翌日の食堂。
昼ご飯を食べに集まった学生達の中、不機嫌そうに膨れっ面になる女子が居た。
彼女は自身の昼食を前に、箸を止めている。
視線の先は斜め向かいの座席。
周辺で食事をとる他の女子達も、視線を同じく向けていた。
「む〜…」
「本音、ご飯冷めちゃうよ?」
「むむ、むむむ〜…」
「はぁ…」
親友の珍しい反応にため息をつく簪。
本音はその言葉に反応する余裕も見せないで膨れている。
簪もかき揚げうどんを食べる手を止め、視線を本音と同じ方へ向ける。
そこにはご飯を食べさせる流星と食べさせて貰っている鈴の姿があった。
昨夜の事も見ていたクラスメイトから聞いた為、簪も本音も大体の流れは知っている。
鈴も怪我のため仕方ないと本音は理解していた。
しかし、実際にそれを目の当たりにした所で羨望の眼差しを向けざるを得なかった。
病人とそのお世話のつもりでやっている流星だが、されている鈴の反応はどう見ても初々しい彼女のそれだ。
恥ずかしさは取れていないが、それなりにこの状況を楽しんでいる。
「いまみーの馬鹿…」
呟く本音。
暫くはこの調子だろう。
簪は昼食を食べる事を再開する。
彼女はたっぷり汁をつけたかき揚げを食べながら、再度視線を渦中の2人へ戻す。
──自分もあのように誰かを好きになるのだろうか?
当然の疑問。
憧れはない訳ではない、ただどうしてもイメージが湧かない。
好きなタイプと聞かれたとしても、よく分からない。
強いて言うなら、ヒーローのような人物…だろう。
ヒーローもののアニメが好きな事が影響している。
如何せん現実味がないと簪は独りでに溜息をついた。
「簪に本音。ここに居たか」
いつの間にか、食べさせ終えた流星が目前に居た。
「へ?え?今宮君!?」
少し考えて居たこともあり、反応が遅れる簪。
本音は拗ねているのか流星を一瞥すると、食事を再会した。
一瞬不機嫌かと思った簪だったが、彼女が頬をほのかに紅潮させているのに気付く。
…?何か、思い出したのか気まずそうだ。
「簪、この後空いてるか?」
「え、あっ!?ちょっと待ってね?」
本日授業は午前中のみ。
この後の予定はない筈だが、と念の為スケジュールを確認すると。
眼鏡のフレームに触れ、レンズ部分にあたるディスプレイで何やら確認する。
して数秒。
「大丈夫。練習だよね?」
「ああ。整備室に行くのはその後しよう」
「分かった。食べ終わったらすぐ行く」
「じゃあ先に第3アリーナで待ってる」
簪の了承を得ると、流星は1人その場を後にする。
鈴の分の食器も既に片付けている。
鈴本人は我に返り、恥ずかしかったのか机に突っ伏したままである。
放っておいても問題無いだろうという判断であった。
オレンジ髪の少年はその道中でばったりとラウラと出くわした。
別段交わす言葉もない。
ただ余裕の無さそうな状態に見えた。
だが気遣う理由もない。
交わす言葉もない。
そのまますれ違う。
彼女の求める答えを持っているのは、きっと俺などではなく──。
流星は思考を中断し、足を早める。
2人の歩く廊下。
その様子を別の校舎の屋上から覗く影があった。
それは背丈はラウラよりも小さな小柄な少女の形をしている。
制服は着ていない、理由は明確。
目立つ場所、そこには何者も関心を示さない。
学園の最新技術を駆使した防犯カメラやレーダーには、少女とそのISは映って居なかった。
□
かくして、ツーマンセルトーナメントの当日が訪れた。
観客席は初戦前の賑わいで盛り上がっている。
一夏はシャルルと共に観客席へ。
テンションが上がった他クラス女子から近くを通ると黄色い歓声が上がる。
彼らは困ったように手をふり返しつつ、セシリアや鈴の隣に座った。
「あら?一夏さん達は試合があるのではなくて?」
「ああ、俺達の試合結構後の方なんだよ。1回戦の最後」
「ふーん、相手は?」
「ラウラと箒だ」
セシリアと鈴の顔が驚愕に染まる。
当然だ。
初戦から一夏とラウラがぶつかる事になるとは思わなかったからだ。
ラウラのペアにいる箒は恐らく抽選で決まったのだろう。
「あれ?いまみーとかんちゃんは?」
「1回戦初戦らしいよ。布仏さん」
「早速って事ね」
本音の疑問にシャルルが答え、鈴も納得して視線をアリーナ中心へ戻す。
すると同時に開幕のアナウンスが鳴り響く。
1回戦初戦の組み合せ、もといメンバーのアナウンス。
名前を呼ばれ場に現れる流星と簪。
特に緊張した様子も見られない。
簪はラファールを、流星は時雨を展開していた。
敵方の女生徒2人は緊張こそ見られるが、テンパっている感じでもない。
相手方はラファールと打鉄の組み合わせだ。
双方武器を構え、開始の合図を待つ。
流星は近接ブレードを展開。
簪はそれを見てアサルトライフルを展開する。
ここに来て、初めて緊張感が場を支配した。
あのペアの集中力が伝わってくるようだ、と一夏は感じる。
息を飲み、試合開始を全員が待つ。
始まるカウントダウン。
電子音と共に5の数字が表示される。
流星の姿勢は前のめり。
開幕と共に速攻をかける為と隠す気も見られない。
槍の腕なら知っているが、と一夏は顎に手を当てる。
初手に近接ブレードを展開する意味はよく分からない。
得意武器と思われる槍ではないのには何か理由があるのだろうか。
「始まった!」
シャルルの声と共に思考を打ち切る。
初手で飛び出したのは、やはり流星だった。
一気に距離を詰め、近接ブレードでラファール側に斬り掛かる。
相手は驚き反応が遅れた。
小細工無しの強襲はさすがに驚いたのだろう。
一太刀浴びせた所でもう一人が近接ブレードを持ち助けに向かう。
「え?」
と、瞬間に流星は地面を蹴る。
同時に敵機2人は何かに撃ち抜かれたように大きく後方へ吹き飛んだ。
数発ずつ弾を撃ち込まれた。
恐らく、飛び出して来なかった簪がやったのだ。
気付いた時にはもう遅い。
流星と入れ違うように、アサルトライフルを撃ちながら迫る簪。
そこで完全に相手側は思考を建て直す機会を失った。
追撃に2人は相手2機に詰める。
流星は近接ブレードで、簪は射撃兵装で。
2人してラファールの方へ攻撃を集中させている。
先にラファール側を落とす作戦だろう。
それは交互に流れるように行われた。
「…息、ぴったりだね…」
シャルルが零す声。
一夏が何か反応する前に試合の方で動きがあった。
何とかして反撃しようとする打鉄がブレードを振るい、流星に斬り掛かる。
それに簪が盾を持って割って入る。
ずっと見てたと言わんばかりの動き。
ブレードを受け流すとそのまま盾で殴り付け、反転。
いつの間にか持っていた近接ブレードで斬り掛かる。
あれは流星のを受け取ったのだろう。
一方で流星は簪のアサルトライフルを受け取っている。
展開よりも僅かに早い隙のない受け渡しに、セシリアは目を見開く。
2人はそのまま敵機を完全に分断し、残りのシールドエネルギーを押し切る形で0にした。
狙われていた事もあり、先に流星側の敵──ラファールが膝を着く。
すかさず加勢しようと振り返る流星だが、簪により打鉄も停止した。
観客は見入っていた。
試合時間はほんの1分。
勝敗のアナウンスと共に鈴は声を漏らす。
「容赦ないわね」
手早く終わらせた感じだが、そこに手加減は見られない。
相手は一応何処かの企業所属の生徒だったと鈴は記憶している。
だからと言って専用機を必ず持っているわけではないのが実状だ。
専用機持ちとそうでない者。
または国家代表候補生とそうでない者。
既にかなり技術的な差が開いており、場合によってはさらにそこに機体の差も入ってくる。
当たり前だが、明らかに平等ではないトーナメント。
そんな中これは少し気の毒ではあった。
最も、鈴もそんな事で手加減するタチでもないが。
「凄く綺麗な連携でしたわ」
セシリアは感想を呟く。
視線は会場を去る流星を追う。
正直、連携を取っている所を見た事がない事もあり驚いている。
恐らく近接ブレードを使っていたのは間合いを詰める為、そして今回の連携の仕方が理由だろう。
速攻をかける。
一夏もよくやる事だが、あれはまた違う。
今回のこれは2人での速攻。
簪は射撃武器ながらも絶妙な間合いの詰め方をしている。
あれは流星の動きを敵の動きと並行して把握出来ていないと出来ない芸当だ。
それは理解出来る。
問題はどちらが主体だったかということ。
先に動いたのは流星だったが、その後はどちらから合わせていたのか。
流星が跳び簪の銃弾が敵を襲ったのか。
先を読んで簪が撃ち、流星が跳んでかわしたのか。
どちらとも取れるタイミングだったのだ。
ISを使って観察をしていなかったセシリアには判断は付かない。
「…」
圧巻されながらも、表情が強ばることは無く何処か綻ぶ一夏。
脅威を認識したというのに、高揚感がある。
ただ早く闘いたい。
勝つとか負けるとかではなく。
俺は闘ってみたい。
一夏の様子を横で見たシャルルは笑みを零す。
彼自身の中の不安はそれで消えた。
強敵を見て闘志を燃やすパートナーに頼もしさを感じたのだ。
「いいなぁ、男の子!って感じで…」
ポツリと漏らす言葉を聞き取るものはいない。
直ぐに彼も笑みを浮かべると声をかけた。
「まず、ボーデヴィッヒさんを倒さないとね!」
「ああ!」
ラウラが強敵なのは2人共分かっている。
当然一夏も一番負けられない相手故分かっている。
待ちきれず、席を立った。
自身の試合は1回戦最後、準備には少し早い。
軽い準備運動位は、パートナーも許してくれるだろう。
□
「来たか」
金色の瞳と赤い瞳、銀色の髪、小柄な身体。
普通では無い、特異な容姿。
そして、そんな彼女を包む黒く重量感ある機体は彼女の華奢な体躯をそうと感じさせない。
ラウラの鋭い眼光が白い機体を射抜く。
軍人故のピリピリとした重圧を、一夏は正面から受け止める。
「ああ、来たぜ。お前を倒しにな」
一夏は臆する事なく平常運転で答える。
「ふん、威勢だけはいいな」
鈴やセシリアを痛め付けた相手。
怒りは勿論ある。
雪片を両手で強く握る。
また、同じように千冬姉に憧れた者。
なのに誇示するように力を振るう。
あれじゃあただの暴力だ。
認められない、それは間違っている。
視線を返す。
そして、千冬姉のあの時の選択は間違っていないと。
助けられたからこそ、証明する。
あの時は本当に無力だった。
今は、となると相変わらず出来ないことが多い。
だけど今やれる事は増えている、筈だ。
後ろでシャルルも構えている。
ラウラの後ろには箒が打鉄を纏い、近接ブレードを手にしている。
「威勢だけかどうか、見せてやる…!」
吠える織斑一夏。
それは教官の弱みたる邪魔者。
──私は、認めない。
脳裏に過ぎるは弟の存在を話した時の教官の顔。
強い教官が、見せた
理解
それは弱さに他ならない筈だ。
だから教官ですら優勝出来なかったのだ。
強さとは何物にも変え難い価値であり存在意義だ。
現に、私はそれを身をもって知っている。
あれは荷物だ。
忌むべき邪魔者だ。
───負けられない。
双方の試合を前に闘志を燃やす。
そこに善し悪しはなく、くべられるエネルギーは今か今かと身体を突き動かさんとしている。
試合開始へのカウントダウンが始まる。
5。
各々が身構える。
腰を落とし、改めて敵の配置へ意識を割く。
4。
会場全体が静けさに包まれる。
ラウラが少し前のめりになる。
3。
ゆっくり息を吐き、ゆっくり息を吸う。
一夏は脱力する。
シャルルはラウラと箒をロックオンする。
2。
静かに目を閉じた。
箒はこうして初めて対面する一夏の様子に目を丸める。
1。
目を開ける。
空気が変わった。
0。
ブザーが鳴り響く。
同時に2つの影が飛び出した。
「ぶっ倒す!」
「叩き潰す!」
アリーナの中心で激闘する。
それは見届けるシャルルを置いて、唖然とする箒を置いて。
プラズマ手刀と雪片弐型が互いに交差する。
切り弾く音。
初撃は互いに無傷。
「!」
ラウラのプラズマ手刀が再び振るわれる。
一夏はAICを警戒し、後方へ離脱する。
感情に反して冷静だった。
「任せて!」
「チッ小賢しい」
シャルルが前後衛入れ替わるように前へ。
アサルトライフルを撃ちながらラウラに向かう。
ラウラもまた即座にレールカノンを放ち応戦する。
「はああぁ!」
「箒!」
その隙に箒は一夏へ斬り掛かる。
白式を駆る一夏は接近する箒にも気が付いている。
振るわれる一刀を受け流す。
量産機といえど搭乗者は幼馴染。
剣に関しては油断ならない。
続く二刀目三刀目。
早い。
冷静に受け流し、機を待つ。
パートナーも理解している。
1対1が出来ないことを心の中で箒に詫びつつ、真上から振るわれる4刀目を受け止めた。
鍔迫り合う状態で一夏は微笑む。
箒は一夏の背後からシャルルが現れるのに気が付いた。
サブマシンガンの雨が箒を襲う。
咄嗟のことに箒は無防備な状態になる。
「くっ!?」
「行くぜ!」
一夏は踏み込み、一太刀入れようとする。
「!?」
しかしそれは虚空を切る。
驚きは一夏と箒のもの。
箒の身体が突如として持ち上がり、空中へ投げ出されたからだ。
「邪魔だ」
ラウラの声。
ワイヤーブレードによって箒を投げ飛ばしつつ、一夏に斬り掛かる。
不意打ち気味だったが一夏は何とか雪片で防ぐ。
ラウラの後方で箒は地面に叩き付けられた。
勢いが激しかっただけに、直ぐには立ち上がれない。
「ラウラ、箒を助けたわけじゃないのね…」
「そのよう、ですわね…」
観戦していた鈴とセシリアが顔を顰める。
気分の良いものでは無かった。
ツーマンセルトーナメントだというのにラウラには連携をとる気が欠片もみられない。
「お前っ…!」
これには一夏も苛立ちを感じた。
箒をあのように扱った事、連携をとる気がない事双方にだ。
ラウラは一夏の様子を鼻で笑う。
「ふっ」
一夏の頭に血が上りきる──ことは無かった。
そちらがその気なら好都合だと。
わざと強引に踏み込み、大振りの一太刀。
零落白夜を使用し、下から斬りあげる。
「そんなもの!」
ラウラが手を翳す。
瞬間、振るわれた雪片は空中にて静止した。
否、雪片だけではなく一夏自身もだ。
停止結界──AIC。
対象を止める武装に一夏は捕らわれた。
「っ」
「隙だらけだな」
ラウラの背にあるレールカノンの銃口が無防備な此方へ向く。
AIC。
以前鈴とセシリアを助けた際に喰らった以来だ。
だがあの時と違い一夏はこれをわざと使わせた。
攻略する必要がある脅威の武装。
捕らわれつつも分析に意識を割く。
相変わらず身体は動かない。
持続させる事に負担が掛かっているようにも見られない。
となると、掛かってから破る事は厳しい。
ならば───2人がかりならどうだ?
「一夏!」
少し観察していたシャルルが一夏の背後からスナイパーライフルで狙撃する。
ラウラは舌打ちをしながら離脱した。
角度的にはAICで防いでもおかしくない。
だというのにその気配すら無かった。
「…もしかして!」
一夏は何かを理解すると飛び退いたラウラへ追撃に走る。
シャルルは合わせるように一夏の方へ向かおうとする箒に割って入った。
互いに言葉を交わす事無く、シャルルは一夏の気付いた事を理解していた。
ならばすべき事は一つ。
シャルルは片手にサブマシンガンを、もう片手にアサルトライフルを展開し仕掛ける。
フランス代表候補生の巧みな攻めを前に箒は防戦に徹する事しか出来ない。
「うおおおおお!」
「愚かな」
一夏はレールカノンを切り弾き、斬り掛かる。
ラウラはプラズマ手刀で応戦する。
直ぐにAICで動きを止める算段をつけつつ、好戦的な笑みを浮かべた。
2人の間で獲物がぶつかり合う。
もう片方の手を翳そうとするラウラ。
「───」
一夏は、踏み込まなかった。
違う、踏み込んではいる。
両手で持った雪片弐型。
それを右手だけに持ち替えながら上から下へ、下から上へ振るう。
そして、その一刀に勢いを任せて身体は後ろへ。
絶妙だった。
AICへ意識を割かんとするラウラは失策に気付き、プラズマ手刀で防ごうとする。
「っ!?」
零落白夜を発動した一刀が
削られて減るシールドエネルギー。
ラウラの顔が驚愕に染まる。
直後にそれは怒りとなって現れた。
「貴様ァ!」
「ぐっ!?」
ワイヤーブレードが一夏を襲う。
多少冷静さを欠いていようとラウラが強い事実は変わらない。
ただ一夏も多少被弾しながらもそれを切り弾き前に進む。
ラウラは一夏の事を接近戦はそれなりに出来ると認識を改める。
まだまだ荒削りだが、先程見せたような咄嗟の動きには何か末恐ろしいものすら感じる。
だがそれまで。
所詮私の敵ではないとラウラは考える。
──零落白夜は諸刃の剣だ。
織斑一夏のエネルギーはそれなりに減っている。
一度止めて集中砲火すれば、一気に片はつく。
ラウラはそう考え、今度は自身から仕掛けようとする。
先程の動きも考慮した上で行動を開始した。
同時に、一夏は笑う。
「忘れたかよ。これはツーマンセルだぜ!」
銃声と共に弾丸が降り注ぐ。
シャルルが駆け付け、アサルトライフルを撃った為だ。
視界の隅で動けなくなっている箒を見て、ラウラは彼女がやられたと理解する。
問題ない。
ハナからあれは数に入れていない──!
即座にAICで防御&ワイヤーブレードでの反撃。
ワイヤーブレードは一夏の方にも放っていた。
シャルルが回避に移る先にレールカノンの照準を合わせる。
と、そこでワイヤーブレードを弾いた一夏がラウラの懐に迫る。
「速い!?」
間合いは微かに遠い。
だが一夏の狙いはレールカノン。
零落白夜を持って、その砲身の一部が切り落とされる。
しかしレールカノンはまだ使える。
そして切り終えた一夏の位置的にもチャンスだった。
接近戦は別に構わないがわざわざ付き合ってやる道理はない。
即座に照準を一夏に合わせつつ、手を翳す。
追撃しようとした一夏の身体が空間に固定された。
「何度でも言ってやるよ。俺たちは2人なんだぜ!」
「っ!」
スナイパーライフルがラウラの背のレールカノンを撃ち抜いた。
今度こそレールカノンはその機能を失う。
「ちぃっ!」
「ぐっ!?」
ラウラは咄嗟に目前の一夏を蹴り飛ばす。
AICが解けることが分かっていた為、今度は逆に自身から解き一夏を遠ざける判断をした。
「やっぱり、そうか!」
「みたいだね!」
弱点を把握し一夏は起き上がる。
シャルルは既にラウラに仕掛けていた。
サブマシンガンを撃ちつつ、一気に加速する。
「
「今初めて使ったからね!」
シャルルの言葉に一夏は苦笑する。
つくづく凄い奴だなぁなんて試合中とは思えない思考。
直ぐに試合へ戻るべく、一夏はあるものを拾う。
「だが停止結界の前では!」
ラウラがシャルルの動きを止める。
これこそ、決定的な隙。
奴が今停止結界を使ったのは、近接武器しかない一夏が少し離れた場所にいる為。
「なっ──」
その目論見は外れる。
一夏はあるものを構え、引き金を引く。
慣れない武装に緊張したのは言うまでもない。
シャルルのスナイパーライフル。
シャルルはこの為に許可を出してこの場に捨てて置いたのだ。
ラウラの身体が衝撃で揺れ、シャルルが解放される。
即座に動き出したシャルルをラウラが止めることは叶わなかった。
「この距離なら外さない!」
盾が外れ、顔覗かせる機構。
そこに見えるパイルバンカーを前にラウラの顔が歪む。
シールドエネルギーは残り僅か。
そんな状態でこの攻撃を受ければどうなるかなど、明確だった。
腹部に叩きつけられる衝撃。
減っていくエネルギー。
私が、負ける?
脳裏に過ぎる失望の言葉。
歯ぎしりしても現実は変わらない。
私は、戻りたくない───!
出来損ないではない、役ただずではない、無能でもない。
強く、強く在らねばいけない。
こんな所で、ましてやあの弟に敗北するなど!!!
吹き飛ぶ黒の機体。
眼前で目まぐるしく表記される文字やシステムに彼女は気付く余裕も無かった。
アリーナの壁に叩きつけられた所で彼女の意識は闇に消える。
吹き飛ぶようにして晴れる砂埃。
次の瞬間、得体のしれない黒に呑まれるラウラの姿がそこにはあった。