IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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「とりあえず、今宮君も絶対安静ですからね!」

 

保険医に診てもらった後、同伴していた真耶はそう念押しされた。

既に言われていた事なのだが、無茶をするイメージがついて回っているのだろう。

流星はそれを聞き、承諾しながら待機用に用意された部屋に移動する。

真耶は怪我の様子を報告しに行くのと用事が山積みと言い、別の所に向かった。

 

一人廊下を歩く。

機密の事もあり一般生徒達のいる場所からは離れていた。

旅館ではあるが人気はほぼない。

 

「…」

 

然るべき処置を施され、左肩に巻かれた包帯に流星は視線を落とす。

──動かしにくい。

思ったのはその程度。

怪我自体は大きなものの筈だが、彼の関心はあまり怪我には向いていない。

 

思考はあの未知の武装と福音の武装構成へと切り替わる。

 

掌に付いていた収束型レーザー。

あまり連打は出来ないだろうが、威力はかなりのものだ。

掠っただけでこれなのだから、直撃すればひとたまりもない。

 

オールレンジ攻撃を得意とする機動特化。

軍用というだけあり、凶悪な性能の片鱗も見た。

 

だが、あの武装への違和感だけは拭えない。

性能を見てもおかしかった。

あの一瞬でこの火力を出しながら、弾自体はスラスター部のものとほぼ同じ細さ。

スラスター部の方が砲身は大きく、同じものを撃ててもいいのだがそうではない。

スラスター部に付けるには危険だった?

エネルギー的にあまり乱発出来ないから付けなかった?

理由を考えるもスラスター部の攻撃とは技術力が桁外れているように思えた。

 

まるで後から付けられたような───。

 

 

「!織斑先生」

 

「今宮か。傷は大丈夫か?」

 

「ええ、織斑先生は一夏の所に?」

 

「…いや、専用機持ちに待機を命じてきた所だ」

 

ばったり角で千冬と出くわす。

千冬は流星の左肩を見ながら、一瞬考える。

そして、流星を連れすぐ隣の部屋に入った。

 

「今宮、福音について何か気付いた事はあるか?」

 

「福音について、ですか?報告なら山田先生にさっき…」

 

「報告と記録されていたデータならもう見たさ。それとは別に、一番間近で見たお前の口から直接聞きたくてな。所感でも構わない。単刀直入に聞こう。あの武装はアメリカ政府が隠してたものだと思うか?」

 

険しい表情の千冬。

彼女も思う所がある様子だ。

 

「いえ、違うと思います。掌に完全に隠れていましたし、手の装甲は分厚くも無かった…銃口がやけにコンパクトでそれでいてあの火力。他の武装との技術力の差を感じました」

 

「そうか。それが聞ければ十分だ。そもそもあんなものを隠していて、他国の代表候補生に万が一があれば国際問題になる。やはり……。今宮、記録は見たがもう1ついいか?」

 

「構いません」

 

「──あの武装を、織斑や篠ノ之に使おうとした素振りはあったか?」

 

眉を顰めながら、千冬は尋ねる。

質問の内容、流れ、彼女の表情から流星も容易に察する事が出来た。

 

「ありません」

 

「…分かった。休憩を邪魔してすまない」

 

両者共に謎の確信があった。

決定打は何処にもなく、状況証拠や妄想の域を出ない答え。

ただ、彼らの脳裏に浮かべたことは同じだった。

 

千冬は部屋を出ていく。

流星も彼女を見送った後、待機を命じられた部屋に移動すべく廊下に出る。

 

「…」

 

歩きながら考えるのは福音の事。

妄想の域を出ない黒幕探しに彼は興味を示さない。

 

となれば、考えるのは対抗手段もとい立ち回り。

武装とその状態、仕組みは間近で見た。

複数人で挑んでも真っ当に勝てる気はしない。

 

 

 

しかし、と流星はふと足を止めて考える。

搭乗者の命を狙う方法が近道だろう。

 

手っ取り早いのは零落白夜のようなものでどうにか腹部を貫いてしまうこと。

絶対防御を発動させてエネルギーを削る使い方をするよりも加減も要らず楽だろう。

搭乗者の命は助からない点は仕方がない。

どの道流星はそのような武装を持っていない。

自身の武装で出来ることを考える。

 

機体は一応、搭乗者を守るように動いている。

システム的に戦闘を行っているが、人のように相手の思惑を想定することは無理だ。

 

ひたすら衝撃を殺しきれない攻撃を叩き込み──絶対防御を強制的に発動させつつ、搭乗者に少しづつではあるが着実にダメージを蓄積させる。

当然狙い続けるは急所。

 

可能性が低いが、倒す事は無理ではない。

 

 

──福音が本気を出した時に実行出来れば、の話だが。

 

 

現状、足りない物だらけであった。

流星自身の反応速度も、操縦スキルも相まって到底無理な話。

本気の機動を取られた暁には流石に狙撃も厳しい。

 

複数人での戦闘を考えるには時間も経験も足りない。

 

 

 

 

「──まあ、一夏が倒れている以上オレらが出来ることは無いな」

 

 

他人事のように呟く。

命令されれば赴くだけ、されないなら大人しくしていればいい。

思考を中断する、改めて疲れを自覚した。

アイスでも買いに行きたいと考えるが今は無理だ。

 

残念と溜息を付きつつ、ふと別の考え。

 

果たして、今宮流星のこの考え方は──マトモなのだろうか。

他の人間なら、と身近な人間の発想をイメージする。

……。

 

部屋への移動を再開した。

 

 

 

「お困りかな?凡人」

 

「────」

 

縁側の上からひょっこり顔を出す大天才──もとい天災。

流石の流星もすぐに言葉は出なかった。

 

「困ってるって程じゃ無いけど」

 

「それはおかしいね。いっくんがやられてる状態、それなりに傷心するか、この状況に満足出来ないのが普通の筈だよ?──いや、そもそもいっくんがやられた時に君は全く揺らがなかったんじゃないかい?」

 

「冷静さを失ってろくな事にはならないだろ。アレが正解だ、俺は──」

 

「答えになっていないよ?だって君は冷静さを保ったんじゃなく、何も感じなかったんだから」

 

知っているという様子の束。

流星の表情が険しいものになる。

流星としても不思議で仕方無かった。

よく知らない他人の言葉など取り合うこともない筈なのに、何故か彼女の言葉は捨て置けない。

苦しいと言い表すなら今なのだろう。

 

内から嫌悪が顔を出す。

矛先は彼女ではなく──────。

 

「…」

 

「それを受け入れられずにいるから君は凡人なんだ。考え方を変えればいい、君に罪などないよ。あるとすればそれは世界(まわり)の方。憎んでいい、絶望すればいい、そうすればきっと君のISは応えてくれる」

 

妖艶ともとれる甘い囁き。

まるで何かを誘導しているようだった。

 

流星は拳を強く握る。

そうは成らない、そう在ってはならない。

 

束は内心を読みつつ、優しい笑みを浮かべる。

流星が考え込む様子を観察すると、答えを待たず言葉を告げた。

 

「手伝ってあげようか?」

 

「手伝う?どういう…」

 

「───君とよくいる4人の誰かが死ねば、変化があるかな」

 

「─────」

 

反応は早かった。

思考は切り替わり、両手を槍ごと部分展開。

機械的に、黒い槍が振るわれた。

 

「かっ!?」

 

中庭に流星の身体が放り出される。

地面を転がるも体勢を立て直し、槍からサブマシンガンに切り替える。

構えて撃とうとした所で束は彼の眼前に立っていた。

ISも展開せず、高速の奇襲にカウンターの蹴りを放ち、すぐさま距離を詰めている。

思わず流星の額を冷や汗が流れる。

想像を超えた規格外っぷりに感動すら覚えそうだ。

 

サブマシンガンの引き金を引く瞬間に、左手にナイフを持った。

ナイフを振るう瞬間にフックショットを放とうとする。

間近で軽々とバク宙で躱され、フックショットを掴まれた。

反応する間もなく、体勢を崩され上を取られる。

やはり、と流星は不満そうに眉を顰める。

出し抜くなんて出来るほど可愛い差では無い。

初手の槍も展開に合わせ、射程を悟らせないタイミングだったというのに普通に反撃された。

 

「束さんは身体能力も規格外なのでしたー。分かっていたのにらしくない行動だね」

 

「っっ!」

 

束の足は流星の胸部を踏み付けて離さない。

振りほどこうとしても、それは強く地面と流星の体を固定する。

流星は抑えつけられながらも選択肢を吟味する。

 

「足掻いても無理だよ。結局、そもそもの反応速度も身体能力も足りない。君が1番わかってる事だ」

 

「っ…」

 

咄嗟に全身ISを展開し、束を振りほどく。

改めて対峙する形で向き直った。

次の手を考える流星に対し、束はあっさりと背を向けた。

隙はなく手出しは出来ない。

 

「今の反応が見れただけで良しとしよう。流石にこれ以上騒いでたらちーちゃんにバレるし」

 

「待て。アンタはオレにどうさせたい」

 

「さあね。自分で考えなよ」

 

束は軽快な身のこなしで屋根を飛び越え、姿を消した。

流星はそれを見送ると、ISを解除する。

張り詰めた空気からはあっさり解放された。

 

…篠ノ之束という存在を再度認識し直す。

掴めない人物、その程度の認識だったが違う。

アレは何か企んでいて流星を何かしらの形で利用しようとしている。

 

──特別なIS。

海で言われた言葉を思い出す。

『時雨』の事を指しているのだろうが、イマイチピンと来なかった。

 

そっと待機形態のISに触れる。

当然、答えなど返ってこない。

 

 

再度廊下に戻り、今度こそ待機していようと歩き出した。

瞬間、ドタバタと走り回る音。

姿を現したのは真耶だった。

 

「!」

 

「あ!今宮君!?ここに居たんですね!?」

 

「?」

 

「良かった…今宮君も居なくなっちゃったかとばかり……!」

 

分からないと首を傾げる流星に、真耶は慌てながらも駆け寄る。

慌てている理由を推察して福音関連だろう。

戦況が動いたのかと尋ねようと口を開くよりも先に、落ち着きを取り戻した真耶は内容を告げた。

 

 

「────待機させていた専用機持ち皆が居なくなっちゃったんです」

 

 

 

 

時刻は、少し遡る。

呆然としながら夕暮れの砂浜に訪れる影。

長い髪を潮風にたなびかせながら、その人物は足を止めた。

足取りは朧気──それは身体的というより精神的に参っている証拠でもあった。

一夏の病室に居ることも耐えられず、気付けばここに居た。

 

「……」

 

思い返すは彼との思い出。

変わらないこの想いはあの時からのもの。

今よりも遥かに幼かった時から、一夏は箒の為に怒り守ろうとしてくれていた。

子供の記憶、深い意味も何も無いだろう事は分かっている。

しかし、思い返すだけで胸が痛くなった。

 

あの時から何も変わらない。

──自分は、一夏にずっと守られてばかりだ。

 

憧れだった。

愛おしかった。

離れたくなかった。

だから、今度こそ隣に立ちたかった。

遠ざけていた姉に卑しくも頼り、身内というだけで力を得た。

 

その結果がこれだ。

一夏が居なければ、危うく篠ノ之箒は密漁船を、命を見捨てる所だった。

どうして悪人(そいつら)を助けなければならないか、一瞬とはいえそんな恐ろしい考えで見殺しかけた。

しかし、一夏は怒ることもせずただ諭す様に箒に告げた。

そう思い至った愚かさを否定することも無く、寂しいとだけ。

 

あの時の目が忘れられない。

また暴力に溺れかけた弱い自分を、もはや箒は信じられなかった。

全て、自身の軽率さ、甘さ、愚かさが招いたものだと彼女は何度も自分を責める。

病室に居られなかったのも、一夏を見ているのが辛かったからではない。

一夏を通して感じられる自身の心の弱さや罪深さに耐えきれなかっただけだった。

 

顔を上げ海を見る事すら叶わない。

責められた方が何倍もマシだったのに、流星やラウラはそのような言葉は口にしなかった。

彼の怪我も自身がちゃんと判断していれば有り得なかった筈なのに。

皆の優しさも居た堪れない。

間が悪かった訳でも何でもない。

 

何も見えなくなっていた自身が─────。

 

待機形態になっていた専用機を手に取る。

スズが付いたブレスレット。

それを外し握りしめる。

 

──こんなものに頼ろうとしたから。

これを持っている限り、篠ノ之箒はまた道を踏み外す。

惜しさは勿論ある、だが最早箒はそれを手放さずに居られなかった。

そうやって、直ぐに放り投げられない自分に気付く。

投げようと振りかぶった腕はだらんと力なく下へ。

 

「あーあ、わっかりやすいわね。箒」

 

聞きなれた声。

いつもなら何かしら返事をするところだが、彼女にはそんな気力は残っていなかった。

振り返った先に居たのは鈴。

夕陽の眩しさにも潮風の強さも気を留めることなく、いつもの調子で箒を見ている。

彼女の後ろには専用機持ち達が少し離れて立っている。

 

 

「一夏がああなったのってあんたのせいよね?」

 

「……」

 

「で?あんたは落ち込んでますって?ポーズ?」

 

返答はない。

箒は言われるがまま俯いているだけ。

少し返答を期待していた鈴がため息をつく。

波の音により箒には聞こえない。

 

「……、悪いけど(あたし)はあんたを慰めに来たんじゃないの。──第二ラウンド、行くわよ」

「私は、ISはもう……」

「何?」

「私はISはもう、使わない…」

 

俯いたまま呟く箒。

箒の言葉を聞き、鈴はズカズカと彼女に近付く。

迷わず、胸倉を掴んだ。

 

「甘ったれるのもいい加減にしなさい!あんたのそれは反省でも何でもない。助けてくれる誰かを待っているだけじゃ何も好転しない。あんたは望んでそのISを手に入れたんでしょう!なら、今は落ち込んでる場合じゃない───それにね、専用機持ちって言うのはそんなワガママが許される立場じゃないのよ!」

 

「お前達と……私は違う。お前達のような代表候補生でもないただの凡人の私に、何ができると言うんだ…っ」

 

箒は涙を浮かべながら無力を噛み締めていた。

胸倉を掴む手に力が籠る。

グイッと無理やり箒と視線を合わせる。

 

「知らないわよ、そんな事。それにね言ってあげる。今のあんたは無力な凡人でも何でもない、ただの臆病者よ!肝心な時に立ち上がれないあんたなんて、一夏もすぐ愛想を尽かすわ」

 

「……っ!言わせておけば!」

 

鈴の言葉に箒は怒りを顕にした。

瞳に微かに意思が戻る。

 

「お前に私の何がわかる!代表候補生で自力で専用機を手に入れたお前たちに!凡人の何が───」

「あんた、(あたし)達が羨ましいの?」

「ああ、そうだ!普段から積極的なお前達が!こんな時も強く居られるお前達が私は───!」

「お前達、ね───なら、あんたも一夏にフラれたいの?」

「っっ!」

 

ハッと箒は我に返る。

鈴は内心、それは自分だけの話だけどねなんて呟く。

 

思ったよりも平気だった。

自身が思っていたよりずっと気にならないようだ。

一方箒はどう答えればいいか分からなくなっていた。

鈴は一転、呆れながらも冷静に告げた。

 

「結局羨んでも後悔しても何も変わんないの。自分が出来ることをするだけ、簡単で良いでしょ?後ね、勘違いして欲しくないんだけど、もしあんたの立場なら(あたし)もコネでISを手に入れただろうし、そこをグチグチ言う気はないから」

 

「……やはり、鈴は凄いな。私も、変われるだろうか?」

 

「だから知らないわよ。けど、変化しないものなんてない──らしいからあんた次第だと思う」

 

知らない、とバッサリ跳ね除けた鈴に思わず箒は笑みを零した。

鈴らしいと感じつつ、顔を上げる。

 

手に持っていたブレスレットを再度手首に付け直し、鈴と専用機持ちに向き直る。

頭を下げ、先程までとは違った覇気のある調子で意思を表す。

 

 

「──改めて、勝手を承知の上で頼みがある。どうか私も同行させて貰えないだろうか」

 

 

その言葉に全員が頷く。

肯定の意。

ラウラが代表して一歩踏み出し歓迎する。

タッグトーナメントからは考えられない光景であった。

 

「こちらからも頼もう。篠ノ之箒、力を貸してほしい」

 

ホッとセシリアやシャルロットが安堵の息を漏らす。

鈴は一同の後ろまで下がりながら、わざとらしく伸びをした。

 

「あー面倒くさかった。二度とやりたくないわ」

「でも流石鈴さんですわね。他の方ではこうは行きませんから」

「そう言う割にセシリアは心配そうだったけどね?」

「なっ!?シャルロットさんもソワソワしてましたわ!」

 

金髪コンビのやり取りに鈴は頭を抑える。

気持ちは分かるが双方不安で仕方が無かったようだ。

勿論、その場にいる全員が流石鈴だと内心褒めているのは言うまでもない。

鈴や簪以外の面々も恋敵だとか関係なく箒を心配していた事が伝わってくる。

 

確かにいい空気では無かったが、と鈴は視線を簪に向ける。

簪は鈴相手は大分慣れている故にさっくりと本心を漏らした。

 

「私も冷や冷やしたかな…。鈴ってバッサリ言っちゃうから……」

「次からあんたに任せる事にするわ」

「…鈴じゃないと絶対無理」

「ふふん、分かればいいのよ」

 

鈴は簪に返事をしながら額をデコピンした。

あぅ、と簪は可愛い声を出しながら頭を抑える。

 

「福音の位置は?」

「我がドイツ軍の方で探知している。座標を送ろう」

 

ラウラから箒は座標データを受け取る。

ラウラによると福音は今岩礁の上で休息しているようだ。

 

 

「改めて皆、覚悟は出来ているな?」

 

ラウラの言葉に一同は頷く。

待機の命を破って赴く第二ラウンド。

箒以外は自身の立場もあり、成功しようとも何らかの処罰は下るだろう。

ただ、彼女達は感情を優先した。

愚かだと賢者は笑うだろう。

子供だと大人達は咎めるだろう。

最悪な事態も脳裏を過っている。

それでも、想い人が、または友人がああなって黙っていられる訳ではなかった。

 

「鈴、簪。本当に流星には何も言わずに行くが、構わないのか?」

「ええ。アイツ怪我してるしそれに──」

「──なるべく、流星にはああいう場に来て欲しくない……かな?」

 

鈴と簪は顔を見合わせながらラウラに答えた。

ふむ?とラウラは微かに首を傾げたが、これは当然の反応。

 

流星のここ最近の様子や束とのやり取りを見た鈴と簪は互いの情報を共有していた。

彼が少年兵として戦場にいた事や、襲撃された際の明確な違和感等。

そして先の任務での様子。

冷静さが崩れることはない、ただ心配するとすれば内の方。

少なくとも今の彼は違和感がある。

 

だからこそ、ここで自分達が終わらせる───そのような思いがあった。

 

 

「よし、行くぞ」

 

 

各々が覚悟を決め、ISを展開する。

砂浜に残された足跡は全て同じ方角を指し示していた。

 

 

 

 

 

そして、少女達が海岸を後にして少し。

花月荘内の司令室である教員が慌てた様子で振り返った。

見付けたとの報告。

別のモニターを見ていた千冬と真耶は直ぐに顔を上げ、結果を中央の投影ディスプレイに映し出す。

写し出されるのは専用機持ち達の反応。

 

「やはり福音を倒しに向かっていたか」

 

千冬は眉を顰めつつ、呟く。

真耶は細かな位置を割り出すべく手を進める。

司令室の一角には流星が待機させられていた。

真耶は即座に細かな座標を割り出し、衛星からの映像を表示した。

大まかではあるが、戦闘を行っていることがわかる。

 

先の戦闘を行った場所からも離れていた。

動き回る幾つかの光。

夜空で動き回るそれはISのスラスターのもの。

 

その中でも一際明るく、そして銀の光を複数放つ福音が映る。

相対するは国家代表候補生と箒。

先の落ち込んでいた姿を知るだけに真耶の顔が一気に不安で曇る。

 

「織斑先生!」

「落ち着いて下さい、山田先生。こんな時こそ我々が冷静にならなくてはいけません」

「でも!」

「通信は安定していない上、撤退命令を出したところで福音は交戦モードに完全に移っています。かえって危険だ。それにこうなった以上彼女達が引き下がると思えない」

 

冷静に告げつつも、千冬の拳が強く握り締められている事に流星は気が付く。

他の人間は角度的に見えていない。

 

「……」

 

あくまで流星がここに居る理由はどちらかと言うと監視されている側面が大きい。

流星まで居なくなる可能性を考えた教師陣が手元に置いている状態だ。

別段、流星も逆らう気は無かった。

千冬の感情を押し殺している様を見て、感じるのはいつもと同じ1つのもの。

湧き上がる嫌悪感、向かう先は端から1つ。

代表候補生達のようにはなれない、思えない。

故に流星は冷静に映像を眺める。

 

このままでいいのか。

 

微かな自問。

疑う余地もなく、自身が出張って出来ることなどない。

見る限り連携も取れている彼女達に余計な世話を焼く気もない。

 

──不意に、脳裏を束の言葉が過ぎる。

罠の可能性も否定出来ず、根拠も何も無い。

流星があの場に行くことこそ悪手である確信はあった。

 

「……」

 

考えつく有り得ない選択。

気紛れに近い何かに従いながら、彼は静かに立ち上がった。

 

「織斑先生。───俺が出ます」

 

自分自身が何故そんな発言をしたのか、彼には分からない。

変化や進歩というには余りにも些細でやはり気紛れという言葉が合っていた。

無論、それだけでは無い(・・・・・・・・)

 

千冬も彼を一瞥し、険しい表情。

 

「駄目だ。お前に何が出来る」

「先生だって分かってるはずです。この状況、動ける人間が休んでいる場合じゃないでしょう。そもそも止める前提では福音をどうにか出来ない」

 

「……」

 

彼の瞳は有無を言わせない何かがあった。

仮に止めても出ていく、そう直感した千冬は彼に背を向けた。

 

「───ならば、任務を与える。今宮流星、あの馬鹿どもを連れ帰ってこい。あくまで任務は帰還だ、分かったな?」

「ええ、わかりました」

 

 

千冬は彼とは目を合わさず、部屋から出ていく彼に背を向けていた。

 

実力が如何に規格外のものであろうとも、今何もしてやれない。

あくまで動けるのは生徒たち。

どの判断が正しいか悩みつつも苦渋の選択であった。

 

嫌な胸騒ぎがして仕方ない。

千冬の表情から内心を読み取った真耶はどう言葉を掛けていいか分からなかった。

 

 

流星は部屋を出てすぐ、一夏が寝かされている部屋に向かった。

戸を開けて、部屋に入るとすぐ目に入ったのは幾つかの機械に繋がれた一夏の姿。

……、……。

立ったままその光景を数秒眺め、彼は直ぐに背を向ける。

やはり、と呟きながらその先は飲み込む。

再度戸を開けて、廊下に出る。

そしてそのまま中庭まで移動した。

 

彼はISを展開し、屋根に飛び移ると視線を上へ向ける。

 

 

見上げた空は既に陽が落ち、夜空へと姿を変えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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