IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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※注意。
悪ふざけあり。TS込の茶番です。
苦手な人は飛ばしてください。


-ある朝の出鱈目-

 

 

それはある休日の朝であった。

少年──織斑一夏の部屋に、突如としてインターホンが鳴り響いた。

 

「ん〜、誰だ?こんな朝早くに」

 

眠い中目を擦りながら、一夏は起き上がる。

時刻は午前6時。休日の朝起きるにしては少し早い。

 

半分寝ぼけつつも、入口に向かう。

前日遅くまで鍛錬していたのも相まってか、疲れもまだ残っていた。

とはいえ問題は無い。

本日は久しぶりに、休息の為丸1日休みと決められていた。

 

 

ガチャりとドアノブを回し、扉を開ける。

相手を確認すらしなかったのは面倒なのもあったからだ。

 

 

「───誰?」

 

てっきり専用機持ちの誰かだと思っていた一夏は首を傾げた。

 

───目の前にいたの紅く長い髪に、男物の服を着た少女。

蘭は赤色の髪の為、また印象が違う。

髪の長さも腰より下まで伸びている。

背丈は箒よりも少し低い。

整った顔立ちもあって人形のようであった。

 

考えずとも、彼の中で知り合いに該当する人物はいない。

 

「驚くのも分かるが、部屋に入れてくれ。用件は中で話す」

 

「…いいけど」

 

と、正体不明の少女は一夏を急かした。

格好からしても訳ありと判断した一夏は仕方なく、部屋に案内する。

嫌な予感がヒシヒシとしてくる中、少女は慣れた様子で一夏の部屋に上がった。

 

一夏は洗面所で顔を洗い、そそくさと2人分のお茶をいれた。

戸棚から自身の朝食と茶菓子を取り出し、テーブルに置く。

 

「えっと、それでどちら様?」

 

一夏の問いかけに少女は気まずそうに視線を逸らした。

朝日の射し込む窓を見つつ、顎に手を当て返答する。

 

「あー、ド真剣な話だが…今宮流星だよ」

 

「………ゑ?」

 

怪訝そうな顔になる一夏に、流星と名乗った少女は苦虫を噛み潰したようであった。

──そら見たことか、なんて言いたげな様子である。

 

「信じられないかもしれないけど、同じクラスメイトの今宮流星だよ。同姓同名の別人でもないからな?」

 

「待て待て待て。お前女子だったのか!?───ぐはっ痛ってぇっ!?」

 

「お前の目は節穴か?…いや、シャルロットの件もあるから節穴かもな──兎も角、今までの俺はどう見ても男だっただろ」

 

殴られた頭を擦りつつ一夏は流星(仮)を見る。

未だ疑惑の視線を向けるのも無理は無いだろう。

 

「ほら、証拠」

 

「『時雨』か。…本当みたいだな」

 

少女の腕にある待機形態のISを見て一夏は渋々納得する。

とはいえ疑問は尽きない。

 

「というか、どうしてここに?」

 

「ここに来たのは避難の為だな。楯無が帰って来る前に部屋を脱出しておきたかった」

 

「鈴や簪さん、のほほんさんのところでも良かったんじゃないか?」

 

「馬鹿言え。こんな姿晒してみろ、遊ばれるのは間違いない」

 

嫌そうに告げる流星に一夏は頷く。

確かに今の別人のような姿では面白がられるだけだ。

 

「じゃあ、どうしてそんなことに?」

「特にこれと言って思い当たる節は…いや、ひとつだけ。…夢を見たんだ」

「夢?」

「Dr.タバネンと名乗る不審者が注射を俺に打つ夢だ。記憶も朧げでハッキリとしないんだけどな」

「……………」

 

────それ、もう犯人分かっちゃった気がする。

一夏は胸中でそう呟いた。

頭を抑え思い出そうとする流星。

他にもヤバい薬を打たれているのだろうか──と一夏は苦笑い。

 

「保健室に行った方がいいんじゃないか?」

「その方が良いんだろうな。けどこんな状態、誰もどうしようもないと思う。出歩くだけでも混乱が起きそうだ」

「だよなぁ…。となると時間経過で様子を見るのか?」

「ひとまずは、だな。今更だけど少し世話になるよ」

 

粗方話し終えたのか、ひと息つくように茶菓子に手を伸ばす流星。

こんな状況下でも焦った様子がないのが実に彼らしい、と一夏は呆れ気味である。

 

 

「筋肉量や体つきはともかく、骨格まで変わってるのがやりづらい。ああいや、全部変わってるって認識の方があってそうだ」

「声や髪色まで変わってるもんな。完全に別人だよなぁ。元々は紅かったとか?」

「そいつは違うな。確かに母親の髪は紅かったが…」

「…悪い。配慮が足りなかった」

 

既に死別した両親の話になりかけた為、一夏は神妙な面持ちで謝る。

彼自身、両親に捨てられた身である為その手の話題には敏感になっているのもあった。

 

「?謝る理由が分からない──ああいや、そういう事(・・・・・)か。謝るなよ。俺が気にしてないのは知ってるだろ?」

「…でもさ」

「くどい。謝りたいなら壁に向かって言ってくれ」

 

──それよりも、と彼は人差し指をピンと立てる。

 

「俺を知らないかと訪ねてくる連中のやり過ごし方を考えないとな」

 

「適当に知らないって言ってればいいんじゃないか」

 

小首を傾げる一夏に流星はキョトンとした顔。

直ぐに真剣な表情になると、深刻そうに語り出した。

 

 

「甘いな。一夏。最近のあいつらはそういう次元じゃ無いんだ」

 

 

あいつら──というワードを聞き、一夏が脳裏に該当しそうな人物を思い浮かべる。

鈴、本音、楯無、簪の4人だ。

 

「のほほんさん達なら、そりゃあ流星を探すだろ」

 

「そこは別に良い。普段から一緒に居るから別におかしな話じゃない。けどな、最近偶にだけど凄いというか───怖い」

 

「怖い?怒らせたのか?」

 

「当然怒ったら怖いだろ。具体的に言うと────」

 

 

と、流星は両腕を組みながら過去の出来事を思い返す。

直ぐに思い出せるエピソードとなると、数は少なくなる。

 

 

 

1つ目は前日の事。

走り込みを終え、少し離れた場所にある自販機で飲み物を買おうと立ち寄った時であった。

時刻は夜。

日も暮れて、珍しい場所に人影がある事に少年は気付く。

 

『あれ、簪か。どうしてここに?』

『流星ならここに来ると思って…。これ、今日探してた資料…』

『ああ、助かる。………なあ、俺がこの資料探してるってどうやってわかったんだ?』

『──後、このドリンクならつい今買っておいた…。気に、入ってるんだよね…?あげる』

『そうだな、ありがとう。……待て、このドリンク見つけたの一昨日なんだけど────』

『───』

 

笑顔で返す簪に少年は思考をやめた。

深く考えるのはNGと判断した為である。

 

 

 

「ぐ、偶然だろ?偶々流星が資料探してるとことか見掛けたとか、偶々流星がそこの自販機で買ってるところを見たとか」

 

「かもしれないな。ただずっと最近こんな調子なんだ。一夏、顔が引き攣ってるぞ。続けていいか?」

 

「よ、よし。続けてくれ」

 

 

そのまま流星は次の話へ。

今度は姉の楯無についてだ。

 

 

 

 

──それは丁度先週の夜。

楯無忙しい中合間を縫って部屋に訪ねて来た時に起きた事だ。

 

 

『ねぇ流星くん、明日って暇でしょう。どこか遊びに行かない?』

 

『急だな。悪いけど、明日暇って訳でも──』

 

『簪ちゃんとの整備の約束なら、多分簪ちゃんに日本代表候補生としての用事が来るから無理よ?』

 

『そうなのか』

 

『後、その後の山田先生との面談も山田先生に急用が出来るわ』

 

『…へ、へぇ』

 

『そしてその後の一夏くんと鍛錬も私が監督するから、超短縮ね!』

 

満面の笑顔で告げる少女に流星は反応が出来ない。

気の所為だろうと考えつつ、冗談である事を尋ねる。

 

『なあ、次の俺の日直はいつ?』

『3日後ね。もう1人の当番は今回は相川さんの筈』

『掃除当番が来るのは?』

『来週ね』

『今夜の俺の予定は?』

『20時10分から走り込み。21時頃からは貰った資料に目を通すのよね、確か。その後就寝準備よね?──あ!目覚ましのセットまだよね?やっといてあげる』

 

即答に戦慄を覚える流星。

おそるおそる尋ねる自身のスケジュールについて、彼女は即答し続けていた。

 

 

 

「──た、楯無さんは更識家として護衛する為の筈…」

 

「一夏、声が震えてるぞ。後は本音と鈴だが───」

 

「いや、もう十分だから!」

 

一夏は手で制止しつつ、ゆっくりと深呼吸する。

内容を再度吟味してひとつの結論に辿り着いた。

 

「──普通に怖ぇよ!!どうなってるんだ!?ナチュラルにスケジュールとか行動を全部把握されてるじゃねぇか!」

 

「だろ?ちょっと困る」

 

「なあ、麻痺してないか流星。麻痺してるよな?ちょっと困るってリアクションも怖い」

 

ちょっと困る、等と言いつつ当事者は眉を八の字にしていた。

軽いリアクションにドン引きする一夏。

背景に彼の慣れが見て取れるからだ。

 

 

 

「「!!!」」

 

インターホンの音に思わず2人は飛び退くよう立ち上がった。

時計を見るに時刻は7時を過ぎているが、まだまだ休日に人を訪ねるには早い。

 

「(任せたぞ…)」

「(お、おう)」

 

目配せと小声で最低限のやり取りを済ませると、流星は素早くベッド下に身を隠す。

一夏はおそるおそるドアへと向かった。

──何故だか緊張する。何故かは分からない。

 

 

 

鍵を内側からあけ、ガチャりと扉を開いた。

 

「おはようございます。楯無さん」

 

「おはよう一夏くん。朝からごめんね?」

 

訪問者は更識楯無。

噂をすればなんとやら。

ゲームで例えるならいきなりのボス格、負けイベントだと一夏は胸中で戦慄する。

 

「こんな朝早くからどうしたんですか?」

 

なるべく驚きを別方面へと昇華する。

かつて流星に聞いた事だ。

腹芸は専門家相手にはしない方が良い。

嘘も言わず、真実のみ話すのがセオリーである。

 

自身のそれでどうにかなる相手とは思えないが、事態が事態。

まず信憑性も皆無な流星の変化を見抜くなど、流石の楯無も不可能だろう。

 

 

「流星くんを見なかった?」

「(男の)流星の姿なら見てないですよ」

「そう…。訪ねてみたら部屋に居なくてね?一夏くんならもしかしたら〜って思ったんだけど、見てないなら仕方ないわね」

 

そっかー、と溜息をつく楯無。

いつもの口調であるがどことなく雰囲気が怪しい。

 

 

「あと、紅くて長い髪が1本だけ部屋に落ちてたんだけど、何か知らない?───ふふ、部屋に女の子でも連れ込んだのかしら」

 

「い、いえ何も!?」

 

ベッド下の流星からは楯無の顔は見えない。

しかし、一夏の震えた声と楯無のオーラから圧力はヒシヒシと伝わってきた。

 

(…物凄い勘違いが起きている気がする…)

 

このまま元の姿に戻れたとしても、ロクな目に合わない。

ならば今出ていくべきか?──紅い髪の少女は少し考える。

 

→今更だ、出ていかない。

 誤解を解いておこう。出ていく。

 

流星は隠れた事を半分後悔しつつ、彼女が去るのをただ待つことに。

 

 

「ありがとう。また何かあったら連絡頂戴」

 

「はぁ…分かりました」

 

ニッコリと笑顔で礼を告げて楯無は立ち去る。

脅威は去った。ベッド下から流星はゆっくりと這い出てくる。

 

 

「──っ、大丈夫。大丈夫だよな?」

 

「多分……な。助かったよ一夏」

 

ホッと安堵の息を漏らす2人。

あまりにも長い一日の始まりに、頭痛が止まらない。

 

「不味い、知らないってつい言ってしまった…!」

「…タイミングが悪過ぎた。仕方がない」

「こうなったら流星には毎回隠れて貰って、俺は知らないで通すしかないな」

「だな。心休まらないだろうけど…」

 

遠い目で作戦会議を終え、2人は湯呑みや茶菓子を片付ける。

少しでも物的証拠を消す為だ。

 

「なんか敷くものあるか?掃除が行き届いているとはいえ、今は髪が長いから色々付いてきそうだ」

 

「ベッド下に敷いとけるものかー。使ってない毛布でいいなら使うか?」

 

「良いのか?」

 

「どうせ使う前に洗濯するし。ほら」

 

「助かる。今のうちにシャワー浴びさせて貰ってもいいか?」

 

「おう。タオルなら棚に幾つかあるから好きなの使ってくれ」

 

一夏から手渡された毛布をベッド下に引き、シェルターを確保する少女。

髪に少し何かついていた為、流星は一夏な許可を貰いシャワールームへ。

 

体が変化しているのだが、本人は特に抵抗がない様子。

先の会話でも体を動かす上でのリアクションしかなかった。

…少し友人の将来が心配になる一夏である。

 

 

数分が経過した。

さっぱりしたと洗面所で体を拭く流星。

一夏は欠伸をしながら寝そべって漫画を読む。

双方とも楯無が去った後という事もあり、気が緩んでいた。

 

ガチャリという音がほぼ同時に2つ(・・)聞こえた。

 

「一夏。タオルは洗濯籠の中に放り込んでたら良いのか?」

「一夏〜ちょっとマフィン焼いてみたんだけどどうか───」

 

洗面所のドアと玄関のドアが同時に開く。

来訪者はシャルロット・デュノア。

金髪の少女と紅い髪の少女は運悪く鉢合わせる事となった。

 

 

「「────」」

 

互いに固まる少女達。

片や紅い髪の少女はどう切り抜けるかを頭をフル回転させ考えている。

 

もう一方の金髪の少女は、眼前の少女の格好と状況に意識がいく。

シャワーを浴びたばかりの艶のある肌。

男物の服。たった今気軽に一夏の名前を呼んだ事実。

朝から?何故────?

 

 

「しゃ、シャル、これはだな───」

 

死んだ魚のような目で呆然と立ち尽くすシャルロットに一夏は誤解を解こうと話し掛ける。

完全に失態である。鍵を掛け忘れていたことを彼は後悔した。

 

 

「どうしたのかな?織斑くん(・・・・)

 

「ひっ!?」

 

ドス黒いオーラを放ちながらシャルロットが再起動する。

同時に再起動した流星は、事の顛末を理解し苦虫を噛み潰したような顔になった。

言葉では止まらない。かといって慣れない体では物音立てずに──は難しい。

 

 

「待て待てシャル!多分物凄い勘違いだ!!こいつは──!」

「ラファール!!」

 

部分展開されるIS。

灰色の鱗殻(グレー・スケール)ごと腕部を展開し、一夏に振り下ろさんと───。

 

「────落ち着けシャルロット」

 

「──!?IS…!?こ、これって『時雨』!?」

 

すんでのところでそれは阻止された。

横からISを部分展開して割って入った流星が、振り下ろす前にシャルロットの腕を掴んだからだ。

 

 

「どうして『時雨』が!?キミは一体…?」

 

「一夏。鍵を締めてくれ」

「驚かせて悪いなシャル。これには海よりも深い訳があるんだ」

 

「ど、どういうこと…?」

 

困惑が怒りより勝ったのか、ISを解除するシャルロット。

一夏の命が奪われる展開は避けられたようだ。

 

 

「端的に言うと、俺は今宮流星だ」

 

「えっ?流星も実は女の子だったの───!?」

 

「…シャルロットまでその反応を返すのか」

 

「だってそういう事が一応あったからな」

 

「骨格まで変わってるんだから、もう少し別の反応でも良かったと思うが……どうでもいいか。実は─────」

 

 

紅い髪の少女が事情を説明する。

信じられないという表情のシャルロット。

完全にとはいかずとも、話としては聞き入れて貰えたようである。

 

「うーん、流石に信じきれない…かな?まだ流星が影で協力して嘘をついてるって言われた方がしっくりくるよ」

「だよなぁ。ここまで変わってたら別人としか思えないし」

 

両腕を組みながら、ウンウンと頷く2人。

 

「信じるかどうかは別にして。ここまで来たからにはシャルロットにも協力して欲しい」

 

「協力?」

 

「主に口裏合わせるとかになる。女子側で協力者がいると、何かとやり過ごしやすいんだよ」

 

「うーん、協力かぁ」

 

シャルロットは困ったように考え出す。

現実感が無いとはいえ、2人を疑っている訳では無い。

ただ問題があるとすれば、やり過ごす相手だ。

流星絡みでのあの4人は───とシャルロットも自信が無さげだ。

 

 

察したのか流星はササッとシャルロットの隣へ。

耳打ちするように、条件を提示した。

 

「(協力してくれれば一夏との2人きりのデートを工面してやる)」

「(えっ!?そんな事出来るの?)」

「(簡単だ。どうだ?乗るか?)」

 

「?」

 

内緒話に一夏は1人首をかしげる。

一方でシャルロットからすれば、提示されたものは破格のもの。

一夏と2人きりで出掛ける──これの難易度のなんと高いことか。

 

 

「さて、答えを聞こうか。シャルロット」

 

「僕でよければ力になるよ!」

 

がっちりと握手を交わす。

何やら密約を交わしていた事は理解した一夏だが、自身が関与しているとは夢にも思わない。

いつも通りの流星の意地の悪い笑みを見て、一夏は苦笑いを浮かべた。

 

「その表情見てると、流星なんだなぁってなる」

「あ、分かるかも」

 

「…お前ら、俺をどういう目で見てるんだ」

 

紅い髪の少女が不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。

ごしごしと乱暴にタオルで髪を拭きながら、2人を睨むようであった。

その表情も実に流星らしいんだけど──とシャルロットは敢えて口に出さない。

 

 

「というか流星、もう少し丁寧にドライヤーを当てないと綺麗な髪が勿体ないよ?」

 

「ここまで長くなった事がないから分からないんだよ。本音(他人)の髪は梳かせるんだが───」

 

「ああもう。櫛とかも用意しないと」

 

「必要ない。どうせ元の体に戻るだろうし──だから必要ないって」

 

「ラウラみたいな事言わない。ほら、梳かすから動かないで」

 

「……」

 

嫌そうな顔でシャルロットにされるがままの流星。

その姿はブラッシングされているペットを連想させた。

 

 

 

「……………。さて、これからどうするかだが」

 

紅い髪の少女は空いているベッドに腰をかける。

一夏は自身のベッドに腰をかけ、シャルロットは椅子に座ってそれぞれ向き合う形になった。

 

「基本は知らないスタンスで頼む。もう楯無に言ってしまった手前矛盾は避けたい」

 

「ここで流星が1人で待っているのは駄目なの?そもそも一夏が留守なら誰も入って来ないんじゃないかな?」

 

「確かにそうか」

 

「だといいんだけどな。一夏が居ないことを全員が理解してるならともかく、そうでないなら厳しいだろう。物音ひとつでもさせてみろ。扉を壊してくる可能性まであるぞ」

 

流星の言葉にシャルロットは言い淀む。

流星の危惧していることはシャルロットからすれば実に分かりやすい。

 

該当する人物は主に箒やセシリア、ラウラだ。

一夏が居ないはずの部屋で物音となれば、要らぬ思考が始まるのは必然。

押し入って目の前の紅い髪の少女と出くわした日には、…語る必要は無い。

 

 

「またドアが壊されるのはちょっと…」

「同感だ。俺も事後処理させられるのは面倒だしな」

 

「ねぇ、流星。やっぱり織斑先生のところへ行こうよ」

 

シャルロットの提案に流星は目を丸めた。

 

「織斑先生のところに?」

 

「うん。聞いた話だとやっぱり犯人が多分犯人だろうし…前の臨海学校でのリアクションを見る感じ、先生から言ってもらうのが1番だと思う」

 

「なるほど。一夏、今更だけど連絡は取れないのか?出向くよりは先生に来てもらった方が楽なんだが…」

 

「悪い…昨日に携帯が壊され──壊れたんだ…」

 

「…………。理由は聞かないでおこう」

 

苦々しい表情で告げる一夏に、流星は目を伏せる。

知っているのかシャルロットは気まずそうに目を逸らしていた。

 

 

「じゃ、じゃあ僕が呼んで来ようかな?それなら一夏がここに残れるし」

「流石シャル、名案だ!」

「頼めるか?シャルロット」

 

 

───と、話が纏まりかけたところで3度目のインターホンが鳴った。

 

 

「(!とりあえず俺は隠れる)」

「(シャルは自然体で!俺が対応するから!)」

「(分かった!)」

 

紅い髪の少女はベッド下へ。

シャルロットは椅子に座ったまま深呼吸。

一夏は流星が隠れたのを見計らってドアへと向かった。

 

 

「──のほほんさん?どうしたんだ」

 

思わず安堵の息が漏れた。

楯無や簪のエピソードを聞いた直後というのもあり、楯無が戻ってきたのかはたまた簪が来たのかと身構えていたが目の前にいるのは布仏本音である。

普段の通りのほほんとした空気を纏った彼女なら、と一夏は笑顔であった。

 

 

 

「おはよーおりむー。いまみーを知らない?」

 

 

「流星か?悪いけど知らないなぁ」

 

だが忘れてはいけない。

先程流星が言った中に本音も含まれていたという事を。

布仏本音とて更識関係者。鋭さならば────。

 

「ふ〜ん。何か事情があるの?」

 

「?事情?いや、俺は何も…」

 

「だっておりむーが隠すってことはそういうことでしょー?」

 

「え゛っ」

 

一夏の表情が思わず強ばる。

ベットの下で少女は戦慄を隠せずにいた。

 

「あ、本音さん。どうしたの?」

 

助太刀にシャルロットが顔を出す。

本音もシャルロットが居たのは予想外だったのか、目を丸めていた。

 

「ねぇねぇ、いまみー見てない?多分おりむーは知ってると思ったんだけど」

 

「流星?部屋には居なかったの?」

 

「…ふーん」

 

本音の纏う雰囲気が微かに変化する。

先に一夏には『知らないか』と尋ねた。

その時の反応から何か隠していると考えた本音は、次にシャルロットに『見ていないか』と質問を変化させていた。

 

そんな中、本音は甘い匂いに気が付く。

 

「なんかいい匂いがする〜。お菓子?」

「あ、うん。マフィンを焼いたんだけど良かったら布仏さんも食べる?」

「そうするー!」

 

わーいと喜びつつ、本音は部屋に入る。

シャルロットや一夏は話題を自然と逸らせたとほっと息をついた。

本音が椅子に座り、3人でテーブルを囲む。

一夏は備え付けの化粧台にある椅子を持ち出し、そこに腰をかけた。

 

紅茶も用意する。

不自然な動きをする訳にもいかなかった。

 

 

(ふーん)

 

部屋の状態を視界の端で捉えつつ、本音は紅茶に視線を落とす。

一瞬の鋭い視線。

さっき隣を通った時に分かったことだが、洗面所の方には水滴が落ちていた。

微かにするシャンプーの香り───シャワーを浴びたと考えるのが妥当だが目の前の2人はその後に見えない。

そうなれば消去法でもう1人いる可能性が出てくるのだが─────。

 

(隠れられるのはベッドの下2つとクローゼットだよね。あとは……浴室かな~)

 

と窓に視線をやる。

閉じているカーテンの裏に隠れられる──と本音は直感したが、足もとには何も無い。

考え過ぎと切り捨て、残り2つを自然に探すことを目標にした。

 

 

「ねぇおりむー。先に手を洗いたいから洗面所借りるね~」

「ああ!いいぜ!」

「ありがと~」

 

洗面所で手を洗いつつ、浴室をこっそり確認───いない。

 

「しっかし、のほほんさんもしっかりしてるんだな」

「私だって手くらい洗うよ~」

「前に虚さんに怒られてただろ?」

「虚さん…確か本音さんのお姉さんだよね」

 

話しながら一夏達の視線を本音は追う。

些細な視線の動きからして、この部屋に何かありそうではあるが───。

 

「ああ。のほほんさんってよく生徒会室でお菓子食べるからさ、よく言われてるんだよ」

 

「おりむ~」

 

ぷくりと膨れてみせる本音。

クローゼットへの距離はそう遠くない。

ある程度意識すれば、一夏達の視線から注意している方向は微かに見て取れる。

 

「ごめんごめん。ほら折角のシャルのマフィンだし食べよーぜ。シャルは料理が上手だよな。お菓子も作れるなんていいお嫁さんになれると思うぜ」

「─────おっ、お嫁さん!?」

 

何気ない唐変木の発言により、シャルロットは顔を真っ赤にした。

会話しながら二人が無意識に視線を外している箇所を絞り込む。

場所はあとベッド辺り────。

 

「ふぁあ、食べたらなんだか眠くなってきちゃった」

 

特に演技でもなく出た欠伸。

本音は心底眠そうにしつつ、席を立ちフラフラとベッドの方へ。

思わず一夏とシャルロットは度肝を抜かれたとばかりに驚く。

下手な反応は逆効果。

彼らにはもう何も出来ない。

 

隠れている流星にも緊張が走った。

 

 

「ん〜?」

 

 

そこで大きく着信音が鳴り響く。

音の発生源はのほほんとした少女のポケットであった。

本音は携帯端末を手に取り操作───すぐに耳に当てた。

 

「やっほーどうしたの〜お姉ちゃん」

 

『どうしたじゃないでしょう本音。聞いたわよ、あなた昨日の書類で────』

 

端末越しに聞こえる呆れたような虚の声。

どうやら一部仕事をサボって置いていた事がバレたらしかった。

苦笑いを浮かべる本音に端末越しに姉は怒る。

 

当然ながらこれには本音は頭が上がらない。

呼び出されティータイムの後に片付けなかった余罪を含め、彼女はすぐさま呼び出しを受けたのだった。

──虚が取っておいたお気に入りの茶菓子の恨みも、ほんの少しだけ混ざっているのだろう。

 

ドタバタと慌てて出ていく本音。

さながら嵐のように去っていく彼女を見ながら、ぽかんと一夏とシャルロットは呆けていた。

 

「た、助かった……?」

 

彼らはホッと息を漏らす。

対してベッドの下からのそのそと紅い髪の少女が這いずり出てきた。

 

「何とかなったか」

 

どっと疲れたような様子で少女はため息を着く。

その手には携帯端末が握られていた。

 

「なるほど、虚さんに連絡したのか」

 

「ああ。背に腹はかえられなくてな。本音には悪い事をしたけど……いや、自業自得だな」

 

「いやー、でも僕はもうバレたかと思ったよ」

 

「俺も。あれ本当にのほほんさんか?いつもよりなんか迫力あったと思う」

 

どれくらいかな?と苦笑いで問うシャルロット。

一夏はそれに対し、ハムスターが虎になったみたいと答える。

 

───いずれにせよ。

 

 

「「「この部屋に居られなくなった───な(ね)」」」」

 

 

 

本音には薄々勘づかれている。

そうなればここに居続けるのは危険である。

 

「……」

 

恐る恐る三人は時計を見る。

 

指し示すのは午前9時───外はとっくに人が出歩いている時間帯。

いつになく絶望した表情を見せる少女の姿が───そこにはあった。

 

 




続くかもしれないし続かないかもしれない。
こんなの流石に有り得ないって?いやいや大体あの人のせいにしとけば何とかなるもんさ。

世の中にはコーラルキメてる人も集団幻覚見る人達もいるから、なにも問題ない。
そうでしょう?ご友人。

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