IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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夜の空も色が明るく変わり始めた。

見渡す限り障害物などない太平洋の真上、地平線の向こうから顔を覗かせ始める太陽が海上に浮かぶ機体を照らす。

崩れゆく銀の機体。

朝日に照らされながら光に還るそれを、周囲に浮かぶ3機は見守っていた。

その中から解放され落ちる女性。

 

近くに居た一夏は自然と彼女を抱きかかえた。

 

緊張感から解放され、遅れて終わった実感がやってくる。

一夏がホッと安堵の息を漏らす。

 

同時に隣で赤い雷が再度走り、黒い機体は灰の機体へとその姿を戻した。

 

 

 

「っ……」

「流星!?」

「今宮!」

 

糸の切れた人形のように流星がその場で堕ちそうになる。

怪我からしても当然の事だった。

慌てて箒が支え、事なきを得る。

 

彼の目は虚ろで焦点は合っていない。

意識が辛うじてある、そんな状態だ。

 

「っ、わ…るい」

「話すな。命に関わる」

「そう、だな……っ」

 

全身の状態を改めて認識する流星。

畳み掛ける為とはいえ、この状態で『黒時雨』まで使用したのだ。

『同調』により増幅された五感に、強化形態の反動や怪我等の全てがこの瞬間押し寄せていた。

 

息を吸っても一向に身体へ酸素が行き渡らない。

指先まで麻痺し始めており、顔を上げる事すら困難になる。

 

──このままでは。

不味いと思った矢先、飛来する影。

 

「篠ノ之さん!今宮君を此方へ!」

 

現れる真耶。

身を包んでいるISはとても戦闘出来るような武装状態では無く、無理やりブースター等を注ぎ込んだ即興のカスタム式。

使っているISもラファールではなく、何処かの第2世代と思われた。

箒から流星を担いで預かると、そのまま彼女は振り返る。

 

真耶に続いて現れた3人。

目まぐるしいスピードで行われる応急処置。

 

 

それは、千冬が早くから手配していた医療部隊だった。

彼の意識は、そこで途切れる。

 

 

……。

 

 

 

 

流星が目を覚ました時には、再び日は沈んでいた。

花月荘内の明かりはまだ付いており、就寝時間とはいかないようだ。

繋がれた数々の機器、見たことの無い最新のものも見られる。

腕を見る──そこにはちゃんと待機形態の『時雨』があった。

ゆっくりと身体を起こす。

──傷は塞がりつつある。

一人驚いていると、千冬が現れた。

 

「目を覚ましたか」

「織斑先生。これは─」

「最新の医療ナノマシンも手配していたからな。加えてISの生体補助。これらのお陰だ。絶対安静には違いないがな」

 

成程、と流星は頷く。

身体の調子がかなりいいのも納得だ。

 

「あの後は?」

「福音と操縦者をアメリカサイドに引き渡した。恐らく原因は分からず終いだろうがな。──それとは別に専用機持ち達は検査を一通り済ませ、今はゆっくり過ごしている」

「結局、分からず終いですか。そんな気はしてましたけど」

「ああ、すまないな」

「織斑先生が謝る必要ありませんよ」

 

申し訳なさそうな千冬に困惑しながらも流星は言葉を返した。

少なくともこの医療機器を短時間で用意出来たのも千冬の手腕なのは明らかだった。

そもそも、彼女も巻き込まれた側であり流星の傷も自己責任でしかないと彼自身考えている。

 

と、千冬はある情報機器を流星に渡した。

流星はすぐにそれをISに接続し、中身を確かめる。

それは稼働データだった。

 

「───ISとの繋がりは深くなっている。恐らくあの『同調』による影響だろうな」

「はい。……表に出せないものですよね、これ」

「当たり前だ。───人とISを強制的に『同調』させる事で適性や資質、身体能力を上げる───究極的には誰もが高い適性や能力でISを乗りこなせるようになる、という机上の空論でしかなかったものだが……」

「廃人にならなかった例が出てしまった。机上の空論がそうでなくなるかもしれない第一例、ですね」

 

溜息をつく流星。

千冬は彼の纏っている雰囲気の微かな変化にそこで気が付いた。

意外そうな表情で少しだけ彼を見て、ふむ、と納得したように頷く。

彼には悟られないようにそうした後、千冬は続けた。

 

「そういう訳だ。身体への負担もある。今後『同調』は控えろ」

「控えろ、なんですね」

「本当なら禁止したい所なのだがな。今のところ異常らしい部分は見当たらない。それに、抜き差しならない状況というものもある」

「分かりました」

「あと、お前には言いそびれていたが───よく帰ってきた」

 

首を傾げる流星を前に千冬の表情が柔らかくなる。

流星も正面きってこう告げられるのは慣れていないのか、恥ずかしそうに視線を逸らした。

フッとそれを微笑ましく見た千冬は背を向ける。

安静にしろよ、と念押しだけして部屋を後にしようとした。

 

思い付いたように流星は千冬に声をかける。

 

 

「あー、織斑先生。1つ良いですか?」

 

 

 

 

そうして今に至る。

少しの外出許可を貰い、彼は花月荘から外へ。

 

場所は流星が篠ノ之束と出会った入り江の真上。

ちょうど崖となっている。

結構高い位置だというのに、ハッキリと波の音も聞こえてきた。

座る場所は剥き出しの岩肌しかない。

 

岩に腰をかけ、脚を崖下に放り投げるように座る。

波の音がやはり心地良かった。

昼とうってかわりヒンヤリした空気もまた悪くない。

 

1人その場を堪能していると、背後から足音が聞こえた。

流星は足音に反応して振り返る。

ちょうど来訪者も流星に気が付き、視線があった。

 

 

「───あ」

 

それはどちらが漏らした声か。

来訪者は寝巻き姿に上を羽織っただけの鈴。

まさかこんな所で会うとは思わなかったのか、両者とも驚きは隠せない。

よりによって──と鈴は視線を逸らす。

流星は正面に顔を戻し、少し横に。

 

一瞬迷った鈴だったが、彼の隣に腰を掛けた。

 

 

「「……」」

 

静寂。

二人の間に言葉が交わされることは無く、数分の時間が過ぎる。

そうして漸く、鈴が口を開いた。

 

 

「ごめん。その、さ……勝手に簪や本音に……見せたの」

「そっか」

 

 

──何を、かは聞かずとも分かっていた。

素っ気ない返事をする流星の横顔を恐る恐る鈴は見る。

 

「…怒らないの?」

「?怒る理由がないだろ?」

(あたし)が言うのもなんだけどさ。──勝手に覗いて、勝手に人に話したり見せたりしたら……普通は怒るものだと思うけど……」

 

怒るどころか、何処か安堵した様子の流星に鈴は困惑を隠せない。

話すかどうかも、実は大いに悩んだ。

偶然とはいえ、覗いてしまった記憶──それを誰かに見せるなど非常識にも程がある。

 

しかし、それでも1人で彼の問題を抱えるのは駄目だと彼女は考えた。

 

彼の内情を1人知ったというアドバンテージ、なんて発想は頭にない。

あったのは自身だけではどうにも出来ないという危機感のみ。

そうして甲龍に何故か残っていた映像データを、2人に見せた。

 

それが最善だと判断してだが、それでも罪悪感は取れず独りになる為に此処へ来た。

 

「見てしまったのはそもそも事故みたいなもんだろ?2人に伝えたのだって鈴がその方が良いと思ったからの筈だ。ならオレが言える事なんてないさ」

 

それに、と流星は続ける。

声は微かに明るいものだった。

 

「どう言おうか考えてたんだ。きっとこの事は何時か言わなきゃいけない事だったから」

「……あんたが、真っ当じゃないって事?」

「あぁ」

「────っ」

 

至極当たり前という顔で頷く彼に、鈴は思わず唇を噛む。

違う、と否定するのは簡単だ。

だが、それは彼の苦悩への否定に違いない。

現に彼は真っ当ではない。

壊れた部分は治らず、歪なままそこに在る。

 

──嗚呼、今なら分かる。

『変化しないものなんてない』という言葉は、彼自身の実体験であり祈りでもあったんだ。

そう思い至った瞬間、鈴は言葉を返していた。

 

「考え過ぎよ、馬鹿」

「え」

「そのままで良いなんて絶対言わない。変われるなんて無責任な事も言わない。───でも間違ってたら、私達(・・)が蹴っ飛ばしてやるから覚悟しなさい」

 

一瞬呆気に取られていた流星だが、それを聞くと納得したように頷き、溜息を付いた。

何処か嬉しそうに、いつもの意地の悪そうな笑みで鈴を見る。

 

「目を真っ赤にして言う事じゃないな」

「……誰のせいだと思ってんのよ、誰の」

「ごめんって、オレが悪かったよ」

 

キッと睨まれ、堪らず流星は両手を挙げて降参のポーズをとった。

その状態で何か思い出したように、あ、とだけ声を出した。

 

「言い損ねてた」

「……何よ」

「──ありがとう。鈴が居てくれて、本当に良かった」

「……」

 

む、と鈴は不満げに彼を見つつ少し黙り込む。

それが照れ隠しだという事は流石に流星も分かっていた。

 

鈴の方は相変わらずよねコイツ、だなんて内側で呟きながらある事を思い付く。

 

頬を紅潮させながら、視線を逸らす。

 

「と、とりあえず目を瞑りなさいよ」

「はい?」

「女の子泣かした…ば、罰よ罰!」

「……?」

 

分からないと首を傾げる流星。

こういう部分の察しの悪さは誰かを連想させられる。

 

「こうか?」

 

言われるがままに目を閉じる流星。

罰と言われた手前少しだけ身構えている状態なのは仕方がない。

 

 

夜の海。

空に架かる天の川の下。

 

打ち付ける波の音だけが聞こえる空間で、鈴は意を決したように身を乗り出す。

よし、と小さく呟き自身も目を閉じて顔を彼の方へ近付ける。

やけに大きく聞こえる自身の心臓の鼓動。

2つの影が重なろうと─────。

 

 

「────何してるの?二人共」

 

「────ひゃああぁあぃ!?」

 

鈴は、盛大にひっくり返った。

 

岩から転げ落ちるも、幸い崖とは反対側で済んでいた。

奇声を上げながら転げる鈴と聞こえた声に反応し、流星は目を開ける。

そこに居たのは立ち尽くす簪と何故か困った様子の本音。

2人はそれぞれ私服だった。

 

周囲の気温が下がった気がしたが、気の所為だろう。

特に簪の周囲から冷気を感じる気がするが、それもまた気の所為だと流星は自身に言い聞かす。

何故か目が据わっているが、それもまた気の所為だろう。

 

「鈴、ナニシテタノ?」

「ななな何もしてないけど!?何も!」

「─────流星、本当……?」

「罰、としか聞いてないんだけど……何をしようとしてたんだ?」

「成程…」

 

色々察したのか、簪は横目で地面に転がっている鈴を見る。

鈴も見られては不味い所を見られた為、言い返せずにいた。

簪の纏っていた雰囲気がすぐにいつも通りに戻る。

ホッと安堵の息を本音と鈴が漏らした。

 

「こんな所に来てどうしたんだ?……まさか、オレを探してたのか?」

「うん」

「そうだよー。ほらねかんちゃん、やっぱりここに居たでしょー?」

 

いつも通りの様子で受け応えする2人に、流星は不思議に思いつつ問い掛ける。

記憶(アレ)を見たというのに、何故いつも通りだというのか。

 

「えーっと、二人共鈴に見せて貰ったんだよ…な?」

「……ごめん。やっぱり見られたくなかった……よね。私が無理言っちゃったから───」

「かんちゃんそうやって自分のせいにしない。私も無理言ったし。……ごめんね、いまみー」

「あー、いや違うんだ。それは別に気にしてない。アレを見たって事は擬似的な電脳ダイブをしたんだろ?…2人の様子がいつも通り過ぎてちょっと驚いてるだけだ。」

 

珍しく驚きを隠せずにいる流星。

2人はキョトンとした表情で顔を見合わせる。

 

「流石に平気……ではなかったけど……関係ない、かな?」

「見てから半日以上経ってるのはあるけど、やっぱりいまみーはいまみーだからね」

 

簡単に言ってのける2人に、流星は困ったように頭に手をやった。

鈴とはまた別の解答に流星はどう反応していいか分からなくなる。

 

「……敵わないな」

 

そうとだけ呟いて彼は笑みを浮かべた。

呆れたような表情の手前、声色は今までのどれよりも柔らかだった。

 

 

「うひひ〜、センチメンタルないまみーには──それ〜!」

「なっ」

 

本音はそれを理解すると満足そうに笑う。

彼に駆け寄ってクシャクシャとオレンジの髪を掻き乱す。

癖毛もある為彼の髪型は一時的にぐしゃぐしゃになった。

 

「この馬鹿」

「退避〜」

 

流星にし返される前にすぐに離れる本音。

不満げな彼に今度は簪が歩み寄る。

 

「はい……これ…」

 

渡されたのはなんてことの無いアクセサリーだった。

☆型に特に装飾もないシンプルなデザインだ。

色は銀──なのだが灰色(グレー)にも見える少し暗い色。

小さく、とてもかわいらしいものだった。

 

「これは?」

「前にレゾナンスに尾こ──じゃなくて、か、買い物に行った時に見つけたの…。一応、御守りみたいなものらしい…」

「……くれるのか?」

「流星が、嫌じゃないなら……。そのつもりで買った…」

「嫌な訳が無いだろ。簪がくれる物なら何だって喜ぶ自信がある」

「ぅ」

 

言葉を失う簪とは別に、流星はアクセサリーを受け取る。

さて、どう身につけようか等と考えながら一先ずは懐にしまいこんだ。

 

きっと、返さなければならないものを沢山受け取った。

一時の感覚であるのは分かってはいるが、この感覚は何ものにも変え難い。

 

 

ところで、どうしてここが2人には分かったのだろうか。

偶然だろう鈴は兎も角、口ぶりからしてここに居ることを察していたようだ。

流星が疑問を持つも、それを口にする事は叶わなかった。

 

 

「「「「!」」」」

 

騒がしい音が聞こえ───花月荘側の砂浜に視線を移す。

そこでは、ISを展開したセシリアやシャルロット、ラウラに追いかけ回される一夏の姿があった。

何事かと思った全員だったが、一夏が箒を横抱き(お姫様抱っこ)して逃げている様子から察する。

 

 

「なにやってんのよ……アイツら」

「IS、展開してる……?」

「おりむーが何かしたのかな〜…」

 

鈴が顔を引き攣らせる。

簪は理解が追い付かず怪訝な視線を向け、本音は苦笑いを浮かべていた。

 

 

「はは、相変わらずだな。アイツらも」

 

笑いつつ流星は岩から飛び降りる。

待機形態の『時雨』に手を置きながら、砂浜側の崖に歩いていく。

 

「仕方ない、止めに行くか」

 

安静なんて言葉は既に頭の中に無かった。

ISを展開しながら飛び降りる彼を見て、慌てて簪と鈴が追い掛ける。

本音はそれを見送りながら、あー……と声を漏らした。

 

目を逸らしながら困ったように頬をかく。

 

「──多分、いまみーがいちばん怒られるよね……これ」

 

呟きは虚空に消える。

天の川の下、夜の砂浜を駆ける幾つかの光があった。

 

 

 

 

 

「───青春だねぇ」

 

夜風が吹く中、長く綺麗な髪をたなびかせながら1人女性は呟いた。

場所は崖の上。

ゴツゴツと剥き出しの岩場に腰を下ろしながら、篠ノ之束は視線を砂浜から移した。

顔を上げ、月を見つめる。

水平線までを綺麗に照らす月と連なるかのような天の川は遮蔽物がない為か、やけに大きく見えた。

 

ウサ耳型のカチューシャにそっと触れる。

表面に微かに付いた傷跡。

それをなぞりながら、彼女は後方に声を投げかける。

 

「そうは思わない?ちーちゃん」

「随分と騒々しい気もするがな。後で全員説教コースだ」

「ふふふ、ちーちゃんらしいね」

 

束は振り返ることも無い。

昼間のような明るさはなりを潜め、どことなく感傷に浸っているように千冬は感じた。

 

 

 

「───過去に今宮と何があった?」

「…質問の意味がよく分からないかな?」

 

「茜さんの息子…なだけならばお前は興味すら示さない筈。だと言うのにあの視線はどういう事だ?」

 

その声には確信に満ちたものがこもっていた。

束はそれを聞きながら敵わないなぁなんて漏らす。

一瞬の視線の変化を見抜かれていたようだ。

 

「流石はちーちゃんだね」

 

親友に賛辞を贈る。

声はどことなく嬉しそうだった。

 

「けど、束さんと彼には何も無いよ。あくまで私やちーちゃんが母親を知っていたってだけだよ」

 

 

 

「…妙だと思わないか?世界中が調べても出てこない空白がアイツにはある。まるで何処かの誰かが消し去ったようにな」

「それはとんだ天才もいたものだね」

「更にその天才は妹の華々しいデビュー戦として軍用機を暴走させる程の天才ときた」

「凄過ぎて、皆目見当もつかないな〜」

「一夏のISのコアは大方白騎士のコアだろう?並び替えてしろしき──白式────随分と単純な言葉遊びだ」

「さあ?どうかな?」

 

とぼける束は座ったまま足を投げ出し、バタバタと動かす。

千冬の声色は平静ではあるものの疑心を孕んでいた。

 

束は微笑む。

千冬の位置からその表情は見えない。

何の脈絡もなく、聞きなれない単語を口にした。

 

「過剰同調」

 

「!」

 

「あの凡人の唯一と言っていい才能にして、欠点の象徴だよ」

 

束の言葉を受け、千冬は何を指しているか即座に理解した。

今宮流星が突如として行ったISのリミッター解除。

本来なら廃人になる筈のもの。

彼が適応している事を束は知っていたのか。

 

尚、千冬レベルならばする必要はない。

そもそも身体的な才能が秀でている者程、感受性や五感が研ぎ澄まされて居ることもあり精神への負担も大きくなる。

 

最も、廃人になるかどうかについては、強さや性格でどうにかなるようなものではない。

 

「以前、それを使っている雑用係の貧弱な下っ端が居たんだ」

 

束の声が弾んで聞こえた。

凡人、そう呼びつつも背景にある感情は有象無象に向けるものではなかった。

 

「下っ端だと?」

「うん、下っ端。コレが使い勝手良くてさ、仕事をしくじった事もなかったね」

「…仕事、か。ロクなものでは無さそうだな」

「ただのお掃除だよ、ちーちゃん」

 

微かに眉を潜める千冬。

岩礁に打ち付ける波音が周囲に溶けていく。

親友の語る言葉を頼りに、考えを走らせる。

親友の態度も加味して彼女の中である仮説が生まれていた。

表には出さず、彼女は疑問を口にする。

 

「使い勝手が良かったなら、何故今お前の傍に居ない?」

「簡単だよ。結局予定が狂っちゃったから白紙に戻しただけ。コアの方も下っ端の方も何処かにやっちゃった」

「……束、お前───」

「筈なんだけどねぇ……いやー、流石の束さんも運命?っていうの?感じずにはいられなかったね」

 

愚痴を言うような調子で束は話をしていた。

懐かしんでいる。

明らかだった。

 

「───」

 

「ねぇ、ちーちゃん」

 

千冬は考えを張り巡らせる中、束から呼び掛けられた。

風に髪をたなびかせながら呟くように問いかけた。

 

「─────今の世界は楽しい?」

 

先までよりも遥かに真剣な声色だった。

いつも通りに余人は感じられるだろう。

ただ、千冬はそうではないと判断した。

彼女は思っている事をそのまま口に出す。

 

「…そこそこにな」

「そうなんだ」

 

返事はいつになく素っ気ない。

何を思い、何を考えているのか想像は付かない。

千冬は視線を束から空に移した。

 

束は千冬の回答に数秒考え込むと、振り向かずして口を開く。

 

 

「私はね───────」

 

「!」

 

告げられる言葉に、思わず千冬は目を丸める。

 

すぐに束の方へ振り向くも遅い。

 

束の姿は、既にそこになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず、銀の福音編はこれにて終了です。
学園に帰る所はまだありますが、大まかな部分はということでどうか。

長い…長かった……。
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