───微睡みの中、慣れない臭いに彼女は目を覚ました。
「───ここ、は───っ!?」
朧気な記憶を辿ることもままならず、頭を抑える。
微かに頭に走る痛みが彼女の意識を覚醒へと導いた。
起き上がり、見回す。
場所は灰色の草原。
どこまでも続くそれは水平線まで続いているようであった。
不安になるのは、草も空も全て灰色であるという点。
雲が空を覆い、地面もまた植物やらで見えない。
草原の癖に足下は何故かゴツゴツとした感触が伝わってくる。
砂利や石の上に草原を敷いたようだと鈴は独りごちる。
とりあえず、ISを展開して空から様子を見ようと─────。
「……あれ?」
待機形態の甲龍も見当たらず、鈴は小首を傾げた。
自身は制服姿。
特にISを何処かに置いた記憶もない。
「夢、よねこれ……」
どうしてここにいるのか。
彼女は静かに考えるも、直ぐに分からないと結論が出た。
ジッとしている気にもなれなかった為辺りを散策しようと歩き出す。
「貴女は───」
「うわっ!?な、何よ!?何時から居たのよ!?」
唐突に声を掛けられ、振り返る。
背後に居たのは1人の少女。
先程見渡した時に誰も居なかった筈、と鈴は困惑する。
白い髪に黒いドレスのような服。
無機質な緑の瞳。
ドレスのような服なのに煌びやかさを感じさせない少女は、鈴の顔を覗き込むように見ていた。
あどけなさのまだまだ残る顔はキョトンとした表情のまま。
「最初から、居ました」
「えっ、いやいや。流石にこれだけ遮蔽物がない場所で見失わないわよ」
「いいえ、貴女が認識していなかっただけです。注意散漫なだけなのを私のせいにしないで下さい」
「え、えー……」
プイ、と拗ねたように横を向く少女。
よく見ると頬を少し膨らませて分かりやすく怒っている。
感情を顕にする少女に対し、何故か機械的なものを鈴は感じる。
と、そこで鈴は少女の右手に握られている物に気が付いた。
「あ、それって」
「落ちていたから返しに来ました」
「ありがとう。あれ?でもどうして
「聞いたからです」
「?」
益々分からないと首を傾げる鈴に、少女は静かに待機形態の甲龍を差し出す。
まあ、いいかなんて軽い気持ちで受け取ろうと鈴は手を伸ばし────
「あ……」
────指先が少女の手に触れた瞬間、空間が揺れた。
テレビの画面にノイズが走ったように、何かが横入りする。
断片的に流れてくる何か。
銃声、爆音、そして自身の走った際の微かに聴こえる金属音。
手元にあるのは銃。
視点は周囲の建物に身を隠していた。
いつの間にかあの草原もどこかへ消えている。
「どこよ……ここ……」
灰色の世界。
あまりにも色に乏しいその世界は、視点の主の状態を表しているようにも取れる。
単に色が捉えられて居ないというわけでもないだろう。
──戦場。
鈴がそうだと理解するのに時間は要らなかった。
理解したところで、見えないようには出来ない。
視界の端に転がるモノ。
灰色の世界にやけに鮮やかに映る色に惹かれ───つい見てしまう。
鮮やかな赤。
それは視点の主にとって紛れもない死の色。
「───…っ!?」
胴体に綺麗に穴が空いていた。
小さいが、鮮やかな赤が滲み出ている為すぐに分かる。
肉がえぐれている部分もあった。
鮮やかな赤はその死体から周囲の地面を赤にする。
それ以上は勢いよく広がることは無かった。
もう心臓は止まっているのだから。
その者の瞳孔は開ききっていた。
息が詰まる。
息を吐いていたのか吸おうとしていたのかさえ分からなくなった。
───反応を許さず、場面は切り替わる。
断片的に流れてくるソレは人の死に様だった。
敵兵。
味方。
善良な市民。
強盗。
犯罪者。
友人。
軍人。
雇い主。
裏切り者。
立場も死に様もひとつな訳が無い。
四肢が飛び、それでも生き長らえて弱っていく様まで流れ込んでくる。
「─────っぇ!あっ、っ!!」
明確な死を目の当たりにし、思わず嘔吐しそうになる。
いや、何度吐いたか分からない。
それ程までに鈴は断片的なソレらを見てしまう。
臭いも音も、全て。
頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。
「────何よ、これ」
何とか息を整えつつも、顔を上げる。
それは記憶だった。
誰のもの等考えるまでもない。
「────流星の…」
目の前の光景が移り変わり、嫌でも見せられる。
流星が命を奪う様を。
流星の目の前で人が死んでいく様を。
「っぇ……っ!っ!」
鈴は、身体を震わせながらもその記憶の断片と向き合う。
移り変わる光景に口を抑え、吐気を堪える。
これは彼が内に秘めたもの。
誰も深くまで知らず、日常を共に過ごした存在の凄惨な過去。
ここで向き合わなければ、嘘だと思った。
────心が折れそうだった。
臭いも音も、リアルな触感まで伝わってくる。
まるで目の前で今起きているような錯覚さえしてしまう。
1番問題だったのはそこでは無い。
流れ込んでくる彼自身の感情の断片。
「──────────っ!…」
何よりも、それがキツかった。
殺しても目の前で友人が死のうとも、彼の中に高揚感や絶望感はない。
無感動───そう形容した方が早いくらい、彼の心は空っぽだった。
人の死に心が動かない。
目の前の肉塊に想うことなどない。
友人が死んでも、少し勿体ない程度にもいかない感傷。
殺すのに慣れてしまったとかそんな生易しいものでは無かった。
彼に感情が無いわけでも無い。
誰かが死ぬ度、動かない心に傷付いていく彼自身がそこには居た。
非情になれる訳では無く、ただ人を人と思わない
───こんな自分が生き残るべきでは無い。
───自分が生き残らなければ死者への否定である。
矛盾していた。
どちらも根源は自責の念。
数多の死体を積み上げ、その上で何も感じず生き長らえる自身に嫌悪する流星の抱えるもの。
「やめて、よ……」
ポツリと漏らす言葉。
記憶は絶え間なく切り替わり続ける。
彼のそんな内面すら摩耗し出す程、地獄は続く。
地獄から抜け出すには国を幾つも股がねばなければいけなかった。
抜け出す術など当然彼は持っていない。
殺し殺される状況でただ無感動に命を奪う。
微かな恐怖心に安堵すら感じる程、彼の心は更に壊れていく。
伝わってくる悲壮感はもうなりを潜めていた。
残ったのは自身への嫌悪感。
「やめてよ…、お願いだから、もう、やめなさい………よ……」
力ない言葉。
このままでは彼はもたない。
そんな所に居てはいけない。
そんなことをし続けてはいけない。
もっとも、既に過ぎたことである。
それでも、────思わず鈴は目の前の光景に声を挙げずには居られなかった。
分かってしまっている。
彼は慣れたのでも、段々壊れていったのでもない。
────既に、壊れていた。
耐え切れずに座り込む。
目の前で起こる惨劇から目を離すまいと何とか顔を上げた。
そんな中、最初の人殺しの場面がやってくる。
「……っ!!」
それは嬲られる視点。
そして、喉に喰らいつき命を奪いに行く子供の視点でもあった。
吐きに吐ききったと思っていた鈴も、思わず口を抑え再度嘔吐く。
「げほっ……ぉぇ……ぁ……げほっ……!」
最初に見なくて良かったと不謹慎にも思ってしまった。
キャパシティオーバーの今だからこそ、この程度で済む。
もっとも、断片であり灰色の世界故の緩和もある。
この部分だけは、臭いも音も触感も無かった。
あれば、どうなっていたか分からない。
それでも、彼の絶望は漏れ出て伝わってきた。
両親が死んだ時には気付けなかった、自身の失った部分。
男を殺した事よりも、嬲られた事よりもその事実が彼を蝕む要因となった。
断片はそこでピタリと止まる。
灰色の世界の雲もその流れを止めた。
記憶から解放されても、鈴は呆然とその場に座り尽くしていた。
気付けば、先の草原に戻って来ている。
「───」
鈴は立ち上がる事もままならなかった。
少年兵や傭兵をしていた、そんな過去は一度千冬から聞いた。
といってもそれだけでしかない。
こんなものだとは、想像出来なかった。
他人事だと心のどこかで甘えて想像していなかった。
強く後悔する。
「こんなのっ……どうしろって言うのよ……」
ただ日常を謳歌し、彼が平穏に過ごしたとしてもその内側はきっと救われない。
平穏を望んでも世界はそれを阻む。
二人目の男性操縦者という名札はもはや外しようがない。
何よりこのままでは彼自身がただ平穏を享受することを望まないだろう。
かといって、争いの中に身を投じる事も死に近づく事になる。
死ぬことなど許されない。
だが生きているだけで、死を望む程の嫌悪感に苛まれていく。
二律背反なものは何れ破綻し彼自身を殺す。
彼が彼自身を認めない。
彼は彼自身を赦さない。
当然、壊れてしまった以上、元に戻ることも無い。
今突き付けられた部分も、壊れた一側面でしかない。
自分では恐らく何も出来ない。
彼の矛盾を真に理解出来るのはきっと────。
ポロポロと涙が零れた。
想い人の悲壮な感情だけが分かっても、何も出来ない無力さに悲しみが込み上げる。
同時に、崩れ落ちていく世界。
鈴はぼんやりと灰色の空を見上げていた。
───このまま目を覚ますのだろうか。
前後の記憶がはっきりと戻る。
流星は高火力兵装の直撃を受けていた。
自身は追撃で気絶したに過ぎない。
流星への心配はあった。
怪我は生易しいものでは無かった。
軍用機の、データにも無かった高火力兵装を受けている。
「…戻らないと…」
──アイツが、危ない。
危機感が彼女を無理やり奮い立たせた。
涙を拭き、立ち上がる。
目の下は真っ赤に腫れていた。
まだ今にも泣き出しそうな顔で記憶の断片へ背を向ける。
「!」
崩れ行く世界。
振り返ったところで、鈴は驚いて立ち止まった。
「───」
「!」
足元が崩れ、座り込んでいた草原が消え去る。
その下に隠れていた骸たちもまた、一瞬で消え去っていく。
「────なっ」
足場を失い急転直下で落ちる鈴。
方向感覚はなく、落ちているという認識もない。
下は真っ黒。
しかしそこに不安は感じなかった。
鈴は灰色の空を見上げる形で落ちていく。
────そんな中。
「──────え?」
灰色の雲の切れ間に見える微かな■空。
遥か遠く、灰色の空のほんの微かな一部。
─────それを見上げながら、鈴は常闇に落ちていった。
□
「っ!!」
「鈴!」
「か、簪」
目を覚まし、鈴が半身を起こすといきなり簪に抱きつかれた。
簪も鈴もISは付けたまま、よく見ると簪の目元は赤く腫れている。
今いるのは岩礁の上。
状況が理解出来ず隣を見るとそこにはボロボロの流星の姿があった。
簪が鈴から離れ、安堵の息を漏らした。
「鈴もこのまま起きないのかと……」
「ありがと、簪。
「………だ、大丈夫じゃない、よね?」
簪から見て明らかに鈴の顔色は悪かった。
外傷は特に見られないが、汗がびっしょりで今にも倒れそうだ。
「何かあったの?」
簪は鈴のIS内部のパラメータがずっと変動していたのを思い出す。
鈴は心配する簪を手で制して倒れている流星に視線を戻す。
「…後で、…話すから……。それより今どうなってるの?皆は無事?」
未だ鮮明に浮かぶ数々の光景に思わず口を抑える。
何とか抑えて状況を尋ねた。
「うん。鈴達以外は無事。今は必死に注意を引いている状態だから、戦況的には絶望的……」
「……、容態は?」
「生体補助が何とか繋いでる状態、かな……。今エネルギーを分け終えたけど、このままだと持たない…」
改めて彼の怪我を注視する。
火傷や装甲の破片による切り傷が多数。
1番の傷は貫かれたように穴が空いた腹部。
大きな穴ではないが、傷は深かった。
応急処置のあとが見られた──とはいっても傷が傷である。
出血は止まらない。
ISの生体補助も追いついていなかった。
下手に動かせない為連れて戻る事など不可能だ。
間近に感じる死、に思わず鈴は目元を拭う。
自然と溢れ出る涙を何とか押しとどめようとしながら、地面に手を着いた。
フラフラと立ち上がりながら、自身に言い聞かせるように呟く。
「なら、尚更早く
簪もそれを聞いて流星を一瞥。
これ以上自身に出来ることはない。
(今、私に出来ることは──)
ギュッと唇を噛み締めると、彼女も立ち上がる。
まだふらつく鈴の背を押して支える。
簪もまた言いしれない不安を押し殺していた。
「「───」」
顔を見合わせ、互いに頷く。
簪が先行するように飛び立った。
鈴も後に続くべく一歩踏み出す。
振り返らず、込み上げるものを抑えながら胸に手を当てる。
「……死んだら、赦さないから……」
それだけ告げると、鈴も直ぐに空へ。
目指すは銀色の機体。
夜の太平洋。
明かりもない闇を少女達は駆け抜けていく。
□
「お、織斑先生───!!」
「作戦中だ。入ってくるなと────」
「おりむー……織斑君が!目を覚まして────!」
「!」
同時刻。
緊張感張り詰める司令室の入口が勢い良く開けられた。
入ってきたのはいつもと違い慌てた様子の本音だ。
通信が流星達の被弾と共に途絶し、衛星による戦況把握もチグハグ。
今宮流星が庇う形で大怪我を負い、その他が何とか食い下がっている大まかな部分は分かっていた。
千冬が取った行動はアメリカへのIS貸出要請とIS学園の訓練機体を持ち出す手続き。
前者は国家間で問題が起こるのであれば、IS学園サイドを介してしまえという苦肉の策──デメリットだらけではあるが、事は一刻を争う。
戦闘用というよりは、医療班を無理矢理送り込む為であった。
学園側の手続きは迅速であっても、許可する国連等は対応が遅い。
それだけでは無い、アメリカの方も恐らく色々な意図が絡んでくるだろう。
データを取るため遠方から見ている可能性すら否定できない。
大人しく首を縦に振るかどうかも……。
───どちらが先に着けども、相当後になるのは目に見えていた。
他の案を考える千冬と一部最悪を想定する教師達。
沈黙が司令室を包んでいた。
───そんな中静寂を破った少女。
自然と全員の注目が彼女に集まり、彼女の言葉に千冬すら驚愕を顕にした。
織斑一夏が目を覚まし、そのまま制止する本音や医師を前にISで飛び去ったというもの。
「織斑君が!?」
「止めたけど、『皆がまだ、戦ってるから』って言ってそのまま───」
「そんな、無茶です。でも今出たところなら────!来ました、白式の位置情報補足!織斑先生!」
「……、情報も無しに真っ直ぐ戦闘区域に向かっている?──山田先生、映像を」
「はい」
真耶が直ぐに海上を行く白式を映し出す。
千冬は中央の投影ディスプレイに近付き、映像と共に映る各種パラメータ等に意識を向ける。
先の状態とは機体の見た目も違い、パラメータも明らかに違っていた。
「──…」
千冬は静かにそれを見て、ほんの少しだけ目を丸めた。
機体の変化ではなく、彼の表情を見て───呆れたようにため息をつく。
ほのかにだが安堵が混ざったそれに、回線を開こうとしていた真耶も思わず手を止めた。
千冬は振り返ると、再度各教員に指示を出す。
医療面、情報面、政治面あらゆるものを処理しながら千冬は真耶に告げた。
「山田先生、通信が届く位置まで織斑のナビと各代表候補生達のパッケージ、福音の変化と確認された攻撃パターンの説明を」
「支援、ですか。…止めないんですね?」
「ええ」
真耶はこくりと頷き、画面に向かう。
千冬はぼそりと、誰にも聞かれないように呟いた。
「頼んだぞ、一夏」
□
───正直言って、気分も何もかも最悪だった。
ガムシャラに振るう青龍刀。
振り払うように振るっている。
銀の雨の中、味方の動きに合わせながら攻撃の隙を伺う。
胸に込み上げる悲愴感。
頭にこびり付いた光景。
歯を食いしばり、理性と衝動のバランスを保とうとする。
本当に最悪。
不謹慎だけど、知りたくなかった。
見たくなかった。
出来ることなら、そんなものを抱えているだなんて考えたくも無かった。
ごちゃごちゃの思考。
心と身体が別れたように、思考だけが別で考え続けている。
こんな時に考えることじゃ無いのに。
今思えば、簪や本音は何かを察していた。
彼の歪な部分を垣間見ていたり、見抜いていたのかもしれない。
何も知らず接していたのは多分
否定したくても事実は変わらない。
好きという感情に任せて盲目になっていた。
その根幹も分からない。
一体、
千冬さんに聞かれた時の答えは、はっきりしたものを言えなかった。
優しくされたから?
──違う。
フラれた直後で依存しやすかった?
──違う。
カッコよかったから?
──違う。
その点、簪が羨ましかった。
理由が一番簡潔で、それでいて足る理由。
何者でもなく、ただの簪として見てくれている瞳に惹かれた──から。
本音は、彼が優しい人だからと告げていた。
彼の記憶も覗いても答えは得られない。
中身を見て益々分からなくなっていく。
自信が無くなっていく。
『すきなあいてがゆがんでいても、あなたは愛せる?』
少女の言葉が反芻される。
分からない、とその時は答えた。
それはその時になってみなければという意味。
だけど、結局分からないまま。
焦がれるような感情は今も尚存在しているというのに、断言出来ない。
心情とは裏腹に、戦況は立て直しつつあった。
立て直しかけてはいるが如何せん残りのエネルギーが厳しい。
こちら側は何時誰が墜ちてもおかしくない。
それでも喰らいつく。
そこから福音の攻撃パターンを多少読みながら、連携攻撃でペースを奪った。
対応力がやはり高く、変化を加えなければ攻撃すらままならない。
でも、勝たないと。
満足に救援すら呼べない。
生半可な撤退も彼を危険に晒すだけ。
『──』
福音が高速で距離を取った。
背中の翼を大きく広げ、全体に弾幕を形成する気だ。
「っ!」
息が上がっている。
周りの皆ももう限界が近い。
止めようと動いた所で、先に牽制がてらに撃たれた小さなエネルギー弾に阻止された。
不味い。
少し溜めが長い。
大きな攻撃が来る。
セシリアやラウラが対応しようとしても、被弾している状態からでは間に合わない。
二人はスラスターを損傷させられていて、避ける事も厳しい。
片手に盾を持っていたシャルロットと簪が
冷や汗が出る。
それじゃあギリギリ
無事では済まない。
光が広がろうとする。
───瞬間、福音が大きくよろけた。
胴体を捉えたそれにより、福音の攻撃は中断。
同時に眼前に現れる灰の機体。
「ぇ、あ……」
驚きで声が出なかった。
涙が出そうになるのを堪えながら、その背中を見て理解する。
悩む必要なんて無かった。
真っ直ぐ空に立つ彼の姿が全てだった。
この感情の始まりは些細な理由かもしれない。
少なくとも今は、違う。
壊れながらも真っ直ぐなものを尊重するあり方が、綺麗と思った。
きっと、根幹がどこまでも純粋だから壊れてもそう在った。
それを感じたから、きっと
一瞬が永遠に感じる中、彼は振り向かなかった。
敵を見据えながら、武器を構え引き金を引かんとする。
「後は任せてくれ。───敵は、オレが倒す」
その声からは、今まで見たことない程ハッキリとした意思が感じられた。
「ああ、実に下らない苦悩だよねぇ。そう思わない?くーちゃん」
「───」
「え?何故かって?だって簡単な事だよ。解決方法なんて『自分はそういうものだ』って受け入れるだけだからね。壊れた部分を否定するほど滑稽で無駄な事は無いよ」
「────」
「──生まれつきなら?どうなってたかって?勿論ああはならなかっただろうね!」