IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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夏休み
-45-


 

───早朝。

朝日が窓から射し込み始めた中、少年は背中から床に倒れ込んだ。

 

「はぁっはぁっ……、もう、動け………げほっ!」

 

大の字になって倒れる少年は袴姿。

全汗だくで息も絶え絶え───握力も限界なのか竹刀を持つ手は震えていた。

静寂な道場。

少年の息遣いだけが、やけに大きく聞こえる。

 

 

「…、IS学園に入った当初を思えば体力は付いている。しかし、その体たらくではまだまだだな」

 

そして、少年を見下ろす影が1つ。

薄暗い道場の中、竹刀を片手に持った織斑千冬がそこにいた。

彼女の服装は道場に似合わぬ出で立ち。

スーツの上着を脱ぎ捨てたワイシャツ姿である。

ただ、そのような姿でも違和感は覚えない。

彼女の放つ凛とした空気のせいだろう。

 

 

「───くそ、まだだ。もう1回だ、千冬姉」

 

何とか息を整えながら、一夏は身体を起こす。

膝がガクガクと笑っている事を自覚し、無理矢理左手で抑える。

 

────かれこれ、稽古を始めて1時間が過ぎようとしていた。

 

経緯としては至極単純な話である。

福音事件を経て実力不足を痛感した一夏は、千冬に稽古をつけて欲しいと頼み込んだ。

千冬としても一夏の考えを汲み取った。

 

──とは言っても、彼女は多忙な上に教師という立場。

弟を贔屓に出来ない事もある。

 

故に夏休みの早朝。

彼女が仕事に行くまでの時間に篠ノ之家の剣道場で稽古を付ける事になったのである。

余談ではあるが、箒は色々と『紅椿』の手続きや確認等があるらしくまだ実家に帰ってはいない。

 

 

───初日からいきなりボロボロであることに苦笑いしか出てこない。

一夏は深く息を吸った。

 

体は依然として重い。

息苦しさすら感じる。

竹刀の切っ先が思ったように上を向かなかった。

両手では竹刀を握れない。

 

(それなら…)

 

彼の脳裏に浮かぶは、最近の実戦を想定した模擬戦。

そして密かに積み重ねているある戦術。

だらりと脱力する彼の体。

意識しないと立っていられない中、それを自然体と仮定して補う。

疲れを辛うじて意識の外へ。

 

 

「ふっ─────」

 

一夏の様子を見て千冬は笑みを浮かべた。

彼自身が強みを理解し、活かす道を見出さんとしている。

至らぬ点ばかりではあるが、集中力は悪くない。

 

 

 

「なら、行くとしよう」

 

1歩。

千冬はあっさりと一夏の方へ踏み込む。

 

「!!」

 

否、既に間合いまで踏み込んでいた(・・・・・・・)

かなり手加減しているとはいえ、それでも最強の名は揺るがない。

 

「───っ!」

 

思わず、全身が強ばりそうになるのを一夏は堪える。

まだだ。

まだ千冬は間合いに来ただけに過ぎない────。

 

走る緊張感。

冷や汗が噴き出すのが分かった。

 

本能が警鐘を鳴らす。

早く迎撃しろ。

早くここから追い出せ。

寄らせるな、離れろ。

早く速く疾く─────

 

 

(───馬鹿か、俺はッ)

 

唇を噛み締め耐える。

引いたところで姿勢を崩して終わりだ。

相手はここからどんな選択肢も取れる状態。

 

射撃の躱し方、近付き方、特性の把握、盾、荷電粒子砲、操縦技術、エネルギー節約、思考戦闘。

ISにおいて必要な事だらけだが、それらは全て二の次だ。

 

必殺の一刀を当てる事に専心する──これが出来なければ話にならない。

博打も意味が無い、求めるのは必然。

一瞬だけ相手を凌駕すればいい。

 

 

「!」

 

千冬が竹刀を振るう。

軌道は横薙ぎ、移動しても範囲外まで出るのは不可能だ。

 

──竹刀で弾くより他ない。

だが、一夏は最後の力を振り絞って床を蹴った。

 

 

「うおおぉぉぉぉっ!」

 

身体を丸めるように脚を曲げる。

同時に、彼は竹刀を振りかぶっていた。

 

「!」

 

脱力からの瞬発力は言うまでもない。

流石にその行動に千冬は驚いたのか、目を丸めていた。

千冬は対応すべく、半身の重心を移動させようとしてそれを辞めた。

理由は明白。

 

 

跳躍した体は、縄を跳ぶ要領で竹刀を飛び越え─────はしなかった。

 

 

 

「───痛ぁっ!?」

 

 

竹刀の子気味いい音が響く。

一夏の足の小指に、竹刀は直撃した。

 

「………」

 

「〜〜っ!!!ぐぅぉおおおお?!」

 

どしんと床に身体が叩き付けられ、一夏は小指の痛さに悶える。

落ちる瞬間に受け身を取れていたのは、日頃の努力の成果だろう。

限界まで疲れ切っていた脚では思ったより跳躍出来なかったらしい。

 

足を抑え、のたうち回る。

締まらない結果に千冬は思わず頭を抑えた。

先は長いか、と1人ため息をつきながら一夏に歩み寄る。

 

 

「立てるか?一夏」

「あ、ああ。ありがとう、千冬姉」

 

強がりつつ一夏は差し出された手を取る。

引っ張られ重かった体は軽々と立ち上がった。

身体中の疲労感は取れないが、仕方ない。

 

「私はこのまま学園に向かう。すまないが一夏」

「分かってるって、俺が片付けとくよ。そういう約束だったし」

「なら良い。それと、明日からは体力向上用のメニューも追加するから覚悟しておけ」

「お、応」

 

不穏なことが聞こえた気がする。

ともあれ、やってやると決めたのだ。

 

短い期間で出来ることは少ないが、何かをものにしてみせる。

 

 

剣道場を去っていく姉の背を見送り、一夏は片付けを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蝉の声が、辺りで鳴り響いていた。

澄み渡るような青空に、ギラギラと自己主張する太陽。

窓の外を眺めながら、少年は溜息をつく、

 

明るく照らされた道路が眩しかった。

降り注ぐ陽の光は、うだるような暑さを招いている。

表に人影が見えないのも無理はない。

炎天下の中、出歩く事を避けるのは当然であった。

 

棒アイスを咥えながら、少年はクーラーの効いた居間で視線をテレビに戻す。

テレビに映っているのは何の変哲もないワイドショー。

暇潰しにつけたはいいが、時事問題にもタレントにも興味がない彼にはそれにもならない。

 

──大きな欠伸をしながら少年──今宮流星は台所の方へ言葉を投げかけた。

 

「何か手伝えるものは無いのか?」

「ああ、洗い物も今終わったし、洗濯物も干し終えてるからな。折角の客なんだしゆっくりしててくれよ」

「買い出しは?」

「夕方で良いだろ。夕方の方が安くなるんだぜ?」

 

水の流れる音が聞こえる。

顔を居間に向け、台所から答えているのは一夏だ。

掃除も今朝したしな──と流星は考える。

 

やる事がない。

改めて一夏の生活力の高さに感心する流星。

 

 

────現在、彼は織斑家に居候している状態である。

帰省する場所もない彼に、良かれと思い一夏が提案した為だ。

 

一応、理由はそれだけではなかったりする。

 

 

 

「と、なると暇だな。参考書、置いてこなけりゃ良かったかも」

「アレ、結構な荷物だと思うぞ。というか、他に暇潰せるものとかなかったのか?」

「ないな」

「普段暇な時は?」

「同居人とティータイムか、資料を読んでる事が多い。生徒会の仕事の残りをやってる時もあるか」

 

話しながらアイスを食べ切る流星。

ゆっくりと立ち上がり、ゴミ袋のある台所の奥──ひいては勝手口へ。

残った棒を棄てる流星を横目に、一夏は冷凍庫から自身のアイスを取り出した。

 

「生徒会って大変なのか?」

「ああ、会長や会計の先輩も優秀なんだけど、結局人手不足なのが響いてるんだ」

「のほほんさんは?」

「未知数。人をあれこれ言えないけど、ちゃんとやってる分には普通以上だと思う。ISの整備の方は、言うまでもなくずば抜けてるんだけどな」

 

2人で居間に戻り、一夏はテレビのリモコンを手に取った。

昼間のワイドショーに彼もさほど興味を示さなかったのか、視線で確認を取るとチャンネルを変える。

数度切り替わる画面。

 

彼も暇を潰せるものを見付けられなかったらしい。

結局、何の変哲もないニュース番組に落ち着いた。

 

「何だかんだニュース番組観るのも久しぶりだな」

 

疲れた様子でソファーもたれ掛かる一夏。

──彼のぐったりした状態は、今朝の出来事に起因していたりする。

 

「一夏はニュースをあまり見ないのか?」

「逆かな。普段は朝とかに付けっぱなしにしてたんだけどさ、この学園に入る手前辺りからは、自分のニュースが結構な頻度で流れるんだぜ?やれ世界は変わるかとか、学園じゃなく企業に所属するかもーとか、国はどう対応するかーとか」

「成程な。見たくなくなるわけだ」

 

IS学園に入る直前は忙しかった為、流星はテレビを見ていなかった。

ただ、一夏の言う通りなら自身も見なかっただろう。

 

他愛ない会話が続く。

一夏もまた、アイスを食べ終えた。

 

どうしようかと考える彼の携帯に通知が入る。

それを見て彼は携帯を手に取り、少し操作。

おっ、とだけ声を出し彼は立ち上がった。

 

視線で疑問を投げかける流星に振り向いて、彼は告げる。

 

「ちょっと出ようぜ、流星」

「…え?」

「まあまあ、そんな顔せずにさ」

 

窓の外に目をやり、困惑を見せる流星。

暑いのは好きじゃない、そう呟く彼を一夏は宥める。

 

 

───結局、流星が丸め込まれ、外出する形になった。

 

 

外出用の服に着替え、表に出る。

彼等を真っ先に出迎えたのは燦々と降り注ぐ陽の光であった。

直ぐに踵を返し、家に戻りたくなる衝動に駆られる。

流星は仕方ないと諦め、一夏と共に住宅街へと足を進めた。

 

あらゆる戦場を駆け抜けてきた彼には、実は暑さも苦ではない。

あくまで好む好まざるの話であった。

 

「それで、どこに行くんだ?」

「中学の時の友達の家。折角だし流星もと思ってさ」

「向こうが困らないか?それ」

 

訝しむような視線を向ける流星に、一夏は笑って返す。

 

「弾にも許可を取ってるし、大丈夫。それに、向こうもどんな奴か気になってたらしいぞ」

「…」

 

──とんだ変わり者もいるもんだ。

流星は喉まででかかった言葉を呑み込む。

 

そのまま歩くこと数分。

着いた先は飲食店もとい、食堂。

一夏は特に躊躇うことなく中へ入っていく。

厳つい男性に慣れた様子で挨拶して奥へ──そのまま階段を上がる。

流星も軽く挨拶だけして、彼に続く。

『今宮』と告げた時、男性が一瞬表情を変えたのが気になる流星であった。

自身も一応は有名人である為、別に不思議な事でもないのだが───。

 

 

「よっ、久しぶりだな。一夏」

 

出迎えたのは赤い髪にバンダナ姿の少年。

身長は一夏と同じ位、容姿に反して伝わってくる雰囲気は人あたりの良さそうなもの。

 

「おう、久しぶり弾。元気してたか」

「当然」

 

友人に会えて嬉しいのか一夏も笑顔を浮かべる。

弾と呼ばれた少年の視線は、流星に向けられた。

 

「一夏と中学の頃から友達やってる五反田弾だ。よろしくな、流星」

 

「今宮流星だ。よろしく、弾」

 

挨拶を終え、弾に連れられ彼の部屋へ移動する。

部屋の内装は至って普通。

物は一夏の部屋と違って多い──が整理はされている。

テレビとそれに繋げられているゲーム機もある。

コントローラーが床に投げ出されているのは、最近使ったからであろう。

部屋の隅に立てかけられた物に流星は気がついた。

ごく普通の部屋に溶け込めない異物──もとい楽器らしきもの。

 

「なんだベースに興味あるのか?」

「ベース?」

「ざっくりギターって言った方が伝わるか。もし音楽に興味あるなら同好会とか──」

「──弾、流星は忙しいからそんな暇ないと思うぜ?」

 

と、そこに流れを遮るように一夏が口を挟む。

ちぇっ、と残念そうに頭に手をやる弾。

大方同好の士を増やしたかったのだろう。

 

適当に各々が腰を下ろす。

一夏は持って来ていた菓子折を弾に渡す。

弾はそれをテーブルに置き、テレビとゲーム機の電源を入れた。

テーブルの上には既にコップとお茶が用意されている。

 

画面に表示されたゲームには、ISらしきものが映っていた。

ISを取り扱ったゲームらしい。

慣れた様子で操作し、2つ目のコントローラーを一夏に渡す弾。

交代制と告げる弾をよそに、流星は近くの棚に置かれていたゲームソフトのパッケージを手に取る。

 

 

「それでどうなんだ?実際」

「どうって、何がだよ?」

 

対戦しながら弾はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「女の園──IS学園にいるんだぜ?なんかあるだろ」

「ねぇよ。慣れたけど結構気を遣うんだぞ?」

 

一夏はあっさりと否定する。

だが、中学からの付き合いである弾は一夏の鈍感さも折込済み。

彼の視線はゲームの画面から外れ、そのままパッケージを眺めている流星へ向けられる。

ゲーム中の無敵時間に、チラリと振り返っていた。

 

「──本当(マジ)?」

本当(マジ)。パンダよりレアだからな、俺達は」

「なんかスマン」

「はは、そう気を遣ってちゃ弾はやっていけないな。一夏位図太くないと」

 

申し訳なさそうな弾にわざとらしく流星は肩を竦める。

弾は一夏の友人ということもあり、結構な善人であるらしい。

 

流星の反応にムッと眉を八の字にする一夏。

対戦も佳境なのか、弾と一夏は互いに姿勢を軽く崩し画面を睨んでいる。

 

「図太さならお互い様だろ。この前だって───」

「───違いない。しかし、いいのか一夏。集中しないと負けるぞ?」

 

くつくつと笑う流星。

背後で意地の悪い───いつもの笑みを浮かべてる彼が目に浮かぶ。

微かな集中の妨げが勝敗を分けた。

 

「よし、俺の勝ち!」

「くそっ、あと少しでゲージ溜まったのに!」

 

一夏の扱っていたキャラクターが撃墜し、決着。

 

弾はコントローラーを流星に渡し、軽く操作説明だけ済ませる。

そのまま練習モードを選択させた。

流星は説明に従い、ぎこち無さ満点でキャラを操作する。

一夏もコントローラーを手放し、2人して様子を見守っていた。

 

 

「逆に苦労したこととかどーよ?」

「ああ、それなら」

「沢山あるぞ」

 

どちらともなく弾の問い掛けに返事をした。

操作を覚えようとがむしゃらにキャラを動かす流星を置いて、弾は一夏に尋ねる。

 

「例えば──?勉強方面は察しが付くけどよ」

「色々あり過ぎてなぁ。まあひとつは…たまに男って忘れられてる事だな」

「ん?下手に気を遣われるより気楽でいいんじゃねーの?」

「そこは助かるんだけど……」

 

言葉を濁す一夏に、弾は首を傾げる。

考え込んだ後、一夏は仕方なくストレートに言うことにした。

 

 

「正直、目のやり場に困る」

 

 

「───────おい」

 

 

怒気を微かに含んだ声。

目を細め、弾は一夏を睨む。

しかし弾は1回深呼吸を挟んだ。

織斑一夏なるもの、そもそもが黄色い声援が絶えない男だ。

彼がモテるから、彼の周りだから、かもしれない。

 

───話を片手間で聞いていた流星は、考え込むような神妙な面持ち。

弾の心境など彼は知らない。

脳裏にのほほんとした誰かと、大人しい誰かが浮かぶ。

先日も暑いからと整備室でブカブカの上着を脱いでラフな格好になったり、整備室で徹夜して着崩れしたキャミソール姿で眠りこけていたり───。

 

「確かに、無防備なのは良くない」

 

元々女子高だから仕方ないんだけど──という彼の言葉は弾の耳には届かない。

一番の問題児は流星の脳裏からフェードアウトしていた。

 

弾は肩を落としながら、テーブルのお茶を飲む。

怒りよりも先に呆れが来ていた。

コイツも大概だなぁと流星と一夏を交互に見る。

 

 

「…鈴も苦労するわこりゃ」

 

 

誰にも聞かれないようボソリと呟く。

最近掛かってきた(恋愛)相談的な電話や報告に加え、今の反応。

弾は内心、彼女に同情するしか出来なかった。

 

───弾を置いて、IS学園男子による対戦が幕を開けた。

 

ISを取り扱ったゲーム───である為、機体も現実に存在するものが殆ど。

武装の特性など、試合で見れる範囲では再現度も高い。

人気ゲームの看板は伊達ではない。

ただ、各国によってゲーム内の所謂『強キャラ』というやつが違うようで───比較的バランスが良い日本版を除いては忖度が激しいらしい。

 

ただ、どの国でも強いのが『暮桜』。

使いこなせれば最強ではあるが、ピーキーな性能な為敬遠されがちだ。

一撃の火力が高く、素早いのだが近接武器しか存在しない。

 

 

──どこかで聞いた話である。

 

当然、一夏は『暮桜』を選んでいる。

流星は迷わず『ラファール』を選ぶ。

2本先取制、爆速に近い形で一夏が1本取る。

彼も素早く一夏の必殺パターンを頭に入れ、対抗しようとするがあえなく2本目を取られる。

初心者には当然の結果。

弾の許可を貰い、続けて数試合行う。

結果は流星の惨敗であった。

 

 

「ぐぬ」

 

 

珍しく変な声を漏らす。

IS操縦者である為か、ISの動きに自由度がないと感じてしまう。

判定や操作を理解するまでは、一夏から見ても早かった。

 

ゲーム故の制限や無敵に苦戦している。

やられながらも流星は頭に敵の動きを叩き込んでいた。

一夏のキャラの決まった強行動。

流星は技を片っ端から出して、一夏の行動1つ1つを吟味している。

 

負けを重ねること10試合を超えた。

ぽち、ぽち、とボタンをタイミング良く押し入力してからの動作を再度確認している流星。

 

一夏のキャラが距離を詰めるまでの間に、流星は軽くよしとだけ呟いた。

 

──結果としては、一夏の勝ちに終わる。

一夏の辛勝──ではあるが、と弾は目を丸める。

ちょっぴり残念そうにコントローラーを渡してくる流星を見ながら、成程と納得した。

才能があるというよりは、順応性が高い。

出来る出来ないを割り切って対応している。

距離を離すことを諦め、一夏のパターンを読んでいた。

 

「指が疲れた。暫く休憩させてくれ」

「よーし、ゆっくり休んでろ流星。仇はとってやる」

「頼む、一夏をボコボコにしてくれ」

「あたぼうよ」

 

「…俺も疲れてきたんだけど」

 

呆れた様子の一夏を他所に結託する2人。

実のところ、仲良くしてる様子を見て少し安心していたりする。

 

 

そうやってゲームでワイワイ楽しんでいる内に日も傾き始める。

雑談を挟みながらのゲーム。

久々に会うというのもあり、話題は互いに沢山あった。

本命はゲームでなく、そちらである。

ベースも少し触らせて貰ったり、弾の練習の微笑ましい成果を見せて貰ったりもした。

楽しげに話している最中、ようやく時間に気がついた一夏は慌てて立ち上がった。

 

「そろそろ帰るか。買い物して晩飯作らないといけないし」

「もうそんな時間か。ウチで食って言ってもいいと思うぜ?」

「サンキュ。でも千冬姉の分も作らないとだし、今日は遠慮しておく」

「そうか。なら仕方ない。一夏は勿論、流星もまた今度食いに来いよ。自慢になるけど、ウチ結構美味しいと思うからさ」

「楽しみにしておくよ」

 

弾に別れを告げ、2人は家を出る。

帰ると聞いて慌てての妹も駆け付け、丁寧に一夏に挨拶をしていた。

一夏に好意を向けているのは一目瞭然。

明らかに猫を被っている気がしたが、流星は心の内に留めておくことにする。

 

…何やらジーっと見られていた気がしたのも置いておこう。

帰路に着き、視線を一夏に向ける。

彼は意図を察したのか説明する。

彼女の名前は五反田蘭。

一夏曰く、鈴とも仲が良かった?とのこと。

 

 

途中スーパーに寄り、食材を買う。

2人して買い物袋片手に帰路に着いた。

 

茜色を背に歩道を歩く。

特に会話も無かった中、オレンジ髪の少年は視線を正面に向けたまま。

 

「その、なんだ一夏」

 

ふと思い立ったように、ポツリと言葉を口にした。

 

「悪くないな。こういうのも」

 

「だろ?」

 

学園とはまた違った日常の1ページ。

きっと1人では触れる事も叶わなかった未知。

 

してやったりと笑う一夏を見ようとせず、流星は背後の街並みに視線をやった。

 

織斑家まではまだ少しある。

弾の家側からスーパーに行った為か、行き道とは違った。

 

手前の角から曲がって行くと、篠ノ之神社にいけるらしい。

 

 

(…)

 

「どうした?流星」

 

その角を見ながら、首を傾げる。

既視感とも言える何か。

とはいっても余りにも朧げな感覚に違和感を覚えながら、彼は前へ向き直った。

 

 

「…明日の料理当番俺だよな?」

「だな。もし分からなかったら手伝うぞ」

「いや、まあ出来なくは無いんだけどさ。一夏、中華鍋とか家にあったりするか?」

「え───?」

 

 

 

 




話が進まない()
流星のちゃんとした男友達は弾でやっと2人目。

学年等の問題はとりあえずおいて。
もし、もし彼が日本にそのまま居続けれていれば――なんて。



織斑家へ皆が来る回?次だ。

次回は更新お休みさせて頂きます。

書きたい事は多いけど、忙しくて追い付かない…。








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