IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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臨海学校から数日が経過した。

 

あれから特に何事もない日々が続いている。

流星の傷も完治し、ISバトルも先日から再開していた。

 

───あの事件から少しだけ周囲の環境は変化した。

主にそれは放課後の練習時のものだ。

 

 

あの時、皆思う所があったのだろう。

前よりも実戦時を見据えた意見も特訓の際出るようになった。

また、各自の換装用パッケージや新武装の試運転も積極的に行うようになっている。

新たな立ち回りをしようと試す流れも多々ある。

 

模擬戦の頻度も更に増えた。

 

 

 

後は純粋に練習する面子の変化だ。

 

紅椿を得て改めて専用機持ちとして練習に参加するようになった箒。

それだけでなく、流星も以前より一夏達の練習に顔を出すようになった。

何か心境の変化か、はたまた気まぐれかは分からない。

 

──簪さんの専用機開発も残りが武装だけになったからか、暇を持て余してるのかもしれない。

白式の荷電粒子砲のデータが欲しいと言われたあたり、流星が今も手伝っているのだろう事は分かる。

 

当の簪もまた、練習によく顔を出すようになっていた。

 

 

 

そして、第二次移行(セカンドシフト)を果たした白式・雪羅の存在。

 

スラスターも増設され、盾や荷電粒子砲まで使えるようになった。

元々高かった性能が上がることで、彼が性能に振り回されがちになっているのは否めない。

だが、彼もそれを何とかものにしようと日々努力を重ねていた。

 

 

戦績こそ宜しくないが、毎夜自主練を行う。

 

メニューは見えた課題に応じたもの。

泥だらけに汗でズブ濡れになりながら、彼は今日もシャワーを浴びてから食堂へ向かう。

シャワーを浴びる時間も自由であり、夜に自主練をしても誰にも迷惑がかからない。

また、部屋を広々と使える。

 

寂しいという点を除けば、これはこれで悪くない。

一人部屋になった恩恵を彼は感じるのであった。

 

…ラウラがたまに布団に潜り込んでいる展開は何とも精神衛生上良くないが…。

 

 

ああ、実に平和である。

 

そうして自主練を終え、ご機嫌な一夏が食堂へ訪れる。

流石に遅めと言うこともあり、売り切れのメニューは多々見られる。

が、全て美味しい為気にならない。

 

ハンドタオルを首にかけ、部屋着というラフな格好の一夏は定食の乗ったトレイを手に座る場所を探す。

待ち合わせの約束をしている訳では無く、純粋にどうせならと辺りを見回しただけである。

 

と、見慣れた人影が視界に映る。

タイミングが良いなと胸中で呟きながら、一夏はそちらの席へ足を運んだ。

 

そこに居たのは珍しい組み合わせ。

オレンジと金色の髪が来訪者に気付きそれぞれ揺れる。

 

口を開こうとした所で、視線がテーブルに映る。

そこにあったのは夜ご飯───ではなく、開かれ散乱した教科書の数々。

一瞬不思議に思った彼だったが、理由を考えた所顔を強ばらせた。

 

同席していいか訪ねようとしていた筈の口は、全く別の言葉を吐き出すことになった。

 

「期末……試験……!?」

 

固まる一夏。

サーッと血の気が引いていくのが目に見えて分かる。

それが全てを物語っていた。

 

彼のリアクションから、勉強していた2人は結論を導き出す。

 

「一夏、もしかしてだけど忘れてたの…?」

「…どうやら図星らしいぞ、シャルロット」

「みたいだね。───あ、一夏。とりあえず座りなよ」

 

しれっと一夏を隣に誘導するシャルロット。

口で言う前から奥へ座り直していたあたり、自然な誘導だ。

親切心7割、恋心3割といったところであろうか。

対面の少年は感心した様子だ。

 

一夏は席に座りつつ、苦虫を噛み潰したような顔。

 

「ありがとうシャル。──やばいかも。マジで忘れてた」

「ここ最近ホームルームで口酸っぱく言われてたと思うんだけど……。大丈夫?最初のテストまであと1週間だよ?」

「最近ISの事ばっかり考えてて聞いてなかった…。どうしよう」

 

手を静かに合わせ、戴きますと食べ始める一夏。

テストに向けてスケジュールを考えている中、黙々と勉強を続ける流星に視線をやる。

一定の感覚で数式を解いていく。

シャープペンシルが紙の上を走る音が心地良かった。

 

「シャルが教えてたのか」

 

2,3問先の問題を眺めているシャルロットに一夏が声を掛ける。

目の前の少年に話し掛けなかったのは邪魔をしてはいけないという思いからだ。

反してシャルロットより先に少年が答えた。

 

「ああ、気晴らしにここで1人解いてたら教えてくれるってなったんだ。普段はルームメイトに頼むんだけど、生憎今日は忙しいみたいでな。丁度困ってたから助かってる」

 

「成程」

 

視線を手元に集中させたまま、彼はそう言った。

指もまた止まる事無く問題を解き続けている。

シャルロットは少し遠慮気味に彼の言葉に返す。

 

「お互い様だよ。僕も教えてた方が復習にもなるからね」

 

「相変わらずの優等生っぷりだ。それで一夏、どうする気だ?別に普段から復習予習が完璧って訳じゃないだろ?」

 

「確かにそうだな。なあ、いつもこの時間勉強してるのか?」

 

「俺は大体してる。基本的に自室でだけど」

 

「自室でだけど、僕もこの時間にしてる事が多いかな?テスト前って事で明日から授業も短縮だし、明日からはもう少し早めからするつもり」

 

「う、見習わないとな。俺も食べ終えたらすぐ始めるよ」

 

食べる手が自然と早まる一夏。

彼の向かい合っている先は焼き魚定食。

綺麗に骨を残し食べる彼からは育ちの良さを感じる。

 

と、シャルロットの視線は一夏の方へ。

何か思い付いた様子であった。

 

「ねぇ、一夏さえ良ければなんどけどさ。一夏の部屋で一緒に勉強しない?分からない所があったらすぐ教えられると思うし、いい案だと思うんだ」

 

そこには策士がいた。

少し恥ずかしがりながらも一夏の様子を窺うような視線。

普通の男子ならば『ひょっとして───』と期待してしまう所だが、ここに普通の男子は存在しない。

比較的普通である感性を持つ織斑一夏はこの部分に関してのみ、異常なまでに鈍感であった。

 

なので普通に親切心100%と信じて疑わない。

彼女の提案に目を輝かせながら、無垢な反応を返す。

 

「いいのか!?流石シャル、恩にきる!」

「決まりだね。僕も勉強したいから、毎日でもいいかな」

「全然いいぞ。俺は今一人部屋だし、広く使えるしな」

 

彼が鈍感なのは百も承知。

シャルロットもまた笑顔で頷く。

あくまで密室に2人きり、それも一週間毎日。

かつてない好機(チャンス)と彼女は内心黒い笑みを浮かべる。

 

彼女の考えを察し、もう1人の少年は内心溜息をついていた。

最も、彼も自身に向けられている好意には気づけてもそれが恋心だとは察せない。

自身に向いている矢印がそういったものと夢にも思わないから、というのが要因の一つだからである。

IS学園男子2人はそれぞれ重症であった。

 

───この約束を他の3人(箒、セシリア、ラウラ)が知ればどうなる事やら────。

 

知らないフリをしていよう、そう誓いながら少年は問題を解き続ける。

 

 

ここで話が終わるなら、誰も苦労はしないものである。

 

一夏は笑顔のまま正面に向き直り、何か思いついたように爆弾を投下した。

 

「そうだ!皆も誘って勉強会でもしないか?教えあった方が効率的だし、きっと楽しいぞ!」

「え?」

 

固まるシャルロット。

そこで『二人だけがいい』なんてストレートに言える度胸があるなら、そもそも一夏に好意を寄せる4人は何かしら進展があったものだった。

 

楽しそうに笑顔を浮かべる一夏の手前、その案を咄嗟に否定する考えが浮かばない。

学生らしく皆で勉強会というのも、確かに悪くないと思ってしまうシャルロット自身もいる。

目の前の少年は我関せず。

どうしようかと考えるシャルロットを手前、一夏は正面の少年にも声を掛けた。

 

「なあ、流星もそう思うだろ?」

 

「え───」

 

そこで初めて、少年の指が止まった。

先程までBGMと化していた音も消える。

話は聞いていた、聞いていたのだがまさかだった。

 

少し思考を会話の内容に働かせ、もしや──と半目で困ったように顔を上げる。

眩しい笑顔の一夏を前に1つの結論に彼は至る。

 

「…………ひょっとして、俺も参加なのか?」

「当然だろ?折角の男子二人だし、助け合おうぜ」

 

即答だった。

固まって動けないシャルロットをよそ目に、少年は溜息をついた。

二人で、という事を先に告げないからこうなるんだと胸中で呟く。

彼もまた一夏の表情を前に断るのは気が引けていた。

 

そんな周りの思考など露知らず、一夏は楽しそうに口を開く。

 

「買い置きのアイスもあるから、勉強後に皆で食べようぜ。それなら来るだろ?」

 

「お前、俺をなんだと思ってるんだ」

 

呆れながら流星は再度問題に向き直る。

すぐに再開されるBGM。

筆圧が先より強い。

勘違いされている、と少年は不満気であった。

 

 

───まぁ、行くのだが…。

 

 

 

 

 

「よーし、じゃあ勉強会を始めるとするか」

 

翌日。

部屋の真ん中に置かれた簡易式の長テーブルを前に、一夏は意気揚々とそう告げた。

用意されたテーブルも椅子も用務員の方に頼み、借りてきたものである。

座っている面々も持ってきた教科書や問題集を開き、手元へ視線を落とす。

参加者は箒、セシリア、ラウラ、本音、簪、鈴+一夏達の9人。

かなりの大所帯であり、部屋は賑わっていた。

 

ここまで人数が集まるのであれば、食堂ですれば良い話である。

ただ、食堂では一夏と流星が揃うだけで嫌でも目立つ。

大所帯となれば、尚更である。

座席順は希望ごと。

意見が別れればジャンケンで決められた。

 

座って勉強するだけなら余裕で部屋に収まる。

IS学園の寮の広さを再認識させられた一夏達。

 

皆が問題を解き始めて十数分。

静かにツインテールの少女が顔を上げた。

対面に座っていたセシリア達に視線を向ける。

 

ふふん、と少し含み笑いを浮かべた後口を開いた。

 

 

「───今更だけどさ、代表候補生(あんた達)ってこんな事しなくても余裕じゃないの?」

 

 

気になった一夏も顔を上げる。

彼の認識としてはあくまでセシリア達も、大差ないという感覚である。

一応、自身よりもかなり優秀という事は分かっていた。

───のだが現実は少し違う。

 

返事をしたのはラウラだ。

お誕生日席に座る一夏から見て左にあたる。

 

「そうだな。この程度なら対策せずとも高得点は堅い」

「へ?そうなのか?ラウラってやっぱり凄いんだな」

「む。嫁に褒められて悪い気はしないが、私に限った話ではないぞ」

「?どういう事だよ。あ、セシリアやシャルもってことか」

「───正確には代表候補生の皆だな。私達は国の代表だ。選出される時点で、時間管理能力と一定の学力も求められる。IS学園に入るとなれば尚更だ」

 

ラウラが答え、一夏はそれにポカンと口を開けたまま。

そりゃそうよね、と鈴は頷く。

一夏の想像と前提からして違ったのだ。

そもそも彼女達にとって勉強会はあまり意味が無い。

 

それを知った一夏は困った様子で頭に手をやる。

迷惑だったかな?なんて考えた辺りで、改めて疑問が浮かぶ。

 

「知らなかった。────あれ?でもならどうして勉強会に参加しているんだ?」

 

一夏の疑問にセシリア、シャルロットが顔を上げる。

一夏から見て右手側の席。

彼の右隣に居るのはシャルロットである。

 

彼女達もここしか無いと理由を告げようとした所で、ラウラがそのまま得意げに言い放つ。

 

「夫婦とは助け合うものだと聞いた。共同作業ともいうのだろう?───分からぬ所があれば私に聞け。幾らでも教えてやろう」

 

「ちょっとラウラ!先に一夏に教える約束をしたのは僕だよ?」

 

「お二人の手を煩わせるまでもありませんわ。ここは私が───!」

 

立ち上がるシャルロットとセシリア。

一夏に勉強を教える座を我の物にせんという思考がダダ漏れであった。

元凶の少年は何故?という表情で固まっている。

 

バチりと三者の間で火花が散る。

 

「私の嫁だ。故に私が教える方が筋が通っている。他の者の助けは不要だ」

 

「ラウラさんの嫁ではありませんわ!それに、入試首席の私が教える方が理にかなってましてよ!」

 

「二人とも勉強会で誘われだけでしょ!───ねぇ一夏、僕が教えるって約束したよね?」

 

「嫁よ、どうなのだ?」

 

「一夏さん!」

 

3人に詰め寄られ、一夏は肩を大きく竦めた。

鬼気迫る様子でまさか先生役を買って出られるとは夢にも思わなかったのだろう。

 

「相変わらずよね…」

 

言葉を濁す彼を後目にツインテールが上下する。

大きく溜息をつき、心底呆れたといった表情であった。

 

ちなみに、彼女の左横に座っているのは本音。

更にその横に座っているのが流星だ。

簪の位置は流星の対面にあたる。

 

彼女達もまた、教える側だ。

本音や流星、そして一夏や箒の為に来たのが主な目的である。

取り合うような愚は冒さない。

というより、目の前の反面教師達がその愚かさを現在進行形で教えてくれているのも作用している。

 

「…」

 

鈴の言葉を聞き、簪は怪訝な顔で彼女を見た。

責めるような視線に鈴は思わずたじろぐ。

妙に威圧感があった。

 

「な、何よその目は」

「呆れてるだけ。こうなるの分かってて、油に火種投げ込んだのは鈴なのに」

「冤罪よ冤罪。こんなの、いつも通りの自然発火じゃない」

 

自分は悪くない、と言いたげな少女。

こう騒がしくなった事へ多少の負い目はあるのか、視線を逸らしている。

ここまで綺麗に言い争いになるとは思わなかったのだろう。

簪の視線はそんな彼女を捉えて離さない。

 

「鎮めてきて」

「嫌よ。あんたが行きなさいよ」

「鈴のせいだから、鈴が行くべき」

 

こちらでもまた軽くだが、火花が散る。

最初の頃を思えば、想像すら出来ない絵面だろう。

 

鈴と簪の打ち解け具合が手に取るようにわかる。

 

──と、仲睦まじいのも良いがこのままでは向こう側の収集が付かない。

 

黙々と勉強していた流星も表を上げ、口を開いた。

 

「本音、採決を取ってくれ」

「了解〜。じゃありんりんが有罪(ギルティ)だと思う人〜」

「はい」

「同じく」

「しゅーりょ〜」

 

片手を上げ採決を取ろうとする本音に即手を挙げる流星と簪。

鈴としても普通に嫌なのか手を挙げる。

 

「異議あり!異議ありよ!」

「…本音裁判長、お願い」

「静粛に〜」

 

簪の言葉に従いノリノリな裁判長。

机を叩くのは気が引けたのか、ブカブカの袖を振って木槌(ガベル)を叩くフリをする。

イマイチ締まらないのも彼女の魅力か。

 

この小芝居をする暇があるのなら、その間に何とか出来ただろうと言うのは禁句である。

 

「じゃありんりんお願い」

「…………仕方ないわね…」

 

渋々立ち上がって鈴は一夏達の方へ。

体良く裁定者(生贄)を遣わし、心配も要らなくなったのか流星達は黙々と勉強を再開する。

簪の左隣の箒もまた、同様に黙々と取り組んでいた。

勉強していた教科はIS基礎工学やIS基礎整備技術等のIS関係の科目。

それらは少し前までISを敬遠していた手前、彼女の苦手科目と化していた。

ただ、今はきちんと取り組んでいる様子。

面子的に考えても、今回の勉強会を一番活かせる教科かもしれない。

 

「簪、少しいいだろうか?」

「大丈夫、見せて」

 

箒は問題集を開いたまま横の簪の方へ移す。

ちょこんと座りながら遠慮気味に覗き込み、メカニック系女子は内容を把握。

 

「えっと、これは──」

「───ふむふむ。ああ、少し待ってくれ。ここは───?」

「この部分は───」

 

分かりやすい様に段階を踏んで教えていく簪。

飲み込めない部分は素直に伝え、説明を求める箒。

多少箒の聞き方が分かり難くても、簪は幅広い知識でそれを理解する。

また、簪が専門的な言葉をつい出してしまっても、先に教えて貰っていた本音や流星がフォローしている。

 

───この4人だけで良いのでは───?

喉まで出かかったものを飲み込み、4人は問題に向き合う。

 

集中力という壁で遮断していた向こう側から、1人の少女が帰還した。

 

「はぁー、疲れた〜」

「…おかえり」

 

自身の持参した資料を漁りながら、水色の少女が返事する。

ぐでーっと机に突っ伏す鈴。

簪は視線を一夏達の方へ向けた。

 

……織斑君は兎も角、ラウラさん達が齧り付くように勉強してる───?

 

真面目に勉強するのはいい事ではある。

あるのだが、セシリア、シャルロット、ラウラの三人の纏っている空気があからさまに違った。

前傾姿勢で目の前の教科書や問題集に集中している。

聞こえるシャープペンシルの音は、ヤケに間隔が短く筆圧が強いのがわかる。

 

一夏の方を気にしてる素振りすら見せていないのは、ハッキリ言って異常だ。

 

簪の視線は斜め前の鈴に戻る。

 

「ねぇ、鈴。どんな魔法使ったの?」

「もうどうにもならなそうだから、報酬用意することにしたのよ」

「報酬?テストの結果で決まる感じ?」

「そ。学力テストで1位取った奴は、参加者の1人を1日自由に出来る───って話になったの」

 

「───なんだと!?」

 

箒が席を立ちながら声を上げる。

その報酬の真価を理解し、ぐぬぬと歯軋りをたてる。

 

勿論、箒も勝負には乗るつもりだ。

ただ、中々に厳しい戦いになるのは目に見えていた。

とりあえず1位を目指すつもりではあるが、そもそも国側の都合で入学させられた箒では圧倒的に不利だ。

 

一夏に勝って貰えばひと安心だが、彼もまた箒とその点は変わらない。

 

───余談だが、この発案をした鈴はセシリア有利とまで織り込み済み。

 

負けられない戦い。

箒は何か策はないかと考え────閃いたのか、すぐに立ち上がりつつも顔を一夏の方へ向けた。

いつもと変わらぬ調子で口を開く。

シャルロット達も一旦意識を彼女に向けていた。

 

「一夏、1位になった者に報酬があるのは本当か?」

「ああ、そうだぜ。箒も参加するか?」

 

「無論だ。だが、どうせならここにいる全員で競うのはどうだ?」

 

「おお!いいな、それ」

 

「「「────!」」」

 

その時点でセシリア、シャルロット、ラウラの表情が驚愕に染まる。

 

(策士、策士ですわ!まさか箒さんもこのような戦い方が出来るなんて───!)

(まさかこの一瞬でそれを思い付くなんて…!これは壮絶な戦いになりそうだね)

(確か、武士や武将なるものは頭の回る者が多いと聞く。箒もそうであったか──!)

 

思わぬ絡め手。

この一手はあまりにも革新的だった。

こうなれば、自分達とは別の報酬(・・・・)を狙う勢力が加わってくる。

 

ユラりと立ち上がる影が二つ。

 

「そういう事なら───」

「───やるしか無いわね」

 

燃え盛る炎を一夏はその背後に幻視する。

いや、やる気になるのは素晴らしい事なのだがセシリア達の時といい、何かがおかしい。

据わった目が怖い────割と本気で怖い、と一夏は顔を強ばらせる。

 

「手加減はしないわよ、簪」

「こっちの台詞…」

 

睨みを効かせる両者。

負けられない戦いがここでも勃発していた。

 

「ふっ」

 

そして、その様子を見て箒は得意気。

 

見ていた本音は完全に観戦モード。

ヤケに楽しそうでそれでいて少し焦っているようにも見えた。

 

 

ともあれ、皆目標が決まり、テストは別のイベントへと変貌を遂げた。

 

俺も頑張ろう等と呑気に勉強を再開する報酬A。

 

────そして、報酬Bは思わぬ展開を前に切実な感想を漏らすのであった。

 

 

 

「………頼むから普通に勉強させてくれ」

 

 

 

かくして、何気ない期末テストは熾烈極まる勝負へと変貌を遂げた。

渦巻く欲望と対極的なまでに健全な勝負内容。

エリートひしめく中、勝利を掴むのは──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その日の就寝前。

ある部屋で内容を聞いた第三者は異様な食い付きを見せたという。

 

「勝つのよ、流星くん!勝って簪ちゃんに用意したにゃんにゃんな服を────」

 

「却下だ馬鹿」

 

 

 

 




幕を開けた期末テスト。
多 分 続 か な い。


ちなみに席順は

簪箒英仏
■■■■一
流本鈴独

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