IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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「なんだよ、アレ」

 

一夏の問いは虚空にとけるように消える。

眼前で起きている状況が呑み込めないのは、別に一夏に限った話ではなかった。

終わったのか?そう確認する手前ラウラが何かに呑まれた。

ISが飴細工のように溶けラウラを取り込んだからだ。

そしてそれは全く違う形に変わっていく。

見るからに異様な光景。

 

緊急事態と判断されたのか、アリーナの障壁が落ちていく。

 

「あれ、は…」

 

眼前でよく分からない何かが形を成す。

それは人の形だった。

既視感がある。

それはISを装着していた。

見慣れたものだった。

それが手にしていたものは、雪片だった。

 

「ふざけやがって!」

 

冷静さを保たなければならない事など理解している。

それでも目の前の物は一夏から一瞬で冷静さを奪い去る。

 

 

雪片弐型を構え、斬り掛かる。

 

シャルルや箒がそれに気付くよりも速く、異形は一夏に牙を向いた。

振るわれる黒い雪片は斬り掛かった一夏よりも速い。

 

「っ」

 

咄嗟に反応し、一太刀目を受け流す。

IS越しだというのに両手が痺れた。

手の感覚を失いつつもガムシャラに二撃目に対応する。

一気に冷や汗が吹き出た。

次は防げない。

三回目の攻撃がやってくる。

横一閃。

まともに受ける事だけは、避けなくては。

防ぎ切ることは諦め、白式のスラスターを後方へ飛ぶよう全開する。

 

 

雪片弐型ごと弾かれるように、一夏はアリーナの地面へ叩き落とされた。

 

「「一夏!」」

 

一瞬の出来事にシャルルと箒が慌てて駆け寄る。

一夏の白式は解除されていた。

胴に切り傷。

幸い傷は浅い。

 

追撃が来るかと身構える一夏。

しかし、追撃は来なかった。

まるで敵は居なくなったとばかりに微動だにしない。

 

「?」

 

妙だとは思ったがすぐに怒りが彼を支配する。

羽交い締めするように止める箒。

それを他所にシャルルは数歩前に出て武器を構える。

 

「!」

 

その瞬間、迫る異形。

一瞬で間合いを詰めて振るわれる黒い一振りはシャルルを切り裂く──ことは無かった。

 

「っ…成程、ね…」

 

武器を手放した所でピタリと止まる異形。

念の為に回避も合わせようとしたのだが恐らく間に合わなかっただろう。

冷や汗をかきながらシャルルはその特性を理解する。

 

それは恐らく自動迎撃システムのようなもの。

武器を構えると敵と見なされる。

引き金に指を置く、剣を構える。

敵対行為の細かい線引きまでは分からないが、そういう事だろう。

 

「ふぅ…」

 

となれば多少は安心か。

油断はならないが、後退すると意識を一夏の方へ向ける。

 

ISを装着していない状態でも怒りを顕にしている彼に、箒が張り手を見舞う。

中々強烈だった。

一夏の姿勢が崩れ箒の声がやっと彼に届く。

問いただす箒の言葉に、一夏は絞り出すようにして言葉を紡いだ。

 

 

「あれは、千冬姉だ」

 

言葉には憎悪すら感じさせる程の怒りが混ざっていた。

その言葉を受け振り返りシャルルは納得する。

全身黒くうっすらとしてしかないが、面影がある。

そして一夏の怒りも最もだと考える。

他者が最強を目指したのか、模倣しようとしたのか。

力として織斑千冬を象ったあれは、あまりにも醜悪だ。

 

 

怒りの原因はそれだけではない。

彼は異形を睨みつけながら立ち上がる。

アレが振るう雪片はあまりにも侮辱していた。

千冬姉を、そして命を。

命を断つ(もの)の重さをあれは知らない。

そこに意思はなく、ただのプログラムとして人を切る兵器そのもの。

 

故に否定する。

──他の誰でもない、織斑一夏(おれ)自身が。

 

箒に貰った張り手により、理性が多少戻る。

 

箒は周囲を指さした。

何もお前が無茶をする必要は無いと。

事はお前が何もしなくても片付くと。

 

「違う、違うんだよ箒。俺がやらなくっちゃいけないんじゃない。俺がそうしたいんだ」

 

とはいえISが無ければさすがにどうしようもない。

脳裏を過ぎるは以前の流星の言葉。

シャルルの方へ向き直ると、シャルルは察したように笑みを浮かべた。

 

「エネルギーがあればいいんだね?」

 

取り出したコードを持ち、一夏の待機形態となっている白式に差し込む。

して数秒。

彼女のISは待機形態となり一夏は白式にエネルギーが流し込まれて居ることに気が付いた。

 

「コア・バイパスを使ってエネルギーを白式に補給したんだ。部分展開が精々だろうけどね」

 

「いや、助かったぜ。ありがとう、シャルル」

 

そんな簡単に出来た事じゃなかったようななんて考えつつも、一夏は視線を異形に向ける。

支えられつつも、背負おうと少年は右手だけを部分展開する。

1歩ずつ前へ、異形に向けて歩き出す。

 

 

 

一夏の背を見ながら、シャルルは愚直さを羨望した。

このままでいいのかと、彼の隣に自分は立つのにふさわしい存在なのかと自問する。

感傷に浸りそうになる自身を抑え、一夏に声をかける。

この場で不安を煽る言葉も激励も不要だろう。

 

「一夏、負けたら女子の制服で登校してもらうからね」

 

「…え、いやそれは!」

 

「自信がないの?」

 

「あー!何だってやってやる!」

 

「ふふ…」

 

きっと自身は悪い顔で笑っているのだろう。

──でもこんなにも心から笑えるのはきっと、僕の事で心から怒ってくれる誰かのおかげな訳で──。

頬が緩む。

こんなあたたかで何とも焦れったい感情は初めてだった。

 

 

 

「一夏…」

 

箒は一夏の背を見ながら、なんとも言えない無力感を味わっていた。

心配、なのは勿論だが結局自分は何も出来ていない。

試合で彼に強く印象を抱かせることも、彼を止める事も、力になる事も。

見送るしか出来ない事は、武人である彼女にとっては酷な事だった。

それ故に彼女は強く望む。

自身にも専用機があれば────と。

 

 

 

膠着する状況。

囲んだ教師陣もシステムの仕様、下手に手を出す真似はしていなかった。

貼り詰める緊張感。

紛い物とはいえ織斑千冬を象ったもののプレッシャーは大したものだった。

 

その眼前に歩いてくる人影。

一夏は異形の前に立つと、落ち着いた様子で部分展開した右手を前に出す。

 

 

「行くぜ。紛い物!」

 

シャルルが行った行動は一夏も見ていた。

自動迎撃のようなシステム的な反応。

敵対行為と見なされれば確実に仕掛けてくる。

 

──勝算はある。

あれが千冬姉の動きをトレースしているのならば、此方の構えや間合いから太刀筋を誘導出来る。

無論そう簡単な事ではない。

思惑通りになろうが、そのまま切り裂かれる可能性もある。

 

 

雪片弐型を展開。

ピクリと反応する異形。

間を置かず武器を構え零落白夜を発動した。

刃先を少し下げるように構えている。

 

 

同時に、異形は動いた。

一瞬で詰まる間合い。

既に黒い雪片は振るわれている。

上段からの袈裟斬り。

 

「───」

高速で振るわれるそれを一夏は異形の腕ごと切り飛ばす。

ラウラが囚われているのは本体奥。

躊躇いは無かった。

 

異形が何かアクションを起こす猶予も与えず、返す刀でその表面を斬り裂いた。

 

崩れる異形。

中から銀色の少女が崩れ落ちたのを一夏は受け止める。

 

 

断末魔などなく、異形は核たる少女を失い今度こそ完全に消え失せた。

 

 

 

 

少し時は遡り、一夏達の試合直前。

簪はアリーナの通路を歩いていた。

 

足取りは早足。

先程取れた射撃等の戦闘データを、待ちきれず機体に活かせるよう整理していた為気付けば1回戦も終盤になっていた。

怒られない程度の早足で急いで通路を往く。

誰にとは言わない。

鬼が出るだなんて噂がある。

とりあえず通路を走れば不味いことは、以前流星が力説していた。

 

調整の方も試合も手応えは上々。

機体の開発もかなり進んでいる。

このトーナメントが終わり次第、本音に依頼している打鉄の機動データを合わせれば試運転は出来そうだった。

先の試合の高揚感がまだ身体に残っている。

自信と言える程ではないが、安心はした。

自分もまだ棄てたものでは無い、と後ろ向きの思考ながらも彼女の心はいい方向に向かっていた。

 

 

通路に人は少ない。

皆既に観客席で応援しているのだろう。

織斑一夏&シャルル・デュノア対ラウラボーデヴィッヒ&篠ノ之箒。

今大会でも注目のカード揃い、観ないはずがなかった。

簪自身はそこまで興味は無い、しかし敵として当たる可能性を考えると観ない訳にもいかなかった。

 

「!」

 

歓声が上がる。

恐らく試合が始まろうとしているのだろう。

 

(急がないと───)

 

慌てて早足から駆け足に切り替えようとする。

 

 

─────瞬間、悪寒が簪の全身を駆け抜けた。

 

「っ…!」

 

それは判断か反射か。

踏み出した足に力が入る。

たった半歩、前へ。

姿勢を崩しながら簪は通路を転がった。

 

───首があった場所を何かが通過する。

 

背後は暗い。

連鎖的に全ての電灯が壊されていた。

 

 

「ねえ、あなた。更識…簪でしょう?」

 

「!?」

 

刀を持った小柄な少女がそこには立っていた。

長く、手入れの行き届いた黒髪。

暗闇に微かに浮かぶ緋色の瞳。

 

ISを腕部に展開しており、顔にはフェイスマスクをつけている。

暗がりの為か、ハッキリと顔は見えない。

ただその手の大きさから、年齢が一回り自身より小さい事は理解出来る。

 

 

一瞬混乱する簪だが、即座に命の危機と判断する。

先程避けられたのは最早奇跡的な何かでしかない。

訓練機もアリーナの格納庫に置いてある。

つまり今の簪はあまりにも無防備だ。

 

「だ、だれ…?」

 

身体を起こし少しずつ後ずさる。

別に誰かに特別優しくした覚えもないが、恨まれるようなことはしていない筈。

 

「わたし?そんなのどうでもいいでしょう?」

 

静かな声、あまりにも淡々としたもの。

その声色は一切の抑揚が無かった。

真っ当な相手ではないと改めて感じさせられた。

 

「───…っ」

 

逃げなければ。

相手から視線だけは離さず、距離を取ろうとする。

しかし相手はISだ。

距離などまるで意味が無い。

恐怖で身体が思うようには動かないのも、分かっていた。

思考だけは冷静なせいか恐怖を加速させる。

それは毒のようだった。

 

「もうちょっとだったのに」

 

踏み出す相手。

背を向けて走り出したい衝動に駆られながらも、理性だけはそれを抑える。

走り出したらその瞬間、殺される。

いつでも逃げ出せる隙を見せているのは恐らくそれを誘う為。

どうにかして逃げなければ。

 

──何処へ?

後ろに続くは観客席。

仮に辿り着いても惨状を招くだけなのは見えている。

緊張感に心がすり減る。

一瞬でも気は抜けなかった。

泣き叫びたい、逃げ出したい、全てを放り出してしまいたい。

弱気に呑まれそうになりながらも、簪は踏みとどまっていた。

胸中にあるのは僅かな勇気。

 

必死にどうにかする術を頭の中で考えるが、思い付かない。

 

「ど、どうして私なの?」

 

「しりたい?」

 

そこには大人しい口調ながら明確な殺意が顔を覗かせていた。

獲物を目の前にした蛇のようだと簪は感じる。

だとすれば自身は睨まれて動けないカエルだと、自嘲気味に内心悪態をつく。

 

「それはね、──ついでにたのまれたからだよ」

 

凍てつくような殺意。

それは微笑むような顔でするものでは無かった。

 

普通じゃない、簪が再び寒気を感じた瞬間────銃声が聞こえた。

 

「っ!!」

 

「!」

 

一瞬心臓が止まるかと感じた簪だが、直ぐにそれが相手へ撃たれたものと気付く。

3発。

銃声がしたのは背後。

相手は簪から距離を置くように飛び退く。

 

間髪入れずそこに銃声が再度鳴り響く。

ISのものでは無い為相手も今度は腕の装甲で軽く弾いた。

 

通路の影から拳銃を片手に現れたのは流星。

簪の横に出ると彼はさらに引き金を引き、1発撃つ。

よく知る人物の躊躇いの無い行動に簪は呆気に取られる。

 

「そんなおもちゃじゃ、きかないよ」

 

「流石に当たっちゃくれないか…」

 

流星は左手の装甲をサブマシンガンごと部分展開、右手の拳銃は制服のポケットに仕舞う。

 

「簪を探していたんだが、ドンピシャだったみたいだな」

 

「今宮君…?」

 

「下がってろ、簪」

 

前に出て簪を下がらせる流星。

それを見た敵は刀を構える。

刃渡りは少女の身長程ある。

別におかしなことは無い、少女が小さいというだけ──。

 

流星は敵が動くよりも先に引き金を引いていた。

銃弾の雨が敵を襲う。

敵の少女は気にも止めない。

即座に通路の壁を蹴り、流星に襲い掛かる。

 

「───」

 

「え、ふぇっ!?い今宮君!?」

 

流星は即座に簪を抱き抱え後ろに飛び退く。

脚の装甲を一瞬だけ部分展開した為素早かった。

全力で蹴った為床に亀裂が入る。

簪は突然の事を驚き、素っ頓狂な声を挙げる。

直ぐに流星は簪を下ろすと、少女に向き直る。

頬に切り傷が出来ていた。

それを拭き取るとサブマシンガンを構える。

脚の部分展開は邪魔になる為解除した。

 

「へえ」

 

感心したような少女の声。

相変わらず抑揚はない。

 

「わたしのねらい、きづいてたんだ?」

 

「ギリギリでだけどな」

 

冷や汗を流す流星。

刀の角度、微かな視線、そして敵の狙い。

気付けたのは一瞬前。

他の選択肢を取っていれば…言うまでもなかった。

 

揺らりと少女は向き直る。

今度は隙がまるで無かった。

先程の跳躍にはISは使われていない。

 

嫌でも分かる。

この少女は危険だ。

 

「あなたのおなまえは?」

 

「?」

 

思わず首を傾げる。

2人しかいない男性操縦者を知らない襲撃者。

あまりにも奇妙だ。

緋色の瞳は興味を向けていた。

 

「今宮流星」

 

今更隠す意味もない。

男でIS操縦者の時点で直ぐに分かってしまう。

流星は名乗ると同時に再び引き金を引く。

名乗る事で微かにタイミングをずらしていた。

それは奇襲に近い。

 

思わず、流星と簪は目を疑った。

銃弾の雨はたった1本の刀に弾かれていたからだ。

少女は刀を大きく振るってはいない。

最小の動きで、力を入れる様子もなく柄も用いて弾いているのだ。

軽く投げられた小石を弾くかのようにいとも容易くだ。

 

「そう、今宮流星。りゅうせいっていうのね」

 

無邪気に笑う少女。

流星は反射的に右手にもISを部分展開──そして迷わずIS用ナイフを握り締めた。

 

同時に、金属音。

一瞬何が起きたか自身でも分からなかった流星だが、それが攻撃を防いだからと気付く。

 

「っ!」

 

殆ど反射だった。

命の危機に咄嗟に身体が動いた、そのレベルの事だ。

 

───格上。

薄々感じていた事が確信に変わる。

当然と言えば当然か。

IS学園に忍び込みこんな事をする奴だ。

生半可な奴ではこのような事を目論む事すら出来ないだろう。

 

鍔迫り合いのような状況。

少女は意外そうな顔で流星を見る。

 

「ふせいだ…」

 

キョトンと首を傾げる。

それもつかの間。

直ぐにナイフを弾くと少女は刀を走らせる。

 

流星は左手のサブマシンガンを手放すと、瞬時に盾を展開しそれを凌いだ。

近い分滑り込ませるように受け流す。

そのまま構わず流星は右手をはね上げ、手放したサブマシンガンを拾う───そのまま引き金を引く。

少女は視線を動かすことも無く、銃口を即座に片手で逸らした。

 

「ちっ」

 

──返す刀で振るわれる刀。

それは流星の首目掛けて振るわれる。

サブマシンガンを今度こそ捨て、右手の装甲を首の横にして防御体勢。

 

「むだ」

 

「かっ!?」

 

刀は目前で消え、少女はその勢いで回し蹴りを放つ。

身軽なだけではなく、蹴りを放つ瞬間に脚部を部分展開。

威力は言うまでもなかった。

 

右手の装甲ごと蹴られ、流星は真横の壁に叩き付けられる。

少女はそのまま飛びかかる。

左手で流星の首を掴むと、馬乗りになるように押し倒す。

右手には刀を展開し直し、切っ先を喉元に突き付ける形となる。

 

「うごかないで」

 

「…!」

 

「今宮君っ!」

 

「あなたも」

 

刀など関係ない。

ISを部分展開して首を掴んでいる為、そのまま首の骨を折られて終わりだ。

簪自身もあと数歩踏み込もうものなら、一瞬で肉片にされるのは分かっていた。

澱んだ、それでいて無垢な眼が流星を見下ろす。

 

「これでおわり」

 

逆手に持ち替え、刀を振り下ろさんとする。

 

 

──刹那、少女の真後ろで何かが炸裂した。

少女は手榴弾であると直ぐに気が付いた。

流星が盾の裏で手榴弾を持っていて、倒れる前に投げた事を理解する。

爆発した場所からの距離は少しある。

この程度の衝撃など取るに足らない。

ただ、思わず手の力が緩んだ瞬間流星は無理矢理それを引き剥がしていた。

蹴りを入れて少女から距離を取ろうとするが、それでもまだ無防備だ。

コンマ2秒。

 

 

 

「!」

 

同時に、少女は真横の死角から飛来するナイフに気がつく。

回転しながら迫るナイフ。

それは少女の首目掛け、勢い良く迫る。

気が付くのが微かに遅れた為余裕を持って対処───とはいかない。

 

──少女はそこで理解した。

手榴弾は逃れる為の保険ではない。

あくまでナイフを壁に投擲する一瞬を作る為のもの。

端からこの少年は、少女の命を()る為に攻撃している。

この状況でもそれは変わらなかった。

 

 

「っ」

 

即座に攻撃して相討ちか、防ごうとして負傷か。

この状況で迫られる2択に、少女は咄嗟に刀を振るう。

最速で流星を殺すという選択を少女が態々選ぶ必要は無い。

かと言って生半可な防御は少女も気が引けた。

 

それは何かの剣技。

 

 

流星は急いで盾を展開。

スラスターを部分展開、飛ぶように後方へ。

白い刀が空間を切り裂く。

 

 

「!」

 

 

「え!?きゃあ…っ!!」

 

同時に崩れる床。

少女は床や壁を切り裂いたようだ。

戦いにより傷だらけになっていた床が壊しやすかったのは有るだろう。

 

 

 

刀は流星の首を薄皮一枚切るに留まる。

ナイフもまた少女の首を薄皮一枚切るに留まった。

 

 

「りゅうせい。あなたおもしろいね」

 

「…」

 

少女もまた、下のフロアへ降りる。

下の階に降りた事で少女の獲物がハッキリと見える。

それは刀身まで真っ白な変わった刀だった。

鍔らしきものは見当たらない。

少女はフェイスマスクをズラして顔を顕にする。

人形のように整った顔立ちだった。

 

「さいしょでしななかった。よわいけどつよい、ふしぎなヒト」

 

「…そいつはどうも」

 

言葉に応じる。

隙は見当たらず下手に仕掛けても悪手だと判断した為だった。

 

「──それにね。わたしわかるの。あなたはころすのをなんともおもってない」

 

じっと瞳が流星を捉える。

不快な程無垢で全て見透かすかのような瞳を前に、目を逸らすことさえ叶わない。

薄らと愉しそうに嗤う。

得体の知れないものを感じた。

 

 

「ねぇ、りゅうせい。あなたはそうなるまで───いったいなんにんころしたの?」

 

「───」

 

「ねぇ、おしえて────」

 

それ以上の言葉を待たず、流星は攻撃を仕掛けた。

即座に飛び出すように簪の前に出る。

悪手と知りながらアサルトライフルを展開、引き金を引く。

少女は跳躍し、1つ上のフロアの天井へ。

そのまま天井を蹴り、壁を蹴り、迫る。

 

白い刀を流星は黒い槍を展開して受け流す。

少女は弾かれても余裕を持ちつつ、壁に飛び移り再度流星に斬り掛かる。

 

「ふふ、あたってた?」

 

「うるせぇ」

 

「──きらわれちゃった?でもね、わたしはきにいっちゃったの」

 

「うるせぇよ!」

 

纒わり付く様な悪寒を前に、流星は槍を振るう。

1フロアぶち抜いた事もあり、先程よりも通路は広い。

黒い槍と白い刀。

交差する度に流星に軽い切り傷が増えていく。

 

「おこってるのにすごいれいせいだね。おかげでころしにいけない」

 

少女は視線を簪に移す。

先程から狙おうとしているのだが、流星が綺麗に立ち塞がる形になっている。

感情的になっても驚く程冷静な部分を持っている。

そう少女は分析し、視線を流星に戻す。

少女は別段簪に執着していない。

あくまでもついでの頼まれ事。

途中からは流星の対応を愉しむ為に狙っていたのだった。

 

 

故に、警報が鳴り響いた瞬間少女の動きはピタリと止まった。

その隙をつこうとした流星を軽くいなすと、後退する。

 

 

 

「そろそろ、わたしもおしごとがあるから」

 

 

 

「仕事だと?───っ!待ちやがれ!」

 

通路の闇に消えていく少女を流星は追いかけようとする。

先程の下のフロア、その先はアリーナだ。

 

一瞬流星がふらついたところで、簪は声を挙げた。

 

「今宮君、ダメ。アレは私達にどうにか出来る相手じゃ、ない」

 

「…簪?」

 

振り返る流星。

簪は先程の無垢な殺意を思い出し、微かに声を震わせる。

見過ごす事を良しとしている訳ではない。

ただ、手に負えないものだという実感は嫌でも湧いてくる。

恐らく専用機を手にしたところでも…。

 

「……だけど、追わないと」

 

「助けて貰って…言うことじゃないけど。──けど、今度は殺されちゃうかも知れない…」

 

「心配してくれてるのか?」

 

キョトンとした顔になる流星。

出来たばかりの生傷は浅い。

しかし簪は傷つき慣れている彼を見て言葉を続ける。

 

「だって、今宮君がこれ以上戦う必要はない」

 

無力な自分は恐らく滑稽な発言をしている。

そんなことは簪も分かっている。

何も出来なかったものが言っていい言葉で無いことも。

 

「そうだな」

 

彼は一瞬だけ顔を俯かせる。

確かに簪の言う通りだと納得する。

言葉に出すことはない、寧ろそれが正解だ。

 

「でも」

 

───彼は何かに懺悔するような、何かを自身に言い聞かせるような。

そんな仕草を一瞬だけした後、簪に向き直る。

彼女をモニター室に向かうよう指で示す。

 

「…もう当事者だ。無視するわけにも行かないだろ」

 

自身に言い訳するようにそう言うと彼は笑いながら背を向ける。

何とも痛ましい笑顔に見えた。

 

「どうして?」

 

「──寝覚めが悪いからだよ」

 

捻り出した疑問に彼は即答する。

すると彼は直ぐに少女を、追うように走り出した。

止めようと手を伸ばすも届かない。

簪はその背中を見続ける事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新オリヒロイン登場(大嘘)

流星が拳銃を持っているのは護身用。
ISの武装として普段持ち歩いている設定。
軍人であるラウラがナイフを持っているのが許されているのとは少し違いますが、同じように許されている(気付いている楯無が黙認している)状態。
ISの拡張領域にしまったり、懐に持っていたりと状況に応じてISをポケットのように使っているという認識でお願いします。(拡張領域云々あたりから持っている設定)
ISの武装の方が遥かに強いので、そもそもの話になっちゃいます。
不意打ち用に今回は使われた感じです。


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