IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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太平洋のある海上、ゴツゴツとした岩が幾つか見られる岩礁地帯。

陽はすっかり落ち、夜の闇が深まる中幾つもの光が舞っていた。

点滅する光。

スラスターの出力と共に風を切る音が聞こえる。

動く金属の塊。

本来ならば飛ぶはずがないような代物が鳥よりも自在に駆け巡る。

その中で一際自在に動く銀色。

 

 

「っ!デタラメな機動力ですわねっ!」

 

青白い閃光が銀の横をすり抜けていく。

頭では分かっていたとはいえ、目の前でこうも簡単に躱されるのは気に入らない。

 

反応速度は先の小競り合い時よりもかなり高い。

福音が完全に交戦モードへ移行した証拠だ。

 

セシリアは蒼の機体を駆りながら視線を上へ。

自身は後衛側。

意識をなるべく味方の位置にも向けつつ、位置取りを変える。

スターライトmkⅢで狙撃しつつ、即座に離脱。

強襲離脱用高機動パッケージによりそれは可能となっていた。

移動に割く分ビットが飛ばせないが殲滅用である福音相手ならば問題は無い。

下手にビットがあった所で撃ち落とされるのが関の山だ。

 

俯瞰するように周りを見ながらポイントへ誘導。

同じく後衛側のラウラが、砲戦パッケージにより二門になったレールカノンを良いタイミングで合わせてくる。

ラウラはセシリア程撃てる訳では無いが、狙う位置が中々にいやらしい。

片や高速下の射撃精度に、片や立ち回りの上手さに感心しながら戦う。

 

砲弾とレーザーを躱し福音は二人の動きを飲み込み始めた。

躱し方が紙一重のものに変わり、早くも反撃に移る。

 

「そうは───」

「させない……!」

 

それを上空から迫った二機が止めるように割って入った。

簪とシャルロット。

前後衛兼任組として区分された二人はそれぞれのサブマシンガンとショットガンで仕掛けに行く。

戦い方が上手いシャルロットと、ある程度前でも全体が把握出来ている簪は前後衛どっち付かずの立ち位置。

普通なら高い機動力もあって簪も後衛側なのだが、本来の武装が未完成の都合と持っている武装が汎用で豊富である為この役割だ。

 

後衛組の援護の中、二人は近接射撃戦を続ける。

福音の装甲を数発掠める。

しかし即座に福音はこれにも対応。

羽ばたくように上へ。

同時に銀色のエネルギー弾がシャルロットと簪を襲う。

当然防ぎきれないが、二人は盾を展開し防御に移る。

レーザーと回避先を読んだレールカノンに福音は一瞬攻撃を止める。

当たってはいないが満足に武装を使わせないのが目的の為、問題ない。

シャルロットと簪は武装を切り替えながら横に飛び退く。

 

「箒、合わせなさいよ!」

「ああ!」

 

上と下からの近接武器による攻撃。

上からは青龍刀が、下からは日本刀が鮮やかに切り込む。

二振りの双天牙月、雨月(あまづき)空裂(からわれ)の二本。

計4本による巧みな攻撃は福音を捉えた。

 

前衛組は鈴と箒。

二人が適任なのは語るまでもない。

 

一気に離脱を計っていた福音も転げ落ちるように姿勢が崩れる。

 

高機動といえど、流石に躱しきれなかったようだ。

 

「鈴!下がるぞ!」

「ええ!」

 

前衛組が一旦中距離へ。

下手に近距離に居続ければ『あの』高火力兵装に反応し切れない為だ。

 

福音が次の行動を起こす前に後衛組と兼任組が攻撃を続ける。

飛び交う弾幕。

鈴もパッケージにより龍咆の砲門が増えている為、衝撃砲を離脱時に放っている。

仕様が変わり視認出来るようになっているため、連携もやりやすくなっている。

 

福音の行動をひたすらに妨害する為攻撃を続ける。

如何に代表候補生までのし上がった5人が居たとしても、練習もなく6機での連携など不可能だ。

故に役割を決め、役割ごとのツーマンセルを基本とした。

 

6機の連携ではなく、3組の波状攻撃。

一応他の面子を意識してはいるが、優先順位があると難度は劇的に変化する。

結果遥かにレベルの高い連携と化していた。

 

根幹たる役割の提案はラウラ。

6人である事を棄てたツーマンセルの発案者は簪。

 

そして、役割ごとのツーマンセルへと昇華したのはセシリア。

以前真耶を相手にした際、得意距離の違う人間と即興で組む難しさを痛感しての事だ。

反対はゼロだった。

幾つかの状況だけ打ち合わせし、彼女達は全力で己の実力を発揮する。

 

改めて遠い背中だと箒は実感する。

ただそこにもう暗い気持ちはない。

今はただ頼もしく、自身も全力を出さんとしている。

 

 

『──』

 

息もつかせぬ攻防が続く。

福音も攻撃しているが、自由には出来ていない。

エネルギー弾は凌げている。

 

何度もタイミングをズラし、順番も臨機応変に切り替える。

兼任組のみ距離を気にせず動き、福音の翻弄と周囲のサポートに尽力する。

 

 

戦況は優勢。

少しずつ福音を追い込んでいる。

だとしても油断はならない。

相手は軍用機。

1つの綻びが全滅へと繋がる。

ただ失敗しないように動いても意味は無い。

あくまで攻め続けた。

 

 

「っあ!?」

「シャルロット!?」

 

そして、緩やかに運んでいた戦況がついに大きく動く。

福音がカウンター気味にシャルロットを捉えた。

首元を掴み、追撃を計ろうとした所で簪が体当たりするようにシールドで殴り飛ばす。

 

『!』

「お返しだよ!」

 

解放されたシャルロットは即座にパイルバンカーを、灰色の鱗殻(グレー・スケール)を叩き付けんと踏み込んだ。

同時に簪も近接ブレードで切り掛る。

福音は紙一重でそれらを躱し、背部の砲門をシャルロットと簪へ向けた。

 

「させるか!」

 

土壇場で急加速して突っ込んだ箒の突きは福音の肩へ。

大きく仰け反る手前でラウラが声をあげていた。

 

「──畳み掛けろっ!」

 

レールカノンと龍咆が福音へヒットし、立て直す事を阻止した。

各々が一斉に攻撃しようとした所に、福音は構わず攻撃を放たんとする。

 

咄嗟に鈴が蹴りを入れ、福音が落下の軌道を描く。

しかし、照準は依然として彼女達を捉えて──────。

 

 

(わたくし)を忘れていましてよ?」

 

3射、間髪入れずに閃光が走る。

蒼の機体が高速機動下で引き金を引いていた。

今度こそ福音の砲門&スラスター部である銀の鐘(シルバー・ベル)を捉え、福音は完全に海へ落下していく。

銀の機体の背面が炸裂し、海面に。

 

水柱が吹き上がる。

下手な追撃は悪手。

集中力を保ちつつ、様子を窺う面々だが今回ばかりは手応えを感じていた。

 

あと少し。

主武装である翼はこれで完全に破壊した。

 

こちらに傾いた戦況を前に乱れた息を整え次に備える。

 

 

───瞬間、海面が爆ぜた。

 

 

「なっ!?」

 

驚きの声は誰のものか。

膨大な出力を感知し、目を丸める。

海面の水が持ち上がるように白銀の翼が姿を現す。

 

昼のように一瞬だけ周囲が明るくなった。

光源は勿論銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)

 

姿が変化していた。

破壊された銀の鐘(シルバー・ベル)とは違う、白銀のエネルギー。

 

翼を象ったそれは天使のそれを連想させる。

全員が息を飲み、理解した。

 

「──第二次移行(セカンドシフト)!?不味い───!」

 

速攻で動こうとするラウラ。

ラウラの声で全員がすぐ来るであろう攻撃な備えた。

 

『La──』

 

羽ばたくように翼が動く。

撒き散らされる銀の弾幕は上空目掛け、炸裂した。

 

「私達の後ろに────!」

 

回避は不可能。

弾幕の多さに一瞬で悟りラウラやシャルロット、簪が前に出た。

言葉を交わす暇もなく、残り3人は彼女達の後方へ。

ラウラ達はシールドを展開、銀の雨が下からやってくる。

 

「……っ!」

 

着弾、小規模だが幾つもの爆発が起きた。

攻撃を防ぎ切れず、3人の身体が後方へ投げ出される。

ただ、それにより出来た攻撃の隙間からセシリア達は難を逃れた。

 

「3人とも無事でして!?」

 

「何とか……」

 

簪が即座に応答し、セシリア達は直ぐに意識を福音へ向ける。

あんなものを連発されては堪らない。

 

セシリアは大きく上昇しつつ、射撃に移る。

箒は正面からエネルギー刃を放ち、牽制。

牽制と同時に鈴が回り込みながら接近を試みる。

 

遅れてシャルロットと簪も続く。

彼女達はサブマシンガンを展開、引き金を引いた。

 

福音はエネルギーを充填しながら海面から離れる。

機動性も先より高い。

 

それでも、とセシリアは照準を直ぐに合わせ直す。

 

『───』

 

2回目の攻撃は更に速かった。

振るわれる翼。

拡散する銀色に全員退避を余儀なくされる。

一斉に後方に飛び、弾幕の密度が薄い場所へ場所へ回避する。

 

完全な回避は難しく、箒が被弾する。

盾で受けている面々含め、他も少しずつ被弾する。

 

「箒っ!」

「だ、大丈夫だ。それより──」

「休んでる暇は無さそうね……っ」

 

箒が体勢を立て直す。

鈴も頷くと2人は互いに背を向け、一気に離脱した。

 

その場をエネルギー弾が通過する。

撒き散らされる攻撃。

全員が回避や防御に精一杯で受け身になってしまった。

 

第二形態へと進化した福音は圧倒的殲滅&制圧力を見せ付ける。

 

それでも──、と各自武装を展開し、構える。

 

少女達の双眸には諦めの色は見られなかった。

 

今度は、福音が一気に距離を詰めに来る。

標的は後衛組のセシリアとラウラだ。

福音は銀翼を振るい、彼女らに攻撃を浴びせる。

助けようと後を追う皆の中、簪は1人立ち止まる。

 

「…!」

 

簪はすぐに武装を25mmのガトリング砲に切り替えた。

流星との模擬戦で用いた武装であり、攻撃中ほぼ動けなくなるもの。

 

この状況下ならば下手に近付くより、または狙撃するより有効だ。

狙いが2人に向いた今ならばと狙いをつけた。

 

砲身を回転させながら銃弾が飛ぶ。

福音は着弾より先に横へ。

 

「!」

 

次の瞬間には簪の眼前を埋め尽くすように、エネルギー弾が降り注いだ。

しかし、直撃には到らない。

シャルロットが簪の近くで盾を片手に待機していたからだ。

彼女は衝撃に耐えながら下がっていき、何とか凌ぐ。

 

福音はレールカノンを避ける為攻撃を中断。

セシリアの攻撃もそのまま避ける。

不意をつくように仕掛けられた箒や鈴の中距離攻撃も難なく躱される。

 

「セシリア、頼みがある」

「──ええ、任されましたわ」

 

その直前に交わされていたやり取りを福音は知る由もない。

躱した先には瞬時加速(イグニッション・ブースト)で急降下したセシリアが居た。

高機動パッケージの名に恥じぬ機動力でセシリアは潜り込んでいる。

彼女の手にはインターセプターというショートブレードが握られていた。

当然、口頭での呼出(コール)ではなく眼前での展開。

 

土壇場でイメージするのは一夏の姿。

稀に見せる彼の鋭い踏み込みを思い出しつつ、福音に斬りかかった。

 

『──』

「っ!そう上手くは行きませんわね……」

 

セシリアは自嘲気味に笑う。

福音に掌ごと受け止められており、攻撃は届いてはいない。

振りほどこうとするも、ギチギチと音を立てるだけ。

 

───後方から黒い影が迫る。

 

一閃、プラズマ手刀が敵を捉えた。

 

福音の手が離され解放されたセシリアはレーザーライフルを構え、ラウラもまたレールカノンを構える。

一度しか許されないハイリスクな後衛組の強襲。

普通ならば反応など適わない───。

 

 

『───』

 

──超速で反応し、翼が振るわれる。

2人が挟むように撃つ瞬間、エネルギー弾もまた両者を襲わんと───。

 

そこへ、ガトリング砲が命中した。

よろけた福音、それによりラウラ達へ当たるエネルギー弾が大幅に減少する。

小規模の爆風を複数受けながら吹き飛ばされる二機。

しっかり二人の攻撃は福音を捉えていた。

 

福音は止まらない。

 

攻撃を受けつつも、福音はエネルギー弾を全方位に放った。

咄嗟に前衛組2人は吹き飛ばされた後衛組のフォローに回る。

 

福音は攻撃を放つと同時にガトリング砲を放つ簪へ。

途中止めに来るシャルロットを殴り飛ばすと、一目散に簪に向かいつつエネルギー弾を飛ばす。

 

「うぐっ!?」

 

大破する武装。

よろけながらも反撃に移ろうとする彼女の首根っこを福音は掴む。

 

銀翼が大きく広がり、彼女を包まんとする。

 

「簪ッ!!」

「不味いっ!」

 

鈴と箒が飛び出し、体勢を立て直したシャルロットも止めようとした。

各々が行動を起こそうと武装を構え───瞬間、銃声が聞こえた。

 

 

『!!』

 

───福音の腕部への精密な射撃。

一瞬セシリアかと思ったが、それが実弾である事に全員気が付く。

福音は咄嗟に手を離し、続く弾丸や前衛組とシャルロットの弾を躱すため距離をとる。

 

 

「無事だな?簪」

 

聞き慣れた声。

飲み込むよりも早く視界に原因が映る。

────眼前へ、灰色の小柄な機体が降り立った。

 

 

 

 

「撤退は…やはり無理そうだな」

 

すぐに再開された戦闘に参加しつつ、流星がポツリと呟いた。

 

視線の先にいる福音は銀色のエネルギー翼を纏い、依然として周囲に照準を合わせている。

機動力も何もかも向上しており、しかも完全な交戦モード。

如何に隙を作ろうが、追い付かれ攻撃されるのは日の目を見るより明らかであった。

 

やはり、倒し切る以外選択肢はない。

少女達の戦術を彼は理解し、敢えて単独で動く。

3組の内どれに加勢しようとも、3人以上での連携を練習していない以上危険だと判断したからだ。

基本は味方の動きに沿う───位置をなるべくズラしながら福音を妨害し続ける。

 

 

簪や鈴と言葉は交わしていない。

 

『助けに来てくれたの?』その言葉を前に即答出来なかった。

彼女を軽く一瞥すると、そのまま戦闘を再開する。

助けに来た──状況的にはそうだ。

だが彼はあくまで自身のためにここに来た。

一夏のように誰かを助けるだとかそういった上等なものでは無い。

 

武器を持ち替え、アサルトライフルに。

例え余計な思考が入ろうとも身体は機械的に動く。

 

狙うは急所。

その位置から狙える部位を撃つ。

当然、当たりはしない。

 

しかし、流星が加わる事で頭数が増えた影響はあった。

福音の攻撃する長さが減り、全方位への攻撃は控え目。

地道ではあるが、微かに戦況は有利に傾く。

 

 

不意に、福音がピタリと動きを止めた。

少し考え込むようにも急停止したようにも見える行動に一同は驚く。

も、2秒足らず。

 

『───』

「なっ───」

 

唐突に福音が再び動き出した。

驚きは全員のもの。

 

突然、大きく銀翼を羽ばたかせ強引に全方位に攻撃を放った。

今までで一番肥大化したエネルギー翼。

 

銀の雨が福音を中心に周囲へ。

小規模な爆発が辺りで炸裂する。

凌ぎきれた者は居なかった。

分かってはいたが、やはり殲滅用という事もあり凄まじい。

 

包囲網が崩れ、福音は踵を返すように向きを変える。

向きを変えると同時に、そちらへ急加速。

 

福音の先に居たのは流星。

 

「っ!?」

 

体勢を立て直しながら、何とかIS用ナイフを展開した。

反応は間に合ってはいない。

如何にハイパーセンサーがあろうともISと人が別存在である以上限界がある。

そもそもの反射神経が、動体視力が足りていなかった。

加えて、彼は他の代表候補生ほどISを上手く扱えていない為それを補う事もままならない。

純然たる適性の差もまたそこにはある。

 

とはいえ、ナイフを展開出来たのは彼の危機察知能力があってのもの。

首元目掛けた手刀による突きを彼はナイフで受け流す。

 

「っ!!」

 

眼前に広がる白銀の翼。

正確には片翼だけだが、流星に叩き付けられた。

 

銀のエネルギー弾が飛ぶ。

溜めもない為数は少ないが、接射という事もあり流星は為す術もない。

機体は下へ。

彼は福音を見上げるような状態。

 

────福音が掌を翳した。

掌に仕込まれた銃口が微かに光を帯びる。

 

「っ!」

 

先の高火力兵装。

流星はグレネードランチャーを展開しようと───

 

視界の端に映った機体に、流星は目を見開く。

この速度に付いてこれる者は考えるまでもない。

 

左手のフックショットを放つ。

狙いは福音ではなく真横。

 

『!』

 

福音の追撃は虚空へ。

流星は亜音速で連れ去られる形で距離をとる事になった。

 

福音は静かに振り向く。

そこには皆と合流する流星と箒の姿があった。

 

「助かった。ありがとう箒」

「礼はいい。先程助けて貰ったばかりだしな」

 

「箒、いい判断だ。しかし、何故奴はあのような行動を?」

 

ラウラは疑問を口にする。

特に流星を狙う理由はない筈、と訝しむ。

簪が狙われた時は戦況的な理由があった。

 

「考えてる暇は無さそうだね…」

「みたい、だね」

 

シャルロットと簪が仕掛けようとする福音に先制する。

それを合図に一斉に動き出す。

福音の動きのキレが更に上がっていた。

 

皆の攻撃の中流星とセシリアが交互に狙撃を試みても、掠りもしない。

代わりに見舞われるは銀色のエネルギー弾。

向こうには当たらないのに対し、こちらは面制圧され確実に減らされている。

下手に流れを崩せば、その瞬間流星に向かっていくのは目に見えていた。

 

流星は福音の動きを見つつ、回線を開き全員へ告げた。

 

「少し前に出る。アイツが何故か俺を狙うなら利用すべきだろう」

 

唐突に標的を変える可能性もある。

だが現状は利用する他なかった。

危険性は百も承知。

彼は戦力差や自身の実力を把握した上で前に出る。

先のような不意ではない故少しはマシだろう。

 

意見を待たずして通信を切る。

 

何の躊躇いもなく前に出た。

 

(自分の、命をなんだと……!)

 

簪が彼の様子に歯噛みする。

無論、戦況は分かっている。

だとしても、彼の行動を喜ぶものはこの中に一人もいない。

 

 

『!』

 

福音が真っ先に反応し、翼を翻す。

 

「っ」

 

収束するように流星に攻撃迫る。

エネルギー翼だというのに、しなやかな動き。

本物の翼かと錯覚した頃には眼前に銀のエネルギー弾がある。

 

盾を展開し、なんとか凌ぐ。

凌ぎ切るより先に各々が仕掛けにかかった。

それを福音は意にも介さない。

最小の動きであしらい、最短の距離で彼に詰める。

だが、邪魔が入り最速ではない───。

 

軌道も分かっている為、後衛組の攻撃が音速下の福音を掠めた。

兼任組がそれに伴い弾数の多い武器で牽制し、前衛組が中距離攻撃を直撃させ体勢を変えさせる。

 

 

「捉えた──!」

 

上へ急加速し、流星は踏み込んだ。

手に持っているのはいつもの黒い槍。

福音が掌を翳すより先に顎部分に突き上げるような打撃を叩き込んだ。

 

 

重い一撃。

吹き飛ぶ福音。

 

────なのに、立て直すのは一瞬だった。

 

「!」

『───』

 

ギアがさらに上がったような反応に眼前の流星も驚きを隠せなかった。

羽ばたきと共に辺り一面が銀に飲まれた。

特に前側にいる流星ではなく、後方にいる少女たちへの弾幕量は凄まじいの一言だ。

 

全員が被弾し、爆風と煙が周囲を覆う。

 

 

「────舐めんじゃ、ないわよ!!」

 

唐突に煙の中から飛び出す影。

衝撃砲が福音を横へはじき飛ばした。

間一髪、流星は追撃を逃れた所で、福音の掌が自身に向いていなかったことに気が付く。

 

 

「あ……やば───」

 

────その先は、鈴。

銃口を向けられた鈴も事実に気が付き、間の抜けた調子で声を漏らす。

 

篠ノ之束の言葉が流星の脳裏を再度過ぎった。

 

『─────La』

「っ!!!」

 

 

閃光と爆音が周囲に聞こえた。

 

衝撃で煙が吹き飛ぶ。

ISの装甲の破片が宙を舞った。

いつまで経っても来ない衝撃に鈴は恐る恐る目をあけた。

 

 

「───え……?」

 

理解が追い付かなかった。

目の前に灰色の機体があった。

砕けた盾、焼け焦げた臭い。

 

「……あ、ぁあ……」

 

フラリと機体が傾き、鈴に身体を預ける形となった。

彼女はそれを意識せず受け止める。

 

 

「あ、ああ……ああああ……っ!」

 

ドロりと手に触れるもの。

すぐに、それが赤いと認識した。

理由も何もやっと理解したのに頭が真っ白になる。

 

「う、あぁぁあ、……ああああ……!」

 

言葉が出なかった。

冷静にならねばならないことなど分かっていても、思考は戻らなかった。

震える手で彼を抱き寄せながら、辛うじて眼前にいる福音を認識した。

 

「だ、め……、それは……っ!」

 

ただ、圧倒的に遅い。

既に銀のエネルギー翼は2人を取り囲むように広がっていた。

気付いた瞬間、鈴は彼を庇うように抱き締める。

 

『─』

 

 

ゼロ距離での銀の雨。

爆音が周囲に響き渡った。

 

煙が完全に晴れた瞬間、簪は慌てて戦況を把握しようと辺りを見回す。

狙われていた流星や他の皆の安否が気になり、必死だった。

 

───そんな中、彼女の目に入ったのは墜落していく二人の姿だった。

 

 




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