって!?女を置いて逃げられるか!」

 

「あんたが1番弱いんだから仕方ないでしょ!」

 

「なら───!」

 

「──観客席の方には行かない方がいいわよ。それこそあの火力の高いレーザーが観客席に叩き込まれたらひとたまりもないから」

 

鈴は冷や汗を流しながら、冷静にそう告げた。

観客席がどうなっている不安で仕方がなかった。

鈴と一夏はレーザーを躱し、向かってくるゴーレムの拳を避けた。

その大きな図体に反して、機動力はそれなりにあるようだ。

 

 

『凰さん!織斑君!聞こえますか!?』

 

「山田先生!」

 

『良かった!こっちには通じました!』

 

ISのコアネットワークを通じての、2人への通信を寄越したのは管制室にいる山田真耶だった。

一夏と鈴はそのチャンネルを開きつつ、通信に応じる。

 

 

「山田先生!観客席はどうなってるんですか!?」

 

『飛来時の怪我人は居ません。でも出口の隔壁が誤作動で降りてしまっていて、皆逃げられない状況です。今は敵機と今宮君が交戦しています!』

 

「流星が!?」

 

「…あの狭い空間だと不味いわね…」

 

 

鈴も一夏も流星の実力は知っている。

だがそれを加味しても、あの狭い空間で戦うとなると不安が残る。

状況は決して楽観視していいものではなかった。

 

 

「鈴!」

 

「っ!?、アイツ手の裏にも銃口あったのね!」

 

一夏はレーザーに掠りそうになった鈴を咄嗟に抱き抱えて、射線上から離脱する。

 

 

「大丈夫か?」

 

「あ、ありがとぅ…」

 

鈴は状況を理解し、真っ赤になって俯いた。

のも一瞬。

すぐに恥ずかしさが勝り、じたばたと暴れた。

 

「と、とっとと下ろしなさいよ!」

 

すぐに一夏に下ろしてもらい、鈴と一夏は改めてゴーレムと対峙した。

 

 

『凰さん、織斑君。今は時間稼ぎをして下さい。学園の教師や3年生の精鋭達がアリーナのシステムを取り返しにかかっています。解除され次第すぐに部隊が駆けつけるのでそれまで──』

 

「山田先生、アイツは俺と鈴で倒します」

 

「同意ね。このまま逃げ続けてても観客席の方もヤバそうだし」

 

『!?ダメですよ!?生徒である貴方達にこれ以上危険な目に合わせる訳には行きません!今だって相当危険なお願いをしているというのに!』

 

一夏の言葉に真耶は声を荒らげた。

その声色は本当に一夏達を心配してのもの

生徒を危険な状況に晒している不甲斐なさを悔やんでいるのが伝わってくる。

 

駄目だと否定しようとしたところで、真耶の横から千冬が割り込んだ。

 

 

『──わかった。凰、織斑、やれるんだな?』

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

『なら、任せたぞ』

 

短い言葉とともに通信がきれる。

一夏と鈴は互いに顔を見合わせると武器を改めて構えた。

 

 

「やるぞ!鈴!」

 

「いい?あんたは前に出過ぎちゃ駄目よ?あくまで(あたし)があんたを護るんだから!」

 

「──なら、その背中くらいは守るさ」

 

「──なっ!?」

 

「……?どうした?鈴」

 

不意打ちをくらい、1人赤面する鈴。

瞬間、ゴーレムは2人に向けてレーザーを放つ。

 

「「!」」

 

一夏と鈴はそれぞれ左右にかわし、同時にそのまま回り込む。

 

 

「喰らいなさい!」

 

鈴の両肩の龍砲から衝撃砲が放たれた。

 

ゴーレムは初撃のそれをマトモに受けるが、微かに巨体が後退するだけだ。

 

 

「硬いわね」

 

と、冷静に分析する鈴をよそに反対側から一夏が斬りかかる。

 

 

「うおおおおおお!」

 

だが、ゴーレムは一夏の方に振り向くと同時にその剛腕を振るっていた。

 

「がっ!?」

 

大きな衝撃を受け、一夏は後方へ殴り飛ばされる。

 

「一夏!」

 

即座に鈴は双天牙月を振るい、あいだに割って入る。

その剛腕を何とか受け流し、龍砲を撃つことで隙を作り一夏と共に離脱した。

あの図体の割には、反応速度と機動力は悪くない。

そう鈴が考えていると、一夏は何処か不思議そうな様子で尋ねた。

 

 

「なあ鈴、アイツやっぱり変じゃないか?」

 

「何処がよ?」

 

「今だってなんか俺達の様子を伺ってるし、反応の仕方が奇妙というか…」

 

「確かに反応の仕方はなんか違和感あるわね」

 

 

同意する鈴を前に、一夏は真剣な様子で呟く。

 

 

「もしかしてアイツ、機械なんじゃないか?」

 

 

「はぁ?そりゃISは機械でしょ…ってあんたまさか無人機だって言いたいワケ!?」

 

「ああ、俺はそう思った」

 

一夏の真剣な表情から、鈴は一夏の疑問を口に出し即座に自身で否定した。

 

「──ううん、有り得ない。人が乗らないと動かない、ISはそういうもののはずだもの…。──で、仮に無人機だったとしたら何か策があったりとかするわけ?」

 

 

「ああ。機械相手なら遠慮はいらねえ。零落白夜を全力でたたき込める!」

 

 

2人は回避に専念し、レーザーを躱す。

相手は確かに一夏の言う通り、動作が機械的だった。

あれ程の性能がありながら、仕掛け方も単調だ。

だが、装甲の硬さと反応速度や火力は脅威だ。

 

このままでは埒が明かない。

被害状況も考えると早期決着が望ましかった。

 

 

「なら、あれを無人機と仮定して動いてみましょうか!」

 

「ああ!」

 

半分賭けだが、と鈴は覚悟を決める。

一夏のエネルギーも残り少ない。

問題はどうやって一夏の攻撃を当てるか、だが──。

 

 

「俺に考えがある」

 

 

一夏は一人、笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここは?」

 

流星が目を覚ますと、そこは灰色の草原だった。

どこまでも水平線まで広がる灰色の草原に、灰色の空。

モノクロの世界。

即座に身体を起こし、隣を見る。

 

そこには白い髪に黒い服の少女が居た。

 

輝きのない無機質な緑の瞳を見て、流星はやっと理解する。

 

 

「……アンタ、『時雨』なんだな」

 

 

自身の専用機の名前をしっかりと言葉にする。

少しだけ、風が吹いた。

雲が微かに動く。

少女──『時雨』は静かに流星を見つつ、コクリと頷く。

 

 

「はい。その通りです」

 

 

少女の返答の声色に感情は見られない。

ISには意志のようなものがある、ということは流星自身も知っていたが予想と少し違う為驚きを隠せなかった。

 

流星は『時雨』の方に怪訝な目を向ける。

 

流星が彼女を見て、どこか確信めいたものを直感する。

彼自身にもその理由はわからない。

 

 

「───アンタ、普通のISよりアイツらに近いだろ?」

 

 

「──、」

 

 

その言葉に、ほんの一瞬だけ『時雨』が反応した気がした。

 

 

「何故かわからない。わからないけど──あのゴーレムとかいう奴とアンタは似てる気がするんだ」

 

流星の脳裏に浮かぶは、襲撃者である『ゴーレム:S』という機体。

恐らく、最初にレーザーを撃ってきて一夏達と交戦しているISも無人機であるという確信めいたものがあった。

 

流星の言葉に『時雨』は静かに口を開いた。

 

 

「──コアは全てで幾つあるか、知っていますよね?」

 

 

「…確認されている分は467個だ」

 

 

「その通りです。そして私のコアナンバーは467、つまり作成者以外は知りませんが私は───」

 

 

「現存する中で最も後に産まれたコアってことか」

 

一人納得する流星に対し、『時雨』は彼の隣にちょこんと座り込む。

 

流星はその様子を見ながら、続けた。

 

 

「───それで用は何なんだ?」

 

「鋭いのですね」

 

もう一度、風が吹いた。

オレンジ髪と、その横で白髪が靡く。

綺麗な緑の瞳と、その隣のオレンジ色の髪。

 

色を殆ど失ったかのような風景の中では、2人は浮いていた。

 

 

「簡単だ。搭乗時間が長くもない俺がISであるアンタと俺は話せてる。IS適性も高くないのにな。だからあんた側が強引に呼び付けたと受け取ってる」

 

「……一つ、訂正しておきますと、貴方と私の相性の問題もあります。IS適性云々でなく、純粋な相性です」

 

「相性、か」

 

「同じものを強く望んでいる、それだけですよ」

 

思い当たるようなものはない、と流星は考え込む。

──こんな少女と自身の望んでいるものが同じ?

理解が及ばない。

それだけで自分は、この『時雨』と相性がいいのか。

 

 

「用件は先程の続きになります。私は467個目。元々は私もあのような形を想定したコアになっていました。しかし作成者の気まぐれにより作り替えられ、世に出ました」

 

「…」

 

微かに見え隠れし始める『時雨』の感情。

 

 

 

「だから、『アレ』は有り得た私の姿。────あの子達を解放して下さい、今宮流星」

 

 

 

それは、決して無機質なものでもなくなっており、ただ不器用な人間の表現そのものにも見えた。

 

流星は立ち上がり、『時雨』に手を差し出す。

 

 

「──やれるだけやってみるよ」

 

 

少女─『時雨』は少し驚いた様子でいたが、流星の即答を理解すると彼の手を握り立ち上がる。

 

 

同時に、流星は握った掌に違和感を感じた。

 

 

ゆっくりと手を開き、右手に握られていた物に気づく。

───黒い宝石だった。

 

 

「それを差し上げます。とっておきです」

 

「ありがとう。これで言い訳出来なくなったな」

 

「それでは、ご武運を」

 

少女が頭を下げ、流星を見送る。

 

少女はその場から流星が消えると、空を見上げ呟いた。

 

 

どこか祈るように、一人佇む。

 

 

 

「いつか此処も、色を取り戻す日が来ますように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず飛び込んできたのは、周囲の避難する人達の騒がしさだった。

徐々に視力も回復し、周囲の状況が目に飛び込んでくる。

 

 

「…っ」

 

「いまみー!良かった…意識が戻ったんだね…」

 

「本音、か…」

 

流星が目を覚ますと、目の周りを赤くながらも懸命に流星を介抱する本音が目の前にいた。

 

眠っていたのは、ほんの数十秒くらいか?

 

その隣に視線をやると、そこでは簪が空中に表示されたディスプレイを慌ただしく操作している。

 

 

「最低限の処置なら出来るから、それで止血の補助くらいは。後これで問題はないはず!」

 

流星は簪の言葉を聞きながらも、まだ朦朧とした状態で立ち上がる。

正面を改めて見ると、敵機は左肘を槍で貫かれ完全に磔状態になっていたまま。

 

──安心は出来ない。

強引に左腕を引きちぎろうとしており動き出すのは時間の問題だった。

 

 

「──今宮君!?メンテナンスはまだ……っ!」

 

「いや、十分だ。おかげでとっておきを何の憂いもなく使える」

 

「え?」

 

困惑する簪をよそに、流星は簪や本音達より前に出た。

 

 

 

────次の瞬間、紅い電撃が流星の周りにまとわりついていく。

 

 

 

まるで層をなすように流星を紅い電撃が包み、直ぐに流星の姿はみえなくなった。

 

「何が、起きてるの?」

 

「私も、わからない…」

 

本音と簪は、流星の身に何が起きているか理解出来ずにいる。

あの紅い電撃は何なのか。

不思議と嫌な感じはしなかった、とだけ2人は思いつつ見守る。

 

 

 

─────そして、紅い電撃は突然弾け飛んだ。

 

 

 

中から現れたのは──真っ黒な装甲に大きな翼型スラスターを装備した流星の姿だった。

一回り、小型になったと簪や本音は感じる。

 

『時雨』とはフォルムも基本色も違う、まるで別のISのような姿。

スラスターから微かに漏れる光は紅いものだった。

 

 

黒の装甲の隙間に微かに見えるエメラルドのライン。

真っ赤なエネルギーと、バイザー。

流星はその姿にを自身で軽く確認すると、笑みを浮かべた。

 

 

「行くぞ、『黒時雨』」

 

 

流星の言葉と共に、紅いエネルギーが輝きを増した。

 

同時に、敵機が自身の左肘から槍を引き抜き、流星に飛びかかろうと地面を蹴ろうとする。

 

 

「──遅い」

 

次の瞬間、流星による飛び蹴りによりそれは阻止された。

顔面部分を蹴られた敵機は、流石によろけざるを得ない。

 

そのまま流星は落ちていたブレードを拾い上げ、壊れかかった左肘から先を切り落とした。

 

 

 

 

「凄い…」

 

簪はそれを見て驚きの声を漏らした。

圧倒的な機動力を前に、敵機が反応できていないことがわかる。

──先程までと機動力の差が逆転している。

 

 

 

「速攻で片をつける!」

 

流星は宣言と共に、さらに一歩踏み込んだ。

 

敵機は尻尾を素早く動かし、流星を捉えようとする。

同時に右手の爪を横に薙いだ。

 

しかし、それは悪手であった。

 

 

「!」

 

 

流星は自身を捉えようとする尻尾を片手で掴むと、敵機の爪攻撃に対し、足で踏むことで延ばして盾にする。

 

右手の鋭利な爪により、敵機の尻尾はあっさりと両断された。

即座に尻尾から手を離し、近接ブレードを振るい敵機の右肘を切り付けた。

 

 

「流石に一太刀では切り落とせないか」

 

 

ならば──と流星は敵機の左膝に返す刀で斬り付ける。

 

──敵機は完全に姿勢を崩した。

シールドエネルギーの残りも考えると、ここで決めるしかない。

 

 

「────トドメだ」

 

敵機の首元に近接ブレードを上から滑り込ませ、刃を突きつける。

そのまま流星敵機に馬乗りになった。

首元から胴体を貫くように、ブレードを突き立てていた。

 

 

 

 

 

────瞬間、『黒時雨』の背のスラスターが全開になった。

赤黒いエネルギーを吐き出しつつ、ブレードを握る柄に力を込める。

 

 

ブレードは少しずつ押し込まれ、床が勢いで砕けていく。

敵機の動きも鈍くなったように感じた。

 

 

敵機はゆっくりとだが、右手でを流星の肩を掴む。

力が込められ、爪が流星にくい込んでいく。

 

 

だが、流星は構わずエネルギーをさらに放出した。

 

 

 

 

「───────砕けっ、やがれええええええええ!!!!」

 

 

 

 

内部で敵機の何かにヒビが入る。

同時に敵機の右手の力が緩んだ。

 

 

迷わず流星は左腕のフックショットで黒い槍を引き寄せ───そのまま近接ブレードと同様に敵機の首元から胴体へ叩き込む。

 

 

 

───瞬間、何かが壊れた音が響き渡った。

 

敵機の右手から完全に力が抜けていき、静かに床に転がる。

 

 

「──…」

 

 

スラスターの噴射を止め、流星はふらつきながら距離をとった。

 

 

『黒時雨』が解除され、黒の装甲から変わって灰色のIS──『時雨』に戻る。

 

 

敵機は完全に停止したらしく、ピクリとも動かなかった。

 

 

流星は倒れそうになるのを堪えながら、通信状態を確認すると即座に状況確認を始める。

 

 

彼の視線は、既にアリーナに通じる隔壁の穴に向いていた。

 

 

 

 




時雨の強化形態。
詳細は後日に。
あまり多用できる感じではないとだけ先に。
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