IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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次話から週一投稿に切り替えます。
御容赦を。


-17-

「…………え?」

 

 

織斑一夏の思考は、完全に真っ白になった。

事の発端は簡単な事だった。

一夏より先に帰ったルームメイトはシャワーを浴びていた。

そこで一夏はシャンプーが切れていた事に気が付き、詰め替え用を渡そうとバスルームの扉を特に気にせず開いた。

 

 

目の前に居たのは、素っ裸のルームメイト。

 

綺麗な金髪には勿論驚かない。

その綺麗な肌も別に驚く要素ではない。

中性的な顔立ちも特に気にしてはいなかった。

 

だからこそ、その胸部に一夏は驚きを隠せなかった。

その身体つきに改めて意識が移る。

理解が追い付かなかった。

ただ、脳内では結論は出かかっていた。

 

 

 

「い、いち…か?」

 

相手の思考も完全に止まっていた。

が、即座に片腕で胸を隠すと近くにあった桶を掴む。

顔を真っ赤にして、──まるで女子のように隠しながら──。

 

 

「き、きゃぁあああ!」

 

「ぶへらっ!?」

 

結構な速度で、桶を一夏に投げつけた。

 

 

 

 

 

「ん…、いてて…」

 

「一夏、だ、大丈夫?」

 

一夏が目を覚ますと、そこに居たのは先程のルームメイト似の金髪美少女だった。

あまり時間が経っていないようで、まだ髪は少し湿っている。

寝かされて居た場所は浴室のすぐ横の床。

シャルルも気絶した一夏を無闇に動かす事は駄目だと判断したのだろう。

膝枕状態で寝かされていた。

 

桶で一夏をノックアウトしてしまったことに慌てたのだろう事は様子からして理解出来た。

 

 

「…夢、じゃなかった」

 

「そうだね」

 

一夏がポツリと漏らす言葉をシャルルは肯定する。

膝枕状態でシャルルの顔を見上げていた一夏は、視界に入るシャルルの身体付きを見て確認する様に尋ねた。

 

 

「女、だったんだな」

 

「…うん」

 

その声は沈んだ様子だった。

だが、それは何処かホッとしたようにも見えた。

一夏は身体を起こすとそのままシャルルの正面に座り込む。

 

 

「聞かせてくれるか?シャルル」

 

シャルルの様子から何か事情があると察した一夏は彼女と向き合う。

彼女が悪人で自身を騙していたとは到底思えなかった。

 

シャルルも諦めていたのか、ゆっくりと話し始める。

 

 

「僕の本名は、シャルロット・デュノア。───単刀直入に言うと、僕はデュノア社のスパイとして一夏や白式のデータを取るように命じられてきたんだ。男と偽る事で君に近付いてね」

 

「スパイ…?でもデュノア社ってISのシェアで言ったら大手な筈だろ?どうしてそんなリスクの高い事をする必要あるんだよ?」

 

一夏の疑問は最もだった。

デュノア社自体はかなり大きい会社の筈だ。

そこの令嬢をわざわざ男装させて学園に入れるまでする必要があったのだろうか。

 

「確かにデュノア社のISのシェアはいいよ。けどね、最近業績が落ち込んでるんだ。ラファールって第二世代でしょ?」

 

「ああ」

 

「各国は今、第三世代開発に移行してる。まだ量産出来る程じゃないけど、どこの国もかなり進んできてる。それなのに、デュノア社は第三世代型ISの開発にが上手くいってないんだ。それで業績も徐々に悪化してて、国から割り当てられるコアの数も減らされそうなんだ」

 

第二世代であるラファールでは大成功したが、第三世代の開発では世界から取り残されている。

その状況が続けば勿論デュノア社に未来はない。

開発競争に置いて取り残されれば淘汰されるだけ。

各国が企業を支援し勧めているIS開発の競走においては、それは他の業界よりもさらに厳しい世界だろう。

 

 

「でもどうしてシャルロットなんだ」

 

だとしてもそれがシャルロットで無ければならない訳では無い。

企業の為とはいえ、我が子を男装させてスパイとして送り込む理由にはならなかった。

 

 

「だって、僕は妾の子だからね。デュノア社には病気でお母さんが亡くなってから引き取られたんだ…。だからこそ使い捨てるには適任じゃないか」

 

自嘲気味に笑うシャルロット。

その悲しそうな表情を見て一夏は拳を握り締め必死に感情を押さえ込んだ。

落ち着いているようでも一夏の様子に気付く余裕も無いのか、シャルロットはホッと一息ついた。

 

「でも、誰かに話せてちょっとスッキリしたよ…。騙していてごめんね。この後の事は考えたくはないけど、ずっと騙しているよりは気が楽だからいいや」

 

今にも泣き出しそうなその表情を前に一夏は静かに立ち上がった。

険しい表情でシャルロットを見る。

ただ1つだけ尋ねようと口を開いた。

 

 

「本当にそれでいいのかよ」

 

「え?」

 

「お前は本当にそれで良いのかよ!?」

 

「…これは仕方ないんだよ。僕は居ちゃいけない子だから」

 

その言葉に一夏は完全に感情を抑えられなくなった。

 

 

「親は親だろ!親だからって、勝手に子供に都合を押し付けていい訳がない!」

 

「一夏は優しいんだね。でももうどうしようも無いんだ。僕も片棒を担いでしまった以上、処罰は免れない」

 

違う。

優しいのではなく、これは私怨のようなものだ。

そう言いかけた一夏だが、目の前の少女が思った事を否定すべきでないと言葉を呑み込む。

この少女は諦めている。

目の前の環境に対して、順応こそすれど意思も意見も押さえ込んできたのだろう。

 

 

「…処罰に関しては、暫くの間俺がこの事を黙ってればいい」

 

「いいの?僕がそうやってして貰うのも作戦の内かもしれないんだよ?」

 

「ああ。けど俺はシャルロットを信じてるし、そうなった時はそうなった時さ」

 

「…」

 

「それに、ええっと確か…」

 

キョトンとするシャルロットをよそに、一夏は自身の鞄を漁る。

そこからでてきた生徒手帳をめくり、何かを探す。

直ぐに見つけたのか一夏はそのページを彼女の眼前に突き出した。

 

「これだ」

 

「IS学園…特記事項…?」

 

それはIS学園特記事項の欄。

一夏はそれの1つを指さしており、それを読み上げる。

 

 

「『第21項 本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』…つまり、IS学園に在籍している三年間はシャルロットはデュノア社に従わなくてもいいんだ」

 

「そんなものが…一夏、よく覚えてたね…」

 

目を丸めて驚くシャルロットに一夏は得意気に胸を張る。

 

「千冬姉に叩き込まれたからな!……思い出しただけで頭痛くなってきた」

 

「ぷっ、あはは。ごめんね、急に凹んだのがちょっとおかしくってさ」

 

「いいさ、それにシャルロットはやっぱり笑顔が似合うと思うぜ」

 

その言葉にシャルロットは顔を真っ赤にした。

この男が唐変木なのは知っていたが、まさかこうも天然のタラシだとは夢にも思わなかったようだ。

シャルロットは落ち着いた様子で、確認する様に呟く。

 

 

「僕は、ここに居てもいいんだね?」

 

 

「──当たり前だろ」

 

「良かった…………ありがとう…一夏……本当に……」

 

ボロボロと涙を流しながら、顔を俯ける。

一夏は突然シャルロットが泣き出した事に戸惑いながら、部屋にあったタオルを差し出す。

 

先程までの頼りになる感じは何処へ。

それがどうしようもなくシャルロットにとってはおかしくて、泣きながら笑ってしまった。

 

それを見た一夏はホッと安心した様子でベッドに腰をかける。

 

暫くして落ち着いたのか、シャルロットも自身のベッドに移動し腰を掛けた。

顔を上げて一夏の方を見る。

 

 

「一夏はどうしてそこまでしてくれるの?」

 

「…その、俺もシャルの事が他人事には思えなかっただけなんだ」

 

「シャル…?」

 

「あ、悪い。皆の前でシャルロットって呼ぶ訳にはいかないし、こう呼んだ方が良いかなって思ってたら出ちまった。嫌だったか?」

 

「う、ううん!僕達だけの呼び名……良いよ、凄く良い!!」

 

「そ、そうか。それなら良かった」

 

 

嬉しそうに目を輝かせるシャルロットだが、すぐに話題を戻す。

 

 

「ところで他人事に思えないって…?」

 

「ああ、俺と千冬姉は昔親に捨てられてるんだ」

 

「え」

 

強ばるシャルロットの表情。

薄々分かっていた筈だ。

2人に両親が居ないことを。

自分はあの表情の一夏を見ながら易々と踏み込んではいけない部分に踏み込んでしまった。

あまりにも無神経だ。

 

「ごめん、変なこと聞いちゃったね…」

 

「いやもう気にしてないさ。ただ、だからこそ親の都合で子供が酷い目にあうのは許せなかっただけだ」

 

「……やっぱり一夏は優しいね」

 

微笑むシャルロットに一夏は恥ずかしそうに頬をかく。

流石に正面から褒められるのは恥ずかしいようだ。

 

 

と、そこでドアが開く音が聞こえた。

突然のことにビクリと身体を動かす2人。

今はシャルロットはサラシを巻いておらず、一目で女と分かってしまう。

咄嗟にどうにかしようとするが、間に合わなかった。

 

 

「っと、うわっ!?」

 

「え!?一夏!?うわぁ!?」

 

シャルロットをどうにか隠そうと近寄った時に躓き転ぶ一夏。

 

 

 

 

「一夏、例の資料持ってき─────は?」

 

 

 

訪れた人物は部屋着状態の流星。

彼は部屋に入るなり一瞬にして固まった。

目の前で一夏がシャルロットを押し倒しているからだ。

 

目元が赤くなっており、頬も紅潮させているシャルロット。

当然風呂上がりである為、どうしても艶っぽさが目立ちジャージも着崩れている。

そこに覆い被さる形の一夏。

2人の表情も強ばっており不味いものを見られたというようなリアクション。

 

流星はポーカーフェイスを努めつつ視線を逸らした。

 

 

 

「………資料ここに置いとくからな」

 

 

「…待て待て待て待て!!何を勘違いしたか知らないけど、お前が思ってる事と絶対違うからな!?そんな気がする!いや確証だ!」

 

 

「大丈夫だ一夏、俺は何も見ていない。ただ納得しただけだ。じゃあな」

 

「何に納得したんだよ!?待てって!」

 

そそくさと部屋を去ろうとする流星。

それを止めることに加勢しようとしたシャルロットが立ち上がりながら声を上げた。

 

 

「待って!今宮君!……あ」

 

「え?」

 

 

振り返る流星と立ち上がったシャルロットは双方驚きの声を漏らす。

先程まで一夏の影に上手いこと隠れていたシャルロットの身体が流星の瞳に映る。

シャルロットはシャルロットでやってしまったという表情であった。

 

 

一夏はドアの鍵を閉め、流星に向き直る。

 

 

「取り敢えずお茶でも出すから、話を聞いていってくれ」

 

 

 

 

「それでシャルル君ではなく、シャルロットさんだったというわけか」

 

お茶を飲みながら流星は視線をシャルロットへ移す。

コクリと静かに頷くことでシャルロットは肯定の意を示す。

 

先程までの一連の話を一夏は掻い摘んで流星へ説明し終えた。

漸く話が飲み込めたという流星に一夏は立ち上がりながら話しかける。

 

 

「だからさ、流星も暫く口裏を合わせるのを手伝って欲しいんだ」

 

「……本気か?一夏」

 

「勿論。こんな事冗談で言うやついないだろ」

 

流星は呆れ返ったといわんばかりに溜息をつく。

一夏の眼は本気だ。

 

流星は険しい表情で向き直った。

 

 

「───反対だ」

 

 

「なっ!?何でだよ!?事情は説明しただろ!?」

 

「何でだ、って…。じゃあ聞くが暫くってどの位だ?───デュノア社の命令に背いた時シャルロットは代表候補生である事もISも捨てられるのか?───3年間に何も思いつかなかったらどうする?」

 

「……」

 

流星の言葉に一夏は拳を握り締める。

当然、分かっていた。

問題は山積みだ。

簡単に片付くわけでもないし、これからそれに向き合わねばならない。

だが、だからと言って一夏はシャルロットを見捨てられなかった。

共にその問題に向き合う為の微かな時間、その為の時間稼ぎをしたい状況だ。

 

 

「そりゃあ答えられないだろう。俺も分からない。だから俺は全てぶちまけるのをオススメする。シャルロットは糾弾されるだろうし、デュノア社の名誉も地に落ちるだろう。だけど上手く立ち回れば自由にはなれる」

 

「だけど、それはっ…」

 

流星の言葉に一夏は下唇を噛む。

流星の言葉通りになれば、上手くいってもシャルロット・デュノアは学園には居られなくなる。

何もかも捨て去る、文字通り。

そうなればこれから先シャルロットは、一生後ろ指を指されながら過ごさなければならない。

恨みも買うだろうし、まともな人生を歩むのは困難に違いない。

 

 

「自由にはなれる。自由ってのは優しさじゃなく過酷さと隣合わせのものだ」

 

「他の方法を探すまでだけでもいい。その間だけでも!」

 

「駄目だ。俺はこの件には関わらない」

 

キッパリと断る流星。

2人の間に緊張感が生まれる。

 

「流星なら、協力してくれると思ったのに」

 

「生憎俺はお前みたいにお人好しじゃないんだよ。譲歩として、今の話は聞かなかった事にしとく。それまでだ」

 

流星は立ち上がり、ドアの方に向かう。

再度シャルロットへ視線をやる。

不安そうに流星と一夏を見ている彼女を見て、流星は視線を前方へ戻す。

 

 

「じゃあな」

 

 

ドアを開け、部屋を去る。

 

廊下に出た瞬間、流星は真横から声を掛けられた。

 

 

 

「別に話を合わせる位はしてあげても良かったと思うけど?」

 

楯無は呆れたように言う。

その様子からして最初からシャルロットの事はある程度まで知っていたようだった。

流星は自室に向かおうと歩き出しながら返答した。

 

「一夏にも言ったが俺は別にお人好しじゃない」

 

「そう?少なくとも私にはそう見えるけど?」

 

「俺が断った理由なんか分かってるだろ」

 

流星の隣を歩きながら楯無は扇子を開く。

当然とその扇子には書かれていた。

 

 

「シャルロットちゃんの口から頼まれてないから…でしょう?」

 

「ああ」

 

「シャルロットちゃん、その境遇に耐えるけどそれを変える行動を起こすには良い子過ぎるのよね~。社員の事まで考えちゃってそうだし」

 

「だからと言って、自身の事を相手の決断に委ね続けるのは駄目だ。手を差し伸べようとしてくれる誰かが…一夏みたいなのが現れても、それじゃ停滞と変わらない」

 

「意外と頑固者よね。流星くん」

 

楯無の発言に流星は顔を顰める。

否定する気は起きないがあまりいい気はしなかったらしい。

 

(しかし、停滞…ね…)

 

流星のその言葉を口にした際の表情から楯無は悟らせないよう少し考え込む。

流星は純粋な疑問を口にした。

 

 

 

「それでどうする気なんだ?」

 

「取り敢えずは静観ね。おおよその話は大体察してるんだけど、あんまり大事には出来ないし」

 

恐らくフランス政府も一枚噛んでいるのは明確だ。

とはいえ、かなり杜撰な計画であると楯無だけでなく流星も感じていた。

 

確かにこのIS学園で一夏に近付くのは難しい。

友達になること自体は簡単だが、情報収集を考えると難易度は跳ね上がる。

機器の類は直ぐに見つかるし、異性となれば常に一緒にいる事も難しい。

同性ならと男装させたのだろうが、あまりにも付け焼き刃な感が否めなかった。

 

そうなれば急な計画、関係者の限られた状況だった。

 

──または別の目的が存在した。

 

 

と、そこで流星は思考を中断する。

関わらないと決めた以上考える必要は無かったからだ。

それになんの後ろ盾もない流星には、どの道何も出来ない。

 

それどころかほんの少しの口裏合わせすら断ったのだ。

我が事ながらなんて器の小さな男か、と流星は自己嫌悪する。

 

流星を覗き込む楯無。

表情からその心情を楯無に悟られないよう、流星は話題を切り替える事にする。

 

 

「そういや楯無、夕方また簪を覗きに来てただろ」

 

「な、なんの事かしら?」

 

打って変わって動揺する楯無。

流星はジト目で問い詰める。

 

「整備室の搬入用出入口あたりから見てたのは知ってるぞ」

 

「…気付いてたの?」

 

「妹が絡んだ瞬間ポンコツになるな。俺の普段作業している場所からは見えるんだよ」

 

「次からはもっと見つからないように注意するわよ」

 

「覗きに来るのを止めろ」

 

「それは難しいわね」

 

シスコン全開の楯無に流星は呆れ返るしかない。

それがまた余計に空振っていなければここまで残念に感じないのだが。

また虚に怒られるのだろう楯無の姿を想像しながら、流星は楯無と共に部屋に戻る。

何故かドッと疲れた気がした流星はベッドに寝転がる。

いや、当然朝からあの特訓をしているせいもあり疲れているのだが…。

 

 

「流星くん、明日のメニューなんだけど…ってあらら?寝ちゃった?」

 

楯無が振り返ると既に流星は寝息を立てて眠っていた。

楯無は仕方ないと呟きながらそっと布団をかける。

時計を見ると既に就寝時間を回っていた。

自分も寝ようと思い、パジャマに着替える。

途中、何か思い付いたのか笑みを浮かべた。

そのまま彼女は部屋の電気を消し、布団に入った。

 

──翌日、目を覚ました流星は目の前で寝ている楯無に混乱する事になるのだった。

 

 

 

 

 

翌朝のSHR前、鈴と簪は2人して一組の教室に居た。

いつもより他クラス入り交じった状態である為別に目立ってはいない。

理由はひとつ。

ある噂について聞きに来たのだ。

 

 

「トーナメント戦で優勝したら、男子どちらかと付き合える……?」

 

鈴が聞いた情報を復唱して確認する。

どうにも意味がわからない。

男子2人の口から出た訳ではなさそうだが、と手を当てて考える。

 

「そーらしいよ〜?」

 

と、答えるのは本音。

相変わらず眠そうにしているが、平常運転なので特に周りは気にしない。

少しだけソワソワしている簪、内容が気になって仕方ない鈴、座って説明している本音と言う形だ。

 

「なんていうか、女子の間での取り決めみたい」

 

「でしょうね。あの2人が関わってるとは思えないし」

 

鈴の言葉を受け、本音と簪も頷く。

The唐変木オブ唐変木の一夏、そして暫定朴念仁の流星。

その2人が今回の件に関与しているイメージが湧かない。

ずっとザワついている教室の中、簪はある疑問を口に出す。

 

 

 

「本音と鈴は、優勝を狙うの?」

 

 

その質問への肯定は何を意味するか。

考えるまでも無く鈴は頬を赤らめる。

答えたのは本音だった。

 

 

「私は、…そうだね。優勝狙っちゃうかな〜」

 

特に恥ずかしがることもなく堂々と告げる本音に鈴は驚く。

簪も親友のその返答は想定外だったようで、恐る恐る問いかける。

 

 

「やっぱり、相手は今宮君?」

 

「うん。いまみーだよ」

 

「本音は今宮君が、その…好き、なの?」

 

「…えへへ〜」

 

そこで初めて本音は恥ずかしそうに頭をかく。

 

 

「気付いたのは本当に昨日とかだったんだけどね〜」

 

 

初めて会った時から、他愛ない会話をする機会は多かった。

一応、当初は見張りのような意味合いもある。

得体の知れない2人目。

友達視点で見張って欲しい、なんていうのは実は会長の指示だ。

しかし警戒心は無かった。

 

どこで好きになったかなど、自身も分かっていない。

ただ、気付けば惹かれていた。

 

発端はもしかすると一目惚れなんてオチかもしれない。

はたまた、あのアリーナの防衛時かもしれない。

自分と同じマイペースな人間で、それでいて気は遣える。

 

振り回されるタイプに見えて、案外揶揄うのが好きだったりする。

あと地味に頑固な性格だが、やはりそんな所も彼らしいと思ってしまう。

そういう所もきっと、好きなのだろう。

 

本音はそこまで考えると、自身の顔が熱くなっているのを自覚する。

 

 

「本音、顔が真っ赤」

 

「かんちゃん見ないでよ〜。りんりんも〜」

 

耳まで赤くしている本音は、少し慌てて顔を隠す。

簪もその光景を微笑ましそうに見つつ、鈴にも改めて問いかけた。

 

 

「鈴は?」

 

「───あ、(あたし)は───」

 

何故かズキリと胸が痛んだ。

言っていいものか。

許されていいのか。

以前から顔を覗かせていた疑問が鈴の中で浮かび上がる。

 

 

 

一瞬、俯く鈴。

が、程なくして顔を上げいつもの調子で答えた。

 

 

「そんな眉唾な噂には乗らないかな。大体本人たち関与してないし」

 

「身も蓋もない…流石鈴」

 

「りんりんらしいかな〜」

 

2人には一瞬の躊躇を悟られなかったらしく、鈴はホッと胸を撫で下ろす。

そして、直ぐに話題にされていた男子3人が教室に現れその流れは打ち切られる事になった。

千冬や真耶も教室に現れた為。蜘蛛の子を散らすように他クラスの生徒が去っていく。

簪も鈴もそれに合わせるように教室を後にする。

 

 

「……」

 

 

そんな鈴の一部始終を、遠目からセシリアだけは見ていたのだった。

 

 

 

 




流星のかなり面倒臭い部分が出てます。
彼自身、そんな部分を自己嫌悪していたりするのですが。
この中に悪い人は居ないという認識です。


純粋にこの時のシャルルと流星の相性があまり良くないと言うだけ。
強いて悪い方を挙げるなら流星であり、特別仲が悪くなるということもありません。

そのうち一夏を少し取り上げます、多分。



本音のタグ付け忘れてた…。



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