IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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「──奇襲を仕掛ける。合図したら龍砲を全力で撃ってくれ」

 

「…いいけど、本当に策があるのよね?さっきから龍砲で牽制から避けられまくりじゃない?」

 

「大丈夫だ。この手なら、懐には潜り込める」

 

 

そう鈴に告げると一夏は雪片弐型を両手で持ち、構える。

ゴーレムはレーザーを撃つのを止め、一夏達の様子を観察するように静止していた。

 

 

──好都合だ。

ゆっくりと、大きく息を吸う。

仕様的に可能な作戦だ。

無茶ではあるが、無理ではない。

 

当然、失敗は許されない。

失敗した瞬間にエネルギーが尽きてしまうことは明白だ。

 

皆を守る。

そう決めたからこそ、この案を提案したのだ。

 

一夏は己を奮い立たせ、ゴーレムを見据える。

 

 

想像してたより、ずっと冷静であった。

だが心のどこかで、もしも───とだけ考えてしまう。

 

 

その微かな雑念が、失敗を招くかもしれないと一夏は眉を顰めた。

今この瞬間もおそらく流星は戦っている。

皆を守る為にも、コイツを行かせるわけには───

 

 

と、そこで突如アリーナのスピーカーがノイズを発した。

直後に、音量の調節など度外視した声がスピーカーから響き渡る。

 

 

『一夏!男なら…っ!男ならっ!その程度何とかしてみせろぉ!』

 

 

 

聞こえてきたのは、よく知る幼馴染の声。

箒のそのがむしゃらな行動と言葉に、思わず口角が上がる。

 

 

「──はは、箒らしいな」

 

 

肩の力が、自然と抜けていた。

ブツリときれるスピーカーの音を前に、完全に集中モードに入った。

 

一夏は腰を落とし姿勢前のめりにする。

雪片弐型は腰に納刀するように腰付近で構える。

 

吹っ切れたのか恐ろしく集中が出来ていた。

体の緊張感も丁度いい。

 

 

 

「今だ、鈴。撃て!」

 

「OK!」

 

龍砲をゴーレムに撃とうとする鈴。

 

その目の前の射線上に、一夏は即座に移動した。

鈴は突然の一夏の行動に驚きの声を上げる。

 

 

「ちょ、ちょっとあんた当たるわよ!?」

 

「構わない!撃ってくれ鈴!」

 

「あ〜もう!どうなっても知らないわよ!」

 

鈴が龍砲を一夏の背に放つ。

同時に、一夏は白式の背中のスラスターを大きく解放していた。

 

衝撃砲は、空気を圧縮してぶつけてくる仕組みだ。

だからこそ、それ自体は推進力足り得る。

スラスターから直にその威力───勢いを取り込み一夏は自身の推進力とした。

 

 

「う、ぉおおお!おおお!」

 

スラスターに凄まじい負荷がかかり、同様に彼の身体にも凄まじい力がかかる。

無茶苦茶な力技。

 

鈴もすぐにそれを察し、一夏を固唾を呑んで見守る。

 

 

──と瞬間、一夏が砲弾のように撃ち出される。

 

 

 

「────ぉおおおおお!零落白夜、展開!!!」

 

 

 

ありったけの残ったエネルギーが雪片弐型に注ぎ込まれ、特別大きなエネルギーの刃が出現する。

 

ゴーレムはそれに対し、機械的に反撃に転じた。

向かってくる一夏を避けられないと判断、──叩き落とさんと剛腕を振るう。

 

 

迫り来る拳を前に、一夏は雪片弐型を握る手に力を入れた。

脱力状態で迫ってからの、瞬発的な居合。

その動きは鮮やかだった。

 

 

(箒を、セシリアを、鈴を、流星を、──千冬姉も!)

 

 

スローモーションのように感じられる刹那の時。

一夏は剛腕を、斜めから斬り上げるように斬り捨てた。

断面から血は流れない。

想定通り、無人機だ。

 

 

 

「──皆は、俺が守る!!!」

 

 

エネルギー残量が限界になり、零落白夜で展開されていた刀身が消えていく。

完全にそれが消えるよりも先に懐に潜り込み、返す刃でゴーレムを袈裟斬りにする。

 

 

 

 

バチバチと音を立てつつ、ゴーレムは機能を停止した。

バランスを崩しそのまま地面に崩れ落ちていく。

鈴も警戒を怠らずそれを見届ける。

完全にそれは地面に墜落し、すべての機能の完全停止を確認した。

 

 

 

 

エネルギーはもう殆どないが、ギリギリ間に合った。

一夏はゴーレムの落下地点まで降りて確認し、ホッと一安心すると、鈴の方に向き直る。

 

 

 

 

──瞬間、非ロックオン警告が白式より一夏の眼前に映し出される。

 

鈴は一夏よりも早く『それ』に反応していたが、間に合わなかった。

 

 

 

「──すぐ離脱して──一夏!!」

 

 

鈴の声も虚しく、ミサイルとその爆風に一夏は呑まれた。

一夏も一応回避に移ろうとしていたが、新たな敵機の位置もわからず反応も遅れていた。

 

 

「一夏っ!!!」

 

力なく地面に倒れる一夏。

様子からして、ISの絶対防御があった為直撃にはならなかったようだ。

 

鈴は怒りを顕に新たに現れた敵機を睨みつけた。

敵機はゆっくりと上空から降りてくる。

 

 

「やりぃ!大した事ないなぁ。織斑千冬の弟ってのもねぇ?」

 

その機体は濃い紫のバイザーをした、緑色の機体だった。

バイザーのせいで敵の顔は見えないが、無人機でないのはあからさまだ。

 

 

「よく言うわね!ただの不意打ちの癖に──!」

 

鈴は相手に悟らせないように素早く予備動作なしで、龍砲を放った。

 

「へーそう来るかぁ」

 

「!?」

 

しかし、それは敵が手をかざした瞬間現れた『銀色のバリアのようなもの』により呆気なく防がれる。

着弾した筈が、それにより楽々と防がれたのだ。

 

 

「今度はこっちから行くから、ネ!」

 

敵の言葉と共に、敵機のスラスター横からミサイルが数機発射された。

 

「くっ!?」

 

鈴は一夏からそれを遠ざけるように回避しつつ、龍砲で何発か撃ち落としにかかる。

しかし、敵もそれを想定してか1発だけ鈴の背後に回り込ませていた。

 

 

「なっ──」

 

気付いた時にはもう遅い。

1発着弾して、怯んだ隙に他の数発が鈴を襲った。

 

「いっちょ上がりかな?」

 

衝撃砲を散弾仕様で放つにも爆風に巻き込まれる。

顔を真っ青にする鈴を前に、敵機は口元を大きく歪ませその様を眺めていた。

鈴も龍砲で抵抗しようとするが、ミサイルはすぐ近くまで迫っていた。

残りのシールドエネルギーを考慮しても、この数に直撃すればおしまいだ。

──少しでも撃ち落とさないと。

 

 

 

「くっ間に合わなっ────」

 

 

「──いいや、間に合ったな」

 

声とともに、鈴の身体は大きく下方向へ引き寄せられる。

 

「フックショット!?」

 

それと同時にマシンガンの音が聞こえ、眼前のミサイルが爆破。

 

残った1発が鈴を追うが、それに着弾する手前で鈴は浮遊感を感じる。

 

 

「い、今宮!?」

 

 

鈴はすぐに自身が流星に抱き抱えられていると理解した。

流星は鈴を確保すると、そのままサブマシンガンで最後の1発を撃ち爆破させた。

 

流星はそのまま鈴を抱き寄せるようにして、敵機から遠ざける。

その行動のあまりの素早さに反応が遅れていた鈴は、顔を真っ赤にして手で流星の胸を押す。

 

「は、離しなさいよ!?バカ!」

 

「馬鹿暴れるな。傷に響く」

 

「って、あんたその怪我…!」

 

下ろされたところで、彼女は流星の怪我に気付いた。

身体も少しふらつき、その表情からは疲れも見える。

 

流星は鈴の質問に答えることなく、無言で即座にマシンガンの引き金を引いた。

 

敵機は倒れている一夏に向かおうとしていたようだが、即座に踵を返し距離をとる。

 

 

「…せっかく見逃してあげようとしてたのに」

 

 

「見逃す?嘘つけ。漁夫の利を狙いに来た第3勢力の癖に」

 

 

「第3勢力…?アイツはあの無人機とは無関係だってこと!?」

 

 

「想像でしかないけど」

 

「──どうしてそう思った?」

 

 

敵機の言葉に流星は警戒心を緩めることなく答える。

一方で敵機はターゲットを密かに流星達に合わせていた。

 

 

「やり口が雑なんだよ。初めから一夏やそのISが目当てならあの『ゴーレム』ってのを導入してから、援護するなり隙をついて攻撃するなり出来たはず。もし仮にあの無人機が敵味方判別出来ないとしても、お前の一派ならその特性は理解して立ち回れた筈だからな」

 

 

「仰る通りだけどよー、慌てて来た増援って解釈はあってもいいんじゃない?」

 

 

「──貴重なコアを無人機に使う奴らが、焦る状況でISを出し渋る筈もないだろ」

 

 

流星の言葉に、敵機は困ったように頭に手をやった。

心底面倒臭いといった様子で溜息をつく。

 

 

「正解だ、(ウチ)は第3勢力って奴だよ。──これで満足だろ」

 

 

だから、と敵機は言葉を続けた。

 

 

「いい加減寝とけよ?そこで寝てるマヌケと同じようにな!」

 

 

吊り上がる口角。

ミサイルを再度一斉掃射する。

 

流星は迷わずマシンガンを構え再び鈴の前に出る。

薙ぎ払うように連射したが、落としきれないと判断し鈴を抱えて再び飛び上がった。

 

「なっあんた何を──!」

 

再び困惑する鈴。

流星は弾を補充すると再度サブマシンガンをミサイルに向かって放った。

数発ヒットしないと撃墜もままならないが、他の武器より遥かに迎撃に向いている。

 

 

「下手に離れてみろ。ミサイルの狙いが別れて対処し切れなくなる」

 

 

「でも一人あたりの量は減るでしょ!?」

 

 

「馬鹿、お前の方が連射きかないだろうが!」

 

 

「あんたその傷で(あたし)を心配してる場合!?しかも何かいつもより遅くない!?」

 

 

「黙ってろ!」

 

ミサイルを迎撃しながら、流星はミサイルの方向を調整する。

多方向から来るからこそ、対処が難しいのだ。

ならば、一方向からにして対処すればいい。

 

流星は敵機を見据え、サブマシンガンをしまうとグレネードランチャーを構えた。

引き金を引き、ミサイルを撃ち落とすと不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「──ところで一夏をマヌケと言ったが、果たしてどうかな?」

 

 

 

「──なっ!?」

 

 

 

────被ロックオン警告。

その瞬間、蒼い閃光が敵機に直撃した。

 

 

驚いた鈴が視線を横にずらすと、そこにはISを展開しアリーナの物陰から狙撃するセシリアの姿があった。

セシリアは爆煙の中に潜む敵に追撃すべく、ブルーティアーズのビット兵器を送り込み、レーザーを掃射する。

 

 

「流星さん!捉えましたわ!」

 

 

「鈴!今だ、一夏を──」

 

 

「任せなさい!」

 

急な状況の変化にも鈴はすぐに対応する。

国家代表候補生の名は伊達ではなかった。

即座にセシリアとともに追撃する流星から離れ、倒れている一夏の下へ駆けつける。

 

すぐに一夏を抱えると敵機から距離をとるべく後方まで離脱した。

流星とセシリアは攻撃を止めると、すぐに鈴の周囲に移動する。

 

 

「よくこんな不意打ちなんて出来たわね」

 

 

「一夏のお陰だ。一夏がやられる瞬間に敵機が来たってこととその座標を俺達に送ってきたからな」

 

 

「そういうことですわ」

 

 

一夏の判断に、鈴は少し認識を改めた。

彼はやられる瞬間に理解していたのだ。

自身のエネルギーは残り少なく、どの道尽きる。

だからこそ、この状況を伝える選択をした。

即座に反撃に転じられるように───。

 

 

 

 

 

「……てめえら、やってくれるじゃねえか…っ!」

 

 

「!」

 

爆煙が晴れ、現れた敵機は───銀色のバリアのようなものに覆われていた。

球状に広がるそれは敵機全体を包んでいた。

 

緑の装甲には、汚れすら見られない。

 

 

「そんな!?確かに直撃したはず!?」

 

「あの銀色のバリアみたいなののせいね…」

 

敵機を見つつ状況を分析するセシリアと鈴。

敵機は静かにだが、怒りをもってバイザー越しに流星を睨み付けていた。

 

 

「一発目でスラスターを狙撃して破壊して、そこからの連続で射撃を牽制も兼ねて撃ちつつ、織斑一夏の回収…。後は教師の増援を待つってか…?ムカつく野郎だ……!」

 

 

「まさかアレが防がれるとは俺も予想外だけどな…。さてどうする?スラスターを破壊、破損させられなかった以上、お前が逃げるのを止められないが」

 

 

「───本気でムカつくがその通りだ。お前らを倒してソレを回収する事は出来るが、その後の教師連中が面倒だし…。時間をかけすぎた。(ウチ)にも優先すべき目的があるから、今回は退いてやるよ」

 

 

背を向け、撤退する敵機に対しセシリアも鈴も流星も下手に手を出す事はしなかった。

 

流星は見るからにボロボロであり、立っているのもやっと。

そして一夏はISすら纏っていない状態で気を失っている。

 

言葉をかわさずしてこれが最善であると理解していた。

 

 

「何とか、なった、か………っ」

 

 

完全に敵機の姿が見えなくなったところで、地面に居た流星のISが解除された。

そのまま意識を失い、アリーナで倒れ伏す。

 

 

「今宮!?」

 

「流星さん!?」

 

 

静まり返るアリーナで、驚いた鈴とセシリアは流星に駆け寄り声をかける。

 

だが、流星はピクリとも反応しない。

すぐに一夏と流星は、医務室に運び込まれる事になった。

 

 

 

 

 

 

「…ここは?」

 

「いまみー!」

 

流星が目を覚ますと、そこは保健室のベッドの上だった。

保健室と言ってもIS学園のものなだけあり、そこらの病院よりしっかりした病室だ。

その一角で流星は目を覚ました。

彼のすぐ傍に居た本音が、流星が目を覚ました事に反応して詰め寄って来る。

様子からして、見舞いにきてずっと付き添ってくれていたのだろう。

流星は半身を起こす。

 

「本音か。怪我はないな?」

 

「いまみー、もしかして自分の状態に気付いてない?」

 

呆れた様子で本音がジト目で流星を見る。

珍しい光景に少し驚きながらも流星は自身の状態を再確認した。

 

腹部と腕部にグルグルに巻かれた包帯。

おそらく腹部はあの傷だ。

針で縫ったのだろう。

消毒液の臭いと包帯の臭いが流星の鼻腔に届く。

その臭いに嫌悪感を露わにする。

 

 

 

「気付いてなかったんだ」

 

「…まるでミイラ男だな。一夏は無事か?」

 

「…おりむーもまだ意識は戻ってないけど無事だよー。調べて貰ったら、絶対防御が上手いこと機能して衝撃受けて気絶してるだけみたい」

 

何か流星の言葉に思う所があったのか、本音は少し不満そうに答えた。

 

 

「怒ってるのか?」

 

「………いまみーはもう少し、自分の心配をするべきだと思う」

 

「自分の心配、か。怪我の具合も状況もわかってる。止血さえしてしまえば命に別状ないし問題ない。それより他に怪我人は────」

 

「…………」

 

「──ああ、心配かけたな。すまない」

 

本音の無言の怒りを前に、流星は困った様子で謝罪する。

どことなくズレたそれに本音は未だ少し不満を感じつつも、流星のそれが仕方の無いものだと自身に言い聞かせる。

今回の流星に関しては、特に状況が状況だった事もわかっている。

その上で、本音はある言葉を捻り出した。

 

 

「無茶したら、ダメだよ?」

 

 

流星は一人、その言葉を前に目を丸めた。

そこまで心配されたのは初めて──いやいつぶりかと困惑する。

実際に戦ってる時に心配されるのはあったが、戦闘も何もない今に心配されると思わなかったのだ。

 

 

流星はそれにどう答えていいか分からない。

戦闘中やそういった事態の最中なら答えられるが何も無い今、それにどう答えていいかわからない。

 

 

「…気を付けるよ」

 

 

流星はそれ以上の言葉を持ち合わせていなかった。

一瞬の沈黙、だがそれに耐えられなくなった流星は話題を切り替える。

 

「それで、一夏の所へはお見舞い誰が行ってるんだ?」

 

「そうだね。りんりんかなー?皆、いまみーのところにはさっきも来てたんだけどねー」

 

「そうか。ならからかいに行かないと──」

 

と、流星はゆっくりと床に脚を付け、ベッドから立ち上がろうとする。

怪我人である事も安静にしなければいけないことも分かっている為、傷口には一応気を使っていた。

 

傍に置かれていた松葉杖も持ち、立ち上がる。

 

しかし、それは叶わなかった。

 

 

「っ!?力が───」

 

「いまみー!?」

 

力を入れようとした段階で身体の力が入らないことに気付く。

そのまま倒れそうになるところを、本音に受け止められる形で助けられる。

結果、本音に抱きつく姿勢になった。

 

 

「……、ありがとう、助かった」

 

「──い、いいいまみー、力が入らないの!?」

 

「ああ」

 

麻酔の影響でも、傷の影響でもない、と流星は直感した。

倒れる松葉杖を前に、左手を見る。

手が震えており、感覚も曖昧だった。

 

一方で、本音は顔を赤くして俯いていた。

流星はそれどころではなかったため、気がつくことも無い。

 

 

 

「──なんだ、起きていたのか。身体はもういいのか?」

 

 

本音の背後からそう声をかけつつ、千冬が現れた。

 

 

「織斑先生…、そう思ってたんですけどね」

 

「やはり身体への負荷が凄まじかったようだな。これは返しておこう」

 

「…『時雨』!」

 

「解析が終わったのでな。今宮、『黒時雨』について幾つか分かったことがある。聞いておけ」

 

「!」

 

そう言って流星に待機携帯の腕輪となっている『時雨』が渡された。

流星は本音の手を借りて再びベッドに腰を下ろす。

 

 

「まず『黒時雨』だが、あれは2分程しかもたない。身体への負荷も大きく、あの形態へ移行する為の処理も時間がかかる」

 

「織斑先生、あの形態って一体…」

 

 

「布仏、あれは第二次移行(セカンドシフト)ではなく、純粋な強化形態のようなものだ。1回の戦闘中一度のみの強制的な性能の引き上げと見ていいだろう」

 

 

「──あれを実戦投入する分にはどうなんですか?」

 

 

流星の質問を前に、千冬は即答した。

 

 

「使い物にならんな。1分半程しか持たないのも身体への負荷が大きいのもあるが、何より現状で一番の問題は移行への時間だ」

 

 

「移行の処理時間か…」

 

 

「ああ、身体への負担もある程度の慣れと、それ用の鍛錬で多少軽減は出来るようになる。だが移行に時間がかかり、さらには解除後の『時雨』の出力もガタ落ちになる。最悪でも前者をどうにかしない限り、危険を招くだけだ」

 

 

「実戦では使用出来ない、って事ですか?」

 

 

「そうなるな」

 

 

千冬の言葉に、流星は困った様子で頭に手をやる。

その様子を見た千冬は、続ける。

 

 

「続いては質問になるが、お前が破壊した無人機のコアは───コアごと破壊したんだな?」

 

千冬の視線は、真っ直ぐと流星を見据えていた。

その視線を正面から受け止めつつ、流星は返す。

 

 

「はい。必死だったのでコアごと破壊しました」

 

 

「そうか。変な事を聞いてすまなかった。ゆっくり休んでくれ」

 

「ええ、そうします」

 

 

踵を返し、保健室を後にする千冬。

その背を見つめながら、流星は自身の待機形態となっているISに触れる。

 

(───これで、良かったんだよな?)

 

溜息をつくと、流星は力なくベッドに寝転がった。

安心した事によってか、唐突に眠気が襲ってきた為だ。

言葉を発することもままならず、意識を手放そうとする流星。

それを察した本音は布団を綺麗に直すと、静かに微笑んだ。

 

 

 

「──いまみー、おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──夜中、静かに流星は目を覚ました。

窓から差し込む月の光が、ほのかに室内を照らす。

今日は保健室で泊まりで良かったのだろうか、などともはや今から考える意味の無いことを考えつつ、流星は寝返りをうつ。

傷口の麻酔がほんの少し切れていて痛かった。

傷口付近はまだ熱を持っており、嫌な汗が出る。

そのせいで目が覚めたのだろう。

 

 

「あ…起きたんだ…」

 

 

覚醒しつつある意識の中、視界に入る象徴的なツインテール。

声と主である鈴は、流星が目覚めたのを見て顔を覗き込んだ。

 

 

「身体は大丈夫なの?」

 

「疲労の方は少しマシになった。怪我の痛みは今来てるとこだ」

 

「大丈夫じゃないじゃない。馬鹿…」

 

「ああそうですよ。俺は馬鹿です」

 

何処かしおらしい鈴を見て反論する気が失せたのか、流星はそう軽くおどけつつ身体を起こした。

 

 

「ところでこんな時間まで見舞いか?嬉しいが身体に毒だぞ」

 

「…」

 

「鈴?」

 

すぐに反応が返ってこないことに違和感を感じた流星は、鈴の顔を見た。

俯いたその顔は月明かりに照らされ微かに、その頬を伝う涙を映す。

 

 

「その、ね。ここに居るのは見舞いもあるけど寝れなかったからなの」

 

 

「悩んでるのか?」

 

 

「どっちかというともう終わってしまったことよ。その、ね────フラれちゃった……」

 

 

「……」

 

「その、ね。ごめん、って…。(あたし)、自分で気付いてたんだ、一夏の事好きだったけど、実は──っグスッ…」

 

 

声が震えていた。

肩は少し上下し、呼吸も乱れている。

それがどうしようもないもう起きてしまった出来事であると、改めて流星は理解した。

鈴の台詞を待たずして、流星は言葉を投げかけた。

 

 

 

「そうか。──頑張ったな」

 

 

俯く頭を軽く撫で、そのまま下を向かせておく。

泣いてる顔を見せないで済むようだと気付いた時には、鈴は感情を抑えられず泣き出していた。

 

 

この瞬間までずっと耐えていたのだろう。

堰を切ったように溢れ出る涙。

それを止めるすべを流星は知らない。

 

きっと、皆に気を遣って気丈に振舞っていたのだろう。

 

「ねぇ、今宮…。気持ちって変わっちゃうのかな?お父さんとお母さんが仲悪くなったみたいに、消えちゃうのが普通…なのかな?」

 

 

「…日本から中国に戻った理由、か」

 

 

「うん…。あんなに仲が良かったのにね…」

 

 

絞り出すような言葉には、鈴の不安が詰まっていた。

あんなに仲が良かった両親がそうでなくなってしまったのが、鈴にとっては相当堪えたのだろう。

 

 

だからこそ、鈴は変わらない気持ちに執着した。

 

 

それに拘った。

一夏への好意にずっとこだわって、ずっと、ずっと───。

 

それに、おそらく一夏は───。

 

変なところで鋭い奴だと流星は内心悪態をつく。

だが彼もおそらく鈴を思っての行動だと思いたい。

 

 

 

「消えるか変わるのか俺にはわからないけど」

 

 

 

流星は口を開くと、鈴の頭に乗せていた手を退けた。

いつになく優しい口調。

鈴は流星の次の言葉を待つ。

 

 

「変化しないものなんてないだろ。大事なのはその時の気持ちとどう向き合うかだと思う」

 

 

「向き合う…。でもやっぱり消えちゃうってこと…?これだけ想っててもそれだと───」

 

 

虚しいだけじゃない──そう思った鈴に対して流星は少し困ったように頭に手をやる。

 

 

「そう悪いことだけでもないな」

 

 

「え?」

 

 

どことなくいつもの感じで告げる。

 

 

 

「だって、悲しいままなんてのも嫌だろ」

 

 

その言葉に、鈴は目を丸めた。

あっけらかんとして言ってのける流星を前に、何処か馬鹿馬鹿しくなってしまう。

自然と泣きながら笑みをこぼしていた。

 

 

「ふふっ、そうよね。考えたら馬鹿らしくなって来ちゃった」

 

 

「そうだな。考えるだけ…あぁ、無駄だな」

 

 

釣られて流星も笑みを浮かべた。

変わらなければ良かったのに──そう何度も思った事があることは胸の内に秘めておく。

人に諭しておきながら、誰よりも惜しんでいるのは自分だと内心呟いた。

ちくりと痛む気がした。

──本当に変わらなければいけないのは果たして誰か。

 

 

 

「わかった。──(あたし)、前を向く事にする」

 

 

涙を拭いながら、鈴はそう言い顔を上げる。

しかし、すぐに涙は溢れ頬を再び涙が流れ落ちた。

 

 

「──でも、その前にもう少しだけ───」

 

 

深夜の保健室で、静かに啜り泣く少女の声が聞こえた。

少年は一人、その傍らで窓を見つめる。

 

せめて明日は、少女にとって良き一日でありますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリ展開多。

謎の襲撃者に対し、敵の現れた方向などの情報を味方に送った一夏の判断が活きた感じです。
色々展開が少々急かも知れません。






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