IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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「──、今のは?」

 

ラウラを受け止めた一夏は、直前までの不思議な体験に静かに驚いていた。

記憶は曖昧だが確かにラウラと話した。

目の前の当人はぐったりしており気を失っている。

一瞬にしてはあまりにもしっかりと会話したような気もするが、時間的にありえない。

自身はラウラを受け止めた。

それだけの筈。

白昼夢でも見たかと考えるが、そんなものでは無いととりあえず受け入れる。

 

ともあれ、ラウラが力に固執していたのも何となく伝わってきた。

ラウラの背景は細部まで理解出来てはいない。

でも、存在意義が力で決められた事のあるラウラにとっては、力というとのはあまりにも大きな価値そのものだった。

そこに千冬姉への恩と尊敬の念、憧れ。

守るものというものが分からなかったラウラにとっては、千冬姉という存在が全てだったのかもしれない。

 

なんて考え、一夏はラウラを抱え異形から離れる。

本来なら待機形態となるISは異常に異常を重ね、操縦者も無しに取り残される。

シールドエネルギーももう無い。

異形は完全に機体の形に戻ろうと──────。

 

 

 

「!」

 

爆発音が聞こえた。

同時にアリーナの壁が吹き飛び、大きな穴が出来る。

箒やシャルルも驚いたように其方を向く。

当然、教師陣も其方へ視線を向けた。

 

「っ───!クソっ!」

 

「流星!?」

 

出てきてアリーナの地面を転がる流星。

ISを部分展開していた。

左手には盾、右手にはグレネードランチャーを持っている。

身体中、切り傷が目立つ。

傷自体は浅いがその量は多い。

 

 

流星は一夏の声に反応することもない。

彼の関心はアリーナの穴の奥、そこから出てくる人影に向けられている。

 

「わたしの単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)をさいしょでしのぐなんて…」

 

それは白く長い刀を持った少女だった。

流星と同じく両手だけISを部分展開しながら出てくる。

そちらには傷はない。

人形のように綺麗な顔立ちに長い黒髪、そして緋色の瞳は何処まで澱んでいて無垢だった。

一夏はおぞましさを感じ思わず、目をそらしそうになる。

 

 

『その少女は恐らく侵入者です!2名は織斑君達の保護、1名は観客席側の護衛に!残りは侵入者を抑えてください!』

 

響き渡る真耶の言葉。

モニターしていた真耶が慌ただしく施設内のシステムを復旧させながら指示する。

その声は普段のおっとりとした様子とは真逆の緊迫したものだ。

教師の1人が合図を出した。

直ぐに一夏やラウラの元に2人の教員が降り立つ。

 

「先生、俺も!」

 

「君が仮にエネルギーを補給出来ても、疲れきっているはずです。教師に任せなさい!」

 

「くっ!」

 

教師陣の機体は合計5機。

いずれもラファールであり、異常事態に咄嗟にISを纏ってきた者達だ。

内少女に向かい合うは2機。

少女と流星の間に割り込むように1機が降り立つ。

もう1機はその上で銃口を少女に向けていた。

 

状況が膠着している中、少女は構わずラウラ達の方へ向き直った。

 

「気を付けろ、そいつは!」

 

流星の叫び声と共に上空で待機していた1機は少女を撃つ。

少女が何かしようとしているのは分かった為だった。

少女は刀でそれを切ると身を翻す。

 

───瞬間、少女の姿は跡形もなく消え去った。

 

「何!?どういう事!?」

 

レーダーにも映らず、そこにはもちろん何も無い。

動いて居るはずなのに音もその気配すら感じない。

 

 

「ねえ、わたしはここだよ?」

 

有り得ないスピードに上空のラファールは狼狽える。

消えて2秒足らず。

音も立てず少女の姿は眼前にあった。

 

かろうじて反応するが、少女は興味無さげに地面に降りた。

スラスターの一部を破壊され、ラファールは地面へ。

 

少女の姿が直ぐに消える。

 

「なっ──」

 

今度は一夏達の目の前。

教師は一斉に反応してその場へ向かうように動いた。

少女は脅威だ。

しかし一番優先すべきは、当たり前であるが生徒の安全───!

罠だと分かっている。

しかしどの道教師側に選択の余地はなかった。

少女は教師をいなすと、搭乗者無き黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)の前に出る。

 

「このシステム、もらうね」

 

そのまま機体に触れ、何らかのコードを入力。

今度は少女を媒介に再度動き出そうとする異形。

 

────腕に絡まりついた辺りで逆に少女のISに取り込まれていった。

再びレーゲンがその場に残される。

 

ジリジリとラウラを抱えながら後退する一夏はその状況を理解出来なかった。

残った教師陣も迂闊に一夏やシャルル達の傍を離れられない。

相手の能力的にもかなり近くで動かなければ守りきれないと言う判断だ。

 

「おまたせ。おしごとおわったよ、りゅうせい」

 

朗らかな口調で少女は流星へ視線を向ける。

流星は無言で構える。

今度はISを完全に展開していた。

 

対する少女もISを完全に展開している。

その機体は流星と同じく灰色だった。

スラスターは小型なものが左右に4つずつ。

小回りも効きそうな機動特化のISと見て良いだろう。

 

厳密には一対一ではない。

しかし教師陣もスラスターを破損させられていたり、一夏達を守らなければならなかったりと攻撃には迂闊に出られない。

先の消える能力は少女の技術も合わさってこそのもの。

 

流星が初見で逃れられたのは、咄嗟になりふり構わずグレネードランチャーで自爆するように逃れたからだった。

 

通路での2度目の戦闘を経て流星は改めて力量の差を思い知らされていた。

射線予想もずば抜けている。

恐らく武器も刀だけでは無いはず。

 

サブマシンガンやアサルトライフルも凌がれる。

グレネードランチャーは少女相手には基本悪手。

スナイパーライフルで撃つ隙など与えて貰えないだろう。

 

───小回りが効き、威力もそこそこの銃が欲しい所だった。

しかし無いものねだりをしても何も変わらない。

 

右手に持っていたグレネードランチャーを仕舞い、黒い槍を展開する。

 

 

「───」

 

速かった。

消える能力も何も関係ない。

ただ高速で移動し、少女は流星に斬り掛かる。

 

「っ!」

 

左手の盾で受け、右手の槍を振るう。

少女は黒い槍を踏み付け、下に逸らす。

同時に白い刀が迫る。

流星は左手のフックショットを撃ち出し、少女の腕へ。

 

少女は身を翻し避ける。

ただ刀の軌道は微かに狙ったものではなくなった。

流星は脚の力を抜き、スラスターに身を任せる。

 

白い刀は虚空を斬った。

 

体勢を立て直しながら流星は盾を仕舞いサブマシンガンを手に取る。

凌がれるのはわかっていても使わないというわけにもいかない。

少女は歯牙にもかけない。

流星は槍で防御しつつ、逃げ回るように戦う。

 

ISを纏っているというのに、拭い切れぬ死の恐怖。

クラス代表戦時の方がよっぽど怪我をしていたというのに、此方の方が恐ろしい。

懐かしいような感覚と錯覚──、振り払う。

 

 

相変わらず心の奥底は冷え切っている気がした。

 

 

ISの隙間に見える少女の華奢な身体。

──喉にナイフを──頭部に銃弾を──目を──関節部を──筋を──血管を──。

ISの有無、可能不可能、現実非現実的であるなどと言う問題は関係ない。

明確に躊躇なく、先に先に殺そうと壊そうと身体は動いていた。

少年がISを駆る姿を知る者達には、酷く動きが不安定に見える。

 

気付けば武器を切り替え、逃げ回りつつも機械的に戦っている。

相変わらず意識は少女を殺す事へしか向けられていないように見えた。

 

少女はそれが嬉しかったのか、食い入るように流星の様子を観察しながら戦っている。

相も変わらず一方的に押されているのは流星。

 

「りゅうせいってちぐはぐだね」

 

返答はない。

更識簪を背に戦う彼の姿は、何処にでもいる普通の少年にも見えた。

何処にでもいて誰かを大切に出来る感性を持った優しい人物。

 

だが、初めて見た時点から、少女を殺しにくる事に躊躇いは持っていない。

少年の攻撃は簪を守っている最中だというのに、常に少女を殺しに来ている。

それは断じて───ISがあるからという判断ではないだろう。

 

 

そして、戦いながら少女は気付く。

更識簪を守りながら戦ってはいた。

彼も守ろうとする対象はあるのかもしれない。

 

しかしながら、あの視線。

もしあの場に、──た場合──彼は────。

 

少しだけ考える。

 

 

 

本当に彼はそのような人物なのだろうか、と。

そんな事をかんがえる余裕がないだけでは無いのか、と。

 

 

結論は出ていた。

少女は満足気だ。

取り込んだVTシステムの残滓か、はたまた別の要因か、微かに少年の意識も刀を通じて流れ込んでくる。

疑問は確信に変わる。

出会ったばかりだというのに少女は理解していた。

 

 

「っっあ…っ!」

 

腹部を襲う衝撃。

白い刀による攻撃を絶対防御が防いだ故の衝撃と流星は直ぐに気付いた。

アリーナの地面を転がる。

大きく減っているシールドエネルギー。

体力も既に限界は近い。

 

「っ、はっ、はっ──!」

 

「そろそろおわりにするね?」

 

「くそ…っ」

 

仮に『黒時雨』が展開出来ても勝てる未来が見えなかった。

少女は息ひとつ切らしていない。

悲しいが力の差はやはり覆らなかった。

 

「わたし、りゅうせいのことほんとうにきにいったのよ?」

 

だからね、などと口角を釣り上げる。

頬を紅潮させ、何故か照れるようにと見えた。

 

「あなたのいちぶをもってかえるね。うでとかあしとかみみとかいろいろあるけど───」

 

悩むように考える見た目相応の少女らしい仕草。

見ているだけしか出来なかった一夏もゾッとする。

あのままでは流星が危ない。

下手に行動を起こせば自体が悪化する事しか予想出来ない。

それでも何かないかと周囲を見渡す。

緊迫した様子で教師陣がライフルをしっかり握りしめる。

一か八か仕掛けるしか無いのかと彼等もまた考えを巡らせる。

 

 

「きめた。うでにするね──!」

 

少女の姿が消える。

倒れてまだ起き上がれていない流星。

一夏は次に起こる事を危惧し、声を荒らげた。

 

 

「流星っ!!!」

 

少女の姿が流星の斜め前に現れる。

───空気を切り裂く音が聞こえた。

 

思わず目を瞑るシャルル。

しかし、誰の悲鳴も混乱も聴こえない。

恐る恐る目を開けると、呆然とする一夏がまず目に入った。

 

 

「──え?」

 

声を漏らしたのは流星。

引き金を引こうとして固まる教師陣。

───白い刀は近接ブレードに受け止められている。

ギチギチと鍔迫り合いになっている。

 

少女もまたその光景に目を丸めていた。

 

 

「そこまでにしておくんだな」

 

そこに居たのは近接ブレードを片手に持った織斑千冬(ブリュンヒルデ)だった。

 

ISは纏っておらず、いつも通りのスーツ姿。

持っている近接ブレードもただ打鉄の武装でしかない。

アリーナ内の予備武装か何かだ。

だが、その近接ブレードは白い刀を真っ向から抑えていた。

 

「ブリュン、ヒルデ。そう、あなたが───」

 

言葉の最中に少女は身体を反転させ白い刀を振るう。

小柄な身体とISの腕力を合わせた攻撃を前に、一同は焦燥に駆られる。

あくまで千冬は生身。

少女の一撃をまともに受けられる筈が───。

 

「舐めるなよ、小娘」

 

白い刀による攻撃はあっさりと受け流される。

少女もそれは予想していたのか、続けて白い刀を振るう。

先程よりも速い。

連続で3回斬り掛かる。

 

 

「──おいおい、冗談だろ」

 

流星の呟きは誰にも届かない。

金属音が彼の目の前で声をかき消すように響き渡っていた。

間近で起きる光景に目を疑ってしまう。

千冬は少女の攻撃を全て受け流していた。

 

──少女もまた驚かずには居られなかった。

 

千冬の表情は変わらない。

いつもと同じく無愛想にも見える表情。

涼しい顔でやってのけている。

 

離れて見ている一夏の表情は口を開けたまま間抜けな表情だった。

ここまでは想定外だったのかもしれない。

 

 

「───っ」

 

千冬の力量を目の当たりにした少女は距離をとる。

これが世界最強。

これが織斑千冬。

認識を改めつつ、臨戦態勢を解く。

彼女もまた驚こうが冷静であった。

 

「ここまでだね。りゅうせいがほしかったんだけど…ざんねん」

 

千冬もまた臨戦態勢を解く。

彼女の場合即座に反応出来るからということもあるが、少女側に殺意が無くなっていることを見抜いたのだろう。

 

「逃げるのか?」

 

「ええ。だって千冬ってこわい人だもの。おしごともおわったからね」

 

少女の身体が浮かび上がる。

スラスターの輝きが少しずつ増している。

少女は再度視線を流星に戻す。

ふらつきながらも起き上がる彼に対し、歳相応の曇りない笑顔を見せた。

 

「じゃあね、わたしのおほしさま。また逢いましょう」

 

直ぐにスラスターが爆発するように光を放ち、少女は上空へ消え去る。

最後まで警戒し、構える一同。

レーダーにより少女が完全に学園を去ったことを知らされると肩の力を抜いた。

そこからは完全に反応が消えたらしい。

 

ISを解き、座り込む流星。

全身浅いとはいえ傷だらけ。

千冬は彼へ向き直り、じっと見つめる。

流星はその視線に気が付き、とりあえず礼を言おうと

 

「来るのが遅れて済まなかった。よく、耐えたな」

 

突然の淡々とした謝罪に流星は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

千冬がここに急いで駆け付けたのは誰の目を見ても明らか。

だというのにそんな言葉を掛けられるとは思ってもいなかったからだ。

いや、正直分からなくもない。

彼女は恐らく教師として言っているのだ。

 

「…来てくれなかったら、俺の腕持ち帰られてましたよ。ありがとうございます」

 

どう返していいか分からない。

彼自体反応に困りながらもそう返す。

 

千冬はその返答に安心したのかすぐにいつもの調子に戻る。

 

 

なら良いとだけ告げ、呆れたようにため息を付いた。

 

「それにしても、随分厄介なのに好かれたものだな」

 

厄介なのという千冬の認識。

流星としては何か怖くて不気味でやばい奴という認識の方が正しい。

少女の言葉をどう解釈しても憂鬱だった。

 

「あー、お腹が痛くなって来た…」

 

「……胃薬を処方して貰うよう頼んでおいてやろう」

 

とりあえず千冬の優しさが身に染みる。

ラウラを教師陣に任せた一夏達がこちらに駆け寄ってくるのを尻目に彼は今一度大きなため息を付いた。

 

 

「結局、あいつの正体は分からず仕舞いってことか?」

 

「ええ。あの後色んな手段を使ったけど影も形も見られないわね…」

 

「完全なステルスって事か。なんでもありだな」

 

「一応熱源は微かにだけど、隠しきれないみたい。広範囲を調べみるようなものでは無理だけど、学園に索敵範囲の狭い専用機器をいくつも置けば───」

 

「それ追うのは基本無理って事だよな……」

 

楯無の説明を前に流星は椅子に腰をおろす。

全身ガーゼだらけの不格好な姿であり、本人も煩わしそうにしている。

 

場所は寮の自室。

まだ夕食も摂っていない状態だが、血塗れの制服から私服に着替えるために部屋に戻ってきていた。

その際部屋でばったり出くわした楯無と情報交換。

ラウラのVTシステムのことも含めてだった。

勿論、あの少女に関しては箝口令が敷かれていたが楯無は知っている為問題ない。

箝口令が敷かれた理由はただ1つ。

学園の不手際と追及し、各国が押し掛けてくるのを避ける為だ。

 

 

血相を変え、最初に簪の安否を聞いてきた楯無の顔は忘れられない。

無事と知るや否や安心して座り込んだ姿なんて本人に見せてやりたいくらいのものだった。

 

 

「───ごめんね、そしてありがとう。簪ちゃんを守ってくれて」

 

力なく笑って礼を言う楯無。

恐らく楯無は敵の侵入を許しあまつさえ妹や他の生徒達を危険に晒してしまった事に責任を感じているのだろう。

 

探知出来ない、凄まじいまでのステルス機能を持った敵。

こうなった以上、微かな熱源を探知する事等で対策を固める事は出来る。

しかし無理だ。

初回で防ぐ事など不可能だった。

あんなものを想定出来る訳がなかった。

 

「楯無の責任じゃない。あんなものどうにもならないだろ」

 

「ふふ、ありがとう。でも流星くんや簪ちゃんを危ない目に合わせちゃったのは事実だから…。私も最近甘え過ぎてたかもね」

 

「…」

 

責任を感じているのは露骨に伝わってくる。

ただ流星はそれに対する最適な返答を持ち合わせていなかった。

 

「ただ、このままでは済まさないわ。そのうち報いは受けさせるわ」

 

「…闘志燃やし過ぎて空回りはするなよ、お姉ちゃん」

 

自身より強く優秀であるとはいえ、不安は拭えない。

妹も関わっていたとなると楯無が冷静さを欠く可能性も大いにあった。

皮肉混じりにした苦言に、楯無は一言『大丈夫』とだけ。

 

楯無は再度口を開く。

先程と少し空気は変わる。

世間話でもするような気軽さで楯無は流星にある事を告げた。

 

「そう言えば流星くん。暫くは外に出ても大丈夫になったわよ」

 

「ああ、分かっ───は?」

 

思わず声が出てしまった。

流星は楯無の言葉をもう一度脳内で反芻する。

楯無はその様子を見ながら補足する。

 

「前に襲ってきた連中…覚えてる?」

 

「ああ」

 

「あれからひたすら調べた結果、女性権利団体が怪しいってなってね」

 

「女性権利団体…」

 

読んで字の如し。

知らない人などほぼ居ない。

文字通り権利を訴えたりする活動団体とも言うべきなのだが、これがまた無視できない。

ISによって女尊男卑の価値観が生まれ、それにより飛躍的に力を持った組織。

また、逆に女性権利団体が成り上がった事で女尊男卑が加速したという事もある。

慈善事業を行うだけの団体なら良いのだが、ここ最近はロクな噂や主張を聞かない。

選民思想の人物が集う危険集団とでも言うべきか。

 

現状の価値観を揺るがしかねない男性操縦者など、彼女らからすれば許せる存在では無いのだろう。

正確には流星のみ。

織斑千冬を崇拝している奴らもいる為、弟である織斑一夏は特別視されているのか、はたまた何かが彼を守っているのか。

 

そんな女性権利団体の差し金が、あの男達。

良いように使われているのだろう。

 

「だからちょっと牽制してきたのよ。細かく言えないけど、下手に動けば疑いを強めるってね」

 

「それって楯無は大丈夫なのか?お前も標的にされたり…」

 

「私はあくまで学園側として仄めかしただけだから大丈夫よ。学園側の人間も連れていったし。───今回の襲撃は恐らく別件ね…」

 

あんまり効果はない可能性もあるけど、なんて疲れたように楯無は呟く。

しかし楯無がその上で外出しても問題ないと判断した。

それは流星のISの操縦技術や能力を加味して考えたのだろう。

 

───今回の件については、楯無は深く語ろうとしなかった。

心当たりがある、とまでは行かないが更識家として狙われた可能性が高い。

楯無の起こしたアクションに対しての女性権利団体からの報復と考えるには行動が早すぎる。

それに女性権利団体がISを駆使し、学園に仕掛けるような事はないと楯無も考えている。

 

 

あの少女は、ついでと言った。

VTシステムの回収が本命であったようだ。

今回暴走を予期していたのか偶然被ったのかは分からない。

 

ついでとはいえ、その気になれば簪を殺すことなど容易かった筈。

別段少女にとってはどうでも良さそうだった。

頼まれたとも言っていたあたり、頼んだのは組織ではなく────。

──私怨。

そのような単語が、脳裏を過ぎる。

 

「外出の件、ありがとう。益々頭が上がらないな」

 

「当然よ。生徒を守るのが生徒会長だからね」

 

流星は礼を告げ、部屋のドアに手をかける。

確証もなく、どうにも出来ない以上下手に聞くべきではない。

 

何故か気分が悪かった。

理由は分からない。

 

部屋を出ていこうとする流星。

気を紛らわす為か、振り向きながら楯無を夕食に誘う。

彼女はもう食べた旨を聞くと、流星は1人食堂に向かった。

 

 

 

 

「流星、前空いてるか?」

 

聞き慣れた声にカルボナーラを食べる手を一瞬止め、正面を見る。

目の前には制服姿でトレーを持った一夏が立っていた。

 

「ああ、今一人だから気にしなくていい」

 

「じゃあ遠慮なく」

 

一夏は流星の対面に腰をかける。

彼のトレーの上にあったのは鯖定食。

一夏は自然と流星の食べているものを見て言葉を発した。

 

「カルボナーラ美味そうだな。っていうか流星もパスタ食べるんだな」

 

「何だ?意外なのか?」

 

「ああ、結構定食食べてるイメージだな」

 

「何のイメージだよ。そういう一夏は…鯖定食か。なんかイメージ通りだ」

 

「流星こそどういうイメージだよ、それ」

 

他愛ないやり取り。

2人とも先程まで色々あった為、疲れは双方に見られた。

大きな欠伸をしつつも、一夏は話題を切りだす。

 

「トーナメント。中止だってな」

 

「よく分からんシステムの暴走に侵入者。対策とか後始末で皆忙しそうだし、そうなるか」

 

「…確かに山田先生が走り回ってたような気がする」

 

「先生達も楽じゃないな」

 

他人事のように呟く流星。

彼自身は生徒会の仕事も増え、忙しくなる事から目を逸らしている。

どこか遠い目で虚空を見ていたが、直ぐに食べる事を再開する。

一夏は視線を流星に移す。

 

 

「流星。怪我大丈夫か?」

 

「お互い様だろ?俺は大丈夫だよ」

 

心配そうに尋ねる一夏。

流星としては怪我をした一夏に言われるとは思っても無かったらしい。

少し意外そうだった。

 

「そんなことないだろ。傷だらけだぞ流星」

 

「かすり傷だ」

 

「それに切り傷だけじゃないだろ?」

 

一夏の言葉に流星の食べる手がピタリと止まる。

訝しむ流星に一夏はあっけらかんとした様子で言ってのけた。

 

「手。捻ったのか分からないけど食べにくそうだったからさ。ああ、だからカルボナーラなのか。フォークの方が楽だもんな」

 

「………」

 

1人納得する一夏を流星は有り得ないものを見る目で見ていた。

別に頑張って隠していた訳では無い。

ただ違和感なく食べていた筈なのに気付かれた挙句、カルボナーラの理由まで見抜かれるとは思わなかった。

──多分、織斑一夏が相手でなければ彼もそこまで驚かなかっただろう。

 

「え?どうして警戒してるんだよ、流星?」

 

「…本物、だよな?」

 

「本物だ!」

 

流星は露骨に座り直して距離を取ろうとする。

一夏は慌てて訴え、流星もしぶしぶ納得する。

まだ文句を言いたげな一夏だったが、言葉を呑み込む。

 

「とにかく無茶はするなよ、流星。のほほんさんや鈴に怒られても知らないぞ」

 

「お前だけには言われたくないな。聞いたぞ、VTシステムに態々エネルギー補給して貰って挑んだんだろ」

 

「あれはその!無茶じゃない…と思う。勝算があったし、俺がそうしたかったんだよ」

 

「──そうだな。なら良いさ」

 

以前のように切羽詰まり無茶をしようとしている訳では無い。

恐らく自身ができる事の中で1番やりたい事をやった結果なのだろう。

それは普段通りの調子で告げる一夏を見ていると理解出来た。

着実に一歩ずつ前進している。

何処か流星は、羨ましそうに見ていた。

 

「一夏。以前話した近接ブレードの練習なんだけど───」

 

この後、真耶が大浴場の事を知らせにくるまで、2人は談笑しながら夕食を続けていた。

 

全身切り傷だらけの流星が拒否し、一人入っていた一夏のもとに乱入者が現れる事になるのだが、彼が知る由もなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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