IS 灰色の向こうに   作:ズーキー

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『エム、貴女の任務は第三世代の武装の強奪よ』

 

電話越しに聞こえる声に、少女は舌打ちした。

 

黒髪に体に薄めのコート。

コートといえば聞こえはいいが、それは拘束具を思わせる。

少女は通話をしながらホテルの廊下を歩く。

人気は無い。

隠れ家として使用している為当然であった。

 

「つまらない。何故私がやる必要がある」

 

ISに送られてきた情報を見ながら不満を口にする。

襲撃先は日本国内にある米国(アメリカ)の施設。

区分としては研究施設といったものより、大使館のそれに近い。

多少のセキュリティこそあれ、ISで襲撃する場合造作もない任務だ。

 

『そう言わないの。エム、理由は勿論貴女が適任だからよ』

 

小娘(アレ)は?」

 

『別の任務よ』

 

向こう側から聞こえる女性の声にエムは鼻で笑う。

冷ややかな目で投影されたディスプレイを閉じた。

大方今回の任務の真意を理解したからだ。

 

「──本命はそっち(・・・)か」

 

『ええ、理解が早くて助かるわ。だから貴女の役目は襲撃した時点で完了する。いいかしら?くれぐれも───』

 

「分かっている。…忌々しい首輪だ」

 

エムはそう吐き捨てると通信を切る。

体内に埋め込まれたナノマシンにより、命は向こうに握られている。

 

別に命は惜しいと感じない。

恐怖も特別無いが、彼女にとっては都合が悪かった。

彼女には明確な目的がある。

それまでは組織を利用する。

顔に触れ、笑みを浮かべる。

目的と瓜二つの顔に触れながら、恍惚とした表情で彼女は足を進めた。

 

(嗚呼、もうすぐだ…もうすぐだよ───ねえさん!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…英国(イギリス)のBT2号機……こんな所でお目にかかれるなんてね」

 

広間の中央に浮かぶ機体を見て、ナターシャはそう呟いた。

この場を見下ろすかのような機体、背後に浮かぶビット。

英国(イギリス)が襲撃してきた──にしては不可解な点が多過ぎた。

強奪された機体だという結論にナターシャ達は自然と至る。

 

ぞろぞろと民衆は逃げ惑う。

流石に危機を認識したのか、蜘蛛の子を散らす様に広間から離れていく。

 

流星は振り返ること無く銃口を敵に向けたまま、口を開く。

言葉を待たずしてナターシャは本音の前に出ていた。

 

「ファイルス」

 

「ナタルでいいわよ。──任せて、エスコートも慣れてるわ」

 

「……ナタル、お早めに頼むよ」

 

 

そのまま本音の手を取り、後方の通路へ2人は走り去っていく。

本音が心配そうに彼の背を見ていたが、流星は振り返らない。

意識も全て眼前に。

 

遠ざかっていく足音を背に、前へと足を進めるのだった。

 

「随分お行儀がいいな。攻撃する隙ならあった筈だ」

 

「勝手に邪魔者が消えるならそれでいい。邪魔者を殺して逆上するなら話は別だが──貴様は違うだろう」

 

「…」

 

不快そうに眉を顰める流星。

隙は見付からない。

 

「気に障ったか。少年兵」

 

体格は小柄な少女のもの。

顔はバイザーで隠れて全容は分からないが、それも体と同様だ。

声も変声機を使用しているようには感じない。

齢はあの時の襲撃者よりは上ではあるが、流星達よりは下だろう。

 

無論、彼にはそんなこと関係ない。

 

躊躇も無ければ同情なんてさらに無い。

年齢は情報のひとつでしかなかった。

以前の襲撃者にしろ、この少女にしろ──ラウラのように真っ当な生まれでは無いと見るべきだ。

となれば、素の身体能力やずば抜けたISの才能(センス)があって然るべき。

警戒すべき点は多い。

 

ビットの一基がその銃口を流星に向け直す。

少年は視界の片隅でそれを捉えつつ、数手先まで思考していた。

 

「どうだろうな。そっちは事実だ。ただ理由の方は…そうだな───」

 

いつもの様子で応じる少年。

────少女もまた少年を前に思考する。

 

少年にも隙は見当たらない。

ISを完全に展開していないのは出方を見ているからだろう。

 

彼の手にあるのは特殊兵装。

福音との戦闘で見せた二種の弾があるが、どちらも射程は長くない。

他は汎用的な武装がほとんど。

警戒するは少年自体の技量と戦闘スキルか───。

 

 

「───お前が邪魔だからだよ、害虫」

 

 

愉しい愉しい日常は一時幕を下ろす。

悪と正義──なんて洒落た構図ではない。

悪党とひとでなしとの獲り合いだ。

 

冷たい視線がぶつかり合う。

狂気に任せ口もとを歪めて嗤うのは片方のみ。

 

 

引かれる引き金。

仕掛けたのはどちらか。

分裂弾は拡がりきる前に、ビットの攻撃により撃ち落とされた。

 

青紫の閃光が青白い光とぶつかり合う。

エネルギーは霧散し、互いの初撃は失敗に終わる。

 

「「!」」

 

地を這うように前へと駆ける少年。

その頭上に一基のビットによるレーザーが通り過ぎる。

 

ISはいつの間にか両手が展開されていた。

左手に握られていたのはサブマシンガン。

 

三基のビットが飛び回る。

二基は彼を追うように、残り一基は前方に回り込む。

レーザーの掃射を躱しながら、彼はエムに向け発泡していた。

 

エムはビットを操作しながらそれを躱す。

当然、ビットの動きのキレが落ちることは無い。

 

迎撃に流星は振り返った。

サブマシンガンの銃口はビットの方へ。

拳銃(シリウス)は量子化、もう片方の手にもサブマシンガンを握り締めていた。

 

(制御が上手い───)

 

銃弾の雨にビットがそれぞれ回避行動をとる。

躱しながらも反撃のレーザー。

流星は脚部を展開し、左へと駆ける。

 

「逃がさん」

「!」

 

間髪入れずに頭上から降り注ぐ熱線。

残り三基による掃射が容赦なく周囲を破壊して回った。

爆発音と共に上がる砂埃。

手応えを感じない。

彼女は迷わず『星を砕く者(スターブレイカー)』───銃剣を構えた。

 

「チッ────」

 

舌打ちと共に回避に移る。

彼女が照準を合わせるより微かに速く、彼が引き金を引いていたからだ。

スナイパーライフルの弾丸は遥か後方の壁を貫く。

 

耳をつんざくような音へも互いに反応は無い。

 

回避と同時にエムはビットに攻撃を仕掛けさせていた。

ただ彼は空中へと逃れ、囲まれないように動いている。

言うまでもなく、ISは完全展開されていた。

高度は既にエムと同じ高さだ。

 

広間を翔ける二機。

 

サブマシンガンとビット、そして互いのライフルによる射撃戦が繰り広げられていた。

 

(六基のビットをここまで動かせるのか。本体が止まるなんて弱点もない。しかもあの察しの良さ…厄介どころじゃないな。このままだと────)

 

(ビットに追われながらも此方を狙い続けている…。しかもビット撃墜という選択肢を一瞬で切り捨てた判断───瞬間的な狙撃の精度……成程、今のままでは───)

 

互いに戦闘を進めながら思考する。

戦況で言えば不利なのは少年の方。

現状で辿り着いた答えは、奇しくも同じであった。

 

((埒があかない───か))

 

同時に射撃を躱し、急加速。

最低限の被弾で弾幕を抜け、互いに切りかかった。

 

銃剣と黒い槍がぶつかり合う。

返すように振るわれる槍をエムは手の甲で受け流した。

 

(こいつ───接近戦の方が得意なのか)

 

肩から胴目掛けて銃剣が振るわれる。

相手に蹴りを入れ躱す流星、直ぐに背後にはビットの銃口が2つ。

 

「さあ、どうする?」

 

声より先に流星の意識は前方へと向けられていた。

身を翻し黒い槍で切りかかる。

当然、正面からの攻撃は受け止められた。

スラスターを全開で吹かしている事にエムが遅れて気がつく。

彼はエムを支点に自機の軌道を逸らしていた。

 

「っ」

 

───被弾、も最小限に抑える。

スラスター等は無事。

戦闘への支障はない。

 

近距離でのビットの扱いも少女はずば抜けていた。

射線を無意識に把握している流星でも、やりにくいと思う程、常に対象は移動し続けている。

 

近接戦闘でも一級なのは明らか。

今まで全力で戦った相手の中で、1番強い相手だと理解する。

全力の楯無は戦った事が無い為、流星では比較出来ない。

 

 

槍を右手に持ち替え、サブマシンガンを左手に展開し直す。

少年は接射を試みたが、エムは銃剣の銃床で銃口を殴りつけて逸らした。

行き場を失った弾丸は柱に吸い込まれていく。

 

 

天秤の傾きは徐々に大きくなる。

ビットを躱しながら近接を捌き続ける流星だが、完全に劣勢に陥っていた。

畳み掛けるべくエムは猛攻をかける。

 

 

「っ!」

 

ビットから放たれた一撃が彼の腹部へ。

小規模な爆発と共に身体が大きく傾いた。

 

 

ビットの銃口は管理していた────予想外の場所からの攻撃。

眼前の少女が手にしている武器は変わらない。

周囲にあるビットの数にも変化はない。

 

 

───まさか、とコマ送りの風景の中彼は眉を顰める。

実際に体験するとは思えなかった理論上の世界。

 

 

(───偏向射撃(フレキシブル)!)

 

 

彼は一度セシリアに尋ねた時の事を思い出す。

BT兵器との適性が高い彼女曰く、誰も実現したことの無い技。

それも、実戦において凄まじい精度で使用されている。

 

驚愕とは並行して彼は追撃に対処する。

銃剣(スターブレイカー)による切り付けは数度凌ぐも、体勢は整えられず。

 

 

──左手にナイフを展開して彼女の首を狙った。

槍は囮、本命のナイフが彼女の銃剣をすり抜ける。

 

 

「!」

「───今のは惜しかったな」

 

 

ただ、ビットの一基が滑り込み、それを弾いた。

ビットの表装は硬く、傷こそついたがあくまで表面上だ。

 

シールド・ビット───ただのビットではなく防御手段としても扱える攻防兼ね備えた兵器。

高火力の武器ならいざ知らず、ただの銃弾やナイフを受け流す位訳ないだろう。

 

サブマシンガンを避けさせていたのはブラフか─────。

 

一応は凌がれる事を想定していたのか、流星はナイフを量子化していた。

左手に握られているのは手榴弾。

 

──並行して彼はISとの『同調』を進める。

 

 

「!!」

 

エムの表情に変化が出る。

しかし、エムも行動に変化はない。

銃剣を量子化したかと思うと彼女もまたナイフらしきものを手にしていた。

 

互いにバイザー越しだが、表情は手に取るように理解出来た。

 

 

「一基貰おうか」

 

「高くつくぞ」

 

 

────爆発が起きた。

半ば自爆のように喰らわせた手榴弾。

同時に振るわれる凶刃。

 

 

ビットの一基は粉々に。

同時に爆風と共に鮮血が飛び散った。

 

 

「っ──!!」

 

(手応えが浅い…!───今の反応速度は何だ?)

 

 

爆風よりそれぞれが逆方向に飛び出し姿を現す。

少年の左腕は真っ赤に染まっていた。

ナイフで切り付けられ、溢れ出る血。

見るからに大怪我の類いだ。

 

方やエムはビットを二基(・・)失った。

流星の右手には拳銃(シリウス)がいつの間に握られている。

 

 

──あの瞬間、近くにあったもう一基を高火力の兵装で撃ち落としたのだ。

 

 

別人のように反応が速くなった瞬間を、エムは見逃さなかった。

 

(──何かタネがあるか)

 

外見上は特に変化はない。

特殊兵装であろう拳銃に何か仕掛けがあるのか──いや違うと彼女は直感する。

 

即座に立て直し四基のビットを駆使し追撃をはかる。

勿論、『星を砕く者(スターブレイカー)』を展開し直し、そちらの引き金も引いた。

 

「───」

 

彼は盾を展開して狙撃を防ぎ、残りのビットによる攻撃を目もくれずに躱す。

当初よりも最適化されている。

空中を縫うように精密な動きだ。

先程と違い、幾分余裕があるように見える。

 

 

反撃に放たれていたグレネードランチャー。

エムはそれを撃ち落とさず、避ける事を選択した。

 

無理矢理確保した射線とビットの偏向射撃(フレキシブル)による面制圧。

レーザーライフルの銃口が光る。

 

盾を使おうとも凌ぎきれない状況。

広間ではあるが、あくまで室内。

あのような精密な動きで躱すならば回避不可にするまで。

 

「!!」

 

驚きはエムのもの。

刹那的なISを完全展開から部分展開への切替────彼は攻撃を回避した。

非常識な避け方ではあるが、使いこなせるなら理にかなってはいる。

 

 

飛んでくる彼のスナイパーライフルをエムは旋回してやり過ごす。

互いの視線が再度交差した。

 

(あれでも撃ち抜けない、か。とんだ化け物だ)

 

(今のを躱すか。面白い──)

 

『同調』の度合いは以前より低い。

とはいえ、あの狙撃で撃ち抜けないのは相手の力量が凄まじいからだ。

少年は独り足りない(・・・・)、と呟く。

 

 

少女は少年を完全に標的として認識した。

少女のギアが跳ね上がったかのように、更に俊敏にビットが駆け巡る。

 

 

「────」

 

 

シールド・ビット相手に、サブマシンガンは牽制としても有効ではないだろう。

取り回しは少し劣るが、アサルトライフルを展開する。

左手にはそのまま盾が握られていた。

 

──『同調』を更に進める。

膨れ上がる情報量。

どろりとした黒い何かも彼の内へ。

 

(…)

 

裂傷こそ見られるが、左手が使えない訳では無い。

増幅している激痛に表情1つ変えず、彼は射撃戦を継続した。

 

銃口から射線の予測は困難。

回避先だけはアサルトライフルを駆使して確保しながら、後退する。

 

建物の壁や柱を利用しようとしている。

エムは感づき、攻撃の矛先を変える。

彼が何を企んでいようとも、関係ない────。

 

まず、逃げ場を無くす。

彼女のアドバンテージであるビットによる攻撃は、開けた空間でこそ真価を発揮する。

少年が頑なに天井から外へと出ないのはそれを知っていたからだろう。

 

 

 

(狙いが逸れた?───いや、障害物を減らしに来たか)

 

彼の周囲に閃光が降り注ぐ。

着弾の少し手前から狙う先が違う事に気が付いた彼は、瓦礫に巻き込まれないように動く。

 

彼は武器を咄嗟に持ち替える。

舞う砂埃と爆煙。

 

視界は双方とも悪くなる。

 

だが、2人には関係ない。

 

レーザーライフルとスナイパーライフルの狙撃が互いの肩を撃ち抜いた。

 

「「───っ!!」」

 

砕ける装甲。

絶対防御が発動している為大きな怪我には至らない。

ただ、殺しきれなかったダメージを受け、苦痛に顔を歪める。

 

もし、戦闘を見ている第三者がいれば『無茶苦茶だ』と評するだろう。

 

甚大な被害が建物や展示物に及んでいる。

未だ一般人に死傷者が出ていないのは奇跡に等しかった。

 

 

爆煙の中、盾がエムの眼前に姿を現す。

投擲されていた事を理解していたエムは難なく躱し、盾への細工に気が付いた。

盾への持ち手部分に、フックショットが引っ掛けられている。

 

「!」

 

彼女は脳裏で鎖鎌を連想した。

振るわれる空中の盾を銃剣で弾く。

フックショットの切断は実行に至らなかった。

 

 

──爆発音と共に天井がさらに砕ける。

グレネードランチャーの榴弾により、天井の穴が広げられた。

タイミングとしては盾の奇襲と同時。

 

彼女の頭上から大きな瓦礫が降り注ぐ。

回避は出来ないサイズだ。

銃剣の銃口は盾を弾いた為下に向いている。

 

 

(これは────)

 

エムはビット二基を駆使して瓦礫を撃ち抜く。

砕ける瓦礫に関心を向けている暇はない。

エムは視線を眼前へと戻す。

 

 

─────瞬間、煙が晴れ───眼前にナイフを持った『時雨』の姿があった。

咄嗟の残り二基による攻撃を躱し、切りかかる。

 

「チッ────」

 

銃剣では間に合わないと悟ったエムは左腕の装甲で弾く。

当然、対IS用のナイフだ。

シールドエネルギーが削られ、装甲も損傷する。

 

畳み掛けるべく流星はナイフを振るう。

エムもまたナイフを展開。

 

 

ナイフによる近接格闘戦が発生した。

空中で互いの急所を目掛けてナイフが振るわれる。

当然だが、大振りはない。

あくまで的確な突きと切り付けが主軸。

 

金属音が鳴り響く。

手数がある中、態々ナイフ戦に付き合う必要は無い。

エムはシールド・ビットを操作し、切り合いの最中偏向射撃(フレキシブル)を────。

 

「───」

 

少年の左手には、いつの間にか拳銃(シリウス)が握られていた。

少女は少年の意図を理解して笑みを浮かべる。

一番近くで攻撃を放とうとしていたビットを眼前へ。

 

 

 

少女の懐で青白い閃光が───少年の背部では青紫の閃光が炸裂する。

 

 

 

爆発音と共に、灰と青の装甲が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そろそろ二学期へと入りたい。
デートの話も何処かに入れたい気が…。
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