IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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「成程、それはアイツが悪いわね」

 

鈴はそう呟きながらため息をついた。

時間は放課後。

場所は整備室の一角。

簪の専用機を前に、簪、本音、鈴の3人はいた。

 

俯きながら暗い表情の簪の背を本音は宥めるようにさすっている。

実はというと、簪から話を聞くのも一筋縄ではいかなかった。

流星の件により、簪は専用機開発の残りを1人で行おうとした。

それを予想していた本音と鈴は整備室に先に潜り込み、簪を待ち伏せ。

 

彼女が現れたところで説得を始め、小一時間。

何とか話を聞く所まで持っていったのだった。

 

もっとも、流星の時とは違い簪も時間が経ち少し冷静になっているのも作用した。

1番は彼女らが第三者であるという点。

鈴はともかく、本音が第三者と信じて貰うのには少々時間が掛かったのは言うまでもない。

そんなこんなで胸の内をポツリポツリと漏らすように簪は一昨日の出来事を話したのであった。

 

そして、先の鈴の台詞に辿り着く。

流星は恐らく言う必要がないと考えていたのだろう。

そんなことは鈴も理解している。

だが、言わなかった場合このようなすれ違いが起こると予想出来ただろうに。

 

簪が自室を訪ねる発想自体無かったのだろうか。

何が1番悪いかと言われれば間が悪い可能性もある。

今簪側の事情しか知らない鈴ではそこまでは断定できない。

本音は背景を知っている為、大体の推測は出来ていた。

 

「それで、かんちゃんはどうしたいの?」

 

「え……?」

 

「かんちゃん、何か後悔してるって顔してたから…」

 

「それ、は……」

 

──自分にも分からない。

出来ればあのような事など無ければ良かった。

それくらいしか簪には考えられない。

あんな事があった上で、拒絶した上でそのままなど都合がいい。

第一簪は今、流星の事を信じられずにいる。

 

「…わ、分からない」

 

辛うじて絞り出す。

簪の心の内を聞いた鈴や本音もそれ以上下手に聞き出そうとはしなかった。

 

 

ただ、本音は意を決したように静かに話し出す。

 

「──かんちゃん、あのね。一つだけ知っておいて欲しい事があるの」

 

「?」

 

「クラス代表決定戦が1組であったのは知ってるよね?」

 

「う、うん?」

 

どうしてそのような話を?

首を傾げる簪、鈴も黙って本音の話を聞きに入る。

本音も誤解を招かないよう、なるべく直球に内容を伝える。

 

 

「あの時いまみーが決闘を受けた理由。かんちゃんの事を馬鹿にされたからなんだよ」

 

「…え」

 

有り得ないと簪は眉を顰める。

 

「…嘘。だってあの時私と今宮くんはまともに話した事も─────」

 

「───『アレを身の程知らずと片付けられるのが嫌だった』、って言ってたよ。いまみーは会長絡みでもなく、ただ単純にかんちゃんの努力を否定されたくなかっただけみたい」

 

「───」

 

「だから、いまみーがかんちゃんに関わった発端に会長は関係ないと思う。それだけはかんちゃんに分かっていて欲しい」

 

簪は困惑する。

会って間も無い頃の流星がそんな動機で戦っていたとは夢にも思わなかった。

しっかりと話の流れを聞いた事はなかったが、クラス代表決定戦の流れは会話に途中から流星も割って入ったと言う事は知っている。

そして、以前セシリアに謝られた事がそれを裏付けているのだろう。

 

初めて知った理由に、簪はどう受け止めていいか分からなくなっていた。

 

だとすれば、今回の件は勘違いの可能性もあるのだろうか。

 

発端はそうだとしても結局はそれだけ。

流星への疑念は消えない。

 

「──そう…」

 

どの道もう取り返しは付かない。

簪は返事だけすると、すぐに機体に向き直る。

 

黙々と専用機開発を再開する。

答えがすぐに出るわけも無いと分かっていた2人は、簪の作業の手伝いを開始した。

 

 

──そして、更に1時間経過した。

 

作業も一区切り。

とりあえず機体は完成間近という状態に。

3人は近くに置いた簡易式テーブルで一息つく。

 

「もうすぐね」

 

「だね!もうすぐだよかんちゃん」

 

「う、うん」

 

機体を見上げながら思いを馳せる簪。

ここまで来るのに色々あったなんて感傷に浸りながらも、やはり心は晴れなかった。

簪の表情から察する二人。

どう言葉をかけようか、そう悩んだところで声が聞こえた。

 

 

 

『簪ー!ここに居るのか!』

 

「っ!」

 

扉の外から聞こえる流星の声に簪がビクリと驚く。

すぐに状況を飲み込むと、扉の方から顔を背けた。

 

「返事しなくていいの?」

 

「会いたくないから…」

 

「そう」

 

と、鈴は反論もなく納得する。

本人が会いたくないと言っている。

となれば鈴達がわざわざ返事をしたり鍵を開けたりして流星を入れるのは、野暮というもの。

冷たい話だがここは当人同士で解決しなければ意味がなかった。

ここで鈴達が深入りすると簪を傷付けてしまう可能性が高いこともある。

 

鈴は視線を扉へ戻す。

小刻みに聞こえるノック。

3人がいるのは整備室の奥の方。

作業中ならば聞こえない程度の音でしかなかった。

暫くすれば諦めるだろう、そう考える簪は意識を扉に向けないよう努めている。

逆に本音や鈴はリアクションには出さず耳を傾ける。

 

今整備室には3人しかおらず、ゆっくり休憩していた事もあり静かであった。

入口側が二重扉の構造になっており、鍵が閉まっているのは内側のみ。

内側の扉の都合、少し入り組んでおり声は内側から外への音に比べると響いて聞こえやすい。

その為だろう。

 

 

『───強硬手段しかない、か』

 

やけにトーンの低い声。

本音と鈴は何やらやけに物騒なことを聞いた気がした。

顔を思わず見合わせ、理解に至った時には遅かった。

 

 

「「!?」」

 

「え!?」

 

扉に斜めの線が入った。

右からと左からと交差する線。

あっさりと斬り裂かれ、扉は形を保てず床に散乱するように崩れ落ちた。

 

崩れ落ちる扉の破片も綺麗に斬られた為か、あまり大きな音は立たない。

予想外の犯人の行動に3人は反応出来ずにいた。

 

扉を斬り裂いた犯人───流星はISを右手首だけ部分展開しており、対IS用ナイフをその手で握っている。

すぐに部分展開を解除した。

扉の残骸を踏み越え室内に入る。

 

静かに簪達の方へ歩み寄り、流星と簪は向き合う形になった。

距離的には少し遠い。

簪達から大きく数歩離れた位置で流星は声を掛ける。

 

 

「───話したい事がある」

 

「…話す事なんてない」

 

ハッキリとした拒絶。

簪の目は正面から流星を見据えている。

もう信じられない。

だからこそ、もう惑わされるのは御免だった。

 

「ならこれは、独り言だ」

 

と、流星はわざと目を逸らし続ける。

会話ではなく一方的な言葉と強調する為だった。

簪も特別相手する気はない。

ただ、この状況で耳を防ぐような発想もなかった。

例え逃げ回っても、また同じ状況になるだけだと分かっているのもある。

そう思わせるだけ、今回の流星の行動は意外だった。

 

「別に俺を信じてくれなくてもいい。仲良くしてくれとも言わない。ただ1つ伝えたい事がある」

 

「───それは、なに?」

 

眉を顰め訪ねる簪。

 

流星が簪を騙していた訳じゃないという事だろうか。

姉が状況をコントロールしていた訳では無いということだろうか。

 

幾つか思い浮かべる、が今は言い訳にしか聞こえない。

どのように真実を伝えようとしても、完全に信用するなどもはや不可能に近かった。

 

流星はそれを聞きつつあくまで独り言の体で話す。

が、瞬間、あくどい笑みを浮かべ簪を睨むように見た。

纏っていた雰囲気がガラリと変わる。

 

 

「───何時まで姉妹揃って二の足を踏んでんだよ、マヌケ」

 

 

「っ──!」

 

「なっ───!?」

「えっ───!?」

 

思わず声を詰まらせる簪。

対して更なる予想外に声を漏らす鈴と本音。

簪は流星を睨み返す。

流星は冷ややかな視線で簪を見ていた。

 

「貴方にっ!何が─────っ!」

 

「──何が分かるかって?分かる位だから、マヌケって言ってるんだよ」

 

「それは、貴方が分かってるつもりなだけ!」

 

「なら楯無(あね)はどうして(いもうと)に歩み寄れていない。(いもうと)楯無(あね)の何を知って距離を置いている」

 

「っ!」

 

見え透いた挑発だと頭では理解している。

────だとしても、許せなかった。

始まりははっきり覚えていない。

元々仲が良かったのは遠い昔。

あの頃のように、なんて思い浮かべたこともある。

 

ただ、何事も思い通りには行かない。

ありとあらゆる感情がそこにはある。

それにどれだけ苦悩し続けているかなど、他人には分からないことだ。

不快でしか無かった。

 

───だというのに、咄嗟に言葉が出なかった事が悔しかった。

 

 

「──あんた、言っていいことと悪い事があるわよ!」

 

震える簪を前に、鈴が勢い良く立ち上がった。

流星の胸倉を掴み、怒りを顕にする。

本音もまた何時になく険しい表情で流星を見ていた。

 

流星は鈴を一瞥も、溜息をつく。

 

「鈴は関係ない。黙っててくれ」

 

「そんな事知らないわよ!あんたが何か考えてる事は分かってる。でもね、今言った事は取り消しなさい!」

 

「──取り消さない。別に俺は言いたい事を言いに来ただけだからな。…実はもう1つあるんだけど────それは後にする」

 

そう言うと流星は鈴の手を解く。

すると再度簪に向き直った。

 

 

「撤回、して欲しいか?簪」

 

「───、!」

 

悔しさのあまり、唇を噛んでいる簪へ流星は問いかける。

俯いていた簪は視線だけ流星に戻し、その強い瞳で返す。

その目は不貞腐れてなど居なかった。

自身の意見を主張しようとする強い意志がある。

怒りだけではなく、様々な感情を孕んだその瞳に流星は笑みを浮かべた。

一同の緊張感が一気に増す。

反対に、流星はいつも通り落ち着いた様子だった。

ただ、その笑みは微かな羨望を含んでいるものだった。

 

 

 

「───なら、勝負だ。────ISで白黒着けよう」

 

 

 

 

 

 

「…慣れない事はするもんじゃないな」

 

整備室での一件から少し後。

寮の部屋に戻った流星は、部屋に入るなりそう呟いた。

何故だか、どっと疲れた気がすると流星は独りごちる。

昨日とほぼ同じ台詞を吐いている自覚はある。

 

 

あの後、幾つかの話を経て勝負についての詳細が決まった。

 

勝負は3日後。

簪側の武装は完成はまだの為、武装は流星も簪も学園の量産機に付いているものや備品のみ使用可。

IS学園の物の流用とはいえ、流星の槍や手榴弾は使えない形だ。

勝負は単純にISの試合形式で行う。

勝負についてそれだけ。

 

簪が負けた場合、姉と話し合う事を約束させた。

この時点でかなりの進歩、この為だけに持ち掛けた勝負と言っても過言では無い。

とはいえ、半ば強引に納得させる為にかなり無理をした。

流星が負けた場合は発言を撤回だけでなく、金輪際簪に関わらないと約束する形になっている。

ついでに鈴や本音とも多少気不味くなっていた。

とりあえず、どうあっても負けられない。

 

随分と冒険をしたものだと、流星は考える。

 

一応、扉の件は千冬の説教と反省文&2日間のIS使用禁止で許して貰えた。

 

そもそも勝負をする案を出したのは千冬だったりするのは流星しか知らない。

流石に相談するのは躊躇ったが、掻い摘んで話すとそれだけで察して貰えた。

 

助言としては、そのような垣根は一度壊してしまうのが良いとの事。

話し合い自体が出来ない状態であると伝えた。

──何かしらの形で発散する場を設け、その後に話し合いに持ち込めば良い──らしい。

 

信じられずにいた流星は、思わずアイアンクローを受けるような発言をしてしまったりもする。

『織斑先生はこういったこと不器用だと思ってましたよ。ほら、普段すぐ手が出ますし一夏と喧嘩しても────いだだだだだっ!?』

『ほう、良くわかってるじゃないか。教師として物分りがいい生徒は誇らしいな。───まあ、しっかりやれ。生徒の事だ、最悪はフォローしてやらんでもない』

『っ──アイアンクローしながら言う台詞じゃないんですが──!?』

 

思い出すだけで頭が痛い。

実はもう頭蓋は割れているのではないかと思える程、アレは痛かった。

その際、気になったものがある。

まるで微笑ましいものを見るような、そんな保護者的な視線。

何か引っかかるが、教師と生徒の関係上特におかしなものでもない。

 

思考を辞め、流星はベッドに腰をかける。

同時にシャワーを浴び終えた楯無がバスタオル1枚の姿で姿を現した。

流星の姿を見るなり、そそくさと近付いてくる。

不安そうな顔で流星の手を掴んだ。

 

 

「だ、大丈夫だった流星くん!?ちゃんと約束してこれた!?」

 

「格好、格好もっと気にしろコラ。いや、簪との事気になるのは分かるけどさ」

 

「私の格好なんでこの際いいのよ!それよりどうなのよ?お姉ちゃん気になって落ち着かないっ!」

 

楯無はとりあえずこれ以上簪と拗れないように、なるべく用がない時は部屋で待機するよう流星から言われていた。

故に楯無は流星の先の件を覗いていない。

というより簪の様子を見る事自体、反省した事もあって自重してはいる。

この件は流星が自ら任せて欲しいと告げた事も作用し、楯無も下手に動くことはない。

 

今は簪の事に必死なのか、バスタオル1枚のくせにやけに距離が近い。

流星も言及するのが面倒になったのか、格好については無視する事にした。

 

「無事勝負の約束は取り付けたよ。代償として鈴と本音ともちょっと気不味くなったけどな」

 

「……絶対言い過ぎたでしょう、流星くん。簪ちゃん泣かせたら許さないわよ」

 

ジト目で流星を睨む楯無。

流星の手を掴む力が強くなる。

 

「……なあ、お前誰の味方だよ」

 

「勿論、簪ちゃんの味方よ」

 

「はいはい。───じゃあ約束取り消して貰いに行ってくるから」

 

「───はい嘘!嘘じゃないけど!冗談だからっ!冗談だから止めて!」

 

「ああもう抱き着くな!?──ってお前ずぶ濡れじゃねえか。ちゃんと拭け!その前に離れろ」

 

楯無が身体を拭くことをおざなりにしていた為、流星の制服もかなり濡れてしまう事になった。

楯無を引き剥がすと、流星は上着を脱ぎハンガーにかけ部屋に干す。

シャンプーのいい匂いが仄かにする───ちょっと腹が立った。

 

そんな流星くんの些細な表情の変化を見逃さなかったのか、楯無は笑みを浮かべた。

 

「流星くん、お姉さんのいい匂いに悶々しちゃった?」

 

「…」

 

即座に流星は消臭剤を手に取る。

そして、無言のまま制服の上着に吹き掛けた。

あまりにも黙々と吹き掛ける後ろ姿に楯無は不満そうに呟く。

 

「──そこまでされると純粋に傷付くんだけど…」

 

「知るか。いいから服を着てくれ」

 

流星に諭され、文句をブツブツ言いつつ楯無はパジャマに着替える。

流星もジャージに着替える。

シャワーを浴びるとばかり思っていた楯無が小首を傾げていると、流星は立ち上がり入口へ向かった。

 

「どこへ行くの?」

 

「身体が鈍ってるからな。走り込みだよ」

 

 

 

「…、本音か」

 

「いまみー…」

 

走り込みを終えた流星が寮の方へ戻ってくると、そこには部屋着姿の本音が1人塀の上に腰をかけていた。

思わず視線が合い、互いに気が付く。

一瞬は普段通りの反応をしそうになった本音だが、放課後の事を思い出したのか少し気不味そうに視線を逸らした。

 

「成程、思ったより特等席だなここは」

 

対して流星は気に留めていない。

本音が1人空を見上げていた事に気が付いた流星は、その横へ飛び乗る。

ムッと気に留めていない流星に不満そうにする本音だが、気にしても仕方ないと諦めたのか、口を開いた。

 

「いまみーは、凄いよね」

 

呟くように告げる言葉に、流星は首を傾げる。

 

「何の話だよ?」

 

「かんちゃんと会長のこと。──私は最初からある程度知ってるのに、何にも出来てない…」

 

自嘲気味に笑う本音。

流星は手に持っていたスポーツドリンクを一口飲み、呟く。

 

「俺は偶々当事者になっただけだ。姉妹仲なんて今まで無視していたさ」

 

「でもいまみーは、かんちゃんに嫌われる覚悟で今回の件も解決しようとしてる。私はね、いまみー。嫌われるのが怖くて出来ないだけ」

 

「嫌われる覚悟、ね…」

 

──そんな大層なものなどない。

喉まで出かかった言葉を飲み込みながら、流星は再度ドリンクを口に含む。

 

「りんりんは、詳しく知らなくてもかんちゃんの為にいまみーに怒ってくれた。かんちゃんや会長を否定されて、一番怒らなきゃいけない私は、黙ってる事しかできなかった。その上いまみーの意図を分かってるのに、いまみーを心の中で責めてるだけだった」

 

「…無駄に似てるよな。本音と簪」

 

「──え?」

 

「考え過ぎて思い詰めるところ。本音は鈴じゃないし鈴は本音じゃない。それに、本音は簪の為にちゃんと怒ってたじゃないか──その、なんだ。悪い、上手く言えない」

 

「────」

 

途切れる会話。

本音はそれを聞きながら、夜空を見上げていた。

 

───やっぱり、ズルい。

自分の事ははっきりと晒さず、気付けば此方の心のスグ近くにいる。

それが本音には不満で。

ほんの少しだけ身体を流星の方へ預けて、口を開く。

 

 

ずっと引っかかっていた疑問を改めて尋ねた。

 

 

「──いまみー自身は、かんちゃんとの仲直りを考えて無いでしょ?」

 

「……」

 

──鋭い。

本音の指摘に流星は内心悪態をつく。

気付かないでくれれば楽だったのに。

 

「俺は別に───」

 

「嘘。いまみーはこれで良いなんて思ってる。かんちゃんの事気に入ってるくせに」

 

「…根拠は?」

 

「乙女の勘───!」

 

「……」

 

自信満々に胸を張りながら言う本音に、流星は顔を引き攣らせた。

なんだかんだで、本音の観察眼は馬鹿にできない。

更識家に仕えてるだけあると言うべきなのだろうか。

真面目かふざけているのかの線引きは難しいが、あながち外れても居なかった。

流星自身そこまで考えていたと言うよりは無意識に近い。

そこを指摘され、返す言葉を失う。

 

「約束して、いまみー。かんちゃんも会長も、いまみー自身も仲直りするって」

 

「随分と無理を言う。……───まず勝たないとだけどな」

 

「反論する悪い子は〜こうだ〜」

 

「────っと」

 

強引に抱き寄せられ、塀の上で器用に横になる。

塀の幅がそれなりにある為か落ちるようなことは無い。

流星の頭はちょうど本音の膝───というより太腿の上に来ていた。

思っていたより、柔らかい。

部屋着だった為素足でないのが救いか。

多少の恥ずかしさを感じながら、流星は本音の顔を見上げる。

 

 

「にひひ〜、思ったより恥ずかしいね、これ」

 

顔を真っ赤にしながら照れ隠しのように笑う本音。

恥ずかしいのならやらなければいいのに──と流星は思いつつも断りを入れようとする。

 

「俺汗かいてるんだけど…」

 

「私は気にしないよー」

 

逃げ場なし。

羞恥に苛まれながらも流星は脱出する事を諦めた。

夜風が心地よい。

このまま眠ってしまおうかなんて思う程寝心地は悪くない。

 

僅かに心の奥で痛みが走る。

流星自身も気付きにくい鈍いもの。

 

 

「…」

 

本音越しに夜空を見る。

星はそんなに見えない。

街灯が明るいせいか、はたまたここでは見えないのか。

 

それがとても、残念で仕方がなかった。

 

 

「どう?いまみー?」

 

「いい寝心地。──先に言っとくけど、覗き込みすぎるなよ?ちょっと色々当たるから」

 

「───そ、ソウダネ!?」

 

言われてハッとなり、大きく覗き込もうとしていた本音は姿勢を正す。

顔は再び真っ赤に、今度は耳まで赤くなっている。

デリカシーに欠ける発言だったと流星は思い返す、が事故は未然に防げた為良しとする。

 

見上げる夜空。

交わす言葉は特にない。

 

 

それぞれのルームメイトに見付かるまで、2人はその光景を満喫するのだった。

 

 

 




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