IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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臨海学校
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IS学園から離れたある海岸沿い。

トンネルを抜け、海岸沿いの道路に数台のバスが姿を現した。

他に走行している車はほとんど無い。

 

走っている場所はまだまだ高台の上だった。

見晴らしが良く、バスの窓からはスカイブルーに輝く海が一望できる。

トンネルを抜けた瞬間から、一斉にバスの中で歓喜の声が聞こえた。

 

 

「おっ、見ろよ流星。海が見えてきたぜ」

 

 

窓際に座っている一夏もクラスメイト達と同様に歓喜の声をあげる。

隣の席に声をかけた。

声を掛けられた肝心の流星本人も顔を上げる。

持っていたトランプから視線を逸らし、窓を見た。

 

「ああ、見えてきたな」

 

「ほら流星。せっかくだしもっとテンション上げていこうぜ」

 

「疲れるだけだろ、それ」

 

相変わらず平常運転の流星に、一夏は勿体ないと口にする。

 

話しながらも続けるは大富豪。

目の前の簡易テーブルに流星は11のカードを置く。

ルールは先程教わり、既に何戦目かに突入していた。

当然だが流星が負け越している。

2人の座席の背後から、伸びる手。

ダボダボの袖のその腕は目の前のテーブルにカードを置くと静かに後方へと帰っていった。

 

「次は僕の番だね」

 

ゲームの参加者は一夏、流星、本音、そして本音の隣に座るシャルロット。

遥か後方に座るセシリアからは怨嗟の念が伝わってくる気がした。

 

──なぜこの席順になったかは簡単だった。

一夏を巡り争いが起きた。

そんな中面倒になった千冬が一夏の隣に流星を選んだのだった。

とばっちりを食らった本音だったが、彼のすぐ近くは確保出来た為それ程ダメージはない。

 

シャルロットはジャンケン大会の結果ここに居た。

絶妙に繰り広げられていた心理戦により、一夏と流星は若干引いていたのはココだけの話。

 

「海か」

 

再度視線を外へ向ける。

太陽光を受けキラキラと輝いている。

それよりも気になったのは奥の方。

地平線と呼ばれる果てをボケーッと見つめる。

すぐも視線を戻し、ゲームを再開した。

程なくして本音の勝利に終わる。

 

「いまみーは海は初めて?」

 

「ちゃんと見たのは初めてかな」

「てっきり来慣れてるから平常運転なのかと思ったぜ」

「平常運転で悪かったな」

「そう拗ねるなって。言っといてなんだけど、流星のそれは落ち着きがあるってだけだと思うぜ」

 

トランプをシャッフルしながら、いじけるフリをする流星。

そしてそれをフォローする一夏。

互いに気を許した状態での発言。

学園唯一の男友達という事もあり、当然女子相手よりも気楽である。

1度軽くだがぶつかった事も作用していた。

 

「褒めたって何も出ないからな」

「そんなつもりねえよ。よーし、次下の順位の奴がかき氷奢りでどうだ」

「いいさ、慣れてきたところだ。そろそろ下克上といこうか」

「言ったな。俺も本気で行くぜ」

 

男子の普通のやり取りも、ほぼ女子高であるIS学園の生徒からすれば珍しいものだ。

2人が普段あまり行動を共にしていないのもあった。

遠巻きに皆が2人をチラチラ見ていた。

 

一部の特殊な趣向をもったクラスメイトは鼻息を荒くしながら聞き耳を立てている。

一夏が気付く事もない。

 

「ほんと楽しそうだよね、一夏」

「だねー」

「僕が男装してる時もアレくらい楽しそうだったんだよね……」

「…えーっと……」

 

遠い目になるシャルロットに本音は苦笑いを浮かべる。

こればかりは実際に男装していた本人を前に下手な事は言えなかった。

 

「まあ俺も一夏の気持ちはわかるさ」

 

一夏と話しつつも、本音達の話を聞いていた流星が答える。

えっ、と本音とシャルロットはショックを受けたような反応をした。

 

2人の思考を読んでか、呆れつつも流星は否定する。

 

「馬鹿。そういうのじゃない。流石にずっと女子と一緒は中々に気を遣うんだよ」

「いまみー、もしかしてずっと気を遣わせちゃってた?」

 

少ししょんぼりする本音。

気が付かなかったと自身の無神経さを悔やんでいた。

失言だったと感じつつ、流星は訂正する。

 

「言葉足らずだった。本音が悪いとかどうとかじゃない。こればかりは仕方の無い事なんだ」

「そうだぜのほほんさん。これは悪い意味じゃないんだ。例えば俺もシャル達と一緒に居る時嫌なんて思っていないし寧ろ好きだぜ。けど男友達ってのはそれより遠慮がいらないってだけなんだ」

 

一夏のフォローの台詞を聞きながらシャルロットは静かに俯く。

顔はほのかに赤かった。

意味合いも何も全然違うが、サラリと好きだと言うあたりやはり一夏の天然ジゴロさは健在らしい。

本音は一夏の言葉を聞きつつ、流星に問いかける。

 

「そうなの?いまみー?」

「多少違うけど、その認識で構わないさ」

 

年頃の男子である流星達からすれば、女子相手は気を遣う。

配慮ともいうそれは、蔑ろにすると相手を傷付ける可能性もある。

気にして疲れる──程でもないのだが。

何よりももっと簡単な理由があった。

口が裂けても言えない。

 

そこにふっ、と鼻で笑う声が聞こえた。

一夏と流星の前の座席に座る千冬のものだった。

 

「──布仏、デュノア。もっと単純な理由だぞ」

「織斑先生?」

 

「一夏。何でこの人こんな楽しそうなんだ?」

「なんだかんだ海が楽しみなんじゃないのか?」

 

即座にどこからか飛ぶ鉄拳。

2人は頭を抑えて黙り込んだ。

 

「女子の前では格好付けたいというのが男子だろう」

 

ニヤリと口角があがる。

千冬の台詞に周囲の女子も納得したように頷いた。

 

「やっぱり2人とも男の子なんですね〜」

 

真耶も楽しそうに呟く。

否定しても意味が無いと悟った2人は再度トランプに向き直った。

 

「ふふ、一夏も僕の前では格好付けようとしてたんだ?」

「いまみーもそういう事だったんだねー。意外」

 

別に全くそうでないとも言えない為、やりにくかった。

楽しそうなシャルロットと本音。

少し恥ずかしそうな一夏とちょっと不満そうな流星。

後者は学園名物教師を後ろから見つつ、ポツリと疑問を口にする。

 

「…あんな事言ってるけど、織斑先生って恋人いた事とかあるのか?どうなんだ一夏」

「……………俺の知ってる限りでは居ないと思う」

「悟らせないように隠してたって可能性もないのか?」

 

地雷原を突っ走る流星になんとなく一夏は答えた。

シャルロットと本音もこれは下手に話に入っては危険だと苦笑いでそれを見守る。

無神経な疑問である事は言わずもがな。

しかし完全無欠なイメージのある織斑千冬の恋愛事情は誰しも気になる所であった。

皆が聞き耳を立てていた。

千冬は呆れたようにため息をつく。

 

「───今宮、織斑。砂浜で基礎体力向上の特別メニューを組んでやろうか?」

「全力で遠慮します」

 

即答だった。

特別メニューなど絶対嘘だ。

身体が持たなくなるのは明白だった。

──と、流星は唐突に思い出したように呟く。

 

「っていうか、先生。以前アメリカ政府の若い官僚に口説かれた時見事なまでにフッてましたよね。イケメンで金持ちで優しい人なのにさ」

 

「ん?」

「え?」

 

小さな声だった為か周囲には聞こえていない。

辛うじて聞いた千冬と一夏がそれぞれ表情を変化させる。

 

一方で流星はその発言をした後、1人首を傾げた。

 

「─────あれ?なんでこんなこと俺は知ってるんだ」

 

「…」

「流星?」

 

千冬は怪訝そうな顔で流星を見るも直ぐに思考を切り替える。

一瞬脳裏に浮かんだのは更識楯無だが、楯無から聞いたのなら流星も自覚がある筈だった。

 

一夏は分からない事だらけの為頭の上に?マークを出しながらもこれ以上突っ込むのはやめにした。

話の内容がかなり気になるが、薮蛇の可能性が高い。

ただ、姉の事である為無視も出来なかった。

…後でこっそり聞こうなんて考える。

 

 

「考え込んでるところ悪いんだけどさ」

「ん?どうした流星?」

「お先だ一夏」

 

「あ」

 

話しながらも続いていた大富豪は、流星が真っ先にあがったのだった。

 

 

 

 

女将さんとの挨拶を済ませ、旅館に荷物を置く。

流星と一夏は千冬と同じ部屋であった。

うげ、と流星は思わず顔を顰めた。

セキュリティ面やその他諸々を考慮すると当然ではあるのだが、不満は多々残る。

曰く、どうせなら山田先生が良かったとの事。

 

簡単に荷物を纏め直し、水着やタオル等をそれ用の鞄へ移す。

日差しを見てゲンナリするが、これから貴重な自由時間。

楽しみではない訳では無かった。

こうやって海に来るのは初めてである。

 

海に向かうのは当然だがそれぞれ着替えてからとなる。

クラスメイトや千冬達と別れ、着替える。

一夏と共に砂浜に出た。

即座に必需品を装着する流星。

一夏は隣を見て暫く考え─────とりあえず尋ねることにした。

 

「…なあ流星」

「何だ一夏」

「もしかして浮かれてるのか?」

 

一夏の方に振り返る流星。

ティアドロップ型のサングラスをかけ、右手にはいつの間にか膨らんでいた大きな浮き輪を持っていた。

いつも通りのオレンジの髪にパーカーのような水着。

これらが全て合わさり、何とも様になっていた。

 

「浮かれてないぞ」

「嘘つけ!?なんだよその格好!どう見ても浮かれてる格好だろ!?」

「…………何がいけないんだ?」

 

小首を傾げる流星に一夏はどこから突っ込めばいいか分からなくなった。

冷静に観察する。

いや、正確には悪くないのだ。

別におかしな格好でもない。

ただバッチリ決まり過ぎて逆に目立っている。

陽射しを浴びるまで一切気にならなかったというのに、日の下に出た瞬間から場所とマッチし過ぎていた。

 

「一夏さん、流星さん、此方にいらしたのですね」

「2人ともこんな所に居たのね。…って誰よ?」

 

駆け寄ってくるセシリアと鈴。

セシリアは青色の水着を着ていた。

彼女のイメージカラーや白い肌と合わさり、綺麗という言葉がピッタリなのだろう。

一夏の視線が思わず谷間に行く。

すぐに邪念を振り払うように目を背けた。

 

鈴が着ていたのは先日の白の水着。

普段と違った色合いが彼女の魅力を際立たせている。

 

そんな彼女も流星の姿を見て困惑した。

流星は不満げに声を出す。

 

「なんだよ。水着を選んだのはお前だろ?」

「そのサングラスと浮輪は知らないわよ」

 

水着を選んだ──その発言を周囲に居た生徒やセシリアは聞き逃さなかった。

他の生徒はその情報に驚きつつ、その話題をそれぞれ話し合っている。

噂になるのもすぐだろう。

セシリアは友人の思わぬ情報に少し嬉しそうだった。

シャルロットと一夏の買物追跡時、鈴達とも同じ店に居たことには気付いていない。

微笑ましく笑いながらもセシリアは友人の援護を企てる。

周囲への牽制及び外側から固めていく狙いもあった。

 

「会話の流れからするに、もしや鈴さんの水着は流星さんが?」

「ああ。捨てたもんじゃないだろ?俺のセンスも」

「あんた、(あたし)が見せた候補の中から選んだだけじゃない」

「別のにする気満々だっただろ」

「うっ…それは…」

 

見抜かれていた、と言葉を詰まらせる。

何故か得意気な流星のせいで鈴は言いしれない恥ずかしさに襲われた。

直接褒められるのとはまた違ったものがある。

悪い気はしないのだが、と内心葛藤があった。

 

セシリアはそのやり取りを見届け、手にしていたピーチパラソルを砂浜に突き立てる。

シートをピーチパラソルの影に敷き、その上に座る。

コホンと咳払い。

勇気を出して一夏に向き直る。

 

「一夏さん。約束は通りその──サンオイルを塗って下さいませんか?」

「お、おう」

 

えーセシリアずるい!なんて声が周囲で沸き起こる。

各々サンオイルを用意して居なかったり、既に塗っていたり、塗っている最中であったり多種多様であった。

セシリアにサンオイルを貸してくれと懇願する者、次は私も!と一夏に迫る者まで出始める。

中にはサンオイルを落としてくると海に走っていく女子までいる始末。

一夏人気は凄まじいものであった。

セシリアは勝者の余裕も相まって少し得意気だ。

約束──なんてものをしてしまった以上一夏も無碍に出来ない。

しまった、サンオイルを忘れた───なんて真面目に考えている流星は完全に蚊帳の外だ。

 

「…」

 

ゴクリ、とつい唾を飲み込んでしまった。

シートの上に寝転ぶセシリア。

その白い肌も魅力的なのだが、何よりうつ伏せ故の押し潰されたものが一夏の理性を刺激する。

煩悩退散と念じてサンオイルを手に取る。

両手にそれらをかけ、セシリアの背中に触れた。

 

「ひゃんっ!?」

「ご、ごめん!?」

「い、いえ!冷たかったのでつい───」

「ごめん、こういうの初めてだったからさ!?」

「初めて、ふふそれなら仕方ありませんわね」

 

あられも無い声があがり、驚く一夏。

セシリアも真面目に謝る一夏の理由に口角が上がる。

初めて、初めて。

悪くないとニヨニヨしてしまう。

 

「一夏、それは手に馴染ませてから塗るのよ」

「おっ、そうなのか。ありがとう鈴」

 

鈴からの指摘を受け、一夏は作業を再開する。

途中途中声を漏らすセシリアに悶々としながらも、背中や足を塗り終える。

太腿あたりを触った時など緊張し過ぎて上手く塗れた自信が無い。

 

「せ、折角ですから、そのまま前の方もお願いしますわ」

「え゛」

 

前?前??

今まで塗ってたのは背中だ。

だから後を塗っていたことになる。

前?正面の事だろうか。

つまり、…。

一瞬理解出来ずに思考が止まる一夏。

 

助けを求め流星の方を見るが、彼は何処からか取り出した組み立て式ビーチチェアに寝転んでいた。

片手にISの資料らしきものが握られていた────海まで来て何してるんだ、アイツ。

鈴は何やら彼と言い合っている。

───…鈴に任せて俺は突っ込まないでおこう。

とはいえ結局誰も頼れない状況。

 

「はいはい、セシリアそこまでにしようね?」

 

「シャ、シャルロットさん!?」

 

黒いオーラを出しながら現れたシャルロットによってセシリアの目論見は阻止された。

一夏はひとまず助かったと胸を撫で下ろす。

 

「あれ?流星?鈴?」

 

気付けば流星と鈴の姿は無かった。

疑問に思い、海の方を見ると鈴を追う形で2人して海に走っているのが見えた。

鈴の片手には流星のサングラス。

成程、と事情を把握した一夏の前にシャルロットが躍り出る。

 

「一夏、見せたいものがあるんだけど…」

「…ミイラ?」

「もう、いつまで恥ずかしがってるのさ」

「し、しかし私にも心の準備がっ、タイミングがあってだな!」

「ミイラが喋った…」

 

バスタオルで全身ぐるぐる巻きになっている何かがシャルロットの隣に立っていた。

正確には連れてこられたという方が正しいだろう。

 

「それなら一夏と僕が遊んじゃってタイミングなんか無くなるけど、いいの?」

「そ、それは駄目だ!?くっ──仕方ない!」

 

と、バスタオルの精は覆われていたバスタオルを引き剥がす。

正体はラウラだった。

黒色の水着に身を包み、髪はツインテールにして纏めている。

一夏に見せるのが恥ずかしかった為、先のようなバスタオル姿になっていたのだった。

当然、どうだ!?と水着姿を見せられれば一夏でも水着姿に言及する。

 

可愛いなんて褒め言葉を受け、ラウラは走り去ってしまった。

 

「やっぱりこうなっちゃうかー」

「何だったんだ…?」

「褒められ慣れて無いんだろ」

「流星?ってうお」

 

と、そこに鈴を抱えた流星が戻ってくる。

文字通り脇に抱えられるように連れてこられた鈴を見て、一夏は驚く。

2人とも濡れていた。

海に入ってきたのはわかるが───。

 

「足吊って溺れそうになってた。やはり準備運動は大事だな」

「大丈夫か!?鈴」

「大丈夫…だけど、普通に海水飲んじゃって気持ち悪い…」

 

ビーチチェアに寝かされた鈴はグロッキーな状態だった。

青ざめた顔で調子が悪そうだが、聞いた感じ特に問題は無さそうだった。

 

「ちょっとだけゆっくりしてから遊ぶことにするわよ…。…借りるわよ、コレ」

「ああ、構わないさ」

「鈴さん、本当に大丈夫ですか?」

「あー…大丈夫よ。どちらかっていうと話すと戻しそうだから今は…」

「──という事だ。そっとしておこう」

 

淡々と告げる流星。

傍から見ると冷たくも見えるが、さり気なくタオルや水を鈴からすぐ取れる位置に配置していた。

一夏やセシリア、シャルロットは見逃さない。

自身のハンドタオルで軽く顔を拭く流星を見ながら、一夏は労おうと声をかける。

 

「サンオイル塗ってやろうか?」

「死んでも断る。男にベタベタ触られる趣味はない」

 

嫌そうに思いっきり顔を引き攣らせる。

流星にしては珍しい程の表情の変わり方だった。

本気でその行動を嫌悪しているように見える。

 

そこへ水着と形容し難い格好の本音が現れた。

相変わらず着ぐるみのようなダボダボの衣類。

よく見ると濡れてもいい仕様の物なのだが、純粋に暑苦しいだけであり着る意味は皆無である。

 

「探したよ〜」

「本音と…簪か」

「うう、こっち見ないで!?」

 

本音の背後に完全に重なるように隠れる水色の髪。

恥ずかしがっているのは明らかだった。

もじもじと本音の背後に隠れる簪の姿は小動物を連想させる。

嗜虐心を煽られ、流星は本音の後ろに回り込もうとする。

簪は流星から隠れるように本音を盾に逃げていた。

 

「!?」

 

途中フェイントを掛けて簪と鉢合わせる形に。

青みがかった黒に可愛らしいフリルのついた水着。

白の線のワンポイントも可愛らしい。

肌白く綺麗だった。

両手を胸に当て、今にも逃げ出しそうな簪に流星は言葉をかける。

 

「なんだ、似合ってるじゃないか」

「あぅ…っ…」

「肌も白くて綺麗だし、やっぱり簪は美人さんだな」

「っ…!!!?」

 

ボンッ!と何かが暴発したような気がした。

簪の顔が耳まで赤く染まる。

 

隣の本音は流星をジト目で見ていた。

一連の流れを見ながら、セシリアとシャルロット苦笑いを浮かべる。

 

「流星さんも、その、結構曲者のようですわね」

「本心で言ってそうなあたりが一夏と一緒だよね」

「ん?俺がどうかしたのか?」

「何でもありませんわ」

「何でもないよ」

「?」

 

不思議そうな一夏にそう言いつつ、2人は日向へと飛び出す。

本音も簪と流星の手を引いて日向に出た。

 

鈴には先に行くとだけ本音が告げ、一同は海へと駆け出す。

刺さる視線。

2人しかいない男性操縦者なのだから当然だった。

掛けられる声、寄ってくる生徒達。

目に毒だと流星は内心呟く。

 

結局、クラスメイトも複数人巻き込む形で遊ぶ事になった。

 

シャルロットが持ってきていたビーチボールを海面に落とさないようトスし続ける。

腰ぐらいまで浸かっている為、これが中々難しい。

オロオロしながらもキッチリトスをあげる簪。

ダボダボの格好ながら本音も綺麗にトスをあげる。

敗者はある地点まで泳いで帰ってくるという罰ゲームが課せられていた。

何度かやっている内に、遊びの趣旨も種類も変わる。

一夏に競走と持ち掛けられ流星も泳いだ。

鬼ごっこもした。

何人かの競走を見守る事もあったり、ゴーグルを借りて水中を見る事もあった。

 

途中、休憩がてらに浮き輪に乗っかり流星は一人くつろぐ。

────直ぐに合流した鈴にひっくり返された。

 

「いまみーはさ、楽しい?」

「ん?普通に楽しんでるけど、どうした?」

「ううん、ごめんね変な事聞いちゃった」

 

本音はそう言うとすぐに話題を切り替えた。

本音の服装が見た目より楽だったり、どこで買ったかなどの話。

 

それらをしつつ、2人は遊びに戻る。

姿勢を崩した簪が流星と密着し、恥ずかしさで倒れそうになったのは別の話。

 

 

───暫くして、一同は海から砂浜に戻った。

海水を拭きつつ、飲料水を飲み水分を摂る。

 

程なくして、キャーと黄色い悲鳴が上がった。

一夏や流星達は視線をそちらへ向ける。

そこに居たのは黒の水着姿の千冬、と真耶。

流星は納得し視線を手元に戻す。

その際に見えた一夏の反応に半目になる。

セシリアやシャルロットも気付いていた。

戦慄する2人をよそに、流星は呆れたように呟く。

 

「…シスコン」

「なっ!?違うって!?」

「ま、気持ちは分からんでもないけどさ。何?一夏はああいう人が好みなのか?」

「だから違うって!?」

 

見惚れていた一夏は慌てて流星の言葉を否定する。

が、あんなあからさまに思考停止で見惚れていた姿を見せられたのだ。

周囲の疑念は取り払えなかった。

セシリアとシャルロットはギリギリと奥歯を噛み締める。

思わぬ伏兵がいた事を認識──それも伏兵というよりは最終兵器クラスの強敵だった。

同性から見てもそれ程までに千冬は綺麗で大人な女性だった。

 

千冬と真耶は一夏達を見るとこちらに歩いてきた。

 

「ここにいたか。全員海は堪能したか?」

「織斑先生は泳がれませんの?」

「勿論泳ぐさ。しかしその前に良いものを見つけてな、お前らを誘いに来たんだ」

「良いもの?」

 

首を傾げる一夏に対し、千冬は砂浜のある場所を指さす。

見えたのは大きなネットに砂浜の上に引かれたライン。

 

「バレーボールは授業中で触ったことがあるだろう?」

 

楽しそうに告げる千冬。

苛烈なビーチバレーが始まる。

入れ替わり立ち代りビーチバレーが行われる。

千冬に挑んだり、千冬が交代している間に点数を稼ごうと必死だったり、一夏に褒められて集中出来ないラウラが顔面にボールを受けたりと騒がしかった。

激しい千冬のサーブを受けられるものはいない。

辛うじて上げてもトスは続かなかった。

 

それぞれが熱中する中、簪は一人ある事に気が付く。

キョロキョロと辺りを見回し、不思議に思ったのか疑問を口にした。

 

「あれ?流星…?」

 

 

 

「…へぇ、こんな所あったのか」

 

皆の居る砂浜から少し歩いた先。

洞窟の入口となった入り江がそこにはあった。

ゴツゴツと剥き出しの岩肌がちょうど日影を作っていた。

微かに射し込む日光が波に反射され、洞窟の屋根をユラユラと光らせる。

 

一人ポツリと呟いた流星は、周囲を散策するように歩く。

 

 

バレーボールに興がのらなかったわけでもない。

洞窟の奥を見る。

奥と言うほど広くない───行き止まりであるのは入口からでもすぐ視認できた。

何とも浪漫がない。

探検がしたいという訳でもないが、そう心の内で呟いてみる。

 

どうしてこうしているか、自分でもよく分かっていなかった。

よく分かっていない、よく分かっていないのだが予感がある。

何かを探す。

が、特に何も見当たらない。

 

「疲れてるのかも、な」

 

珍しいものに従ってここまで来た。

のだがやはり確証はなく、特に成果もない。

気の所為かと皆の場所に戻ろうとした時─────。

 

「へぇ、ここが分かったんだ」

「─────!」

 

その人物は現れた。

紫の髪に特徴的なウサ耳カチューシャ。

コーディネートとしては何処か童話チックな洋服。

だというのに幼稚とは感じられなかった。

一目で美人と判らされる整った顔立ちに、貼り付けたような笑顔。

 

浮いていた。

何もかもその場から浮いていてチグハグ。

変な緊張感を流星は感じた。

一瞬でも気を抜けば不味い。

敵対心は抱かないが、そんな予感だけはあった。

女性は軽く流星を一瞥する。

冷たく興味が無さそうな瞳。

反して『それだけではない』と感じさせられる。

 

「アンタは───?」

 

静かに尋ねる。

 

会話にすらならないであろう。

目の前の手合いは恐らく今宮流星に興味を示さない。

確信を持ちつつも話し掛けていた。

本来ならば今宮流星も同様だった。

しかし話し掛けている。

猛烈な既視感。

 

女性は少し考え──

 

「篠ノ之束。もう答えないから覚えときなよ、凡人」

 

──突き放すように吐き捨てるように名前だけ告げた。

 

 

 




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