──何とも、奇妙な現象だった。
綺麗な世界、見渡す限りの水平線、青い空と綺麗な水の───いや海の床。
立っているのも不思議な世界で、白い騎士は居た。
見た事のあるようなIS。
姿も誰かと重なる、なんて感じた。
思えば不思議な感覚だった。
懐かしいようでいて、心が落ち着く。
あの場所は温かな感じがした
そこで、白い騎士から聞かれたんだ。
『力を欲しますか?』って。
よく分からないだろ?いきなりだもんな。
力って単語を聞いて思い出すのはラウラとの一件だ。
力に固執するのは駄目だ。
けどさ、必要ない世界でも無いんだ。
俺は肯定した。
ちゃんと答えを告げた。
仲間を、皆を、守る為に。
ISが生まれた事で騒乱に巻き込まれた少女が居た。
両親と一緒に居られなくなった少女が居た。
一族を背負う事になった少女が居た。
親の会社のためにと謀略に加担させられた少女も居た。
国の都合によって遺伝子操作で作られた少女が居た。
───そして、苦しいってすら人に言えなくなった
理不尽や不条理が存在する。
大も小もないんだ。
勿論、腕力だけじゃない事も分かってる。
だけどさ、どうにかしたいんだ。
せめて目の届く範囲は、仲間位は守りたいんだ。
想いを告げていたら、いつの間にか隣には白のワンピースの女の子が居た。
『じゃあ、行かないとね』なんて手を差し伸べていた。
何となくだけど、女の子の正体に俺は勘づいていたんだろうな。
迷わずに手を取ったら、すぐに目が覚めた。
一瞬だけ見えた灰の記憶。
理解までは行かなかったけど、アイツが苦しんでる事は嫌でも分かった。
『か細い糸のようだけど繋がっているから』って女の子は言っていたっけ。
とりあえず、何故か皆の位置情報は分かっていた。
飛び出すように花月荘を後にして、今に至る。
───翼を斬られ、福音は一気にバランスを崩した。
下降に移る前にライフルの弾が飛来する。
福音は残った左のエネルギー翼を肥大化させ、繭に籠るかのように丸まった。
銀色の球体、下手に手出しするのは悪手。
向こうにはスタミナという存在は無いが、こちら側にはある。
少し息を整えるべく、追撃は見送る形になった。
場に暫しの静寂が訪れる。
「一、夏……なのか?」
「ああ」
静かに確認をしながら、彼女は白の機体に近付く。
彼女の内心を占めるは驚愕と喜び。
怪我などまるで無かったというように、平然と雪片弐型を構え眼前に立っている。
機体の見た目も変わっているが、彼自身が無事な事の方が箒にとって全てであった。
このまま目覚めないかもしれない、そんな不安もあった程だ。
そんな箒に声を掛けようとする一夏。
唐突に、横から彼の頭上に拳骨が入った。
手加減はしているとはいえ、それなりの鈍い音がする。
「痛っ!?───何だよ流星!?」
ほんの少し涙目なりながら訴える一夏。
に対し、流星は呆れたようにため息を付きながら返す。
「何カッコ付けてんだ。本当に遅くてどうするんだよ」
「これでも全速力できたんだって!?──っていうか流星その傷!?」
「問題ない。一応、内蔵は無事だ。血もほぼ止まっている」
「いや、問題大ありだろ……」
勿論、彼の傷は腹部のものだけでは無い。
ドン引きしながらも一夏は何か気が付いたのか、不思議そうな表情になる。
顎に手を当てて如何にも考えているポーズ。
視線の先は流星の顔。
ジロジロと顔を見られている事に、流星は顔を引き攣らせていた。
「…どうした?」
「何か…そのさ、吹っ切れたのか?───前よりこう~壁が減った感じがする」
「……お前、気持ち悪いな」
「なっ!?酷くねぇか!?」
ストレートな物言い。
驚きを隠せずにいる一夏と不満気な流星。
「ふ、ぷはははっ」
戦闘中と思えない間の抜けたやり取りに箒はつい笑みを零す。
「箒も笑うなんて酷いぞ」
「ふふ、いや、ついな。なぜかお前らしいと思ってしまったんだ」
「…そんなに変な事だったか?」
と、首を傾げる彼を前に流星は白の機体を見る。
以前と見た目からして明らかに変化した白式。
腕部には何かスラスターとも銃口ともうけとれる物もあった。
「!──箒、一夏」
「「!」」
と、そこで流星は一夏の前に出た。
微かに遅れて一夏と箒は福音に視線を向け直す。
福音がゆっくりと銀の翼を開き、姿を現す。
右のエネルギー翼は少し小さめとはいえ復活していた。
「───来るぞ」
「ああ!」
羽ばたく福音を前に流星が先手を取っていた。
動くエネルギー翼よりも早くライフルの弾が福音の肩部へ。
着弾を合図に一夏と箒が前に出た。
白式の機動力が上がった事もあり、速度はかなりのもの。
迫るは左右から。
あくまで高機動が一機増えただけ──そう捉えてもおかしくないだろう。
福音は何故か流星を優先していたが、一瞬だけ狙いが変わる。
『──!』
ただ、それで攻撃に移れるかは別だった。
流星から一瞬福音の意識が逸れた瞬間、狙撃が更に入る。
彼は牽制のマシンガンを撃ちつつ、絶えず場所を移動する。
『La』
薙ぎ払うようなエネルギー弾。
流星の攻撃を躱しながら、消しながら全方向へ福音は攻撃する。
「喰らうかよ!」
腕に新たについた武装───雪羅で盾を展開。
機動力で振り払うように逃げつつ、最小の被弾で彼は距離を詰める。
箒はエネルギー刃をひたすら連打し、撃ち落としながら突っ切っていた。
先までとは違い、弾幕が薄かった事が起因している。
一夏がエネルギー翼を切り裂いた影響もあるが、一番大きいのは恐らくは消耗故だろう。
皆の積み重ねたものがここに来て活きている。
流星もまた牽制を挟みながら銀の雨に向かっていく。
彼だけはほぼ直進で詰めていた。
3人同時に雨を抜ける。
畳み掛けるべく、各々が武装を構え──────
『La──aaaa───!』
「…!」
「え!?」
「なっ!?」
───刹那、福音が白銀に輝いた。
暗い周囲を銀の太陽が照らしているようだった。
叩き付けるように振り回されるエネルギー翼を防ぎ、3人は弾き飛ばされる。
翼は──4枚になっていた。
「──これは、まさか
嘘だろう。
箒がそう言おうとしたあたりで福音は飛翔した。
舞う羽根状の残滓。
もはや跳躍とすら呼べる程の機動力で、福音は更に上空へ降り立つ。
神々しさすら感じられた。
その姿に天使を重ねてしまうのも無理はないだろう。
「……」
そして、未だエネルギーを迸らせる福音の装甲部分。
流星はある事に気が付き、呟きながらもアサルトライフルを撃つ。
一対のエネルギー翼が弾丸を防いでいた。
微かに、エネルギー翼が陽炎のように揺れたのを彼は見逃さない。
「…形状維持が不安定──となるとアレは移行しきれていない不完全な状態か」
「どういう事だ?」
「……急激な変化を無理に重ねた結果、攻撃用に変換したエネルギーが制御出来なくなっている。このままいけば福音は内部からのエネルギー不全、暴発で自滅すると見ていいだろう」
「「!」」
淡々と言う流星とは対称的に一夏と箒は表情な険しいものになった。
自滅、その言葉から連想出来る結末は気分のいいものでは無いのだろう。
福音の反撃が来る。
残ったもう一対の翼が振るわれ、落ちてくるのは雹のように大きくなったエネルギー弾。
狙いは多少雑だ。
後退しながら3人は回避に徹する。
「自滅って、まさか操縦者は───」
「想像の通りだ。本来エネルギー弾とかそういうのはデリケートな物なんだよ。───戦闘が激化したら、持って数分ってとこだな」
「そんな…!」
「そんなのって……!」
ショックを受ける二人。
一方で流星は福音を観察しつつ、反撃の隙を伺う。
自滅が確定していても、敵機が最期まで危険な存在には違いない。
ダメージを重ねれば確実に早く終わらせられる。
彼はあくまで自ら手でケリを付けるつもりだった。
そんな流星に知ってか知らずか、一夏は緊張した面持ちで福音を見据える。
竜巻状のエネルギー弾の雨。
3人はそれぞれ散らばるように回避した。
「───エネルギーが暴走するんだよな?」
「───零落白夜、か」
「ああ」
流星は一夏が言わんとしている事を即座に理解した。
その感性こそ持ち合わせてはいないが、織斑一夏がどういう人間かはとっくに知っている。
彼の考えは簡単だ。
エネルギーが暴走するというのなら、零落白夜をもって一気に強制停止まで追い込むというもの。
「でも俺だけじゃ不可能だ。だから力を貸してくれ、二人共」
「あぁ!私で良ければ幾らでも力を貸すぞ!」
必死に避けながら告げる一夏。
箒は即答だった。
福音の操縦者が犠牲になる事に、彼女も納得がいかないようだった。
尚も続く攻撃を躱し、牽制を入れつつも流星は溜息をつく。
「……本気か?アレはもう爆弾みたいなものだ。零落白夜で──となっても半端な当て方をすれば暴発する。第一、勝利は目前なのに態々賭けをするのか?」
「確かに、賭けかもしれない。危険なのも綺麗事なのも分かってる。けどこのまま見殺しにするのは、俺には出来ない。勝利するだけじゃ駄目なんだ」
「勝利が駄目なら何を求めてるんだ」
「
「──」
一夏の言葉に流星はポカンと珍しい表情になった。
一度墜とされたからこそ、一夏自身も恐怖はある。
脳裏に最悪の状況が浮かばない程、彼も楽観的でもない。
操縦者も一夏自身も命を落とす可能性がおおいにある。
───だが、それでもと彼は声を上げた。
眼前の理不尽を認められない。
誰かが犠牲になるのを認められない。
ガキだと言われればそれまで。
万が一の時に友人がとる行動も察している。
その上で命を懸け、彼は道を貫かんとする。
『──』
再度、竜巻状になったエネルギー弾の雨が迫る。
今度は小型であり、代わりに複数個放たれている。
流星はそれを紙一重で躱しながら、次の瞬間には口元に笑みを浮かべていた。
「───ハッ」
馬鹿馬鹿しい。
そういった
理解は出来ない。
だが、彼らしいと流星は尊重することにした。
敵は排除する──考えは変わらない。
もし、しくじろうとも結末がほんの少し変わるだけだ。
「──協力するさ。断ってももう遅いからな、一夏」
「流星…!」
「──と、言ったはいいんだが」
流星は再度鋭い視線を福音に戻す。
短期決戦を行うには、あまりにも流星側の機動力が足りない。
一夏のサポートもこのままでは満足に出来ないだろう。
「準備がいる。少しでいい、俺に攻撃が来ないよう注意を引いてくれ。あとは──────」
「────分かった、任せろ」
「了解した」
流星が後方へ。
一夏と箒は逆に前方へ踏み込む。
完全に流星へ攻撃が途絶えれば、その隙に『黒時雨』になろうという魂胆だ。
福音は流星も巻き込むように基本攻撃を放つ。
完全に途絶えさせるのは中々に難しい。
つまり、流星が換装するまでに倒すつもりで戦う必要があった。
「───行くぜ!」
一夏が先陣を切る。
続いて箒が彼をサポートするようにエネルギー弾を撃ち落とさんと、エネルギー刃を飛ばす。
『L─a─』
ノイズ混じりの機械音声。
銀の雨が前後左右から襲いかかる。
もはや直進する弾の方が少なかった。
様々な要因で吹き荒れる嵐に対し、一夏は雪羅でシールドを展開。
防ぎつつも、衝撃を殺し切れず身体は後退していた。
全神経を集中させて攻撃を避けようとする。
シールドで防ぐのもエネルギーを使用する。
一発でもまともに受ければ、その時点で作戦は終わる。
「ぐっ──ううう!」
銀の嵐は分厚い壁のように彼らの行く道を遮る。
いたる所に竜巻も立ち並ぶ。
微かに揺れるエネルギー翼、時間が無いという現実を突き付けられる。
───このままでは。
箒だけでなく、見ていた代表候補生達も不安に駆られる。
そんな中、一夏は無言で思考を張り巡らせて居た。
悪い想像を切り捨て、どう打破するかだけに思考を偏らせている。
迷いは見られなかった。
箒はその姿を見て改めてISを欲した理由に思い至る。
(───ああ、そんなお前だからこそ、隣に立って支えたいと思ったのだったな──!!)
刀を握る手の力が強くなる。
彼女自身に残っていた弱気も吹き飛んだ。
瞬間、彼女の眼前に
【
(エネルギーが回復している!?そうか、これなら────!)
「箒!?何を──」
展開装甲を纏い、凄まじい機動力で彼女は機体を走らせた。
嵐の周囲を一気に旋回し、層が薄い点を見つけると
今までで一番出力の高い攻撃は嵐を突っ切り、福音の意識は完全に箒へ向けられる。
『!』
「一夏!手を───!」
大きく移動して回避を行う福音。
その隙をついて箒は一夏と合流した。
言われるまま一夏が手を伸ばし、箒がそれを掴む。
あたたかな光が白式をも包んだ。
白式のエネルギーが回復していく事を理解し、一夏も驚く。
「紅椿の
「───確実に救える!」
一夏はすぐに腕を突き出し、雪羅に搭載された荷電粒子砲を放つ。
エネルギー弾と相殺し、爆風が広がった。
箒は展開装甲を完全に展開しながら、一夏は全スラスターを躊躇いなく吹かしながら回り込む。
福音は完全に二人を警戒し、一対のエネルギー翼を大きく上へ。
エネルギー翼の上で大きな球体ができあがった。
福音はその塊に指向性を与える。
すると、球体はエネルギー濁流と変化し、流体として彼らを襲う。
「行くぞ、白式!」
濁流は真っ二つに。
万全な状態まで回復した白式によって、その攻撃は無力化された。
爆風の中、突っ切る紅椿。
意表を突くように福音に迫らんとする。
────そして、もう1つ────黒い影。
展開装甲で無理やり突破した紅椿とは別に、隙間を抜けながら黒の機体は駆け上がる。
圧倒的機動力でありながらも、それは完全に制御されていた。
途中撃った青白い弾丸が福音の用意した白銀の球体を貫く──福音の攻撃を中断させた。
嵐が止まる。
「────」
一夏は大きく弧を描くよう上昇しながら、静かに息を吐き出した。
緩やかに加速を始め、身体からは力を抜く。
脳裏に浮かぶは姉の教え。
脱力することだけを意識した。
勝利への道は仲間の積み重ねにより、舗装されている。
思考は無へ。
程なくして音も消えた。
スラスターも止め残った慣性だけで上へ。
構えも何も無い。
───紅の機体と黒の機体が増えた両翼を破壊した。
福音が体勢を崩し、見上げるような姿勢になった。
福音の視界に白の機体が入る。
それは、遥か上空。
認識と同時────彼は身体をしならせ、目を開いた。
─────白の機体は砲弾のように、標的へと突っ込む。
『!aaa───────L』
福音が悲鳴にも似た声をあげる。
右掌から高出力のレーザーが放たれた。
真横に向いていた右の掌から出たレーザーは虚空へ消えず。
放出した状態で薙ぐように一夏へ振るう。
どれがどの機体であるかの認識も、最早福音からは欠け落ちていた。
「───」
一夏は高火力兵装によるなぎ払いにも動じない。
迫るレーザーを一瞬だけ零落白夜を発動させ、切り弾く。
『──La』
構わず、福音は再度薙ぎ払わんと右腕を振るおうと────
「もうその武装も見飽きた」
下から衝撃。
黒の機体が神速とも言えるスピードで背中に蹴りを入れていた。
使用されたのは
装甲にヒビが入る。
『…a……La…』
最後の足掻きか福音は残ったエネルギー翼2枚を肥大化させた。
天使を思わせた羽もこうなればただの異形でしかない。
周囲全てを巻き込もうとする行動に、流星と一夏は瞬きすらしなかった。
青白い弾丸が、白い閃光が残った両翼を断ち切る。
タイミングは同時だった。
完全に翼を失った天使は反応すら許されず──
「俺達の、勝ちだ────」
───返す刀で振るわれた零落白夜によって、その装甲は完全に崩れ去った。