IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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時刻は昼過ぎ。

燦々と降り注ぐ日の下、飛び交う2つの影があった。

アリーナの上空。

昼間だというのに静かなその場では黒と白が交差した。

 

「やるな────!」

「まだまだ…!」

 

片やプラズマ手刀、片や雪片弐型を振るう。

金属音が周囲に木霊した。

 

互いに切り札は使用していない。

黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)』を駆るラウラは振り返ると同時にワイヤーブレードを射出。

 

 

「────」

 

振り返りながら一夏は右半身を後方へズラす。

1本のワイヤーブレードをその動きでかわし、迫るもう一本へは左腕に展開した盾で受け流す。

 

「!」

 

ラウラは一連の行動に違和感を覚えた。

今までの彼ならば完全に躱すよう動くか、切り弾くかの二択だった為だ。

暗に盾にもなる兵装が増えた為だろうか。

彼女は分析しつつ、レールカノンで追撃に走る。

 

「行くぞ!」

 

盾で受け流した一夏はそのまま反転。

受け流す動作と同時に相手へ迫るよう、踏み込んでいた。

 

「成程、回避を温存の為でなく接近の起点にするか──」

 

既に放ったレールカノンに対して、彼は身を屈めて突っ込む。

表情は緊張した様子。

無理もない。

放たれた攻撃に自ら突っ込んでいくのだ。

実戦や模擬戦というのは関係ない。

確証がない以上、恐れるのが当然だ。

 

ただ、踏み込みには思い切りがあった。

一秒先に起こる出来事を確信し、ラウラは感心の意を示す。

 

 

──だが、と彼女は笑みを浮かべた。

 

「まだまだ拙いな、そこからどうする?新兵(ルーキー)!」

 

 

切り捨てられる砲弾。

かつては、相当なベストコンディションでのみ出来た芸当を彼はやってのけた。

 

返す刀で決めにくる一夏に、彼女はプラズマ手刀で先に切り掛かる。

同時に戻ってくるワイヤーブレード。

 

彼は咄嗟に対応しようと姿勢を変えた。

 

「!」

 

それが罠だと気付いた時には遅かった。

金縛りにあったように彼の手が止まる。

動かそうとしてもビクともしない。

 

一夏の身体は空中に固定されていた。

 

「っ、慣性停止結界(A I C)か!」

 

先のレールカノンは戻ってくるワイヤーブレードから意識を逸らす為のもの。

プラズマ手刀で切り掛かって見せたのは相手の出方を見つつ、選択肢を減らす為だ。

巧みな立ち回りに思わず彼は舌を巻く。

どうにか反抗しようと試みるもそれは叶わない。

 

目の前でレールカノンの照準が一夏に向けられる。

 

 

「私の勝ちだな」

 

 

勝敗はあっさりとついた。

 

模擬戦を終え、降りてくる2人。

降りた先は観ていた箒達のいる場所。

白と黒の機体はそれぞれ待機形態に戻る。

 

「また負けた…。攻めるタイミングを間違えたのか?いや、でもなぁ…」

 

頭に手をやり、浮かない顔の一夏。

試み通り接近こそ出来た。

が、結局はあっさり対処された事がショックだったらしい。

ラウラはそんな彼を横目に、目の前に先の映像を投影した。

一同の視線がそちらへ向く。

再生されているのは彼が攻撃へと転じるあたりだ。

 

「一夏、ここの流れ自体は悪く無い。攻めの起点としては完璧だった」

「でも結局綺麗にあしらわれたからな。読んでたのか?」

「いいや、あの様に来るとは想定外だったな。毎度の事ながらお前の成長には驚かされる」

「想定外だった?」

 

一夏は映像を見返しながら首を傾げる。

想定外だったというのに、あのように容易く捌かれたのだろうか。

彼の言いたげな事は皆すぐに理解した。

 

ラウラは映像を止め、彼の方に向き直る。

 

「簡単な事だ。近距離への備えを先にしていただけだからな。いつ踏み込まれてもいいようにしていた、というのが正しいか」

 

「あー、そういう事か。言われて見れば本当に今更だ」

 

苦虫を噛み潰したような一夏。

どの道、『白式』は近距離でどうこうする機体だ。

ならば相手は当然近寄られた時の対策を先に講じている。

極々当たり前の事を、突きつけられる課題の1つを改めて思い知る。

 

「距離を詰めてもその距離でどうにか出来なきゃだもんな」

 

ほぼブレード1本で戦わざるを得ない一夏には大きな問題である。

こればかりは、他の専用機持ち達が模範解答を示す事も至難の業であった。

 

顎に手を当て考え込む一夏。

一緒に考えながら箒は何となく口を開く。

 

「過去の千冬さんの試合は参考にならないのか?」

「そう思ったんだけど…」

「───あ、いや。すまない。理由は何となく理解した」

「分かってくれて助かる。操縦技術は勿論なんだけど、基本的に先手必勝で全部躱して零落白夜を叩き込んでるから、何も分からないというか…」

 

ははは、と困ったように一夏は頬をかく。

呆れたような口調ではあるが、そこには誇らしさが混ざっていた。

 

 

 

「完成形過ぎるのも問題か。確かにアレは参考にならないな」

 

映像を思い返しながら流星も溜息をつく。

アレは、次元が違う。

理想とするには良いが、目標にするにはまるで役に立たない。

 

ウンウン考えていた一夏は何か思い付いたように視線を少年に移した。

 

 

「ところで流星」

「どうした?」

「最近動きが滑らかになった気がするけど、なにかコツとか掴んだのか?」

「そうか?特別変化はないと思うが───」

 

「──確かに、ここ最近の流星さんは動きが違いますわね。──あの時程の動きではありませんけど、明らかに操縦技術が上がってますわ」

 

「……」

 

一夏に次いでセシリアにも指摘され、少年の視線は待機形態の時雨に。

表情こそ変えずにいるが、内心には驚きがあった。

 

『同調』時程ではないが、現時点での機動性は明らかに臨海学校前より高い。

うんうんと頷く一同。

指摘されるまで気付けなかった。

まるで、そう出来るのが普通であると何故か認識していたからである。

ISとの繋がりが深くなった影響だろうか。

 

すぐにその思考を打ち切る。

それよりも大きな問題があった。

 

───質問にどう答えていいのか分からない。

ISと無理矢理『同調』した結果です───なんて即研究所送りの案件を安易に口に出すのははばかられる。

下手に伝えれば彼らの身にも危険を及ぼす可能性があるからだ。

現状、知っているのは織斑千冬と更識楯無の両名のみ。

 

 

視線が集まる。

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)戦から皆ずっと疑問に思っていたのだろう。

聞く機会を逃していたのも起因している。

流星はとりあえず気付かなかった事だけは口にする事にした。

理由は思い当たるがそこを分からないとすれば話は広がらないからだ。

 

「そうか?自然にやってるつもりだったから気付かなかった…。土壇場でコツでも掴んでたのかもな」

 

「それにしては差があり過ぎる気がしますけど…?」

 

コツとかそのような次元ではないのは明白ではある。

が、本人も知らないと言う以上収穫はないだろう。

 

──まあ良いですわ、とセシリアは追及を止める。

他の代表候補生達も納得はしていない様子である。

 

そして、簪は一人不満そうにジト目で睨んでいた。

明らかに何かを怪しんでいる。

 

少年は彼女の方を見ないように意識しつつ、『俺の事はいいだろう』と無理矢理話題を切り上げた。

 

小首を傾げながら、一夏はISの状態を確認する。

あまり詳しい訳でもないが、簡単な点検くらいは出来るようになっていた。

装甲の損傷具合やスラスター、PIC制御周りのパラメータも問題無かった。

ただエネルギーの回復を考えると少し時間を置かなくてはいけない。

人の練習を見ているのも悪くないが…。

 

どうせならと彼は思い至る。

一夏はすぐに振り向き、行き先を告げその場を後にした。

 

「ちょっと剣道場で素振りでもしてくる!」

 

そそくさと消える一夏。

その背を見送りながらシャルロットと箒は不思議そうな表情であった。

 

「行っちゃった」

 

「ここの所、剣道場で素振りをする機会も増えたな。全く、剣道部員でも無いというのに」

 

「そう言ってやるな。今はテスト前だし、使用するだけなら特に申請も要らない筈。──最近の体捌きと言い、もしかすると何か方向性は見えてきてるのかもな」

そう言いつつ彼はISを展開し、武装を展開。

そのままアリーナ内の機能にアクセスし、射撃訓練用のシステムを起動した。

種類は豊富。

今回選んだのは近接射撃用のものだ。

 

空中に現れる多くの的。

一部動いているドローン等もあり、少し離れた場所には残り時間とスコアが表示されていた。

決められたルートが幾つか存在し、それに従いつつも的を的確に撃ち抜けばいい。

彼は片手に拳銃型の特殊兵装を展開し、後ろに振り向いた。

やたら挑発的な笑みで彼は言ってのける。

 

「今日の1位は俺が貰うからな」

 

即座に振り返り、開始のブザーと共に飛び出す。

特殊兵装を巧みに駆使し、彼は空を駆け上がっていく。

 

「上等。代表候補性舐めるんじゃないわよ。目にもの見せてやるからね!」

 

余談ではあるが、その発言を口火に白熱したスコア合戦が行われる事になった。

 

 

 

そして、その日の夕暮れ。

整備室で作業する4つの人影があった。

宣言通りその日の1位を見事獲得した少年は、静かに『打鉄弐式』に向き合っている。

 

傍らで不機嫌そうに手伝う鈴。

不機嫌な理由は手伝いへ何か思っている訳ではなく、純粋に勝負に負けた為だ。

 

本音と簪は何やら小さなBOXの中身を弄っていた。

聞いた話によると火器管制装置らしく、中々手こずっているとの事。

 

流星と鈴は、背部に取り付けようとしている荷電粒子砲のデータを整理している。

 

一応、近接武装である夢現(ゆめうつつ)は完成している。

曰く、超振動薙刀───対複合装甲を想定してのものらしい。

らしい、というのもこの武装に関してはほぼ簪が作った為、流星達は殆ど中身を知らない。

 

荷電粒子砲のデータは白式のものを利用している。

元々が同じ倉持技研の機体という事もあり、恐らく親和性も高い。

中身はまだまだだが、それでも計算上問題は無かった。

連射型にする為に少し制御系を弄り、2人は投影ディスプレイに無言で向き合う。

多少は詳しくなったのだが、それでも分からない部分はある。

 

「疲れた。休憩するわ…」

 

「だな」

 

地道に進め、30分経ったあたりで鈴は引いていたシートの上に転がる。

逆に流星は立ち上がり、離れたテーブルにあるポッドの電源を入れた。

そのまま彼はパッと手を洗い、椅子を用意する。

 

それに気付いた2人も時間を見て作業の手を止める。

 

 

「休憩しよっか」

「賛成〜」

 

やってきた2人を後目に流星はマグカップも用意する。

数は4つ。

金属製の無骨なマグカップは本人の物。

 

特にこだわりの無さそうなシンプルなマグカップ。

何かのアニメキャラらしきものが描かれたマグカップ。

動物がプリントされた可愛らしいマグカップ。

 

それぞれに彼はインスタント珈琲の素を入れ、シュガースティックを用意する。

 

「いまみー」

「分かってるよ。砂糖多めだろ?簪は?」

「私は、無しで大丈夫」

「良いのか?言っちゃなんだが上等なものじゃないぞ」

「大丈夫」

 

と、簪は流星の手前にある袋を置いた。

包装されている袋からは仄かに甘い香りがする。

中身を察し、流星と本音は顔を見合わせた。

 

袋を遠目から見た鈴も華麗に飛び起きて此方に。

とりあえず手を洗って来ることを流星に促され、女子3人は手を洗う。

 

戻ってきた簪は袋を開けた。

中から顔を覗かせるは人数分の抹茶のカップケーキ。

おー、と目をキラキラさせる本音。

そして。

 

「これが噂のカップケーキね」

「…鈴、前の時の話は忘れて…」

 

まじまじとカップケーキを見つめる鈴。

彼女の脳裏に浮かんでいるのは、前の2人の喧嘩。

雨降って地固まるを体現した後でこそあるが、簪本人としては苦い思い出であった。

はいはい、と了承する鈴。

軽く流された事にちょっと口を尖らせる簪。

鈴は気にせず目前のカップケーキを手に取り、眺める。

 

「結構手間じゃない?人数分よく作ったわよね」

「いつも手伝って貰ってるから…そのお礼?かな」

「ふーん、あんたも律儀ね」

 

素っ気ない返事をしつつ、鈴は内心羨んでいる。

 

別に不得意な訳ではない。

こういったものを作って振る舞うのは慣れていないだけ。

 

勿論簪も振る舞う事に慣れている確証はないが、なんというかにじみ出る女子力というやつが大事だ。

見た目が普通なあたりが彼女らしい。

悪い意味ではなく、素直に完成されていると言うか…。

 

そこまで考えたところで、鈴は目の前の少女に視線をやる。

少女は抹茶のカップケーキを頬張っていた。

 

「うまうま〜」

「本音、意地汚い…」

 

簪も呆れた様子。

隣の少年は最早言及する気はないらしい。

彼も一人美味しいと感想を言いながら食べている。

 

鈴もひと口齧る。

ふんわりと抹茶の風味。

口内に広がる優しい甘さ。

口あたりもまろやか。

生地がしっとりしているからだろう。

 

「──」

 

む、と思わず声を漏らす。

成程。

これは確かに美味しい。

食べる手が少し早まる。

 

それを見ていた簪はホッと安堵の息を漏らした。

彼女は食べる皆を他所にガサガサと鞄を漁る。

自分の分を口にしながら、鞄から先より小さな袋を取り出した。

 

「これ、お姉ちゃんの分だから、その──」

「了解。渡しておく」

 

笑顔で受け取り、自分の鞄に仕舞う流星。

仲直りしたといっても簪は勿論、楯無が忙しいのは変わりない。

実は内心生徒会に入るのも考えている簪だが、それは完全に武装が完成してから。

別の日に渡しに行くのも良かったのだが、早く食べて貰いたい気持ちを彼女は優先した。

…大喜びする姉が少年の脳裏に浮かぶ。

 

 

「ところでさ、あんたのISは弄らなくていいの?」

 

「俺の?」

 

小柄な少女へ少年の視線が移る。

釣られて残りの少女達も視線をキョトンとしたままの少年へ。

 

「だって拡張領域(バススロット)増えたんでしょう?まともな後付武装(イコライザ)だって少ないんだし、何か追加とかした方がいいんじゃないの?」

 

「ああ、それなら学園側で配備しているような汎用装備で何個か目星が付いてる。今発注依頼の書類を書いて───ってなんだ不満そうな顔して」

 

「あんたねぇ…もう少し拘って考えなさいよ。汎用装備ばっかりでも結局容量は量産機(ラファール)に勝てないんだし。第三世代程とはいかないけどひと捻りあった方がいいと思うわ」

 

頑丈なだけの槍、変哲のないIS用のナイフ、訓練機と同型の近接ブレード。

等々、基本的に汎用通り越して凡庸な武装を好む流星には耳の痛い話である。

 

変わったものは例の特殊兵装。

ヤケに手に馴染むのが気になるが、それでも『同調』時程上手く使えない。

加えて高威力である分、燃費は良くない。

戦闘で使いこなすとなるとハードルはかなり上がる。

 

『時雨』がそもそも第二世代機として、元々パッとしない性能(スペック)ではある。

コアに関してはよく分からないが、機体を作っていた企業は潰れたとか何とか。

国内では打鉄との量産機競争に負けたと記憶している。

──理由は確か、劣化ラファールでしかないから。

 

少年は溜息をつく。

一応『時雨』には奥の手として第三世代機すら凌駕する『黒時雨』があるのだが、あれはなんと言うか武装ではないし、元々の仕様には関係ない。

特殊兵装も恐らく、コア側問題が関係している。

 

 

閑話休題。

 

鈴の言い分は、他の武装ももう少し考えてみては?という事らしい。

カップケーキを堪能しながらも、視線を珈琲の水面に落とし考える。

 

「ピンと来ないな」

 

困ったような表情でマグカップに手を伸ばす。

思い出したように、彼は鈴の隣を見る。

 

「本音はどんなのがいいと思う?」

「何か新しい機能なんてどう!?」

「へー、新しい機能か。例えば?」

「お菓子が焼けたりすると便利だよ〜」

「斬新過ぎる」

 

お菓子を焼いてどうしろと言うのか。

本音は楽しそうにアレコレ候補を言っていく。

どれも家電にあるようなもので、途中から鈴まで楽しそうにノリ始める始末。

内心面白そうだななんて思っている自身も居た。

 

流星は珈琲をひと口飲み、抹茶のカップケーキを食べ終える。

隣で考え込んでいる簪へ彼は顔を向けた。

ブツブツと呟きつつも何やら自分の世界に入り込んでいるようにも見えるが──。

 

「簪の方は何か──」

 

「──やっぱりここは…待機音」

 

「………え?待機……なに?」

 

「変身待機音。変形機構の武器とかも捨て難いけど…これは譲れない…!」

 

「?、??」

 

意味がサッパリ分からなかった。

流星も珍しく困惑した表情で彼女の言っている意味を考えている。

簪の方はソワソワしてテンションが高く、少年の様子にも気付いていなかった。

簪の発言が聞こえたのか本音が同調するように身を乗り出してくる。

 

「かんちゃん、それならちゃんとエフェクトも出るようにしよ〜」

 

「本音、完璧。それも付けよう───」

 

「エフェクトって意味あるの?」

 

「大丈夫、鈴。ちゃんと展開までの間、操縦者を守るようにバリアとか攻撃も兼ねてるやつだから。種類にもよるけど、かなり強力だったりもする。他にも───」

 

得意気に早口で告げる簪に鈴は思わずたじろぐ。

───あ、そうなんだ?なんて無難な返事だけして苦笑い。

完全に趣味の世界に入っており、話が長くなると判断したのだろう。

 

それなりにそっちを知っている本音と仲良く談義が始まっている。

置いていかれた流星と鈴はそれを傍観しながら珈琲を啜っていた。

 

「完全にスイッチ入ってるな」

「ええ。……ISの展開速度だと音もエフェクトも出る暇が無い───って言うのは野暮よね」

「…言うなよ?」

 

半目で呟く少年。

鈴は楽しげな2人を見つつ、口を尖らせる。

 

「言うに言えないわよ。──でも『黒時雨』移行時なら換装時間的に可能よね」

「……………言うなよ?」

「言わないわよ」

 

自身の専用機が好き勝手改造される姿を想像する流星。

簪の言っている意味は分からないが、聞いている感じエフェクトやら音を出しながら態々展開する画はシュールの一言に尽きる。

というより、自分がそれをやるとなると流石に恥ずかしい。

分かる人には分かる話なのだろうが、イマイチ流星には分からない領域であった。

 

聞こえてくる2人の会話。

何やら待機形態をどうにかしてベルトに変えようやら、声で反応するようにしようだとか言っている。

 

──姉妹で一緒だな、と胸中で独りごちる。

趣味が、でなく好きな物の事になると周りが見えなくなる辺りが。

 

 

「『打鉄弐式』に付けるのは駄目なのか?その機能」

 

ふと思った疑問を口にする。

簪がそういった物が好きなのなら、自機に付けるのが最良だと思っただけであったのだが…。

 

 

「「ダメ。付けるなら『時雨』」」

 

即答であった。

2人同時に否定され、益々分からなくなる。

何故自身に使わせたいのか、少年は眉を八の字にしながらツインテールの少女へ。

 

少女側としては他人事。

ちょっと見てみたいという欲も出てきたのか、ニヤついて返す。

わざとらしく口元に手を当てていた。

 

「ま、頑張りなさいよ。ヒーローさん?」

 

「期末テストで勝ったら覚えてろよ」

 

「覚えといてあげるわよ。勝つのは(あたし)だけどね」

 

バチバチと火花を散らす流星と鈴。

前のめりの姿勢で簪は間に割り込む。

 

「勝つのは私」

 

「ふふん、返り討ちよ」

 

静かながらも確かなる宣言。

先までのテンションもあってか、ドヤ顔というものに見えなくもない。

 

(────…)

 

入学時期辺りをひたすら専用機開発に注ぎ込んでいたような少女だが、今は状況がまるで違う。

ずっと専用機開発に取り組んでいた少女が、全力で勉強に取り込めばどうなるか───想像は容易い。

 

 

「よし、じゃあ再開するか」

 

いい感じに話題を戻せたと流星は作業再開を促す。

マグカップを回収し、残った袋等をササッと処分して彼はその場から離れようと───。

 

ガシリと肩に誰かの手。

油を挿し忘れた機械のようにゆっくりと振り返ると、そこには満面の笑みの簪の顔があった。

 

 

「流星、ちょっと『黒時雨』についてなんだけど───」

 

「────あぁ、いや今日は『時雨』の調子がだな───」

 

「大丈夫だよいまみー。1回だけ!1回だけ!だから!」

 

何故か一瞬気配がなかったと思えば、本音は工具一式を用意し、既に流星の眼前にいた。

無情にも鈴は我関せず。

というより、彼女もまた楽しそうであった。

逃げ場が無いことに気付き、ガックリと肩を落とす。

 

 

その日、────簪の動画(コレクション)が増える事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ほのぼのした日常回。
次回は出席番号1番さんが出る予定。
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