IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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「・・・はぁ」

IS学園二日目の朝。

食堂で今宮流星は1人ため息をついた。

 

理由は簡単だ、彼の真横に座っている更識楯無が朝から裸エプロンで無理に彼を起こしたためだ。

何故か流星が起きようとしていた時間を把握していたため、それより先に起きていたらしい。

朝から目の保養になるといえばなるが、これから毎日こうだと思うとため息をつくしかなかった。

 

──更識楯無は人をからかうのが好きらしい。

 

そんなこんなで彼は朝から走りこみを済ませ、早速楯無にISのことを教わり今に至る。

 

「流星くんって体力あるのね。これは鍛えがいがありそうかな」

 

「ケロリとした顔で付いてこられた身としては、それは皮肉にしか聞こえないな、楯無?」

 

「そうやってすぐ捻くれないの。学園最強が褒めてるんだから喜んでもいいと思うんだけど」

 

楯無の言葉に流星は半分耳を傾けながら朝食のメニューの一つの味噌汁をすする。

ほどよい熱さが体全体に染み渡るようだった。

 

「体力だけじゃあ意味無い。───っておい楯無、何さらっと俺の玉子焼き盗ってるんだおい!」

 

「長年少年兵してたっていう君の経歴を知ってる私だからこその評価なのに、グスンッおねーさん悲しいわ。あ、もう1ついただくわね?」

 

経歴、と聞いて流星は眉を僅かにひそめる。

 

流星は生まれこそ日本だが、両親の仕事で引っ越し住んでいたのは中東だ。

流星は紛争で両親を亡くし、その後4年以上紛争地域で兵士として生き延びていた。

 

ただ、その後に更識楯無も調べ切れなかった空白の2年間が存在している。

そしてその空白の2年間の後、彼は日本に住んでいたことになって暮らしていた。

 

ちょうどそれが半年前であり、そこから偶然ISに触れ、男性にしてIS適性があることが発覚して今に至る。

 

正直楯無も空白の2年間が気になるが、彼の人格を信用してか、触れてはいけないものと思ったのか本人には追求していない。

彼の性格を直感的に見抜いていたのかもしれない。

 

 

「そんなものISだとあんまり役にたたな───さらっと今度はメインディッシュの魚盗ってく気か!」

 

「今朝の授業料よ。それはそうと今日の放課後生徒会室にきて頂戴、庶務の仕事溜まってるのよね」

 

「いきなりブラックだな」

 

熱い茶を飲み、一服する流星。

おかずを多少奪われはしたが、さっき購入したデザートもある。

気にならない程度の空腹のため問題なかった。

楯無のほうもいつの間にか食べ終えていた。

 

「じゃあ私は先に行くわね。また放課後じゃあね~♪」

 

満腹!と書かれた扇子を広げ、すぐにそれを閉じると楯無はトレーを持ちそのまま席を後にした。

 

水色の少女を目で追いながら流星は二度目のため息。

次はおかずを奪われないようにしよう、と心に決めた流星にどこからか気の抜けた声がかけられた。

 

 

「いまみー、隣いいー?」

 

「あぁ、どうぞ布仏・・・なんだ君のその珍妙な格好は」

 

「寝巻きだよ~。いまみーも着てみる?」

 

「それ似合うのは君くらいだろう」

 

やった!とガッツポーズを取りながら隣3席に腰をかける少女たち。

流星の反応が遅れたのは真横に座った一人だけ、着ぐるみのようなパジャマ姿の少女『布仏本音』のせいだ。

 

 

「布仏達はいいのか?言っちゃなんだけど、男の俺の隣だと悪目立ちするぞ?」

 

「私たちは気にしないから大丈夫だよ~」

 

のほほんとした様子でそう言った彼女はゆっくりと食事を始めた。

釣られて残り二人『鏡ナギ』と『谷本癒子』も食事を始める。

デザートを食する流星を横目に布仏本音は尋ねる。

 

「聞いたよ~いまみー、生徒会に入ったんだって?」

 

「そうだけど情報早過ぎないか。布仏はもしかして生徒会関係者だったり?」

 

「えへへ、そうだよ。それにお姉ちゃんも生徒会だからね~。後これからお姉ちゃんもいる生徒会に入るわけだし布仏じゃなくて本音でいいよ~」

 

「ああ、わかったよ本音。──ってえ?生徒会の一員だったのか」

 

さらりと告げられた真実に流星は目を丸める。

こののほほんとした少女が生徒会とは想像もつかなかったからだ。

人は見た目で判断してはダメだな、などという反省をしている流星とはうってかわり、本音以外の残り二人は少し顔を紅くしていた。

さらりと正当な理由をつけて、名前呼びさせるクラスメイトに驚いたといったような感じだ。

おそらく本音本人はそんな気はないだろうが・・・。

 

 

 

周りからこれでもかという位の好奇の視線を感じるが、幸い本音たちのおかげで気にならなかった。

本音たちはパン一つとサラダ少しといったような少々物足りなさそうなメニューだったが、お菓子などの間食を取るため色々気にしているのだとか、そうでないとか。

他愛のない話を楽しそうに話していた。

どのISスーツが可愛いとか、そんな話が中心。

少しずつだが流星と三人は打ち解けていた、本音以外の残り二人から感じられたぎこちなさも今やすっかりない。

 

 

食事も終わりを迎えそうになったあたり。

パァン!と手を叩くような音が近くから聞こえた。

食堂にいた人間の視線が音の鳴ったほうへ自然と向けられる。

そこに立っていたのはジャージ姿の織斑千冬だった。

 

 

「いつまで食べてる!朝食は迅速に効率よくとれ。一年の寮長は私だ、遅刻はグラウンド10周を課すぞ!」

 

その言葉を聞いた途端、周囲の生徒の食事を摂る速度が上がった。

流星はその様子を見ながら少し呆れた様子で正面に向き直る。

 

 

「教師というより教官だなアレ」

 

デザートを食べ終えた流星は本音ら3人が食事を終えるのを待ってから教室に向かうことにした。

 

 

 

 

ところかわり教室。

俺──今宮流星はチャイムの音と同時にISの参考書から目を離した。

今はISの授業でなかったが簡単な授業だったため1人こっそりISの参考書を読みふけっていたのだが、もう休み時間のようだ。

 

「いまみー、しっかり授業受けなきゃだめだよー」

 

そんな事を言いつつ本音が俺の隣まで歩いてくる。

隣の席の一夏は大きな欠伸をしていた、真面目に授業を受けていたようだが疲れか睡眠不足からか眠いようだ。

本音に視線を戻し参考書をカバンにしまう。

 

「ISに関しちゃほんと遅れてるからな、これくらいしないと」

 

「いまみーは会長に教えて貰うんじゃなかったっけ?」

 

「そうなんだけど、なるべく自力でもやっておきたくてな」

 

なるべく実力を付けたいのもある。

強力な後ろ盾がない以上、そうする他ない。

楯無も手伝ってくれている、受身ではいられない。

そんなわけでISの参考書の他にもISのシステムに関する本、制御、PIC関連の本など部屋には図書館から借りてきた本が山積み。

それらを片っ端から頭に叩き込んでいる最中だ。

気が遠くなる量だが仕方ない、仕方ないんだと言い聞かせるが正直憂鬱だ。

 

 

「いまみー、ISでわからないところあったら教えてあげるよ?私整備科志望だしそこそこ知識はあるよ~」

 

俺の顔を見て何か察したのかえっへんと胸を張る本音。

立派な胸だ。

 

「魅力的な提案だがタダではないと見る」

 

「そうだね〜毎日昼休みにデザートとかどうかな?」

 

「そうきたか、あまり女性に言うのはダメだが言わせてもらおう。太るぞ」

 

「ほ、他でカロリー消費してるしっ!?大丈夫だよきっと」

 

狼狽えた様子で言い訳する本音。

明らかに目が泳いでいる、本人も多少は気にするようだ。

 

「そうだな。なら今度美味しいパフェでも奢るよ」

 

「いまみー約束したからね〜。もう取り消せないよ?後は〜」

 

得意気に笑う本音はどことなく楽しそうだった。

周囲ではヒソヒソと何か楽しそうに語り合うクラスメイトがいるが何を話しているのかは聞こえてこない。

関係ないことだろう、と思いつつ持ってきたお菓子を鞄から取り出す。

 

 

「ところで本音さんや、前金はいるかい?」

 

ニヤリ、と笑いつつ本音を前にお菓子の詰め合わせを見せびらかす。

正直校内でこのような時間に食べていいかと問われると答えはNOだと思われるが織斑先生も今はいないので気にしない。

おかしなテンションなのはノリだ。

 

 

「交渉するにはブツが1つ足りませんぜ。へっへっへ」

 

──うわぁ、予想以上にノリノリだよこの子。

原因はこちらなのだが、と内心声を押し殺しつつ鞄からもう1袋詰め合わせを持ち出す。

もちろん、全て本音の好みのモノ。

種類は多く、お菓子というよりおやつと言った方がいいかもしれない。

 

「追加分を出してやろう」

 

「──いまみー、交渉成立!」

 

手を取り合い喜ぶ本音。

随分と安上がりである、これでいいのか本音。

パフェは流石に安くは済ませないでおこうなどと考えていると、横の方から大きな声が聞こえた。

 

 

 

「──信じられませんわ!」

 

 

声のする方、横の席の一夏の方に目をやる。

彼は誰かと話しているようだ。

それは彼の幼馴染と噂で聞いた篠ノ之箒ではなく、金髪の女子──セシリア・オルコットだった。

教室に響いたのは彼女の声だ。

 

「日本の男性というのはこうも無知ですの!?」

 

 

「・・・一夏、どうした?何言ったんだ?」

 

「代表候補生って何って聞いただけだぞ?」

 

キョトンとした顔で返す一夏に返す言葉をなくす。

周りのクラスメイト皆もずっこけているのがわかった。

あぁ、気持ちがわかる気がする。

 

「IS国家代表者の候補生だよ。簡単に言うと凄い」

 

「なるほど」

 

凄いのはわかったようだが、どれくらい凄いかまでは伝わっていないようだ。

頭の上に?を浮かべている。

ISに今まで触れてこなかったのだ、仕方がない。

一夏の暢気な返事にそう半分諦めていると、先程まで唖然としていたはずのセシリアが復活していた。

 

「そうエリートなのですわ!」

 

凄い=エリートなのかはわからないがわかりやすいタイプである。

機嫌よく復活したセシリアに対し、一夏は素直に返す。

 

「へぇーすごいんだな」

 

おそらくは本当に素直な感想だったのだろう。

だが聞いている側からすれば煽られているようにも聞こえる。

特にセシリアのようなタイプからすると煽り以外には聞こえないだろう。

 

「馬鹿にしてますの!?」

 

「何でだよ」

 

少しだけムキになるセシリアだが内心何かに納得したように急に冷静になると、得意げな笑みを浮かべて一夏に優しく話しかけた。

 

「──ま、まぁ(わたくし)は優秀ですから貴方みたいな人間にも、泣いて頼まれたらわからないことがあれば優しく教えて差し上げてもよくってよ?何せ私、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートなのですから」

 

教官を倒した、と聞いて考えをめぐらせる。

IS学園とは一つの独立した機関であり、ISを教える機関としては最大級のもののはずだ。

そして、そこに所属する教官は織斑千冬をはじめとするISの操縦者。

ブリュンヒルデと称された織斑千冬がいた時に、国家代表候補だった山田先生などおそらく並の国家代表候補生以上だったはずだ。

 

教官が今から入学しようとしている国家代表候補生に負けるとは思えない。

試験なのだから、おそらくは手を抜いていたのだろう。

どのみち、教官を唯一倒したのであればこの生徒の中でセシリアは間違いなくエリートなのは違いないが。

セシリアのIS操縦技術が気になるところではあった。

 

 

「あれ?俺も倒したぞ、教官」

 

「「え?」」

 

唐突に投下された一夏の爆弾発言にセシリアと俺の声が重なった。

 

「それはどういう・・・」

 

「どうって、向こうが勝手に突っ込んできて壁に当たって自滅しただけだぞ?」

 

───ダメだ、教官にやる気があったのかすら疑問に思えてきたぞ。

俺自身はISの試験をまともに突破できていない。

ISに乗った瞬間墜落したためだ。

だから俺的には初心者のはずの一夏が普通に墜落しなかっただけでも驚きなのだが、その顛末だけを聞くと呆れる以外なかった。

 

 

「そ、そんな!貴方!貴方も教官を倒したって言うの!?」

 

「えっとおちつけよ」

 

ただ、セシリアだけは納得がいかないようで一夏に喰らいついていたのはいうまでも無い。

 

 

 

 

「・・・っ!─────寝てた、か」

 

 

場所も時間も変わり、次の日の朝。

俺が目を覚ました場所は寮のベッドではなく、IS学園内のIS整備室の中でだった。

時計を見ると、時刻は午前6時過ぎ。

ISの構造と知識を出来る限り知りたいと、放課後に生徒会での仕事を終えた後整備室に篭っていたのだった。

特別に許可を申請していたため徹夜未遂自体に問題はなく、分厚い本や資料の束を参考にしながら出来る範囲までのISの分解作業を4時頃まで行っていた記憶はあるのだが・・・。

 

(ほぼ終わった気の緩みで寝ちゃってたか。とりあえずもう少しだけ続けて片付けて、寮に戻るか)

 

眠気を振り払いながら重い瞼をこすりつつ、目の前の武装の仕組みを知るべくスパナを手にもつ。

 

(っと、ここの部品どういうのだっけ)

 

ふと我に返ったように隣に散乱している資料から目当ての物を探す。

積んで束にしていたはずが、寝ていたときに崩してしまったものと思われる。

資料を探そうとキョロキョロしていると、同じ整備室の少し後ろのほうでかすかに物音がした。

確か、深夜はこの整備室には俺1人だったはずだ。

 

(俺が寝てる間にきたのか?)

 

と、気になって顔を上げ後ろを見る。

 

「「あ」」

 

不意に目が合った。

水色の髪に眼鏡をかけた大人しそうな少女。

眼鏡、に見えるが度は入っていないように見える。

何かレンズ部分に映っている、まさかディスプレイなのだろうか。

 

それにしても、誰かに似ている。

 

「お、おはよう?」

 

寝起き故に出てしまう言葉。

まだ頭は寝ぼけているようだ。

相手は困ったような顔でキョトンとしていた。

 

「ごめん、まだ寝ぼけてるみたいだ。作業の邪魔になっちゃったのなら謝る。片付けてすぐ出て行くよ」

 

「・・・」

 

なんともいえない気恥ずかしさに急かされるように片づけをすすめる。

それに対し彼女も自分の作業に戻ったようだ。

彼女のほうからキーボードの音が聞こえた。

ISの調整でもしているのだろう。

 

資料を漁りつつ、バラした部分の組み立て作業を終える。

一度理解してからの作業のため一時間ほどで作業は終わりを告げた。

 

「───」

 

チラリと反対側にいる彼女のほうを見る。

俺が弄っていた量産機のラファールと違い見たことのないISだった。

専用機だろうか?

それに調整と言うより今まだ造り上げている感じに思えた。

この一つ一つをもしかすると彼女は造り上げているのだろうか。

 

 

「凄いな・・・」

 

「え?」

 

思わず呟いた言葉に、集中していて俺が見ていることに気付かなかった彼女がこちらを見た。

声に出ていたことに気付き、恥ずかしくなって顔を背け作業に戻る。

 

「すまない、忘れてくれ」

 

 

「・・・そこのパーツ、間違えてる」

 

 

「あ゛・・・」

 

・・・。

ぼそっと呟かれた彼女の指摘により、ハッと間違いに気付く。

俺は今、パーツを明らかにハマらない場所に取り付けようとしていたのだ。

小学生でもわかるだろうに・・・。

なんとも言えない気恥ずかしさに襲われる。

・・・話題を逸らそう。

 

 

「ありがとう、助かったよ。俺は1年1組の今宮流星、君は?」

 

「・・・1年4組。更識、簪」

 

更識と言ったあたりでチラリと彼女は様子を伺うように俺の方を視線を送っていた。

何か思うところがあるのか、その視線はどことなく不安げだ。

 

「更識簪か。なるほど楯無の妹さんか」

 

「・・・!」

 

俺のその言葉にこちらを見る瞳の不安の色が強まるのを感じた。

何かワケありなのだろうか?

触れない方が良さそうだ。

──彼女の傍らにある機体に目をやる。

 

「そのISは簪の専用機だったりするのか?学園に配備されてるものじゃなさそうだ」

 

コクリ、と頷くことで肯定する簪。

自然と下の名前で呼んでしまったがそれは気にして無さそうで安心した。

 

「しかし凄いな、まだ1年生になったばかりなのにIS作ってるのか」

 

簪のISを自分の横にある学園のIS『打鉄』と見比べる。

簪のISのフォルムは『打鉄』に比べ流線形がある程度目立ち、純粋に男心をくすぐるかっこ良さがあった。

多分、俺は少し浮かれて見入っていたのだろう。

彼女のISの周りを何回か回った後に尋ねた。

少し簪は困惑した様子だった。

 

「このISの名前はなんていうんだ?」

 

「え?う、『打鉄弐式』・・・」

 

「打鉄弐式か。完成したらまた見せて欲しい、構わないか?」

 

 

「え?う、うん?」

 

 

 

「打鉄弐式か。完成したらまた見せて欲しい、構わないか?」

 

楽しそうにそう言う今宮流星を見て、私──更識簪は戸惑いを隠せなかった。

未完成の『打鉄弐式』を見るこの今宮君の顔がなんとも楽しそうで、その様子は初めて飛行機を見た子供さながらだった。

 

「え?う、うん?」

 

未完成とはいえ、開発途中の自分のISをそんな楽しそうに見られるのは嫌ではない。

──どこかホッとした自分がいた。

それがこのISを認めてもらえたからなのか、姉のことをそれ以上彼が言わなかったからか、サラリと下の名前で呼ばれているからかはわからない。

 

 

 

一通り見て満足したのか、彼は真面目な顔でこちらに向き直る。

 

──2人目の男性操縦者。

 

彼の存在は私から見ても不思議なものだった。

 

1人目が織斑千冬という世界最強の弟というのに対し、

2人目は何の変哲もない一般人。

 

IS適正がCということもあり、各所から学園などに送らずどこかの研究所にいくべきでは?などという声もあとを絶たない。

 

ISに乗れる男ということでも、織斑千冬の弟は許せても、彼は許せないという恐ろしい思想の人までいる聞いたこともある。

 

 

 

織斑一夏と今宮流星。

 

 

不意に脳裏にチラつくのは優れた姉と、その妹の私。

 

きっとそれは根本的には間違っているだろうけど、私は今宮流星にどことなく親近感を持った。

 

 

 

「ありがとう簪、俺一旦片付けて寮に戻るよ」

 

 

 

そう言い自然と自分の作業に戻る今宮君。

 

私も自分の作業に戻る。

 

こういうのも悪くないかな、なんて思う自分がいることに驚く。

 

 

ちらりと今宮君の方を再び見る。

 

彼はまだ少し眠そうな目を擦りながら、機材と資料を片付けている。

 

何かはっきりとした目標か何かを秘めている、そんなものをその背から感じ取った。

 

 

彼と織斑一夏との関係は至って良好だと聞いている。

 

 

彼が私の立場なら、姉とはどうやってのけただろうか?

 

聞けば何か答えを得られるのだろうか。

 

 

「ん?どうした、簪」

 

ふとこちらの視線に気付いた彼が不思議そうに尋ねてくる。

 

「うぅん、なんでもない」

 

「そうか?じゃあ俺はもう行くよ」

 

--またな、と気前よく告げた彼は整備室を後にする。

 

喉まで出かかっていた『ある疑問』はついに口にすることはなかった。

 

 

 

整備室を後にした今宮流星はシャワーを浴びる為に一旦寮に戻って来ていた。

 

少しそれぞれの部屋から物音がするあたり皆登校の支度をしているのだろう。

 

おはよう、と声をかけてくるクラスメイトとも数名すれ違った。

 

彼女らは朝食を食べに食堂に向かったのだろう。

 

そんなことを考えながら流星は自室に入る。

 

扉を開けた先で迎えてくれたのは既に制服を着た状態のルームメイト、楯無だった。

 

 

「おかえりなさい流星くん。どう?捗った?」

 

「さあな。資料に載ってたようなことは一通り頭に叩き込んだつもりだが・・・量が多過ぎるし難しいことが多いのを改めて思い知らされたよ」

 

そうため息をつきながら言うと、楯無はどこか楽しそうに笑みを浮かべながら流星に書類を渡す。

 

それは先日に流星が提出したアリーナの使用申請を許可するものだった。

 

「ふふ、なら今日の放課後はISの操縦の指導よ。生徒会の仕事後にアリーナでね」

 

ISについて教えて貰えるのは有難いが、生徒会の仕事後、という言葉に流星はたまらずため息をつく。

先日捌いた書類の量と備品の点検などの山ほどの仕事を思い出し頭を抱える。

 

「うげ、仕事の量まだまだあるのにその後かよ。生徒会は新人を酷使し過ぎじゃねえか?ブラック生徒会長様」

 

「仕方ないじゃない、この学園が学園だもの。それに新学期始まったところだし猫の手も借りたいところなのよ」

 

そう言いつつ楯無が口元を覆うようにどこからか取り出した扇子を開く。

その扇子には『戦力』と達筆な字で書かれていた。

 

 

「人手不足ならそれこそ妹にでも手伝って貰ったらどうだ?」

 

楯無の様子を見つつ、探りを入れるように簪を話題に出す。

整備室での簪の反応的に姉妹仲は良好…とは行かなさそうだが。

楯無の様子は先程よりも元気がない。

どこか困ったような落ち込んだような様子だ。

 

───楯無の性格からは想像もつかない珍しい反応。

 

単に不仲、ということではなさそうだ。

 

 

「…簪ちゃんと会ったの?」

 

「整備室でな。お前の名前を出した時微妙な反応をしたからもしやと思ったが、ワケありのようだな」

 

静かに頷く楯無にはいつもの元気さはない。

これ以上は踏み込まない方が良さそうだな、などと流星が考えていると楯無の方から口を開いた。

 

 

「その、ね。簪ちゃんは今一人で専用機を作り上げようとしているの」

 

「『打鉄弐式』だったか。一人で、か。どうしてだ?」

 

ISの専用機を学生が作る、これは普通はない事だ。

学業とIS、それに合わせて専用機の開発などただでさえ時間もない上にありとあらゆる知識がいる。

簪の努力は如何程のものか、流星には計り知れない。

だが、そうなった経緯が流星には気になって仕方がなかった。

 

「それはね、倉持技研が一夏君のISを作るために放置しちゃったからなのよ」

 

「間接的にだが一夏のせいで専用機を一人で…?」

 

「後多分、私が今のこのISを一人で組み立てたって噂が流れてたせいだと思う」

 

 

「…なるほどな」

 

簪の不安そうな表情を思い出す。

そして、どこか強い意志を秘めた目を。

 

そこで大体を流星は理解した。

簪は優秀な姉と比較され続ける立場にあるはずだ。

簪にもおそらく思うところがあったのだろう。

だからこそ誰の助けも借りようとしないのだ。

そしてそんな状況だからこそ、姉の楯無も手だしできず、少しずつ開いた妹との距離に悩んでいる。

 

 

「一筋縄ではいかないわけだ」

 

流星は部屋の隅に置いているコーヒーメーカーでコーヒーを二人分入れ、片方を楯無に渡すと部屋のテーブル前のソファに腰をかける。

楯無も彼とテーブルを挟んで対面に座った。

一口飲んでお互いに一息つく。

少し調子が戻ったのか、楯無は少し呆れたように呟いた。

 

「──こういうこと、流星くんはもっと鈍いと思ったんだけど」

 

「失礼な、俺も人並みには鋭いよ」

 

そう言い、流星はコーヒーをさらに一口飲むとテーブルの上にISに関する参考書とパンを置き、その本を手に取るとコーヒーを片手に読み始めた。

 

「おねーさんもドン引きする位に勤勉ね。聞いた話授業中もずっとそうみたいだし少しは休んだら?」

 

「その年でロシアの国家代表IS操縦者になった人間に言われたくないな」

 

そう言って楯無に一瞬視線を戻す。

そして視線をまた参考書に戻す流星に楯無は不思議そうに尋ねた。

 

「食堂には行かないの?」

 

「今日は行かない。朝食ならこのパンで充分だ。楯無の分も買ってきているが食べるか?」

 

片手で指差すのは鞄の横に置かれた二個目のパン。

───ちゃっかりデザートも二つ買ってきていることに楯無は気付きニヤリと笑みを浮かべる。

 

「流星くん、おねーさんと二人で朝御飯食べたかったんだ?」

 

「そうかそうか、そうからかってくるのなら楯無の分はナシだな」

 

「恥ずかしがらなくてもいいじゃない。まさか思わなかったわ。そんなに流星くんが私と二人きりになりたかったなんて…!」

 

「…お前はどうして朝からそんなにテンション高いんだ」

 

参考書から目を離さずにいる流星だが、楯無のノリに付いていけないとばかりにため息をつく。

楯無は遠慮無しという感じに流星が買ってきたパンを食べ始めていた。

 

「───まぁ、元気な方が楯無らしい、か」

 

ボソッと呟くように言ったが、楯無はそれを聞いていたのかキョトンとした顔になる。

対称的に余計な発言をしたと、流星は苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

「もしかして流星くん、私を口説きに来てた?」

 

「有り得ないから安心しろ」

 

「いけず。ノッてくれたっていいじゃない」

 

「ノッても調子に乗るだけだろお前」

 

否定しつつもこの気楽なやりとりにどこか懐かしいものを感じる流星。

過去に楯無のような性格の人間と親しかった、というわけではない。

 

何故かここまで自分でも気を許しているのが不思議だなと流星は一人思った、が気のせいだろうと結論づける。

 

──こうやって誰かとくつろぐのはいつぶりだろうか──。

 

 

そして、流星がほんの少しだけ見せた表情の変化を更識楯無が見落とすはずもなかった。

が、それは踏み込むべきではないことは理解している。

 

 

……。

 

流星は参考書を閉じると最後の一口になっていたパンを食べ切り、そのまま残ったコーヒーを飲み干す。

 

デザートのプリンは冷蔵庫にしまいつつ、参考書と制服の上着だけ自分のベッドに放り投げる。

 

「疲れた。シャワー浴びてくるよ」

 

「え?一緒に入るの?」

 

「やめてくれ。目に毒だ」

 

げんなりとした様子で脱衣所に入っていく流星。

その後ろ姿を見つつ、楽しそうに笑みを浮かべるは楯無。

 

 

 

───冷蔵庫に入れられていた流星のプリンの安否は言うまでもない。

 

 

 

 

 




20話位までは書けてるので毎日投稿します。
それ以降は週一とかになるかも知れません。

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