IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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「──なんだ、片方生きてるじゃないか」

 

 

───その声で、私の意識は覚醒した。

すぐに目に入る光景はこちらを覗き込む少年の姿。

何かを発しようとするも、思うように動かない。

横になったままの視界。

頬に触れる砂。

聞こえる波の音。

目の前の岩。

 

───そして、隣には同僚の亡骸。

私と同じく選りすぐり。

無惨にも首の骨をへし折られ息絶えていた。

 

「っ!」

 

どうしてこうなったか直ぐに思い出す。

あぁ、しくじった。

 

始まりは二ヶ月ほど前。

我々の企業は窮地に立たされていた。

 

告発される違法な研究。

ISから得られる外的情報──それらを全て人に、直接流し込むというもの。

強引な同調。

 

成功すれば適性関係なく人々の操縦レベルが跳ね上がるだろう。

戦力としてもかなりの向上になる。

我々の目の付け所は完璧だった。

数分ももたなかったが、成功例もある。

ただ、精神的負荷により多くの廃人を出した。

仕方が無い。

そうでもしないと得られない物もある。

 

告発にまで発展したのはその犠牲に耐えられなくなった者のせいだった。

 

そこからは一瞬だった。

ISコアは国に剥奪され、企業の研究も禁止。

営業停止も当然喰らい、追い込まれた。

 

保険に作られていた別企業に見せた研究所は、バレずに済んだ。

しかし、肝心のコアも減り資金源も減る。

完全に詰みだった。

 

しかし諦め切れない。

こうなれば何か、何か成果を挙げて研究費用を手に入れなくてはならない。

狙いはモルモット集うIS学園に。

篠ノ之箒、織斑一夏、今宮流星のどれかに接触して何かしらを得ようとした。

 

失敗に終わる。

IS学園に放った諜報役はあっさり捕まった。

そして直ぐにこちらの出処も抑えられ、あらゆる方面から逃げ場を奪われる。

あの学園内の何かがそうなるように仕向けたのだろう。

 

あとは多少の支援もあった権利団体とも手が切れる。

数人の研究員と社員を残して処罰が下った。

残った我々は逃亡を謀る。

まだこのデータはバレてはいない。

これさえあれば、いずれ建て直せる。

そう思い、私は逃げた。

 

ただ、手を打たれていた。

殆どの仲間は、あっさり捕まった。

 

私ともう1人も捕まるのを覚悟した。

 

────そんな中、奇跡的に見つけた包囲網の隙。

 

 

ああ、しくじった。

それは第三者の罠だった。

我々の遥か上を行く相手、それすら上回るバケモノ。

想像もつかなかった。

想像もつかなかった我々に、一体なんの非があろうというのか。

 

現れたのは、ウサ耳のカチューシャを着けた女性。

正体を理解した時には、意識は奪われていた。

 

 

 

再度状況を噛み締め、冷や汗が吹き出る。

身体に痛みはない。

特に何かされた形跡もなく寝かされていただけ。

絶望的な状況には違いない。

生かされているということは、まだ利用価値があると判断されたのだろう。

冷静になれ。

冷静になれ。

奥に篠ノ之束が見えるが、岩の上に腰を掛けやる気がなさそうに見える。

となれば、この目の前の少年に何かさせようというのか。

辱めを受けさせようというのだろうか、それとも何か尋問でもさせようというのか。

考えている最中に、拘束が緩んでいる事に気が付く。

手錠で締められていた筈が壊れかかっていた。

横になったままもたれかかっている岩にでもぶつければ直ぐ壊れる。

 

運ぶ時に無茶でもしたのだろうか。

罠かと考えるが縋るしかない。

武器も取り上げられて居なかった──!

神は私を見捨ててはいない────。

 

少年がそう気付く前に仕掛ける!

私は錠を岩に叩き付け、壊すと同時に懐からナイフをとりだす。

我ながら鮮やかな流れだった。

右手に逆手に持ったナイフを振り下ろし──────

 

 

「っ──っ、ごっ───?」

 

声は勿論、息もままならなかった。

苦しい。

無我夢中で空になった手を喉元に当て、気付いてしまう。

ナイフは私の喉元に突き刺さっていた。

 

少年は崩れ落ちる私を軽く一瞥。

興味を微塵も持っていない瞳だった。

 

死にたくない。

死にたくない!

死にたくないっ!!

パクパクと口を動かし、何とか伝えようとする。

───助けて。

 

虫のいい話だとかもはや考える余裕もない。

一刻も早くこの苦しみから────。

 

「拘束が緩んでたし、首筋に針の痕…毒か。アンタ、俺に殺させる気だっただろ。水着に血が付いたらどうする」

「そんなのすぐ海に入れば良いだろ、凡人。──ああ、用は済んだから帰っていいよ」

 

もはや誰も、私を見ていなかった。

決死の思いで伸ばした手も空を切る。

───最期に見たのは、隣で事切れている同僚の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、全員揃ったな?」

 

ジャージ姿の千冬は海岸で腕を組みつつ、見回した。

その先に居たのはISスーツを来た一年生の面々。

少し離れた場所には他の生徒達が待機させられていた。

 

「あれ?なんで箒もいるんだ?」

 

一夏の疑問の声。

確かに、と他の面子の視線も一緒に並んでいる箒に向けられる。

箒も不思議だったのか千冬に尋ねる。

 

「あ、あの。なぜ私も?」

 

「───ああ、その件についてだが」

 

「 ちーちゃーんっ! 」

 

と、千冬が説明をしようとした所で大きな音が聞こえた。

同時に聞こえる声──千冬と箒は心当たりがあったのかすぐ苦い顔に。

パラパラと石が転がってくる音もする。

何かが崖側から転げ落ちてきている──のではなく、走っていた。

 

「とぅ!」

 

乱入者は高く跳ぶ。

軌道は真っ直ぐ千冬へ。

結構な速度が出ているのだがお構い無しに両手を広げ、抱きつこうとする。

 

あっさりとそれは阻止された。

千冬は流れるように的確に乱入者の頭を片手で掴み、アイアンクローを見舞った。

 

「恥ずかしがらなくても大丈夫だよ!久しぶりなんだし、さぁさぁ愛を確かめ合おう!具体的に言うとハグしよう!ちーちゃん!」

 

乱入者──こと篠ノ之束は構うこと無く千冬に抱きつこうとしていた。

ギチギチと音が聞こえていた。

人体ってこんなに音が出たっけ?とその様子を見た皆は困惑を隠せない。

凄まじい力がかかっているのは一目瞭然だ。

ただ、束は平然としていた。

 

「ねぇ、あの人ってまさか──」

「ああ、皆も多分写真なら見た事あるだろ?」

 

シャルロットの問いに一夏は頷く。

相変わらずだなぁなんて視線だけ向けていた。

束はサラリと千冬のアイアンクローから脱出すると、箒の方へ。

 

「やぁやぁ箒ちゃんも久しぶり!ハロハロー!」

「はぁ…」

「いやー箒ちゃんも大きくなったね!──特に胸とか!」

 

「──やめて下さい、殴りますよ」

「殴ってから言ったー!」

 

困った様子の箒に束は手をワキワキさせながら詰め寄る。

あっさり飛び出るセクハラ発言に耐えかねた箒は束の頭に拳骨を見舞っていた。

 

「いっくんも久しぶり!カッコよくなったね〜」

「は、はぁありがとうございます。お久しぶりです、束さん」

 

圧倒的ハイテンションの束についていけず、皆はポカンと間抜け面。

ただ1人流星は特に反応も示さず、冷静に束を観察していた。

 

───早めに状況を飲み込んだセシリアが束に話し掛けようと口を開く。

篠ノ之束博士に専用機を見てもらおうと勇気をだした行動だ。

も、あっさりと拒絶された。

冷たく突き放すようにあしらわれる。

暴言のらしい粗暴な言葉でもなく、また丁寧な口調でもない。

本心をそのまま叩き付けたような率直ながらも明確な拒絶にセシリアはショックを受ける。

 

「その、あんまり気にしなくていいと思うぞセシリア。これが普通なんだ」

「一夏さん…ありがとうございます。驚きはしましたがご心配には及びませんわ」

 

咄嗟にセシリアをフォローする一夏。

セシリアも一夏の言葉を受け、束への認識を修正する。

流星は一夏の言葉を聞き、昔からそうだったのだと理解する。

思わず声が漏れていた。

 

「排他的って言うんだっけ、ああいうの」

 

「はぁ?なんだい凡人。誰も束さんを見ていいなんて許可してないんだけど?なのにじっくり観察しちゃってさ」

 

「気を悪くしたならすまない、他意はないんだ」

 

「他意が無いことは知ってるよ。だって───擬態するには観察は必要だからね」

 

「!」

 

反応は辛うじて抑えた。

束はスキップでもするような軽快な動きで流星の正面へ。

笑顔を浮かべながらだが、鋭い視線が彼を射抜く。

 

呆気に取られる一同。

特に千冬と一夏、そして箒は驚きを隠せなかった。

何も会話の内容だけではない。

凡人、そう流星を呼んでおきながら彼に歩み寄っていった束の行動が異例のものだった。

 

「君がISを使える理由は簡単だ。君が特別だからじゃない。君が特別なISに気に入られたからここに居るんだよ。──今宮流星の存在に意味など無い。価値は無い。努努忘れないようにね」

 

「──っ」

 

顔を強ばらせる流星。

冷や汗が噴き出すのを自覚した。

思わず、一歩下がる。

 

「何故なら──」

 

動悸が早まる。

あの時の襲撃者よりも遥かに目の前の天災は────。

 

「束。そこまでにしておけよ?」

 

怒気を含んだ千冬の言葉に束はピタリと静止する。

えー、なんて不満そうに口を尖らせながら抗議しようとするが千冬は取り合わない。

まだ何か言おうとする束に対し、千冬は先に口を開く。

 

「束、自己紹介しろ」

「えー、面倒だなぁ……。はーい束さんだよー!終わり」

 

あっさりとした挨拶。

千冬は困った様子で頭を抑えつつも、これでもマシになったと呟く。

最初は挨拶すら考えられなかったレベルのようだ。

箒も複雑な表情。

簪と鈴は心配そうな顔を流星に向けている。

彼自身は既にこの間で持ち直していた。

 

「束、本題に入るぞ」

「はいはーい。さあさあ空を見よ!」

『!?』

 

と、同時に空から巨大な人参が降ってきた。

正確には人参型のポッドのようなもの。

それがゆっくりと開き、中から姿を現したのは───紅いIS。

 

「じゃーん、これが箒ちゃんの専用機。第四世代のIS、紅椿だよ!」

 

周囲が一気にザワついた。

第三世代の開発に各国が着手し始め少し経った所だというのに、第四世代と束は宣言した。

聞き間違いでもなんでもない。

嘘かと思いたくなるが、この篠ノ之束ならば──と各々は眼前の紅い機体を見つめる。

展開装甲なる技術を用いた、換装なしであらゆる状況に対応出来る機体───らしい。

 

ポツリと、見ていた一般生徒達の誰かの一言。

───束博士の身内というだけで専用機が貰えるなんて──不公平だと。

それは波紋のように数名に広がり、流星達の耳に届く。

一夏が何か言おうとするが、それよりも早く束は嘲笑った。

 

実に滑稽だ、と。

世の中の何処にそんなものが存在するのか。

呟いた女子生徒の置かれた場所も、公平でないから故のものである。

つまり

 

 

「平等なんて無い、か─────」

 

それを聞いた流星の小さな呟き。

その本心を察する事は余人には不可能だった。

 

「流星?大丈夫?」

「問題ないよ、簪」

「…」

 

簪も下手には突っ込めなかった。

そのまま流星達は視線を紅椿の方へ戻す。

 

 

「私の…IS……!」

 

箒はゆっくりと紅椿に歩み寄りながら手を伸ばす。

先程まで驚きに満ちては居た。

姉に連絡を取って頼んでいたとはいえこんなに早いとは思わなかった。

また、第四世代と規格外を渡されるとも思っていなかった。

ともあれ、目の前のISは待ち望んだ、焦がれた専用機。

 

指先が触れ、箒を眩い光が包む。

ISが展開され、箒は紅椿をその身に纏う。

 

「これが…!」

「箒ちゃんのデータはもう打ち込んであるから調整もいらないね!じゃあじゃあ早速試運転といってみようかー!」

「!」

 

束は突如何かの端末を取り出し、ボタンを押す。

すると彼女の隣に何やら設置型の砲台が展開された。

銃口の形状と兵器の形からしてミサイル用か。

箒はそれに反応すると上空へ。

 

束は間髪入れずに再度スイッチを押す。

設置型の砲台は銃口を箒へ向け、ミサイルを何発も放つ。

箒はミサイルを躱しつつ、武装を展開する。

雨月(あまづき)空裂(からわれ)

2本の日本刀型のブレードにより、複数のミサイルを切り裂き──残りに

空裂(からわれ)を一振り。

放たれる斬撃のようなもの、エネルギー兵器か何かか。

それは残りのミサイルを一掃した。

 

「やれる。この紅椿と私なら──!」

 

箒は歓喜に震える。

───これならば、これならば、一夏の隣に立てる。

もう無力な篠ノ之箒はいない、と彼女は内心無邪気に舞い上がっていた。

 

各々が紅椿を見つめる中、千冬は走ってくる真耶に気が付く。

表情から千冬はただ事ではないと見抜いた。

 

「山田先生、どうされました?」

「お、織斑先生!大変です!実は────」

「────!すぐに準備します。指揮と手配は私が。山田先生は他の教師と連絡を取り生徒を待機させるようお願いします」

「はい!」

 

唯ならぬ空気にまたも周囲がザワつく。

千冬は真耶と話し終えると、一夏達の方へ振り返った。

 

「生徒達は山田先生の指示に従い行動しろ!専用機持ちは私と共に来るように」

 

即座に移動する千冬に専用機持ちはついて行く。

駆け足気味に海岸を後にする。

 

広い場所に出る──という訳ではなくそのまま旅館へ。

制服をISスーツの上から皆着ると、旅館の一室に入る。

部屋の中央には投影型ディスプレイが配置されており、他も通信機器などの機器の数々が部屋に置かれていた。

襖をあけ二部屋利用している。

そこは一時的に小さな司令室と化していた。

 

「よし、全員中央まで来てくれ」

 

千冬は専用機持ちが全員部屋に入ったのを確認する。

すると神妙な面持ちで説明を始めた。

 

「───今回、アメリカ政府からある要請が入った────」

 

地図が投影され、視線がそこに集まる。

青いマップに表示された1つの赤い点。

その部分から映し出されたのは───白銀のIS。

 

───機体の名前は『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)

 

事の発端は米軍の軍事演習から始まる。

軍用ISの試運転中に機体が暴走。

中の搭乗者を乗せたまま音速で飛び去ってしまったというもの。

 

 

公海へ出てしまった為、国として手が届かない地点を現在飛行中だ。

今は海上だが、もし何処かの国に到達し街に被害が出るようなことが有れば大問題になる。

広域殲滅用の機体となれば、更に国も焦らざるを得なかった。

放置する事は有り得ない。

ただ、ISを止めるにはISしかない。

色々と自由が効かないのは目に見えていた。

 

そこで白羽の矢が立ったのが、国や政治に左右されないIS学園の専用機持ち。

それなりに近い地点に居るのも大きいのだろう。

そもそも軍用ISというものが黒よりのグレーな存在だが、今更である。

 

 

「───以上だ。大体の内容は説明し終えたが質問はあるか?」

 

「機体情報の開示は可能でしょうか?」

 

「可能だ。ただしこの情報については極秘の為、記録は勿論他言しての流出も気を付けろ。当然、ペナルティも課せられるから慎重に扱うように」

 

『はい』

 

中央のディスプレイに映し出される機体スペックなどの情報。

各々情報を見ながら改めてとんでもない機体が暴走した事を理解する。

 

「攻撃と機動に特化してるのね…」

「それも(わたくし)と同じオールレンジにも対応してますわ。弾幕量は…言うまでもなさそうですわね」

「となると防御は難しいね」

「捉えるのも、難しい…」

「短期決戦…一撃で落とせるのが理想だな。攻撃役とそこまで運ぶ足役が必要か」

 

国家代表達が考えつつ呟く。

視線はいつの間にか一夏に向けられていた。

一夏も状況を理解しているのか、緊張した面持ちで息を呑む。

 

「──零落白夜で倒すって事か」

 

「織斑、これは模擬戦や試合ではなく実戦だ。この作戦に反対というのなら誰も止めはしない」

 

「いえ、やります。やらせてください」

 

不安と緊張感を内包させながらも真っ直ぐな瞳。

それを受け千冬は安心したように微かな笑みを見せる。

 

「ならいい。後は誰が織斑をそこまで運ぶか、だが──」

(わたくし)の高機動パッケージなら可能かと」

「オルコット、音速機動下における稼働時間は?」

「20時間ですわ」

「決まりだな」

 

「ちょっと待ったー!」

 

と、千冬が作戦の概要を改めて説明しようとした所で部屋の天井が開いた。

天井裏に本来入るための場所から、まだ全員の記憶に新しい人物が飛び降りてくる。

 

「束さんの脳内にぃ、もっとグッドでビューティーな案が!」

「山田先生、部外者を外へ」

「た、束博士!こちらへ──ってきゃあ!?たたた束博士!?」

「うーん、この揉み心地は中々…ちーちゃんを誑かすだけはあるね」

「…………はぁ」

 

両腕で胸を抑え、涙目の真耶。

代表候補生+箒達は男子2人へ視線を向ける。

一夏は気まずそうに目を逸らしていた。

流星は我関せずを貫いている。

2人がしっかり見ていたのには変わり無く、彼女たちは2人を訝しむような視線を向けながら言葉を飲み込んだ。

千冬は眉間を抑えつつ、諦めて話を聞くことにした。

 

「…言ってみろ」

「これこそ紅椿の出番だよ!紅椿なら換装無しで、いっくんをすぐに目的の場所まで運べちゃうからね!」

「……」

 

千冬は顎に手を当てじっくりと考える。

反論は多々ある。

まず第1に搭乗したてである箒を送り出す事。

言うまでもなく、これは当たり前の理由だ。

場数を踏んだ代表候補生でさえ、実戦に送り出すには不安が残るからだ。

メンタル面、判断力、様々な要因が挙げられる。

第2には紅椿という存在そのものがまだ爆弾に近いものであるというもの。

 

万が一を考えれば却下すべき提案。

だが、考えてしまう。

箒を大切にしている束が、態々妹を危険に晒す様なことを発案するかというもの。

ISの開発者たる彼女が言う事だ。

相手の機体スペックも当然理解している筈。

──正しいのではないか、という持ち込むべきではない判断材料。

セシリアの高起動パッケージは時間が少しだけかかる。

微かだがそれで事態が動く可能性も無きにしも非ず。

 

眉を潜ませ、数秒間考える千冬。

ゴクリと息を呑んで決断を待つ一夏達。

 

千冬は顔を上げ、視線を一夏達戻した。

 

「良いだろう。この作戦は白式と紅椿で行うものとする」

「さっすがちーちゃん!話が分かる〜」

「ただし、遅れて2部隊目を送り込む。此方も2人1組であり、本隊とは別に迂回しながら織斑達に合流する形だ───ボーデヴィッヒ」

 

「はっ!」

「撤退戦になる可能性もある分、お前が適任だ。いけるか?」

「はい!」

「よし、ならば連れていくもう1人はお前が決めろ」

「私が、ですか───なら」

 

千冬の発言を受け、ラウラは振り返る。

決断はかなり早かった。

専用機持ちを見渡すとすぐに向き直った。

 

「今宮流星を連れて行っても?」

 

ラウラの言葉に驚いたのは専用機持ちの面々。

この状況で代表候補生でもない人間を選ぶとは思えなかったからだ。

要因を察する事が出来る一夏と鈴は納得した様子だった。

 

「だそうだ、今宮。いけるか?」

「問題ありません」

 

「よし、ならば改めて作戦を整理する。篠ノ之は織斑を連れ福音に最短距離で詰め、織斑は零落白夜の一撃で福音を行動不能にする。それが外れた場合は迂回している増援──ボーデヴィッヒと今宮が来るまで戦闘を継続、篠ノ之は織斑の支援に徹する事」

 

「「はい」」

 

「ボーデヴィッヒと今宮は合流した時の戦況で判断しろ。戦闘中の指揮はボーデヴィッヒが取れ」

 

「「はい(!)」」

 

「以上だ!織斑やボーデヴィッヒ達は海岸へ向かえ」

 

立ち上がり、流星と一夏達は外へ向かう。

 

篠ノ之束は一夏と箒を見送ると、視線を流星へ向けた。

冷ややかで残酷な笑みをほんの一瞬だけ見せ──いつもの笑顔に戻る。

見ていたのはすれ違った流星のみ。

静かに彼の横顔を見ながら、ポツリと呟く。

 

「じゃあまた後でね、凡人」

 

返事は即答だった。

含みある言葉を詮索することも無く、右手の掌を白旗のようにヒラヒラと動かす。

束への嫌悪は見られなかった。

 

「御遠慮願うよ、天災」

 

そうして3人を追うように出ていく流星。

──千冬は親友の様子を見ながら、眉を顰め何かを考え込んでいた。

 

 

 




時系列が前後してるのは仕様です。

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