IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

49 / 97
-47-

一夏の家で皆が集まった2日後。

彼の家から電車に乗り、乗り換えを二度程行い数駅。

都市からは少し離れた郊外の駅で彼ら(・・)は降りた。

 

炎天下の中、水を喉に流し込みながら流星は辺りを見渡す。

駅としては大きく立派ではあるものの、周りは開けている。

基本的に緑地帯のような広い空間が目立つ中、ポツンと見えるは何やら大きな建物。

 

「確かに駅にさえ着ければ迷う事はないな」

「見事に何も無いね〜」

 

ガコン、と自販機から音がした。

屈みながらジュースを手にすると、本音はそのまま飲み始める。

 

流星は彼女の服装へと意識を向ける。

当然私服なのだが、向かう場所が場所な為か何時もの着ぐるみテイストな服装ではない。

ブカッとしているのは相変わらずだが、いつもと違いカジュアルスタイルだ。

黒のブカブカしたシャツに生地の薄い紺のロングスカート。

キャップまで被り、可愛さと活発さが活かされていた。

よく見るとキャップに小さな耳の様なものが着いており、本音らしさまで完備している。

 

「どうしたの?いまみー?」

「やっぱ似合ってるな」

「わーい、いまみーに褒められたえへへ〜」

 

にんまりと笑う本音。

頬を少し紅潮させながらも、素直に喜びを露わにする。

 

駅を通過する特急列車。

風に吹かれつつ、流星は時刻と位置を再度確認した。

 

彼は本音と共に改札を出る。

人はそれなりに居たが駅自体は広く気にならない。

駅の案内板を確認し、近くの入口から外へ出た。

 

彼らを真っ先に出迎えたのは太陽。

ギラりとした光が影から出てきた彼らを照らす。

腕で日光を遮りながら外へ。

蝉の鳴き声が響き渡る中、周囲で唯一目立つ建物を目指す。

 

少し開けた場所に佇むは鉄筋コンクリートの建物。

特徴としては高階層のビルではなく、商業施設などの横に広い建物に近い。

内部の構造は恐らくまるで違うだろう。

窓ガラスは縦に長く細かった。

近付いてみて敷地自体も相当広い事に気が付く。

 

「広いね〜」

「広いな。展示会をここでするのも納得だよ。──建物は米国(アメリカ)の所有物だったか」

「そうみたい。学生も多いねー。一般開放も結構してるのかな」

 

かもな──と同意しながら流星は門の前で待っている影に気が付く。

長く少しウェーブがかかっている金髪にイヤリング。

最近見た顔───間違えるはずが無かった。

 

視線が合う。

向こうも気が付いたようで手を挙げながら流星達の方に歩いてきた。

対して流星の隣の本音も笑顔で手を挙げながら前に出る。

 

「少しぶりね。流星くんに本音ちゃん?」

「お久しぶりですナタっちさん!」

「──ナタっちさん?」

 

理解が追い付かず流星の表情が固まった。

以前は何故か(・・・)警戒していた様子だというのに、いつの間にか打ち解けている。

 

一応、互いの連絡先を教えた記憶はあるが───変わり過ぎだろう。

 

「前に本音ちゃんも交えて通話した時あったでしょう?あの後にね、日本の美味しいケーキ屋さんとかを教えて貰ったのよ。本音ちゃんは本当に良い娘ね」

「ナタっちさんにケーキ送って貰ったりもしてたんだよー。綺麗だしオシャレとかも色々教えて貰ってるんだー」

「あー…ハイハイなるほどね」

 

ナターシャと本音の性格を考え、あっさり打ち解ける図が思い浮かぶ。

あまり興味も無いのか流星は流すように返事をした。

本音がナターシャを警戒していた?理由は定かでは無いが───打ち解けているならば気にする事もない。

 

「ここで話していても暑いだけだし、入りましょう。手続きは済ましてあるし、スグ入れるから」

 

ナターシャに連れられ、2人は門を通る。

敷地は広く、見晴らしも良かった。

塀や床を眺めつつ、成程と流星は胸中で独りごちる。

勿論外からの侵入も想定しているが、どちらかと言えば外に逃がさない仕掛けがある。

IS学園のアリーナにあるようなシールドも、簡易的なものならばあってもおかしくない。

勘ではあるが、壁の装飾や出っ張りから彼はそう推測していた。

最も──ISで襲撃された場合は足止めになるかも怪しい。

つまりはこのような催しの際は警備側にISが居るのが当たり前だが、果たして────。

ナターシャをチラリと見る。

楽しそうに本音と2人何やら話をして盛り上がっていた

───彼女は今ISを所持していない。

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は凍結されている。

ほぼ解体され、初期化する話も出ているらしい。

 

前提として彼女は、今日は完全な(オフ)

警備がいるとすれば別の人間だろう。

考える必要もないことである。

 

建物の手前まで来た所でナターシャが流星の方へ振り返る。

 

「そう言えば、はいコレ」

 

「眼鏡…?」

 

目の前に差し出されたものを見て流星の顔が引き攣る。

ナターシャから差し出されたのは眼鏡だった。

 

「勿論、貴方って有名人だもの。要らない勧誘とかそういうのは避けたいでしょう?」

 

「いひひー、きっといまみーに似合うと思って選んだんだよ?」

 

「──」

 

本音を見て流星の中で全てが繋がる。

今日ここに来る際、髪型を本音がセットすると言って聞かなかったのはこの為だったのだ。

伊達眼鏡に抵抗はないのだが、着せ替え人形にされているのは気が乗らない。

 

「後で覚えてろよ」

 

渋々伊達眼鏡をかける。

ヘアピンを使用してセットされており、オレンジ髪も相まって違和感はない。

本音は嬉しそうに携帯で写真を撮る。

頭上に軽いチョップをお見舞いされ、止められる。

ナターシャはその様子を見てクスリと笑みを浮かべた。

 

「似合ってるわよ」

「有難うよ」

 

不貞腐れた様子の流星と2人は建物内へ。

 

ロビーは広く、天井も高かった。

背中側から射し込む陽の光は、窓の形も相まって細長い。

中央に投影された大きな案内板(ディスプレイ)が客人を出迎えている。

 

「アンタが行きたいのは2階だっけか」

「ええ。けど後でも構わないわ。本音ちゃんは見て回りたいとことかない?」

「出来るだけ沢山見れたら私は良いかなー」

「なら近場から回るか」

 

ロビーを抜け、扉を開ける。

そこには幾つものISの武装が展示されていた。

室内は広いが、基本的には幾つもの部屋が連なっている状態。

この区画は基本的な武装───主に銃器がメインであった。

 

米国(アメリカ)製という事もあり、ナターシャが分かりやすく武装の説明をする。

説明欄のダラダラ長い文章より分かりやすい。

 

書かれているスペックをなるべく脳裏に叩き込みつつ、展示されている物を見て回る。

 

「いまみー!これすっごいよ〜」

 

「なになに?……超長距離用対物狙撃銃?ISなのに、ボルトアクション式の意味が分から────いや、これは」

 

「そうよ。弾が特殊過ぎるから機構が追い付かなかったの。ISの癖に固定砲台にならないといけないし、反動も凄まじいの。お陰様で弾道制御も難しくて、本当に距離だけの代物よ」

 

「飛距離に対しての威力は凄いんだけどねー…。あ、でもこれ結構銃身自体はスリムだよ」

 

と、眺めながら言葉が飛び交う。

普段日の目を見ないようなものまであるのがこの展示会の特徴だろう。

 

 

───この展示会はマーケティングも兼ねている。

 

ISのコアは467個──しかもその全てがキチンと管理されている訳では無い。

 

各国がISの開発競争に勤しむ中、大手企業も参入を試み。

1つでも武装が採用されれば、それだけで莫大な利益になるからだ。

ある種、宝くじに近い。

 

だが、コアを持っている企業は兎も角、持っていない企業が武装を売り込むとなると至難の業である。

市場が限られている事が大きかった。

 

故に、ISの装備を展示してアピールするこの場が設けられていた。

市場兼ねた展示会。

国際企業IS武装展示会──別名ISA&M(Infinite Stratos Arms&Market)

偶にあらゆる場所で行われているらしく、そこまで珍しいものでもない。

他国でのマーケティングも割と頻繁に行われているのは、各国で開発競争を支持する流れがある為だ。

 

一般開放されているのは話題性の為。

2人はナターシャに誘われ一般枠として来ている。

 

 

閑話休題。

 

銃器を見終わり、そのまま近接武器へ。

ISの勉強としてはある種完璧な社会見学だ。

有名どころから、なぜ作ったか怪しいような不可思議なものまで存在する。

経費の無駄だろ、と思わず呟く少年にナターシャは苦笑い。

 

そうして時間は経過していく。

あらゆる装備を見終わり、1階から2階へと移動する。

 

2階のコンセプトは1階とはまた違い、複合装備である。

ISの装甲に組み込んだり、スラスターと砲身両方を兼ねていたり──どこかで聞いた話だ。

 

流星も本音も、ナターシャが見たいものの察しは付いていた。

 

そうして2階の装備もあらかた見終えた辺りで、『ソレ』を見つけた。

 

 

「───」

 

無言で近付くナターシャ。

明るさはなりを潜める。

表情は先までとうってかわりどこか物憂げな様子であった。

本音は近くの表示を見て、目を丸める。

 

「これって…『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の───」

 

「…ええ。試作のものだけど、背部にあった『銀の鐘(シルバー・ベル)』を腕部に装備出来るよう調整したものよ。本当は機密の塊なのだけど、プロジェクトは凍結されたし、あの子は今コアだけ状態。ここに出展されたって訳」

 

「成程────」

 

本音に説明するナターシャをよそに、流星は1人静かに一歩踏み出す。

柵があり触れる事は叶わない。

ただ彼は何かに吸い寄せられるかのようにその武装に近付いて居たのだった。

銀の腕部装備、使用時に砲門が顔を覗かせる仕組みだ。

 

本来ならばこのような場には無いはずの武装。

あの暴走がなければ、きっと『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』と共にあっただろう。

 

──ドロりとした黒い何かが内側に流れ込んでくる。

圧倒的な違和感。

恐らくそれは良いものとは言い難い。

自身のものではない何かに彼は思わず顔を顰めた。

 

(…何だ、この感じ)

 

「いまみー?どうかしたの?」

 

「なんでもない。しかし、やっぱり他の展示と見比べるとこいつが抜きん出てるな」

 

小首を傾げる本音に彼はディスプレイを指さす。

性能の情報へ本音と共に意識を向けた。

 

スラスターとしての性能やエネルギー弾の強さは勿論、簡易的なマルチロックシステムなるものが搭載されている。

複数ある砲門一つ一つの制御の為だと安易に想像がつく。

広域殲滅型の名残と考えるとしっくりきた。

 

 

───と、そこでアナウンスが建物内に響き渡る。

 

内容は、1階の広間の閲覧が可能になったとの事だ。

その場所にある装備は目玉になるような物が多く、第三世代機の技術が大半だ。

福音の装備(コレ)はそもそもここにあるのが例外の為除外。

 

色々な都合、時間が制限されているのもあり最初から開放されて居なかった。

広間が開放された報せを受け皆は顔を見合わせる。

 

「折角だし行きましょう」

「賛成〜」

「だな」

 

特に目的もないので見に行くことにした。

建物は地下、1階、2階の3階層によって構成されている。

地下は装甲の材質や簡易的な仕組み等の解説などが多く、3人には今更な情報が多い。

企業の説明もあるが、優先度は低かった。

 

 

階段を降り、広間に辿り着く。

先までよりも大きな装備が目立った空間だった。

天井は吹き抜けとなっており、そのまま建物の屋根が見える。

2階の中心側に部屋がなかったのも納得であった。

 

 

 

装備の種類は様々。

英国(イギリス)程ではないがBT兵器も見られた。

また、炎を扱う装備なんてものもあったりする。

機密のためここにあるのは一つだけ。

しかし、説明によると派生した装備が幾つもあるようだ。

 

他にも参考にならないような第三世代の武装が盛り沢山だ。

 

 

一通り見て回ったところで広間の端に移動する。

 

 

「炎のやつ『時雨』に入れてみようよ。織斑先生に言って学園通したら発注も行けるでしょー」

「確かに、それの稼働データを送る条件付きなら余裕だろうけど…却下」

「えー」

「俺には無理だ。使いこなせないだろうな」

 

キッパリと言い切る流星に本音は残念そうに項垂れる。

あの武装を間近で見てみたかったのか、中身を見てみたかったのか。

勉強熱心と言えば聞こえはいいが、要は珍しいもの見たさだろう。

 

「あら?そういうのは練習を重ねて補うものでしょう?」

「当然好みも入ってるよ」

 

ナターシャの言葉に視線を逸らしつつ、流星はそう返す。

 

そのまま視線は時計へ。

すぐに視線を2人の方へ戻した。

 

「これからどうする?地下でも見に行くか?」

「そうね。あらかた終わったし、そっちも見て回りましょう」

「階段はどっちだっけー?」

「右の通路から行けたハズだ」

 

話は決まったとすぐに行動を始める3人。

周りには企業の人間や学生、子供など老若男女問わず大勢が展示を見入っている。

 

気付かれない事に安堵しつつ、流星は広間に背を向けた。

 

 

 

───瞬間だった。

 

 

「ッ───!」

 

 

轟音と共に建物が揺れる。

音の源が屋根の上である事や、それが爆発音である事に気付けたのは何人居たか。

周囲から悲鳴すら上がらないのは、呆気に取られているからだろう。

 

天井に亀裂が走る。

まるでスローモーションのように感じられる中、既に動き出している2人が本音の視界に映った。

 

ぐいっ──と本音の身体が何かに引っ張られた。

流星に抱き寄せられたと彼女が気が付いた時には、彼は右手だけ『時雨』を部分展開していた。

 

 

その手には既に『拳銃(シリウス)』が握られている。

 

彼らより中央側に居たナターシャは、目前の子供を抱え飛び退く。

いつの間にか崩落していた天井。

銃口は落ちてくる瓦礫へと向けられていた。

 

 

 

──青白い閃光が炸裂する。

分裂するそれは落ちてくる瓦礫の雨を迎え撃つ。

タイミングは完璧であった。

 

 

「怪我はないな?」

 

「う、うん。ありがとう。───!な、ナタっちさんは!?」

 

砂埃舞う中、パラパラと降り注ぐ破片。

小石程度の大きさまで粉砕されており、勢いも殺されているため危険はない。

 

慌てて周囲を見渡す本音。

すぐに足下の方からヒラヒラと手を挙げている影に気が付いた。

 

「ゲホッゲホッ、無事よ。良かった───どうやら、皆無事みたいね」

 

ナターシャは体をすぐ起こし、助けた子供の安否も確認する。

ホッと本音とナターシャの安堵が重なる。

子供はすぐに同伴していた親の元へ。

状況を理解し始めた者達が周囲を確認する中、少年は銃口を天井に向けたままだ。

 

 

流星の視線は崩落しきった天井の穴へ向けられていた。

分厚い鉄筋コンクリートには大穴がポッカリと空いている。

射し込む陽光。

砂埃が一瞬で晴れ、その中心にはある機体が姿を現した。

 

その視線は流星らを捉えている。

 

 

 

「────ほう。暇な雑務だとばかり思っていたが、存外に楽しめそうだな」

 

 

 

蝶を思わせるその機体は、口元に怪しい笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。