IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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「流星、あんたこの後暇?」

 

「模擬戦か?」

 

いつもの放課後。

整備室で資料に埋もれていた流星に鈴はそう尋ねた。

流星は直近のトーナメント戦がある事を理解していた為、何を言おうとしていたか推測して聞き返す。

本音と簪は機体の前で何やら話し合っている。

 

「そうよ。トーナメント戦に備えて肩慣らしってとこ。模擬戦慣れてないでしょうし、あんたもその方が嬉しいでしょ?」

 

鈴の言葉に流星は一人考える。

模擬戦慣れに関しては毎朝…いや、やめておこうと発言を取り消す。

何故かろくな事にならないと直感したからだ。

 

「この後と言ってもそれなりに後になるが、いいのか?」

 

「何かやる事でもあるの?」

 

「改めて装甲に使う素材や種類について教えて貰う予定でな」

 

「簪に?」

 

「いや、別の奴にだよ」

 

流星はあえてその名前は出さなかった。

別段気を使ったという訳では無いが、簪がいる場であまり楯無の名前を出すのも気が引けただけだった。

鈴は特に突っ込むことはしない。

別の奴というからには自身が知らない人物なのだろう程度の認識だ。

 

「ふーん、ならセシリアと模擬戦してようかしら。当然後から来るのよね?」

 

「ああ、あとから行くさ」

 

「そう。なら待ってるわね」

 

流星の言葉に鈴は満足そうに頷き、整備室を後にする。

簪や本音も模擬戦には興味があるのか、いつの間にか流星の方を見ていた。

流星は資料の海で何やら目的のものを見つけたらしく、それを手に取る。

今日の分のノルマは終わっており、本音と簪は特に他に用事もないので作業を続けると言った感じであった。

流星は立ち上がると、此方を見ていた簪や本音に向かって出入り口を指さす。

 

「じゃあ俺も行くよ。何か用事があったら連絡してくれ」

 

そう言うとそそくさと彼も整備室をあとにする。

流星はいつも通り資料を片手に廊下を行く。

行先は生徒会室。

ノックもなく部屋に入る。

特に本日仕事もなく、楯無しかいないと承知済みだからだ。

 

「遅いわよ流星くん」

 

「何言ってる。時間ジャストだろ」

 

「そこは先に着いておいて、『ごめん待った?』って言わせて『いや俺も今来た所だよ』って返すものよ?」

 

楯無が扇子を開きながらふんぞり返って座っている。

その扇子には常識と書かれていた。

流星は資料を机に置き座りながら言葉を返す。

 

「ごめん待った?」

 

「いや、私も今来た所よ。って男女逆よ」

 

これで満足かと言わんばかりの流星の視線に、楯無はいじけた様子でホワイトボードを引っ張ってくる。

そのまま流れるように楯無による講義が始まった。

基礎的な話からおさらいする形で楯無が話し出す。

何故か楯無の服装はスーツに眼鏡という状態だが、流星は敢えて無視する。

本人の活発なイメージと反するような眼鏡。

きっちりと着ているが、身体のラインが露骨にスーツ越しに分かる気がした。

途中上着を脱ぎ、ワイシャツ姿になる。

…目に毒だと流星はため息をつく。

 

総評として、似合っているが構うと面倒なので講義に集中していた。

時々それを構って欲しいのか、楯無は眼鏡をクイクイしたりする。

構わず、流星は無視した。

 

 

そうこうしている内に講義は進む。

楯無の講義は流星にとって相変わらず分かりやすいものだった。

 

 

一通り終え、楯無は会長席に腰をかける。

流星はメモした内容や資料を見返していた。

 

「ねぇ、流星くん。鈴ちゃんや本音ちゃんのことはどう思ってるの?」

 

純粋な興味で楯無は尋ねる。

楯無が見た所、どちらも流星に好意を抱いている。

ただ流星は今まで居た環境が環境の為、自身に向けられている好意にはそれなりに疎いと楯無は感じている。

 

流星は楯無の言葉を受け、呆れた様子で返す。

 

「悪いが浮いた話はないぞ」

 

「…分かってるわよ。なら、純粋にどう感じてるの?」

 

「…どう感じると言われてもな」

 

困った様子で頭に手をやる流星。

彼としても意識した事も考えたことも無い。

精々、過ごしやすい程度のものだろう。

 

「あっ、他に気になる子とか居るならそれを言ってもいいわよ?」

 

「居るか馬鹿」

 

「…ひょっとして、そっちの人…?」

 

「…」

 

楯無の言葉に流星は心底不服そうな顔になる。

何度したか分からないやり取りに返事をする事すら面倒になっているのだろう。

 

「何故そうなる」

 

「だってこんなに可愛い子がたくさん居る学園よ?気になる子1人や2人居ても良いじゃない?」

 

立ち上がり、楽しそうに覗き込んでくる楯無。

流星の脳裏ではその姿が新聞部の先輩と被っていた。

 

「こんなにって自分を指差すな」

 

「ごめんなさい、こんなに美人なのはお姉さんだけね」

 

「はいはいそうだな。楯無は美人だ。悔しいけどそれは言うまでもないさ」

 

「ふふ、流星くんもやっと気付いたようね」

 

「だけど性格は───…」

 

とそこまで言うと流星は押し黙る。

言葉を選ぼうとして良い言葉が見付からなかったのだ。

 

「ちょっと何で黙るのよ」

 

黙りこむ流星に楯無は口元をひくつかせる。

流星は特に言及しない。

自分が一番よく知ってるだろ?と言いたいのだろう。

 

「流星くんの意地悪ーっ」

 

「!」

 

と、楯無が拗ねている横で流星の端末が音を出して鳴り響く。

楯無のそれが演技と理解している流星は迷いなく端末を取り出し、通話に応じた。

簪の息抜きも兼ねて改良した結果産まれた、投影ディスプレイ式の小型携帯である。

投影ディスプレイに映し出されるのは本音。

背景からして保健室に居るのだろう。

 

「いまみー、りんりんが───」

 

 

話を聞き、流星は事情を知る。

ラウラと戦った鈴とセシリアが怪我したとのこと。

その怪我の仕方も痛ぶられた結果らしく、普通の怪我の仕方でも無いそうだ。

 

直ぐに流星は立ち上がり、すぐ行くとだけ返事をする。

楯無も近くで聞いていた為、事情をきく事は無い。

流星は生徒会室を後にする。

楯無も事の顛末を把握する為、アリーナのログを調べ始めていた。

 

 

生徒会室を後にした流星は廊下を移動する。

既に鈴達は保健室に居て、駆け付けなくてはまずい状態ではない事は知っている。

だが、流星の足は自然と駆け足に。

気付けば走っていた。

 

保健室の扉を開け、中に入る。

奥のベッド2つに2人は並んで座っていた。

 

頭や腕に包帯が巻かれており、首にはギプスがはめられている。

セシリアも同様だ。

見る限り痛々しい姿の二人だが、元気そうに話しているのを見て流星は内心ホッとする。

 

周りには本音、簪、一夏、シャルルの4人がいた。

簪は一夏にまだ思う所があるのか、視界に映りにくいよう本音に少し隠れているのがわかる。

流星はその4人の中に割り込む形で鈴の前に出る。

 

 

「思ったより元気そうだな」

 

「…来なくて良かったのに」

 

「何言ってんだ?」

 

ほんの少しだけ恨めしそうにそう呟く鈴に流星は小首を傾げる。

鈴としてはこのような姿を見せたくなかったからなのだが、流星は分からなかった。

更には発端がセシリア鈴双方とも、好きな人物を侮辱されたからという乙女な理由もあった。

それも関係していた。

 

察した本音が苦笑いを浮かべている中、シャルルは笑顔で説明しようとして鈴に口を抑えられる。

 

その際無理に身体を動かしたからか、鈴は直ぐに涙を浮かべながら固まる。

流星はいつもと変わらず振舞おうとする鈴を前に呆れていた。

そんな中、鈴はポツリと思い出したように告げる。

 

 

「ごめんね、負けちゃった」

 

「鈴さん…」

 

その胸中を理解出来るのは同じ思いをしたセシリアだけだ。

代表候補生としてのプライドが傷付けられたのとある。

しかしそれよりも2人とも好きな人を侮辱されたまま、一矢報いる事すら叶わなかったのだ。

その悔しさはどれ程のものか。

流星や一夏達は二人が悔しそうにしているという事までしか分からない。

 

故に、俯いた鈴を見た流星は励ます事も宥める事もしなかった。

ただひと言、質問をするだけだった。

 

 

「強かったか?」

 

「当たり前じゃない。でも、あんたは勝たないと許さないから」

 

「はいはい。…聞くんじゃなかった」

 

鈴の言葉に流星は肩を竦める。

何処か緊張感の抜けた様子だが、彼の眼には不安の色はなかった。

代表候補生2人を圧倒した相手だというのに、と周囲に居た皆は感じるが特に突っ込む事も無い。

 

 

「ん?」

 

と、そこで地響きのようなものが聞こえた。

次の瞬間、保健室の扉が勢いよく開き大勢の女生徒がなだれ込んでくる。

見舞いではなさそうだと一同が思った次の瞬間、女子の集団が一夏に詰め寄る。

 

手にしていた1枚の紙を見せつけ、全員我先にと声を荒らげた。

 

 

「織斑君!これ!!」

 

「え〜っとトーナメント戦の形式変更?1対1じゃなく、2対2のツーマンセルに変更?」

 

「そう!だから一緒に出ようよ織斑君!」

 

「シャルル君!一緒に出よう!」

 

グイグイと詰め寄る女子達に、状況を飲み込んだばかりの一夏とシャルルは顔を引き攣らせる。

少ない高校生活の1つのイベント。

男子とのツーマンセルトーナメントという最高のシュチュエーションで青春を彩りたい、というような思考までは一夏が読める事はないだろう。

あわよくばという考えがある人物も数多い。

とはいえ、シャルルは誰かと組んだ場合性別がバレる可能性が高くなってしまう。

シャルルは返事に困った。

下手に断っても食い下がられるだろう。

 

 

「ご、ごめん!俺シャルと組むから!」

 

咄嗟に機転を効かせた一夏により、女子集団も納得する。

ライバルになりうる誰かが一夏と組むなら不満は少しあったが、男同士のペアというのも絵になると感じたからだ。

 

納得し、あっさりと諦めた女子達は保健室を後にする。

 

「い、いまみー。元気出しなよー」

 

「今宮君、が、頑張って?」

 

「……」

 

流石の流星も今の完全スルーは効いたらしい。

一人落ち込む流星を本音と簪が慰めている。

こればかりは一夏も同情せざるを得なかった。

 

一拍置いて鈴とセシリアは同時に声を発する。

 

「流星!(あたし)と組みなさい!」

「一夏さん!是非(わたくし)と!」

 

「いけません。安静にしてなきゃですし、ISのダメージレベルがCを超えています。ですから身体もISも休ませないといけませんよ」

 

女子集団と入れ替わるように現れた真耶に釘を刺され、鈴もセシリアも項垂れる。

真耶はその後色々連絡事項を伝えると、忙しいのか直ぐにどこかへ行ってしまった。

 

項垂れる2人の脳裏に浮かぶのはトーナメント戦優勝者が男子に告白出来るという話。

自身が参加出来ないからには、ライバルではない人間に優勝して貰えばいい。

それに、あの約束は女子間でのもの。

男2人が優勝すれば何も状況は動かない。

 

セシリアと鈴はアイコンタクトを取る。

 

即座に思考を切り替え、一夏とシャルルの方へ向く。

 

「一夏あんた優勝しなさいよ!」

「そうですわ!絶対優勝していただきますわ!」

 

「お、おう。ありがとう」

 

鈴としては流星を応援したいがこればかりは譲れない。

内心複雑な心境ながらも、仕方ないと割り切る。

 

「負けると許さない癖に、一夏を応援するんだな」

 

「そ、そういう事じゃ」

 

「いいさ、意地でも優勝してやる」

 

不貞腐れる流星を前に戸惑う鈴。

焦っている本人は気が付かないが、それがいじけているからだと周囲の皆は理解した。

 

(子供っぽい…)

 

意外な一面を見た簪は素直に流星の様子をそう評する。

好きとかそういうものはよく分からないが、流星はヤキモチを妬いているのだろう。

恋愛的なものではないが、それなりに鈴を気に入っているのだと理解する。

簪が客観的にそう分析している横で、本音はなんとも言えない表情をしていた。

パッと見はいつもの表情だが、それもまたヤキモチだと簪には分かった。

 

 

「それでいまみーは誰と組むの?」

 

そわそわしながら尋ねる本音に流星は顎に手をあて考える。

 

「ここに居たか。今宮流星」

 

一同が振り返るとそこにラウラが立っていた。

鈴とセシリアをこうした元凶であるというのに、この場に来た事に流星以外驚いている。

 

「お前…ッ!」

 

「お前に用はない」

 

ピリピリとした緊張感が辺りを包み込む。

怒りを顕にする一夏や、警戒するセシリア達。

ただ流星と簪は落ち着いた様子であった。

ラウラはその事を見渡して確認すると、改めて流星の方を見る。

 

「トーナメントの事は知っているな?」

 

「ああ」

 

頷く流星。

ラウラは淡々と告げる。

彼女は先程の件など微塵も気にしていないのだろう。

それはそれ、これはこれなのだろう。

切り替えの早さに関しては流石軍人と言ったところか。

この場合感心するとこではないけど、等と簪は内心考えていた。

 

「今宮流星。私と組め」

「嫌だよ。他当たれ」

 

食い気味での拒絶にラウラは意外そうな顔をする。

断られた事自体にはショックを受けている様子はない。

純粋に流星は感情関係なしに勝つ為なら乗ってくると踏んでいたからだ。

 

「ほう?感情論で勝つ確率を下げるのか?」

 

「勝つ確率を下げる?逆だな。アンタと組むより勝率が高いから組まないんだよ」

 

「なんだと?」

 

その言葉にラウラは眉を顰める。

強さを求めるラウラにとって流星の発言は到底許せるものではなかった。

 

「ならば貴様は誰と組む気だ」

 

「簪とだよ」

 

視線を移し、簪の方を見る流星。

釣られてラウラも視線を簪に移し、話を聞いていた全員が遅れて簪を見る。

 

「え?わ、私?」

 

「嫌なら断ってくれて構わない」

 

簪はそう言われ、返答に困る。

隣の本音は微妙にふくれているが、勿論流星は気付かない。

恐らく自身を選んだのも何か理由があるのだろう事は簪も察しは付くが、もう少し女心を知るべきだと一人思う。

 

現状一年生最強であろうラウラを差し置いて、簪を選ぶ意味は簪自身にも分からない。

 

「貴様、私を舐めているのか?」

 

ラウラは簪を観察し、流星の方へ向き直る。

日本の代表候補生であり、実力はあることは知っている。

だが、ラウラの見解では簪よりそこに居るシャルルの方が実力は上と考えている。

しかも、簪の機体は未完成。

性格は様子を見る限り、戦闘にはあまり向いていないだろう。

ラウラは負ける事は有り得ないと評価していた。

 

故に流星に侮辱されたと考える。

 

「確かにアンタは一年生の中で最強かもしれない。実力を疑おうなんて思ってない」

 

だけど、と流星はラウラを指さす。

意地の悪い笑みを浮かべた。

「だからアンタは勝てない。断言してやる。優勝なんて出来ない」

 

「雑兵が吠えるな。…良いだろう、試合を楽しみにしておいてやる」

 

対してラウラも好戦的な笑みを浮かべ、背を向ける。

そのまま彼女が保健室を去ろうとするその時、流星はポツリと言葉を漏らす。

 

「とは言っても、戦えない可能性もあるんだけどな」

 

ラウラは無言で立ち去り、保健室内の緊張が解ける。

特に一夏を纏っていたピリピリした空気が消えた事もあり、流星と簪以外は安堵する。

また喧嘩でもするんじゃないかという心配もあった為だ。

 

 

「ねーねー、いまみー。かんちゃんが凄いのは私が良く知ってるけど、どうしてかんちゃんだと勝率が高いの?」

 

少し気になったとばかりに流星の横で尋ねる本音。

親友をきっちり評価されている点は自分の事のように嬉しい本音だが、彼女としては流星と組みたかった。

しかし、自分は整備科志望なのもあり、代表候補生でもなく操縦は苦手だから選ばれないのも仕方ない。

そんなふうに1人納得している節もあった為、簪を多少羨んでいる程度に収まっている。

 

「はは、それは企業秘密だ。って何ふくれてんだ本音」

 

「ふくれてないも〜ん。いまみーの馬鹿」

 

「むぅ。良いだろ、こういうのは後からお披露目でも」

 

はぁ、と溜息をつくのは鈴。

彼女は本音に心底同情し、更に流星の反応に妙な既視感を覚える。

具体的に言うとどっかの唐変木に振り回されている時を思い出し、1人頭を抱える。

結局は惚れた側が負けなのかもしれない、と胸中で独りごちる。

 

 

「簪。駄目か?」

 

「機体が量産機になるけど、それで良いの?」

 

「そんな事承知の上だ。ついでに機体開発の為のデータを取る事も出来る」

 

一石二鳥だ、と流星は得意気だ。

簪も流星がそこまで納得しているなら、断る理由はなかった。

自信はあまり無いが…。

 

「分かった…よろしく、今宮君」

 

「ああ、よろしく簪」

 

こうして流星と簪のタッグは成立した。

未知数のタッグ成立を前に流星の思惑を考えるセシリア。

しかし、数秒経って分からない事が分かると考える事を放棄する。

 

と、そこで一夏は流星の眼前に出るように1歩踏み出した。

 

「なあ、流星」

 

一夏に声を掛けられ、振り返る流星。

流星は少し意外そうに目を丸めている。

一夏からこうして話し掛けられるとは思っていなかったのだろう。

 

 

「俺と模擬戦してくれ」

 

 

 

 

 

 

アリーナの使用許可自体はかなりあっさりと取れた。

元々流星が練習の為に取っていたからだ。

周囲は既に暗いが、アリーナ自体はライトで照らされている為問題ない。

見に来ているのはシャルル1人。

鈴やセシリアは保健室。

更識さんとのほほんさんは2人の為に着替え等を持って行ったりする為来ていない。

 

 

アリーナの上空。

目の前でISを纏い、浮かんでいる流星を見据える。

無骨な灰色の機体、それは汎用的な武装を多く積んだ第二世代型。

性能ではこちらが優って居るのに弱いという印象を受けた事などない。

 

──今宮流星。

努力家でマイペースで、誰にでも優しい訳じゃない変わったクラスメイト。

でも、更識さんが貶された際訂正させようとしたり、襲撃事件の際は観客席の人達を命懸けで守ったりと良い奴である事は知っている。

正直な話、何を考えているかよく分からない時があるけど…。

 

 

目前の流星が構える。

 

そんな良い奴が、俺からも見て強いアイツが、シャルルの件に否定的だったのは理解出来なかった。

 

別にその事で流星を責めようなんて考えていない。

冷静に考えても、当然かもしれない。

アイツは国籍さえなく、学園にいる状態。

何の後ろ盾もなく、卒業後どうなるかさえ分かっていないんだ。

下手に首を突っ込まないのが精一杯の筈。

それでも、流星ならと考えてしまう。

 

だからこれは、俺の勝手な期待だ。

ある意味憧れていたからこそ、そうであって欲しくなかったという不満。

 

 

「準備は良いか?一夏」

 

「ああ」

 

雪片弐型を握る。

流星に対し勝手に気不味くなっていた理由はやっと分かった。

だけど、悩みは晴れない。

きっとそれは俺が力不足だから、シャルルをどうしてやる事も出来ないからなのだろう。

 

 

「行くぞ」

 

流星からの声。

同時に向けられる銃口。

反応が遅れることは無く、横に飛んでかわす。

その銃声が開始のブザー代わりとなった。

 

サブマシンガンによる牽制。

連射出来る武器の中でも威力は低いが、扱いやすいのだろう。

流星はそれを初撃に用いた。

 

かわした勢いで回り込もうとする。

流星も俺に追いつかれないように旋回しながら弾を放つ。

そのまま片手にアサルトライフルを展開した。

サブマシンガンによる牽制、流星はその回避先に置くようにアサルトライフルを掃射する。

 

「っ」

 

被弾。

狙撃は隙が大きいと判断したのか、連射出来る武装を徹底している流星。

ダメージは少ないけど、シールドエネルギーをなるべく残したいこちらにとってはジワジワ削られるのはくるものがある。

 

シャルルとの時もこうされた。

違いがあるとすれば、シャルルは流れを作り、流星は状況を作る。

線と点。

曲線と直線。

そのようにしか言い表す術はない。

恐らくそこに思うほど大きな差はないのかも知れない。

 

 

当たる状況を作る分、流星の方が弾切れは早い筈。

リロードの暇を与えない為、少し早めから被弾覚悟で回り込みながら突っ込む。

 

「!」

 

流星はそれを見て直ぐにアサルトライフルを収納。

残ったサブマシンガンのマガジンを排出、流れるような動きでリロードをする。

 

「させるか!」

 

動きながらだが、此方の方が速い。

左半身を前にして、サブマシンガンを構える流星。

サブマシンガンだけが故にリロードは早いが、切りかかっている俺の方が有利だ。

多少の軽いダメージなら、押し通せる。

 

零落白夜を発動。

そう確信し雪片弐型を振るう。

 

と、それはあっさりと流星の黒い槍に防がれた。

 

「なっ!?」

 

唐突に現れた槍を前に驚く暇もない。

すぐさま叩き込まれる槍による攻撃を防ぐ。

一撃一撃はそこまで重くない。

流星が右腕だけで槍を振るっているからであり、そこで漸く槍が突然現れたように見えた理由に気が付く。

 

左半身を前に出し、右半身を見えなくしていたのだ。

その間に槍を展開、反撃の流れだろう。

 

「くそっ!?」

 

片腕の槍といえど、以前より習熟度も上がっている。

上手くいなされ、咄嗟の零落白夜も許されない。

不意に近い防御からの反撃に体勢を崩され、少し押し返された。

瞬間、流星は左手のサブマシンガンの引き金を再度引く。

 

押し切るしかない。

被弾しつつ、踏み込む。

 

この場合最速で流星に届く攻撃は、突きだ。

姿勢を低くし、加速する。

至近距離での瞬時加速(イグニッション・ブースト)

同時に零落白夜を発動、突きを喰らわせようとする。

 

「!」

 

流星は迷わずサブマシンガンを手放し、左半身を後方に捻る。

そのまま槍を両手で持ち、突きは側面からいなされる。

 

「くっ」

 

流星の槍の腕は知っている。

恐らくこの少し崩れた俺の体勢からはほぼ押し勝てない。

更には生身での槍相手なら潜り込めばまだ有利を取れるが、これはIS戦だ。

空中での機動性も加わり有利になる筈の瞬間は、更に短くなる。

 

ここは立て直しつつ、再び隙を探すべきだ。

 

 

いや、そんな事じゃ駄目だ。

俺は正面から捩じ伏せられるくらいには、強くならないと駄目なんだ!

 

 

「うおおおおっ!」

 

「…」

 

流星の目が冷ややかなものを見る目に変わった気がした。

同時に横からの衝撃。

立て続けに来る斬撃、打撃は何とか凌ぐ。

 

「っ」

 

しかし、さらに立て続けに攻撃は来る。

鳩尾への突きは凌げなかった。

切っ先に意識が向いていたせいだ。

そのせいで反対側の打撃に気付けなかった。

 

仰け反った所に追撃が来る。

一度槍から目を逸らした手前、反応が間に合わない。

更には仰け反った際に流星が半歩引いたのか、間合いが微かに遠い。

槍を無理矢理受け止めてからの零落白夜による特攻も警戒してだ。

 

だとしても!

千冬姉なら正面から捩じ伏せる筈だ。

スラスターを噴射させ、強引に身体を間合いに捩じ込ませる。

 

瞬間、声が聞こえた。

 

 

「何してんだよ、一夏」

 

下からの衝撃。

潜り込むように踏み込んだ俺を待っていたのは、槍による顎への打撃。

視界が一瞬真っ白になり、思わず雪片弐型を手放す。

 

連続して蹴りが腹部叩き込まれ、為す術もなくアリーナの地面に衝突した。

シールドエネルギーは残り僅かと言ったところか。

距離も取られ、身体はまだ回復しきっていない。

絶対防御があるとはいえ、顎からしっかりと衝撃を貰ったのだ。

意識を失わないだけ上等だ。

そんな俺を見下ろしながら、流星は不機嫌そうにしている。

 

理由が分からない、が何か言いたそうだ。

恐らくそんな俺の様子が顔に出ていたのだろう。

流星は見かねた様子で口を開いた。

 

 

「…そんなんで何が守れるんだ」

 

「な、に?」

 

ハッキリとした俺への否定。

身体を無理矢理起き上がらせつつ、上空にいる流星を見る。

流星は槍を仕舞い、アサルトライフルと盾を展開する。

 

「退かないと駄目なタイミングが二度あった筈だ。何で突っ込んで来た」

 

「それは、退くといけないと思ったからだ」

 

俺の答えに流星は眉を顰める。

それは明確な怒りの感情だった。

珍しいなどと思う余裕も俺には無かった。

 

「出来ないと分かっていて挑むのは構わない。だけど今出来る事を引き出しもせず、ただそれをするのは停滞だ…!」

 

「!」

 

「ああ、模擬戦だけなら仕方ないさ。でも一夏、お前は誰かを守る時もそれをし続けるのか?なりふり構わない状況でもお前は出来ないことしか見ないのか!」

 

誰かを守る時──そう聞いて、シャルルの件の事を指していると気が付く。

もっと俺が強ければ──そう考え始めた所で流星の言葉に苛立ちが芽生えた。

無理矢理立ち上がりつつ、雪片を拾う。

 

「だったら、何が出来るって言うんだよ!俺に!」

 

シャルルに何もしてやれない事なんて分かっている。

それを協力すら拒んだ流星に言われる筋合いはない。

雪片を握り締め、地面を蹴る。

流星は構えず、俺を見据えていた。

一気に加速し、切りかかる。

 

それを盾で防がれ、鍔迫り合いの状態になった。

 

 

「頼る事を避け1人で立とうとしてるヤツと、頼る事を諦めているヤツ。そんな状態で何も好転するわけないだろ」

 

「知った風に言いやがって!お前に何が分かるんだよ!」

 

「分かりたくもないな…!」

 

流星はそう告げると、姿勢を低くし盾で押し飛ばしてくる。

俺はそれを受け流しつつ、一歩飛び退いた。

流星は即座にアサルトライフルの引き金を引く。

俺は堪らず横に飛び、回避に専念する。

 

「1人で何でも片付く事なんてない。最初から誰にも頼らずにいられるやつなんて居ない。今宮流星に出来なくてお前に出来ることは何だよ。土壇場でお前は立場を活かすことすら出来ないのかよ、織斑一夏!」

 

流星の言葉は更に続く。

言ってる事は理解し始めていた。

ただ、それが認められない。

 

「だからって、ただ人に頼れって!巻き込めって言うのかよ!」

 

「他に何がある!」

 

肯定、それに何よりも動揺する自分が居た。

分かっている。

しかも千冬姉は教師だ。

無関係じゃない事も。

分かっている。

 

でも無意識の内に、俺はその選択肢を見えなくしていたのだろう。

 

 

「…」

 

そもそもずっと守られている立場。

俺が何かに首を突っ込んだ時点で既に巻き込んでしまっている、というのも気付かないようにしていただけだ。

 

いや、そもそも心配してくれる皆にもきっと迷惑は掛けていた。

それにすら気付けないでいたんだろう。

 

だから俺は。

 

「…流星、ありがとう」

 

雪片を強く握る。

悩みは完全に晴れた訳では無い。

あくまで自分で誰かを守る訳でもない、自分もあくまで頼るだけだ。

完全にそれを許容出来るほど俺は大人にもなれなかった。

 

ただ目の前の事すらまともに見れていなかったという事実だけ自覚する。

 

──一瞬だけ、流星が微かに俯いたような気がした。

 

 

「…なら、良かった…か」

 

「続きといこうぜ、流星!」

 

「勝ちは貰うさ」

 

直ぐに流星はいつも通りの不敵な笑みを浮かべ、弾切れになったアサルトライフルを手放した。

 

「!」

 

同時に流星は左腕に着けていた盾を投げ付ける。

それは瞬時加速(イグニッション・ブースト)で仕掛けようとする俺を阻害するため。

俺はそれを切り弾く。

 

 

瞬間、衝撃が身体を叩いた。

流星の構えていたものはスナイパーライフル。

 

「…なんだかんだでトドメの算段付けてたのかよ…」

 

気付けば、俺の残り僅かだったシールドエネルギーはゼロになっていた。

 

 

 

 

 

 

 




流星が完全に正しい訳でもなく一夏が正しい訳でも無い。
シャルロットはどうにも出来ない状況が続き、性格的にも流されるしか無かった。

故に起きる小さな衝突。


ラウラが流星を選んだのは、強さとかでは無く戦場を知っている人間と組みたかったから。




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