IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

17 / 97
-15-

「へー、あんたも早速転校生と仲悪くなったわけね」

 

「悪くなった…訳では無いけど…」

 

「何よ、あった事聞いてるだけなのに、どう聞いても険悪にしか聞こえないけど?」

 

鈴の言葉に、流星は渋い顔をする。

右手に持ったスパナをクルクルと掌の上で回しながら流星は視線を目の前に戻した。

場所は整備室の一角。

放課後になって流星は自身の機体を調整しに来ていたのだった。

 

機体には特に異常は無かったが、細部やパーツ自体の点検も兼ねている。

調整のメインはもちろん、武装ではあった。

 

もちろん、千冬との会話の事は鈴には話していない。

 

 

「…しかし、なんで鈴はここに居る?」

 

「どっかの怪我人が参考書もなく、フラフラと整備室に向かってるのが見えたからね」

 

「お前、暇なんだな」

 

「何よ、人が心配でついて来たのに」

 

不満げにする鈴は作業をする流星を眺めつつ、感心した様子で呟く。

 

「あんたって結構機体弄り慣れてるわよね?」

 

視線の先にいる流星は、ちゃっかり作業着に着替えている。

IS学園では制服のまま作業する人間が多い中、流星は貴重だった。

ISは他の機械と違い、弄っていてもそう汚れる事がなかったりするのも一因だ。

 

 

「ここに入ってからひたすら弄ってたのもあるからな。それに俺のISは企業に調整してもらう訳じゃないし」

 

「大変ね。わざわざ今日にしなくてもいいのに。それに片手だとやりにくいでしょ?」

 

「今日やっておきたかったんだよ」

 

「多忙ねぇ。あんた、いつも何かしてるイメージあるわよ」

 

その言葉により、流星の脳裏を千冬との会話が過ぎる。

だが、すぐに流星はそれを振り払うと鈴の言葉に応じた。

 

「休む時は休んでるだろ。今だってほらそこ」

 

鈴は流星が指指した方を見て、近くにケトルがある事に気付いた。

 

 

「…あんた整備室で何お湯沸かしてるのよ」

 

「休憩に珈琲でも飲もうかと思ってな」

 

「もはやここ今宮の部屋みたいになってない?」

 

呆れた様子の鈴は近くにカップが2つ用意されている事に気が付く。

部屋にあったものとは別に、此方で使用する分を用意しているのだろう。

部屋では彼はそもそも紅茶を入れていたと鈴は思い出す。

 

 

「流石にそれはないな」

 

「そうかしら」

 

会話しつつ、流星も休憩に珈琲を淹れる。

とはいってもインスタントのものだ。

特にそこらへん2人ともこだわりはないらしい。

 

「!」

 

と、そこで整備室の扉が開いた。

一瞬教員か誰かではないかと鈴は驚いたが、その顔を見て安堵の息を漏らす。

流星はこの時間に来る人間を把握していたのか、落ち着いた様子であった。

 

整備室を訪れた主である簪は流星の姿を見て唖然としていた。

 

 

「今宮、君…?もう大丈夫…なの?」

 

「見ての通りだ。特に運動以外は何ともない」

 

──どこが大丈夫なのだろうか。

簪は流星の姿を見て困惑する。

服の上からでもわかる包帯に、近くにある松葉杖。

何より簪は流星の怪我を間近で見ていた為、怪我の度合いが分からないわけがない。

真横で珈琲を飲んでいた鈴も目を丸めて流星の発言に驚いている。

 

 

「簪も珈琲いるか?」

 

「今日はいい…」

 

簪は誘いを断りつつ、自身の機体を目の前のスペースに展開する。

すぐに目の前に投影ディスプレイも映し出し、データを表示した。

始まる作業を前に、鈴は珈琲を半分程飲み干し声をかける。

 

 

「簪、調子はどうなの?」

 

「えっと、制御のプログラムが全然…かな?」

 

「ふーん、どれくらいかかりそうなのよ?」

 

「凰さ───」

「──鈴。こっちも前から簪って呼んでるんだからいい加減鈴でいいわよ」

 

「り、鈴はどうして私の機体を気にしてるの?」

 

簪の言葉に、鈴はハッとしたように目をぱちくりさせた。

最近流星や簪と整備室に居た事が普通になっていた為、自然と簪の機体にも意識が行くようになっていたのだ。

1人で作り上げようとするなんて大変なのに。

──そう思っていたのだが、黙々と作業をする簪を見ていると出来上がる機体に楽しみが生まれて来ていた。

 

流星は鈴と簪の会話の様子を見ながら、すっかり2人とも慣れたなぁ等呑気に考えている。

 

実際、簪も鈴への抵抗は幾分か少なくなっていた。

姉や本音達とも違う、サバサバしていてアウトドアな感じの鈴に苦手意識が少なからずあった。

しかし、何だかんだ鈴が面倒見が良いタイプである事もあり互いの性格を理解しつつあった。

 

鈴は顎に手を当て、少しだけ考え込む。

すぐに簪に向き直った。

 

 

「んー、やっぱり簪と試合してみたいのもあるのよね」

 

「私と?」

 

「うん、簪がどんな武器でどう戦うか興味もあるし!」

 

鈴の言葉に簪は目を丸めた。

早く完成させなければという焦りはずっとあった。

しかし、それは姉への対抗意識から来ていたものもある。

だからこそ、完成させる目標たり得るその言葉は簪には新鮮だった。

 

 

「──なぁ、簪」

 

そんな中、流星は簪に声をかける。

簪は突然流星に話し掛けられたことに驚きつつ振り向く。

流星は簪の返事を待たずに本題に入った。

 

 

「その専用機の開発、俺も手伝っていいか────?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

その言葉に簪はとっさに返せなかった。

会話しながらISに割いていた思考が停止する。

困惑の色を隠せず、流星の方に向き直ってしまった。

 

簪がどうして1人で作り上げようとしているか、流星は知っている筈だ。

彼はそもそも自身からこちらへ踏み込んでくる事は一切無かった。

なのに、わざわざ自身から踏み込みつつそのような提案をしてきた。

その事実に、簪は彼の意図を考えようとする。

 

 

「…お姉ちゃんに、何か頼まれたの?」

 

違うと分かっているのに、声に出して聞いてしまった。

意地の悪い質問だと理解している。

しかし、簪自身流星のその申し出に姉が関与しているとしか思えなかった。

 

 

「違うな。更識楯無は関与していない。ちなみに本音もだ」

 

真っ向から簪の予想を否定し、流星は簪を見据える。

一切簪の質問を気にしている様子はなく、いつもの様子だ。

───益々わからない。

 

 

「…どうして?」

 

絞り出すように簪は尋ねる。

 

 

「どうしてってそりゃあ勉強の為だよ」

 

「で、でも今宮君は既に専用機が…」

 

「俺が作ったわけじゃない。それにこいつのメンテナンスの為にもなる」

 

何より、と一段落置いて流星は続ける。

 

 

「────俺も簪と戦ってみたい」

 

手伝うのは簪の為でもなんでもなく、己の為。

それを一貫する流星に簪はどこかホッとする。

哀れんで手を差し伸べたのでもなく、誰かに頼まれたわけでもない。

あくまで己の都合での頼み事。

それが本心かどうか自体は生まれもあり、それなりだが簪は見抜く自信がある。

 

嘘ではなさそうだった。

 

 

「…」

 

ここで簪の脳裏を過ぎるは、姉が一人でISを完成させたという噂。

この話を受け入れてしまえば、自分一人で完成させたことにはならない。

だが、このままでも停滞は目に見えていた。

完成しない事はないだろうが、時間がかかり過ぎるのは察している。

 

 

「……」

 

それではいけない事など、とっくに理解している。

流星がその部分に触れてこないのは、無意識かはたまた分かりきっている事だからかはわからない。

 

考え込む簪を前に流星は沈黙を貫く。

何か言いたげな鈴も言及することを避けていた。

 

こればかりは、自身で判断する他ない。

葛藤はあった。

積もり積もったものと、この状況を良しとしない双方の感情。

 

──自分は、どうしたい?

 

 

「今宮君」

 

「…答えが出た…って顔だな」

 

「うん、決めた」

 

ハキハキと答える簪は改めて流星と鈴に歩み寄る。

少しだけ息を吸い、勇気をもって答えを告げる。

 

 

「今宮君、そしてよければ鈴も───て、手伝って欲しい…」

 

 

瞬間、流星は珈琲を片付け何故か既に簪の隣に居た。

 

 

 

「──────じゃあ早速プログラム見せられるとこ見せてくれ。鈴、制御系の設定とかPICわかるか?ちょっと共通か見ておきたい部分が────」

 

 

「いや、(あたし)返事まだ何もしてないんだけど!?何なら簪はあんたのその切り替えの早さに固まっちゃってるけど!??」

 

「ん?鈴は手伝わないのか?」

 

「ばっ、手伝うけど!あんた自分のISのメンテナンスは!?」

 

「さっきキリがいい所で終わってる。───よし、準備出来た」

 

簪の返事から一転。

流星はテキパキと準備を終え、いつでも取り掛れる体勢になっていた。

ギャーギャーと流星の切り替えの早さに文句を言いつつ、対応する鈴。

 

2人に置いてけぼりを食らっていた簪だが、やっと思考が回復する。

 

 

「え、えっと、そこは────」

 

 

程なくして、簪、流星、鈴によるIS開発が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

流星達がIS開発を始めて3日が経過した。

 

 

 

「…どうしてこうなった」

 

 

 

織斑一夏は一人机の前で呟いた。

目の前には積み上げられた教科書や参考書、資料。

そして背後には仁王立ちで見張る鬼神、織斑千冬。

他には誰も居ない教室で一夏はダラダラと冷や汗を流しながら、机にかじりつくように問題を解いていく。

 

 

「どうした?今宮と同じ量をこなしたいと言ったのはお前だろう?」

 

首を傾げる千冬に一夏は思い出しながら目を見開く。

事の発端は襲撃の後、実力不足を改めて思い知らされた一夏は流星の急成長に注目した。

彼は無茶なペースで詰め込んでいるが、着実に強くなっている。

ならばそれを自分に合う部分だけ真似すれば少しは自分はマシになるのでは?と考えたのが運の尽きである。

 

それを姉である千冬に提案し、今に到る。

一夏は問題を解きつつ、疑問を口にする。

 

 

「く、訓練とか特訓は…?」

 

「これも訓練のうちだ。今宮は片っ端から頭に叩き込んでいたぞ」

 

「くそう!流星の名前出すのはずるいぜ千冬姉!───あだっ!?」

 

「学校では織斑先生だ、馬鹿者」

 

出席簿を脳天に喰らい、一夏は目をチカチカさせる。

想像していたのは肉体的に過酷な特訓や訓練だったが、まさか座学とは夢にも思わなかった。

 

 

「確かに流星はずっと参考書片手に知識叩き込んでたけど…!これは流星の戦い方だからこそ活きるんじゃあ…」

 

自分は頭より体を動かしてこそだ、と訴えんとする一夏に千冬は呆れた様子で溜息をついた。

 

 

「大きな勘違いをしているな」

 

「え?」

 

「そもそもの大前提としての知識だ。アイツとお前の戦い方の違いに関係なく、武器に関わらず知っておくべきということを覚えておけ」

 

「なるほど…」

 

確かに、と目の前の参考書等の山の意味を理解する。

姉の言っている事実をわかっていたつもりだった自身が恥ずかしい。

一夏は猛省しながら再び机に向き直る。

 

1時間が経過した。

 

欠片も減らない山を前に、一夏の表情は曇るばかりであった。

 

 

「終わる気がしない……」

 

これが積み重ねてきた量の差かと痛感する。

もっとも、流星のペースが異常なことも一因だが。

 

ふと、視線が廊下に向く。

集中力が切れていたこともあり足音に気がついたからだ。

 

足音は教室の目の前で止まり、教室のドアが開く。

現れたのは調子が戻りつつある流星であった。

 

 

「一夏ー居る…か……────うげっ」

 

流星は一夏を見るより先に千冬と視線を合わせ、声を漏らす。

千冬はそれを見て眉を引くつかせた。

 

 

「ほう、人の顔を見てそれは随分だな」

 

すぐに我に返った流星は失言に気付くが、手遅れであった。

焦りつつも弁明をはかろうとする。

 

 

「その参考書の山とのセットで見たら誰でもこのリアクションしますよ」

 

「なら山田先生がこの位置に居たらどうしていた?」

 

「あんな声出すわけないじゃないですか───はっ!?」

 

 

「…流星、俺は助けないぞ」

 

 

失言につぐ失言をしてしまったことで流星は視線を一夏に逸らす。

しかし、一夏としては絶対に巻き込まれたくない一心で流星を見捨てる事にした。

心の中で念仏を唱える。

 

 

「今宮、そろそろリハビリを始めている頃だろう?」

 

「あー、リハビリの相手は足りてるんで結構です」

 

「そう言うな。私も体を動かしたくなってきた所だ」

 

パキパキと拳を鳴らしながら笑みを浮かべる千冬。

出席簿が飛んでこない事が逆に恐ろしくて仕方が無かった。

一夏は恐ろしさのあまり、こっそり席から離れ抜け出そうと動き出す。

一歩一歩流星に歩み寄る千冬から距離はある程度取れた。

後は教室の後ろの席から逃げるだけ──────。

 

 

「さあ、ここではなんだし剣道場に行こうか。───二人とも」

 

バレていた。

瞬間、一夏は後ろのドアを開け廊下に飛び出す。

流星もそれと同時に背を向け廊下に飛び出していた。

廊下は走るな、なんて言葉が背後から聞こえた気がするが気にして居られない。

 

反対側の扉から出た二人は奇しくも同じ方向に走っていた。

 

 

「なんで俺まで!?ってか体大丈夫なのかよ!?」

 

「だいぶ良い!ってアレに捕まったらリハビリどころじゃないからな!!」

 

「なら良かった!こうなったの流星のせいだからな!!」

 

「どうせその内こうなってただろ!」

 

言い合いながら2人は角を曲がる。

 

 

「うぇ!?あんた達一体どうし──」

 

ぶつかりそうになった鈴を互いに左右に避け、階段へ。

驚く鈴に説明することもなく、二人は階段を駆け下りる。

 

 

「あら?今のは一夏さんに流星さん?」

 

「一夏に今宮だったな。あんなに焦ってどうしたんだ?」

 

さらに階段を降りたところでセシリアと箒にすれ違ったが、2人は構わず走る。

とりあえず校舎から出ることが目標だが、まずあの織斑千冬をまかなければ安全ではない。

 

ぐるぐるとフェイントをかけるべく、校舎を行く。

 

「あれー?いまみーとおりむーだー」

 

本音の横を通り抜け、遂に校舎から脱出する。

とりあえず剣道場からは離れるように外へは出れた。

2人は近くの物陰の段差に腰を下ろす。

 

 

「はー、はーっ、も、もう、走れねぇっ!」

 

「流石に、ここまで逃げたら大丈夫だろ」

 

全力疾走が堪えたのか、一夏は座り込んだまま顔を上げないでいた。

 

「ところで流星って、何で俺を探していたんだ?」

 

「俺はブレードの扱いが下手だからな。リハビリがてら相手して貰おうと考えただけだ」

 

「?俺より箒や、それこそ千冬姉が向いていると思うけど?」

 

「今回は別にブレードを使いこなす為のものじゃない。それに何よりあの二人がリハビリの相手に向いてると思うのか?」

 

流星が言っているのは実力云々でなく、性格的な話だった。

一夏もそれはわかっており、2人が流星とリハビリしている姿を思い浮かべる。

しごかれる未来しか見えなかった。

 

 

「うん、向いてないな!」

 

キリッとした顔で肯定しつつ一夏は顔を上げる。

流星は同調するように続けた。

 

「特に織斑先生が向いてないな」

 

 

「一応、どうしてか聞いておこうか」

 

 

「そりゃあの人はスパルタだし、何よりあの怪力の前じゃあ───」

 

「流星、質問したのは俺じゃないぞ」

 

「……え?」

 

流星は一夏が顔を引き攣らせている理由を察し、背後へ振り返る。

そこには千冬が立っていた。

 

 

「怪力で悪かったな。続きがまだあるのだろう?構わん、続けてくれ」

 

「…完全にまいたと思ったのに…どうしてここが──はっ!?」

 

「もう少し早く気付くべきだったな。方向は想像していたが、目撃者が多かったのが幸いした。逃げるならもう少しそこにも気を払うべきだが、やはり本調子では無さそうだな」

 

「あ、箒達か。いや、流星と俺が走ってるだけで目立つの忘れてた…」

 

「呑気に納得してる場合か」

 

どうにか逃げようと考える流星だが、間合い的にもうそれはほぼ不可能だった。諦めてしまっている一夏をよそに、何とかと考えをひねり出そうとするが今の状態ではどう動いても捕まる未来しか見えなかった。

 

 

「織斑、お前は教室に戻って続きをやれ。私が戻るまでに逃げ出したらどうなるか分かっているな?」

 

「…はい」

 

「今宮、剣道場へ行くぞ」

 

「痛っ、いだだだっ!?頭割れる割れる!」

 

アイアンクローで流星はあっさり捕縛され、千冬に軽々と連れていかれる。

一夏はその光景に苦笑いを浮かべる他ない。

自身もあの勉強地獄に戻るべく、校舎へ再び入っていく。

 

流星の悲鳴だけがあたりに響き渡っていた。

 

 

 

 

「成程、それで今宮は死体のようになっているのだな?」

 

「流石の流星さんも堪えたということですわね…」

 

夜、寮の食堂で箒とセシリアは納得したように斜め前の席を見た。

一夏の右隣で完全に机に突っ伏したままである流星がそこには居る。

いつものように何かを読んだりしている訳でもなくて、食事を取っている訳でも無い。

ただただ、何もせず突っ伏しているという流星を知るものにとっては異様な光景であった。

 

「あの後何時間勉強してたのよ?一夏」

 

「…記憶にない」

 

「あんたもご愁傷様」

 

鈴は男子2人を見つつ、ラーメンをすする。

何処か疲れた表情の鈴を見たシャルルは心配そうな顔をした。

 

「凰さんも疲れた様子だけど、大丈夫?」

 

(あたし)もまあ疲れてるけど、元凶のそいつがやる事やってからくたばってるから平気よ」

 

指を指した先は微動だにしない流星。

彼は織斑千冬に指導された後、整備室を訪れキッチリと働いてから事切れたのだ。

その為、鈴がやる予定だった事も幾らか減っている。

 

 

「今宮君が?」

 

シャルルは視線をオレンジ髪の少年に向ける。

相変わらずピクリとも動かない。

 

 

「流石に今回は本人からしても露骨な無茶だったわね」

 

 

鈴は淡々とそう言い、作業風景を思い返す。

 

───『手伝う』そう本人は形容していたが、その本格的さは今考えても『手伝う』の範疇を超えていた。

データ取り、解析、図面の手直し、組み立て作業。

どれも全力で行っており、学園に来てからの知識と学園の資料全てを駆使している。

 

作業が始まり、足りないものを把握してから流星が整備室に持ち込んだのは大量の資料。

3時間程かけて学園の図書室や資料室等から印刷してきたものであるらしく、未使用ではあった整備室の一角が、完全に物置になるほど。

簪も知識量はかなりのものだが、足りないものを集めることは流星の方が得意のようだった。

 

そうまでして全力で取り組む流星。

 

簪がドン引きしていたことも思い出す。

遠い目をする鈴をよそに、シャルルは話題転換をはかる。

 

 

「一夏、明日ISで一緒に練習しない?」

 

「おういいぜ!男同士気楽に練習って新鮮だ!」

 

「そ、そう?今宮君とは練習して来なかったの?」

 

「流星の奴忙しいから、殆ど別だな」

 

心底残念そうに告げる一夏。

今のやり取りを見て、セシリアと箒の脳裏をある発想が過ぎる。

 

 

「い、一夏!まさか貴様おおお男がいいのか!?」

 

「だだだ、ダメですわ!そんな不健全ですわ!!」

 

顔を真っ赤にしながら抗議する2人に、一夏は小首を傾げる。

鈴は想像してしまったのかげんなりしていて、シャルルは何処か顔を赤らめていた。

シャルルの様子に誰も気付く事はない。

一夏は不思議そうに2人に返す。

 

 

「そりゃあ、周り女子ばっかりだし男同士の方が気が楽だろ?」

 

「な、なら仕方がないが…」

 

「そ、それなら仕方ありませんけど…」

 

ごにょごにょと何かを言いつつ、箒とセシリアは納得したように座り直す。

 

「でも、頼めばその都度練習くらい付き合ってくれるんじゃないの?そもそも今回は今宮側から珍しく頼んでたようだし」

 

「それはほら、流星はなんと言うか特別なんだよ」

 

鈴との会話で飛び出した特別というワード。

それに箒とセシリアはやはり、と渋い顔をする。

自分達の好意にひたすら疎い朴念仁であるが故、まさかと想像してしまうのは無理はない。

 

 

「俺が一方的にライバルって決めたから、頼む時は普通に頼むけど練習はなるべく別々がいいなってだけだけどな」

 

「ライバルかぁ。いいなぁ、そういうの」

 

「シャルルも明日にでも練習試合しようぜ?やっぱり男同士そういうのワクワクするだろ?」

 

「う、うん!そうだね。明日を楽しみにしてるよ」

 

どこか歯切れの悪いシャルルに違和感を覚えたのは、対角に座っていた鈴だった。

しかし、その違和感について考えるより先に彼女の目の前に座っていた人物が顔を上げた。

 

 

「…腹が減った…」

 

 

それだけ呟くとフラフラと立ち上がり、1人食券を購入しに向かう。

全員それを見送ると、思い出した様に話題を切り替えた。

 

 

「…そう言えば一夏。あのもう1人の転校生と何があったのだ?」

 

「そう言えば気になっていましたの。あの後も険悪な感じで一夏さんが睨まれてますし…」

 

「…」

 

一夏はその質問に、ほんの少し表情を曇らせる。

 

「一夏?」

 

「アイツとは教室で初めて会った。だから思い当たる節があるとしたら…」

 

「成程、確かにラウラって子の話聞く限りあの事件の事よね?」

 

相槌を打つ鈴に一夏以外は首を傾げる。

鈴は一瞬、一夏に目配せする。

話してもいいか?という問いだ。

彼はそれを特に止める事もせず、肯定の意を表す様に頷く。

 

 

「鈴は知っているの?」

 

シャルルの質問に鈴はええ、と返し続ける。

 

「一夏はね、昔誘拐された事があるのよ。ISに関わるよりも前にね」

 

「そんな事はニュースには!?」

 

「なってないわよ。知ってるのは当時近くにいた極一部の人間だけだし」

 

「…一体、犯人は何が目的でしたの?」

 

「第2回モンド・グロッソ。その決勝戦を織斑千冬が棄権する事を、犯人は一夏を人質に要求したの」

 

鈴の言葉を聞き、一同の視線が再度一夏に向かう。

過去の話だが、やはり心配をしてしまう。

 

 

「そして、一夏は決勝戦を放棄して駆け付けた千冬さんに助けられた。その時に情報提供したドイツ軍に借りを返すため、千冬さんはドイツで1年間教官を勤めた。こんな所ね」

 

 

「だとすれば、ラウラさんはその時の教え子って事だよね?でもそれだと一夏を目の敵にする理由が…」

 

 

シャルルの言葉に辺事を返したのは、鈴ではなく一夏だった。

どこか悔しそうに口を開く。

 

 

「簡単だ、シャルル。きっとアイツは、千冬姉の優勝を手放す理由になった俺が許せないんだ。俺が誘拐されなければ千冬姉が棄権することも無かった」

 

「なんだと!?それではただの逆恨みではないか!」

 

「そうですわ!一夏さんはむしろ被害者!悪いのは誘拐した人達ですのに!」

 

 

声を荒げる箒達の前に、水が入ったコップが置かれる。

人数分置かれたそのコップを運んできたのは、先程席を立ち今戻ってきた流星だった。

 

 

「少し落ち着け。騒いでたら角生やした寮長が来るぞ」

 

「今宮、聞いていたのか?」

 

「最後の方だけならな。でも内容は知ってる。織斑先生にさっき聞いたからな」

 

さっき、とは恐らく剣道場で扱かれている最中の事だろう。

全員が不思議そうな視線を彼に向ける。

彼は買ってきたと思われるサンドイッチを片手に続ける。

 

 

「ラウラは少し特殊な境遇に居たらしい…。細かくは知らないけど、織斑先生はラウラをそこから救い出した教官みたいだ。そんな教官がチャンスを不意にされたのが許せなかったんだろう」

 

「でも、だからって一夏さんが責められる筋合いは…!」

 

「いや、いいんだセシリア。それに皆も、俺の為に怒ってくれてありがとう」

 

「一夏、貴様はそれでいいのか?」

 

「箒、冷たい言い方だけどこればかりは俺とアイツの問題なんだ。千冬姉のあの選択を俺は無意味にしたくない」

 

感じているのは負い目か。

一夏は力強くそう言い放ち、拳を握る。

 

 

「強くならないと…誰よりも、千冬姉よりも。皆を守れるくらいに」

 

 

流星はそんな一夏を何処か納得したような様子で眺めていた。

ラウラと一夏。

ある意味だがそれは、似た者同士なのかもしれない。

 

 

 

 




一夏の主人公力を上げて行きたい。


一夏によるリハビリ相手評

「うん、向いてないな!」
顎に手を置いてキリッとした顔で告げている状態。

流星にタゲが向かなければ、木刀と出席簿が飛んで来ていた筈。
武器種関係なくリハビリ相手探しても一夏なら同じ事を言いそう……。

飛んでくる攻撃が増える未来が見える。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。