IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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────私、相川清香は困惑していた。

何にって?

それは言うなら目の前の存在にだ。

 

オレンジの髪に端正な顔立ち、制服の上からでも分かる鍛えられた身体。

この学園に2人しかいない男子の片割れ。

 

何故ここに居るんだろう。

何故此処で書類を書いているのだろう。

ぐるぐる頭の中で疑問が回るけど、一切分からない。

 

場所は体育倉庫───の一角。

主にハンドボール部の備品が多く仕舞われている区画に彼は居た。

置かれていた座席の上で山積みの書類を捌いている────何故。

いや、生徒会のメンバーだからきっとそれ関係なのは分かるんだけど────。

 

薄暗くはない、照明はキチンとついている。

最初は誰かが消し忘れたとばかり思っていた。

空いている事にも疑問はあったけど、倉庫の奥に入って正直人が居てビクってなってしまった。

 

「───」

 

でも、一人なのも珍しいかな。

彼は最近、必ず3人の内の誰かとよく居るから。

まず同じクラスの布仏さん。

2組の(ファン)さん。

そして4組の更識さんだ。

見るに織斑くんとも打ち解けていると思う。

 

 

真剣に取り組んでいる姿を見て、絵になってるなんて思ってしまう。

 

他クラスを含めれば圧倒的に織斑君なんだけど、1組の間では彼はそこそこ人気だ。

布仏さんへの優しい対応も然ることながら、最近の彼は周りと多少関わるようになった。

基本的に参考書とか読み耽ってた時期からは想像も付かない。

優しい訳でもないけど、特別愛想が悪い訳でも無かった。

時折身内に見せるやわらかな態度に憧れる人はいるんだろうなぁ。

 

私はどっち派かって?どっちでもないけど、強いて言うならそれは────。

 

って、そんな事どうでもいいの。

とりあえず話し掛けるべきか、そうでないか。

 

考えて居ると、ふと彼が顔を上げた。

視線が合う。

ちょっと気不味いなぁ。

 

ジッと此方を見る彼の視線は割と独特だ。

人によっては熱烈な視線にも感じるだとか。

私としては見透かされてる?感覚がして恥ずかしい。

慣れていない男子からの真っ直ぐな視線と言うのもあわさって緊張してしまう。

 

 

「え、エッと奇遇だね!イ、今宮くん!」

 

「ああ、奇遇だな。相川さん」

 

やってしまった。

恥ずかしくなり頭を抱えたい衝動に駆られる。

けど彼はあくまで普通。

別に変に思われていないのに悶える方が変な人だ。

 

「そう言えばハンドボール部だったか。今更だけどお邪魔してる」

 

「部活覚えててくれたんだ。てっきり覚えてないかと思ってた」

 

「間違っちゃいないさ。この瞬間まで忘れてたよ」

 

だけど思い出したということは結局覚えていたのだろう。

謙遜するように笑う彼に私も合わせてはにかむ。

…上手くは笑えなかったけど、問題無かった筈。

 

「何してるの?」

 

「生徒会のお仕事。夏休み前だから思ったより仕事があってさ。ここでやっているのは備品の点検とか数量確認の書類もあるからだ。ほら、後半にあるだろ?」

 

 

ペラリと紙の束を捲り下の方を見せてくる。

確かに、それらしい事が書かれているけど…。

 

───あれ?やっぱり此処でしてる理由が分からない。

正直に言うとここは室温的な環境としては良くない。

思ったより広いから多少涼しいけど、クーラーが聞いている部屋を思えば、暑い方だ。

 

 

───それに、倉庫関連の書類以外をここでする意味はない…よね?

隣に勉強道具まであるのが余計に気になる。

 

 

疑問だ。

そんな私の様子に気が付いたのか、今宮くんはバツが悪そうに視線を逸らしている。

 

話題転換を図る為か、彼は視線を私に戻しながら思い出したように口を開いた。

 

「ところで、相川さんはどうしてここに?今はテスト前で部活も休みだろ?」

 

「ちょ、ちょっと体を動かしたくて。ジョギングじゃあ物足りなくてボールでも触ろうかなーなんて」

 

ちょっと端折って説明する。

どうしてそう思ったか、の部分が実はあったりするのだけど言う必要は多分ない。

再度ジッと見透かすような視線。

の後、彼は作業を再開しながら後方を指をさした。

 

「ハンドボール持っていく位構わないぞ。1個だけ先にカウントしておくだけだし」

 

「あ、ありがと」

 

「ま、悩みは誰かに相談した方がいいかもしれないけどな」

 

「え!?」

 

流れるように自然に言われた事に思わず固まる。

 

「気付いてたの?」

 

「いんや、当てずっぽう」

 

私は慌てて口に手を当てる。

それを見て彼は肩を竦めて苦笑した。

当てずっぽうと言っているけど何となく見抜いていたんだろう。

バレるなんて思わなかった。

…その鋭さを普段の3人に向けてあげればいいのに。

 

ともあれ、悩んでいる事がバレたから割り切ることにした。

 

 

「───その、独り言なんだけどね」

 

作業中の彼の手が止まる。

私は近くパイプ椅子に腰をかけた。

 

「最近、中学の時の友達数人と会ってさ」

 

「…」

 

「皆さ、やりたい事があるって勉強してたり、大会に出るんだーって部活に全力だったり、趣味に目覚めたーって夢中になってたり、彼氏出来てたり───なんかキラキラしてた。初めて周りを見渡したら、学園の皆もちゃんと将来を考えてて───それに比べて、私って特に何にもないように思えてきちゃったの」

 

当然、IS学園に入る為に頑張って勉強もした。

でもここに居る皆は何かしらを既に持っていた。

代表候補生であったり、企業の後押しがあったり。

きっと、私よりもずっと前から努力して来たからなんだけど今更ひっくり返せなくて。

多分羨ましいんだろう。

努力たらしめる原動力が、目標が、夢があることに。

それでいて普通な自分に少し嫌気がさす。

 

「私ってさ、多分凄く普通の人なんだ。部活も勉強も中途半端で、皆みたいにしっかりした夢も無いの。だってISに乗りたいって思っただけなんだもん。───そう考えると、この学園に来たのは短絡的だったかなーなんて。…考えすぎちゃって…。悩んでたら、皆にらしくないって励まされて────なんか余計にモヤモヤしちゃって」

 

────らしくない、のかな?

 

そう言いながら彼の方へ顔を上げる。

独り言の体で話していたんだけど、話している内に頭から抜け落ちていた。

 

彼は返事をすべきかを悩んだのだろう。

顎に手を当て少し考えると、少し斜めを向いて独り言を意識させるかのよう。

変なところで律儀だ。

 

「確かに、この学園は将来を見据えたやつが多いよな。……俺も、幼稚な理由からくる目標はあるけど、それだけだ。先を考える───なんてして来なかったからそういう事はよく分からないんだ」

 

「え?」

 

思わず声が出た。

普段の彼の様子からそんな事思いもしなかった。

努力を重ね今の操縦技術を身に付けてるはずなのに、考えてこなかった?

そんなの、有り得ない。

もっとしっかり先を見据えてるものだとばかり──。

 

彼は俺の事なんてどうでも良い、なんて呟くと言葉を続ける。

 

 

「────相川さんはISに乗りたいって思ったんだろ?なら、それは理由じゃなくてキッカケってヤツだ」

 

「────」

 

「それは相川さんの純粋な気持ちなんだから、大事に抱えておかないと勿体無い。先を見る前にそいつも尊重してやらないと、色々見落とすと思う」

 

目から鱗だった。

勿体無い、そんなことを言われるとは思わなかった。

印象的な彼の横顔。

まるで心の底から羨むかのようで、本心から肯定されていると理解する。

素直な喜べるかと言われると、なんだかそれもいけない気がして…。

不思議な感覚だった。

 

「受け売りだけど、後は見付けやすくする為に日々勉学に励む事か。ちゃんと授業を受けて課題をして───勿論、居眠りはダメだからな?」

 

───と言いつつ、ニタリと彼は意地の悪い笑みを浮かべた。

…これは過去に授業で寝かけた事がバレてる……!

あの日は疲れてたのー!

 

いい事言ってると思ったのに、とんだ意地悪だった。

そう言えば、クラス内でも布仏さんをからかってたりしてたかも。

 

口を尖らせて不機嫌ですとアピールしていると、彼はおどけて片手をヒラヒラさせた。

 

「───と、役にも立たない独り言だ。ちなみに『学生を楽しむのも大事よ!』──って現生徒会長サマが言ってたこともあるっけな。アイツの言う学生を楽しむというと………───悪い、やっぱり俺にはさっぱりだ」

 

話の最中に思いっきり椅子にもたれ掛かる。

先までの真剣さとのギャップが妙に面白くて、自然と笑みを浮かべていた。

 

「ふふ、何それ。さっきまでの話が台無しだよ」

 

「…独り言だから問題は無いだろ」

 

「ソウイエバソウデシタ。───その、ありがと。少し楽になったよ」

 

笑顔でお礼を言う。

普段ちゃんとした関わりが少ないからこそ、吐露出来たのもあるのかも。

さっきよりもずっと自然に笑えていたと思う。

 

…本当に臨海学校過ぎてから変わった気がする。

 

 

 

それはそうと。

視線を私に戻した彼は意外そうなものを見た顔。

 

成程、と彼は小声で呟いていた。

意味深な言葉はやめて!?気になる!

 

くつくつと笑い、話そうとしない彼に私は抗議した。

何を笑っているのか問いただすとケロリとした顔でとんでもない事を言ってのけた。

 

「らしくないって言われたのに納得してた。そりゃ言われるさ。相川さんには笑顔が1番似合うからな」

 

「────なあっ!?なん、なんでそうなるの!?」

 

思わぬ台詞に顔が熱くなる。

サラりと口説かれた?

え?織斑くんだけじゃなく今宮くんもそういうタイプなの!?え?へ?

 

なんとか捻り出した言葉も声が上擦っていた。

女子校出身だから慣れてないの!そういうのは!

うう、恥ずかしい。

どういう神経をしているのだろうか。

此方の様子など気にも留めずスラスラと彼は返す。

 

 

「らしくないって言葉は、そう在って欲しいっていう願望の裏返しだ。それだけ相川さんの笑顔が魅力的だったんだろ」

 

「〜〜〜っ」

 

天然なのだろうか、いやそうに違いない。

……今、耳まで真っ赤なのがわかる。

我ながらチョロい、ほんと耐性って大事だよね。

 

あと、どんな顔をしていいか分からない。

笑顔なのか苦笑いなのか、ニヤついてるのか、口元が安定しなかった。

 

 

取り敢えず!取り敢えず話題を変えよう!!

ゴホンと軽く咳払い…わざとらしかったかな?──をして傍らにある勉強道具一式を指差した。

ずっと気になっていた事に触れる。

 

 

「話は変わるけど、ここで勉強もする気なの?……生徒会の仕事終えてから、部屋でした方が良いと思うけど…」

「そうだな…。そう、なんだけど」

 

作業に戻りながら、彼は僅かに困惑したような表情。

ちょっと嗜虐心がそそられる、常識の範囲で。

 

「相川さん、飲み物はいるか?今更だけどジョギングの後だろ?丁度手前の台に飲み物が─────」

「──有難く頂くけど、流石にそれで誤魔化されないからね?」

「…」

 

言葉を受け、露骨な不満顔。

後に大きな溜息をつきながら、今宮くんは口を開く。

はぐらかす労力を考え、諦めたと受け取れた。

 

「…暫く部屋に帰れなくなったんだよ」

「喧嘩?」

「だったら逃げ───此処に留まってないぞ」

 

今逃げてきたって言おうとしたよね?

益々状況が分からない。

 

でも、彼が逃げるような相手は想像が付く。

候補としては織斑先生、または黒いオーラを纏った3人の誰か。

恐らく、後者が有力だと思う。

 

嫉妬の炎を静かに燃やしている時の3人は、遠目でしか見た事がないが迫力があったから。

それに、織斑先生相手ならここまで逃げて来れない筈。

一応、織斑くん周り(篠ノ之さん達)の可能性もあるけど……そんな気がした。

 

完全に直感だけど、案外当たってると思うんだ。

 

 

「逃げて来たの───?(ファン)さん達から?」

 

「───」

 

私の言葉に彼は顔を引き攣らせた。

同時にちょっと距離を取るように身構える。

露骨に警戒されている。

 

 

「実は俺を探しに来てたり、とかじゃないよな?察しが良過ぎるのも怖いんだけど」

 

「大丈夫大丈夫、見ての通りジョギングの後だよ。いやーまさか直感が当たってるとは思わなかったなぁ…。名探偵になれるかも」

 

「直感を推理と言い張れるならなれるんじゃないか?」

 

ちょっと毒を含んだ言い方。

それは囁かな彼の抵抗であった。

言いたくないと意思を示しながらも、強く反対しないのは先の独り言を聞いてしまったからだろう。

やはり変なところでだけ律儀だ。

都合がいいので、そこに甘えることにした。

気になるし。

 

 

「何があったの?」

 

「端的に話すと、見付かってはならない物が見付かってしまったというか────」

 

「見付かってはならない物?」

 

「詳しくは口が裂けても言えないんだ。そこばかりはそういう物とだけ認識してくれ」

 

「?」

 

人には言えない、のだろうか。

ガックリ肩を落としながら語る彼をよそ目に考えてみる。

 

見付かってはならない物かつ、口が裂けても言えない物。

場所は彼の部屋。

現状、追われている…それも、あの3人に。

 

…、成程。

並べられた情報から察した。

兄弟がいる友達から聞いた事がある。

男の子という奴はアレな本とかを隠し持ってるとかなんとか。

存外、彼も真っ当な男の子だったみたい。

 

 

ははーん、と得意気に納得する私。

 

ただ、その物を想像するとちょっと恥ずかしい。

そっちに関しても本当に耐性ないなぁ、私。

割とクラスの皆はそこら辺エグい話する人も居るのに。

 

対して彼は表を上げ、訝しむような視線を私に送っていた。

 

 

「なんか勘違いしてないか?」

 

「だ、大丈夫っ!そういうの普通だって聞くし、むしろそう言うの無い方がおかしいかもだし!?」

 

「…きっと相川さんが想像してるやつとは違うからな」

 

「え?…えっと、じゃあやましい物では無い?」

 

「いや、やましい物なのは違いないんだけど────」

 

言葉を濁す彼。

やましい物なの!?

じゃあまた別の物?

 

「補足しておくと、俺の物じゃないからな?ルームメイトが凹んでる時に俺が貰ってきただけだよ」

 

「!!?」

 

「………物凄く勘違いされてるよな、コレ」

 

言葉が出ずにいる私を見ながら、彼は深いため息をつく。

 

正直、私は悪くないと思う。

彼がちゃんと中身を言えば勘違いなんて起きない訳だし。

でも、やましい物には違いないあたり、もやもやする。

答えが気になるよー。

 

弁明する気力もないのか、彼はそのまま続けた。

 

「大まかに言うと皆がISの資料を借りに来て、ルームメイトが対応した。──で、不運にも───違うな、身から出た錆ってやつか。資料を探してたら、本の山が崩れて簪の手元に例のブツが………。当然、ルームメイトは即説教喰らったんだけど、出自が俺ってバレてさ。何とか隙を見て逃げ出してきたんだ。……特に簪が滅茶苦茶怖かった。喧嘩した時なんか比じゃない位迫力あったぞ、アレ」

 

説明をしながら思い出したのか、今宮くんはゲンナリとしている。

私は追ってくる3人を想像した。

…共感しなくもない。

 

「よく逃げ切れたね…。でも、織斑くんに頼るのは駄目だったの?彼なら男同士だし、匿ってくれそうだけど。それに一人部屋だから広く使えるしさ」

 

と、私の言葉に彼はピクリと眉を動かした。

あー、と気だるげに発しつつまるで思い返すよう。

そのまま彼は清々しい程の綺麗な笑顔になると告げた。

 

 

「一夏か。アイツは良い奴だったよ」

 

 

「────何があったの!!?」

 

 

思わずパイプ椅子から立ち上がる。

いやいやいや!織斑くん無関係じゃなかったの!?

 

「丁度、俺が部屋を抜け出す時か。偶然訪ねてきた一夏の手元に例のブツが─────後は分かるよな?」

 

「篠ノ之さん達も居たんだね…」

 

「加えて本気の簪にトドメを刺されてた。……人の形をしてるといいが…」

 

他人事のように呟く彼。

最後をボソッと言っていた辺りが、物騒過ぎた。

 

「もっと心配してあげた方がいいと思うよ。今回ばかりは織斑くんが不憫すぎる…」

 

「大丈夫。アイツはあれくらい平気だ」

 

「えぇ…」

 

やはりいい笑顔で告げる彼。

皮肉じゃなく本気で言ってそうなのに驚く。

その自信はどこから来るのだろうか。

 

完全にとばっちりを喰らった織斑くんには同情するしかない。

無事だと良いけど。

 

 

「───ともあれ、この資料とか勉強道具の1部が生徒会室に置きっぱなしだったのは不幸中の幸いだった。試験前だからな」

 

と、終わったのか束になっていた生徒会の資料を横によける。

残ったのは備品管理の資料。

彼は椅子から立ち上がると、私に背を向けて数え始める。

 

「私も手伝うよ」

 

「助かる。そっちのボールとか手間がかかるのは俺がやるから、相川さんは小物を頼む。場所とか詳しいだろ?」

 

「分かった。あ、ここに記入すればいいのかな?」

 

「ああ、それであってる。あと、壊れてる物とかもう捨てなくちゃ行けないものとかあったら、ビニールに放り込んで備考欄に書いておいて欲しい」

 

説明をしながら数える今宮くん。

テキパキと記入する手が動いているあたり、慣れを感じる。

そう言えば、今宮くんは結構早くから生徒会に入っていたね。

 

作業を進めながら、雑談に花を咲かせる。

今まで生徒会の仕事で気になったものを尋ねる。

 

返ってきた答えは意外なもので、寮の扉の発注らしい。

寮側でやれと思った彼だが、どうにも織斑先生が面倒くさがったとか何とか。

 

───ちなみに、それは織斑くんの部屋の扉らしい。

…何も考えないようにしよう。

 

 

そうこうしている内に20分程経過した。

作業も終わり、出来上がった書類を机に置く。

廃棄するものは入口付近に置いた。

 

…今更だけど、ジョギングの後なのも相まって汗びっしょりだ。

うぅ、汗臭くないかな?

そんなことを気にしていると、彼は近くの台に置いてあった何かを手に取った。

 

「悪いな、気が付くのが遅れた。喉が乾いてただろ?」

 

「あ、ありがとう」

 

言いつつ、投げ渡されたのはペットボトル。

ぬるくは無い、冷えてもないんだけど、喉が乾いてる今は有難い。

キンキンに冷えていた方が気持ちはいいが、体を考えると正直これがベストかも。

勢いよく流し込まれる水が喉を潤す。

───飲み終えてから、ペットボトルが元から空いていた事に気がついた。

こ、これって───。

 

 

 

それに関する思考は、そこで中断させられた。

理由は簡単。

 

 

いつの間にか、私の横に水色の髪の女生徒が覗き込むように立っていたからだ。

 

 

 

「ふーん、楽しそうね。流星くん───と1組の相川さん?」

 

「っ!?」

 

「…よくここに居るのが分かったな」

 

「聞き込んでたら相川さんが居ないって事と、体育倉庫に入ったって目撃情報を聞いてね。あと生徒会の仕事の残り覚えてたのもあったから、もしや──なんて」

 

今宮くんがガックリと肩を落とす。

よりにもよって、なんて言いたげな彼。

見付けられた事にか、それとも女生徒が追ってきた事にかは分からない。

 

そんな彼に女生徒は笑顔で話し掛けた。

リボンの色からして、二年生だと分かる。

凄い綺麗な人だ。

額に4つ角を浮かべているのは、触れないでおこう。

 

「お楽しみ中みたいだったけど、いいご身分ね」

 

「……どうしてお前が怒ってるんだよ」

 

「私が簪ちゃんに怒られてる最中に逃げ出して、他の女子を口説いてたらそりゃあムカつくわよ」

 

「口説く?そいつは誤解だ。第一、お前の場合は自業自得だろ」

 

不満げに応じる今宮くん。

対して女生徒は扇子で口元を隠しながら、目を細める。

ミステリアス、そんな言葉が私の脳裏を過ぎる。

 

「あら、IS学園(ここ)では私がルールよ?それに、私の辞書に自業自得なんて言葉は無いわ」

 

「辞書じゃなくメモ帳だったか、そりゃあ白紙だろうに。──というかだ。その理屈を簪に言ってきたらどうだ?晴れて無罪放免だろ」

 

「だったのだけど、怒った簪ちゃんと織斑先生は例外みたい」

 

「………」

 

その言葉を聞き、今宮くんが思いっ切り苦笑いを浮かべた。

納得しているようで哀れんでいるようにも見える。

 

っていうか、会話からして今宮くんのルームメイトだよね。

つまり……………………………〜〜〜〜〜〜〜っ。

考えるのを辞めよう。

 

ルームメイトさんは、話しながら何か思い出したのか一瞬遠い目でどこかを見ていた。

…トラウマになってるのかな。

 

2人とも自然体に見えるけど、その実、空気は緊張感を孕んでいた。

私には何も分からないけど、言葉を交わしながら隙を窺ってる気がしてならない。

 

 

「見逃してはくれないよな?」

 

「悪いけど、私も今回は引くに引けないのよ」

 

「そうか。なら仕方ない」

 

立ち上がる今宮くん。

空気が更にピリピリする。

 

「仕方ない?流星くん、私に勝つつもりなのかしら?」

 

「いや、俺にも考えがあるってだけだ────」

 

会話の最中に今宮くんが地面を蹴った。

踏み込んだのか潜り込んだのか。

何れにせよ、一瞬で私もよく分からなかったけど彼は確かにルームメイトさんに仕掛けた。

 

掌底や掴み。

それをフェイントにした足払い。

これらをルームメイトさんは華麗に捌き切る。

 

多分、手加減してるんだろう。

ギリギリ、私でも何が起きているか理解出来ている。

 

捌き切られたと言っても、今宮くんは驚きもしない。

綺麗に弧を描く反撃の蹴りを微かに後退して躱す。

彼自身も反撃を喰らうことなく、姿勢も崩れていなかった。

 

「いやん、パンツ見られちゃった。おねーさんのパンツは高いわよ?」

 

「今更何言ってるんだ。もう色々見慣れ────っ!」

 

急に2人の動きが早くなる。

もう細かい動きなんて見えないけど、ルームメイトさんの攻撃が激しくなったからだと分かる。

 

「危ないだろ」

 

「なんかムカついたのよ」

 

「理不尽だろ…」

 

ふたりの関係がよく分からないけど、パンツでノーリアクションってどういう…。

 

それにしても今宮くんもよく躱すなぁ。

避けきれないのを受けて、互いに掴まれないようにだけ動いている。

さながら組手を連想させられるやり取り。

 

 

「それで───考えがあるって言ってたけど────?」

 

「俺が捕まったら、お前の罪状を片っ端から告発する」

 

「───────」

 

ピタリとルームメイトさんの動きが固まった。

道連れだ、と言葉を並べる今宮くん。

意地の悪い笑みがやたらと似合っている。

 

告発されるだけの罪があるのがおかしいような。

 

 

「俺を見逃すなら告発はしない。どうする?」

 

「───くっ。仕方ない、わね」

 

悔しそうなルームメイトさん。

今宮くんは愉しそうに笑みを浮かべると、置いていた荷物を纏める。

余裕を見せる彼に、ルームメイトさんは一拍置くと目を細めた。

口元を開いた扇子で隠しながら、───扇子には好機と書かれていた───呟くように告げる。

 

「仕方ないから私は見逃すけど、ここを知ったのが私一人とは言ってないわよ?」

 

「……………」

 

勢いよく開く倉庫の扉。

死刑宣告を聞いた今宮くんは思わず額に手を当てていた。

 

入ってきたのは黒いオーラを纏った更識さん(?)。

揺らりと赤い瞳を彼に向け、ジリジリと距離を詰める。

 

「見 つ け た」

 

ひぇ、誰か助けて…。

更識さんが彼をロックオンする。

思わぬ迫力に私まで冷や汗が止まらない。

本当に何をしたの?今宮くーーーん!?

 

 

「──相川さん。悪いけど、その書類とか後で生徒会室に持って行ってくれ」

 

「鈴、本音。確保」

 

諦めて両手をあげた彼は、瞬く間に倉庫から連れ出されていく。

そして──。

 

「お姉ちゃんも、来て。罪状って何か、キリキリ吐いてもらうから…」

 

「か、簪ちゃん!?」

 

流れるようにルームメイトさんも連れ出されていく。

 

さながら出荷されていく牛を見る気分だ。

 

 

 

ポツンと取り残される私。

 

ついさっきまでの騒々しさは何処へやら、体育倉庫に静寂が帰ってきた。

 

 

「な、なんだったの?」

 

理解が追い付かず思わず呟くけど、帰ってくるのは静けさのみ。

私は彼の遺言を実行すべく、残った荷物を手に持った。

 

 

 

────以上が、後に『1053室事変』と名付けられる騒動の一端である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




楯「私は許そう。だがコイツ(いもうと)は許すかな?」
流「」
簪「お 姉 ち ゃ ん ?」
楯「」
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