IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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抹茶のカップケーキ事件から一夜が明けた。

朝練どころか朝起きた段階から更識楯無はガタガタであった。

ボーッと虚ろな目で覇気もなかった。

心ここに在らずといった様子で朝の支度を済ませ、先に生徒会の用事の為に登校していく。

時折ブツブツ簪ちゃんとつぶやく様など完全にホラーだった。

一夜明けたというのに、むしろ重症化している。

 

一応、学校に着いた途端キリッといつもの調子に戻った。

生徒会長モードとでも言うべきか、流石の筈だが不安で仕方ない。

肝心の仲直りも、楯無に踏み出す勇気がないのは丸分かりだった。

これ以上空回りするのを恐れているのだろう。

 

 

流星は学園について直ぐに整備室に向かった。

HR開始まではまだある。

遠回りにはなるが仕方ない。

 

整備室の扉を開こうとしたところで気が付いた。

 

「鍵が掛かってる…?」

 

一瞬誰も居ないのかと思ったが、そうではない。

整備室の奥の方に明かりが見えた。

となると答えは一つ。

 

内側から閉められている。

 

「…」

 

向こうも授業には間に合うように出てくる筈だ。

整備室の扉の横にもたれ掛かり、整備用の専門書を開く。

待つこと20分程。

程なくして、扉が開く音がした。

 

「簪」

 

「…」

 

出てきた簪は流星の存在に気が付く──が、顔を背け歩き出す。

流星は彼女を追い抜き前に出た。

顔を上げ、簪は流星を一瞥するとすぐにその横を通り抜け歩いていく。

 

再度追い抜き前に出る。

今度は立ち塞がるようにして話をしようとする。

 

「…話し掛けないで」

 

「謝る位はさせてくれ」

 

「要らない。だから話し掛けないで」

 

キッパリとそう言うと簪は再度流星の横を通り過ぎる。

取り付く島もないとはこの事か。

 

「簪っ」

 

だが、と流星が再度話しかけようとしたところで簪が振り返った。

先程よりも睨み付けるような表情。

流星の言葉が止まる。

同時に、パァンッと音が廊下に響き渡った。

 

「二度と、話し掛けないでって…!言った…っ!」

 

興奮気味に言葉を紡ぐ簪。

彼女はそれだけ告げるとその場を走り去る。

 

遠目だが、その様子を見ている人間は居た。

唖然とする野次馬、視線はその場に残った流星へと集中する。

別段流星がそれを気にする事はない。

ただビンタされたのは想定外だった。

避ける事も出来たがそれをする気もない。

 

「…」

 

溜息をつく。

昨日の今日。

配慮が出来ていなかったと言われればそれまでだが、事態は思ったより深刻そうだ。

一組の教室へ向かう。

 

流星が教室に入ってすぐ、視線が彼に集中した。

別に遅刻した訳でもない。

元々ザワついていた教室だが、流星が来た瞬間更にザワついた。

流星自身察しは付いた。

不機嫌そうに自身の席に向かう流星の前に、鈴が現れる。

2組から来たのだろう。

彼女は流星の顔を見ながら目を細める。

横から驚いた表情の本音も駆け寄ってくる。

 

 

「あんた、それどうしたのよ」

 

「…何の話?」

 

「いまみー、その頬っぺたどうしたの?」

 

「頬っぺがなんだって?」

 

すっとぼけながら流星は席に座る。

内心は今後どうするかをぼんやりと考えている最中だ。

自身の鞄を雑に机に起き、視線を2人へ向ける。

訝しむ様な視線を向けてくる2人。

 

「赤くなってるよ?」

 

「外、暑いからな」

 

「紅葉、出来てるけど…」

 

「季節を先取りしてるだけだよ」

 

淡々と答える流星。

決してまともに取り合わないあたり、答える気はないのだろう。

そう理解した2人は視線を一瞬合わせ、頷く。

再度流星に視線を戻した。

彼は参考書を開き、読み始めている。

 

「いや、どう見てもビンタの痕でしょそれ」

 

「そう見えるだけだ」

 

「──かんちゃん、だよね?」

 

本音の言葉に流星は参考書を閉じる。

知っていたのか、そう言いたげな視線を前に鈴が応じた。

 

「──噂になってるのよ。あんたが簪を捨てたとか何とか」

 

「…は?」

 

思わず声が出た。

顔を引き攣らせる流星に鈴は腕を組んで説明する。

 

「昨夜、あんたの部屋の方から泣きながら走ってくる更識さんを見たーって人が居たみたい。いつの間にか色んな噂になってて───1組では仲違いしたって噂が主…というか変に騒ぎ立てては居ないわね。でも、流星がいない2組や3組…後何だかんだで4組も……まあ酷いわよ?」

 

鈴がゲンナリした様子で言うあたり、彼女も噂をよく思っていないのだろう。

本音もそれを鈴から聞いていたのかあまりいい表情ではない。

2人が噂を信じて聞いてきた──訳ではないのは明白だった。

むしろ心配して様子を見に来たら、頬に紅葉を貼り付けた流星に出会ったという流れだろう。

 

細かく聞く気も起きなかった。

流星は鈴に一つだけ質問を投げかける。

 

「その噂に、簪を悪者にするようなの無かったか?」

 

「まあね。一応泣いてる側なのと、簪が大人しいタイプなのは知れ渡ってるし……」

 

「鈴や本音が関わってるみたいな話は?」

 

真面目な様子で聞かれ、鈴と本音は目を丸める。

完全に想定外だったのか、反応が少し遅れた。

咳払いをしつつ、不謹慎ながらも感じた嬉しさを誤魔化す。

 

「無かったわよ」

「無かったよー」

 

「───なら良いか」

 

興味を失ったように参考書を再度開く。

その様子に疑問を持ったのは本音だった。

 

「いまみーは怒らないの?」

 

何に対してかは言うまでもない。

謂れもない事を好き勝手言いふらされている。

その事にその人物達にその理不尽に異論を唱えないのかという質問だ。

流星は視線を本音に戻す。

 

「怒っても仕方ないだろ。原因はあくまで俺側だし、解決すれば勝手におさまる」

 

解決するビジョンが見えていないが──とは口に出さない。

それ所ではないというのが事実としてそこにはあった。

 

「そっか…」

 

本音もそれ以上は尋ねなかった。

鈴も溜息を付きながら背を向ける。

 

「───良いわよ。じゃあ(あたし)は理由を聞かないわ」

 

「?聞きたかったんじゃないのか?」

 

「そりゃあ何かあったか知りたいわよ。けど、流星が話さないって事は少なくとも簪の為でもある訳でしょ?───だから、簪から直接聞く事にするの」

 

鈴はそうとだけ告げると1組の教室から出ていく。

その背を見ながら、流星は顎に手を当て呟いた。

 

「…男前ってああいうのを言うんだな」

 

「りんりんにもビンタされるよ、いまみー」

 

本音が呆れたような視線を向ける。

素知らぬ顔で流星はやり過ごした。

 

同時になる朝のSHR前の予鈴。

もうそんな時間か、とクラスメイトが慌てて席に戻る。

同様に席に戻ろうとしていたラウラが、流星の顔みて得意げな顔で口を開く。

 

「それは…紅葉だな。私も写真で見た事があるぞ」

 

「もしかして、喧嘩売られてるのか俺」

 

困惑する流星。

彼としてはついつい軍人であるラウラには、他よりトゲのある言葉になってしまう。

ラウラは特に気にしていない。

流星自体も言い方こそアレだが、ラウラの発言に特に不快感を示すようなことは無い。

 

「そう言うな。似合ってるぞ」

 

「やっぱり喧嘩売ってるよな」

 

「?わざわざ喧嘩を売る理由もないだろう」

 

ラウラもまた、すぐに席に戻る。

あれは天然だと理解しつつも、流星は渋い顔をする。

やはりやりにくいというのが大きいのだろう。

 

本音も心配そうな顔をしながら席に戻っていった。

──本音の様子からするに、本音自体は理由を既に知っていそうだ。

 

すぐに入ってくる真耶と千冬。

一瞬流星の顔を見てぎょっとする真耶だったが、下手に触れてはいけないと思ったのかいつも通り挨拶から始める。

千冬はいつも通りの落ち着いた様子だった。

ふと思う疑問。

千冬は千冬で一夏との距離感に悩んだ事などはあるのだろうか。

千冬と一夏の性格上、想像はつかない。

 

楯無と違い、案外弱みを見せているのかもしれない。

───家事が出来ないとか。

 

ギロリと千冬の視線が流星に向けられる。

読心術でも身につけてる可能性がある。

思うだけくらい構わないはず、と流星は口を尖らせる。

 

真耶からの幾つかのお知らせがあり、授業が始まる。

 

珍しくあまり集中出来なかった。

 

 

「…おいおい」

 

昼休み、場所は廊下。

昼食を購買で買い終えた流星は教室に戻ろうとしていた。

頬の紅葉はとっくに消えている。

そんな中、簪を待ち構えている楯無を見つける。

同時に、そこへ現れる簪。

とりあえず、ややこしい事にならないように流星はすぐ角に身を隠す。

 

謝ろうと話しかける楯無。

簪は姉に対し警戒している様子だった。

怒りも感じられるが、朝よりは戸惑いが見られる。

まさか話しかけられるとは思わなかったのかもしれない。

 

話しかけられた段階で半歩後ろに引いている。

楯無はそれがショックだったのか、言葉が途切れ途切れ──というよりしどろもどろで何が言いたいか分からない。

すぐに言葉が途絶えた。

俯く楯無を前に簪は立ち去る。

残されたのは立ち尽くす楯無。

 

一先ずの課題は分かった気がした。

楯無に元気を取り戻して貰わなければ話にならない。

普段通りでもまともに話すのが厳しいのに、凹んでいる状態では不可能もいいところだ。

 

踵を返す。

携帯を取り出し、連絡先一覧を開く。

名前を見て一瞬迷う。

───黛薫子(まゆずみかおるこ)

普段生活をしているとたまに楯無の口から出てきたりする名前。

仲が良いのは知っている。

 

すぐにメッセージだけを送信。

昼休み終わりまでに返信は来た。

とりあえず、話は聞いてくれるらしい。

放課後に会う約束をした。

 

 

 

 

───午後の授業も終わり、放課後。

会う約束をした場所は屋上。

薫子の片手には取材用の道具がある。

 

表向き上は噂についての取材。

場所は聞き耳立てにくい開けた場所。

そうする事で遠慮なく話せるよう配慮してくれたようだった。

勿論、取材用のマイクにも電源は入っていない。

頭が上がらないとはこの事か。

 

「こうして面と向かって会うのは久々かな?学園内で見掛ける事はチラホラあったけど」

 

「そうですね、クラス代表決定戦以来じゃないですか?相談に応じてくれて助かります、黛先輩」

 

突っ込まない。

此方が薫子を学園内で視認した記憶が無い等この際触れないようにしておく。

 

「───それで、たっちゃんの事だよね?」

 

薫子の空気がガラリと変わる。

いつもの緩い感じから真剣な様子へ。

 

流星は相談がしたいと伝えていただけだった。

驚きはしない。

楯無がボロを出したと言うよりは、薫子が見抜いたと見るべきだった。

 

「ええ。楯無…あー…、更識先輩の──」

 

「別にいつも通りでいいよ。歳は同じなんだし、なんなら私を薫子と呼んでくれても───」

 

「嫌な予感しかしないんで遠慮しますよ。それで、楯無の事なんですけど────」

 

と、内容を掻い摘んで説明する。

とりあえず説明しても良さそうな部分だけを選び、事の顛末を伝える。

 

隠す理由も無かった。

楯無の事だと見抜いているのなら、流星の噂との関連性も分かっているはず。

新聞部故に噂などには恐らく敏感だという判断もあった。

一通りの説明を終えると、薫子は納得した様子で頷く。

 

「通りで今日のたっちゃん元気無かったんだ」

 

「やっぱり気付いてたんですね」

 

「そりゃあね。他の人は騙せるかもしれないけど、私の目は誤魔化せないよ。───それで流星君はたっちゃんに元気をとりあえず取り戻して貰おうと思っていると───」

 

「はい、そうなります」

 

話が早い。

これなら、期待出来そうだと流星は確信する。

直接、楯無と簪の仲についての相談をしなかった事には勿論ワケがある。

完全に背景を説明し切れないという理由と、あくまで当事者だけで解決した方が良いという判断。

薫子も楯無の事だからなのか、下手に首を突っ込もうとはしなかった。

 

 

「なら、これを授けよう。たっちゃんならこれで1発だよ」

 

───と、薫子は懐から封筒を取り出し流星に手渡す。

相談内容まで予想していたのか、明らかに用意されていた事に流星は苦笑い。

中身を確認しようとして、中を探る。

 

 

出てきたのは数枚の写真で─────。

 

 

「────なっ」

 

思わず言葉を失った。

出てきたのは簪の写真──だけならまだ良いのだが、趣向がおかしい。

どれもアングル的に絶妙で何とも際どい写真ばかり。

 

ちらりと薫子に目をやると、楽しげに笑う。

いやぁ何度か機会があったからね───何も突っ込むまい。

何故か下着姿の簪の写真まであった。

顔を抑える。

頭が痛い。

心の中で簪に詫びを入れる。

 

最後の写真だけは少し皮肉地味たものがあった。

簪を隠れて見ているのに必死な楯無も含めて撮った、一枚。

楯無と簪の関係性がある種現れている。

そして、その端に書かれているメッセージ。

それを読んで流星は納得する。

 

悔しいがこれらを纏めて渡すのが早いだろう。

流星は溜息を付き、封筒に写真を戻した。

 

 

「これ受け取ったら、俺の罪状増えそうなんですけど」

 

簪にでも見付かればどうなる事やら。

有り得ない可能性ではあるが、想像したくない。

そもそも誰かに見付かること自体考えたくもなかった。

本音、鈴のドン引きする表情が目に浮かぶ。

 

 

 

「罪状どころか、見付かれば一発アウトだよ~。今の世だともう表を歩けなくなったり」

 

「冤罪…でもないですね。そういうのも気を付けますよ」

 

流星は封筒を、懐へしまう。

こんな危険物を持っておきたくないという思いは当然あった。

何時になく懐にしまったものを意識してしまう。

 

 

「しかし、流星君がたっちゃんと仲良くしてくれてるみたいで安心したよ」

 

「仲が良い、んですかね?俺が合わせてもらってるだけの気がしますけど」

 

「──だってたっちゃん、わざとらしい隙は見せても弱味はあまり見せないでしょう?流星君にはそれを見せている。仲が良いからだと思うよ」

 

「そういうものですか?」

 

「そういうものだよ」

 

笑顔でそう答える薫子。

そこに面白がるような感情は見られず、微笑ましいものを見る目だった。

 

──それじゃあ、とそのまま去りたい流星だったがそうはいかないことなどわかっている。

持ちつ持たれつ。

そう以前に薫子が言った事を覚えていた。

心底嫌だが、仕方がない。

快く協力してくれた薫子を無下に扱えなかった。

 

「───それで、何をすればいいんですか?」

 

「おっ!流星君も記者の扱いが分かってきたみたいだね〜」

 

「喜んでいいんですかそれ」

 

「勿論。じゃあまずは─────」

 

取材用のマイクのスイッチが入れられる。

 

流星は覚悟を決め、薫子の気が済むまで取材に応じる事にしたのだった。

 

 

 

 

20時半。

ガチャリと寮の部屋の扉が開いた。

落ち着かず、椅子に座り本を読んでいた楯無の視線が入口に向けられる。

入ってきたのは予想通り、同居人の流星だ。

 

「……、疲れた…」

 

珍しくだるそうにしながら、ベッドに自身の鞄を放り投げる。

そしてそのままベッドに腰をかけ、仰向けに倒れ込むように寝転んだ。

その様子に違和感を覚える。

 

「流星くん…?」

 

いつものようにかける軽口が思い付かなかったのか、楯無は静かに声を掛ける。

流星は視線だけ楯無に向けた。

 

「あぁ、ただいま……。慣れないことはするもんじゃないな」

 

「慣れないこと?」

 

楯無が首を傾げる。

流星は相も変わらず覇気のない楯無を前に、少し考え込む。

3秒程の考え込んだ後、流星は身体を起こした。

心底嫌そうな表情で懐から封筒を取り出す。

 

そのままベッドから立ち上がると、楯無の座っている対面の椅子に腰をかけた。

 

テーブルに封筒を起き、お茶を入れる。

直ぐにそれを飲み干し、一服すると楯無へ視線を戻した。

 

「これは?」

 

「お前が元気になるもの…らしいぞ」

 

「?どういう事?」

 

「まず中身を確認してくれ」

 

流星に促され、楯無は封筒をあける。

中から出てきた写真に疑問を持ちつつも、それらを全て確認する。

 

ピタリと楯無の動きが止まった。

 

 

「こ、これは───!か、かか簪ちゃんの超レア!トップシークレットな写真────っ!!?」

 

「おい、顔。ヤバいことなってるぞ、オイ」

 

既に楯無の表情は口の端が緩み切り、ニヤついた気持ち悪いものになっていた。

予想以上の反応に流星は顔を引き攣らせる。

──シスコンを拗らせるとこうなるのか。

 

「ふ、ふふふ。これは良いわ!最高よ!ほら見て流星くんこれなんて簪ちゃんの可愛さをふんだんに詰め込んだ感じが出ていると思わない?普段目立たないけどこの肌の綺麗さとかこの無意識な感じとか内側に跳ねてるくせっ毛もやっぱりチャームポイントよね!この眼鏡型ディスプレイの色合いも似合ってるし何よりこのアングルから見える───────ふふ、ぐふふふ」

 

「……ぐふふとか初めて聞くよホント。涎、ヨダレ出てるって。きたねぇから拭け」

 

「はぁっ、はぁっ、思ったより刺激の強い写真が多いわね───!」

 

「──頼むから人として最低限の威厳くらいは守ってくれ」

 

効果てきめん───なのだが、想像していた百倍は気持ち悪い。

流星の口が裂けても直接言うことは無いだろうが、美人が完全に台無しになっていた。

涎までタレかけれている。

 

最愛の妹に拒絶され、凹んでいたところに供給される妹成分。

それも楯無すら絶賛する写真もとい芸術品。

それらは楯無のシスコン部分を暴走させ、強制的に彼女に活力を取り戻した。

数多の尊厳を犠牲にしていたような気がするが、と流星もう考える事を放棄した。

暫く放置していようと決め、視界になるべく楯無を映さないように参考書を開く。

息を荒くし、写真を漁る楯無。

 

 

───もうこのまま簪に近づけさせない方が良いのかもしれない。

 

 

 

 

暫くして、楯無は最後の写真を見る。

 

「────」

 

瞬間、彼女の表情が変化した。

緩みきった表情から一点。

何かを理解したように優しい微笑みを浮かべた。

 

「そっか…それならこうなっちゃうわよね…」

 

最後の写真の右端に書かれたメッセージを見て、苦笑する。

 

『たっちゃんの事も伝えないと駄目だよ』

 

それは見守るばかりで歩み寄らなかった楯無への言葉。

だからこそすれ違いは起きた。

コチラだけ一方的に把握して、向こうにはそれをさせない。

向こうの気持ちも考えず、姉として格好だけつけ続けた。

当然過ぎる結果だ。

 

「流星くん、ありがと」

 

書いた人間も想像がついた。

恐らく流星はこの為に彼女に連絡を取ってくれたのだろう。

 

「今度こそちゃんと、簪ちゃんと話し合ってみる」

 

暗いものはもうない。

そこにはいつものように元気な更識楯無の姿があった。

 

意気揚々と扇子を開く。

そこには復活の2文字が書かれていた。

流星はなるべく参考書から目を離さず、抑揚のない声で返事をする。

 

 

「───あの、俺に話し掛けないで欲しいんだけど、更識さん」

 

「まさかの拒絶───!?」

 

「自分の胸に手を当てて考えろ馬鹿」

 

流星はこめかみに青筋を立てて吐き捨てる。

それくらいで引き下がる楯無ではなかった。

楯無はわざとらしく胸元を少しあけ、下から腕で持ち上げるようにして強調する。

 

「胸に手を当てろってー?流星くんってばえっち」

 

「当ててるの腕だろそれ」

 

「何?いつも通りではあるけど、反応薄い流星くんってもしかして不能なの?」

 

流星の薄い反応にいじけながら呟く楯無。

抗議する気も起きなかったのか、流星は黙々と参考書を読み耽る。

その様子を眺めて数秒。

楯無はある事に気が付いた。

 

 

「そう言えば───」

 

声のトーンが明らかに下がる。

楯無はジト目で流星を睨む。

 

思い当たる節はある。

思わず流星は再度激しい頭痛を覚えた。

 

 

「───流星くんは簪ちゃんの写真見たのよね?───ねえ、答えないと酷いわよ」

 

 

───もう一悶着有りそうだと、流星は虚ろな目で天井を見上げた。

 

 

 

 

 

 




シリアスの塩梅が難しい…。
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